第73回:日本のプロバイダー業界の違法コピー対策
違法コピー常習者にはネット切断するという対策を推進することが、インターネットサービスプロバイダー(ISP)業界と著作権団体で合意されたという報道(読売のネット記事、AFP BBNewsの記事)があった。
この話は、ダウンロード違法化問題含め、今後の知財の政策判断にも影響してくる話と思うので、取り上げない訳にはいかないだろう。
恐らく、これは、第29回と第30回で取り上げた、フランスの違法コピー対策に触発されたものと思うが、記事を読んでいただければ分かるように、これは業界同士の完全に自主的な取り組みであり、法改正により、違法ダウンロード対策としてインターネットのアクセス停止を考えているフランスなど(他にも、第60回で取り上げたように、イギリスやオーストラリアなども同じような対策を考えているようである)とは大きく趣きを異にしている。
要するに、この話は、あくまで違法コピー・違法アップロード対策であって、違法ダウンロード対策とは考えられないことに注意する必要がある。それも、主として、ファイルのアップロードとダウンロードを同時に行うP2Pファイル共有サービスにおける違法なファイル交換に対する対策だろう。
ファイル共有サービスで、自分の著作物を、自動公衆送信可能化(アップロード)している者を、IPアドレスレベルで突き止めることは、ネットの非匿名性から、ほぼ誰にでもできることであり、IPアドレスを示し、そのアップロードが著作権侵害行為であるとプロバイダーに言うこともまた誰がやっても良いことのはずである。ISPの規約には、第3者の知的財産権を侵害する行為を禁止事項としているものがほとんどであろうし、提供された情報と規約にもとづいて、規約違反として、ユーザーへの警告やサービスを停止することもまた不可能ではないだろう。
ユーザー情報の開示や、一般的なHPにおける情報の削除要請などなら、通信の秘密や表現の自由との関係から、プロバイダー責任制限法に基づかなくてはならないだろうが、プロバイダーが自主的に規約違反としてユーザーへの警告と、警告を無視した場合のアクセス停止を行うだけであれば、これは確かに、プロバイダーとユーザー間の契約の話に落ちる。
ただし、この対策では、IPアドレスとユーザーの結びつけ、第3者の著作権を侵害しているとする判断において、ISPの役割が非常に重く、そこに何らかの間違いや恣意性、政治力による歪みが入り込む可能性がある。ISPと著作権団体が設置するという協議会では、まずその判断の客観性の担保のところから是非議論してもらいたいと思う。
また、このような自主対策で、規約違反としてサービスを停止されたとしても、すぐに再契約が可能のため、イタチごっこになる可能性も高いが、他のISPとの再契約にはそれなりの手間がかかること、このネット時代においてインターネットへのアクセス停止による個人の情報アクセスへの影響が甚大であることを考えると、このような対策が過剰規制にならないようにするために、この動きも追っていかないといけない。記事によると、総務省や警察庁も、協議会に参加するようなので、なおさら、その指針作りにはユーザーとして目を光らせておかないといけない。
特に、この対策が、あくまで、権利者自らアップローダーのIPアドレスを突き止めることが可能な、ファイル共有サービスにおける違法アップロード対策であること、ISPとユーザーの契約の話で、ユーザーが直接著作権団体に訴えられる話でないことは、絶対守られるべき一線である。恐らく強力な規制を求める著作権団体は、協議会でこの一線を踏み越える主張をしてくるのではないかと思うが、そのような既存の法律をないがしろにする主張は絶対に認められない。
また、今までも十分以上に危険だったが、著作権団体とISPによってこのような対策が進められるなら、ダウンロードの違法化の危険性がさらに高まるのは言うまでもなく、ユーザーとしてダウンロード違法化反対をさらに声高に主張しない訳にはいかない。このような対策がなされた中で、ダウンロード違法化がされた場合、著作権団体は全ネットユーザーに対するアクセス停止権が自分たちに無制限に認められたと見て、「情を知って」などという曖昧な要件は無視してこれを濫用し、有害無益な社会的大混乱が引き起こされるだろうことは想像に容易い。
今回の対策はユーザーとの契約に基づくISPの自主規制に留まるだろうとは思うが、このような対策が過剰規制となり、社会的混乱がもたらされることも十分想定されることを考えると、ネットユーザーの方からも、このような規制を逆に規制するため、インターネットにおけるユーザーの情報アクセス権を法律で明確に規定することを求めて行かなければならないのではないかと私は感じている。最近の動きを見るにつけ、著作権団体や自称良識派団体の情報規制の動きは常に一方的かつ身勝手であり、インターネットにおけるユーザーの情報アクセスの自由をあまりにもないがしろにしていると、私は常に感じるのだ。
無論、このような権利も制限を受けることになるだろうが、インターネットにおけるユーザーの情報アクセスの自由の確保は、このデジタル時代、インターネット時代において、最も重要なことの一つであり、決してないがしろにされて良いものではないと私は確信している。(知財本部のパブコメもあり、このことに関連して、表現の自由と「知る権利」の関係の話は、近いうちにまとめて書きたいと思っている。)
この違法コピー対策の話は、「P2Pとかその辺のお話@はてな」の方でも、既に考察されているので、是非こちらもご覧頂ければと思う。
もう一つ、日経ネットの記事によると、自民党でも、デジタルコンテンツ産業振興の小委員会を設置し、何らかの著作権政策を打ち出すようである。このような多重検討こそ、本当の問題だと常々私は思っているが、国会議員の小委員会でも検討するなら、著作権問題についても、地元の国会議員に手紙を書くなどしても良いだろう。
| 固定リンク
« 第72回:知財本部における「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会(仮称)」設置の決定 | トップページ | 第74回:世界知的所有権機関(WIPO)における世界レベルでの権利制限に関する検討の提案 »
「著作権」カテゴリの記事
- 第477回:生成AI(人工知能)と日本の著作権法(2023.04.30)
- 第473回:閣議決定された著作権法改正案の条文(2023.03.12)
- 第467回:10月5日の文化庁・基本政策小委員会で出された、ブルーレイへの私的録音録画補償金拡大に関する意見募集の結果概要とそれに対する文化庁の考え方について(2022.10.09)
- 第466回:文化庁によるブルーレイに私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正案に関する意見募集(9月21日〆切)への提出パブコメ(2022.09.11)
- 第465回:文化庁による実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象に追加しようとする政令改正案に関するパブコメの開始(9月21日〆切)(2022.08.28)
コメント