2020年3月29日 (日)

第422回:閣議決定されたその他の知的財産関連法案(種苗法改正案と家畜遺伝資源保護法案)

 今年閣議決定されている知的財産関連法案には、その検討について第418回で少し触れた、種苗法改正案と家畜遺伝資源保護法案もあるので、念のため、その内容を見ておく。

(1)種苗法改正案
 農水省のHPに掲載されている概要(pdf)に書かれている法律案の概要は以下の通りである。(理由(pdf)要綱(pdf)も参照。)

1 育成者権者の意思に応じて海外流出防止等ができるようにするための措置
(1)育成者権が及ばない範囲の特例の創設
①登録品種の種苗等が譲渡された後でも、当該種苗等を育成者の意図しない国へ輸出する行為や意図しない地域で栽培する行為について、育成者権を及ぼせるよう特例を設ける。(第21条の2~第21条の4)
※これにより、海外へ持ち出されることを知りながら種苗等を譲渡した者も刑事罰や損害賠償等の対象となり得る(育成者権の侵害罪は10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金)
②輸出・栽培地域に係る制限の内容は農水省HPで公表し、登録品種である旨及び制限がある旨の表示も義務付ける(10万円以下の過料)。(第21条の2第3項・第5項・第6項、第57条の2、第75条)

(2)自家増殖の見直し
 育成者権の効力が及ぶ範囲の例外規定である、農業者が登録品種の収穫物の一部を次期収穫物の生産のために当該登録品種の種苗として用いる自家増殖は、育成者権者の許諾に基づき行うこととする。(旧法第21条第2項・第3項)

(3)質の高い品種登録審査を実施するための措置
 審査内容の充実のため、出願者から審査の実費相当額を徴収するとともに、出願料及び登録料の水準を引き下げる。(第6条、第15条の3、第45条)

2 育成者権を活用しやすくするための措置
①品種登録簿に記載された特性(特性表)と被疑侵害品種の特性を比較することで両者の特性が同一であることを推定する制度を設け、侵害立証を行いやすくする。(第35条の2)
②育成者が特性表の補正を請求できる制度、裁判での証拠等に活用できるよう育成者権が及ぶ品種か否かを農林水産大臣が判定する制度を設ける。(第17条の2、第35条の3)

3 その他
①特許法等に倣い、ⅰ職務育成品種規定の充実(第8条)、ⅱ外国人の権利享有規定の明確化(第10条第4号)、ⅲ在外者の代理人の必置化(第10条の2)、ⅳ通常利用権の対抗制度(第32条の2)、ⅴ裁判官が証拠書類提出命令を出す際の証拠書類閲覧手続の拡充(第37条)の措置を講ずる。
②指定種苗制度について、指定種苗の販売時の表示のあり方を明確化する措置を講ずる。(第59条第1項第2号)

 細かな条文案は新旧対照条文(pdf)法律案(pdf)を見ればいいが、上の項目は全て保護強化の方向にあり、特に、以下の様に第21条第2項と第3項を削り、元から契約で別段の定めができなくはなかった点だが、自家増殖に権利者の許諾を原則必要とする改正は国内でかなりの影響を及ぼすのではないかと思う。

(育成者権の効力が及ばない範囲)
第二十一条(略)
 農業を営む者で政令で定めるものが、最初に育成者権者、専用利用権者又は通常利用権者により譲渡された登録品種、登録品種と特性により明確に区別されない品種及び登録品種に係る前条第二項各号に掲げる品種(以下「登録品種等」と総称する。)の種苗を用いて収穫物を得、その収穫物を自己の農業経営において更に種苗として用いる場合には、育成者権の効力は、その更に用いた種苗、これを用いて得た収穫物及びその収穫物に係る加工品には及ばない。ただし、契約で別段の定めをした場合は、この限りでない。

 前項の規定は、農林水産省令で定める栄養繁殖をする植物に属する品種の種苗を用いる場合は、適用しない。

(2)家畜遺伝資源保護法案
 これも農水省のHPに掲載されているが、家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律案も国会提出がされている。

 その概要(pdf)には、法律の概要として以下の通り書かれている。(理由(pdf)要綱(pdf)も参照。)

1.不正競争行為の定義
 家畜遺伝資源に対する以下の成果冒用行為を不正競争として類型化。(第2条第3項)
((※)改正法(注:家畜改良増殖法の一部を改正する法律案)第32条の2で指定される特定家畜人工授精用精液等で契約その他により使用者・使用目的に関する制限を明示したもの)

① 詐欺等による家畜遺伝資源の取得又は管理の委託を受けた家畜遺伝資源の領得(第1号)
② ①により取得した家畜遺伝資源の使用、譲渡等(第2号)
③ ①につき取得時に悪意・重過失の転得者による使用、譲渡等(第3号)
④ 図利加害目的で行う契約上の制限を超えた使用、譲渡等(第4号)
⑤ ④の譲渡につき取得時に悪意・重過失の転得者による使用、譲渡等(第5号)
⑥ ②から⑤までの使用行為により生じた派生物(家畜又は受精卵)の使用、譲渡等(第6号、第7号、第10号、第11号)
⑦ ⑥の使用行為により生じた二次的な派生物(家畜、精液又は受精卵)の譲渡等等(第8号、第9号、第12号、第13号)家畜遺伝資源に対する以下の成果冒用行為を不正競争として類型化。(第2条第3項)

2.民事上の救済措置の整備
 家畜遺伝資源に対する不正競争への民事的な救済措置として、以下の措置を整備。
・差止請求
-不正競争により営業上の利益を侵害され、又は侵害のおそれがある生産事業者による、侵害の停止又は予防の請求を可能とする差止請求を規定(第3条)
・損害賠償請求、信用回復措置
-不正競争を行った侵害者に対する損害賠償請求(第4条)や信用回復措置(第15条)を規定
・民事訴訟手続の特例規定
-損害賠償請求訴訟に関する損害額の推定(第5条)や裁判所による書類提出命令(第8条)等の規定を整備

3.刑事罰による抑止
 家畜遺伝資源に対する不正競争への抑止力強化のため、罰則を導入。(第18条、第19条)
・図利加害目的を持った以下の違法行為
① 詐欺等の違法な手段による取得、領得、使用、譲渡等(第18条第1項第1号~第3号)
② 悪意の転得者による使用・譲渡等(第18条第1項第4号、第5号)
③ ①又は②の使用行為により生じた派生物(家畜又は受精卵)の使用・譲渡等(第18条第1項第6号、第8号)
④ ③の違法使用により生じた二次的な派生物(家畜、精液又は受精卵)の譲渡等(第18条第1項第7号、第9号)
※ 上記のほか、違法行為に対する法人両罰(第19条)

 この家畜遺伝資源の定義は、その法律案(pdf)の第2条第1項に、

第二条 この法律において「家畜遺伝資源」とは、家畜遺伝資源生産事業者が業として譲渡し、又は引き渡す特定家畜人工授精用精液等(家畜改良増殖法(昭和二十五年法律第二百九号)第三十二条の二第一項に規定する特定家畜人工授精用精液等をいう。)であって、当該家畜遺伝資源生産事業者が契約その他農林水産省令で定める行為によりその使用する者の範囲又はその使用の目的に関する制限を明示したものをいう。

と書かれている様に、同じく国会提出されている家畜改良増殖法改正案(概要(pdf)理由(pdf)要綱(pdf)法律案(pdf)新旧対照条文(pdf)参照)の

(特定家畜人工授精用精液等の指定)
第三十二条の二 農林水産大臣は、高い経済的価値を有することその他の事由により特にその適正な流通を確保する必要がある家畜人工授精用精液又は家畜受精卵を、特定家畜人工授精用精液等として指定することができる。

 農林水産大臣は、前項の規定による指定をするときは、あらかじめ、家畜の改良増殖に関し専門の学識経験を有する者の意見を聴かなければならない。

という第32条の2を引用している。その事自体に問題がある訳ではないが、この様に定義に別の法律を引き、また、規制対象行為はほとんど不正競争法の引き写しなので、どちらかの法改正でも良かったのではないかと思うが、この家畜遺伝資源保護法をわざわざ別の新法とした理由は良く分からない。どこまで実効性があるかも運用次第ということになるだろう。

 今現在、通常の法改正どころではない状況になっている様に思うが、前にも書いた通り、著作権法の改正案など、どさくさ紛れに通されない事を私は願っている。

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