第31回:ドイツの知財法改正案(民事手続きにおけるインターネット通信記録の利用)
第29回で紹介したドイツのSpiegelの記事の中に少し書かれていたドイツの法改正の話が気になったので、今回は、その話を簡単に紹介してみたい。
記事によると、ドイツでは、知的財産関係法と情報通信法の両方が国会審議にかかり、その内容でもめているようである。
そのうちの知的財産関係法改正案では、著作権法の第101条に規定されている、民事手続きにおける第3者に対する情報請求権をかなり拡充しており、条件つきで通信関係のデータ提供を求めることも可能にしようとしている。
しかし、インターネットの通信記録の保存を義務づけようとする通信法改正案では、その第113条でこのデータが利用を刑事事件や国家安全保障上の理由がある場合に限定している。
これらが両方とも審議にかかった結果、これらは齟齬するものであり、上院にその解消を求めるとする決議を、11月19日に、ドイツ下院が出している。
ネット記事(ドイツの記事1、記事2参照)によると、その後、やはりプライバシーや情報開示請求の乱用に対する懸念が問題になり、インターネットの通信記録に対して個々の企業のアクセスを認めるつもりはないとさすがのドイツ法務相も述べたようで、今のまますぐに改正案が成立することはひとまずなさそうである。(しかし、権利者に甘いドイツ政府が最後どうするかは良く分からないので、また何か続報があれば紹介したいと思う。)
これはドイツの話だが、ダウンロード違法化を認めた場合の日本の未来図でもある。一旦認められたら、今度はこれに実効性を持たせるために、インターネットの通信記録を直接見られるようにしろと権利者団体が主張してくることは目に見えている。そして、そのような主張に、文化庁なりがまたすぐに耳を貸すだろうことも容易く想像できてしまう。
日本でも役所の検討では、プライバシーや情報アクセス権(知る権利)、通信の秘密や検閲の禁止といった最も基本的な原理が何故か軽く見られているが、これらは、著作権の保護と比較して、決して軽く見られて良い原理ではない。
今後の日本の著作権法の改正の検討では、ドイツを他山の石として、是非もっと基本的なところからきちんと検討してもらいたいと私は思っている。
次回からは、DRMに関する法規制の話を書いて行きたいと思っている。
(12月2日の追記:著作権だけが問題であるかのような書き方をしてしまったが、特許侵害品についても同じようにインターネットを通じた取引の問題があり、上の知的財産関係改正法案では、特許法などにも同等の規定を入れようとしている。しかし、ドイツの憲法(基本法)も、情報アクセス権や検閲の禁止(第5条)、通信の秘密(第10条)などを明確に基本権と位置づけており、基本的な権利同士のせめぎ合いという難しい問題を提起することだろう。)
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