第24回:レンタルCD屋の背信
今回は、レンタルCDと私的録音補償金の関係について、少し書いておきたいと思う。
レコードに関する貸与権の創設経緯については、様々なところで書かれているので、詳細は省略するが、要するに、貸しレコード店が昭和50年代半ばに開業されると、レコードを借りては複製して返すという行為が問題となり、すったもんだの末に昭和59年の法改正で、貸与権が創設されるとともに、料率が決定され、レンタルレコード店は晴れて合法の商売になったということである。その料率の決定の際、貸与権の料率は、極めてアバウトに複製権の料率から決定された。(平成19年度第3回私的録音録画小委員会に提出された日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合(CDVJ)の資料参照。)
CDVJの資料に、貸与権創設時に許諾を原則とするといったことが国会の附帯決議で決まったと書かれていることについて、一体、許諾を原則とする許諾権とは一体何かと突っ込みたいところもあるが、ここではおいておく。
なお、この貸与権自体非常にややこしいのだが、レコード(CD)に関して言えば、著作権者(作曲家・作詞家)が有している権利が許諾権で、著作隣接権者(実演家・レコード製作者)が有している権利はレコード販売から1年間の許諾権と、それ以降(49年間)の報酬請求権となっていることにも注意が必要である。
また、CDVJの代表は、この第3回私的録音録画小委員会の中で、利用者等との契約には私的複製に関する記載はなく、レンタルCDの料金に複製対価が入っているとは契約上は認められないとも言っており、その通りに、文化庁の中間整理にもまとめられている。
ここまでは確かに一面的ではあるが事実に違いない。
だが、何故か、文化庁の中間整理からは、この第3回私的録音録画小委員会で委員から明確に指摘されたもう一面の事実、CDVJの私的録音録画補償金に関する過去の見解と、レンタルCD店がレコード協会に認めた実質的な料率値上げである需要拡大協力金の話が、明らかに恣意的に落とされているのである。(第3回小委員会の議事録参照。)
まず、CDVJのホームページをインターネットアーカイブで見ると、確かに、4月10日までは、その「レンタルと著作権」という項目の中に、
「◇しかし、私的録音補償金制度が導入された現在、各権利者はユーザー及びレンタル店双方からコピーに関する代償を二重に受け取っていることになるため、CDレンタル使用料の早急な見直しが必要です。
CDレンタルに関する使用料がユーザーのコピーの代償という観点から決められた経緯からしますと、平成5年に私的録音補償金制度(※本文後段にて解説)が導入され、デジタル式のハードやソフトを購入するユーザーが各権利者に対してコピーに関する補償金を支払うシステムが構築されたことにより、各権利者はユーザー及びレンタル店の双方から、そのコピーに関する補償金を受取っていることになります。よってCDVJでは早急な使用料の見直しが必要であると考えております。 」
と書かれているのだが、これが何故か、5月21日には消されているのだ。(ちなみに今も消えたままである。)
5月10日が第3回の私的録音録画小委員会だったので、そこでヒアリングされるからと言って、そこでレンタルCDからの私的録音も補償金の対象と言いたい権利者におもねるために消したのか。ホームページは消えても記録は残っている。本当にそんなことを考えて直前になってこの記載を消したとしたら、これは、消費者・ユーザーを馬鹿にした実に愚かな行為としか言いようがない。
そして、4月21日には、需要拡大協力金という形で、レコード会社に対する実質的な使用料の値上げに応じたということも報道されている。(CDVJの記事と日経の記事参照。)
CDVJが自ら引用している記事にも、「レコード会社も、レンタルCDから携帯音楽プレーヤーにコピーする利用者が急増しており、販売不振の一因になりかねないと警戒していた。」と書かれているくらいで、語るに落ちた感があるが、これでも、レンタル料金は私的複製の実質的な対価ではないと、ヒアリングで暗に言い切っているのは、明らかな自己矛盾であろう。
レンタルCD屋が権利者団体の理屈なき圧力に屈したというだけのことかも知れないが、レンタルCD屋は、独占禁止法違反の陰すらちらつく、このような圧力に屈するべきでは決してなかった。きちんと消費者やユーザーの声を聞いて行動するべきであった。一体、どれほどの人間が私的複製をすることを想定せずにCDを借りるというのか、実質的にその後の私的複製のことまで考えてレンタルしていないとしたら、一体あの料金はなんだというのか。
はっきり言って、単に一日から一週間なりCDを聞くだけの料金ということであれば、現行の料金すら高い。レンタルCD屋が、その後の私的複製のことは知りません、私的録音補償金で対応して下さいということであれば、そもそもCDの値段が硬直的なのであるから、ホームページに書かれていた通りの理屈で料金引き下げ交渉のみに応じるべきだった。そうすれば、私的録音録画小委員会でも、はっきりと従来の立場を貫くことが出来、消費者代表らに上のような矛盾した行動を指摘されて、不信を招くこともなかっただろう。
それを勝手に権利者団体におもねり、ホームページの記載をヒアリングの直前に削除し、さらには、需要拡大協力金という形で著作権料の値上げにまで応じるとはどういうことか。そのようなことをしているのであれば、法律や契約はどうあれ、消費者・ユーザーから見たときには、なおさら、レンタルCD屋の料金には私的録音分の対価も含まれているとしか思えないではないか。
要するに、レンタルCDとの関係をどうするかということをほとんど考えないままに補償金制度を導入してしまったことからしてそもそも間違っていたのだ。
私的録音録画補償金制度導入を決めた第10小委員会の報告書でもはっきりと、
「なお、この点に関連して、貸レコード業者については、放送局やレコード会社に比べて、その提供するレコードが私的録音に利用される可能性が高く、現に、貸与権成立の経緯から、これらの業者の支払っている使用料等は、実質的には貸レコードの利用者による私的録音を勘案しながら定められているのではないかとの考え方もあり、貸与と私的録音とは別の利用態様であるとしても、今後の実態を良く踏まえながら、報酬請求権制度との関わりあいを整理すべきであるとする意見があった。」
と書かれており、まさにこのことが今整理されるべきことなのである。
私的録音録画補償金について、折角、文化審議会で廃止も含めた抜本的な検討を行っているのであるから、権利者団体におもねっているだけのレンタルCD屋の適当なごまかしのみを中間整理に載せるようなことをせず、国民が本当に納得できる形で、法律・契約上の対価のみではない実質的な対価と、私的録音録画補償金の関係や、ビジネス的に事業者同士の間でやりとりされる著作権料と、私的録音録画補償金の間の関係をきちんと整理してもらいたいと、私は心から思う。原則から言えば、私的複製との密接な関係を考えると、レンタルCDからの私的録音を大した整理もせずに補償金の対象と考えることなど、そもそもあってはならなかったのだから。
それにつけても、レンタルCD屋とレコード会社の、消費者・ユーザーを無視した背信行為については、徹底的に糾弾されてしかるべきである。このことが本当に広く知られるようになれば、レンタルCD屋とレコード会社が謝罪してその撤回をするまで、消費者・ユーザーによるCDの不買・不借運動が起きてもおかしくない。これはそれくらい重大な背信行為である。
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