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2007年10月23日 (火)

第8回:文化審議会著作権分科会パブコメ準備(後編:私的録音録画補償金問題)

 パブコメ準備の一貫として私的録音録画補償金問題についての考え方を簡単にまとめておきたい。といっても、この問題は文化審議会での議論が混迷を極めていること(中間整理審議会の議事録、各種ネット記事参照。)からも分かるように、決して単純な問題ではない。

(1)経緯
 まず、経緯について表だった記録としては、過去の関連審議会報告書(著作権審議会第10小委員会報告書第5小委員会報告書第4小委員会報告書等)が残っている。(本当は裏の話もあったはずだがよく分からない。)中でも、補償金制度導入を決めた第10小委員会報告書は、この問題に関する必読文献の一つである。(本当のそもそも論を言えば、行政の審議会で法改正を決めていることがおかしいのだが。)

 中間整理では文化庁の思惑に都合の良い部分のみを引用しているが、この第10小委員会報告書には、

「第4章 報酬請求権制度の在り方
 私的録音・録画問題とは、権利の保護と著作物等の利用との間の調整をいかに行うか、言い換えれば、現行第30条の規定している私的録音・録画は自由かつ無償という秩序を見直すかどうかという問題である。
(中略)
 報酬請求権制度を我が国の著作権制度の上でどのように位置付けるかという問題については、私的録音・録画は、従来どおり権利者の許諾を得ることなく、自由(すなわち現行第30条の規定は維持)としつつも、一定の補償(報酬)を権利者に得さしめることによって、ユーザーと権利者の利益の調整を図ろうとするものであり、私的録音・録画を自由とする代償として、つまり、権利者の有する複製権を制限する代わりに一種の補償措置を講ずるものであると位置付けることが適当である。
この考え方は、
1) 制度の見直しによる新しい秩序への移行について国民の理解が得られやすい考え方である、
2) 制度導入の理由として、私的録音・録画によって生ずる権利者の得べかりし利益の「損失の補償」という理由付けをとるとしても、現行法立法当時には「予測できなかった不利益から著作者等を社会全体で保護する」という理由付けをとるとしてもいずれにしても、なじみやすい考え方である、
3) あくまでも補償措置の一種であるから、個別処理の方法ではなく、後述の録音・録画機器又は機材の購入と関連付けて、包括的な報酬支払方法をとるという議論ともなじみやすい考え方である 」(赤字強調は私が付けたもの)

とも書かれており、補償金制度導入当時、私的複製の自由の確保にも力点が置かれ、必ずしも補償金を権利制限の代償の側面のみからとらえていたのではないということは、もっと皆が理解していてしかるべきことだろう。
 そもそも論としては、この第10小委員会当時、原則全ての私的複製に補償が必要なのか、私的複製により生じる権利者の経済的不利益が生じない場合は補償は不要なのかの結論を出さないまま、制度導入を決めてしまった禍根が、今も私的録音録画小委員会に尾を引いている

(2)現行制度の概要
 第10小委員会の結論を受けて、導入された現行制度は概略以下のようになっている。

1.対象機器・媒体:
 デジタル録音録画専用機器・媒体であって分離型のもの。要するにMDとか録画用CDーRなどとそれに対応する録音録画機器にそれぞれ価格の数%が課金されている。今のところiPodは一体型なので対象外となっている。
2.指定方法:
 対象機器・媒体は、法律より一つ落ちる政令でその方式が技術的に規定されている。
支払いスキーム:
3.支払い義務者:
 一義的な支払い義務者は消費者(私的録音録画をする者だから。当たり前と言えば当たり前。)だが、消費者からは直接補償金を取れないため、メーカーが機器・媒体に上乗せして徴収する協力義務を負う。(その結果、補償金(総額で数十億円程度)の流れは次のようになっている。消費者 → メーカー → メーカーの団体 → 補償金管理協会(20%共通目的事業に天引き) → 権利者団体 → 権利者)
4.返還制度:
 消費者が補償金管理協会に自分のCD-Rは他人の著作物のコピーに使っていませんよと言うとCD-Rの値段内の補償金分を返してくれる

(3)今回の中間整理の方向性
 補償の必要性がある場合という括弧書きが付いているが、権利者団体寄りの審議会で補償の必要がないなどという結論は出ようがないから、文化庁が大体この方向性を既定路線としようとしていることは明白である。

1.対象機器・媒体は一体型専用機器まで拡大。要するにiPodとかHDDレコーダーとかまで対象を拡大。理由はほぼ私的録音録画に使われているからで、それ以上の理由はない。
2.政令指定方式は改め、対象機器等は文化庁長官が評価機関の審議を経て定める
3.支払い義務者については意見が一致していないとしながらも、メーカー負担でも良いのではないかということが強調されている。
4.返還制度は、メーカー負担なら無くなるらしい。

(4)このような方向性について
 私は、ユーザーとして、私的録音録画補償金は、私的複製の自由が確保された場合の私的録音録画により生じる権利者の経済的不利益の補償であるという立場に立つ。私的複製の自由が制限される場合、あるいは、私的複製の自由が制限されずとも一般ユーザーの利用形態を考えたときに権利者に大きな経済的不利益が生じていないと考えられる場合は、補償は不要という立場である。
1.したがって、対象機器・媒体について、その機器・媒体における私的複製の自由度、及び、一般ユーザーの利用形態を考えずに、単にその機器・媒体が主に私的録音録画に使われることをもって対象を拡大することに反対する。
2.文化庁が、審議会においてこのようなユーザー無視の姿勢を取る以上、文化庁長官が勝手に機器・媒体の範囲を決められるような、文化庁の横暴を許す形への法令の変更にも反対する。
3~4.そもそも補償金の根拠があやふやであるため、対象機器・媒体及び補償金額がユーザーから見て納得の行かない形で、既存の利権団体同士の談合のみで決まる可能性が極めて高い以上、返還制度を無くすことには絶対反対である。
 したがって、一ユーザー・一消費者・一国民として、よって立つべき前提を無視した、このような方向性に反対する。

(5)特にiPodやHDDレコーダーについて
 特に、音楽ユーザーとして言いたいことは、私はCDを買うとき、私は音楽を楽しむ権利を買っているつもりで、プラスチックコートのアルミ板を買っているのではないということだ。CDを買ったとき、この買った音楽を自分で聞く場合に、例え外形的に複製がなされるからと言って、さらに何らかの対価を要求されることには極めて強い抵抗感を覚える。自分の使い方から考えても、一般ユーザーはiPodを分が購入したCDのプレースシフトとiTunesからの配信の視聴用に用いていると考えられ、このiPodから他人への音楽の拡散が考えられない以上、このような機器に補償金を課すことに納得感はない。そうでないとするならば、その根拠は、課金を求める権利者側が、国民の目から見て納得のいく形で提供するべきであろう。
(レンタルCD問題については、補償金で解決されるべき筋合いの話ではないので、また別途ブログに書きたいと思う。)

 また、HDDレコーダーについては、コピーワンスのパブコメに書いた通り、まずコピーワンスやダビング10のようなユーザーにとってデメリットしかない方式の撤廃が先であり、そうでない限り、補償金拡大などとんでもない話である。

(6)最後に
 私がユーザーとして望むことは極めて単純であり、利便性の高い機器・媒体、及び、利便性の高いコンテンツが、両方とも豊富にリーズナブルな値段で手に入ることに過ぎない。私はこのような状態が、コンテンツ業界やメーカーにとって不幸なものであるとは到底思えない。(知財法が法律上認めている独占ではなくて、知財(著作権)そのものの集中という独占によって利益を受けている者にとっては好ましくないことだろうが。)

 敢えて言うなら、技術の発展を受けて、既に複製の主導権がユーザーに移りつつあること、コンテンツの利便性=複製の利便性となってしまっていること、情報アクセス=コピーとなってしまっていること、コピーフリーにしたときに著作物の拡散の恐れがあること等を考慮して、著作物のコピーフリー提供に補償金の拡大が必要だというのであれば、まだ考慮に値するが、それ以外の場合に、ユーザーに対する補償金拡大のメリットは何もない。(この場合でも、コピーフリーが確保されること、すなわち、著作権法に技術あるいは契約による私的複製の制限を禁じることを書き込む必要があり、さらに、その場合でも補償金の対象機器・媒体の範囲・補償金額は権利者に対してその機器・媒体が与える実害に基づく必要がある。)

 しかし、本当のそもそも論を言えば、このように機器・媒体メーカーにぶら下がる形でコンテンツ業界が金銭を得ることは、ビジネスとして極めて不健全である。このような補償金の存在はコンテンツにおける本来のサービス競争を阻害することになりかねず、既存のコンテンツ業界が本来の競争を捨てて補償金だけで生き残る未来すら容易く想像出来てしまうのだ。複製の主導権、コンテンツの利便性や情報アクセスと複製の関係を考え、本当に未来のコンテンツ産業を見据えたとき、その中で補償金が果たす役割はほとんど無いと私は思う

 なお、仮に補償金を存続させるとしても、ほとんど何のインセンティブにもならず、無意味に溶けてしまうだけの権利者への細かな分配を止め、集めた補償金は、ネットにおける海賊版(アップロード)対策や、コンテンツ産業振興(例えば、政府主催でコンテンツコンテストを開催し、その賞金(総額数十億円?)の原資として使うなど。私的複製との関係が問題なら入賞作品はコピーフリーとすることを参加条件としても良いだろう。)といったところにまとめて使った方がよほど有意義であり、このようなことももっとまじめに議論されてしかるべきだと思う。

 パブコメには、大体以上のようなこと+αの意見を出すことを考えているが、その意見書は出した後でこのブログにも載せるとして、著作権関係の参考情報を、また数回に渡って書いて行こうかと思う。

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