第3回:「『通信・放送の総合的な法体系に関する研究会 中間取りまとめ』に対する意見
放送法と通信法の本質の理解の一助になるかどうか分からないが、総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会 中間取りまとめ」に対する意見募集に私が出した意見の全文をここに載せておく。これだけでは何なので、次回は、現在の放送法と通信法における規制の概要を書きたいと思う。
意見書
「『通信・放送の総合的な法体系に関する研究会 中間取りまとめ』に対する意見募集」に関し、下記のとおり意見を提出します。
記
(全体について:結論)
以下、各箇所で述べることから、一国民として、ビジネスと法律の実運用を知らない官僚が書いたのであろう、このような浮ついた概念整理の報告書案の即時白紙撤回と、現在の放送通信各法における不必要な規制の洗い出しという地道な検討からの再スタートを、総務省に強く求める。
なお、そのような検討を総務省ができないとするならば、これは、権限争いの激しい霞ヶ関において、規制法の運用と改正の検討が同一官庁で行われることは、規制強化の方向しかもたらさないということの証明であり、検討の場を立法府に移すことを求める。
(p.5:2(3)具体的枠組みについて)
レイヤー構造による整理は、実ビジネス・法体系を全く考慮していない単なる理念的なものであり、法体系の移行のための理由付けとして全く妥当性を欠く。
また、情報通信産業が「横割り構造」に変化してきている等の全く根拠のない断定がなされている上、そもそも各国法が存在しているEUの状況と、我が国を同一視することもできず、このようなことに基づいて法改正が必要とする文章を書いたことについて担当部局の良識を疑う。
(p.7:3(1)基本的な考え方について)
インターネット上のコンテンツ配信については、公然性を有し、強力な伝幡力がある場合であっても、コンテンツ規律を制度上課されていないことは、公正かつ適切な情報流通を損なうおそれがあり、規律の対象とする余地があるとしている。しかし、単に公然性・伝搬力のみを有するだけで、情報の規律が必要であるとすることは、国民は様々な情報から正しい情報を得る能力がほとんどないため、国家が情報を統制するべきであると言うに等しく、このような文章は国民を全く馬鹿にしており、全くお話にならない。なお、そもそもお話にならないが、何をして「公然通信」とするのかの基準も全く不明であり、かかる規制が可能と考える根拠も理解不能である。
また、技術革新により伝統的な「放送」概念が変容しつつあることから、そもそも放送の規律の枠組みが問われているにもかかわらず、かかる論点を無視して、勝手に放送の規律がメディアコンテンツ規律の基準として成り立ちうるとすることも全く理解できない。従来、放送が勝手に相当部分を独占して来た情報流通が、インターネットの発展によって崩れてきたというのが本質的な問題点であり、かかる状況を踏まえ、放送がインターネットにおける情報流通と競争できるよう、現在の放送規制の緩和を考えるのが本来の検討のあり方であろう。
したがって、この段落に記載に記載されている方向性は、通信の秘密及び表現の自由を侵し、情報の国家統制をもたらすものであるとしか言いようがなく、一国民として全く受け入れることができない。
(p.8:3(2)メディアコンテンツ規律の再構成について)
「特別メディアサービス」、「一般メディアサービス」、「公然通信」の区別の意味がまず不明であるが、それを無視して意見を述べるとすれば、まず、現在の地上テレビジョン放送の規律を維持すべき理由が不明であり、かかる放送の規律のあり方がそもそも今問われているのではないかと考える。公然通信については3(1)基本的な考え方についてのところで書いた通りである。
なお、付言すれば、民間の事業者による自主規制で行われていることも、ここで法改正に含まれるのかの如く一緒くたに書かれており、民でできることは民でという流れに逆行し、このようにあらゆることを行政が規制するかのような文章を書いたことについて担当部局の良識を疑う。
(p.11:4プラットフォームに対する法体系のあり方について)
そもそも、プラットフォームとは何かの定義が不明であり、ここで書かれている方向性には、現在の放送・通信法の対象外にまで不必要な規制が及ぼされる危険性のみしかない。
寡占的性に伴う市場支配力の行使が問題であるとしたら、これは独占禁止法による規律が適用される問題であり、まず行うべきは独占禁止法と既存の放送通信法の規制の整理である。
なお、付言すれば、無料地上波における放送システムは全体としていかにあるべきかという本質論を隠蔽したまま、放送・コンテンツ業界の既得権益を守るため、既存の放送システムを温存したまま9個コピー可能という誰の納得感もない数字を一方的に出したコピーワンス検討の前科を考えても、利用者保護の観点からのオープン性の確保についての検討が、総務省で可能であるとは到底考えられない。
(p.13:5伝送インフラに関する法体系のあり方について)
そもそも、電波法と有線電機通信法などの区分は、放送と通信のくくりではなく、無線と有線という物理的な違いから来ているものもあるのであり、これを放送通信の融合の議論と一緒くたにしているのは極めて浅はかである。
空き周波数帯域の利用、サービス・設備に関する規律の問題など、法律の区分の問題というより、既存の規制中の競争阻害要因の問題であり、このような不必要な規制の洗い出しの作業を早急にすることを、一国民として求める。
なお、技術標準についても検討するとしているが、何の理念にも基づかない省令改正によって、無料放送におけるスクランブルを可能とし、放送業界の権益強化のためにB-CASシステムを地上デジタル放送に導入し、コピーワンス問題を発生させた前科を考えると、総務省で、この検討が公平かつ透明になされるとは到底考えられない。
(p.16:6レイヤー間の規律のあり方)
2(3)具体的枠組みについてで書いたように、そもそもレイヤーの切り分けが不明であり、ここで書かれている方向性には、現在の放送・通信法の対象外にまで不必要な規制が及ぼされる危険性のみしかない。
寡占的性に伴う市場支配力の行使が問題であるとしたら、これは独占禁止法による規律が適用される問題であり、まず行うべきは独占禁止法と既存の放送通信法の規制の整理である。
以上
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