第6回:「~デジタル・コンテンツの流通の促進に向けて~第4次中間答申」に対する意見
コピーワンスの細かな解説を書いている暇もなくなってしまったので、総務省の第4次中間答申に対する意見募集に対して私が出した意見をここに載せておきたいと思う。
意見書
「~デジタル・コンテンツの流通の促進に向けて~
21世紀におけるインターネット政策の在り方
(平成13 年諮問第3号 第4次中間答申(平成19年8月2日))
地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割
(平成16 年諮問第8号 第4次中間答申(平成19年8月2日))」に関し、下記のとおり意見を提出します。
記
(ページ)
第1ページ~第53ページ 第1章 デジタル放送におけるコピー制御の在り方
(意見)
私は一国民として、コピーワンス問題について、現在の方向性を破棄し、以下の通りの方向性を基本として検討し直すことを強く求める。
1.無料地上波からB-CASシステムを排除し、テレビ・録画機器における参入障壁を取り除き、自由な競争環境を実現すること。
2.あまねく見られることを目的とするべき、基幹放送である無料地上波については、スクランブルなし・コピー制御なしを基本とすること。
3.これは立法府に求めるべきことではあるが、無料地上波については、原則スクランブルなし・コピー制御なしとすることを、総務省が勝手に書き換えられるような省令や政令レベルにではなく、法律に書き込むこと。
4.B-CASに代わる機器への法的なエンフォースの導入は、B-CASに変わる新たな参入障壁を作り、今の民製談合を官製談合に切り替えることに他ならず、厳に戒められるべきこと。コンテンツの不正な流通に対しては現在の著作権法でも十分対応可能である。
なお、審議会の場等で権利者団体の代表がコピーワンス緩和は補償金拡大を前提にしているかの如き発言を繰り返しているが、上記のような方向性以外であれば、録画補償金は廃止しても良いくらいで、全く議論の余地すらない。上記のような方向性を出したとしても、補償金の対象範囲等は私的な録音録画が権利者にもたらす「実害」に基づいて決められるべきであるということは言うまでもない。
また、このコピーワンス問題について現在出されている案も含め、近年総務省が打ち出している放送関連施策には国民本意の視点が全く欠けており、今のままでは地上デジタルへの移行など到底不可能であるとほとんどの国民が思っているであろうことを付言しておく。
(理由)
まず、答申には過去のコピーワンス導入経緯についての説明が故意に省かれているが、総務省は過去の情報通信審議会において、コピーワンスの導入のために無料地上波にB-CASシステムを導入するのが適当という結論(http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020124_1.html「BSデジタル放送用受信機等が対応可能なコンテンツ権利保護方式(素案)についての意見募集の結果」参照。)を出し、平成14年6月に省令改正(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/denpa_kanri/020612_1.html「標準テレビジョン放送等のうちデジタル放送に関する送信の標準方式の一部を改正する省令案について」参照。)まで行って、その導入を推進している。無料の地上放送へのB-CASシステムとコピーワンス運用の導入は、この省令改正によってもたらされたものである。
このB-CASシステムは談合システムに他ならず、これは、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能している。
本来あまねく見られることを目的としていた無料地上波の理念をねじ曲げ、放送局と権利者とメーカーの談合に手を貸したあげく、さらにこれを隠すという総務省の行為は、見下げ果てたものであり、現在の方向性に国民本位の考え方など欠片も見られないことの証左でもある。
総務省は素直に過去の失策を認めるべきであり、この過去の審議会の詳細な議事録を公開し、この事実を元にした再検討を進めるべきであることは言うまでもない。
また、放送局がEPNの導入に反対する理由は、全く説得力がない。答申でも様々な困難が考えられると書かれているが、有料放送においては複数のコピー制御がなされている上、大きな混乱が生じているということも聞かない。すなわち、EPNの導入を全く不可とする放送局の主張は全くの出鱈目であり、このような主張は誰が見ても全く取り合うに値しない。そもそもコピーワンスが導入されるまでの間、コピーフリーで放送していた時期もあるくらいである。
コピー制限なしとすることは認められないとする権利者の主張は、消費者のほとんどが録画機器をタイムシフトにしか使用しておらず、コンテンツを不正に流通させるような悪意のある者は極わずかであるということを念頭においておらず、一消費者として全く納得がいかない。消費者は、無数にコピーするからコピー制限を無くして欲しいと言っているのではなく、わずかしかコピーしないからこそ、その利便性を最大限に高めるために、コピー制限を無くして欲しいといっているのである。消費者の利便性を下げることによってて権利者が不当に自らの利潤を最大化しようとしても、インターネットの登場によって、コンテンツ流通の独占が崩れた今、消費者は不便なコンテンツを選択しないという行動を取るだけのことであり、長い目で見れば、このような主張は自らの首を絞めるものであることを権利者は思い知ることになるであろう。
さらに、現在示されている単なるコピーの回数の緩和は、大きな利便性の向上なくして、複雑かつ高価な機器を消費者が新たに買わされるだけという、一消費者・一国民として全く受け入れがたい方向性である。
現在の答申に記載されている方向性のルールが国際標準になる可能性は全くないため、開発費用は国内市場でまかなう他なく、国内の消費者が世界的に見ても高価かつ不便な機器を買わされることになるのは確実である。
特に、現在の案の機能を実装した録画機器を販売したとしても、テレビ(チューナー)と録画機器の接続によって、全く動作が異なる(接続次第で、コピーの回数が9回から突然1回になる)こととなり、消費者の大きな混乱が予想される上、セットトップボックスを使用せざるを得ない難視聴地域の視聴者のような、録画機器を別に接続せざるを得ない者に対してはコピーワンスが維持されることとなり、根拠のない差別が生じることになる。何故、このような場合にコピーの回数が減るのか、納得の出来る説明は誰にも出来ず、コピーワンスの矛盾を拡大するに過ぎない、このような方向性には、一国民として反対せざるを得ない。
現在の地上無料放送各局の歪んだビジネスモデルによって、放送の本来あるべき姿までも歪められるべきではない。そもそもあまねく視聴されることを本来目的とするべき、無料の地上放送においてコピーを制限することは、視聴者から視聴の機会を奪うことに他ならず、このような規制を良しとする談合業界及び行政に未来はない。
なお、付言すれば、私が書いたような方向性で検討するとしても、本来、このような談合規制の排除は公正取引委員会の仕事であると思われ、何故総務省及び情報通信審議会が、談合規制の緩和あるいは維持を検討しているのか、一国民として素直に理解に苦しむ。立法府において、行政と規制の在り方のそもそも論に立ち返った検討が進むことを、私は一国民として強く望む。
意見は以上の通り提出したが、次回は、この内容について、あるいは、この意見中でも少し触れている私的録音録画補償金問題について書いてみたいと考えている。
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