第63回:欧州での私的複製補償金改革検討の参考資料の概要
EUでの私的複製補償金に関する関係者への新たな意見募集(EUの補償金改革のHP参照)の質問状とセットになっている参考資料には、欧州各国の補償金制度の現状が最新の状況も含めていろいろと書かれているので、今回は、その内容について箇条書きでざっと紹介しておきたいと思う。(なお、2006年当時の改革検討については第12回でも取り上げた。)
(1)欧州各国の補償金制度の現状(第3~10ページ)
・EU加盟27カ国中、アイルランド、イギリス、マルタ、キプロス、ルクセンブルグの5カ国は、そもそも私的複製補償金制度がない。
・ノルウェーは、補償金を複製機器あるいは媒体から徴収しておらず、税金から支出している。
・ギリシャでは、補償金制度はあることにはあるが、1999年以来エンフォースされておらず、ICT企業の強い反対を受けて2003年に凍結された。
・補償金制度のある20カ国(2005年当時の調査なのでルーマニアとブルガリアが抜けている)中、機器に課金せず、メディアのみに課金している国は、オーストリア、デンマーク、フランス、リトアニア、オランダ、スエーデンの7カ国。他の国は、機器とメディアの両方に課金。
・ドイツでは、最高裁で、スキャナーに対して課金済みということからプリンターが課金の対象外とされたが、PCやCD焼き器については係争中で、今のところ下級審では課金対象とされている。
・ベルギーではCD焼き器は課金対象とは考えられていない。
・ギリシャ、ポルトガルとスペインでは、PCのHDDは法律で補償金の課金対象外とされている。
・オーストリアでは、2005年7月に、PCのHDDは多くの場合著作権で保護される作品のコピーに使われないとして、PCのHDDには課金しないとする最高裁判決が出されている。
・ドイツでは携帯電話に対しても補償金が要求されている。フィンランドでも権利者団体が携帯電話に対する課金を求めている。
・CD-RやDVD-Rなどの通常の録音録画メディアに加えて、オーストリア、チェコ、フランス、ハンガリー、ポーランドなど、汎用のメモリーカードに課金している国もかなりある。
・フランスとオーストリアは、MP3プレーヤーや録画器内に一体に組み込まれるHDDをメディアとみて課金している。つまり、個人用ビデオレコーダーはフランスとオーストリアではメディアとして課金され、チェコ、フィンランド、ハンガリーとポーランドでは機器として課金されている。
・料率もバラバラであり、2004年にEUの16カ国で集められた補償金額は5.67億ユーロである。(これは今はもっと増えているだろう。)
(2)補償金制度の問題点(第11~16ページ)
・国境を越える取引の場合、製造と輸出入でそれぞれ課金されることになるが、返還制度や輸出入のための例外が各国の国内法制に依存し、うまく機能していない。
・今の補償金システムは、プロユーザーのことを考えていない。ブランクメディアは、ソフトウェアコードやマニュアルのコピーなどの、私的複製とは全く関係ないプロフェッショナルユースにも使われるものである。
・現行の補償金制度の運用は、製造業者・輸入業者・エンドユーザーのコンプライアンスに大きく依存しており、これは誠実な業者にとって不利となり、課金を逃れるグレーマーケットを広げることにつながっている。
・今までのところ料率はメディアの容量によっているが、ブランクメディアの容量と、ユーザーの実際の私的複製の量には開きがある。様々な用途に使われる汎用媒体の場合、保護される著作物の私的複製に用いられないことも多い。
・合法ダウンロードサービスからダウンロードした著作物については、権利者が既に受けている対価との間で2重課金となる。
・クリエイティブコモンズライセンスのようなライセンスのもとで提供されている著作物を補償金のかかったメディア・機器でコピーする場合、無償でコピーが許されているにもかかわらず、補償金が賦課されていることになる。
・管理コストや基金への分配が国によって異なることも良くあり、分配が不透明で正当な比率になっていないと考えている権利者もいる。
(3)付録(第17~26ページ)
・欧州の消費者団体(BEUC)は、補償金は私的複製による経済的実害を反映すべきであると主張し、どこの国も単なる仮定にもとづいて補償金を決めており、この実害の評価をきちんと行っていないと非難している。
・スペインのユーザーグループ(Todos Contra El Canon)は、今の典型的なラフジャスティスの形はひどいもので、様々な2重課金の問題があり、補償金制度を拡大することはデジタルデバイドを広げることにつながるとして反対を表明している。このグループ主導の署名運動は、150万人を集めた。
以上はあくまで私が勝手に作った概要なので、この問題に興味がある方がいれば、是非原文に当たって頂きたいと思う。(今までこのブログで取り上げ損ねていた話も資料には書かれており、調べられるものは調べて、また紹介して行きたいと思っている。)もうすぐ日本でも今年の私的録音録画小委員会が始まることと思うが、この資料を一読するだけでも、文化庁が持ち出して来る「国際潮流」が、いかに彼らにとって都合の良いことだけで塗り固められた嘘のかたまりであるかすぐに分かるはずである。
とにかく、この補償金制度の世界的なちぐはぐさ、デタラメぶりには本当にあきれるばかりである。欧州でもこの問題があと半年や1年やそこらで片付く訳はない。
日本でも、また文化庁なりが、今年の私的録音録画小委員会でこの問題の早期決着を図ろうと、無理を通しに来ることが容易く想像されるのだが、ここまで来た以上、中途半端な妥協は絶対に許されない。補償金の意味を曖昧にしたまま、中途半端な妥協をすることは、必ず将来に大禍根を残すことに、日本の文化政策史上に世紀の大汚点を刻むことになるだろう。
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