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2008年3月20日 (木)

番外その8:旧態依然たる総務省に切れる財界

(ココログフリーのメンテナンスの所為か、私のPCで昨日、自分のエントリが自分のPCで正常に表示できないということがあった。私の場合、IEのJAVAスクリプトをオフにすることで表示できたが、同様の症状が出てブログを見られない方がいたかも知れない。ココログには調査してもらえるようお願いはしたが、同様の症状が出た方には大変申し訳なく思う。)

 考えをまとめておきたいことは今山ほどあって困るくらいなのだが、書けた話から載せて行く。

 池田信夫氏のブログで紹介されていたのを機に、私も経団連の放送通信融合に関する提言(「通信・放送融合時代における新たな情報通信法制のあり方」)を読んでみたのだが、確かに、業界同士バッティングすることは書けないだろう経団連という日本の経済界全体を代表する団体にしては驚くほど明確な総務省批判を書いているので、番外として少し触れておきたい。

 この提言は、HPなどについても完全に表現の自由と通信の秘密を認めた上で、基幹放送たる地上放送のみを規制する形で、レイヤー型への転換を行い、規制部門は独立行政委員会にするという完全な規制緩和案で、規制による護送船団方式護持を掲げている放送局と総務省にとってはこの上なく嫌な案だろう

 中でも、コンテンツに関する基本的立場としては、

新たな法制度においては、コンテンツは原則自由で民間の自己規律に委ねることを基本とした上で、規制は必要最小限とすべきである。 また、新たな法制度は、通信・放送あるいは融合分野において、事業としてサービスを提供する者を対象とする事業者法であり、コンテンツ規律のあり方を検討する際にも、一般的なコンテンツの編集・発信主体としての個人や企業は、直接的な規制対象とはすべきではない。したがって、メール、電話等の私信は勿論、ホームページ等は本法制の枠外にあることを明記すべきである。 この点、総務省・研究会の報告書は、私信については、通信の秘密を保障するが、ホームページ等、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」を「オープンメディア」と位置付け、規制対象に含めている点は不適当である。 いわゆる「オープンメディア」における違法・有害コンテンツ対策は、事業者以外も対象となりうることから、法体系としての整合性の観点からも、全ての国民が守るべき法律としての一般法である刑法、プロバイダー責任制限法、知財法等の関連法、民間の自主的な取り組み、フィルタリング等の技術的な対応、国際的な連携により総合的に行うべきである。違法・有害コンテンツの排除により、健全なメディア社会を構築していくためには、今後ともその取り組みをいっそう強化していくべきである

とごく当たり前のことが書かれている(赤字強調は私が付けたもの)が、総務省の報告書では、この実に基本的なことすら守られていなかったのである。是非、経団連レベルでも、ここだけは守るように政府に強力に申し入れをしてもらいたいと思う。

 さらに、ここまで言ったのだから、経団連には是非、放送通信の融合に著作権法が巻き込まれないようにするべきという提言を知財本部などにして、総務省批判を完遂してもらいたいと思う。第27回第28回でも触れたように、情報の流通コストの極めて低いインターネットで単なる流通事業者に余計な隣接権を発生させることは百害あって一利ない最低の政策である。HPなどにおける表現の自由と通信の秘密の確保と、インターネット放送に余計な隣接権を発生させないということさえ守ってもらえば、特にユーザーとして、放送法と通信法の法制上の融合に何ら口を挟むべきところはなく、かえって大いにやってもらいたいと思うくらいである。

 しかし、この2点を完全に守ると、これは完全に地上放送局に対する規制緩和、すなわち放送局の利権(権利ではない)の切り下げとなるので、この経団連の提言にもあるように、放送事業者の利害を調整する形で事業者中心の行政を旧態依然として行っている総務省にとっては認め難いことかも知れない。だが、財界にすらここまで見放されたのだ、あのふざけた報告書をこの提言通りに全て書き直すくらいのことを総務省にはやってもらいたいと思う。そうしてさえもらえば、私ももう、第3回第35回のようなパブコメやエントリを書かずに済む。

 放送・電波政策はこのブログの本筋とずれるが、電波政策の本当の問題は、現在、そのの配分において特定業界との癒着を生み出す非効率な裁量行政システムが採用されているということにあるのではないかと思う。この電波という稀少かつ有限な資源を、いかに国民の利益を最大化するように効率的に再分配するシステムを作り出すかということが、今本当に放送・電波政策に問われていることだと私は理解している。

 コンテンツと知財に関して守るべきところさえ守ってもらえば、私としては放送と通信の融合に反対する理由は全くない。それどころか、ここさえ確保されるなら、通信法と放送・電波法の抜本的な見直しの中で、政官業の癒着と腐敗の元となる利権を生み出している裁量行政による電波配分システムという総務省の本丸が切り崩されることを、私は一国民として素直に期待したいと思う。コンテンツ流通促進から始まった放送と通信の融合の話だが、コンテンツ流通と放送通信の融合は実は直接関係しない。この放送通信の融合が成功するかどうかは、ほとんど全て、この裁量行政による電波配分システムという総務省の利権の本丸を切り崩せるかどうかにかかっている。ここを切り崩せない限り、この融合法制も大山鳴動してネズミ一匹、ほとんど何の意味もないものとなるだろうが、逆に、ここさえ切り崩せれば、これもまた確かに全国民を裨益する一大規制緩和となるに違いない。

 最後に、方向性は良く分からないが、オーストラリアも、私的複製の権利制限に関する検討を行っているという記事があったので、念のために記事(PRWebの記事)へのリンクを張っておく。

 また、イスラエルは、アメリカの技術的保護手段(DRM)回避規制導入とノーティスアンドテイクダウン手続き強化の外圧を跳ね返したようである(ars technicaの記事)。記事とイスラエルのアメリカへの回答書によると、イスラエルはこれらの外圧を、DRM回避規制に関しては、イスラエルは関係条約を批准しておらず、コンテンツプロバイダーによるDRMなしのアクセスなどの試みがなされている中、この規制を法制化するのは政治的に不安定であり、ノーティスアンドテイクダウン手続きの強化も権利者による濫用の恐れがあるとして、完全に拒絶したようである。知財・情報の世界でも、アメリカが必ず正義ということはない。例えアメリカが相手だろうと、日本も不当な要求は跳ね返して良いはずである。

 なお、様々なところで発表される個別の突拍子もない意見について一々どうこう言い出すと切りがなくなり、既にいろいろなところで叩かれているので、どうしようかとも思ったが、先日記者会見があった(ITproの記事ITmediaの記事internet watchの記事毎日のネット記事cnetの記事デジタル・コンテンツ法有識者フォーラムのHP(提言資料つき))、「ネット権」創設の提言ほど、その意味不明さにおいて特筆に値するものも珍しい。この提言は、知財権・著作権の本質を全く無視し、映画製作者、放送事業者、レコード事業者のみが、ネットワークにおけるコンテンツ流通をくまなくコントロールするためのネット権を一手に握るという、ユーザー・クリエーターを無視した、今の時代に逆行するメチャクチャなものである。フェアユースのような一般規定についても、ただ闇雲に導入しても意味がない。このような突拍子もない提言がよもや政策として真面目に政府レベルで検討されたりしないこととは思うが、一ユーザーとして、このような提言は全く一顧だに値しないデタラメなものであると一言だけここに書いておく。(何度も繰り返しておくが、このネット時代に、放送事業者やレコード事業者他、流通事業者に強力な独占権を余計に与えることは完全な時代遅れの方策であり、コンテンツ流通をさらに阻害する要因としかなり得ないことである。映画製作者に対する著作権法上の優遇も、このフラット化時代には逆方向に見直されて良い。)

 ベルギー著作権法の紹介の続きなど、マニアックな著作権政策ネタを期待している方がいたら申し訳ないが、次回はもう少し身近な著作権ネタについて書いた上で、次々回には、また表現規制に関するエントリを書きたいと思っている。

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コメント

いつも貴重なお話をありがとうございます。
コンテンツビジネスにかかわるいわゆるクリエーターです。

仰るとおり、要は、放送局の垂直モデルをどうやってぶった切るのかということであり、また、総務省の変なごまかしにだまされれていけないということだと理解しています。

また、ネット法についても、いろいろ言いたいことはあるのですが、もっともヒドイと思うのは、クリエーターにとっていいものだと言い切っているデジタル・コンテンツ有識者フォーラムのメンバーの欺瞞です。ついでに言えば、DMCAに関する根本的な理解不足も聞いてて寒くなってしまいます。

とにもかくにも、クリエイティブや知財の本質がわかっていないないような人達が、もっともらしく自分の利益のために事を進めているようにしか思えません。

投稿: 無学の者 | 2008年3月20日 (木) 03時02分

コメントありがとうございます。

どちらかと言えばユーザー寄りで話を書いているつもりでしたので、クリエーターの方にコメント頂けるのは本当に有り難いです。

まさしくおっしゃる通り、クリエイティビティや知財の本質を無視して、クリエーター保護や消費者保護と言った言葉の上っ面だけを使って既得権益を拡大しようとする者たちが、政策決定プロセスの中枢にのさばっていることが、今の知財政策の迷走の主因だと私は思っています。

これからも迷走は続くと思いますが、是非、無学の者様も本音の意見をいろいろなところにお出し下さい。知財政策において、誰が本当のクリエータの声を無視できるでしょう。釈迦に説法ですが、常にペンは剣よりも強いのですから。

投稿: 兎園 | 2008年3月21日 (金) 01時40分

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