« 第41回:ダウンロード違法化問題に関する著作権フリー資料 | トップページ | 第43回:今年最後の落ち穂拾い »

2007年12月25日 (火)

第42回:ダウンロード違法化におけるキャッシュの問題

 ITmediaの記事に載っている文化庁の資料には、「ストリーミングに伴うキャッシュについては、著作権分科会報告書(平成18年1月)における一時的固定に関する議論の内容等を踏まえた上で、必要に応じ法改正すれば問題がないと考えられるがどうか。」と書かれている。
 検討の順序が、本末転倒であることは、第39回に書いた通りであるが、文化庁が「ストリーミングに伴うキャッシュ」という言葉に込めたのであろう技術の問題も、ダウンロード違法化問題において、決して無視できない大きな問題である。

 そもそも何でも法改正すれば大丈夫だろうと安易に考えている時点でおかしいのだが、この資料でざっくりと「必要に応じ法改正すれば問題がない」とだけしている点からしても、文化庁には、配信で用いられている以下のような技術の詳細も良く分かっていないのではないかと思われる。

・ストリーム:PCの記憶装置(HDD)に一時ファイル(キャッシュ)は作られず、送られてくる映像(音楽)データをそのまま表示する(流す)方式。
・プログレッシブダウンロード(疑似ストリーム):PCの記憶装置(HDD)に一時ファイル(キャッシュ)が作られ、ブラウザなどのソフトが、ユーザーによる映像(音楽)の視聴終了後にこの一時ファイルを自動的に削除する方式。
・通常のダウンロード:PCの記憶装置(HDD)に、ユーザーが能動的に削除しない限りは消えないコピーが作られる方式。
(これらの区別については、アドビのHPの解説や、PHP&java script roomの解説なども分かりやすい。)

 インターネット上の各種コンテンツ提供サービスで使われている技術がほとんどストリーム配信のみであったならばまだ良かったろうが、今のところ、プログレッシブダウンロードも相当使われていると思われる。(これらがどれくらいの比になっているのかはよく分からないが、回線速度上有利なので、プログレッシブダウンロードの方が主流となっているくらいではないだろうか。)

 ここで、完全なストリーム方式において生じるメモリなどへの一時的なデータコピーは、既に「一時的蓄積」として著作権法上の「複製」ではないという整理がされているのではないかと思われるし、通常のダウンロードは、普通に考えて著作権法上の「複製」ということになるであろう。(無論、今のところは30条の私的複製の権利制限内の「複製」なので、権利は及ばない。)

 結局、最後に問題となるのは動画共有サイトなどで良く用いられているプログレッシブダウンロードをどうするかということになると思われるが、プログレッシブダウンロードと、通常のダウンロードの間には、機械が自動的に行っているダウンロードであるか、それとも人間が能動的に行っているダウンロードであるかという、技術的・外形的には全く区別のつかない差しかない

 この中途半端なプログレッシブダウンロードをどうするかということを考えていくと、「一時的蓄積」と「複製」の境界をどこに引くのかという問題、そして、そもそも機械的なコピーから人為的なコピーまで技術的・外形的に判然とした線が引けない中で、コピーに対して著作権はどこまで及ぼされるべきかという極めて難しい問題に行き着くのであり、おいそれと片がつく話では全くないことが分かるはずである。(権利者団体は全部複製だから金をよこせというのかも知れないが、ダウンロード違法化問題や私的録音録画補償金問題と同じく、このキャッシュ問題についても、そんな低レベルな議論をし始めた瞬間おかしな迷走を始めるだろう。)

 例えば、機械が自動的に行う複製、あるいは、視聴のためのみに行われる複製については権利制限の対象とするといった、「情を知って」と同じような主観的な要件で安易に複製行為を切ろうとしたところで、これも技術的・外形的に区別がつかない話であり、法律としてはやはり破綻している。このような安易な権利制限とダウンロード違法化とが組み合わさると、さらに訳の分からないことになるだろう(例えば、プログレッシブダウンロードで作られる一時ファイルをさらにコピーすることは少し技術に詳しいものならば容易にできることなどからしても、社会に変な歪みを与えるに違いない。)。法律は主観のみで記述した途端、おかしくなるのである。

 逆にこの点について解決をしないまま、ダウンロード違法化のみを拙速に行えば、プログレッシブダウンロード配信と本当のストリーム配信が、ユーザーからの見た目は同じであるのに片方だけが違法に近くなるというおかしな状態が生じ、ユーザーに対する萎縮効果とともに、日本におけるコンテンツ配信の技術開発にまで歪みが生じるだろう。

 このようなことをきちんと議論せずにダウンロード違法化のみを決めることなどあってはならない。ダウンロード違法化問題は、まだカケラも終わっていないのである。

 また、ついでに書いておくが、総務省が今週27日の情報通信審議会でフリーオ問題を検討するらしい。日経の記事によると、やはり役人の性で規制強化しか念頭にないようであるが、番外その6で書いたように、もはや日本のDRM回避規制はこれ以上強化することができないくらいまでになっており、著作権法の改正とは何をしたいのかさっぱり分からない。それに、認証制度についても、いくら制度を作ったところで、DRM回避機器の個人輸入や個人使用が止められるものでもなく、これも結局、認証機関で飼っておく天下り役人のコストが国内メーカーの録画機器に上乗せされるだけで終わるだろう最低の愚策であることを、念のために今一度指摘しておく。どこの役所も、社会的コストをドブに捨てる方向に全力で汗をかくのは本当にもう止めにしてもらいたいと思う。

|

« 第41回:ダウンロード違法化問題に関する著作権フリー資料 | トップページ | 第43回:今年最後の落ち穂拾い »

著作権」カテゴリの記事

コメント

キャッシュにまつわる問題はウェブブラウジングを一般的なGUIベースのブラウザ(Firefox, IE, Opera,Safari)によって行うことを前提としているため、非常に狭義になってしまっているようです。

しかし、世の中にはテキストベースのブラウザで観賞している方や、コンテンツ取得のスクリプトを組んで巡回させている方もいます。こうしたブラウジング方法ではキャッシュの扱いは使用者が決められる為、動画やファイルなどは無期限に蓄積が可能となります。

また、ストリーム配信にしても所詮サーバから送られてくるデータですから、それをクライアント側で保存することはいくらでも可能なわけです。こうしたデータを取得できるソフトやスクリプトというのは、有償無料とわずいくらでも公開されています。また、FirefoxやSleipnirといった拡張可能なブラウザでは誰もが簡単に利用できるプラグインとして配布されているケースも多くあります。

キャッシュの扱いは、サーバーがどのような方式をとろうと最終的な振る舞いはクライアントに委ねられています。とても法で制御できるものとは思えません。

投稿: 通りすがり | 2007年12月26日 (水) 10時40分

コメントありがとうございます。
私もブラウザに引っ張られる書き方をしてしまったように思いますが、おっしゃる通り、確かにキャッシュにも様々なものがあり、これを法で規定しようとするのはまず不可能なはずです。しかし、資料などから見る限り、文化庁がこれを法で制御できると本気で考えているようなので、本当に理解に苦しむのです。

投稿: 兎園 | 2007年12月26日 (水) 23時10分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 第42回:ダウンロード違法化におけるキャッシュの問題:

« 第41回:ダウンロード違法化問題に関する著作権フリー資料 | トップページ | 第43回:今年最後の落ち穂拾い »