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2007年11月27日 (火)

第29回:フランスのネット配信拡大包括策

 フランスが音楽・映画ネット配信の拡大に関する包括策をまとめたという記事(日経の記事、フランスでのネット記事(01netZDnet)、ドイツでのネット記事(Spiegel)など)があった。
 この包括策はフランスで今すぐ法改正や規制緩和をするという話ではないのだが、政府も含め、関係者が取り組むべきことをまとめているという点で、フランスが取る方向性が明確に出ている。日経の記事は必ずしも正確に情報を伝えていないので、今回は、ちょっとこの包括策の紹介をしてみようかと思う。

 この包括策に関しては、フランス文化通信省のHPに関係ファイルがまとめられており(HPサルコジ大統領の演説文関係者の合意文)、その中の合意文を読むと大体以下のようなことが今回まとめられたことが分かる。(逐語訳にしようかとも思ったが、それほどの内容でもないので、以下は私が勝手に抄訳したものであることをお断りしておく。)

1.政府が取り組むこと
-インターネットで著作権侵害をする気を削ぐことを目的とした注意と罰則のメカニズムを導入するよう、国会に法案を提出し、規定の手段を取る。
 このメカニズムは、知的財産法第335-12条で規定されているアクセスの悪用に関するユーザーの責任を現地としており、個人の権利と自由を保障するよう、裁判所の下に置かれる公的機関が主導する。公的機関は、権利者の訴えにより、アクセスプロバイダを通じて、注意喚起の電子メールをユーザーに送る。それでも権利を無視する行為が繰り返された場合、インターネットへのアクセスを禁止するという手段を取る。

-この公的機関は、その命令に従わないアクセスプロバイダに対して罰を与えることが出来る。

-この公的機関は、裁判所のコントロール下で、オンラインサービスから引き起こされる損害を予防あるいは停止するために適したあらゆる手段の採用をプロバイダ等に求めることが出来る。

>国家情報自由委員会の元で、上の目的のためにユーザー国家台帳を作る。

>音楽、映画等の違法なネット流通の量を示す指標を毎月公表する。

>全体として文化財と文化サービスに対する消費税を下げることを欧州連合に求める。

2.映像、映画、音楽の権利を有する者並びに放送局が取り組むこと
>フィンガープリントあるいはウォーターマークといった内容認識技術を推進するために、プラットホーム屋と協力する。

>注意と罰則のメカニズムが動き始めたら、DVDに加えて映像配信のウィンドウをきちんと開くことに同意する。

>注意と罰則のメカニズムが実質的に動き始めてから長くても1年以内には、文化通信省の元で、映画作品の素早い配信や配信ウィンドウのスムースな導入を目的としたメディア年鑑を作る議論を開始する。

>映画作品の体系的な配信を進めるべく最大限の努力を払う。

>放送番組を配信し、放送後のオンライン利用を加速するよう最大限の努力を払う。

>注意と罰則のメカニズムが実質的に動き始めてから長くても1年以内には、DRMなしで買える配信音楽作品のカタログを入手可能とする。

3.プロバイダが取り組むこと
>アクセスプロバイダは、

-メカニズムの枠内で、注意喚起のメールを送り、罰則の決定を実行に移す。

-この合意の署名から24ヶ月以内に、権利者と協力してフィルタリングの実験に関して協力を進め、結果が納得できるものかどうか、コストは現実的なものになるかを示す。

>プラットフォーム屋は、

-短期間で、効果的なフィルタリング技術を一般化する。

-そのような技術が体系的に採用されるときの条件を決定する。

参考条文
Article L335-12
<<Le titulaire d'un acces a des services de communication au public en ligne doit veiller a ce que cet acces ne soit pas utilise a des fins de reproduction ou de representation d'oeuvres de l'esprit sans l'autorisation des titulaires des droits prevus aux livres Ier et II, lorsqu'elle est requise, en mettant en oeuvre les moyens de securisation qui lui sont proposes par le fournisseur de cet acces en application du premier alinea du I de l'article 6 de la loi no 2004-575 du 21 juin 2004 pour la confiance dans l'economie numerique.>>

フランス知的財産権法第335-12条
「2004年6月1日の情報社会の信頼のための法律(2004-575号)の第6条の第1段落の適用を受けて、アクセスプロバイダからセキュリティ手段を用いつつ求められたときには、オンライン公衆通信サービスへのアクセス所有者は、この法律の第1章と第2章に規定されている権利の所有者の許可を得ない形での作品の複製の目的でそのアクセスを使わないようにしなければならない。」

 どこまでDRMなしの音楽配信がされるのかよく分からないこと、映像についても何がどれくらい配信されようになるのかがよく分からないことなどを記事も批判している。消費者団体も既にこの包括案を批判しているともネット記事は伝えている。(フランスでも著作権に関する限り消費者は劣勢である。なお、日経の記事は、映画についてもDRMを無くすことが合意されたかのように読めるが、DRMなしと努力されるのは配信される音楽のみであり、実はその範囲がどこまでなのかもよく分からないというのが正しい。)

 権利者団体がとりあえず署名できるようにしたのだろうが、これも今後の取り組みを書いているだけで、著作物の違法合法を本当にどう決めるのか、共用のアクセスポイントをどうするのか、通信の秘密や情報アクセス権をどう考えるかなど、ちょっと考えただけでも課題は山積みであり、実際には、法改正の検討のどこかでつまづくのではないかと思われる。

 しかし、この合意から、フランスが、フィルタリング技術の採用と組み合わせて、違法ユーザー対策をインターネットアクセスの禁止というレベルに落とそうとしていることが見て取れるのは大変興味深い。

 合意に関することは大体以上なのだが、サルコジ大統領の演説文もフランスらしいもので非常に面白いので、余談に近くなってしまうだろうが、次回は、この合意に関する批評の続きとして、大統領の演説文の紹介をしてみたいと思う。

(注:また間を空けて確認したいと思っているが、今、何故かフランス文化通信省にアクセス出来なくなっている。)

(11月27日夜の追記:今はもうフランス文化通信省にアクセス出来るようである。なお、よその国の話なので、興味深いで済ませているが、要するに、この提案は、政府による著作権大検閲機関の創設なので、ナンセンスも良いところである。インターネットと音楽というのを、ファックスと文章に置き換えてみれば、これは、ファックスで著作権侵害の恐れがあるから、政府が国内のファックスを全て傍受して、問題があれば電話を止めると言っているのに等しい。電話なら誰もがアホかと思うが、インターネットだと政府レベルでこのようなことを平気で言うのは不思議なことである。日本の馬鹿な役人がフランスと同じことを言い出さないことを心から願っている。)

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