第61回:カナダ、フランス、欧州連合(EU)における私的複製(私的録音録画)補償金問題関係の動き
今回も、著作権関係の最近の海外動向の紹介である。
(1)カナダ
まずはカナダについて、第48回のついでに、カナダのiPod税導入がカナダの連邦裁判所で否決された(追加でフランス語の記事1、記事2へのリンクを張っておく。)というニュースを紹介したが、最近出たネット記事(フランス語)によると、最高裁への上告はあきらめられたらしく、カナダでのiPod課金は無期延期となったようである。
ただ、この記事で紹介されている、カナダ補償金協会の、連邦裁判所のカナダの著作権委員会がiPod税を導入する権限がないという決定について上告を求めるつもりはないが、やはりカナダ国民によってなされている権利者の許諾を得ていない私的複製による権利者の損失は莫大なものであるというコメントは、著作権委員会に権限がないのなら、権限のあるところに言いに行くまでだという脅しとしか取れないので、これで本当に片付いたということでもないだろう。それでも、少なくとも、カナダでのiPod課金への道のりはこれで大分遠くなったと思われる。
(2)フランス
第38回と第53回のついでに少し取り上げたが、各種ネット記事(フランス語の記事1、記事2、記事3、記事4、記事5)によると、フランスの補償金委員会はこの1月23日に最初の投票を行い録音録画機能つき携帯電話へ課金する方針を固めたようであり、この2月19日に2回目の投票を行い最終的な意志決定を行うようである。やはり記事によると、128MB以上のメモリーを持ち、録音録画機能を有し、音楽機能専用のボタンがあるような携帯電話は全て、MP3プレーヤーと同じ料率で課金するということらしい。当然のことながら、メーカーと消費者は反対しているようであるが、この方針を見る限り、メーカーの主張も消費者の主張も完全に無視されているとしか思えない。
だが、そもそも今の補償金についてですら消費者から既にフランス行政裁判所に訴えが提起されているほどに消費者の不信を招いていることを考えても、このような問答無用の対象拡大によってさらなる訴訟が起こされることも十分に考えられる。フランスも、この問題に関してはさらに手を焼くことになるだろう。(なお、フランスでは、ブルーレイとHD-DVDへの課金も、今年の検討課題としているようである。)
(3)EU
各種ネット記事(フランス語の記事、英語の記事1、記事2、記事3、EUのプレス記事1、記事2)によると、EUレベルでも著作権問題、特に私的複製補償金問題に関する検討を再開するようで、この6月くらいまでに関係者からのヒアリングを行い、8月くらいには何らかの提案を行いたいようである。また、どこからどういう関係で出てきた話かよく分からないが、やはり記事によると、実演家の権利を今の50年から95年に延長することも一緒に検討するようである。
しかし、どのような検討をするにせよ、多国間でこのような検討をやり出すとどうしてもも上の保護レベル合わせることになるので、ロクな結果にならないのは目に見えている。保護期間延長を補償金切り下げのディールに使うつもりなのかも知れないが、大体、権利者団体側はその強大な政治力をフルに使って、補償金の切り下げの話には絶対に乗らずに、保護期間延長だけを取ろうとするであろうから、補償金問題については今の混乱の極みの中で以前と同じように暗礁に乗り上げる中、保護期間延長だけが決定されるというひどい結果になる危険性も高い。さらに、隣接権の話をするときには、必ずレコード製作者と放送事業者の権利もついて回るので、これらの権利まで一緒に延長された日には、もはや目も当てられない結果となるだろう。補償金問題を含め著作権問題は半年や1年やそこらで片付くような生やさしいものではないのであり、今後の検討において迷走することのないよう、EU当局の良識に期待したい。
そして、権利者団体なり文化庁なりが、またぞろこのような動きを指して知財の保護強化が世界潮流だと言い出すことも十分予想されるのだが、EU統一という大きな流れを無視してそのようなことを言うのは、あまりにも浅はかであり、愚鈍の極みであるとここでは繰り返しておく。
とにかく、著作権問題に関する限り、世界中でもめないことはないと言って良いくらいもめるのだが、権利者団体の政治力の強さと、「複製=対価」という著作権原理主義による洗脳工作が、世界中の政策当局の政策判断を狂わせていることには極めて強い憤りを覚える。「複製=対価」の概念で全てを塗りつぶし、権利者団体のみへ利益誘導を図ることは、インターネット時代の文化・産業政策として全く正しいものではない。
なお、前回紹介したイギリスの違法コピー対策について、特に目新しいことが載っている訳ではないが、タイムズオンラインの記事を見つけたので、リンクを張っておく。また、他の関連英語記事によると、イギリスでは、インターネットサービスプロバイダーが、間違って告訴されたユーザーの訴訟費用負担のための拠出をレコード会社に求めていたりもするようである。レコード会社がそうそう金を出すとも思えないが、このようなユーザー保護策はもっといろいろなところで検討されても良いだろう。
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