第78回:コンテンツ流通と著作物の公正利用
天下りについてはまだ考えをまとめるのに時間がかかるので、今回は、軽く書けることとして「コンテンツ流通促進」という良く出てくるキーワードの話をしておきたいと思う。(期待されている方には申し訳ないが、主要各国の著作権法紹介も忘れている訳ではない。4月3日には、文化庁で私的録音録画小委員会がまた再開(開催案内)されるが、文化庁は自分たちに都合の悪い情報は隠すことを常としているので、地道に海外動向の紹介もやって行くつもりである。)
番外その8で少し紹介したデタラメな「ネット権」の話やら、最近のJASRACシンポジウムに関する記事(ITmediaの記事1、記事2、cnetの記事、マイコミジャーナルの記事、ASCII.jpの記事)やらを読むと、「コンテンツ流通促進」というキーワードは引き続き今年も著作権問題と絡んでかなり取り沙汰されそうな雰囲気があるが、何故こうまで著作権法の問題と「コンテンツ流通促進」がキーワードとして短絡的に結びついて語られるのか、よくよく考えても私にはさっぱり分からないのだ。
既存のコンテンツのインターネット上の正規流通があまり充実していないことは利用者としては残念ではあるが、だからと言って、情報の創作者保護という知財権・著作権の本質を無視してまで、権利を制限し、無理矢理コンテンツを流通させるべきとは私には全く思えない。自らの著作物をどの流通手段にどのように流通させるかは、著作権者がある程度決められて良いはずであるし、この選択がインターネットの存在によっていくらテクニカルに難しくなっているとは言え、この原則に反対する者がそれほど多いとも思えないのである。(番外その9で取り上げたmixi規約改定騒動において、mixi社への無制限の2次利用許諾に対して、多くのユーザーが反発したことも考え合わせてみると良い。)
これほど「コンテンツ流通促進」というキーワードを世に広めた者は誰か良く分からないが、これを広めた者は、確実に今の知財政策の迷走を加速させた大罪人である。総務省を始めとして各省庁の検討会でも「コンテンツ流通促進」という言葉は良く使われているから、役所が最初の音頭を取った可能性すらあるが、役所が利権とキーワードだけに踊って現実を見ず、ただひたすら政策を迷走させて世の中に害悪を垂れ流しているのは本当に許し難いことである。
流通手段によって求められるコンテンツが違うのも当たり前のことであり、別にネットでテレビがそのまま見られる必要もない。ネットにおける既存のコンテンツの正規流通は、どこまで行っても、既存のコンテンツホルダーが進めたいと思えば進むが、進めたくないと思えば進まないというだけの話であり、国の政策として法律でどうこうする話ではないだろう。
はっきり言っておくが、私は、一ユーザー・一消費者・一国民として、コンテンツ流通促進法などカケラも欲しいとは思わない。第28回にも書いたことだが、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型(検索エンジンにおける利用などその典型だろう)に、今の著作権法が全く対応できておらず、この公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだと私は考えている。
知財本部のペーパーに書かれていることで、前回のメモにも箇条書きで書いたが、他にも、図書館におけるデータ蓄積・公開、研究開発のための映像・テキスト情報の利用、ネット環境の安全性確保等のためのソフトウェア解析のための利用など、権利者の利益を害さず、著作物の通常の利用も妨げないような著作物の公正利用の類型についてはきちんとした権利制限による対応が必要である。考えれば他の類型も出てくることだろうが、これらのような公正利用を萎縮させて良いことなど全くないのだ。
本当に必要なのは、「コンテンツ流通促進」ではなく、あくまで「公正利用のための権利制限」であると、私は言い続けよう。今年もまた、「コンテンツ流通促進」という響きだけは良い言葉に踊らされて日本の知財政策は迷走を続けることだろうが、一刻も早くこのような虚妄から日本全体が目をさますことを私は願っている。
(なお、レコード事業者と放送局という既存の流通事業者が、インターネットという新たな流通手段との競合でパイを減らすのは、これもまたどうしようもないことである。レコード事業者と放送局は何故か著作隣接権者な訳だが、第28回でも書いたように、このフラット化時代には、このような単なる政治力からもたらされた著作権法上の異常な優遇措置は無くす方に是正する努力がなされなくてはならない。逆にインターネットで隣接権を発生させることなど絶対にやってはならない最低の愚策である。同じ隣接権者という枠で語られることもあるが、創作に関与する実演家は無論別である。)
最後に、警察庁のサイバー犯罪対策HPに、出会い系サイト規制強化案のパブコメ結果が公表されていたのでリンクを張っておく。読んでもらえれば分かると思うが、第54回に載せた私のパブコメの回答にはほとんど全くと言って良いほどなっていない。これもまた事実上のパブコメ無視である。
第73回で取り上げた、インターネットサービスプロバイダーの違法コピー対策の協議会の発足も近そうである(毎日新聞のネット記事、IP NEXTの記事)。そもそも何で業界の自主規制の協議会の必要性やら提言やらが、警察庁の報告書に盛り込まれるのかということからして疑問だが、記事よると、この対策協議会にも警察庁や総務省や文化庁がバックにつくようなので、この協議会は本当に要注意である。この3省庁が絡む検討でロクな結果が出てきたためしがない。
| 固定リンク
「著作権」カテゴリの記事
- 第477回:生成AI(人工知能)と日本の著作権法(2023.04.30)
- 第473回:閣議決定された著作権法改正案の条文(2023.03.12)
- 第467回:10月5日の文化庁・基本政策小委員会で出された、ブルーレイへの私的録音録画補償金拡大に関する意見募集の結果概要とそれに対する文化庁の考え方について(2022.10.09)
- 第466回:文化庁によるブルーレイに私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正案に関する意見募集(9月21日〆切)への提出パブコメ(2022.09.11)
- 第465回:文化庁による実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象に追加しようとする政令改正案に関するパブコメの開始(9月21日〆切)(2022.08.28)
コメント