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2007年12月22日 (土)

番外その6:B-CASカード使用不正録画機器フリーオ(Friio)は取り締まれるか。

 文化庁のダウンロード違法化問題(ITmediaの記事に、文化庁のふざけた資料の全文が公開されている。)については書き足らないのでまだ書くつもりだが、ひとまず書きかけだった放送とDRMに関する話の続きを書いておく。

 フリーオはB-CAS社の認定を受けていない不正機器であるが、B-CASカードを差すことで、地上デジタル放送の暗号を解除し、そこに含まれているコピー制御信号を無視して、暗号のかかっていない状態で放送データ(コンテンツ)をPCに取り込める機器である。(フリーオについては、ITproの記事1記事2などにも分かりやすくまとめられている。これらの記事は私も参考にさせてもらった。B-CASシステムの導入経緯については第6回の総務省へのパブコメを読んでいただければと思う。)

 フリーオは取り締まれるかという質問に対する答えを先に書いておくと、これは社会的にはイエス、私的領域についてはノーであり、この線を動かすことは原理的に不可能であり、道義的にも動かしてはならないというものである。

 まず、このような機器について、第36回で書いた著作権法と不正競争防止法の規定に当てはめてどうかということを考えて行く。

 著作権法についてであるが、B-CASそのものは暗号化を用いて視聴をコントロールしているアクセスコントロールなので、このような不正機器によるDRM回避は厳密に考えて行くと著作権法の対象外となると考えられる。しかし、第36回でも書いたように、DVDのPCによるリッピングと同じく、裁判で実質的にシステム中に含まれているコピーコントロール信号を除去又は改変しているに等しいといった認定をされる可能性も否定できず、フリーオを用いた私的複製について違法かどうかは今のところ著作権法上グレーと言わざるを得ないだろう。
 そして、このような機器が著作権法で言うところの「技術的保護手段」回避機器に該当するかどうかもグレーである以上、最後、著作権法により、このような機器の輸入・国内譲渡・国内販売等について刑事による取り締まりが行われる可能性も否定できない

 不正競争防止法では、「技術的制限手段」にアクセスコントロールが含まれており、暗号解除を行ってているフリーオは明らかに不正競争防止法の対象となる(第2条第1項第10号該当なのか第11号なのかという議論はあろうが、どちらかに該当するのは間違いない。)ので、このような機器の輸入・国内譲渡・国内販売等について、民事による損害賠償請求等が行われる可能性は大いにある。(不正競争防止法では刑事罰の適用はない。)

 トリッキーな法の適用であるが、以前違法チューナーを取り締まる時に電気用品安全法(いわゆる悪名高いPSE法)が使われたこともある(読売新聞の記事参照)ので、国内譲渡や国内販売等について、電気用品安全法により取り締まりが行われる可能性もある

 しかし、どの法律が使われるにせよ、販売行為なり輸入行為を見つけることが可能な、フリーオの国内での取引や、業者による販売目的の輸入は、民事で訴えられるか(警告で終わるかも知れないが)、刑事による取り締まりを受けるかすることになるだろう。(そのため、かなりきわどい商品を取り扱っている店でも手を出すところは少ないのではないかと思われる。なお、台湾の裁判次第となってしまうだろうが、フリーオ生産地と思われる台湾の著作権法にも、DRM回避機器規制は存在しており、台湾における取り締まりの可能性もある。)

 また、フリーオで作成した複製を著作権者に無断でインターネットにアップロードする行為などは、著作権法違反であり、民事で訴えられる可能性も、刑事で取り締まられる可能性もある。

 さらに、第22回でも書いた通り、B-CAS社とユーザー間にはシュリンクラップ契約があるため、この契約違反を問われる可能性もある。つまり、著作権法違反あるいはフリーオの国内での再譲渡・販売等に対する刑事・民事手続きの中で、証拠として出されるだろうB-CASカードの所有者がさらに訴えられる可能性もあるのである。(これに何も知らない善意ユーザーが巻き込まれたら大変なことになるので、特に、第22回で、「B-CASカードを絶対人に譲渡してはいけない、自分の住所と名前を登録したカードを譲渡するなどもってのほかである。オークション等で売ってしまったという人がいたら、即刻B-CAS社に対し紛失の届出を出しておくべきである。」と私は書いた。)

 これだけ書けば既に地上デジタル放送のDRM回避は、既に法律と契約でこれ以上は不可能なまでにがんじがらめになっていることが分かるだろう。少なくともフリーオが一般ユーザーにも容易に入手可能となることは考えられない。

 それでは何が問題なのかというと、結局、このような機器の存在そのものによって、全国民をユーザーとする地上デジタル放送の一律コピー制御の正当化に必要な、平等の原則が崩れてしまったことが問題なのである。しかし、権利者団体等が何と言おうと、各家庭の中にまで入り込んで録画機器を取り締まることは不可能であり、またされるべきでもない。権利は全て相対的なものであり、著作権は、プライバシーや通信の秘密などの他の基本的な権利を無視できるほど強い権利ではない。また、完全に私的領域に閉じる複製によって著作権者への実害が発生する訳もなく、権利者団体がこのような複製について何かを求めること自体間違っている。

 放送局、権利者団体、メーカーといった利権団体と利権構造の中に組み込まれた役所がさらにB-CASの延命を図ることは考えられるが、その対策としては、

  1. B-CASの法制化
  2. B-CASのカード認証の実行
  3. B-CASへの機器認証の導入

くらいしか考えられない。しかし、

  1. そもそも、法律で特定の録画機器のみを正規なものとすることは、B-CASという民間談合を官製談合に変え(予言しておくが、必ずここで総務省が新たな天下り先を作ることをもくろむだろう)、さらに問題を複雑化させるだけであることに加え、上にも書いたようにDRM回避機器の個人的な使用行為そのものの取り締まりは不可能で、かつ道義的に許されて良いことでもなく、
  2. B-CAS社へ登録情報を送っていないユーザーのカードによる視聴を止めることは、あまねく視聴されることを目的とする地上放送で実行するには道義上の問題がある上、大混乱が予想され、コスト的にも実行はほぼ不可能であり、
  3. また、不正機器かどうかを機器で確認可能とすることも、全く新たな機能の追加となり、出荷済みの全機器に対する対応コストを考えると、これもほぼ不可能であり、

これらのB-CAS延命策に現実性はない

 要するに、フリーオの登場によって、地上デジタル放送におけるDRMは、もはや本当に縛りたい悪意のユーザー・消費者を縛れず、完全に善意のユーザー・消費者の利便性のみを不当に縛るものと堕したのであり、このような前提のもとに全ての検討はなされなくてはならない。今後も、権利者団体なりが複製権を絶対不可侵のものであるかのごとく振りかざして、手段は問わないから何としてもユーザーによる私的複製を止めろと馬鹿げた主張を繰り返し、それをダシに総務省なりが天下り先を新たに作ろうとすることは容易に想像がつくのだが、一般国民を無視したこのようなバカげた主張に耳を貸すことはない。全国民をユーザーとする無料の地上デジタル放送におけるDRMは単なる社会的コストの無駄であるとあらゆる者が悟り、ノンスクランブル・コピーフリーへの移行がなされる日が一刻も早く訪れることを私は心から願っている。

 なお、このブログでは既に何度も書いてきたことだが、コピーワンスなり、ダビング10なり、善意のユーザー・消費者の利便性のみを不当に縛るDRMが地上デジタル放送において無理矢理維持され続ける限り、録画補償金の正当性もなく、(地デジのこの混迷状況を見てもなお踏み切るのであれば)アナログ停波に合わせ録画補償金は完全に廃止されてしかるべきである。

(2008年1月10日の追記:無論個人輸入と個人利用に及ぶ話ではないが、フリーオの販売等については、特許権侵害で取り締まられる可能性もあることを書き漏らしていた。なにしろ、地上デジタル放送関連機器についてはパテントプール(日経ビジネスのネット記事参照)が作られて必須特許も明らかになっている上、特許権侵害罪は非親告罪とされてしまっているのである。)

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