第44回:文化庁公表の私的録音録画小委員会パブコメ結果について
文化庁のパブコメが去年の末に公表されているが、その公表された数字によると、意見総数は8720通とのことである。これだけの数のパブコメが集まったことも前代未聞なら、これだけの数のパブコメを役所が無視したこともまた前代未聞だろう。
今回は繰り返しも多くなってしまうかも知れないが、今年の最初の回として、公表されたパブコメを読んで気になったことを書き留めておきたい。
まず、このパブコメを見ていくと、そもそも審議会に委員を出している各団体(消費者団体、ユーザー団体、メーカー団体、権利者団体の数々)が全てパブコメを出してきており、中間整理が審議会としてのコンセンサスすら得られていないものであることを、審議会が完全に崩壊していることを如実に表している。もはや何のために審議会を作っているのかすら良く分からない。
また、今まで天下りのパイプに頼ってきた所為か、基本的に各権利者団体の意見は了見が狭く、言いさえすれば自分の権利を誰かが守ってくれるとする甘えが目立つ。いい加減、権利者団体も、天下りのパイプを使って法改正をすれば、自分たちの旧来のビジネスモデルが守られるという甘い考えは捨てた方が良いだろう。法律をいくら変えようと本質的に現実に即していないビジネスモデルは消費者の支持を得られず、廃れるだけである。天下り役人なんかに甘えているより、インターネット時代に本当に受け入れられるビジネスモデルを真剣に模索した方がはるかに建設的である。
ダビング10の暫定合意を盾にとって、メーカーを非難したり、補償金制度維持を訴えたりしている個人の意見も散見されるが、第2~6章の各種現状についても動員をかけなかったのは権利者団体側の手落ちだろう。本来ならば、権利者団体側は、ここでこそ違法ダウンロードが権利者に経済的不利益を与えていることの明白な証拠などをパブコメで示すべきだっただろうに、これらの章についてのパブコメでは、ほぼ現状の調査とダビング10に対する批判しか書かれていないのである。結局、単にパブコメを賛成反対の多数投票だと思っている権利者団体側の文化レベルの低さがここにも現れている。(だからこそ、MIAUのネットユーザー動員活動も意味のあることだったと私は思っている。)
繰り返しになるが、もともと私的複製の権利制限があって補償金制度は無かったことを考えれば、そもそも「複製=対価」ではあり得ないし、「私的複製の権利制限=補償金制度」でもあり得ないことは明らかだろう。これらの等式を信じ込ませようとする文化庁と権利者団体の悪辣な洗脳にだまされてはいけない。(なお、補償金制度の意味が私的複製の自由を確保するものであるかないかを法的に曖昧にしたまま、現行の横すべりで補償金を拡大しても、私的複製の自由度は確保されるはずがない。ここにもやはり悪辣な洗脳がある。)
権利者に「複製権」が与えられていたのは、今まで「複製」にそれなりのコストがかかり、「複製」を元に文化の創造のために必要な社会的コストを捻出してもそれほど問題がなかったために過ぎない。知的財産権は全て社会的な目的の達成のために創設された便宜的な権利であり、著作権もそれを免れるものではない。「複製権」は絶対不可侵の権利ではないのである。
今本当に問われていることは、技術の発展によってコンテンツの流通・複製のコストがほぼ無視できるほどに下がる中、文化の創造のために必要な社会的コストはどこから捻出されるべきかということなのであるが、ユーザー自らによる無償の文化活動もこれからますます増えてくることが予想される中、権利者団体と既存のビジネスモデルのみを不当に利することは、文化と産業の動向を無視した百害あって一利ない施策であると私は確信する。
最後に、ダウンロード違法化については、大多数の反対意見はダウンロードの違法化をするなと言っているのであって、意見を重く受け止めてダウンロードを違法化して欲しいなどとする意見ではカケラもないのであり、このような意見のすりかえは決して許されてはならない。天下り団体からの突き上げを「諸般の事情」と称すれば国民をごまかせると思っている低脳な文化庁らしい浅はかな論理のすり替えであるが、国民を舐めるにもほどがある。さらに強行すれば、国民に与えられた手段はパブコメだけではないことを文化庁は思い知ることになるだろう。
ついでに、この1月1日からドイツではダウンロード違法化をさらに明確にした法律が施行され、ドイツでも多くネット記事(記事1、記事2、記事3、記事4、記事5)になっているので、ここで紹介しておく。法改正の内容については、今までこのブログでも紹介しているので省くが、何にせよ1クリックで1万ユーロの罰金あるいは3年以下の懲役の可能性が出てくるという状態は決して正しいとは思われない。ドイツはこの法律によってさらに混乱するに違いない。
また今年は、EUも域内統一オンライン・コンテンツ市場の実現に向けた検討をするようである(ITproの記事、EUの発表資料、フランスでのニュース記事1、記事2)が、世界的に見ても、著作権を口実に内外価格差と非関税障壁を正当化している著作権業界に、域内統一をさせることは生半可なことではできないに違いない。補償金問題との絡みもあり、私も分かる範囲で、今後もこのEUの動向についても追いかけて行くつもりである。
著作権等管理事業法の問題についても近いうちに書きたいと思っているが、もう少し下調べに時間がかかると思うので、次回はDRMの話の続きを書きたいと思う。
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