第4回:放送通信各法の概要
前回のパブコメの前提として、放送通信融合の話をするときに、何故か誰もが忘れている法体系の話を、ここでまとめておきたい。
有線電気通信法、電波法、電気通信事業法、放送法などの放送通信各法は基本的には全て規制法である。細かなことを言い出すと切りがないが基本的な構成を整理すると以下のようになる。
(1)放送と通信の定義
通信と放送の定義は、それぞれ電気通信事業法と放送法の第2条に以下の通り書かれている。
-「(電気)通信」の定義:有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は映像を送り、伝え、又は受けることをいう。
-「放送」の定義:公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信をいう。
ここで、特に、通信の方が定義として広く、放送は通信の一利用形態であることに異存のある人はそれほどいないだろうが、放送の定義の中に「無線通信の送信」という語が入っている。要するに、いわゆる「放送法」は無線放送を対象としたもので、有線テレビジョン放送法など有線を利用したものは別法になっている。
さらに、この放送の定義が、放送法と著作権法で異なるということが、放送に関する著作権問題の根本原因なのだが、その話はまた次回にでも。
(2)有線と無線
放送通信の定義がどうあろうと、物理的に有線と無線は異なるので、この二つをごちゃまぜにして良いと思う人間はあまりいないと思うが、それぞれ、その設備を規制する法律として、有線電気通信法と電波法がある。
有線電気通信法では、無論例外はあるが、事業者による有線通信設備の設置を規制しており、設置工事の開始の日の2週間前までに総務大臣へ届け出ることとしている(第3条)。
そして、通信の秘密は侵してはならないとされている(第9条)。
また、非常時の通信確保を総務大臣は命じることが出来るが、その費用は国の実費弁済とされている(第8条)。
電波法では、無線設備を規制しており、やはり例外はあるが、無線設備及び無線設備の操作を行う者の総体を言う無線局の開設に免許がいることとされている(第4条)。特に外国人は免許を取れない(第5条)。
PHSの基地局の無線設備など、「電波を発射しようとする場合において当該電波と周波数を同じくする電波を受信することにより一定の時間自己の電波を発射しないことを確保する機能」を有するものについては、免許ではなく、登録すれば良いこととなっている。(第27条の18)
また、無線設備の操作は、無線通信士でなければ行ってはならないとされており(第40条)、総務大臣は、公益上の理由があるときは、周波数や無線設備の設置場所の変更を求めることが出来(第71条)、電波の質が政令に適合しない場合には電波の発射の停止を命じることが出来(第72条)、無線設備等を総務省職員により検査させることとなっており(第73条)、非常の場合の通信を行わせることが出来(第74条)、放送法も含め法律に基づく命令違反に対しては運用の停止をすることが出来、この制限に従わないときはさらに免許を取り消すことが出来る(第76条)。
この法律に基づく処分への意義申立ては、電波審議会の議に付され(第83条)、電波利用料についても規定されている(第102条の2)。
下で書く事業法に関する規制を考え合わせても、明らかに電波関係の方が規制が厳しい。理由は単純で、電波には周波数帯域には限りがあり混信という不都合を避けるため、様々な規定が必要だからだが、有線にはそのようなことがないからである。有線で無線と同じように様々な規制を設けたりすることは百害あって一利ない。
(3)放送と通信の区別
放送と通信の区別は、電気通信事業法と放送法に書かれているのは、上に書いた通りであるが、これらがそれぞれ、通信事業者と放送事業者を規制している。
電気通信事業法では、登録・届け出制となっている(第9、16条)。届出は、端末系・中継系の設備がある一定の区域に留まる場合で、これを超えると登録が必要となる。
基礎的電気通信役務(国民生活に不可欠であるためあまねく日本全国における提供が確保されるべきものとして総務省令で定める電気通信役務)を提供する者は適切公平かつ安定的提供に努めなければならず(第7条)、その料金契約約款を実施前に総務省に届け出る必要がある(第19条)などとされている。
相当の広がりを持つ電気通信設備は、その接続が利用者の利便の向上及び電気通信の総合的かつ合理的な発達に欠くことのできない電気通信設備として指定され得る(第33条)。これに指定されると、いろいろなことに届け出等が必要となってくる。
設備を技術基準に適合するように維持することなども定められており(第41条)、設備の監督を電気通信主任技術者から選ぶこととしている(第45条)。
基礎的電気通信支援機関(社団法人電気通信事業者協会)も法律で定められている(第106条)。(当然のことながら総務省の天下り先の一つである。)
接続に関する紛争などを解決するための電気通信事業紛争処理委員会についても定められている(第144条)。
電波法によって免許を与えられた者が放送の事業を行う場合に、放送法の規制を受けることになる。放送内容に対する規制がある点で、通信の秘密が規定される電気通信事業法とは大きく異なっている。
特に、放送番組の編集の自由については規定されている(第3条)ものの、公安及び善良な風俗を害せず、政治的に公平であり、報道を事実をまげずに行い、多くの角度から論点を明らかにすることなどをしなければならないこととされている(第3条の2)。番組基準や番組審議機関も設けなければならず(第3条の3、3条の4)、訂正放送・番組保存・災害放送の義務もある(第4、6、6条の2)。
NHKは放送法にその業務等が細かく定められている(第2章)。放送大学に関する規定もある(第2章の2)。
一般放送事業者に関する規定もあり(第3章)、有料放送に関する料金設定には総務大臣の認可が必要であること(第52条の4)等が定められている。
放送番組センターという放送ライブラリーを作っている財団法人も放送法に規定されている(第4章)。(これも総務省の天下り先ではないかと思われるが、詳細はよく分からない。)
ホームページのような1対多数の通信の場合まで放送と同等とみなして、その内容に関する規制を法体系に入れる必要があるとすることは、電波の有限性から来る放送の特殊性を無視した暴論であろう。あくまで電波という公共の資産を特定のビジネスに割り当てた結果として出てくる義務を、その社会的影響の大きさという物差しのみに置き換えることは個人の表現の自由を無視した極めて危険な論理である。(はっきり言って、嘘こそ吐かないものの自らにとって都合の悪いことは報道しないという昨今の放送の歪みを見るにつけ、匿名・実名の個人ブログの優れたものなどの方がおっぽど損得勘定抜きで公平に事実を伝えていると思う。)
(4)ビジネス構造の違い
放送局は放送局として、一緒くたにされがちだが、広告が主たる収入源となる無料放送、料金を支払ったもののみが番組を視聴できる有料放送、受信料を全視聴可能世帯から徴収可能なNHKの3種でスタンスは異なる。現在主流の帯域を確保している地上無料放送組は新規参入を嫌がり、NHKは受信料ビジネスの死守が至上命題であり、有料放送組は割を食っているが帯域の壁を崩せていない。結果、放送では、巨大な広告収入を極めて少数の放送局のみで分け合うという非競争ビジネスが成立してしまっている。
(こうしたことを考え合わせると、インターネットの登場により放送免許という既得権益の保護に意味がなくなったことを踏まえ、国民全体にとってより利益のある電波の利用がなされるような規制緩和を考えることが本当の急務であろう。特に、義務についての一定の条件を付加するにせよ、放送局の免許の許認可にも競争原理を持ち込んでも良いのではないかと思う。このような抜本的規制緩和を行わない限り、莫大な社会的コストをかけてまで通信放送法を整理する意味はない。)
放送通信の融合の話がされるときには、何故か皆の頭の中から、法律とビジネスに関することがすっぽりと抜けて、ネットでテレビが見られないのはおかしい、法律が整理されていないせいだ、というあさはかな思考のショートが起こる。法律とビジネスに関する考え方をきちんと整理しておかないと、自らの権限を強化したい官僚に乗じられるので注意が必要である。
次回は、放送つながりで、放送に関する著作権問題について、いくつかの論点をあげて書いてみたい。
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