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2007年12月20日 (木)

第40回:ダウンロード違法化が国際潮流だとする文化庁の悪辣な欺瞞

 前回に引き続いて、文化庁がダウンロード違法化の根拠とする「諸般の事情」の中に含まれているであろう、国際潮流の嘘、外圧の欺瞞についても明確にしておきたいと思う。

 そもそも、ダウンロードを違法化した国がある、すなわちダウンロード違法化が国際潮流ではあり得ないので、そこからして間違っているのだが、文化庁が中間整理で、ダウンロードを明確に違法としているとした国は、ドイツ、フランス、スペイン、イギリス、アメリカ、スウェーデン、フィンランドくらいしかなく、例えこれらの国が全てダウンロードを明確に違法としていたとしても、EUだけでも27か国あるのであり、アジアの主要国も完全に無視しており、この程度では到底国際潮流とするには足らないことは明白である。

 しかし、そもそもこれらの各国の法律・判例・現状についても文化庁は、人を舐めきった歪んだ理解を国民に押し付けようとしているのであり、その整理は何一つ信用できない。

 まず、ドイツについては、第13回で書いたように、元々明らかな違法複製物からの複製を違法としていたにもかかわらず、社会的混乱をもたらすだけで何の効果もなかったために、最近の法改正において、ネットワークからの複製物も明確に違法だということを示すためにのみ、明らかに違法にアップロードされた著作物からの複製を私的複製の権利制限範囲からさらに除外している。しかし、ドイツにおける音楽業界の対ユーザー訴訟は2万件を超え、既にデタラメな魔女狩りの様相を呈し、刑事当局も、その手続きにかかる税金の無駄としか思われない社会的コストの浪費に著作権業界を見放し始めているという記事もあったことを考えると、このような国民のコモンセンスとモラルを無視した屋上屋の法改正は単に社会的混乱を増すことこそすれ、減らすことはないだろうというのが私が見たドイツの現状である。(ドイツで著作権検閲を合法化しようとして失敗したことは、第31回第33回に書いた。)

 フランスにおいては、私的複製を含む権利制限条項に、いわゆるベルヌ条約のスリーステップテスト(著作物の通常の利用を妨げてはならず、著作者の利益を不当に害するものであってはならないというもの)をそのまま規定した逆制限を入れているが、結局、これは判断を全て裁判に委ねるということであり、ダウンロードが違法だとする判例がフランスで確定した訳でもない以上、これをダウンロードを明確に違法化したものだとすることはできない。(フランスでは最近違法ユーザ対策として、フィルタリング+著作権検閲の方針を打ち出しているが、これも失敗するであろうことは、第29回第30回に書いた。)

 イギリスとアメリカについては、そもそも判例法の国であり、実定法のみをあげつらってダウンロードは違法だと決めつけることはできない。イギリスについては判例もないのであろうし、アメリカのP2P訴訟も、全体としてみればまだ継続中であり、勝手にただ一つの地裁判決のみを取り上げてあたかもアメリカでは全てダウンロードが違法であるかの如き印象操作を行うことなど論外である。第17回でも書いたように、アメリカでも権利者団体などによる対ユーザー訴訟は猖獗を極めており、違法ダウンロード問題もその1要素となって、かえって消費者・ユーザーの反発を招き、何のポジティブな効果も得られていないというのがアメリカの現状についての私の理解である。

 第28回のおまけとして書いたことだが、スペインのインターネット警察のボスは、無料でダウンロードする限りにおいて、ダウンロードユーザーは泥棒とは考えられないという発言をしており、スペインでは、ドイツと同様の法改正はしたものの、早々に法規範の徹底や取り締まりはあきらめたのだろうと思われる。スウェーデンやフィンランドについても、ダウンロードを特に明確に違法化して何か効果があったという話を聞かない。

 ついでに、第34回で書いたことだが、スイスやカナダでは、ダウンロード違法化以前に、DRM規制のところで市民の反対運動が起ころうとしているのであり、これらの国でダウンロードの明確な違法化を行うことなど論外であろう。

 要するに、文化庁が示した国際潮流は全てデタラメで法改正の根拠たり得ないのは無論のこと、「国際潮流」というキーワードを国民を騙すために姑息かつ悪辣に使用していることは明らかである。私が見る限りにおいて、ダウンロードを明確に違法化し、かつそれを無理にでも法規範たらしめようとしている国はドイツくらいであり、それも全くうまくいっていないというのが真の国際潮流である。このような稀少な悪例に日本が従う義理は何一つない。

 また、「諸般の事情」が外圧なら、言葉を選んで素直に外圧と言えば良い話だが、日本政府に外圧をかけてくるのはEUかアメリカくらいしか考えられない中、EUであれば、まず域内で規制を統一してから言って下さいと、アメリカであれば、最高裁判例が出てから言って下さいと言われてしまうだけであるにも関わらず、EUなりアメリカなりがそんなデタラメなカードの切り方をしてくるとは思えない。EUにしても、アメリカにしても、日本にかける外圧ならもっと緊急の課題がいくらでもあるはずである。

 インターネットでほぼどこの国の情報でも個人で調べることができる中、そんな姑息かつ悪辣な妄言にごまかされる者など一人もいないにも関わらず、文化庁が「諸般の事情」として「国際潮流」をあげ、外圧を匂わせれば国民が騙されるとでも思っているとしたら愚かにもほどがある。

 結局、この暴挙は、国際潮流や外圧など関係なく、国内の利権団体のみを利して自らの天下り先確保を図りたい文化庁の暴走であると見て間違いない。文化庁は自らの暴挙によってダウンロード違法化を是とする一分の理も失ったのである。文化庁はもはや単なる悪であり、全国民の敵となったと私は断言してはばからない。文化庁よ、インターネットの力を、言葉の力を、真の文化の力を思い知るのは貴様らの方だ。心せよ、全てはこれからだ。

 なお、欧州でも私的複製補償金に対して正式に苦情が出されたという記事がITmediaに載っていたので、リンクを張っておく。域内市場委員のチャーリー・マクレビー氏の「この問題はなくならない」という認識は正しいだろうが、決して改革の手をゆるめないでもらいたいと思う。イギリスのボウルズ議員の「補償金は開発を阻害する暗黒時代の制度」という言も正しく、アーティストの収入の35%が補償金によってしまっている時点で何かが完全に狂っていることに気づくべきなのだから。

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コメント

ですよねーw
そもそもアップロードもよく取り締まれて無いのにダウンなんて(笑)
全く、なんの為の法律なんだ( ´_ゝ`)

投稿: やま | 2010年4月 4日 (日) 03時34分

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