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2007年12月29日 (土)

第43回:今年最後の落ち穂拾い

 一昨日、MIAUでダウンロード違法化問題に関するシンポジウムが開かれ、盛況だったと聞く。私もできる限りの協力はしたいと思っているし、今後もMIAUには是非頑張ってもらいたいと思う。

 また、昨日、総務省で、情報通信審議会・デジタルコンテンツの流通の促進等に関する検討委員会が開催された(ITproの記事internet watchの記事AV watchの記事)。フリーオ問題の検討によって、コピーワンス問題もようやくその根源たるB-CAS問題に行き着いた。B-CAS問題は、コピーワンス緩和の暫定合意など全て吹き飛ばすだろう爆弾であり、今後もこの問題からは目が離せない。

 これで大体今年のイベントは終わったと思われるので、このブログでも今年最後の落ち穂拾いを2つほどしておきたい。

 一つは、ダウンロード違法化問題についてである。
 小寺氏のブログで文化庁がパブコメの結果を発表したという記事がかかれていたので、ここにも文化庁のパブコメ結果へのリンクを張っておきたいと思う。
 また、ダウンロード違法化問題における外圧の存在について、アメリカ政府の要望(「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」)を酌んで日本政府が動いているのではないかという向きもあるが、要望の同じ並びで入っている非親告罪化や保護期間延長については、文化庁も何事もなく見送っているのであり、アメリカがダウンロード違法化についてだけ特に強い外圧をかけてきているというのも解せない。やはりダウンロード違法化を「不可避」としたのは文化庁の暴走であろうというのが私の読みである。(アメリカの言うことをそのまま受け入れなければならない理由は何一つないが、要望があることも事実なので、ダウンロード違法化問題は、これからも曲折をたどるだろう。)

 もう一つは、総務省で公表された簡易チューナーの仕様についてである。
 この仕様でチューナーが本当に作られるのかどうか良く分からないが、仕様の資料で、特に、「コンポジット出力に対してコピー制御必要」としていることは見過ごせない。これはアナログ出力にCOG(コピーワンジェネレーション)信号を上乗せするということを意味しているのだろう(何せアナログ出力のコピー制御に使えるCGMS-Aでは、コピー制御信号は、コピーネバーかコピーワンジェネレーションかコピーフリーのどれかから選ぶしかない)が、これはこのチューナーの出力からHDやDVDへデジタル録画しようとした瞬間今までのコピーワンス制約が全て再現されるということを意味している。このような簡易チューナーを発売することは、コピーワンス問題の火にさらに油を注ぐだけだろうと私は予測する。

 それでは皆様、良い年を。政官業に巣くう全ての利権屋に悪い年を。そして、このつたないブログを読んで下さっている全ての人に心からの感謝を。

(来年は年明けの第2週くらいから、再開したいと思っている。このインターネットという著作権戦争、知財戦争の最前線において書くことに困る気は全くしない。)

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2007年12月25日 (火)

第42回:ダウンロード違法化におけるキャッシュの問題

 ITmediaの記事に載っている文化庁の資料には、「ストリーミングに伴うキャッシュについては、著作権分科会報告書(平成18年1月)における一時的固定に関する議論の内容等を踏まえた上で、必要に応じ法改正すれば問題がないと考えられるがどうか。」と書かれている。
 検討の順序が、本末転倒であることは、第39回に書いた通りであるが、文化庁が「ストリーミングに伴うキャッシュ」という言葉に込めたのであろう技術の問題も、ダウンロード違法化問題において、決して無視できない大きな問題である。

 そもそも何でも法改正すれば大丈夫だろうと安易に考えている時点でおかしいのだが、この資料でざっくりと「必要に応じ法改正すれば問題がない」とだけしている点からしても、文化庁には、配信で用いられている以下のような技術の詳細も良く分かっていないのではないかと思われる。

・ストリーム:PCの記憶装置(HDD)に一時ファイル(キャッシュ)は作られず、送られてくる映像(音楽)データをそのまま表示する(流す)方式。
・プログレッシブダウンロード(疑似ストリーム):PCの記憶装置(HDD)に一時ファイル(キャッシュ)が作られ、ブラウザなどのソフトが、ユーザーによる映像(音楽)の視聴終了後にこの一時ファイルを自動的に削除する方式。
・通常のダウンロード:PCの記憶装置(HDD)に、ユーザーが能動的に削除しない限りは消えないコピーが作られる方式。
(これらの区別については、アドビのHPの解説や、PHP&java script roomの解説なども分かりやすい。)

 インターネット上の各種コンテンツ提供サービスで使われている技術がほとんどストリーム配信のみであったならばまだ良かったろうが、今のところ、プログレッシブダウンロードも相当使われていると思われる。(これらがどれくらいの比になっているのかはよく分からないが、回線速度上有利なので、プログレッシブダウンロードの方が主流となっているくらいではないだろうか。)

 ここで、完全なストリーム方式において生じるメモリなどへの一時的なデータコピーは、既に「一時的蓄積」として著作権法上の「複製」ではないという整理がされているのではないかと思われるし、通常のダウンロードは、普通に考えて著作権法上の「複製」ということになるであろう。(無論、今のところは30条の私的複製の権利制限内の「複製」なので、権利は及ばない。)

 結局、最後に問題となるのは動画共有サイトなどで良く用いられているプログレッシブダウンロードをどうするかということになると思われるが、プログレッシブダウンロードと、通常のダウンロードの間には、機械が自動的に行っているダウンロードであるか、それとも人間が能動的に行っているダウンロードであるかという、技術的・外形的には全く区別のつかない差しかない

 この中途半端なプログレッシブダウンロードをどうするかということを考えていくと、「一時的蓄積」と「複製」の境界をどこに引くのかという問題、そして、そもそも機械的なコピーから人為的なコピーまで技術的・外形的に判然とした線が引けない中で、コピーに対して著作権はどこまで及ぼされるべきかという極めて難しい問題に行き着くのであり、おいそれと片がつく話では全くないことが分かるはずである。(権利者団体は全部複製だから金をよこせというのかも知れないが、ダウンロード違法化問題や私的録音録画補償金問題と同じく、このキャッシュ問題についても、そんな低レベルな議論をし始めた瞬間おかしな迷走を始めるだろう。)

 例えば、機械が自動的に行う複製、あるいは、視聴のためのみに行われる複製については権利制限の対象とするといった、「情を知って」と同じような主観的な要件で安易に複製行為を切ろうとしたところで、これも技術的・外形的に区別がつかない話であり、法律としてはやはり破綻している。このような安易な権利制限とダウンロード違法化とが組み合わさると、さらに訳の分からないことになるだろう(例えば、プログレッシブダウンロードで作られる一時ファイルをさらにコピーすることは少し技術に詳しいものならば容易にできることなどからしても、社会に変な歪みを与えるに違いない。)。法律は主観のみで記述した途端、おかしくなるのである。

 逆にこの点について解決をしないまま、ダウンロード違法化のみを拙速に行えば、プログレッシブダウンロード配信と本当のストリーム配信が、ユーザーからの見た目は同じであるのに片方だけが違法に近くなるというおかしな状態が生じ、ユーザーに対する萎縮効果とともに、日本におけるコンテンツ配信の技術開発にまで歪みが生じるだろう。

 このようなことをきちんと議論せずにダウンロード違法化のみを決めることなどあってはならない。ダウンロード違法化問題は、まだカケラも終わっていないのである。

 また、ついでに書いておくが、総務省が今週27日の情報通信審議会でフリーオ問題を検討するらしい。日経の記事によると、やはり役人の性で規制強化しか念頭にないようであるが、番外その6で書いたように、もはや日本のDRM回避規制はこれ以上強化することができないくらいまでになっており、著作権法の改正とは何をしたいのかさっぱり分からない。それに、認証制度についても、いくら制度を作ったところで、DRM回避機器の個人輸入や個人使用が止められるものでもなく、これも結局、認証機関で飼っておく天下り役人のコストが国内メーカーの録画機器に上乗せされるだけで終わるだろう最低の愚策であることを、念のために今一度指摘しておく。どこの役所も、社会的コストをドブに捨てる方向に全力で汗をかくのは本当にもう止めにしてもらいたいと思う。

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2007年12月24日 (月)

第41回:ダウンロード違法化問題に関する著作権フリー資料

 既にダウンロード違法化が決定したかのような論調も見かけるが、今のところ、単に文化庁が法改正の方針を示しただけであり、この問題は何一つ終わっていない

 MIAUも緊急シンポジウムを開くという告知をしているし、弁護士の小倉先生などもさらに運動されると表明している。(小倉先生、勝手なトラックバック失礼いたします。ご迷惑でしたら、トラックバックをお切り下さい。)

 今回は、ダウンロード違法化に反対する全ての人に対する個人的な応援として、私なりにダウンロード違法化問題についての概要をまとめた資料(何せ大したコネもない無名の私には使い道のない資料である。)を、ここに載せておきたいと思う。(あまり視覚的にできなかったことはあらかじめお詫びしておく。pptでもpdfでもjpgでも内容は同じである。)

 この程度の資料で大した著作権が発生するとも思っていないが、この資料に関する著作権は完全にフリーとするので、自己責任で使っていただく限りにおいて、どこで利用していただいても構わないし、改変・マッシュアップも完全に自由である。(著作権法上どこまで、著作権の放棄が可能なのかは最後よく分からないが、この資料には財産権も人格権もないと思って使っていただいて全く構わない。その替わり利用に関して責任は負いかねるので、その点はご承知おき願いたい。)

 この問題は既に終わったと考えて冷ややかに笑いたい者は笑えば良い。だが、その冷ややかな笑いも含めてあらゆる表現と文化は守られなくてはならないというのが私の考えである。そのためにできることを私はする。国民投票で決めたというのでもない限り、私がこのような不法を納得することはない。

(12月25日の追記:この資料は、このブログ名なりURLなりを付けて、ここを参考にしたとして使っていただいても構わないが、どなたでもそのまま(あるいは改変したものに)自分のクレジットをつけて使っていただいても一向に構わない。著作権は権利者団体に所属する権利者のためにのみあるのではないことを、著作権は使い方次第であることを、世の中には「無償かつ自由」の活動もあって良いことを、私は示そうとしているのだから。)

「download_siryou.ppt」をダウンロード

「download_siryou.pdf」をダウンロード

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2007年12月22日 (土)

番外その6:B-CASカード使用不正録画機器フリーオ(Friio)は取り締まれるか。

 文化庁のダウンロード違法化問題(ITmediaの記事に、文化庁のふざけた資料の全文が公開されている。)については書き足らないのでまだ書くつもりだが、ひとまず書きかけだった放送とDRMに関する話の続きを書いておく。

 フリーオはB-CAS社の認定を受けていない不正機器であるが、B-CASカードを差すことで、地上デジタル放送の暗号を解除し、そこに含まれているコピー制御信号を無視して、暗号のかかっていない状態で放送データ(コンテンツ)をPCに取り込める機器である。(フリーオについては、ITproの記事1記事2などにも分かりやすくまとめられている。これらの記事は私も参考にさせてもらった。B-CASシステムの導入経緯については第6回の総務省へのパブコメを読んでいただければと思う。)

 フリーオは取り締まれるかという質問に対する答えを先に書いておくと、これは社会的にはイエス、私的領域についてはノーであり、この線を動かすことは原理的に不可能であり、道義的にも動かしてはならないというものである。

 まず、このような機器について、第36回で書いた著作権法と不正競争防止法の規定に当てはめてどうかということを考えて行く。

 著作権法についてであるが、B-CASそのものは暗号化を用いて視聴をコントロールしているアクセスコントロールなので、このような不正機器によるDRM回避は厳密に考えて行くと著作権法の対象外となると考えられる。しかし、第36回でも書いたように、DVDのPCによるリッピングと同じく、裁判で実質的にシステム中に含まれているコピーコントロール信号を除去又は改変しているに等しいといった認定をされる可能性も否定できず、フリーオを用いた私的複製について違法かどうかは今のところ著作権法上グレーと言わざるを得ないだろう。
 そして、このような機器が著作権法で言うところの「技術的保護手段」回避機器に該当するかどうかもグレーである以上、最後、著作権法により、このような機器の輸入・国内譲渡・国内販売等について刑事による取り締まりが行われる可能性も否定できない

 不正競争防止法では、「技術的制限手段」にアクセスコントロールが含まれており、暗号解除を行ってているフリーオは明らかに不正競争防止法の対象となる(第2条第1項第10号該当なのか第11号なのかという議論はあろうが、どちらかに該当するのは間違いない。)ので、このような機器の輸入・国内譲渡・国内販売等について、民事による損害賠償請求等が行われる可能性は大いにある。(不正競争防止法では刑事罰の適用はない。)

 トリッキーな法の適用であるが、以前違法チューナーを取り締まる時に電気用品安全法(いわゆる悪名高いPSE法)が使われたこともある(読売新聞の記事参照)ので、国内譲渡や国内販売等について、電気用品安全法により取り締まりが行われる可能性もある

 しかし、どの法律が使われるにせよ、販売行為なり輸入行為を見つけることが可能な、フリーオの国内での取引や、業者による販売目的の輸入は、民事で訴えられるか(警告で終わるかも知れないが)、刑事による取り締まりを受けるかすることになるだろう。(そのため、かなりきわどい商品を取り扱っている店でも手を出すところは少ないのではないかと思われる。なお、台湾の裁判次第となってしまうだろうが、フリーオ生産地と思われる台湾の著作権法にも、DRM回避機器規制は存在しており、台湾における取り締まりの可能性もある。)

 また、フリーオで作成した複製を著作権者に無断でインターネットにアップロードする行為などは、著作権法違反であり、民事で訴えられる可能性も、刑事で取り締まられる可能性もある。

 さらに、第22回でも書いた通り、B-CAS社とユーザー間にはシュリンクラップ契約があるため、この契約違反を問われる可能性もある。つまり、著作権法違反あるいはフリーオの国内での再譲渡・販売等に対する刑事・民事手続きの中で、証拠として出されるだろうB-CASカードの所有者がさらに訴えられる可能性もあるのである。(これに何も知らない善意ユーザーが巻き込まれたら大変なことになるので、特に、第22回で、「B-CASカードを絶対人に譲渡してはいけない、自分の住所と名前を登録したカードを譲渡するなどもってのほかである。オークション等で売ってしまったという人がいたら、即刻B-CAS社に対し紛失の届出を出しておくべきである。」と私は書いた。)

 これだけ書けば既に地上デジタル放送のDRM回避は、既に法律と契約でこれ以上は不可能なまでにがんじがらめになっていることが分かるだろう。少なくともフリーオが一般ユーザーにも容易に入手可能となることは考えられない。

 それでは何が問題なのかというと、結局、このような機器の存在そのものによって、全国民をユーザーとする地上デジタル放送の一律コピー制御の正当化に必要な、平等の原則が崩れてしまったことが問題なのである。しかし、権利者団体等が何と言おうと、各家庭の中にまで入り込んで録画機器を取り締まることは不可能であり、またされるべきでもない。権利は全て相対的なものであり、著作権は、プライバシーや通信の秘密などの他の基本的な権利を無視できるほど強い権利ではない。また、完全に私的領域に閉じる複製によって著作権者への実害が発生する訳もなく、権利者団体がこのような複製について何かを求めること自体間違っている。

 放送局、権利者団体、メーカーといった利権団体と利権構造の中に組み込まれた役所がさらにB-CASの延命を図ることは考えられるが、その対策としては、

  1. B-CASの法制化
  2. B-CASのカード認証の実行
  3. B-CASへの機器認証の導入

くらいしか考えられない。しかし、

  1. そもそも、法律で特定の録画機器のみを正規なものとすることは、B-CASという民間談合を官製談合に変え(予言しておくが、必ずここで総務省が新たな天下り先を作ることをもくろむだろう)、さらに問題を複雑化させるだけであることに加え、上にも書いたようにDRM回避機器の個人的な使用行為そのものの取り締まりは不可能で、かつ道義的に許されて良いことでもなく、
  2. B-CAS社へ登録情報を送っていないユーザーのカードによる視聴を止めることは、あまねく視聴されることを目的とする地上放送で実行するには道義上の問題がある上、大混乱が予想され、コスト的にも実行はほぼ不可能であり、
  3. また、不正機器かどうかを機器で確認可能とすることも、全く新たな機能の追加となり、出荷済みの全機器に対する対応コストを考えると、これもほぼ不可能であり、

これらのB-CAS延命策に現実性はない

 要するに、フリーオの登場によって、地上デジタル放送におけるDRMは、もはや本当に縛りたい悪意のユーザー・消費者を縛れず、完全に善意のユーザー・消費者の利便性のみを不当に縛るものと堕したのであり、このような前提のもとに全ての検討はなされなくてはならない。今後も、権利者団体なりが複製権を絶対不可侵のものであるかのごとく振りかざして、手段は問わないから何としてもユーザーによる私的複製を止めろと馬鹿げた主張を繰り返し、それをダシに総務省なりが天下り先を新たに作ろうとすることは容易に想像がつくのだが、一般国民を無視したこのようなバカげた主張に耳を貸すことはない。全国民をユーザーとする無料の地上デジタル放送におけるDRMは単なる社会的コストの無駄であるとあらゆる者が悟り、ノンスクランブル・コピーフリーへの移行がなされる日が一刻も早く訪れることを私は心から願っている。

 なお、このブログでは既に何度も書いてきたことだが、コピーワンスなり、ダビング10なり、善意のユーザー・消費者の利便性のみを不当に縛るDRMが地上デジタル放送において無理矢理維持され続ける限り、録画補償金の正当性もなく、(地デジのこの混迷状況を見てもなお踏み切るのであれば)アナログ停波に合わせ録画補償金は完全に廃止されてしかるべきである。

(2008年1月10日の追記:無論個人輸入と個人利用に及ぶ話ではないが、フリーオの販売等については、特許権侵害で取り締まられる可能性もあることを書き漏らしていた。なにしろ、地上デジタル放送関連機器についてはパテントプール(日経ビジネスのネット記事参照)が作られて必須特許も明らかになっている上、特許権侵害罪は非親告罪とされてしまっているのである。)

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2007年12月20日 (木)

第40回:ダウンロード違法化が国際潮流だとする文化庁の悪辣な欺瞞

 前回に引き続いて、文化庁がダウンロード違法化の根拠とする「諸般の事情」の中に含まれているであろう、国際潮流の嘘、外圧の欺瞞についても明確にしておきたいと思う。

 そもそも、ダウンロードを違法化した国がある、すなわちダウンロード違法化が国際潮流ではあり得ないので、そこからして間違っているのだが、文化庁が中間整理で、ダウンロードを明確に違法としているとした国は、ドイツ、フランス、スペイン、イギリス、アメリカ、スウェーデン、フィンランドくらいしかなく、例えこれらの国が全てダウンロードを明確に違法としていたとしても、EUだけでも27か国あるのであり、アジアの主要国も完全に無視しており、この程度では到底国際潮流とするには足らないことは明白である。

 しかし、そもそもこれらの各国の法律・判例・現状についても文化庁は、人を舐めきった歪んだ理解を国民に押し付けようとしているのであり、その整理は何一つ信用できない。

 まず、ドイツについては、第13回で書いたように、元々明らかな違法複製物からの複製を違法としていたにもかかわらず、社会的混乱をもたらすだけで何の効果もなかったために、最近の法改正において、ネットワークからの複製物も明確に違法だということを示すためにのみ、明らかに違法にアップロードされた著作物からの複製を私的複製の権利制限範囲からさらに除外している。しかし、ドイツにおける音楽業界の対ユーザー訴訟は2万件を超え、既にデタラメな魔女狩りの様相を呈し、刑事当局も、その手続きにかかる税金の無駄としか思われない社会的コストの浪費に著作権業界を見放し始めているという記事もあったことを考えると、このような国民のコモンセンスとモラルを無視した屋上屋の法改正は単に社会的混乱を増すことこそすれ、減らすことはないだろうというのが私が見たドイツの現状である。(ドイツで著作権検閲を合法化しようとして失敗したことは、第31回第33回に書いた。)

 フランスにおいては、私的複製を含む権利制限条項に、いわゆるベルヌ条約のスリーステップテスト(著作物の通常の利用を妨げてはならず、著作者の利益を不当に害するものであってはならないというもの)をそのまま規定した逆制限を入れているが、結局、これは判断を全て裁判に委ねるということであり、ダウンロードが違法だとする判例がフランスで確定した訳でもない以上、これをダウンロードを明確に違法化したものだとすることはできない。(フランスでは最近違法ユーザ対策として、フィルタリング+著作権検閲の方針を打ち出しているが、これも失敗するであろうことは、第29回第30回に書いた。)

 イギリスとアメリカについては、そもそも判例法の国であり、実定法のみをあげつらってダウンロードは違法だと決めつけることはできない。イギリスについては判例もないのであろうし、アメリカのP2P訴訟も、全体としてみればまだ継続中であり、勝手にただ一つの地裁判決のみを取り上げてあたかもアメリカでは全てダウンロードが違法であるかの如き印象操作を行うことなど論外である。第17回でも書いたように、アメリカでも権利者団体などによる対ユーザー訴訟は猖獗を極めており、違法ダウンロード問題もその1要素となって、かえって消費者・ユーザーの反発を招き、何のポジティブな効果も得られていないというのがアメリカの現状についての私の理解である。

 第28回のおまけとして書いたことだが、スペインのインターネット警察のボスは、無料でダウンロードする限りにおいて、ダウンロードユーザーは泥棒とは考えられないという発言をしており、スペインでは、ドイツと同様の法改正はしたものの、早々に法規範の徹底や取り締まりはあきらめたのだろうと思われる。スウェーデンやフィンランドについても、ダウンロードを特に明確に違法化して何か効果があったという話を聞かない。

 ついでに、第34回で書いたことだが、スイスやカナダでは、ダウンロード違法化以前に、DRM規制のところで市民の反対運動が起ころうとしているのであり、これらの国でダウンロードの明確な違法化を行うことなど論外であろう。

 要するに、文化庁が示した国際潮流は全てデタラメで法改正の根拠たり得ないのは無論のこと、「国際潮流」というキーワードを国民を騙すために姑息かつ悪辣に使用していることは明らかである。私が見る限りにおいて、ダウンロードを明確に違法化し、かつそれを無理にでも法規範たらしめようとしている国はドイツくらいであり、それも全くうまくいっていないというのが真の国際潮流である。このような稀少な悪例に日本が従う義理は何一つない。

 また、「諸般の事情」が外圧なら、言葉を選んで素直に外圧と言えば良い話だが、日本政府に外圧をかけてくるのはEUかアメリカくらいしか考えられない中、EUであれば、まず域内で規制を統一してから言って下さいと、アメリカであれば、最高裁判例が出てから言って下さいと言われてしまうだけであるにも関わらず、EUなりアメリカなりがそんなデタラメなカードの切り方をしてくるとは思えない。EUにしても、アメリカにしても、日本にかける外圧ならもっと緊急の課題がいくらでもあるはずである。

 インターネットでほぼどこの国の情報でも個人で調べることができる中、そんな姑息かつ悪辣な妄言にごまかされる者など一人もいないにも関わらず、文化庁が「諸般の事情」として「国際潮流」をあげ、外圧を匂わせれば国民が騙されるとでも思っているとしたら愚かにもほどがある。

 結局、この暴挙は、国際潮流や外圧など関係なく、国内の利権団体のみを利して自らの天下り先確保を図りたい文化庁の暴走であると見て間違いない。文化庁は自らの暴挙によってダウンロード違法化を是とする一分の理も失ったのである。文化庁はもはや単なる悪であり、全国民の敵となったと私は断言してはばからない。文化庁よ、インターネットの力を、言葉の力を、真の文化の力を思い知るのは貴様らの方だ。心せよ、全てはこれからだ。

 なお、欧州でも私的複製補償金に対して正式に苦情が出されたという記事がITmediaに載っていたので、リンクを張っておく。域内市場委員のチャーリー・マクレビー氏の「この問題はなくならない」という認識は正しいだろうが、決して改革の手をゆるめないでもらいたいと思う。イギリスのボウルズ議員の「補償金は開発を阻害する暗黒時代の制度」という言も正しく、アーティストの収入の35%が補償金によってしまっている時点で何かが完全に狂っていることに気づくべきなのだから。

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2007年12月19日 (水)

第39回:文化庁の暴挙に対する反旗

 先日、文化庁では私的録音録画小委員会が開催され、ネットでは多くの記事(ITmediaの記事1記事2記事3、internet watchの記事1記事2、日経TechOnの記事)になっている。これらの記事に書かれている、ダウンロード違法化を一方的に不可避とする文化庁のあまりの暴挙に私は唖然とした。

 既に様々なブログや掲示板で批判の嵐が吹き荒れているるが、この暴挙に対しては、例え小さなものでも反旗は一つでも多くあげなくておかなければならない。文化庁は行政として絶対にしてはならないことをしたのだ。

 私もまず記事にかかれているダウンロード違法化に関する各委員と文化庁の発言を簡単にまとめてから、文化庁の暴挙を批判する。(以下は、私が各記事から勝手にまとめたものであることをお断りしておく。強調も私がつけたもの。正確な内容については、上のリンク先の記事をご覧頂きたい。)

・「ダウンロード違法化に反対したパブリックコメントの結果を、重く受け止めてほしい。そもそも、改正の必要性を感じない。違法ダウンロードをさせろとは言っていない。ネット上に安価で、カタログがそろった状態で、危険もない正規品があるなら、消費者はそれを選ぶはずだ。日本の権利者は、やることもやらずに、権利だけを強化してくれと言っているように見える。そこが消費者との溝を生む。今は過渡期で、例えばレコード会社がDRMフリーで音楽配信するなど、さまざまな試行錯誤が行われている。どういった形態がうまくいくかは市場の評価が決めること。コピーワンスやCCCDもそうだが、『著作権保護を強化し、ユーザーに対する規制を強めようという流れが強くなれば、ユーザー側は『じゃあ音楽を買わない』『TVも見ない』という方向になると思うがそれでいいのか。」(IT・音楽ジャーナリスト・津田委員)

・「国際条約や先進諸国の動向を見ても、ダウンロードは違法化すべきというが、『国際的潮流』というのは危険なキーワードである。」(IT・音楽ジャーナリスト・津田委員)

・「パブリックコメントの結果、圧倒的多数が反対だった。それだけの意見が集まった事実がありながら、『それはそれとして』と簡単に進めていいのか。反対意見の数を受け止め、反対した人にも納得してもらえる説明できるようにすべき。疑わしきは権利者の利益に、という方向に議論が流れてきた。行政が消費者保護に力を入れる中、著作権法制は文化と関係あるからといって消費者をないがしろにするのは、公正性・透明性にも欠けている。違法アップロードを取り締まり、権利者はビジネスで戦うべき。」(主婦連合会・河村委員)

・「古い法律でがんじがらめになっていては、新しいビジネスが生まれないのではないか。今は『違法かもしれない』サービスが将来のビジネスを生む可能性がある過渡期。古い法律の規制が行きすぎることは避けなくてはならない。」(イプシ・マーケティング研究所社長・野原委員)

・「このような委員会はその時点の関係者、つまり、今現在被害をこうむるかもしれない人でのみ構成されているために、どうしても近視眼的な議論になる。」(イプシ・マーケティング研究所社長・野原委員)

・「日本の音楽配信は、世界第2位のマーケット。モバイルが圧倒的にシェアが高いが、決して権利者側が配信に後ろ向きなわけではない。ネット上での違法流通は、日本国内でも中国の海賊版と同じぐらいひどい状況。このままではレコード業界のビジネスが立ちゆかなくなる。」(レコード協会・生野委員)

・「著作権は小さな権利で、保護の体制全体が心許ない。消費者は、一部の豊かな権利者を見て、われわれが権利の上で豊かな生活をしていると誤解しているかもしれないが、われわれも一般消費者と変わらない立場。もっと保護してもらいたい。保護されたからといって、それに甘んじてスポイルされることはない。」(日本音楽作家団体協議会・小六委員)

・「米国の調査会社の2005年に、映画の海賊版被害が日米でそれぞれ、年間400億円あるという試算を出した。動画共有サイト流行前の当時ですらそうなのだから、今は増えているだろう。海賊版駆逐の王道は、海賊版とあまり変わらない価格で、正規品と同じ経路で流通させることだが、ネットでは正規品が流通しない。ネットはダークサイドで、全く別世界。違法アップローダーとビジネス上での競争などしたくはない。」(日本映画製作者連盟・華頂尚隆委員)

・「一番大事なのは利用者の保護だが、違法サイトからのダウンロードを違法にすることで、国民の意識は変化するだろう。『情を知って』という言葉も入るし、刑事罰もない。一般のユーザーはそれほどひどい目には遭わないだろう。」(中山主査)

・「意見募集に多くの反対意見が集まったことは重く受け止めているが、第30条の見直しは諸般の事情から避けられない。具体的な被害額に結びつくかどうかという点には異論はあるだろうが、(1)違法サイトからのダウンロードで、正規品ダウンロード市場を凌駕する規模の流通が行われ、権利者が経済的不利益をこうむっている、(2)P2Pファイル交換ソフトによる違法配信は、アップロードしたユーザーの特定が難しい場合があり、送信可能化権だけでは十分に対応できない、(3)国際条約や先進諸国の動向を見ても、ダウンロードは違法化すべきである。」(文化庁)

・「ユーザーの意見を無視したわけではない。ネットからの意見も踏まえたつもりだ。『違法サイトと知らずにダウンロードしてしまった場合、無意識に法を犯してしまうのでは』などといった不安は、十分理解できる。ユーザーの不利益にならないような制度設計をする。具体的には、刑事罰を付けない、法の執行は違法複製物であると知ったうえで利用した場合に限る、法改正内容の周知徹底、権利者が許諾したサイトの情報提供、警告・執行の手順に関する周知徹底、相談窓口の設置等を推進する。権利者も政府も汗をかいて努力し、合法サイトを簡単に見分けることができる仕組み作りをする。仮に、権利者が違法サイトからダウンロードしたユーザーに対して民事訴訟をするとしても、立証責任は権利者側にあり、権利者は実務上、利用者に警告した上で、それでも違法行為が続けば法的措置に踏み切ることになる。ユーザーが著しく不安定な立場に置かれることはない。」(文化庁)

・「違法アップロードしているユーザーに対して、日本レコード協会などが警告すると、9割がアップロードをやめるといったことや、P2Pファイル交換ソフトの利用していた人が利用をやめた理由について、26.4%が『著作権侵害を避けるため』と答えたといったことを踏まえると、カジュアルな権利侵害の大半はこれで無くせると思う。」(文化庁)

・「キャッシュの扱いについて議論した著作権分科会の今年1月の報告書などを踏まえ、必要に応じて法改正すれば問題ないのではないか。」(文化庁)

 上の概要を読んで頂いただけでも分かると思うが、文化庁の事務方の発言はひどすぎる。1800の非テンプレ意見を含む7500件のパブコメの論点整理はどうしたのか。審議会の委員の発言もパブコメで出された意見も全て無視して、勝手に法改正の方針を示すとは一体何様のつもりか

 ダウンロード違法化の根拠にしても、具体的な被害額に結びつくかどうかという点に異論があるとしながら、何故経済的不利益が大きいと断言できるのか、違法アップロードユーザーに対して警告すれば9割がアップロードを止めるとしながら、何故送信可能化だけでは対応できないと断言できるのか、国際条約にダウンロードを明確に違法化すべきと書いている訳でもなく、国際的に見てもダウンロードを違法化している国は決して多くなく(現にスイスの今年の法改正でもダウンロードの違法化は入っていない)、ダウンロードを違法化したことによって社会的混乱を招いている国もあるほどだということを無視して、何故勝手にダウンロード違法化を国際的潮流と決めつけられるのか、全て論理が破綻しているとしか言いようがない。文化庁の役人の辞書に「論理」とか「理性」とかいった文字はないと見える。

 ユーザー保護に関しても、ダウンロードに関しては、その行為に1個人しか絡まないので、エスパーでも無い限り、「情を知って」の要件は証明も反証もできないことを忘れてはならない。文化庁がユーザー保護策と称する施策には、合法サイト認定という裏返しの違法サイト認定でネットを規制したいという思惑しか見えない。パブコメの詳細は公になっていないので良くは分からないが、日本を超えて全世界のユーザーが自由にアクセス可能なインターネットで、そのような国内の権利者団体のみを利する規制が不合理極まりないものであるということを多くのパブコメは主張していたのではないか。合法サイト認定機関か団体でも作って天下り先を増やしたいとでも考えているのかも知れないが、そんなことがこのご時世で通ると本気で思っているバカな官僚に行政官の資格はない。いわんや行政の立場を超え、民意を無視して、立法を語るなど言語道断、外道の所行である。

 そして、警告状と架空請求に大した違いはなく、警告状を装った架空請求は確実に増えるだろう。警告状にしても、それが正当なものであるかどうかは、最後、「情を知って」という証明不能の要件にしかかかりようがなく、実務の話がユーザー保護になるなどということもあり得ない。法改正はまず間違いなく社会的混乱をもたらすだけである。

 キャッシュについても、不安に思う声が極めて強いのであるから、まずこちらの法改正を先に議論してから、さらに必要であれば、ダウンロード違法化について議論するのがスジであろう。全く論理が逆転しており、これだけ取っても、ユーザーを完全に無視していることは明らかである。

 ダウンロード違法化の問題は、罰則が無ければ大した影響はないから良いとかそういう問題ではない。行政で立法の議論をすることには違和感しかないが、そこを100万歩譲っても、いやしくも立法を議論する以上、一般国民のコモンセンスに反する法律、守られようがない法律は百害あって一利ないという法哲学の初歩は知っていてもらいたい。どんな法律であれ、作ればその通りに国民が動くなどと考えるのは、今までの法の歴史を無視した為政者気取りの傲慢である
 罰則があろうとなかろうと、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、ダウンロード違法化は法規範としての力すら持ち得ない。このような法改正を押し通せば、結局、ダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードがさらに進行するだけであり、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。どう転ぼうが、ダウンロード違法化は百害あって一利ない最低の法改正であることはいくら繰り返しても繰り返しすぎではない。

 ユーザー・消費者代表である津田氏、河村氏、野原氏の意見は極めて正しい。諸氏には文化庁の暴虐にもめげず、今期の審議が終わるまで是非引き続き頑張ってもらいたいと思うが、文化庁は、これらの審議会委員の意見も、パブコメに示された民意も踏みにじり、自らの利権を守るためにのみ勝手に法改正の方針を示すという行政としてやってはならない暴挙に踏み切った。文化庁は全国民の顔に泥を塗りつけたのだ。文化庁が小学生すら騙せないような屁理屈で法案提出をしかけてくるのであれば、今度は立法府が舞台である。日本国民は馬鹿ではない。文化庁よ、国民を舐めるな。

 なお、権利者団体側の意見についてだが、権利者側は配信に後ろ向きでもなかろうが、前向きとも思われない。違法アップローダーとビジネス上での競争などしたくはないというが、権利者側が、正規品として、DRMでがちがちの不便なコンテンツを、他の流通に対する思いやりコストも含めた不当に高い値段でしか流通させないようでは、ネットでの不正流通が無くなる日は永遠に来ない。また、著作権のような極めて強い権利を持ちながら、もっと保護してもらいたいと言えば保護してもらえると思っていること自体、スポイルされていると自ら告白しているに等しい。

 補償金についても、コンテンツの複製回数を、DRMによって完全にコントロールできれば、補償金は不要になるという未来を文化庁が示したらしいが、これもこれだけでは全く評価できない。津田委員の言うように、DRMと契約で複製回数までガチガチにするか、補償金を残すかの二者択一になる未来は全くユーザーにとって好ましいものではなく、河村委員が言うように、補償金がなくなる=30条で定められた私的複製の範囲がなくなるという交換条件も消費者の権利を無視した暴論である。
 ホームユースの録音録画機器の登場によって危殆に瀕した「複製=対価」の概念を、文化庁と利権団体は十数年前、補償金という不合理な発明によってどうにか救った訳であるが、インターネットというコストのほとんどかからない流通手段の登場によって、この概念は完全に崩壊したのである。文化庁と利権団体がいかに足掻こうが、覆水を盆に返すことはできない。後何年、何十年かかるか分からないが、この「複製権」のドグマを乗り越えることこそ、今後の著作権法に課せられた使命であることを私は信じて疑わない。

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2007年12月15日 (土)

第38回:ドイツとフランスの私的複製(私的録音録画)補償金に関する動き

 ダウンロード違法化問題については、以前から何回も書いていた(第7回第20回(提出パブコメその2)など)ため、前回の話は、ネットコンテンツ規制の方に引きずられる書き方になってしまったことをお断りしておく。著作権問題については、著作物の情報化という別の側面も考えに入れなくてはならないのだが、印象操作レトリックに関する限り同じことが言えることはお分かり頂けたのではないかと思う。

 さて今回は、来週12月18日に、また文化庁の私的録音録画小委員会が開催されることもあり、それほど大きな話ではないが、ドイツとフランスでの補償金に関する報道を念のために紹介しておこう。

 まず、ドイツでは、この12月にプリンターは私的複製補償金の対象とならないという最高裁判決が出された。
 なぜプリンターまでと思われるかも知れないが、ドイツでは、私的録音録画のみならず、私的複製に使われ得る機器であれば何に対しても補償金請求権が与えられ、最終的には裁判でその是非を判断するという法律になっているため、権利者団体は、プリンターも私的複製に使われるのだから補償金をよこせとメーカーに言ってきていたのである。そして、その請求金額は半端でない額になるため、権利者団体対メーカーの訴訟は問答無用で最高裁まで行くことになり、今回ようやくプリンターについて確定したという訳だ。

 最高裁のHP(プレス記事判決文掲載予定URLはあるのだが。)でもまだ判決文が読めないため、詳細は分からないが、少なくともプリンターに対する補償金賦課は不当であるということがドイツでも確定した。それにしても、ドイツは、青天井の補償金請求権を権利者団体に与えることは社会的混乱をもたらすだけということを示してくれている反面教師であるとしか言いようがない。

 なお、上記の記事によると、ドイツ最高裁は、来年に、マルチファンクションプリンターやPCに関する判決を出すことを予定しているようである。もし新たな報道があれば、何かの役に立つかも知れないので、このブログでも紹介して行きたいと思う。
 
 そして、フランスでは、さらに携帯電話に補償金をかける検討が始められるようである(les echosの記事zdnetの記事)。
 これまた何故と思われるかも知れないが、要するにiPhoneがフランスでも最近発売されたので、そこから金を取りたいというだけの話である。
 無論消費者・ユーザーは大反対しているが、フランスにおける補償金委員会の委員比率(第16回でも書いたが、委員長を国の代表として、権利者団体代表が2分の1、メーカー団体代表が4分の1、消費者代表が4分の1となっているので、権利者団体は国の代表を抱き込むだけで課金対象をいくらでも広げることができる)を考えると、課金対象となる可能性は高いだろう。
 しかし、これもまた、欧州では大きな家電・PCメーカーがないため、私的録音録画補償金が外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使われてしまっているという背景事情を抜きにして、単純に対象拡大の方向性のみを取り上げて、これを国際的潮流であると見なしてはならない。事実、アップルが成功を収めているアメリカでは、何ら補償金の対象拡大の動きは見られないのだから。

 次は、前にもお伝えした通り、番外として、フーリオ(Friio)は取り締まれるかという話を書いてみたいと思っている。

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2007年12月14日 (金)

第37回:「表現の自由」を持ち出すネット規制反対派は違法ダウンロードやネットいじめを黙認するのか、という暴論に対する反論

 各種報道で間々見かける、ダウンロード違法化反対派は違法ダウンロードを容認するのか、コンテンツ規制反対派はネットいじめを黙認するのかという脊髄反射的な暴論には、反対派がエキセントリックな主張をしているかのように見せかける印象操作レトリックが含まれている。
 正常な理性を持った人間であれば、論理の飛躍をすぐに見抜けるはずであるが、政官業のそれぞれに巣くう腐った利権屋と、これに連なる御用学者と御用記者がこのような主張を繰り返すのには実にうんざりさせられるので、また知財政策を超える話になってしまうが、念のため、ここにはっきり反論を書いておきたいと思う。

 その立論には次のような前提が必要なはずであるが、大体このような主張をする者は自分に不都合なこの前提を隠すことを常としている。

違法ダウンロードやネットいじめに対処できる法律やモラルは存在していない
国民は自ら情報の取捨選択をする判断力を持たない
作られる検閲機関が恣意的にその権限を行使することはない

 しかし、規制賛成派の記事に、現行法では対処できない他人の身体や財産に対する侵害があるという具体例を見たことはなく、彼らが本当に各種インターネット関連法(インターネットホットライン連絡協議会のHP参照)を全てチェックした上で、コンテンツ規制を行うべきと言っているとは思えない。違法・有害サイトが問題だという単なる漠然とした不安など法改正の根拠として取り上げるに値しない。
 私が見る限り、ポルノや脅迫、売春といった犯罪行為自体にインターネットが新たな類型を追加したということはない。インターネット由来の犯罪が現行法で取り締まり可能であることは、日々のニュースを見ていても分かることである。(掲示板や学校裏サイトへの書き込みで逮捕された事例などをつらつらと書く必要もないだろう。)

 民事であっても、プロバイダー責任制限法に基づく開示依頼ができ、刑事であれば、身体や財産に関わる緊急事項に該当すれば警察の捜査関係事項照会書や裁判所による差し押さえ令状の発行により、ユーザー情報は警察等に開示されるのである。このような厳格な要件に基づく情報開示によって犯罪の取り締まりが行われることにまで反対する者は恐らくほとんどいないだろう。しかし、このように、通信における情報開示の要件が極めて厳格に規定されているのは、別に犯罪を擁護するためではなく、通信の秘密に人間の精神的自由の本質的な条件が含まれているからだということを忘れてはならない。
 犯罪行為そのものが問題ではなく、コミュニケーションツールが問題であるとすることには、人間精神の本質を無視した、危険な論理のすり替えがある

 また、検閲機関は必ず暴走して恣意的に権限を行使し、市民に対して牙を剥き始めるからこそ、検閲の禁止が定められているのであって、事後検閲ならば検閲ではないなどと主張して検閲を正当化する者は、私人として自ら事の是非を判断する権利を放棄しているに等しいということを認識するべきである。

 日々官僚たちの不祥事や暴言をつぶさに見せられながら、官僚無謬説、役人無謬説などを信じる愚か者もいるまい
 通信の秘密も検閲の禁止もなく、ネット言論を統制し放題ということになった途端、役所の内部で猖獗を極めているらしい言論統制がネットにまで洩れ出すに違いないと思うのは私だけだろうか。放送局とこれに連なるマスコミが、総務省の方針に都合の悪い情報を全く流さないことは偶然ではないと私は思っている。(例えば、経産省が経済産業研究所に対して言論弾圧を行ったことは池田信夫氏のブログ記事にも書かれており、審議会の人事による総務省の言論統制についても醍醐聰氏が問題提起をしている。防衛省がブログに圧力をかけた疑いがあるとするブログ記事や、外務省も日本国際問題研究所の論文を閲覧停止にしたということがあるとする記事もある。次官が人事の絶対権を握る独裁システムにより、全省庁でこのようなことがなされていることこそ日本の政策判断の迷走の主原因であると私は確信している。自らを絶対無謬と信じ、反対意見を封殺する者に妥当な判断などできる訳がない。)

 政治的中立性という名目で政府与党に都合の悪い情報を流させないことができるようになると思っているバカな政治家も、ネットに規制をかければ自分たちの方に客を取り戻せると思っている放送局も全てグルであると私は踏んでいる。

 さらに言っておけば、子供のネット利用の問題を、あたかもネットそのものが問題であるかのように言うことにも危険な論理のすり替えがある。ネットいじめも、人間精神と教育と親の責任に根ざした深い問題であって、裏サイトをモグラたたきで潰せば良いとかそういう問題ではない。(下田博次氏のインタビュー記事1記事2参照。)

 通信の秘密や表現の自由や検閲の禁止といった原理は全て密接に結びついて人間の精神的自由を保障しているのであり、このような人権思想は、東西の哲学者が何千年にもわたり営々と築き上げてきた英知の結晶である。政官業の中に巣くう利権屋や、これに連なる御用学者・御用記者の暴論によって簡単に覆えされて良いものではない。

 学問に携わる学者や、表現に携わる報道関係者が、軽々しくこのような妄言を吐くくらい、今の日本は危機的状況にあることに私は暗澹たる思いがする。御用学者と御用記者に私は言いたい、自らの学問あるいは報道の良心を真摯に問い直せ、貴様らは自分の首筋に突き立てられている刃を研いでいるのだと。

(なお、念のために付言しておくと、単に放送規制の緩和になる(通信に新たな規制を加えず、通信を基準に放送をとらえ直し、インターネット放送局にも著作隣接権は与えない)のであれば、私も法改正にそれなりの意味を認める。しかし、総務省のバックにいる最大の利権屋である放送局と、これらとつるんでいる政治家に全くうまみがない、このような方向性への軌道修正は、今の政官業の状態を見る限り不可能であろう。)

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2007年12月11日 (火)

第36回:著作権法の「技術的保護手段」と、不正競争防止法の「技術的制限手段」の回避規制(DVDやCCCDのリッピングはどう考えられるか)

 総務省のネットコンテンツ規制は、警察庁のインターネット・ホットラインセンターから、主導権を取り返したいという総務省の思惑があるのではないかという話を聞いた。
 私も不勉強で、人に言われるまで、このセンターの存在自体知らなかったが、このように有害無益な半官検閲センター(当然警察庁の天下り先だろう)は即刻潰されてしかるべきである。(単に通報だけなら、警察のメールアドレスでも一つ空けておけば済む話である。)してみると、警察庁と総務省との権限争いの結果、ロクでもない検閲機関が二つできるという最低最悪の可能性すら考えておかないといけない。

 とにかく自らの利権拡張を最優先事項として、国民の生活と安全を踏みにじることなど屁とも思わない官僚達が乗じる隙を与えてはならない。表現の自由、通信の秘密、検閲の禁止等々は、国民の生活と安全を支える最低限のライフラインである。これを逆転して、情報統制しなければ国民の生活と安全は守られないなどという、国民の判断力を見くびる傲慢な役人の論理に対しては、私は一国民として断固否と言う。

 世の中胸くその悪くなる話ばかりだが、今回は日本におけるDRM回避規制の話の続きとして、現行規定のまとめを書いておきたい。

(1)概要
 まず、著作権法では、著作権等を侵害する行為の防止又は抑止をする手段として技術的保護手段が規定されている(第2条第1項第20号)。
 また、私的使用を目的とする複製であっても、技術的保護手段の回避により可能となった複製を行うことは権利制限の例外とされる(第30条第1項第2号)。
 さらに、技術的保護手段の回避のための専用機能を有する装置・プログラムを公衆に譲渡等を行い、又は、公衆の求めに応じて業として技術的保護手段の回避を行った場合には、刑事罰が科せられる(第120条の2)。
 現行著作権法では、前回の定義に従うと、コピーコントロールは技術的保護手段に該当するが、アクセスコントロールは該当しない。

 一方、不正競争防止法では、「営業上用いられている技術的制限手段」の効果を妨げる機能を有する専用装置・プログラムの譲渡等を「不正競争」と規定し(第2条第1項第10号、第11号)、同行為に対する差止請求や損害賠償請求など民事的救済を定めている(第3条、第4条)。
 不正競争防止法では、アクセスコントロール、コピーコントロールのいずれも「技術的制限手段」の対象となる。なお、この「不正競争」については、民事的救済は可能であるが、刑事罰の適用はない。

(2)著作権法の条文
 さらに細かく見ていくと、現行の著作権法における「技術的保護手段」の「回避」に係る規制の範囲については、次の要件により対象が限定されている。
① 「技術的保護手段」の定義(著作権法第2条第1項第20号)
・「電磁的方法」により、
・著作権等を侵害する行為の防止又は抑止をする手段であって、
機器が特定の反応をする信号を、
音若しくは影像とともに、記録媒体に記録し、又は送信する方式
② 私的複製ではなく違法となる複製
(著作権法第30条第1項第2号)
技術的保護手段を回避(信号の除去又は改変)して行う複製
③ 罰則がかかる行為(著作権法第120条の2)
回避を行うことを専らその機能とする
・装置・プログラムの
譲渡、貸与、製造、輸入、所持、公衆への提供、公衆送信、送信可能化

 SCMS、CGMS、マクロビジョン方式といった、「機器が特定の反応をする信号」を付加する方式のコピーコントロールのみが著作権法でいうところの「技術的保護手段」に当たり、CSS、CAS等のアクセスコントロール機能のみの技術については著作権法の埒外であることに注意が必要である。
 
 したがって、著作権法でいうところの技術的保護手段がかかっている訳ではないCCCDのリッピングは違法ではない。また、CCCDのリッピングを可能とするような装置・プログラムの譲渡等についても無論違法ではない。

 しかし、DVDに関しては少し事情が違う。DVDのコピーを主に防いでいるのは、前に書いた通り、アクセスコントロールであるCSSだが、同時にDVDにはCGMSでコピーネバーとする信号も書き込まれている。
 そのため、DVDをPCでリッピングする行為はCGMSの仕組みとファイルアクセスが無関係であるために、技術的にはコピーコントロール信号の除去又は改変には当たらないのだが、本当に訴えられて裁判になった場合には、実質的に信号を除去又は改変しているに等しいといった認定により、違法とされる可能性も否定できない。複製禁止のDVDをCSSを解除してPCでリッピングする行為については、今のところ、著作権法上グレーと言わざるを得ない。ただし、刑罰のかかる話ではないので、単に違法である可能性が多少あるというに過ぎない。

(3)不正競争防止法の条文
 次に、現行の不正競争防止法における「技術的制限手段」の「回避」に係る規制の範囲については、次の要件により対象が限定されている。
① 「技術的制限手段」の定義(不正競争防止法第2条第7項)
・「電磁的方法」により、
・影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、
視聴等機器が特定の反応をする信号影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式
②不正競争(違法)行為1(不正競争防止法第2条第1項第10号、ただし11号該当は除外)
営業上用いられている
・技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置若しくは当該機能のみを有するプログラムを記録した記録媒体若しくは記憶した機器
譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為
③不正競争(違法)行為2(不正競争防止法第2条第1項第11号)
他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないため
・営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置若しくは当該機能のみを有するプログラムを記録した記録媒体若しくは記憶した機器
・当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為

 不正競争防止法の「技術的制限手段」においては、アクセスコントロールを排除していないため、「技術的制限手段」にはほとんど全てのコピーコントロール・アクセスコントロールが当てはまる。不正競争防止法は著作権法ではないため、技術的制限手段により保護されているものが著作物である必要はなく、ユーザーの複製行為そのものも問題にならず、アクセスコントロール・コピーコントロール回避機器・プログラムの譲渡等のみが規制の対象となることに注意が必要である。

 したがって、CCCDやDVDのリッピング行為自体は不正競争防止法で違法とされるものではない。さらに、CCCDにかけられているコピープロテクトは、技術的制限手段にも当たらないので、CCCDのリッピングを可能とするような回避専用機器・プログラムの譲渡等も違法にならない。
 しかし、例えばDVDのリッピングを可能とする機器・ソフトの譲渡、販売、輸入等は、不正競争法上明らかに違法であり、このような行為は、これにより営業上の利益を侵害された者から、損害賠償や差し止めの訴えを受けるリスクがある。ただし、DVDのリッピングソフト(機器)に関しては、ユーザーを直接訴えることが不可能である所為か、DVDのリッピングによる実害を証明できない所為か、販売店などへの警告だけで済んでいる所為かはよく分からないが、裁判になったという話を聞かないが、DVDのリッピングソフト・機器の販売が違法であることには違いないので、この不正競争防止法がDVDコピーをアングラなものとするのに一役買っているというのは正しいだろう。

 結局、上で書いたことをまとめておくと、CCCDのリッピング(コピー)は私的複製である限り何の問題もなく、またCCCDのプロテクトの解除機器・ソフトについても何ら規制がかかっているものではない、DVDのリッピング(コピー)は著作権法で私的複製の例外に該当しない可能性が少しあり、DVDのプロテクトであるCSSの解除機器・ソフトの譲渡や販売などは不正競争防止法で訴えられる可能性があるということである。

 今回は、今後の話をしていく上でどうしても前提となる、実にややこしい現行のDRM規制について自分なりのまとめしておきたかっただけで、特に目新しいことは書いていない。

 次は番外として、B-CASカードを使用したコピーワンス解除機器(friio:フリーオ)は取り締まれるかということを書いた後、途中また別な話を挟むかも知れないが、次々回くらいにユーザーから見てDRM規制はどうあるべきかという話をできればと思っている。

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2007年12月 8日 (土)

第35回:放送通信融合法制という脅威

 12月6日に総務省から「「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」最終報告書概要)が公表された。

 他のブログでも既に叩かれているのでどうしようかと思ったが、あまりに腹が立ったためここでも叩く。

 概要でも、中間まとめからの変更点として、情報通信ネットワークを用いた「表現の自由」を保障すべきことを明記したと書いており、どうやら総務省の役人も、パブコメの内容から「表現の自由」というキーワードだけは読み取れたようだが、報告書を読むと、この「表現の自由」についてすらキーワード以上のことは何一つ理解していないことが分かる

 他の部分についても、言いたいことは沢山あるのだが、いちいち書いていると切りがないほど報告書は破綻しているので、ここでは、一番問題であると思われるコンテンツ規制のところについてだけ書くことにする。

 この報告書は、規制緩和であるかのように印象操作をしようとして、あまりにあからさまなためにそれに失敗しているのだが、その方向性の要点は、

・私信など特定私人間の通信に関しては通信の秘密が保障されるが、それ以外のホームページなど不特定多数の者によって受信されることを目的とする通信については通信の秘密は保障されない
ホームページなどについても、現行法制に加えて、さらに配慮すべき事項を規定した法律を整備する
コンテンツ削除認定のための半公的機関(当然総務省の天下り先)を作る
現在の地上テレビ放送に対する規律は維持される。
・地上テレビ放送以外のテレビ放送については、放送規制が緩和される。
放送類似のコンテンツ配信サービスについては、緩和された放送規制が適用される

ということである。

 要するに、放送以外は全て規制強化となるのであり、それだけでも全く賛成できないが、そもそも「通信の秘密」を勝手に特定私人間のみに限られるなどと解釈していることは憲法違反も良いところである。

 通信の秘密が保障するものは、通信の内容にとどまらず、発信者・受信者の情報など通信にかかわるあらゆる事実に及ぶのであり、このような通信の秘密が表現の自由の前提ともなっていることは常識で考えてもすぐに分かることである。

 また、総務省の天下り先の半公的機関で、網羅的かつ一般的にコンテンツの内容を審査して削除認定をすることなど、検閲以外の何ものでもなく、やはり検閲の禁止を規定している憲法に明らかに抵触する。(自治体による有害図書指定が合憲とされた最高裁判例自体にも個人的には異論があるが、総務省案は明らかにそんなレベルを超えた一般的かつ網羅的な大検閲機関の創設である。)

 そもそも、ホームページなど不特定多数に公開されるコンテンツに関しては、刑法の適用事例もあり、プロバイダー責任制限法もあり、各事業者がそれぞれの規約等に従ってで削除を行っていて何ら問題が生じていないところである。

 表現の自由を確保するなどといくら書いたところで、通信の秘密もなく、総務省の天下り先の半公的機関によりコンテンツが検閲される中で、どう表現の自由が担保されるのかと、総務省の役人には聞きたいが、連中の知能レベルではその程度のことも理解できないのだろう。

 また、放送に対する規制も、電波の有限稀少性からよって来るところが大きいのであって、社会的影響力のみをもって正当化することは不可能であることを、この報告書は全く認識していない。

 インターネットについて問題をねつ造し、憲法の解釈を勝手にねじ曲げ、国民の精神的自由を侵してまで、天下り利権の確保に走る国賊官僚の姿がここにある。(このような歪んだ放送優遇政策が総務省から出される背景には、総務省の役人の放送局への天下りがあると見て間違いない。少し古いが、坂本衛氏のネット記事には放送局への天下りのことが良くまとめられている。)

 パブコメに出された意見を読んだ上で、このような報告書をまとめて来たということは、国民に対する総務省の宣戦布告といって良い。総務省に良識だの常識だのを期待した私が馬鹿だった。知財政策を超える話ではあるが仕方ない、このブログでもこの問題について引き続き追いかけて行きたいと思うし、国民的な議論になることを期待したい。

 なお、概要でも、将来的課題として、著作権法などを意味もなく「包括的なユビキタスネット法制」にすると言っているが、何をしたいのか理解不能である。総務省の役人の頭には蛆でも湧いているとしか思われない。

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2007年12月 6日 (木)

第34回:スイス著作権法改正(DRM回避規制と国民投票運動)

 ネットでニュース記事(英語の記事フランス語の記事ドイツ語の記事)を見かけたので、また少し予定を変更して、スイスの動向の話をしておきたいと思う。

 記事によると、スイスでも、国会で著作権法改正案が可決されたが、この法律に対して、これは民意を正しく反映したものでなく、国民投票でその正否を決めるべきとする運動が起こっているということである。(スイスでは、10万人の署名を集めることで国民による法改正の直接提案が、法律の公示の日から100日以内に5万人の署名を集めることで法律の国民投票を求めることができるようである。)

 ただし、スイスの著作権法改正案は、フランスやドイツほど非道なものではなく、アップロードのみを違法として、ダウンロードは引き続き許されるとしているためか、国民投票運動の中でもっぱら問題となっているのは、DRM回避規制の方である。(フランスやドイツの状況をよく知っているスイスが、ダウンロードを違法としなかったことも、注目されてしかるべきである。)

 この著作権法改正案は、その第39a条の条文の曖昧さから、目的の営利性・合法性によらず、DRMの回避機器・プログラムの製造・輸入・頒布・貸し出し・提供・広告の全てが禁止される可能性があるため、これは乱暴すぎるという反対意見が出て来ているのである。

 これらはDRM回避規制を特に問題にしており、今の日本の論点とは少しずれているが、権利者のみに甘い著作権法改正はおかしいという意識は世界的に見ても高まっていることが見て取れるのであり、これも決して無視して良い動きではないだろう。

 ついでに、カナダでの著作権法の改正検討についても、とある大学教授がYoutubeなどを使って反対運動を展開しているというニュース記事があったので、一緒にリンクを張っておく。(記事にリンクが張ってあるYoutubeの映像を見ると、やはり権利制限が限定的でアメリカより厳しいこと、DRM回避規制も例外が少なく教育・研究やプライバシーに対して害を及ぼすことなどを問題としている。)

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2007年12月 4日 (火)

第33回:ドイツの知財法改正案(続報)

 続報というほどの続報でもないが、第31回で紹介した話の続きとして、ドイツで、上院で、結局、インターネットの通信記録の保存を義務づける通信法改正案の方を可決したという記事があったので、念のために紹介しておこう。
 記事にも書かれているが、その結果、やはり知的財産関係の法改正案は通らないということになったようである。
 さすがのドイツも、民事手続きでインターネットの通信記録を見られるようにするというのは行きすぎだと分かったのであろう。

 しかし、ドイツの著作権法では、法律で許されている場合を除き複製をした場合には特に区別なく刑事罰の対象となるので、ドイツでは、刑事告訴が乱用され続け、著作権に関する社会的混乱が続くに違いない。

(民事手続きでインターネットの通信記録を見られるようにすることなど論外なのだが、通らなかった法案でも、著作権法第97条aで被侵害者は警告をしなければならないこと、正当なものなら、かかった費用について補償を侵害者に要求できること、ただし補償は50ユーロまでとされることを規定しようとするなど、やはりお話にはならないながらも、多少の努力の跡は見られていた。)

 ついでに書いておくと、何故ダウンロード違法化が社会的混乱を生むかがドイツ政府には分かっていないようだが、これは、ダウンロードについては、違法性が、ユーザーの心にしかよりようがないからなのである。特許は、特許公報の閲覧義務を会社に擬制して悪意推定をしている訳だが、著作権でそんなことをユーザーに課すのはナンセンスも良いところだろう。
 世の中には、明らかに権利者のお目こぼし(黙示の許諾)で流通していると思われる著作物もあり、明確な違法合法の基準は最後まで与えられようがない。そのような中で、ダウンロードを違法化することは、結局、著作物の違法・合法を明確にしないまま、後からいくらでも違法だと主張できる権利を権利者に与えることに他ならないので、社会的混乱を招くのである。
 「複製権」を持っている権利者にも、ドイツ政府にも悪いが、権利者による後出しジャンケンを許すことになる明確なダウンロード違法化は決して認められるべきではなかろう。

 次は、DRMの話の続きを。

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2007年12月 3日 (月)

第32回:著作権保護技術(DRM:Digital Rights Management技術)の現状

 DRMに関する法規制についての話をする前に、今回はその前提となるDRM技術の現状について調べたことをまとめておきたいと思う。(今回からしばらくの内容については、平成18年1月の著作権文化会報告書や私的録音録画小委員会に提出されたJEITAの資料、HP「コピーガード情報へようこそ:コピーガードって何?」、wikipedia「コピーガード」などを参考にさせてもらった。)

 実際のところ、日本、欧州、アメリカのほとんどの国でDRM回避規制は著作権法(日本の場合は著作権法と不正競争防止法の両方)に入ってしまっているが、DRM技術自体は、法規制とはあまり関係なく、ほぼ、新しい保護技術の開発→クラッカーによる解除技術の開発→解除技術のカジュアル化→新しい保護技術の開発といういたちごっこのみによって動いている。(このことからして、そもそもDRMに関する法的規制の実効性について疑問に思うのだが、その話は次回以降に書くとしよう。)

 まず、DRM技術は大体コピーコントロールとアクセスコントロールに分けられるとされている。(映像を対象とするものと音楽を対象とするものと言った分け方もできるが、法規制の話をするときには、このような分け方にした方が良いので、このように分けておく。)

(1)コピーコントロール
 まずコピーコントロールは、主として、コピーを制御するためのフラグを出力信号に付加し、録音録画機器がこれに対応する動作をすることでコピー制御を行うものである。
 主なものには以下のようなものがある。

・SCMS(Serial Copy Management System):
 音楽CDからMDへのコピーに用いられている、デジタル方式の複製を一世代のみ可能とする技術である。MDにはこのSCMS信号を書き込むところがあるため、音楽CDからコピーされたMDからは、それ以上のコピーができない。
 そして、どうやら、著作権分科会 国際小委員会(第3回)議事録での委員の以下のような発言によると、このSCMSは通産省の行政指導により、まずDATに搭載されることになったものらしい。

「私が1つ記憶しているのは、大分昔になりますけれども、DAT、デジタル・オーディオ・テープレコーダーを売り出すときに、今で言うDRM、コピープロテクションをどうするかが非常に問題になり、権利者と業界でもめ続けて、いつまでたってもDATを売り出すことができないという状況になって非常に困ったことがあります。
 そのときに、多分、見るに見かねてと思うのですが、経済産業省、当時の通産省が中に入り、最後は局長名のお手紙が出ました。日本の主要な家電メーカーに対してです。要するに行政指導です。日本においてオーディオ機器を今後発売するためには、SCMSを搭載することを推奨するという内容のレターが出ました。それを受けたメーカーはSCMSを搭載しない限り、物はつくらない、売らないということになったというのが、私が理解している事実であります。」

 しかし、この発言通りのことがあったとすると、これは実に奇妙な行政指導である。当時、既に他の録音機器もあり、私的複製の権利制限がなかったという訳でもないであろうから、メーカーがDATを販売するのに際して、役所や権利者の許可がないと売れなかったということが私には理解できない。今のインターネットに対する嫌悪感と同じく、デジタル複製に対する権利者の嫌悪感が当時先に立ったのかも知れないが、今から思えばバカバカしい話である。
 以下で述べるアクセスコントロールと組み合わせた技術ではないので、SCMSを破ることは容易だろうが、CDからMP3データへの直接録音が可能となってしまっている現在、MDからの再コピーに需要はなく、わざわざSCMS破りをしている者はほとんどいないのではないかと思われる。(なお、SCMSはデータを受ける側の録音機器のみで対応するため、CDからのMP3データへの直接録音はSCMSを回避していることにはならない。)

・CGMS(Copy Generation Management System):
 DVHSやDVDレコーダーなどに用いられている、出力信号にコピー制御信号を付加することで、デジタル複製を「複製禁止」、「一世代のみ複製可能」、「複製自由」の3通りに抑制する技術である。
 出力がCGMSで複製禁止にされている場合、デジタル機器(DVHSやDVDレコーダなど)で録画しようとしても、自動的に停止するなどして録画できないが、VHSなどのアナログ機器は影響を受けない。(地上デジタル放送でもコピーワンスの維持のためにアナログ出力などにこのCGMSが使われている。)

 このCGMSはそもそも暗号化できないアナログ信号に信号を付加しているだけなので、解除は比較的容易である。(それなりに知識があれば、自分でコピー制御信号を除去する回路などを組めるだろうし、アングラなものとなるが、コピー信号除去機器を比較的容易に手に入れることもできる。)しかし、回避機器がアングラなものとなっていることもあり、比較的技術的なことに詳しいユーザーが手を出しているくらいだろう。

 何にせよ、このように初期の規格でコピー制御信号をこの3種類としてしまったことが後々まで響いていて、結局過去との互換性を問題にする限り、これ以外のコピー制御はやりようがない。そのため、コピーワンスの検討で出てきた「ダビング10」も実にトリッキーな規格となっている。つまり、アナログ出力のデジタルコピーについては「一世代のみ複製可能」とせざるを得ず、オリジナルコピーがHDDにある限り、アナログ出力のデジタルコピーはいくつでもできるようにせざるを得なくなっているのである。

 なお、どうしてCGMSがほぼ全ての録画機器に搭載されているのかの理由はよく分からなかった。行政指導があったという情報も探し出せなかったので、コンテンツ業界とメーカーの間の自主規制なのだろう。

・マクロビジョン:
 マクロビジョンは、映画のビデオテープなどに用いられ、複製をしても鑑賞に堪えられないような乱れた画像とする技術であるが、原理的には録画時の明るさを自動調整する機能を誤動作させる信号を出力信号に付加するものなので、これも信号付加型のコピーコントロールの一種であると考えて良いだろう。(法律との関係は次回に。)
 このマクロビジョンもアナログ信号の話なので、解除は比較的容易であるが、やはり回避機器がアングラなものとなっているので、技術的なことに詳しいユーザーしか手を出していないだろう。

(2)アクセスコントロール(コピーコントロールとの組み合わせも含む)
 アクセスコントロールとは、要するにスクランブルのことで、データの暗号化によって、特定の者・機器以外のアクセスを妨げるものである。

 機器の汎用化が進み、ユーザーが直接コピー制御信号へアクセスしてその書き換えをできるようになった時点でそのコピー制御信号は意味がなくなるので、結局、コピーを制御するためには、暗号化によってデータ(コピー制御信号)そのものへのアクセスをコントロールするしかない。(いたちごっこの話なので、ここでいくらモラルを言っても始まらない。)
 主なものには以下のようなものがある。

・CSS(Content Scramble System):
 DVDに用いられているもので、ファイルデータを暗号化(スクランブル)し、ディスクに付いている暗号鍵を用いてスクランブルを解かない限り、再生できないようにしている技術である。
 DVDのディスクをPCで覗いてみれば、いくつかのファイルがあることが分かると思う。いくらCGMSで複製不可としたところで、ビデオ出力でないファイルアクセスには関係ないので、その信号毎ファイルをコピーされてしまったら意味がない。そのため、DVDのディスクには全て別の暗号鍵がついていて、ファイルはコピーできるが暗号鍵はコピーできないような仕組みになっており、DVDのファイルをそのまま他のDVDに焼いても正しい映像は見られないようになっている。

 しかし、DVDに書き込まれている暗号鍵を使って暗号を解除するソフトが既に開発され出回ってしまっていることも事実であり、CSSはもはや実質的にコピーガードの用をなしていない。それでも、ヘビーユーザーはさておき、映像の繰り返し視聴に対するニーズが低いこと、DVDの大容量性からデュプリケーションのかなりの手間がかかること、DVDの複製に対してそもそも心理的抵抗感があることから、多くの一般ユーザーはわざわざアングラなソフトをダウンロードして複製をしたりするより、DVDをレンタルする方を選んでいるのではないかと思われる。

・B-CAS(BS-Conditional Access System):
 B-CASは、その名にBSを冠していることからも分かるように、そもそもBSの有料放送のために採用されたものであった。
 有料放送では、料金を払った者のみに視聴を許すということをしなければならないため、当然のことながら、カードでユーザーを特定して料金を支払わない者の視聴を止めるということをしなければならない。カードを差せる条件として、機器のDRMの挙動も強制できるが、B-CASの本来の機能から考えると、それはどちらかと言えばついでの機能である。(これが大した検討されずに日本の全テレビに入ることにされてしまったことが今のコピーワンス問題の発端であり原因である。)
 結局、このB-CASシステムによるコピー制御もB-CASカードそのものを用いたコピー制限解除機器(friio:フリーオ)の登場によって破られてしまった。

・CPRM(Content Protection for Recordable Media):
 CSSはディスクの暗号鍵のみを使ってデータを解除していたため、一旦破られると対処のしようがなくなったが、CPRMではさらに複数の鍵を組み合わせ、機器の認証も行うことで、暗号を強固なものとするとともに、破られたときの対処も可能としている。
 B-CASカードで解除されたコンテンツは、このCPRM対応のディスクにのみ書き込み可能とされており、CPRMはコピーワンスの一翼を担っている技術でもある
 既に破られたとの報告もあり、コンテンツ業界とメーカーが対策を講じるのではないかとも思われる。しかし、この対処は暗号解除に使われる不正な機器の暗号鍵を使えなくするというもので、正規の機器から暗号鍵が漏れている場合、その機器でも録画ができなくなってしまう。その対応コストを考えると、この対策自体かなり非現実的なものだろうが、コンテンツ業界とメーカーがどうしてくるかは分からないので注意が必要である。

・AACS(Advanced Access Content System):
 Blu-rayやHD-DVDに採用されている技術で、さらに鍵の数が増え、暗号自体も強固になっている。
 HD-DVDの一部のソフトで解除されたとの報告もあったが、既にその対策も取られており、まだ当分、AACSについてはいたちごっこが続くのではないかと思われる。

 また、iTunesに使用されているFair Playや、Windows Media Player DRMも、アクセスコントロールとコピーコントロールを組み合わせてそれぞれのDRMを実現しているものと思われる。

(4)その他
 CCCDについて文句を書き出せば切りはないが、コピーして行ったときにエラーとなるデータセクタを挿入したりするものなので、上の定義でいうところのコピーコントロールにもアクセスコントロールにも当たらないものと思われる。(PCソフトのROMに使われている技術や、DVD-VideoにCSSに加えてかかっている各種コピーガードも、原理的にはCCCDに近く、コピーコントロールにもアクセスコントロールにも当たらないものが多いと思われる。)

 DRM技術はここにあげただけではないが、書いていくと切りがないので、これくらいにしておく。

 DRMはクラックされる度に騒がれはするが、基本的には新しい技術への書き換えによってクラッカーへの対策はなされるしかなく、結局、一般ユーザーはDRMのクラッキングの騒ぎを横目に見ながら、法規制がどうあれ、自分のモラルで私的複製を行っており、それでほとんど問題は生じていないというのが現状であろう。

 DRMは、常に存在する悪意ユーザーを縛れず、善意の一般ユーザーを縛るのみであるということを忘れてはならない。はっきり言って、いっそのことDRMなんか全て無くして、その開発費で、DRMを無くしたので買って下さいというキャンペーンをした方がよっぽどコンテンツ業界の利益は最大化されるのではないかと私は思っているのだが、まだそこまで状況が煮詰まっている訳でもないので、しばらくはいたちごっこが続くのだろう。

 なお、特に言っておくと、録音機器の登場以降、音楽に関しては、複製を認めないあるいは複製を厳しく制限するフォーマットはほとんど全て成功していない。これはCCCDに欠陥があるとかそういう問題ではなく、単に、新しい録音機器の登場によって、音楽を聞く環境が変わり、レコードやCDなどが、ほとんど複製可能な音源としての意味しか持たなくなったためであると思われる。それに対して、映像のプレースシフト需要は小さかったため、DVDへのCSS採用はそれほど問題にならなかったのだろう。
 要するに、音楽録音の場合はプレースシフト需要が、放送録画の場合はタイムシフト需要が、それぞれの機器と媒体の消費の決定要因となっているに過ぎない。(だからこそ、泥棒理論には気をつけないといけない。)

 しかし、少なくとも、CCCDのように消費者が選択によりノーと言えるものはまだ良いのだが、無料の地上デジタル放送でのコピーワンスのように選択の余地なく押しつけられるものが極めてタチが悪いDRMであることは言うまでもない。(地デジに対する消費者の選択肢は、見るか見ないかしかないので、もう地デジは見ないと考えている層もかなりいるに違いない。)

 さて、このようなことを前提に、次回は、著作権法と不正競争防止法のそれぞれで、DRMに関する規定がどうなっているのかを見て行きたいと思う。

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2007年12月 1日 (土)

第31回:ドイツの知財法改正案(民事手続きにおけるインターネット通信記録の利用)

 第29回で紹介したドイツのSpiegelの記事の中に少し書かれていたドイツの法改正の話が気になったので、今回は、その話を簡単に紹介してみたい。

 記事によると、ドイツでは、知的財産関係法と情報通信法の両方が国会審議にかかり、その内容でもめているようである。

 そのうちの知的財産関係法改正案では、著作権法の第101条に規定されている、民事手続きにおける第3者に対する情報請求権をかなり拡充しており、条件つきで通信関係のデータ提供を求めることも可能にしようとしている。

 しかし、インターネットの通信記録の保存を義務づけようとする通信法改正案では、その第113条でこのデータが利用を刑事事件や国家安全保障上の理由がある場合に限定している。

 これらが両方とも審議にかかった結果、これらは齟齬するものであり、上院にその解消を求めるとする決議を、11月19日に、ドイツ下院が出している。

 ネット記事(ドイツの記事1記事2参照)によると、その後、やはりプライバシーや情報開示請求の乱用に対する懸念が問題になり、インターネットの通信記録に対して個々の企業のアクセスを認めるつもりはないとさすがのドイツ法務相も述べたようで、今のまますぐに改正案が成立することはひとまずなさそうである。(しかし、権利者に甘いドイツ政府が最後どうするかは良く分からないので、また何か続報があれば紹介したいと思う。)

 これはドイツの話だが、ダウンロード違法化を認めた場合の日本の未来図でもある。一旦認められたら、今度はこれに実効性を持たせるために、インターネットの通信記録を直接見られるようにしろと権利者団体が主張してくることは目に見えている。そして、そのような主張に、文化庁なりがまたすぐに耳を貸すだろうことも容易く想像できてしまう。

 日本でも役所の検討では、プライバシーや情報アクセス権(知る権利)、通信の秘密や検閲の禁止といった最も基本的な原理が何故か軽く見られているが、これらは、著作権の保護と比較して、決して軽く見られて良い原理ではない

 今後の日本の著作権法の改正の検討では、ドイツを他山の石として、是非もっと基本的なところからきちんと検討してもらいたいと私は思っている。

 次回からは、DRMに関する法規制の話を書いて行きたいと思っている。

(12月2日の追記:著作権だけが問題であるかのような書き方をしてしまったが、特許侵害品についても同じようにインターネットを通じた取引の問題があり、上の知的財産関係改正法案では、特許法などにも同等の規定を入れようとしている。しかし、ドイツの憲法(基本法)も、情報アクセス権や検閲の禁止(第5条)、通信の秘密(第10条)などを明確に基本権と位置づけており、基本的な権利同士のせめぎ合いという難しい問題を提起することだろう。)

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