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2007年11月 9日 (金)

第19回:文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会提出パブコメその1

 文化審議会・著作権分科会・私的録音録画小委員会の中間整理への意見をようやく書き終わって提出したところである。誰かの参考になるかも知れないので、ここにその全文を載せておこう。

 あまりにも長いので、3回に分ける。まずは、今まで書いてきたこととかなり重複するが、国際動向に関するところまで。

1.個人/団体の別:個人
2.氏名:兎園
3.住所:(略)
4.連絡先(電話番号、電子メールアドレスなど):

5.該当ページおよび項目名:
(1)「6ページ~、第1章第2節私的録音録画補償金制度の制定経緯について」
(2)「11ページ~、第2章第1節私的録音録画の現状について」
(3)「59ページ~、第5章違法サイトからの私的録音録画の現状について」
(4)「78ページ~、第6章第1節 ヨーロッパ連合(EU)」
(5)「80ページ~、第6章第2節 ドイツ」
(6)「86ページ~、第6章第4節 イギリス」
(7)「87ページ~、第6章第5節 アメリカ合衆国」
(8)「90ページ~、第6章第6節 その他の国」
(9)「95ページ~、第6章第7節 世界知的所有権機関(WIPO)」
(10)「97ページ~、第7章第1節 私的録音録画の検討にあたっての基本的視点について」
(11)「100ページ~、第7章第2節 著作権法第30条の見直しについて」
(12)「110ページ~、第7章第3節 補償の必要性について」
(13)「123ページ~、第7章第4節 補償措置の方法について」
(14)「126ページ~、第7章第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について」
(15)「143ページ~、参考資料1~3」
(16)報告書全体

6.意見
(概要)
この中間整理は法改正の前提とするにはあまりにずさんである
したがって、ダウンロード違法化、適法配信の30条からの除外、iPodやHDD録画機等への補償金の対象拡大という、この中間整理に示された3点の法改正の方向性に全て反対する
今後は、このようなずさんな整理を全て改め、真の国民視点に立った有益な検討がなされることを期待する

(1)「6ページ~、第1章第2節私的録音録画補償金制度の制定経緯について」に対する意見:
 第10小委員会報告書(http://www.cric.or.jp/houkoku/h3_12/h3_12.html)には、私的複製は本来自由かつ無償であったこと、及び、補償金制度は私的録音録画の自由を確保する代償であることが明記されており、制度導入時、権利者の利益保護のみに重点があったかの如き引用は公平性を欠く。
 特に、最終整理では、このような公平性を欠く引用に替え、第10小委員会報告書からは、以下の記載を制度創設の趣旨として引用するべきである。
「第4章 報酬請求権制度の在り方
 私的録音・録画問題とは、権利の保護と著作物等の利用との間の調整をいかに行うか、言い換えれば、現行第30条の規定している私的録音・録画は自由かつ無償という秩序を見直すかどうかという問題である。
(中略)
 報酬請求権制度を我が国の著作権制度の上でどのように位置付けるかという問題については、私的録音・録画は、従来どおり権利者の許諾を得ることなく、自由(すなわち現行第30条の規定は維持)としつつも、一定の補償(報酬)を権利者に得さしめることによって、ユーザーと権利者の利益の調整を図ろうとするものであり、私的録音・録画を自由とする代償として、つまり、権利者の有する複製権を制限する代わりに一種の補償措置を講ずるものであると位置付けることが適当である。
この考え方は、
1) 制度の見直しによる新しい秩序への移行について国民の理解が得られやすい考え方である、
2) 制度導入の理由として、私的録音・録画によって生ずる権利者の得べかりし利益の「損失の補償」という理由付けをとるとしても、現行法立法当時には「予測できなかった不利益から著作者等を社会全体で保護する」という理由付けをとるとしてもいずれにしても、なじみやすい考え方である、
3) あくまでも補償措置の一種であるから、個別処理の方法ではなく、後述の録音・録画機器又は機材の購入と関連付けて、包括的な報酬支払方法をとるという議論ともなじみやすい考え方である 」

(2)「11ページ~、第2章第1節私的録音録画の現状について」に対する意見:
 私的録音録画補償金管理協会という補償金を徴収する立場にある者が、明らかに補償金制度拡大を目的として行った調査を、公平であるべき審議会の報告書に引用するべきではない。最終報告からは、これらの調査報告は全て削除されるべきである。
 注釈の7に、言い訳のように管理協会の理事にメーカー代表や消費者代表が入っていることが書かれているが、ネットの記事(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/30/news125.htmlhttp://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/10/12/17169.html)を見ても明らかに中間整理についてメーカー代表や消費者代表の賛同が得られておらず、この調査が偏ったものであることは明白である。
 審議会で私的録音録画の現状を把握するにあたっては、少なくとも審議会の私的録音録画小委員会の委員全員が納得する形で調査項目・調査方法を設定し、現状調査をするべきである。

 念のために指摘しておくと、以下のような記載に恣意性があからさまに出ている。
・12ページ、「・・・現行の補償金制度の対象となっていないデジタル録音機器も相当程度普及している実態が伺える。」:前に記載されている機器が補償金制度の対象であるべきかどうかということが問われているにもかかわらず、あたかも補償金制度の対象であることが前提であるかのように、対象となっていないことが強調されている。
・19ページ、「パソコンやポータブルオーディオはもともと大容量の記録能力を持つ機器であるところから、多くの楽曲が録音されている実態が分かる。」:特に、ポータブルオーディオで行われている複製などは、プレースシフトも多いと思われるが、録音録画がどのようなものであるかということを問題にせずに、単に多く録音されていることのみが強調されている。
・21ページ、「デジタル録画に関しては、現在補償金制度の対象となっていない機器での録画行為が相当程度行われていることが分かる。」:12ページについてと同じく、あたかも前に記載されている機器が全て補償金制度の対象であるべきような強調がなされている。
・22ページ、HDD内蔵状況:これらの機器はDVDレコーダーとして課金されている。ここでこのような図を入れることは、あたかも課金されていない部分が増えていると人を騙すために入れているとしか見えない。
・23ページ、録画媒体需要推移:参考としてデータ用DVDを入れているが、データ用DVDを録画調査の図に一緒に入れることは妥当でない。
・25ページ、録画の経験と頻度:単純に比較できないとしながら、録画の頻度、経験が高まっているとすることは間違っている。
・26ページ、「「興味ある番組やその一部を保存するため」(約81.9%)と、保存目的の録画も経験率が高い。なお、平成17年録画調査における録画の理由の調査結果と比較すると、特に保存目的の録画経験者の割合が高まっている。」:恣意的な調査項目の変更による異常値と思われる。

(3)「59ページ~、違法サイトからの私的録音録画の現状について」に対する意見:
 この調査も、ダウンロード違法化を目的として、権利者という一方当事者が行った調査であり、公平であるべき審議会の報告書に引用するべきものではない。これらの調査報告は全て削除するべきである。
 特に、違法サイトとは何かについて、サイトやパソコン自体が違法な訳ではないと注釈で書かれているが、違法サイトとは誤解を招く表現であり、報告書を通じて使用されるべきではない。

 念のため、この調査についても特に恣意的な記載を以下に指摘しておく。
・59ページ、ファイル交換ソフトの利用率:過去に利用していた者を含めて、あたかも利用者が増えているかの如き数字による印象操作を行っている。利用率ということでは現在の利用率のみを考えるべきなのは言うまでもない。61ページについても同様であり、過去経験者は累積されるため、増えるのは当たり前である。
・66ページ、ダウンロード数の比較:世の中にはコピーフリー・あるいは黙示の許諾により提供されている楽曲もあり、ダウンロードされる音楽があたかも全て違法であるかの如き比較は妥当でない。
・71ページ、違法な携帯電話向け音楽配信からの私的録音の現状:調査結果の概要では勝手に違法な携帯電話向け音楽配信という語を「違法サイト」にしているが、誤解を招く表現である。特に、音楽を無料でダウンロード出来るサイト、すなわち違法サイトというのは間違っている。世の中には、インディーズ系のミュージシャンが自ら開設したサイトや、音楽以外の物のプロモーションのためのサイトで、期間を限らずに無料で音楽をダウンロードできるようにしているものもあり、この調査結果は全く信頼できない。

(4)「78ページ~、第6章第1節 ヨーロッパ連合(EU)」に対する意見:
 EU理事会指令公表後のEUの動向として、欧州の補償金改革について極簡単にしか触れていないが、この補償金改革についてはネットでも膨大な資料が公開(http://circa.europa.eu/Public/irc/markt/markt_consultations/library?l=/copyright_neighbouring/stakeholder_consultation&vm=detailed&sb=Title)されており、このような資料を丹念に検討して本当の国際動向を確かめるべきである。
 特に、この検討の中で提出された、欧州のメーカー団体が集まって作っている補償金制度改革協議会(Copyright Levies Reform Alliance)の資料(http://ec.europa.eu/avpolicy/docs/other_actions/hearing%20col/eicta_clra_hear_col_2006_en.pdf)や欧州消費者組合(Bureau European des Unions de Consomateurs)の意見書(http://circa.europa.eu/Public/irc/markt/markt_consultations/library?l=/copyright_neighbouring/stakeholder_consultation/europeen_consommateurs/_EN_1.0_&a=d)を見ると、世界的に見ても明らかに補償金制度は消費者とメーカーに反対されているのであり、このような真の国際動向について、最終報告には明記されるべきである。

(5)「80ページ~、第6章第2節 ドイツ」に対する意見:
 ドイツの補償金制度改革について、極簡単にしか記載されていないが、ドイツではありとあらゆる複製機器に補償金がかかり得るため、裁判で補償金の有無や多寡を決めるしかなく、この補償金に関する裁判闘争が最高裁まで行くほど泥沼の様相を呈し、かつその結果として出される補償金額に根拠はないという状況の中、81ページに書かれているように、5%の上限規定を入れようとするなど、ドイツでも補償金は合理化に向けた努力がなされているという真の動向について、最終報告には明確に記載されるべきである。
 また、ドイツにおいては、研究目的の私的複製や絶版物の私的複製についても、私的複製の権利制限の範囲内であることが法律に明記されており、日本の私的複製規定と同じ扱いをする訳にいかないことも明記されるべきである。

(6)「86ページ~、第6章第4節 イギリス」に対する意見:
 イギリスにおける私的複製の規定は、研究・学習目的イギリスにおいても、CDリッピングのような私的複製の権利を認めるべきとする意見(http://journal.mycom.co.jp/news/2006/10/30/001.htmlhttp://www.ippr.org.uk/members/download.asp?f=%2Fecomm%2Ffiles%2FPublic%5Finnovation%5Freport%5Ffinal%2Epdf参照)があることも紹介されるべきである。
 また、イギリスでは、このようにタイムシフトを目的とした私的複製の権利制限を認めながら、補償金制度はないため、私的複製の権利制限、すなわち補償金ではないこと、特にタイムシフトは補償を必要とする複製ではないことが国際的に認められていると考えられることを、最終報告には明記するべきである。
 
(7)「87ページ~、第6章第5節 アメリカ合衆国」に対する意見:
 以下のような恣意的な記載は、最終報告からは削除されるべきである。
・87ページ、「なお、同法は、汎用コンピュータやその関連の機器・記録媒体は対象とされていないが、これは、同法制定当時、コンピュータを介して音楽を録音する行為を想定していなかったためである。」:アメリカでは今もなお汎用コンピュータ等の機器に対する課金は検討されておらず、対象とされることが当然であるかのような印象を与える記載は不適切である。

(8)「90ページ~、第6章第6節 その他の国」に対する意見:
 その他の国として、補償金制度がある国のみをあげており、明らかに国の選択に恣意性が見られる。特に、中国や韓国のようなアジア諸国の私的複製・補償金制度に関する規定とその法改正動向についても記載されるべきである。
 また、スペイン等の諸国についても、権利制限に関する元の条文をきちんと翻訳で示すべきである。例えば、スイスでは、企業内の閉鎖的な複製が私的複製の権利制限の範囲に明確に入っていることも参考になるであろう。
 最終報告では、国際動向について、より詳細かつ広汎な調査が記載されるべきである。

(9)「95ページ~、第6章第7節 世界知的所有権機関(WIPO)」に対する意見:
 WIPOのホームページに載っている著作権テキスト(http://www.wipo.int/freepublications/en/copyright/935/wipo_pub_935.pdf)の第53ページには、クラスメイトのCDから自分のMP3プレーヤーにコピーすることは違法と書かれており、世界的に見て必ずしも、友人から借りたCDからの複製が適法とされている訳でないことも参考情報として書かれるべきと思われる。

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