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2008年3月14日 (金)

第72回:知財本部における「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会(仮称)」設置の決定

 知財本部が、デジタル化された著作物の規制緩和の検討を始めることを決めたというニュース(日経ネットの記事)があった。

 前回のエントリに、「とは言え、あらゆることはつながっているので、表現規制についても念のため、知財本部へのパブコメに書きたいと思っている。」というくらいの追記を書こうと思っていた矢先、このニュースには素直に驚いたので、今回は新しいエントリとしてこのことについて書きたいと思う。

 ここ最近、知財に関する限り、政府内では規制強化の動きしか目立たなかった(私自身、前回紹介した知財本部の「オープン・イノベーションに対応した知財戦略の在り方について」に、図書館における情報アクセスの改善や研究開発のための情報の利用の円滑化などが書かれていることを見逃していたのは大変申し訳なく思っている。これらの記載については、前回のエントリに追記という形で書いておきたいと思う。)ことを思うと、首相自ら知財規制の緩和推進を明言し、知財本部に明確に規制緩和を謳った調査会が設置されることが決まったことは実に驚くべきことであり、ユーザーにとっては有り難いことでもある。正式に省庁を超えた政府レベルでの検討会を設置する以上、是非文化庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたいと思う。

 知財本部のHPに載っている、13日の会合の資料「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会(仮称)の設置について(案)」によると、その検討課題のイメージは、

○ 21世紀のデジタル経済社会を支えるインフラとしての知財制度の在り方
○ ネット関連ビジネスの多くで技術的な過程として不可避的に生じる複製や一時的蓄積等への法的対応の在り方
○ 研究開発等を目的とするデジタル著作物のインターネット等を通じた収集、共有、保存等の在り方
○ セキュリティ対策ソフトウェアの開発等に必要な複製・改変を伴うプログラム解析の法的取扱い
○ 現行著作権法の個別的・限定的な規定方式に関し、技術や環境の急速な変化に柔軟に対応できる法的対応
○ コンテンツを利用した新たなビジネスに対応し得る著作物の権利管理の在り方

と、確かに知財規制緩和・このデジタル時代に新たに発生した公正な利用形態に対する著作権の権利制限による対応を思わせる書きぶりとなっており、大いに期待させるものがある。フェアユースのような一般規定については両論あろうが、個別の公正利用形態に対する権利制限については、本来もっと真剣に検討が進められていなくてはならなかったところであり、遅きに失した感すらある。

 同じ会合で、東大の中山信弘教授が提出した資料もHPに載っているが、情報化時代の知的財産権制度の重要性、インターネットにおけるその法的リスクの大きさとビジネスに対する影響を指摘するものであり、ごく簡単なものながら、日本の知財法学界の第一人者が、このような問題認識を政府に対して明確に示した意味は非常に重い。

 インターネットの普及によって、もはや情報は有体物から離れて情報単独で創作・流通・利用されるようになって来ているのであり、必ずコストのかかる有体物に知財権が張り付いていた従来のリアルのみの世界ではそれなりに機能して来た知的財産権制度は、情報の流通と利用にほとんどコストのかからないバーチャルの世界では、かえって情報の公正利用すら阻害し、情報の多様化の、今の日本の文化と経済の真の発展の妨げとなっているのである。ネット時代の知財政策は、外圧や個別の省庁や団体の利権などで左右されてはならない本当の国策事項である。バーチャルにはバーチャルの、情報そのものには情報そのもののルールがあって良いのだ。

 政局は流動的だが、政府として決めた以上、この調査会は必ず設置されるだろうし、このような国民全体の文化と経済を裨益する検討が、もはや文化の敵と化した文化官僚の手によって公務員改革のように骨抜きにされることを防止するためにも、国民の目がこのような問題に対して注がれていることを示さなくてはならない。知財本部は、この決定によって今回のパブコメの重要性をいや増しに高めた。日経の記事に書かれているように、政府が改正著作権法を来年提出することを考えているとなると、ダウンロード違法化問題や保護期間延長問題も含め全て、今年も知財問題に関する正念場は続き、気は抜けない。

 そもそも、今の日本のこうした政策の多重検討システムこそ問題だと思ってはいるのだが、例えわずかなことでも、今やれることはやっておきたい。私自身この決定を踏まえてパブコメを出すつもりである。

 パブコメは多数投票でもないし、署名運動でもないが、国民一人一人が自らの意識でもってその考えを政府に示すことが無意味であるとは私には到底思えない。意見そのものに著作権が及ぶ訳もない、他人の意見の受け売りだって、HPなりブログなりの作者が認めているなら、コピペだって構わない(本来なら政府に対する意見提出のための権利制限が著作権法上にあっても良いくらいであるが)、自分の意見を政府に示したいと思う者は誰でもパブコメを出せるのだ。知財問題について民意を示すためのパブコメは文化庁だけではなくここにもあるということを是非多くの人に知ってもらいたいと私は思う。大したことを書いているつもりは全くないし、自分の意見を押しつけるつもりも全くないが、このブログに書いたことが多少なりとも誰かの参考になっていれば望外の喜びである。

(許諾表示が必要なほど大したことを書いているつもりもなく、私の考えている条件と少しずれるということもあり、クリエイティブコモンズ表示などを使っていないが、このブログはほとんどパブリックドメインと思って書いているので、財産権を主張するつもりはもとより一切ないし、基本的に人格権を主張するつもりもない。私が書いた部分はどなたでもどこででも自己責任で好きに利用・流用して頂いて一向に構わない。ただし、引用部分だけは元の著作権が存在している場合があるので、ご注意頂きたいと思う。誤解されている方はいないと思うが、さらに念のために書いておくと、広告はココログフリーの場合に勝手につけられるもので、この部分も私の著作ではない。)

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