第46回:規制の一般論
ネット規制については第37回に書いたので、さらに規制そのものの一般論について、私なりに考えたことを今回は書いておきたい。(個別の政策からはさらに遠くなるが、有体物と異なり、基本的に無体物の占有は規制によってしか実現され得ず、知的財産権は財産権としての性質だけではなく常に規制の性質も持っているということから知財政策との関係を理解して頂ければと思う。また、規制は法律のみを指すとは限らない。技術であれ契約であれ、国民全体に選択の余地なく与えられるものは全て、ここで言うところの規制たり得る。)
まず、表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密等に抵触する規制が論外なのはさておき、どんなものであれ規制を論じる際には、そもそも一般的に規制の実行には常に社会的コストがかかるということは必ずはっきりと認識されていなくてはならない。すなわち、国家レベルで行われる規制には常に莫大な社会的コストが発生するのであり、規制によるメリットがこのデメリットを超えるとする明白な論拠がない限り、基本的に国家による規制は絶対に正当化され得ないのである。(ここで良く印象操作レトリックが使われることは第37回に書いた通りであるが、ここでも、私は、表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密が絶対的なものだなどと言っているのではないと念を押しておく。全ての権利は相対的なのであり、他人の身体や財産などを侵害する場合は、無論、表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった権利も制限を受けるのである。また、この財産に無体物の知的財産が含まれ得ることについても何ら依存はないが、「財産権≠知的財産権≠著作権≠複製権」という不等式はもっとはっきりと認識されていて良い。この一般的な財産権と知的財産権の関係については、また別途詳しく書きたいと思っている。)
そして、具体的な規制理由、具体的な規制主体、具体的な規制対象を常に明確に念頭におきながら考えないと、このメリット、デメリットの正しい評価はできないはずだが、最近の政官で、これらの点をなおざりにして問題のみを強調する思考停止がはびこっているのを見るにつけ、全くもって憤慨を禁じ得ない。(分かってやっているのであればまだ合理的な議論の余地もあろうが、そうでないとしたら最もタチの悪い善意の押し売りである。地獄への道は善意で舗装されているという格言を思い起こしてもらいたい。)
どこであれ、人と人とが触れ合う以上必ず問題は発生するのであって、「問題がある、すなわち規制が必要」ではあり得ない。その問題の真の発生原因が何かを考えず、その性質に応じた合理的な対策を取ることを置き去りにして、無意味かつ無駄な規制を入れると、必ず人心の荒廃と国力の衰退という結果を招くに至ることは、歴史が語る真実である。(世界規制史についてここで長々と書いても良いが、そうするまでもないくらいのことだろう。)
腐り切った今の政治家と官僚が打ち出す最近の規制強化策には、規制によって発生する莫大な社会的コストにたかろうとするハイエナ根性しか見られない。すなわち、それぞれ程度の差こそあれ、自分たちのみで規制主体をコントールして、そこに投じられる国民の血税を食いものにしたあげく、この国民の財産と権利に対する明らかな侵犯を隠蔽するために情報統制を敷こうとする悪逆非道の意図が透けて見えないものはないのである。彼らの「権利を守ることが重要」というセリフは全て「利権を守ることが重要」と、「規制が必要」とは全て「寄生が必要」と読みかえなくてはならないほど、その傍若無人ぶりは目に余るものがある。
それにひきかえ、規制に比べて大したコストがかかる訳でもない合理的かつ地道な取り組みに社会的コストを振り向けることが、何故できないかというと、まさしく大したコストがかからないが故に利権屋にとってのうまみがなく、もはや単なる利権屋と化している日本の腐った政治家と官僚にそのインセンティブが全く働かないからである。(なお、知りたい方がいれば、このことについてさらにまとめの記事を書いても良いが、政治自体に様々な法規制による参入障壁が作られていることこそ今の政治の硬直と腐敗の遠因である。)
無意味かつ無駄な規制を新たに作るような社会的余裕は今の日本にはない。寄生政治家や寄生官僚が有害無益な規制強化策をいくら国民に押しつけようとしたところで、無い袖は振れない。なお押し売りをしてくるようであれば、そのように国民の財産と権利を不当に侵害する政府に国民の代表たる資格はないと私は断じる。このような政府に対しては、あらゆる手段は正当化される。国家に巣くう寄生虫どもよ、国民と歴史による鉄槌を恐れよ。この鉄槌を免れる者はいないのだ。
次回は、「コンテンツ産業の真の敵」というタイトルで、また知財政策の話に戻るつもりである。
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