第506回:2024年の終わりに(文化庁によるブルーレイ私的録音録画補償金額の決定、AI制度研究会中間とりまとめ案とそのパブコメ開始他)
今年も最後に今まであまり取り上げて来なかった各省庁の動きについてまとめて書いておきたいと思う。
といっても、最初に書いておくと、今年の選挙の結果を受けて政治情勢がなお流動的となっていることも影響しているのか、各知財法の改正に関して検討が大きく進んでいる様子はない。
まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会では、その下で、政策小委員会、法制度に関するワーキングチーム、使用料部会が開催され、DX時代における対価還元、海外における権利執行や生成AIに関することなどについて引き続き検討されているが、ここで、この年末にかけて、11月29日の第4回使用料部会、12月17日から20日の持ち回りによる第71回著作権分科会、12月25日文化庁HPで報道発表と、超スピードの非公開審議でブルーレイに関する私的録音録画補償金の額が決定されるという卑劣極まる事が行われた。
ブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする政令改正の閣議決定が2022年10月21日なので(第467回参照)、そこから約2年経っているが、その間、結局パブコメの全結果が公開される事はなく、全関係者が参加する公開の場での議論がされる事もなく、文化庁は、私的録音録画補償金問題に対し、今までの経緯について何ら反省する事なく、公平中立かつ透明であるべき行政としてあるまじき態度で極めて偏頗かつ横暴な決定を積み重ねて来た。
この様なやり方で納得してブルーレイレコーダーとディスクに対する私的録音録画補償金を支払う者が只の一人もいるとは思えない。私の意見は、前回載せた知財計画パブコメの(2)a)でも簡単にまとめているが、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして完全に廃止するべきというものである。前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや完全に時代遅れになっているのであって、今の状況を踏まえて本当に公正中立に政策判断をするなら、廃止以外の結論はあり得ないと私は考えている。
次に、特許庁では、産業構造審議会・知的財産分科会の下で、特許制度小委員会と意匠制度小委員会が開催されており、それぞれ、ネットワーク関連発明における国境を跨いだ発明の実施、仮想空間におけるデザイン、生成AIの意匠制度への影響などについて議論がされているが、法改正の詳細について方向性が出ているという事はまだない。
ここで、11月22日に意匠法条約が採択されているが(特許庁のリリース参照)、12月6日の第16回意匠制度小委員会の検討資料(pdf)では、この意匠法条約について次回報告予定とされている。
なお、知的財産分科会では、経産省で不正競争防止小委員会も開かれている。今の所、不競法改正の検討がされているという事はないが、営業秘密管理指針の改訂について議論されている。
また、今回何故年末に知財計画パブコメを取ったのかは不明だが、知財本部では、今年も構想委員会などが開催され、知財計画2025の策定に向けた検討が始まっている。
総務省では、去年から続いて開かれている研究会としてデジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会と安心・安全なメタバースの実現に関する研究会があり、それぞれ9月10日と10月31日に報告書がとりまとめられている(総務省のリリース1、2参照)。
これらの総務省の研究会の報告書は民間の自主的な取組を中心とする基本理念を確認するものであって、その限りにおいて問題はないのだが、総務省では、この10月から新しくデジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会がその下のデジタル広告ワーキンググループとともに開催されており、ここで誹謗中傷やなりすまし広告などに関する課題に対し、制度整備を含むその対処について検討が進められる事になっている。これについて議論そのものを止めるべきとまでは思わないが、今後過度に規制的な制度案が出される様な事がないよう十分注視が必要だろう。
農水省では今年も農業資材審議会・種苗分科会が開かれ、品種登録における重要な形質の諮問が行われるなどしている。
最後に、知財とは少し離れるが、政府全体を見ても今年の中心課題の1つと言っても過言でないだろう、生成AIに関する検討について、AI戦略会議とAI制度研究会が、年末の12月26日に、以下の様な結論の中間とりまとめ案(pdf)を出している。
III.具体的な制度・施策の方向性
1.全般的な事項
生成AIのようなAIは汎用性が高く、様々な分野で利用されており、リスクへの対応も様々である。個人情報や著作権の取扱い、偽・誤情報への対処といったリスクへの対応にあたっては、既存法等を中心とする対応が前提であるが、AIについては横断的な対応が必要なケースもあるため、全体を俯瞰する政府の司令塔機能の強化、戦略の策定、また、安全性の向上のため、透明性や適正性の確保等が求められており、必要に応じて制度整備することが適当である。
(1)政府の司令塔機能の強化、戦略の策定
AIは、利用分野や用途の広がり、汎用型AIの登場等により、研究開発から活用に至るまでの期間が短い場合も存在し、その間の各段階における取組がほぼ同時並行的に行われ得るものである。このため、研究開発から活用に至るまでに介在する多様な主体や過程における取組が互いに密接に関連し、一体的・横断的に行われる必要があり、研究開発から経済社会における活用までの一体的な施策を推進する政府の司令塔機能を強化すべきである。
AIは、政府・自治体での活用を含め、国民生活の向上のための様々な場面での利用だけでなく、犯罪への悪用の懸念もあるほか、デュアルユース技術の側面も持つため、司令塔機能の強化に際しては、広く関係府省庁が参加する政策推進体制を整備する必要がある。
また、総合的な施策の推進にあたっては、司令塔が戦略あるいは基本計画(以下「戦略」という。)を策定する必要がある。AIについては、安全・安心の確保がAIの活用の促進、イノベーションの促進、安全保障リスクへの対応、犯罪防止等にとって重要であることから、AIの安全・安心な研究開発、活用の促進等に資する戦略とすべきである。国際的な協調を図りつつ、イノベーションの促進とリスクへの対応の両立を図るために政府全体で取り組むことが必要となる施策を当該戦略に盛り込むべきである。
上記については、AIの司令塔機能の強化や、司令塔による関係行政機関に対し協力を求めることができる等の権限を明確化するため、法定化すべきである。(2)安全性の向上等
AIの安全性を向上させるためには、研究開発から活用までのライフサイクルにおいて、少なくとも透明性や適正性を確保していく必要がある。また、事業者が自主的に取り組む安全性評価や第三者による認証などを活用することも一つの有効な手段となると考えられる。さらに、政府が、進化の著しいAIの技術や利用動向等の実態を調査して情報提供を行うとともに、必要に応じて、関係各主体に対応を求めていくべきである。
これらの実施にあたっては、事業者を含む関係各主体からの情報共有や協力が必須であることから、官民が協調して取り組むことが必要である。①AIライフサイクル全体を通じた透明性と適正性の確保
(略)
適正性の確保にあたっては、広島AIプロセス等の国際的な規範の趣旨を踏まえた指針を政府が整備等し、事業者に対し各種規範等に対する自主的な対応を促していくことが適当である。
また、透明性の確保を含む適正性の確保については、調査等により政府が事業者の状況等を把握し、その結果を踏まえて既存の法令等に基づく対応を含む必要なサポートを講じるべきである。政府による事業者の状況等の把握や必要なサポートについては、事業者の協力なしでは成り立たないため、国内外の事業者による情報提供等の協力を求められるように、法制度による対応が適当である。
(略)②国内外の組織が実践する安全性評価と認証に関する戦略的な促進
(略)
また、国内における制度整備は、国際的な規範を踏まえ、かつ、制度の実効性も考慮し対応すべきである。AIの評価や認証を実施する場合には、利用者や利用目的に従ってレベルを設けることや、一定の安全性を確認するための利用者の負担が軽減する仕組みや評価・認証を実施する機関を認定する仕組みを構築できれば、より効果的で持続可能な制度となると考えられる。ただし、この仕組みを構築する際は、AISIやISO等の活動を前提にしつつ、どのような主体を巻き込み、どのような基準で評価を行っていくのか、詳細な検討が必要である。なお、AI安全性の確保のため、AISIには、関係省庁、関係機関と連携し、調査、分析、整理、情報発信などに引き続き取り組み、司令塔となる組織を支援することが期待される。③重大インシデント等に関する政府による調査と情報発信
上述のとおり、AIは近年急速な発展を遂げており、様々なリスクが増大している。このような中、AIのリスクに対処し、政府として適切な施策を実施するためには、技術及び事業活動の双方の側面から時々刻々と変化するAIの開発、提供、利用等に関する実態をまず政府において情報収集・把握し、事業者においてAIが効果的かつ適正に利用されるとともに、広く国民がAIの研究開発や活用の促進に対する理解と関心を深められるよう、企業秘密等に配慮しつつも説明責任を果たせるように、必要な範囲で国民に情報提供することが適当である。
中でも、多くの国民が日々利用するようなAIモデルについては、政府がサプライチェーン・リスク対策を含むAIの安全性や透明性等に関する情報収集を行う。国民に対して広く情報提供されることで、利用者は安全性の高いAI事業者やそのAIシステムを認識・選択しやすくなる。また、基盤サービス等における AI導入の実態等に関しては、政府による情報収集が重要である。
また、AIの利用に起因する重大な事故が実際に生じてしまった場合、政府としては、その発生又は拡大の防止を図るとともに、AIを開発・提供する事業者による再発防止策等について注意喚起を行っていく必要がある。すなわち、国内で利用される AIについて、国民の権利利益を侵害するなどの重大な問題が生じた場合、あるいは生じる可能性が高いことが検知された場合において、その原因等に関する事実究明を行い、必要に応じて関係者に対する指導・助言を行い、得られた情報の国民に対する周知を図るべきである。なお、事故が生じているといえるか否かについては、上記の情報収集・把握を通じて政府に蓄積された事例や知見をもとに判断していくことが重要である。
この調査や情報発信は事業者の協力なしでは成り立たないため、国内外の事業者による情報提供等の協力を求められるように、法制度による対応が適当である。2.政府による利用等
我が国における、個人及び企業による AIの利用率は、他国と比較すると著しく低迷している状況である。AIは国民生活や経済活動の発展の基盤として、その利用の重要性が増していくことが見込まれる中、このような状況を放置すれば、我が国の国際競争力が損なわれるおそれがある。このため、まずは政府が率先して AIを利用し、国民による活用を促進することが考えられる。
(略)3.生命・身体の安全、システミック・リスク、国の安全保障等に関わるもの
医療機器、自動運転車、基盤サービス等、特に国民生活や社会活動に与える影響が大きい生命・身体の安全やシステミック・リスクに関わるものについては特に注力して対応する必要があると考えられるが、業界毎に各業所管省庁が既存の業法に基づき対応し、また、追加的な対応の必要性の有無を判断するため、AI技術の発展、利用状況について随時業界と対話している状況である。
現時点においては、引き続き、各業所管省庁が既存の法令あるいはガイドライン等の体系の下で対応すべきであるが、今後、新たなリスクが顕在化し、既存の枠組で対応できない場合には、政府は、関連する枠組の解釈を明確化したうえで、制度の見直しあるいは新たな制度の整備等を含めて検討すべきである。システミック・リスクについては、将来的に、複数の AIシステムが連動する大規模な AIシステム群が社会システムを支える状況となる可能性があり、その際、当該 AIシステム群が予期せぬ挙動をした場合、社会全体に大きな混乱をもたらす可能性があるため、適切に対処することが重要である。
また、CBRN 等の開発やサイバー攻撃等への AIの利用といった国の安全保障に関わるリスクについては、我が国の安全保障を確保するという観点から、関係省庁において、必要な対応をさらに検討していく必要がある。
これは、具体的な施策としての内容はほぼないに等しいが、要するに、AIに関する政策検討を行うAI戦略推進本部を法定化するAI推進法案を提案するものである。この中間とりまとめ案が規制的な内容にならなかっただけでもよしとするべきなのかも知れず、全ては今後の検討次第となるが、おそらく同様の形を想定しているだろう知財本部の今の体たらくを見ても、法定化された所でAI本部で本当に戦略的に意味のある政策検討ができるのか、これも役所の焼け太りにしかならないのではないかと思えてならない。
このAI戦略会議・AI制度研究会の中間とりまとめ案については既に1月23日〆切で意見募集が開始されており(電子政府の意見募集ページ参照)、意見を出すかどうか少し考えたいと思っている。
それでは今年も同じ口上で締め括りとするが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。
(2025年1月19日の追記:わざわざ分けるほどでもないと思ったので、ここに追記しておくが、上のAI戦略会議の中間取りまとめ案について以下の様なパブコメを出した。
「AI戦略本部の法定化に反対はしないが、役所の焼け太りとならないよう、役割を終えていると考えられる内閣府及び官房の各種本部と事務局も含めた統廃合を行い、今以上の行政リソースの無駄な投入をしないようにすべきである。
今後の検討では、国際動向に注意を払い、技術の発展を妨げる過度の規制強化は避けるべきである。問題となるのは、既存の法運用の明確化と周知で対応可能な著作権や特許等の知的財産との関係ではなく、個人のリスクとなる個人を特定・評価するAIの民間・政府利用と、安全保障の懸念である軍事利用である。これらには国内に留まらない国際的議論が必要である。
立法時に重要となるAIの定義について、私は、大量の計算リソースを使う機械学習を用いたものであって利用者側の簡単な指示の入力によって対応する情報の出力が可能なシステム又はサービスというものを提案するが、この点でも国際的状況を参考にするべきである。」
)
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