第17回:著作権国際動向その5:イギリスとアメリカ(フェアディーリングとフェアユース)
今回は、イギリスとアメリカについて簡単に調べたことをまとめておきたい。
(1)イギリス
イギリスにおける私的複製の規定は、文化庁の中間整理にもある通り、研究・学習あるいはタイムシフト目的のみと極めて狭いが、このような狭い規定では、既に時代遅れであり、私的複製の権利をもっと認めるべきという研究(記事、IPPRのHP、概要、本文)も出されている。
また、イギリスでは、このようにタイムシフトを目的とした私的複製の権利制限を認めながら、補償金制度はない。
そのために国際的に非難されている訳でもないことを考えれば、私的複製の権利制限、すなわち補償金ではないこと、特にタイムシフトについては国際的に見ても補償を必要とする複製ではないことが認められていると言っても差し支えないだろう。
(2)アメリカ
アメリカのフェアユース規定そのものについては様々な人が書いているので譲るとして、ベータマックス訴訟の判決文は少し探すのが面倒かも知れないのでここにリンクを張っておこう。この判決文には、ビデオ録画機を間接侵害で違法というなら、権利者側が実害を示すべきであるが、実害は示されなかったという至極まっとうなことが書いてある。そして、このような判決があるため、アメリカでは今も録画補償金はレコーダーにかけられていない。また、プレースシフトのように、自分で聞くためという限りにおいて、CDからiPodに音楽を複製することも、アメリカではフェアユースと判断される可能性が高いためであろうか、あるいは、アップルが既にビジネス的に音楽業界と手を結んで成功しているためであろうか、iPodに補償金をかけようとする動きはアメリカには無い。実際、アメリカでこれをかけて欲しいと権利者団体が言い出しても、消費者の反発と裁判合戦で滅茶苦茶になったあげく、結局補償金をかけられないという結果になると思われる。
なお、文化庁の中間整理の参考資料ではわざわざタイムシフトはフェアユースに当たらないとする少数意見を特に引用しているが、これまた恣意的な引用である。
また、最近、アメリカで話題になっている著作権がらみの二つの裁判を紹介しておきたい。
一つは、P2Pでファイル交換を行ったとしてユーザーが訴えられ、22万ドルの損害賠償が認められた事件である(cnet japanの参考記事1、記事2、記事3)。
賠償金額の大きさもさることながら、記事に書かれているように、法廷が「これはあなたのアカウントなので、あなたに責任がある」と判示したとしたら、これも大問題であろう。アカウントを不正に乗っ取られた可能性もあるし、技術的なことに詳しくないためにPCを踏み台にされた可能性もあり、アカウントの責任をその所有者に持たせるのがあまりにも酷であることは技術に詳しい者ならすぐに分かるだろう。
上の参考記事にも書いてあるが、全米レコード協会(RIAA)は実に2万6000人ものユーザーを訴えているらしい。アメリカでは、RIAAが自らP2Pでファイル交換を行う者をおとりとしてユーザーのあぶり出しを行っているという話(japan.internet.comの記事参照)もあることを考えると、アメリカでも、このような訴訟は増え続けることだろうが、これだけのユーザーを犯罪者として訴えて、なおかつP2Pユーザーが減っているとも思われないのだ(internet watchの記事参照)。
実際、権利者団体もP2P技術そのものが悪い訳ではないことをもっと知ってしかるべきだろう。インターネット上のホームページやメールと、P2Pの間にそれほど大きな技術的隔たりがある訳ではない。
インターネットによって情報の流通コストが劇的に下がり、ユーザーと事業者が情報流通という点でほとんど同じ所に立つ中、既存の流通チャネルの独占によって利益を得て来た事業者と、ユーザーとがどう折り合いを付けるのかということがそもそも今問われているのだが、この問題が知財の問題にすり替わってしまっているために、ややこしいことになっているのだ。今のところは世界的に見ても、知財(著作権)の保護強化を行うことで、これを解決しようとしているようだが、ユーザー間の情報のやりとりを制限することは最後は不可能であり、著作権法がユーザーにとって守れないくらいに強化されてしまったら、モラルハザードによって著作権法は存在しないのと同じことになってしまうだろう。
ダウンロードを明確に違法化したら、日本でも権利者団体が同じようなことをやってくるだろうことは想像に難くない。民事であれ、あたかもファイル交換そのものが悪であるかのような印象操作を行った上で、ユーザーを訴えるのはユーザーにとって極めて酷だろう。
ユーザーにとって本当に必要なのは、このような権利者団体による訴訟に対して、その勝敗にかかわらず、被告が負うのは損害賠償のみで、訴訟費用は全て権利者団体が出すといったような何らかのセーフハーバーだろう。アメリカでは、そのような判決もわずかながらあるようだ(cnetの記事)が、まだ、世界的に見てもこのようなユーザー保護策が十分に検討されているとは言い難い。
さて、もう一つ注目すべき訴訟は、テレビから流れる楽曲に乗って踊る子供の映像をユーチューブから削除したのは権利者によるノーティスアンドテイクダウンの乱用だといって、その母親が訴えたものである。(英語の参考記事1、記事2)
論理的には著作権者が複製権を持っているために削除出来ることは妥当といえば妥当なのだが、この訴訟もまた、多くの示唆に富んでいる。何ら著作権を侵害する意図なく投稿された、赤ん坊が踊っているだけの動画を、その本質的でない部分であるBGMの著作権に基づいて削除するのは、実際、誰が見てもどうかと思うだろう。フェアユースの良いところは、裁判になりはするが、権利の乱用に対する抗弁が容易になるところである。アメリカでは、ビデオのリミックスに関するフェアユースガイドラインの提案もされており、このようなことはフェアユースがなければ出てこないだろう。
これらの裁判は、その判例によりアメリカの著作権法がまた書き変えられることになるかも知れないので、著作権法の国際動向という点では、アメリカからも目は離せない。
(3)その他
WIPOのHPには、著作権法に関する簡単なテキストが載っている。
このテキスト自体は読めば分かるものだが、第53ページに、「Making a copy of your classmate’s CD for your MP3 player: クラスメートのCDからあなたのMP3プレーヤーにコピーすることは:」という質問があって、回答を見ると、「illegal 違法」となっている。
日本では、一応友人から借りたCDからのコピーは合法ということになっているので、これを見ても、著作権が完全にモラルの世界に足を踏み入れていることが分かるだろう。CDの貸し借りの違法化も所詮モラルの問題であるため私は賛成しないが、まだ外形的に区別が付くだけましで、ダウンロード違法化はこれよりさらに問題が大きいように思えてしかたがない。
また、カナダではネット配信への課金を検討しているという記事もあったので、これもリンクを張っておく。ここまで来ると訳が分からないが、残念なことに、とにかく金さえ取れれば何でも良い権利者団体がこのような主張を日本でもして来ることは容易く想像できてしまうので、何でも用心しておくに越したことはない。
次もまた、インターネットと著作権の問題について、私なりに調べたり、考えたりしたことを書いてみたいと思っている。
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