2018年4月22日 (日)

第393回:著作権保護期間延長を含むTPP11協定関連法改正案他

 著作権ブロッキングの問題を先に取り上げたが、今回は第390回の続きで今国会に提出されている知的財産法改正案のことである。

(1)TPP11協定関連法改正案
 先月、3月27日に、11カ国でのTPP協定(正式名称は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」)の妥結に伴い、TPP11協定関連法改正案が閣議決定され、国会に提出されている。(TPP等政府対策本部のHP概要(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照表(pdf)参照条文(pdf)参照。)

 概要(pdf)の別紙に、主な改正内容として、

○TPP整備法のうち、現状未施行となっている以下の10本の法律の改正規定について、施行期日を環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の発効日に改正する(TPP整備法附則第1条)

①関税暫定措置法(※1)
②経済上の連携に関する日本国とオーストラリアとの間の協定に基づく申告原産品に係る情報の提供等に関する法律
③著作権法(※2)
④特許法(※2)
⑤商標法
⑥医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
⑦私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
⑧畜産物の価格安定に関する法律
⑨砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律
⑩独立行政法人農畜産業振興機構法

※1 牛肉の関税緊急措置の廃止に係る規定の施行期日は、TPP12協定の発効日のままとする(TPP11協定の発効時点では、当該措置は存続)(TPP整備法第4条、第4条の2(新設)及び附則第1条)
※2 TPP11協定上の凍結項目(「著作物等の保護期間の延長」、「技術的保護手段」、「衛星・ケーブル信号の保護」及び「審査遅延に基づく特許権の存続期間の延長」)を含む(TPP整備法附則第1条)
*なお、TPP12協定を引用した箇所については、TPP11協定に対応できるよう規定を整備する。

と書かれているが、この「※2」に書かれている通り、この法改正案は、TPP11協定において凍結されている著作物等の保護期間の延長などの知財関連項目に対応する法改正の施行日を、元の12カ国でのTPP協定ではなく、TPP11協定の発効日にする内容になっている。

 条文上は、未施行の元のTPP12協定のための法律(正式名称は「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」)を法改正するという形を取り、附則の第1条で以下のように著作権法などの改正が含まれる全体の施行日をTPP11協定の発効日に変えている。(下線部が追加部分。)

第一条 この法律は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日(第三号において「発効日」という。)から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
 附則第九条の規定 公布の日
 第三条中商標法第二十六条第三項第一号の改正規定及び第十条の規定 公布の日から起算して二月を超えない範囲内において政令で定める日
二の二 附則第十八条の規定畜産経営の安定に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する法律(平成二十九年法律第六十号) 附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日
 第四条中関税暫定措置法別表第一の三第〇四〇四・一〇号の改正規定(「九九円」の下に「(発効日の前日以後に輸入されるものにあつては、三五%及び一キログラムにつき一二○円)」を加える部分に限る。)及び附則第三条第一項の規定 発効日の前日
 附則第十九条の規定 環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日の前日
 第四条の二の規定及び附則第三条第三項の規定 環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日

 このように、この法改正案は、凍結項目とされた著作権の保護期間延長の施行までTPP11協定の発効で行おうとする内容のものとなっているのだが(凍結項目については第384回参照)、12カ国の全GDPの内85%を占める6カ国が国内手続きを完了しない限り発効せず、アメリカが脱退した時点で発効は絶望的となった元のTPP12協定と異なり、TPP11協定は、GDPにかかわらず6カ国の国内手続きの完了で済み、発効のハードルが相当下げられていることを考えると、凍結項目まで含めたこのような関連法改正案の作りは卑劣かつ姑息なものと言わざるを得ない。

 また、条約でわざわざ凍結項目とされた部分についてまで国内法を改正しようとすることは国際的に自ら墓穴を掘る最大級の愚行と言っても過言ではないが、もはや今の日本の政府与党にまともな判断力は全く期待できないのだろう。今現在国会が混乱しており、条約や法改正案の審議の目処が立たない状況なのは良いことである。このままこのTPP11協定の批准も関連法案の可決もされないことを私は心から願っている。

第386回で書いた通り、著作権保護期間延長を含む日欧EPAに合わせて法改正案を出して来るのだろうと思っていたが、私の見通しは甘かった。)

(2)特許法等の改正案
 後は、第390回で取り上げた不正競争防止法等の改正案(経産省のHP概要1(pdf)概要2(pdf)参考資料(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照表(pdf)参照条文(pdf)参照)には、特許法なども含まれている。

 この概要1(pdf)に書かれている特許法等の一部改正の項目に改正条文の番号を追加すると以下のようになる。

①これまで一部の中小企業が対象だった特許料等の軽減措置を、全ての中小企業に拡充する。(特許法第109条の2)
②裁判所が書類提出命令を出すに際して非公開(インカメラ)で書類の必要性を判断できる手続を創設するとともに、技術専門家(専門委員)がインカメラ手続に関与できるようにする。(特許法第105条)
③判定制度の関係書類に営業秘密が記載されている場合、その閲覧を制限する。(特許法第186条、意匠法第63条、商標法第72条)
④特許出願等における新規性喪失の例外期間を6月から1年に延長する。(特許法第30条、意匠法第4条)
⑤特許料等のクレジットカード払いを認める。(工業所有権に関する手続等の特例に関する法律第15条の3)
⑥最初に意匠出願した国への出願日を他の国でも出願日とすることができる制度について、必要書類のオンラインでの交換を認める。(意匠法第15条、第60条の10)
⑦商標出願手続を適正化する。(商標法第10条)

 基本的には地道な制度ユーザーのための改正でそれほど問題がある訳ではないので細かな説明は省略するが、第390回で書いたように不正競争防止法の改正案はやはり問題が多いと思っている。

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2017年12月17日 (日)

第386回:著作権保護期間延長を含む日EU経済連携協定(EPA)の妥結条文

 先月にはアメリカ抜きの11カ国でのTPPの交渉妥結もあったが、この12月8日に日本と欧州連合(EU)の間で経済連携協定(EPA)も妥結されている。

 この日欧EPAの内容に関してはそこまで詳細に報道されていないように思うが、政府が12月15日になってようやく外務省のHPに出したファクトシート(pdf)の第37ページに、

●著作権及び関連する権利
 著作者,実演家,レコード製作者及び放送機関の権利の保護,著作物等の保護期間の延長(著作者の死後70年等),権利の制限と例外等について規定する。

とはっきり書かれているように、この条約は日本にとって著作権の保護期間の延長を含む致命的な内容ものとなっている。

 いまだに日本政府からはこのEPAの妥結条文の詳細も訳も公表されていないが、EUのHPでは妥結と同時に公表されており、その第14章知的財産(pdf)から、著作権保護期間延長に関する第13条を抜き出すと以下のようになる。

Article 13 Term of Protection

1. The rights of an author of a literary or artistic work within the meaning of Article 2 of the Berne Convention shall run for the life of the author and for 70 years after the author's death, irrespective of the date when the work is lawfully made available to the public.

1.1. Whenever the term of protection for the rights referred to in paragraph 1 is calculated on a basis other than the life of a natural person, such term shall be no less than 70 years after the work is lawfully made available to the public. Failing such making available within 70 years after the creation of the work, such protection shall be no less than 70 years from the work's creation.

2. The rights of performers shall expire not less than 50 years after the date of the performance.

3. The rights of producers of phonograms shall last, at least, until the end of the period of 70 years calculated from the end of the year in which the phonogram was published, or failing such publication within at least 50 years from the fixation of the phonogram, at least 50 years from the end of the year in which the fixation was made (Footnote: The Parties may adopt effective measures in order to ensure that the profit generated during the 20 years of protection beyond 50 years are shared fairly between the performers and producers of phonograms.).

4. The term of protection for rights in broadcasts shall expire not less than 50 years after the first transmission of the broadcast.

5. The terms laid down in this Article shall be calculated from the first of January of the year following the year of the event which gives rise to them.

第13条 保護期間

第1項 ベルヌ条約第2条の意味における文学的又は芸術的著作物の著作者の権利は、その著作物が適法に公衆に入手可能とされた日とは無関係に、著作者の存命中及び著作者の死後70年続く。

第1.1項 第1項に記載された権利の保護期間が自然人の存命以外の根拠にもとづき算定される場合は、そのような期間はその著作物が適法に公衆に入手可能とされた日の後70年未満であってはならない。その著作物の創作後70年以内にそのように公衆に入手可能とされなかったときは、そのような保護はその著作物の創作から70年未満であってはならない。

第2項 実演家の権利は、その実演の日の後50年未満で消滅してはならない。

第3項 レコード製作者の権利は、少なくとも、そのレコードが出版された年の終わりから算定して70年の期間の終わりまで存続し、そのレコードの固定から少なくとも50年以内にそのような出版がなされなかったときは、その固定がなされた年の終わりから少なくとも50年存続する(原注:加盟国は、50年を超える20年の保護の間に生じた利益が実演家及びレコード製作者の間で公平に分配されることを確保するための有効な手段を取ることができる。)。

第4項 放送における権利の保護期間は、放送の最初の送信の後50年未満で消滅してはならない。

第5項 本条で規定される期間は、それを発生させる事象の年に続く年の1月1日から算定される。

 見れば分かる通り、TPP交渉で既に譲歩した点だからいいだろうとばかりに、日本政府は日EU間の交渉においても50年から70年への著作権の保護期間延長を何の留保もつけずにまるごと受け入れているが、このような秘密の条約交渉でほとんど何の説明もなく国益の根幹に関わる点について日本政府が易々と譲歩したことに私は激しい憤りを覚える。その上例によってEU側で公表している条文の内容についてすらなお概要説明だけで、その翻訳すら公開しないなど完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。

 日欧EPAも妥結されたことを受けて次の通常国会でその批准と国内関連法の改正法案が提出される可能性が高いが、これほど国民をバカにした形でなされた条約の批准に、著作権の保護期間延長に私は反対する。

(2017年12月19日夜の追記:翻訳中の誤記を修正した(「保」→「保護」、「利益」→「利益が」)。)

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2017年11月11日 (土)

第384回:アメリカ抜きTPP大筋合意の凍結項目(知財関連)

 予想されたこととは言え、衆議院選挙では自民党が勝ち、これと言っていいニュースもない中、アメリカ抜きの11カ国でTPP協定が大筋合意が発表されたという報道があった。

 政府のTPP対策本部のHPで凍結項目が公表されているが、TPP11協定の合意内容について(pdf)という文書では、以下のものが知財関連の凍結項目としてあげられている。

〇知的財産の内国民待遇(18.8(脚注4の第3~4文))
〇特許対象事項(18.37.2、18.37.4の第2文)
〇審査遅延に基づく特許期間延長(18.46)
〇医薬承認審査に基づく特許期間延長(18.48)
〇一般医薬品データ保護(18.50)
〇生物製剤データ保護(18.51)
〇著作権等の保護期間(18.63)
〇技術的保護手段(18.68)
〇権利管理情報(18.69)
〇衛星・ケーブル信号の保護(18.79)
〇インターネット・サービス・プロバイダ(18.82、附属書18-E、附属書18-F)

 また、「附属書Ⅱ 停止(凍結)される規定のリスト」日本語仮訳(pdf)から同じく知財関連の凍結項目を抜き出すと、以下のようになる。

9. Patentable Subject Matter - Article 18.37.2 and 18.37.4 (Second Sentence)
9.特許を受けることができる対象事項 第18.37条2及び4(第2文)

10. Patent Term Adjustment for Unreasonable Granting Authority Delays - Article 18.46
10.特許を与える当局の不合理な遅延についての特許期間の調整 第18.46条

11. Patent Term Adjustment for Unreasonable Curtailment - Article 18.48
11.不合理な短縮についての特許期間の調整 第18.48条

12. Protection of Undisclosed Test or Other Data- Article 18.50
12.開示されていない試験データその他のデータの保護 第18.50条

13. Biologics - Article 18.51
13.生物製剤 第18.51条

14. Term of Protection for Copyright and Related Rights - Article 18.63
14.著作権及び関連する権利の保護期間 第18.63条

15. Technological Protection Measures (TPMs) - Article 18.68
15.技術的保護手段 第18.68条

16. Rights Management Information (RMI) - Article 18.69
16.権利管理情報 第18.69条

17. Protection of Encrypted Program-Carrying Satellite and Cable Signals - Article 18.79
17.衛星放送用及びケーブル放送用の暗号化された番組伝達信号の保護 第18.79条

18. Legal Remedies and Safe Harbours - Article 18.82 and Annexes 18-E and 18-F
18.法的な救済措置及び免責 第18.82条 附属書18-E,附属書18-F

 TPP協定のための法改正項目やその内容については第352回第360回などで書いているが、比較してみると、日本における法改正項目中で凍結されたのは、

  • 手続き遅延を理由とした特許の保護期間延長(TPP協定第18.46条、改正特許法第67条他)
  • 著作権保護期間の延長(TPP協定第18.63条、改正著作権法第51条他)
  • アクセスコントロール回避行為そのものの規制(TPP協定第18.68条、改正著作権法第2条他)

で、凍結されなかったのは、

  • 発明の新規性の喪失の例外期間(グレースピリオド)の延長(TPP協定第18.38条、改正特許法第30条)
  • 配信音源の2次利用に対する使用料請求権の付与(TPP協定第18.62条、改正著作権法、改正著作権法第95条)
  • 著作権侵害における法定賠償制度の導入(TPP協定第18.74条第6項及び第17項(a)(ⅱ)、改正著作権法第114条)
  • 商標権侵害における法定賠償制度の導入(TPP協定第18.74条第7項、改正商標法第38条)
  • 著作権侵害の非親告罪化(限定あり)(TPP協定第18.77条第6項(g)、改正著作権法第123条)

ということになるだろう。

 アメリカが最も強くごり押ししたところで反発が強かったのだろう、最もクリティカルな部分である著作権と特許の保護期間延長とDRM規制の強化の部分こそ凍結されているものの、他の細かな部分については11カ国の交渉でも凍結されなかったと見える。私はTPP協定は保護期間延長だけの問題ではないと考えているし、このような11カ国での合意により今後非凍結項目に対応する法改正項目の施行の圧力が強まることは必死な上、合わせて保護期間延長などの部分まで含めて施行しようとする動きも蠢いて来るのではないかと懸念する。閣僚レベルで合意が発表されたものの、首脳レベルではカナダが反対しているとの報道もあり、今後の行方はなお不透明だが、11カ国でこのような合意が発表されたこと自体極めて残念なことと私は思っている。

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2016年12月 9日 (金)

第371回:TPP協定・関連法案の参議院可決・成立と今後のこと

 今日12月9日に参議院本会議でTPP協定の承認案と関連法案が可決され、成立した。

 参議院での11月11日から12月9日までの審議も、衆議院同様時間こそそれなりに取られ、知財問題についても何回か触れられたものの、全く議論が深まることはなかったと言っていいものだった。(参議院インターネット中継参照)

 国会会期が延長されたことにともない自然成立もあり得たので、参議院での可決はかなり儀式的なものと言わざるを得ないが、いずれにせよ、確たる見通しも戦略もないまま、このように政府与党が自分たちのプライドのみを優先してTPP協定承認案と関連法案を国会で成立させたことは極めて残念なことである。

 アメリカ次期大統領であるトランプ氏が離脱を明言していることから、TPP協定が当面発効しないことが確実であることが不幸中の幸いとは言え、トランプ氏が二国間協定としてTPP協定以上の内容の押しつけをして来ることも考えられれば、日本政府が今回国内法に取り込んだ内容について協定の発効とは別に施行を考えるべきと言い出すこともあり得、今後も非常に注意が必要な状況が続くことに変わりはないし、私は今後も今回国会を通されたTPP協定とその関連法について反対して行くつもりである。

(なお、TPP政府対策本部のHPに掲載されている法案概要(pdf)にもある通り、関連法の内、地理的表示関連部分はTPP協定本体の発効とは関係なく公布の日から起算して2月を超えない範囲内において政令で定める日に施行されてしまう。国会では全く議論が深まることがなかったが、このような部分が含まれていることもこの関連法の問題点の1つである。)

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2016年11月 9日 (水)

第370回:TPP協定・関連法案の衆議院委員会可決とアメリカ大統領選挙の結果

 先週11月4日にTPP協定とその関連法案が衆議院のTPP特別委員会で可決され、本会議での議決を待つ状態になっている。

 衆議院委員会審議の中で10月31日には知財関係でも参考人が呼ばれ、土肥一史先生がTPPに基づく著作権法改正に賛成の立場から意見を述べ、福井健策先生が慎重な立場から意見を述べている。(衆議院インターネット中継参照。)

 土肥先生は文化庁の著作権分科会・法制・基本問題小委員会の主査としてTPPに絡む著作権法改正案の検討に関わっていたので、このように保護期間延長などについて賛成の意見を述べたのは当然と言えば当然である。

 また、これに対して、福井先生は、保護期間延長は著作物に関する現状の貿易赤字を増やすとともに、ビックデータ時代において実質的に権利処理不能となる著作物を莫大に増やすものであるからこのような法改正には慎重であるべきと述べ、合わせ、非親告罪化や法定賠償についても十分注意しなければならないとの指摘をしている。

 なお、両先生とも、取るべきとする手段において違いはあるものの、今後の著作物の利用円滑化施策の重要性はともに認めていた。

 これで衆議院としては知財部分についても賛成反対の両論を聞き、その主要な問題点についても指摘されたということになるが、衆議院においてTPP協定について本当に真摯な検討がされたということはなく、ほとんど結論ありきの審議で、委員会で可決までされてしまった。

 その中で、今日アメリカ大統領選の結果が出、TPP離脱を公約とする共和党候補のドナルド・トランプ氏が次期大統領になることになった上、同時に行われている上下院選挙でも共和党が多数派になったことで、アメリカでTPPが批准される可能性は完全になくなったと言える。

 衆議院委員会でもアメリカ大統領選との関係で何度も再交渉についてどうするかという話題が持ち上がりながら、首相を始めとして再交渉には応じないとの一点張りで全く議論になっていないが、もはや再交渉の問題ですらない。言わずもがなのことだが、日本の議会での可決によってトランプ氏がそのスタンスについて再考を促されることなど到底あり得ないだろう。

 日本国内における真剣な議論の結果ではなく、アメリカの選挙という外的な要因によることが情けないと言えば情けないが、少なくともTPP協定について今日その命脈が完全に絶たれたことは良いことと私は考えている。そもそもアメリカが批准しなければ絶対に発効しない貿易協定について日本だけで批准・関連法案の可決をすることに全く意味はない。政府与党が自分たちの下らないメンツだけのために衆議院本会議でTPP協定とその関連法案を可決した上で、条約として自然成立させるなどというバカげたことをしないことを私は願っている。

(2016年11月10日夜の追記:発効の見通しの立たない中、今日衆議院本会議でTPP協定とその関連法案が可決された。TPP協定に関する私の考えは変わりはしないが、政府与党がこのように自分たちのメンツだけを優先して協定・法案の衆議院可決を行ったのは残念なことである。)

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2016年4月 8日 (金)

第361回:TPP協定交渉主要事項年表

 既にTPP協定と関連法案の審議が衆議院で始まっており、案の定波乱含みの展開となっているところだが、ここで、過去に作った海賊版対策条約(ACTA)年表(第279回参照)に倣い、今まで書いてきたことを交渉の主要事項と合わせて年表形式でまとめておく。

 詳しくはTPP政府対策本部のHPや外務省のHPも見てもらいたいとは思うが、実際のところ具体的な交渉内容に関してはいまだにほとんど公開されておらず、日本政府が知財関連でどのような交渉をして来たかは2013年8月、2014年5月、2015年5月の3つの時点のリーク条文案と2015年10〜11月の最終条文から推測するしかないのが現状である。今まで書いて来たことで、下の年表中にも書いている通り、これらのリーク条文案から、日本政府がアメリカの圧力に負け、2013年8月までに著作権における法定賠償の導入について、2013年8月から2014年5月の間にDRM回避規制の強化と条件つきの著作権侵害の非親告罪化について、2015年5月から10月の間に著作権保護期間延長について順に飲まされて来ているのが読み取れるが、その理由は全く不明であり、このような譲歩はするべきではなかったと私は今も思っているし、アメリカを中心として国際的な動向も不透明となっている中、国会でTPP協定の批准、関連法案の可決をするべきではないと思っていることにも何ら変わりはない。

(2016年4月9日夜の追記:下の年表中の誤記を直した。)

(以下、年表)

2006年 6月 シンガポール、ブルネイ、チリ及びニュージーランドの4カ国協定として発効(当初のTPP協定における知財関連部分について、第248回参照)

2010年 3月 アメリカ、オーストラリア、ベトナム及びペルーが交渉に参加

     10月 マレーシアが交渉に参加

2012年11月 カナダ及びメキシコが交渉に参加

2013年 7月 第18回会合から日本が交渉に参加(TPP政府対策本部のメディア声明(pdf)参照)

      8月 第19回会合(TPP政府対策本部の結果報告(pdf)参照。8月時点のリーク条文について、第299回第300回第301回第302回及び第303回参照。この時点で日本政府は既に著作権における法定賠償の導入にコミットしている)

      9月 首席交渉官会合(TPP政府対策本部の首席交渉官会見概要(pdf)参照)

     10月 首脳会合(TPP政府対策本部の首脳声明(pdf)参照)

     11月 首席交渉官会合(TPP政府対策本部の首席交渉官代理会見概要(pdf)参照。11月時点の各国交渉スタンスについて、第304回参照)

     12月 閣僚会合(TPP政府対策本部の閣僚・代表声明(pdf)参照)

2014年 2月 閣僚会合(TPP政府対策本部の共同プレス声明(pdf)参照)

      5月 首席交渉官会合、閣僚会合(TPP政府対策本部の首席交渉官会見概要(pdf)閣僚声明(pdf)参照。5月時点のリーク条文案について、第322回第323回第324回第325回第326回及び第327回参照。このリーク条文案から日本政府が2013年8月から2014年5月の間にDRM回避規制の強化についてコミットするとともに著作権侵害の非親告罪化について条件つき賛成に転じたことが分かる)

      7月 首席交渉官会合(TPP政府対策本部の首席交渉官会見概要(pdf)参照)

      9月 首席交渉官会合(TPP政府対策本部の首席交渉官会見概要(pdf)参照)

     10月 閣僚会合(TPP政府対策本部の共同プレス声明(pdf)参照)

     11月 首脳会合(TPP政府対策本部の首脳声明(pdf)参照)

     12月 首席交渉官会合(TPP政府対策本部の首席交渉官会見概要(pdf)参照)

2015年 1月 首席交渉官会合(TPP政府対策本部の首席交渉官会見概要(pdf)参照)

      3月 首席交渉官会合(TPP政府対策本部の首席交渉官会見概要(pdf)参照)

      4月 首席交渉官会合(TPP政府対策本部の首席交渉官会見概要(pdf)参照)

      5月 首席交渉官会合(TPP政府対策本部の首席交渉官会見概要(pdf)参照。5月時点のリーク条文案について、第340回第341回第342回第343回第344回及び第345回参照)

      7月 閣僚会合(TPP政府対策本部の閣僚声明(pdf)参照)

     10月 閣僚会合で大筋合意(TPP政府対策本部の閣僚声明(pdf)参照。TPP協定の概要(pdf)日本政府作成版(pdf))のみ公開)

     11月 TPP協定条文(英語のみ)がようやく公開(10月〜11月の最終条文について、第347回第348回第349回第350回第351回及び第352回参照。この条文から日本政府が2015年5月から10月までの間に著作権保護期間延長についてコミットしたことが分かる)

2016年 1月 TPP協定条文の日本政府訳文がようやく公開(TPP政府対策本部のHP参照)

      2月 交渉参加12カ国が署名

      3月 TPP関連知財法改正案が閣議決定、国会提出(TPP関連知財法改正案の内容について、第360回参照)

      4月 TPP協定及び関連法案が衆議院で審議開始

     11月 TPP協定及び関連法案が衆議院委員会で可決

     11月 TPP協定離脱を公約とするトランプ氏がアメリカ大統領選挙で当選

     11月 TPP協定及び関連法案が衆議院本会議で可決

     11月 ニュージーランド議会がTPP関連法案を可決

     11月 トランプ次期アメリカ大統領が再度TPP協定離脱を明言

     12月 TPP協定及び関連法案が参議院委員会及び本会議で可決

(2016年12月9日夜の追記:2016年11月以降の記載を追記した。)

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2016年3月 9日 (水)

第360回:閣議決定されたTPP関連知財法改正案の条文

 昨日3月8日にTPP関連法案が閣議決定され、TPP政府対策本部のHPで公開された(概要(pdf)要綱(pdf)法改正案(pdf)新旧対照条文(pdf)参照条文(pdf)参照)。内容としては審議会の資料として今まで見て来たことがほぼそのまま条文化されているが、念のため、中でも知財関連の法案がどのような条文になったかを見ておきたい。

(1)著作権法改正案
 著作権法改正案の内容として含まれているのは、第357回などで書いた通り、著作権の保護期間延長、著作権侵害の非親告罪化、アクセスコントロール回避規制、配信音源の二次利用に対する使用料請求権の付与、法定損害賠償の5点だが、この内条文の問題にならない著作権保護期間延長と非常にマニアックな配信音源の二次利用に対する使用料請求権の付与については条文まで詳しく見る必要はないと思うので、その他の3点について見て行く。

 まず、非親告罪化については、この法改正案は、第123条に以下のような第2項及び第3項を追加するとしている。(下線部が追加部分。なお、法改正案にはテクニカルな改正も含まれているので、以下は全て主だった部分のみ抜き出している。)

第百二十三条 第百十九条、第百二十条の二第三号及び第四号、第百二十一条の二並びに前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 前項の規定は、次に掲げる行為の対価として財産上の利益を受ける目的又は有償著作物等の提供若しくは提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益を害する目的で、次の各号のいずれかに掲げる行為を行うことにより犯した第百十九条第一項の罪については、適用しない。
 有償著作物等について、原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し、又は原作のまま公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。次号において同じ。)を行うこと(当該有償著作物等の種類及び用途、当該譲渡の部数、当該譲渡又は公衆送信の態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。
 有償著作物等について、原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し、又は原作のまま公衆送信を行うために、当該有償著作物等を複製すること(当該有償著作物等の種類及び用途、当該複製の部数及び態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。

 前項に規定する有償著作物等とは、著作物又は実演等(著作権、出版権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権、出版権又は著作隣接権を侵害するもの(国外で行われた提供又は提示にあつては、国内で行われたとしたならばこれらの権利の侵害となるべきもの)を除く。)をいう。

 これは、①「財産上の利益を受ける目的」又は「著作権者等の得ることが見込まれる利益を害する目的」での、②「有償」で提供されている著作物を「原作のまま」複製した複製物の譲渡等について、③「著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害される」場合に、非親告罪の対象とするということで、文化庁の審議会の報告書通り、かなりの限定が入っており、これならば、概要(pdf)に書かれている、海賊版の販売は非親告罪になるが、同人誌のコミケでの販売やパロディのブログへの投稿などは対象外になるという基本的な整理に間違いはないだろう。無論微妙なケースは多々存在すると思うが。

 次に、法定損害賠償については、損害の額の推定を規定する第114条に以下のような第4項を入れることとしている。

(損害の額の推定等)
第百十四条
(略)
 著作権者又は著作隣接権者は、前項の規定によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し損害の賠償を請求する場合において、その著作権又は著作隣接権が著作権等管理事業法(平成十二年法律第百三十一号)第二条第一項に規定する管理委託契約に基づき同条第三項に規定する著作権等管理事業者が管理するものであるときは、当該著作権等管理事業者が定める同法第十三条第一項に規定する使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定により算出したその著作権又は著作隣接権に係る著作物等の使用料の額(当該額の算出方法が複数あるときは、当該複数の算出方法によりそれぞれ算出した額のうち最も高い額)をもつて、前項に規定する金銭の額とすることができる。

 これも文化庁の審議会の報告書通りで、この部分については著作権等管理事業者の使用料規程を用いた現行の推定規定の明確化と言って良く、大きな問題になることはないだろう。

 そして、アクセスコントロール規制については、以下のようなかなり長い関連条文を入れることとしている。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
二十一 技術的利用制限手段 電磁的方法により、著作物等の視聴(プログラムの著作物にあつては、当該著作物を電子計算機において利用する行為を含む。以下この号及び第百十三条第三項において同じ。)を制限する手段(著作権者、出版権者又は著作隣接権者(以下「著作権者等」という。)の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物等の視聴に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

(侵害とみなす行為)
第百十三条
(略)
 技術的利用制限手段の回避(技術的利用制限手段により制限されている著作物等の視聴を当該技術的利用制限手段の効果を妨げることにより可能とすること(著作権者等の意思に基づいて行われる場合を除く。)をいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)を行う行為は、技術的利用制限手段に係る研究又は技術の開発の目的上正当な範囲内で行われる場合その他著作権者等の利益を不当に害しない場合を除き、当該技術的利用制限手段に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。

第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作権、出版権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、同条第四項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第五項若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第六項第百十三条第五項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 技術的保護手段の回避若しくは技術的利用手段の回避を行うを行うことをその機能とする装置(当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは技術的保護手段の回避若しくは技術的利用手段の回避を行うを行うことをその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあつては、著作権等を侵害する行為を技術的保護手段の回避により可能とし、又は第百十三条第三項の規定により、著作権、出版権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を技術的利用制限手段の回避により可能とする用途に供するために行うものに限る。)をした者
 業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避又は技術的利用手段の回避を行つた者
(以下略)

 この部分は非常に難解だが、文化庁の審議会報告書通り、「著作権者等の利益を不当に害しない場合を除」くとされているものの、やはりそもそも著作権法が対象としていない単なる「視聴」を制限する手段の「回避」そのものが規制され、その回避装置又はプログラムの譲渡等までが規制されるという内容で、非常に大きな問題があると言わざるを得ない。

 この法改正案によってDRM回避規制がどうなるかの概略を第266回に載せた表を作り直して示すと、以下のようになるだろう。(赤字が変更部分。なお、このように視聴(利用)制限回避装置等の譲渡等に対して著作権法でも刑事罰が導入されることとなると、刑事罰に関しては著作権法と不正競争防止法とで適用対象にほぼ違いがなくなる。)

Derm_table4

 internet watchの記事にも書かれているように、この法改正案が通ると、正当化理由を考えづらいマジコン・MODチップや不正B−CASカードなどについて利用そのものが著作権法上違法と評価される可能性が高いだろうが、ここで、「著作権者等の利益を不当に害しない」という例外によってケースバイケースで判断されることになると考えられるものの、同記事で引用されているMIAUの意見書でより一般的に書かれているように、ユーザーが自分の機器で自由なソフトウェアを動作させるための回避行為が著作権法上違法とされかねないのは問題である。さらに、正規ライセンス品ながらDVD、BDやゲームソフトのリージョン設定を回避する場合や、遠隔でコンテンツを視聴・利用する場合や、自己所有のコンテンツが古くなり対応機器等が提供されなくなった時に回避する場合や、回避を他人に手伝ってもらう場合など、微妙なケースが多々考えられ、個人の情報アクセスそのものに影響するこの単純アクセスコントロール回避規制導入の問題は決して小さいものではない。

(2)特許法改正案
 特許法改正案に含まれているのは、発明の新規性喪失の例外期間(グレースピリオド)の6月から12月への延長と、期間補償のための特許権の存続期間の延長制度だが、グレースピリオドは特許法第30条に書き込まれた期間を1年に変更しているだけなので条文は飛ばすとして、特許の保護期間の延長については、第67条に以下のような第2項及び第3項を足し、さらに第67条の2から延長登録出願についての規定を入れるとしている。

第六十七条  特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。

 前項に規定する存続期間は、特許権の設定の登録が特許出願の日から起算して五年を経過した日又は出願審査の請求があつた日から起算して三年を経過した日のいずれか遅い日(以下「基準日」という。)以後にされたときは、延長登録の出願により延長することができる。

 前項の規定により延長することができる期間は、基準日から特許権の設定の登録の日までの期間に相当する期間から、次の各号に掲げる期間を合算した期間(これらの期間のうち重複する期間がある場合には、当該重複する期間を合算した期間を除いた期間)に相当する期間を控除した期間(以下「延長可能期間」という。)を超えない範囲内の期間とする。
(以下略)

 ここについて何か問題があるということはないのだが、ここで省略した第67条第3項の1〜10号で様々な控除期間が非常に細かく列挙されており、実際の計算はかなりややこしいものになりそうである。

(3)商標法改正案
 商標法改正案の主な内容は法定賠償制度の導入だけだが、これについてはやはり損害額の推定を規定する第38条に以下のような第4項を追加するとしている。

(損害の額の推定等)
第三十八条
(略)
 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その侵害が指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。第五十条において同じ。)の使用によるものであるときは、その商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。

 これはこれで変な規定だと思うが、概要(pdf)に書かれている通り、損害の最低額として、商標権の取得及び維持に通常要する費用である、商標出願料3,400円+(8,600円×商品の種類数)+登録料28,200円×商品の種類の数という金額を請求できるというだけであれば、そう莫大な額になるといったことはなく、濫用の危険が全くないとまでは言い切れないものの、大きな問題になることはやはりないだろう。

(4)地理的表示保護法改正案
 報道こそ多少されていたものの、これまで農水省でそのために審議会が開催されていた様子がなく、最も内容が不明だった地理的表示保護法改正案について今回の条文の公開で初めて詳細が分かったと言って良いのではないかと思うが、その主な内容は、以下のような外国の特定農林水産物等に関する特例によって、農林水産大臣は外国の地理的表示保護のための指定ができるとするものである。

第四章 外国の特定農林水産物等に関する特例

(外国の特定農林水産物等の指定)
第二十三条
 農林水産大臣は、我が国がこの法律に基づく特定農林水産物等の名称の保護に関する制度と同等の水準にあると認められる特定農林水産物等の名称の保護に関する制度(以下「同等制度」という。)を有する外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。以下この項において同じ。)であって、次の各号のいずれにも該当するもの(以下「締約国」という。)と相互に特定農林水産物等の名称の保護を図るため、当該締約国の同等制度によりその名称が保護されている当該締約国の特定農林水産物等について指定をすることができる。
 次に掲げる事項をその内容に含む条約その他の国際約束を我が国と締結していること。
 当該外国が同等制度により我が国の特定農林水産物等の名称を保護すべきものとされていること。
 我が国がこの法律により当該外国の特定農林水産物等の名称を保護すべきものとされていること。
 前号の国際約束において保護すべきものとされている我が国の特定農林水産物等の名称について、その適切な保護を我が国又は当該特定農林水産物等に係る登録生産者団体が当該外国の権限のある機関に要請した場合には、必要な措置を講ずると認められること。

 前項の指定(以下単に「指定」という。)は、次に掲げる事項を定めてするものとする。
 当該特定農林水産物等の区分
 当該特定農林水産物等の名称
 当該特定農林水産物等の生産地
 当該特定農林水産物等の特性
 前各号に掲げるもののほか、当該特定農林水産物等の生産の方法その他の当該特定農林水産物等を特定するために必要な事項
 前各号に掲げるもののほか、当該特定農林水産物等について農林水産省令で定める事項

(以下略)

 これも特に問題があるという話ではないが、TPP協定上必ずしもこのような指定制度による外国の地理的表示の保護が求められている訳ではないということは注意しておいても良いだろう。

(コメントを受けた追記:私はこのような指定制度はTPP協定上必ずしも必要とされないと考えているが、この地理的表示法の改正案はTPP協定第18章(知財章)第18.36条に対応するもののようである。)

(5)施行期日
 最後に、施行期日は、附則により以下のように規定されている。

(施行期日)
第一条 この法律は、環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日(第三号において「発効日」という。)から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
 附則第九条の規定 公布の日
 第三条中商標法第二十六条第三項第一号の改正規定及び第十条の規定 公布の日から起算して二月を超えない範囲内において政令で定める日

(中略)

(特許法の一部改正に伴う経過措置)
第二条 第二条の規定による改正前の特許法第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至った日が、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)の六月前の日前である発明については、第二条の規定による改正後の特許法(次項及び第三項において「新特許法」という。)第三十条第一項及び第二項の規定にかかわらず、なお従前の例による。

 実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第三条第一項各号のいずれかに該当するに至った日が、施行日の六月前の日前である考案については、同法第十一条第一項において準用する新特許法第三十条第一項及び第二項の規定にかかわらず、なお従前の例による。

 施行日又は環太平洋パートナーシップ協定が署名された日から二年を経過した日のいずれか遅い日以前にした特許出願に係る特許権の存続期間の延長については、新特許法の規定にかかわらず、なお従前の例による。

(中略)

(著作権法の一部改正に伴う経過措置)
第七条 第八条の規定による改正後の著作権法(次項及び第三項において「新著作権法」という。)第五十一条第二項、第五十二条第一項、第五十三条第一項、第五十七条並びに第百一条第二項第一号及び第二号の規定は、施行日の前日において現に第八条の規定による改正前の著作権法(以下この項において「旧著作権法」という。)による著作権又は著作隣接権が存する著作物、実演及びレコードについて適用し、同日において旧著作権法による著作権又は著作隣接権が消滅している著作物、実演及びレコードについては、なお従前の例による。

 新著作権法第百十六条第三項の規定は、著作者又は実演家の死亡の日の属する年の翌年から起算して五十年を経過した日が施行日以後である場合について適用し、その経過した日が施行日前である場合については、なお従前の例による。

 新著作権法第百二十一条の二の規定は、同条各号に掲げる商業用レコード(当該商業用レコードの複製物(二以上の段階にわたる複製に係る複製物を含む。)を含む。)で、当該各号の原盤に音を最初に固定した日の属する年の翌年から起算して五十年を経過した日が施行日前であるもの(当該固定した日が昭和四十二年十二月三十一日以前であるものを含む。)については、適用しない。

 これも想定通り、施行日はTPP協定の発効日とされており、著作権の保護期間延長の遡及適用もないとされているが、附則第1条第2号で、法改正案(pdf)の知財関連改正法案の中でも第10条に書かれている地理的表示保護法改正案だけはTPPの発効とは無関係に「公布の日から起算して二月を超えない範囲内において政令で定める日」とされていることには留意が必要だろう。上で書いた通り、地理的表示保護法改正案だけはTPP関連と言いながらTPP協定で必須とされているものではないので、このような形にしたのではないかと思われるのである。(なお、テクニカルな話だが、商標法第26条第3項第1号も地理的表示保護法の改正にともなう改正である。)

(コメントを受けた追記:この地理的表示保護法の施行日が早いのは、TPP協定第18章(知財章)第18.36条第6項で国際協定に基づく地理的表示の保護がTPP協定合意後に合意した国際協定に課され得るとされているためのようであるが、この第18.36条第6項は適用対象を定めているだけであって、TPP協定が効力を有するのはあくまで発効日であるので、やはりTPP協定上の地理的表示保護の義務を最低限担保するだけであればテクニカルにはこのようなやり方でなければならないということはなかったのではないかと思う。)

 ざっと法改正案の条文を読んでみたが、特に保護期間延長、アクセスコントロール回避規制の導入及び限定つきながら非親告罪化を含む著作権法改正案の問題はそのまま残されている。私がこのような非道な知財規制の強化を含む法改正に、そもそもTPP協定の批准に反対であることに変わりはない。

(2016年3月10日夜の追記:アクセスコントロール規制について、念のため、改正法案中の引用部分で抜けていた第119条(刑事罰除外規定)を追加した。また、上で書いた通り、書き込まれている年数を変更しているだけで条文の問題にはならないが、著作権の保護期間延長については概要(pdf)の下の表が一覧として見る分には便利なので、これも念のため引用しておく。

Extension

(2016年3月12日夜の追記:コメントを受けて地理的表示保護法改正について上に文章を追記した。)

(2016年3月13日夜の追記:アクセスコントロール回避規制について、補足として、「この法改正案によって〜この単純アクセスコントロール回避規制導入の問題は決して小さいものではない。」の文章を追加した。)

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2016年2月28日 (日)

第359回:TPP協定のための特許法と商標法の改正の概要(2月12日の特許庁・産業構造審議会・知的財産分科会の資料)

 著作権法とは違い、そう大きな問題を含んでいる訳ではないのだが、TPP協定批准のためには著作権法だけではなく、特許法や商標法などの他の知的財産法も改正が必要となる。

 その法改正内容の概要については、特許庁で2月12日に開催された産業構造審議会・知的財産分科会で必要となる法改正の概要が示されているので、今まで書いて来たことと多く重なるが、念のため、その内容を見ておきたい。(なお、法運用としては、職務発明ガイドラインの話など他の話も重要でないということはないのだが、ここでは省略する。)

 その概要は、その中の特許庁の資料、TPP協定を担保するための特許法改正について(pdf)の6ページに、

○新規性喪失の例外規定について
・発明の新規性喪失の例外期間(グレースピリオド)について、現行の公表等から6月を12月に延長する。

○期間補償のための特許権の存続期間の延長制度について
・特許権の存続期間について、特許出願の日から5年を経過した日又は出願審査の請求があった日から3年を経過した日のいずれか遅い日(以下「基準日」という。)以後に、特許権の設定の登録があった場合に、出願により延長することを可能とする。
・延長が可能な期間は、基準日から特許権の設定の登録の日までに相当する期間から、特許庁の責めに帰さない理由により経過した期間及び審判・裁判の期間等の特許出願に係る手続や審査に要した期間以外の期間を控除した期間とする。
・存続期間の延長登録に対する無効審判制度その他所要の制度を整備する。

と、同じくTPP協定を担保するための商標法改正について(pdf)の4ページに、

○民法の原則を踏まえ、追加的な損害賠償ではなく、法定の損害賠償に関する規定を整備する。

○具体的には、商標の不正使用による損害の賠償を請求する場合において、当該登録商標の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を損害額として請求できる規定を追加する。

と、それぞれ書かれている。

 これらは、今まで政府のTPP関連政策大綱などで示されていたこととほぼ一緒で、グレースピリオド(特許法において出願より前に公表したとしても例外的に新しい発明であると認められる期間)の変更、不合理な遅延を理由とした特許期間の延長、商標法における法定賠償制度の導入の3つなのだが、見るべきは、この資料で商標法における法定賠償制度の内容について多少詳細が示されたことだろう。前回取り上げた著作権法の場合と同様、商標法においても、民法の原則(填補賠償の考え方)を踏まえ、法定賠償として請求できるのは「登録商標の取得及び維持に通常要する費用に相当する額」を請求可能とすることとしているのである。

 具体的な条文の書き方にもより、「登録商標の取得及び維持に通常要する費用に相当する額」がどの程度の額を意味するか解釈の幅があり得るとも考えられるものの、民法の原則である填補賠償の考え方に従っている限り、これがそう大きな額になるということはなく、商標権の取得・維持のためにかかる出願料と登録料程度を意味すると考えておけば良いのだろう。(そうだとしても濫用の危険については十分注意する必要があるが。)

 そのため、TPP協定に絡む特許法と商標法の改正に関しては著作権法の場合のような問題はそこまでないと思えるが、特許庁がTPPに絡む法改正のような重要な論点を含む検討を一般に分かりにくい形で行っていることはやはり問題だろう。

 また、最後に合わせて先週2月24日の文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会で取りまとめられた報告書の内容も見ておくと(文化庁のHPにはまだ掲載されていないが、MIAUがそのツイートの通り資料をアップロードしてくれている)、前々回取り上げた2月10日時点の資料と比べ多少注釈や関係者の意見が追加されているくらいで大きな方針の変更は全くない。

 ただし、前回取り上げた法定賠償制度に関する部分で、協定との関係について以下のような補足の記載が多少追加されているのは、国会での議論を受けて文化庁内部で検討した結果だろうか。

「権利者を補償するために十分な額に定め,及び将来の侵害を抑止することを目的とする」(TPP協定第18・74条第8項)との関係については,現行規定による所定の損害額の請求が可能であることによりこれらの要件を満たし得るとの意見が示された。特に,「将来の侵害を抑止することを目的とする」との規定との関係については,填補賠償を認める現行制度が侵害を抑止する効果を発生させるものであると評価できること,及びTPP協定は自国の法制等の範囲内で協定上の義務を実施することを許容していることから,現行制度によって協定上の当該義務は満たし得るとの意見があった。(第36ページ)

これに関連して,最高裁は,我が国の損害賠償制度について,「加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではない」とするー方で,「もっとも,加害者に対して損害賠償義務を課すことによって,結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても,それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的,副次的な効果にすぎず,加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである」と判示しており,加害者に損害賠償責任を負わせることにより,同種の侵害が抑止され,一般予防が図られるという副次的効果が生ずることがあることを認めている。(萬世工業事件最高裁判決[最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁])。(同第36ページ注93)

なお,新たに整備すべき制度の対象は著作権等管理事業者により管理されている著作物等に限られることとなる点について,協定上の義務との関係をどのように理解すべきかが問題となりえる。この点,今回の制度改正の趣旨は,前記のとおり, 「法定の損害賠償」との関係では,全ての著作物等に適用される法第114条第3項等の規定が既に整備されているところ,これを前提としつつ,協定の趣旨をより適切に反映する観点から,填補賠償原則の枠内で更なる制度の改善の余地がある部分について制度の整備を行うこととするものである。(第39ページ)

 2月29日に文化庁で著作権分科会が開かれるが、恐らく報告書の内容にさらに変更が加えられることはないだろうし、特許庁でもまた審議会が開かれる様子はないので、報道されているように、政府としてはこれらの資料の内容通りの法改正案を3月8日に閣議決定するつもりなのだろう。

 しかし、アメリカでも大統領選を前にTPP反対論がかなり出て来ている中でどうして日本政府がそこまでTPP関連法案の可決を急ぐのか、その著作権法改正案などの施行がTPP発効に合わされるだろうことを考え合わせても実に不可解と言う他ない。私は無論TPP協定の批准にも、これらの法改正案の内容にも反対だが、たとえTPP協定批准のために関連法改正案を検討するにしても、アメリカを中心として他の国の動向も見ながらもっと慎重に進めるべきだろう。

(2016年2月29日の追記:産業構造審議会・知的財産分科会は開催案内が出されており、非公開というのは私の勘違いだったので、記載を修正した(「一般に非公開の形で」→「一般に分かりにくい形で」)。)

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2016年2月21日 (日)

第358回:法定損害賠償制度の見直しを求めるアメリカ商務省の報告書

 先週金曜2日19日の衆議院予算委員会での民主党の福島伸享議員の質問によってにわかにTPP協定により導入を求められている法定損害賠償が話題となっているが(衆議院インターネット中継huffingtonpost.jpの記事ねとらぼの記事参照)、国会でのこのような議論を受け、場合によっては何かしらさらに国内でのTPP問題がややこしくねじれることもあるかも知れないと私は危惧している。

 アメリカでは、著作権法上の法定損害賠償として、その第504条第(c)項に著作物毎に通常750ドルから3万ドル、故意の場合はさらに15万ドルまで増額できるとして非常に大きな額が条文に書き込まれている(米著作権局HPの条文又は著作権情報センターHPの翻訳参照)。しかも、これは著作物一つあたりの額なので、多数の著作物が侵害される場合、個人には到底支払うことができない(恐らく企業であっても支払い難い)莫大な損害賠償額が請求され得るというのがその最大の問題である。

 その問題は私もパブコメ等で何度も指摘しているが、今まで前提をかなり飛ばして書いてしまっているところもあり、丁度良くつい最近の1月28日にアメリカ商務省の出したリミックス、ファーストセール及び法定損害賠償に関する白書(pdf)概要(pdf)リリース1も参照)はアメリカの制度とその問題を知る上で恰好の内容を含んでいるので、今回はこの報告書の内容を紹介する形で、その前提も含め、法定損害賠償の問題を取り上げたいと思う。

 なお、この報告書中のリミックスやファーストセールドクトリンの話も重要でないということはないのだが、それぞれ、リミックスについてはガイドラインを作るべきと、ファーストセールドクトリンについてはデジタル販売にまで拡張するのは時期尚早とそこまで踏み込んだ提言にはなっていないのでここでは省略し、一番大きな見直しを提言している法定損害賠償制度に関する部分のみ取り上げる。

 まず、この報告書の概要(pdf)から、法定損害賠償に関する部分を抜き出すと以下のようになる。(以下、例によって翻訳は全て拙訳。)

The Task Force is mindful that statutory damages serve a critical compensatory and deterrent function, and are particularly important in cases of online infringement, where the scope of the infringing use may not be ascertainable. At the same time, however, excessive and inconsistent awards can risk encouraging disrespect for copyright or chilling investment in innovation. The Task Force's inquiry focused on the appropriate calibration of statutory damages that may be assessed against individual file‐sharers and against online services, which can be secondarily liable for infringement of large numbers of works. It recommends the following three amendments to the Copyright Act to address some of the concerns presented:

  • Incorporate into the Copyright Act a list of factors for courts and juries to consider when determining the amount of a statutory damages award, providing a greater degree of predictability in infringement cases across the country. In considering what factors should be included, the Task Force drew upon existing model jury instructions as well as federal case law.
  • Amend the copyright notice provisions to remove a bar to eligibility for the lower "innocent infringement" statutory damages awards.
  • In cases involving non‐willful secondary liability of online services offering a large number of works, give courts discretion to assess statutory damages other than on a strict per‐work basis.

The Task Force also supports the creation of a streamlined procedure for adjudicating small claims of copyright infringement and believes that further consideration should be given to the proposal of the Copyright Office to establish such a tribunal. This could help diminish the risk of disproportionate levels of damages against individual file‐sharers.

タスクフォースは、法定損害賠償は重要な補償及び抑止機能を果たすものであり、侵害利用の範囲が不明確となり得るオンライン侵害の場合に特に重要であることに留意する。同時に、しかしながら、過大で一貫性のない賠償は著作権の軽視を助長したり、イノベーションへの投資を萎縮させたりする恐れがある。タスクフォースの調査は、個人のファイル共有と、多数の著作物の侵害について二次的な責任を負い得るオンラインサービスに課され得る法定損害賠償の適切な見直しに焦点をあてたものである。タスクフォースは、示された幾つかの懸念への対処として以下の3つの著作権法の改正を勧告する。

  • 法定損害賠償の額を決定する際に裁判所と陪審員が考慮するべき要素のリストの著作権法への導入、これは全国で侵害事件における予見可能性をより高めるものである。どのような要素が入れられるべきかを検討するにあたり、タスクフォースは既存のモデル陪審説示並びに連邦判例法を利用した。
  • 「罪のない侵害」の場合の法定損害賠償の減額に対する適格性の障害を除去するための著作権ノーティス規定の改正。
  • 多数の著作物を提供するオンラインサービスの故意でない時の二次責任に関する場合に、厳密に著作物数を基礎とする以外に法定損害賠償を評価する裁量を裁判所に与えること。

タスクフォースはまた著作権侵害の少額訴訟を裁定するための簡素な手続きの創設を支持し、さらなる検討がそのような裁定所を確立する著作権局の提案のために加えられるべきであると考える。このことは個人のファイル共有に対する不釣り合いな損害賠償の危険を解消することに役立つであろう。

 ここで、アメリカ商務省が「過大で一貫性のない賠償は著作権の軽視を助長したり、イノベーションへの投資を萎縮させたりする恐れがある」と認め、法定損害賠償を制限する方向への法改正を勧めていることの意味は大きいだろうし、この概要部分だけでも簡にして要を得ていると思うが、さらに詳しく見るために、報告書本文(pdf)から、ポイントとなるを抜き出して行くと、まず、個人によるファイル共有侵害との関係における問題について、70ページ以降に以下のように書かれている。

a. The Level of Statutory Damages

The Task Force heard differing viewpoints about whether the full range of statutory damages permitted under current law should be applied to individual file-sharers. Many commenters addressed the perceived fairness of enforcement activities vis-a-vis individual defendants generally, including whether the possibility of large statutory damages awards impedes individuals' ability to defend themselves or gives rise to abusive tactics. The Task Force also received proposals that addressed other concerns about litigation against individual file-sharers.

Much of the discussion focused on the only two such cases with reported trial verdicts, both of which resulted in high statutory damages awards that received considerable publicity.

Those favoring an adjustment of the permissible range of statutory damages pointed to the large jury awards in these cases as examples of the "unpredictability and irrationality" of the statutory damages regime. According to those commenters, individual file-sharers who infringe a handful of works for private, non-commercial purposes should not be required to pay damages that are disproportionate to the market value of the works. Nor, in their view, does it make sense to impose large damages awards on individuals who cannot pay anywhere near the amounts awarded. Some argued that the awards in these cases "exceed[ed] any rational measure of deterrence," noting potential due process concerns.

...

b. Inconsistencies in Application

A number of commenters asserted that because there is no specific set of factors or guidelines to be used in calculating statutory damages awards, troubling inconsistencies in their levels can arise. One commenter pointed out that damages are "untethered from anything." While few examples involving file sharing were offered, the four different verdicts in the two cases discussed above represent a wide array of awards based upon similar or identical facts.

Copyright owner groups as well as consumer advocates and other stakeholders suggested that it would be helpful to provide courts with guidance on factors to consider when setting statutory damages awards. Several noted that although some model jury instructions already exist, they are not being used in a consistent manner or in every circuit.

c. Litigation Abuse

Several commenters claimed that the potential high levels of statutory damages are linked to troubling enforcement tactics, often at the expense of individual defendants. In their view, the statutory damages regime has helped foster a "nationwide plague of lawsuit abuse over the past three years" by entities that they label "copyright trolls." They pointed to reports that attorneys representing copyright holders have filed hundreds of lawsuits against tens of thousands of anonymous Internet users, representing a substantial percentage of copyright suits filed in the federal courts in recent years. According to the commenters, these cases are rarely if ever litigated; instead, attorneys file "boilerplate complaints based on a modicum of evidence, calculated to maximize settlement profits by minimizing costs and effort" and use the courts' subpoena power to identify Internet users, often in multiparty John Doe actions. Then, commenters allege, they engage in a campaign of threats of high potential damages and harassment to coerce their targets into paying settlements of $2,000 to $10,000. This is a particular concern with respect to suits about copyrights covering adult content, where the TaskForce has noted a large number of settlements that may have been motivated in part by the defendants' desire to avoid having their names associated with such content. Such "predatory" enforcement may contribute to a negative public image of copyright.

This behavior was characterized as the product of a "litigation business model where a plaintiff uses copyright law ‘not to protect its property from unlicensed use, but rather to generate profit from use even in the absence of articulable harm to' the plaintiff." One commenter stated that"[h]olders of low-value copyrights in unsuccessful movies or low-cost pornography, and even invalid assignments of rights in newspaper articles, use the threat of statutory damages to turn litigation threats into a profit center." Another predicted that if statutory damages were calibrated to much lower levels, then this behavior would disappear.

...

a.法定損害賠償の水準

タスクフォースは、現行法において許されている法定損害賠償の全範囲が個人のファイル共有に適用されるべきかということについて様々な見解を聞いた。多くの意見は、巨額の法定損害賠償の可能性が個人の被告の自己弁護能力を阻害しているか、濫用戦略をもたらしているかについても含め、一般的に個人のファイル共有に対する権利行使について知覚される公平性に向けられていた。タスクフォースは、個人のファイル共有に対する訴訟に関する他の懸念に対処する提案も受けた。

議論は多く、ともに大きく喧伝されている、高額の法定損害賠償をもたらした、報告された判決のあったそのような2つのケースにほぼ集中していた。

彼らは法定損害賠償のあり得る範囲の適正化を支持し、法定損害賠償制度の「予見不能性と不合理性」の例としてこれらのケースにおける巨額な陪審員賠償をあげた。これらの評者によれば、私的に非商業目的で一握りの著作物を侵害する個人のファイル共有について、その著作物の市場価値と不釣り合いな損害賠償を支払うことは求められるべきではない。また、彼らの見解では、如何なる場合でもそのような損害賠償額をほぼ支払うことができない個人に高額の損害賠償を課すのは馬鹿げている。何人かは、これらのケースにおける賠償は「抑止の合理的な手段を超えている」と主張し、潜在的な適正な法的手続きに対する懸念を示した。

(略)

b.法適用における一貫性のなさ

数多くの評者が、法定損害賠償を算定するための特定の要素一式又はガイドラインがないことから、その水準における問題の多い一貫性のなさが生じ得ると主張している。ある評者は、損害賠償は「あらゆることから解き放たれている」と指摘している。ファイル共有がからむ例は多く提供されていないが、上記の2つのケースにおける4つの異なる判決が同様の又は同一の事実に基づく賠償の広い幅を示している。

著作権者のグループ並びに消費者の代表及び他の利害関係者は、法定損害賠償を決定する際に考慮する要素についてのガイドを裁判所に提供することが助けになると示唆している。何人かは、モデル陪審説示が既に存在しているものの、それは一貫性のある形であるいはあらゆる法廷で使われていないと注意している。

c.訴訟の濫用

何人かの評者は、潜在的に高い水準の法定損害賠償が問題の多い権利行使戦略に結びついており、個々の被告に被害を与えていることも多いと訴えている。彼らの見解では、法定損害賠償制度は、彼らが「著作権トロール」と名づける主体による「3年来の全国での訴訟の濫用の大発生」を助長して来た。彼らは、著作権者を代理する弁護士が何万人という匿名のインターネットユーザに対して何百という訴訟を提起し、これが近年連邦裁判所に提起された著作権訴訟のかなりの割合を占めている可能性があるとの報告があることを指摘している。これらの評者によれば、これらのケースにおいて訴訟が遂行されることはまれである。そうではあるが、弁護士たちは「費用と労力を最小化しながら最大の和解の利益を受けられると見込んで僅かな証拠に基づいて定型の訴えを提起しており」、インターネットユーザを特定する裁判所の召喚権限を用い、これは多数の関係者を含むジョン・ドウ(名なし)裁判によることも多い。すなわち、これらの評者の主張するところ、彼らはあり得る高額の損害賠償により脅迫し、嫌がらせによって相手を2千ドルから1万ドルの和解金を支払うよう追い込むキャンペーンに従事している。このことはアダルトコンテンツを含む著作権に関する訴訟に関して特に懸念される、タスクフォースは、そこではそのようなコンテンツと自身の名前が結び付けられることを避けたいと思う原告の望みがその動機の一部になっている多数の和解があると注意する。このような「人を食い物にする」権利行使は著作権の否定的なイメージの流布に寄与しているであろう。

この振る舞いは、「原告が『不正な利用からその所有権を保護するためではなく、どちらかと言えば、原告に明確に言える害が存在しない場合における利用から利益を生み出すため』に著作権法を利用している訴訟ビジネスモデル」が作り出したものとして特徴づけられる。ある評者は、「成功しなかった映画又は低費用のポルノグラフィーにおける価値の低い著作権の所有者が、また新聞記事の無効な権利譲渡によってすら、法定損害賠償による脅迫を利用して訴訟による脅迫をプロフィットセンターとしている」と述べている。他のある評者は、法定損害賠償が遥かに低い水準に補正されていれば、この振る舞いは消えるだろうと予測している。

(略)

 次に、二次的な責任、つまり、インターネットサービスプロバイダーの間接侵害責任との関係における問題ついて、79ページ以降に以下のように書かれている。

a. Chilling Effects

With respect to online service providers, the question posed by the Task Force was how statutory damages should be calculated in cases involving secondary liability where hundreds of thousands of works may have been infringed. In addition to concerns expressed about statutory damages generally, the comments most relevant to this question focused on whether potentially huge statutory damages awards have a "chilling effect" on innovation and investment.

Critics of the current statutory damages regime pointed to a number of lawsuits against technology companies, generally involving services offering methods of digital distribution that enable large-scale copyright infringement by third parties. In determining the responsibility of these companies for the illegal activities of the users, the courts have applied various theories of direct and secondary liability. Although many of these cases ultimately settled, the levels of potential liability have fueled headlines and commentary.

Technology companies and public interest advocates asserted that the magnitude of statutory damages awards available in such cases have had a chilling effect on innovation and investment. One commenter cited an amicus curiae brief to the Supreme Court by a group of venture capitalists arguing that statutory damages have "crushing implications for vendors of multi-purpose technologies, where damages from unforeseen users can quickly mount in the millions or even billions of dollars[,]" and that in this respect secondary liability for copyright infringement is "qualitatively different from most other sorts of business risks that investors can insure against or build into their business calculations." Another commenter pointed to a survey of investors in digital content intermediaries that it said confirmed "that uncertainty around liability risks deter[ring] investment in this field."

Commenters also pointed to innovative companies that they say were bankrupted by litigation even though they were ultimately found to be non-infringing. According to one commenter, potential statutory damages will deter some new business plans that rely on fair use from moving forward. At the same time, several noted that "[e]vidence for the innovation-chilling effect will ... usually not be readily apparent. In most cases, the public doesn't see and will likely never know about the innovations that don't happen and the features that aren't offered."

...

a.萎縮効果

オンラインサービスプロバイダーに関して、タスクフォースが出した質問は、何十万の著作物が侵害される二次責任が絡む場合にどのように法定損害賠償が算定されるべきかというものである。法定損害賠償について一般的に示された懸念に加えて、ほぼこの質問に関する回答は、莫大なものとなり得る法定損害賠償がイノベーションと投資に対し「萎縮効果」を有するかどうかということに集中していた。

現行の法定損害賠償制度の批判者は、一般的に第三者による大規模な著作権侵害を可能とするデジタル頒布手段を提供するサービスに関わるテクノロジー企業に対する数多くの訴訟があることを指摘している。これらの企業のそのユーザの違法な活動に対する責任を決定する際、裁判所は直接及び二次責任の様々な理論を適用して来た。これらのケースの多くが最終的に和解しているものの、あり得る責任の水準が見出しと論評に燃料を提供して来た。

テクノロジー企業と公共の利益の擁護者は、このような場合に適用され得る多額の法定損害賠償はイノベーションと投資に対し萎縮効果を有していると主張している。ある評者は、法定損害賠償は「予見できないユーザによる損害賠償が即座に何百万ドルか、何十億ドルかにも積み上がり得る、多目的技術の販売業者にとって破壊的な意味を持ち得」、この点で著作権侵害の二次責任は「投資家がそれに対して保険を掛け得るか、そのビジネス勘定の中に組み入れることのできる他のほとんどのビジネスリスクと質的に異なる」と主張するベンチャーキャピタリストのグループから最高裁判所へのアミカスブリーフを引用していた。他のある評者は、「責任リスクに関する不確実性がこの分野への投資を抑止している」のは確かであると言っているデジタルコンテンツ仲介者についての投資家の調査があることを指摘している。

評者は、イノベーション企業は最終的に非侵害であるとされたとしても訴訟で破産し得ると指摘している。ある評者によれば、あり得る法定損害賠償は、フェアユースに依拠する新たなビジネスプランを前に進めることを抑止することもあるであろう。同時に、何人かは、「イノベーションの萎縮効果についての証拠は…通常簡単に出て来ない。ほとんどの場合において、公衆は、起こらなかったイノベーションと提供されなかった機能を見ることはなく、それについて知ることも決してないであろう」と指摘している。

(略)

 最後に、これに対する解決策の提言としては、第85ページ以降に、以下のように書かれている。

1. Overview

In reviewing the positions and proposals set forth by stakeholders, the Task Force is mindful that statutory damages are intended to "provide reparation for injury" as well as to "discourage wrongful conduct." We agree that there is a need for effective enforcement tools, including meaningful statutory damages, to curb the online piracy that can undermine the value of rights and hobble the development of legitimate markets. At the same time, however, it is important to avoid excessive and inconsistent awards that risk encouraging disrespect for copyright law or chilling investment in innovation. And the abusive enforcement campaigns reported by commenters should not be tolerated.

Accordingly, the Task Force recommends three amendments to the Copyright Act to address some of the concerns presented and to better balance the needs of copyright owners, users, and intermediaries. First, we recommend incorporating into the statute a list of factors for courts and juries to consider when determining the amount of a statutory damages award. Second, we recommend changes to the copyright notice provisions that would expand eligibility for the lower "innocent infringement" statutory damages awards. We also propose that, in cases involving non-willful secondary liability for online services offering a large number of works, courts be given discretion to assess statutory damages other than on a strict per-work basis. Together, these changes should maintain the goals of compensation and deterrence that thestatutory damages regime supports while providing courts with improved tools to appropriately calibrate the awards.

2. Recommendations

a. Specify Factors in the Copyright Act to Consider in Assessing Statutory Damages

The Task Force recommends that Congress enact a new paragraph in Section 504 of the Copyright Act specifying factors that must be considered when determining statutory damage award amounts. The aim is to ensure a greater degree of predictability in copyright infringement cases across the country and address some other concerns raised in this proceeding. In considering what factors should be included, we have drawn upon existing model jury instructions as well as federal case law. The Task Force considered proposing federal model jury instructions, but concluded that a statutory set of factors would be preferable since they will be binding on all courts. We believe that litigants and courts would be well-served by requiring consideration of a uniform set of factors designed to result in an appropriate award based upon the facts of each case.

The nine factors listed below are those that will most often be applicable in a statutory damages determination. We believe that they should be non-exclusive, so that courts are not foreclosed from considering other factors that may be relevant in a particular case.

The Task Force proposes a new clause in subsection Section 504(c) as follows:

FACTORS TO CONSIDER -- In making any award under this subsection, a court shall consider the following nonexclusive factors in determining the appropriate amount of the award:

(1) The plaintiff's revenues lost and the difficulty of proving damages.

(2) The defendant's expenses saved, profits reaped, and other benefits from the infringement.

(3) The need to deter future infringements.

(4) The defendant's financial situation.

(5) The value or nature of the work infringed.

(6) The circumstances, duration, and scope of the infringement, including whether it was commercial in nature.

(7) In cases involving infringement of multiple works, whether the total sum of damages, taking into account the number of works infringed and number of awards made, is commensurate with the overall harm caused by the infringement.

(8) The defendant's state of mind, including whether the defendant was a willful or innocent infringer.

(9) In the case of willful infringement, whether it is appropriate to punish the defendant and if so, the amount of damages that would result in an appropriate punishment.

When calculating the total award, all of these factors should be weighed holistically, in the context of the entire case, to ensure that the overall award is appropriate. Below we explain various factors' relevance to the issues raised in the comments and roundtables.

...

1.概観

利害関係者が示した位置と提案を検討するにあたり、タスクフォースは、法定損害賠償は「侵害に対する補填を提供する」とともに「不正行為を阻止する」ことを目的としていることに留意する。我々は、権利の価値を下げ、適法な市場の発展を阻害するオンライン海賊行為を抑制するために意味のある法定損害賠償を含む、有効な権利行使ツールの必要性があることを認めている。同時に、しかしながら、著作権の軽視を助長したり、イノベーションへの投資を萎縮させたりする恐れがある過大で一貫性のない賠償を避けることは重要である。そして、評者の報告する濫用的な権利行使キャンペーンは許容されるべきでない。

したがって、タスクフォースは、示された幾つかの懸念に対処し、著作権者、利用者及び仲介者の必要性をより良くバランスさせるために3つの著作権法改正を勧告する。第一に、法定損害賠償の額を決定する際に裁判所と陪審員が考慮するべき要素のリストの著作権法への導入を勧告する。第二に、我々は、「罪のない侵害」の場合の法定損害賠償の減額に対する適格性の障害を除去するための著作権ノーティス規定の改正を勧告する。我々はまた、多数の著作物を提供するオンラインサービスの故意でない時の二次責任に関する場合に、厳密に著作物数を基礎とする以外に法定損害賠償を評価する裁量を裁判所に与えることも提案する。合わせ、これらの修正は、賠償を適正に補正する改善されたツールを裁判所に与えつつ補償と抑止の目標を維持するべきである。

2.勧告

a.法定損害賠償の評価において検討するべき要素の著作権法における特定

タスクフォースは、議会が、著作権法の第504条において法定損害賠償額を決定する際に検討されなくてはならない要素を特定する新たな項を立法することを勧告する。その目的は、全国での著作権侵害事件における予見可能性の向上を確保し、本手続きにおいて提起された他の幾つかの懸念に対処することにある。どのような要素が入れられるべきかを検討するにあたり、我々はは既存のモデル陪審説示並びに連邦の判例法を利用した。タスクフォースはモデル陪審説示の提案も検討したが、全ての裁判所を拘束するものとなることから要素一式の法定の方が好ましいと結論づけた。それぞれのケースの事実に基づく適切な賠償をもたらすよう適切に設計された統一的な要素一式の考慮を求めることは訴訟当事者と裁判所に非常に役立つことであろうと我々は考えている。

以下にあげる9つの要素は法定損害賠償の決定において最も良く適用されるだろうものである。個別のケースにおいて関係して来得る他の要素を考慮することを排除されないよう、これらは非排他的なものであるべきと我々は考えている。

タスクフォースは第504条第(c)項に以下のような新条項を入れることを提案する。

考慮要素 − 本項の賠償を課すにあたり、裁判所は賠償の適正な額を決定する際に以下の非排他的要素を検討しなければならない:

(1)原告の逸失収入及び損害を証明する困難性。

(2)被告の低減された費用、かすめ取った利益及び侵害から来る他の便益。

(3)将来の侵害の抑止の必要性。

(4)被告の経済的状況。

(5)侵害された著作物の価値又は性質。

(6)それが商業的な性質を持つかどうかも含め、侵害の状況、継続性及び範囲

(7)複数の著作物の侵害が絡む場合において、侵害された著作物の数及び課される賠償の数を考慮に入れ、損害賠償の総額が侵害によって引き起こされた害全体に釣り合っているか。
(8)原告が故意か罪のない侵害者であるかも含め、被告の心理状態。

(9)故意の侵害の場合に、被告を罰するのが適切であるかどうか、そうであるとして、適正な罰となる損害賠償額。

全賠償額を算定する際、賠償全体が適正なものとなることを確保するよう、これらの要素の全てが、総合的に比較衡量されるべきである。以下で我々は意見と討論で提起された問題と様々な要素との関係を説明する。

(略)

 なお、報告書の第71ページの注414に、個人が被告となり、大きく報道された訴訟における損害賠償額として、タンネンバウム事件の67万5千ドル(侵害されたのは30著作物で、1著作物あたり2万2千500)、3つのトーマス事件でそれぞれ22万2千ドル、192万ドル、150万ドル(1著作物あたりそれぞれ9千250ドル、8万ドル、6万2千五百ドル)といった巨額の数字もあげられており、第94ページの注559に、違法ファイル共有に対する法定損害賠償の額として1著作物あたり典型的には750ドルと6千500ドルの間になっているという数字もあげられている。またなお、同じ注414に、多くのケースにおいて訴訟が法定損害賠償額の決定まで行くことは少ないとも書かれ、和解金の範囲は大体3千ドルから5千ドル程度か2千ドルから1万ドル程度とも書かれているが、このような和解金ですらそれなりに大きな額だろう。

 このような報告書を読めば、アメリカの法定損害賠償制度が実際の損害としてはあり得ないほど巨額のデタラメな損害賠償請求を可能としており、著作権トロールによる訴訟の濫用を招き、社会的混乱の原因となっていることが分かるだろうし、インターネットサービスプロバイダーとの関係でイノベーションに対する萎縮効果が生じている可能性が指摘されていることも分かるだろう。アメリカにおいても、このような批判から、法定損害賠償制度について日本における填補賠償の考え方(損害賠償は実際の損害額を補填するものであるという考え方)に近づける形で見直すべきという提案が政府の省庁レベルで出されている状況にあるのである。(ただし、アメリカのことなので、日本と違って、政府省庁が報告書を作ったからと言ってそのまま法改正がされるようなことはほぼないが。)

 そして、TPP協定と法定損害賠償の関係についてだが、TPP協定の条文上、第18.74条の第6項から第8項により、「あらかじめ定められた賠償」すなわち法定損害賠償を選ぶ場合には、「将来の侵害を防ぐ目的も含め、侵害から発生した損害に対し権利者を十分に補償するであろう額として設定されなければならない」とされているのはその通りととは言え、この条文に解釈の幅があることも間違いない。(TPP協定の条文は第532回の私の部分訳か、TPP政府対策本部知財章全文仮訳(pdf)参照。)

 このTPP協定の規定上の「将来の侵害を防ぐ目的」も含む法定損害賠償が本当にアメリカ型の懲罰的かつ抑止的なレベルの法定損害賠償制度を必ず意味するとしたならば、日本の民法上の填補賠償の考え方に全く合わないのは確かである。(前回取り上げた2月10日の文化庁の法制・基本問題小委員会環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等について(案)(pdf)でも引用されている萬世工業事件最高裁判決(pdf)がこのような懲罰的又は抑止的損害賠償の考え方を完全に否定している。)

 しかし、前回も書いた通り、今のところの文化庁の整理では、このTPP協定の法定損害賠償規定はそこまで強力な法定損害賠償制度の導入を求めているものではなく、上記の法制・基本問題小委員会の文化庁資料(pdf)においても、「(著作権法の)第114条第3項については、権利者が侵害行為により実際に生じた損害額や損害と侵害行為との因果関係の立証をせずに、侵害者に対して使用料相当額という一定の範囲の額の支払を求める制度であり、上記の『法定の損害賠償』の定義に該当するとして、我が国は同項によって『法定の損害賠償』を担保しているとする考え方も必ずしも排除されない」(第31ページ)、「TPP協定の求める趣旨をより適切に反映する観点から、第114条第3項等の現行規定に加えて、填補賠償原則等の枠内で、実際に生じる損害との関係について合理的に説明が可能な額を法定する規定を別途設けることが適当」(第32ページ)、「著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を同項の使用料相当額として請求することができる旨を法律上明記することが適当」とされている。このような条文の明確化が侵害の抑止に全く結びつかないということもなく、文化庁の今の整理は国際条約の解釈として完全に無理があるということもないだろう。

 2月19日の衆院予算委での、TPP協定で求められている法定損害賠償制度は日本の国内法の損害賠償の考え方(填補賠償の考え方)と合わないのではないかという、TPP協定の条文を普通に読むならば当然想定される民主党の福島伸享議員の質問に対する岩城法務大臣の回答は全く要領を得ず、一面正しいながら今の日本の国内法の整理では損害賠償は抑止効果を持たないとすら言ってしまっているのだが、どうして現職の法務大臣が政府の公開検討の内容すら十分に把握できていないのか正直かなり理解に苦しむ。

 最終的にアメリカから文句をつけられる可能性を排除できないとは言え、今ここでTPP関連法改正案をアメリカ型の強力な法定損害賠償制度に変更することは法案に極めて大きな問題を一つ追加することに他ならず、良いことは何もない。

 例えば、福島議員は質問の中で、通常の填補賠償の考え方に基づくと損害賠償が低くなる場合の例として同人誌が侵害された場合をあげているが、この法定損害賠償の議論と同人誌を守る守らないという議論はちょっと軸が違う話である。普通想定されるところの「同人誌」は一次創作(オリジナル)だけではなく二次創作(パロディ)も含むものだろうし、二次創作は親告罪であることがグレー化に役立っているものの著作権侵害側にも立っているので、本当に厳しい法定損害賠償を入れたらかえって二次創作にとって悪い結果を招くこともあり得るのである。(今更ながら、損害賠償が低くなる例としては、アメリカの報告書であげられているように、全く売れなかった低予算映画や小さな新聞記事などをあげた方が適切だったろう。)

 本当にアメリカ型の強力な法定損害賠償制度を導入したら、さらに違法ダウンロード・アップロード・ファイル共有やインターネットサービスにおける間接侵害との関係なども問題になり、日本でもアメリカ商務省の報告書で指摘されているような個人ユーザに対する巨額の損害賠償、著作権トロールによる訴訟の濫用、インターネットサービスプロバイダーの事業における萎縮効果などの問題が発生して来るに違いない。

 TPP協定そのものに私は反対だが、話を法定損害賠償に限るなら、今の文化庁の整理は悪くないと思っている。文化庁の法制・基本問題小委は次回2月24日に開かれる予定だが(文化庁のリリース参照)、国会での議論から変な方向にねじれて欲しくはない。法定損害賠償のようなかなりマニアックな問題がなかなか理解され難いのはやむを得ないこととは言え、前提と目的をはっきりさせた上で全体的なことを考えて政策判断はしてもらいたいと私は常に思っている。

 なお、単純化のために上では話を著作権法に限ったが、商標法についても同様に法定損害賠償の導入が議論されていることは要注意である(日経の記事参照)。特許庁の2月12日の産業構造審議会・知的財産分科会TPP協定を担保するための商標法改正について(pdf)によると、商標法における法定損害賠償について「商標の不正利用による損害の賠償を請求する場合において、当該登録商標の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を損害額として請求できる規定を追加する」とされているところだが、TPP協定と特許法や商標法の改正検討案の関係についてはまた回を分けたいと思っている。

(2016年2月22日夜の追記:2カ所間違っていたリンクを修正し、合わせ少し文章を整えた。)

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2016年2月11日 (木)

第357回:文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会の文化庁資料から見るTPP対応著作権法改正案の方向性

 昨日2月10日に文化庁で文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会が開催され、TPP対応のための著作権法改正についての議論が行われた。(NHKの記事、Togetterの審議実況まとめ参照。)

 文化庁のHPにはまだ資料は掲載されていないが、茂木和洋氏がサイトに上げてくれている文化庁資料の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等について(案)(pdf)には、①著作物等の保護期問の延長、②著作権等侵害罪の一部非親告罪化、③著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール)に関する制度整備、④配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与、⑤「法定の損害賠償」又は「追加的損害賠償」に係る制度整備の5つの法改正事項の内容が書かれ、合わせて施行期日についても書かれており、法改正案の条文そのものではないが、これは今までの資料の中では一番詳細なものなので、ここでもその方向性を見ておきたいと思う。

(1)著作権の保護期間延長
 順に見て行くと、まず、第2節の「著作物等の保護期間の延長」では、第8ページに、

 著作物等の保護期間の延長に当たっては、延長の対象となる著作物を著作者の死後50年又は公表後50年の経過以前に著作権登録がされたものに限ることや、これから創作される著作物あるいは現在存命の著作者による著作物に限ること、また、少なくとも大正12年以前の著作物についてはすべてについて、昭和20年以前の著作物については登録の申請がなければ、当該著作物を公有とすることや図書館における著作物利用について保護期間の例外を設けることなど、著作物の保護期間を延長する際の制度設計について、本小委員会における意見聴取の場において関係団体より意見が出された。
 保護期間の延長を行うべき対象として、改正時に著作権が存続するにも関わらずそのうち延長の対象とするものを一定の年以降に創作されたものに限定することや著作者の生死により区別することはTPP協定上許容されないものと考えられる。また、延長の対象を著作権登録がなされている著作物に限定することは、TPP協定や我が国がすでに締結している文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(以下「ベルヌ条約」という。)との関係上困難であると考えられる。また特定の利用目的や利用主体を対象とした著作物等の利用円滑化方策については、保護期間における取扱いではなく、権利制限規定において検討されるべき事項であり、今後の必要に応じて検討を行うことにより対応すべきである。以上のことから、保護期間の延長に当たっては、これらの限定を付すことなく、保護期間内にある著作物について一律にその保護期間を延長することとすることが適当である。

と書かれている通り、特に限定もなく保護期間の70年への延長を是認している。

 ただし、第6〜8ページで、「視聴覚的実演についても音の実演と同様に延長の対象とし、保護期間を実演後70年とすることが適当」、「映画の著作物の保護期間をTPP協定上の義務を超えて延長することの要否及びその在り方については、国際的動向や他の著作物とのバランス、映画の著作物の利用状況等を踏まえて、改めて検討することが適当」、「放送事業者等の権利の保護期間を延長することの要否及びその在り方については、国際的動向や放送の利用状況等を踏まえて、改めて検討することが適当」とされているので、法改正案の方向性としては、ほぼTPP協定の要件通り、実演についても保護期間が延長されるが、映画と放送についてまでは延長されないという整理のようである。

(2)著作権侵害の非親告罪化
 次に、第3節の「著作権等侵害罪の一部非親告罪化」では、「著作権等侵害罪の非親告罪化については、一律に非親告罪化するのではなく、著作権等侵害罪のうちいわゆる海賊行為(著作物等の市場と競合する海賊版による侵害行為)のように、被害法益が大きく、また、著作権者等が提供又は提示する著作物等の市場と競合するため著作権者等の事後追認等により適法化されることが通常想定できない罪質が重い行為態様によるものについて、非親告罪とすることが適当」(第12ページ)とされ、さらに、第13〜14ページで、

 TPP協定においては、非親告罪の対象とすべき範囲が、「故意により商業的規模で行われる」侵害行為に限定されており、また、「商業的規模で行われる」行為には、少なくとも「商業上の利益又は金銭上の利得のために行われる行為」及び「商業上の利益又は金銭上の利得のために行われるものではない重大な行為であって、市場との関連において当該著作権者等の利益に実質的かつ有害な影響を及ぼすもの」が含まれるとされている。非親告罪とすべき範囲は、この趣旨を踏まえ、一定の目的をもって行われた悪質な著作権等侵害行為に限定することが適当である。
 具体的には、侵害者が、侵害行為の対価として利益を受ける目的を有している場合や、著作権者等の利益を害する目的を有している場合であることを要件とすることが考えられる。

 また、TPP協定において、非親告罪とする範囲を、「市場における著作物等の利用のための権利者の能力に影響を与える場合」に限定することができるとされている趣旨を踏まえ、非親告罪の対象とすべき著作権等侵害罪を、著作権者等の著作物等の提供又は提示に係る市場と競合する場合に限定することが適切である。換言すれば、市販されている漫画や小説を基に二次創作作品を作成する等、著作権者等の著作物等の提供又は提示に係る市場と競合しない行為態様については非親告罪の対象外とすることが適切である。
 具体的には、まず、侵害される著作物等は、現に市場において権利者により有償で提供又は提示されている著作物等であることを要件とすることが適当であると考えられる。この点に関しては、関係団体からの意見聴取においても、侵害の対象を既に市販している作品等に限定するべきであるとの意見が示されている。
 また、原作のまま、すなわち著作物等に改変を加えずに著作物等を利用する侵害行為であることを要件とすることが考えられる。加えて、著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合であることを要件とすることが考えられる。なお、権利者の利益が不当に害されることとなるか否かの判断は、著作物等の種類や用途、侵害行為の態様、正規品の提供又は提示の態様など様々な事情を総合的に勘案して、正規品の販売市場との競合性があるか否かによって判断することが適当であると考えられる。この点に関して、関係団体からの意見聴取においても、非親告罪化の対象を海賊行為に限るため「原作のまま」の用語を用いたり、原著作物の市場での収益性に重大な影響がある場合のみに対象を限定したりすべきであるとの意見が示されたところである。
 非親告罪の範囲については、上記の3つの要件を設けることにより、市販されている作品等に対する海賊行為を非親告罪の対象となる一方で、二次創作行為については、原作のまま著作物等を利用する行為に該当せず、また権利者の利益が不当に害されることとなる場合に該当しないため、非親告罪の対象とならないこととなる。

と書かれているので、かなりの限定が加えられそうな様子であるが、対象となる支分権の範囲は複製権侵害だけではなく、「譲渡権侵害や公衆送信権侵害についても非親告罪の対象とすることが適切」(第15ページ)とされ、権利者の範囲についても、「視聴覚的実演に係る実演家の権利、放送事業者及び有線放送事業者の権利を侵害する行為のうち、権利者へ及ぼす被害が大きく、悪質な権利侵害については、他の権利侵害の場合と同様に非親告罪化の対象とすることが適切」(第16ページ)とされている。

(3)アクセスコントロール回避規制
 第4節の「著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール)に関する制度整備」では、「アクセスコントロールにより確保される著作権者等の利益は基本的に著作権法による保護の対象とすべきものと評価し、当該手段の回避行為及び回避機器の流通等に一定の救済を認めることが適切」(第20ページ)とされ、さらに、第21ページで、

 一方、アクセスコントロールを回避する行為については、支分権該当行為ではないものの、多くの場合、回避行為そのものがアクセスコントロールにより著作権者等が確保しようとする対価の回収を困難とする点において著作権者等の保護されるべき経済的利益を直接害する行為であると評価できることに加えて、回避後に行われる視聴行為等は支分権該当行為ではない。このため、権利者の利益を保護するため、回避行為に対して民事上の権利行使が可能となるよう、これを保護の対象とすることが適当である。その方法としては、例えばみなし侵害(第113条)の形で保護することが考えられる。制度設計にあたっては、前述のとおり、国民の情報アクセスや表現の自由との均衡に配慮した制度とすることが適当である。

 次に、技術的保護手段の回避に使用される装置等を流通させる行為や公衆の求めに応じて反復継続してこれを回避する行為については、権利侵害につながる準備的行為として著作権者等の利益を害するものと評価できるため、罰則の対象となっているところである(第120条の2)。アクセスコントロールについても、回避行為を保護の対象とする場合は、同様の趣旨が妥当することとなるため、同様に刑事罰の対象とするのが適切である。

 なお、アクセスコントロールの回避行為に対して刑事罰を科すことについては、回避行為は支分権該当行為ではなく、それと同視できるほどの重大性はないと評価されること、当該回避行為の多くが個人で私的に行われるものであることが想定されるところ国民の情報アクセスや表現の自由との均衡を図る必要があること、及び回避装置の流通行為等を別途刑事罰の対象とすることで著作権者等の利益保護が図られることを踏まえ、慎重であるべきである。

と書かれている通り、著作権法においてアクセスコントロール回避規制を導入するべきとしている。

 ただし、例外について、「権利者に不当な不利益を及ぼさない形で行われる回避行為が広く例外規定の対象となり得るような制度設計とすることが適当」(第22ページ)と書かれ、アクセスコントロール規制に対して広めの例外を設けるべきともされている。

(4)配信音源の二次利用に対する使用料請求権の付与
 これは非常にマニアックな話なので、細かな所までは引かないが、第5節の「配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与」において、「配信音源の二次使用について、商業用レコードの場合(第95条第1項及び第97条第1項)と同様に使用料請求権を付与することが適当」(第25ページ)と書かれている。

(5)法定損害賠償
 第6節の「『法定の損害賠償』又は『追加的損害賠償』」では、「今回の制度整備においては、TPP協定の求める趣旨をより適切に反映する観点から、第114条第3項等の現行規定に加えて、填補賠償原則等の枠内で、実際に生じる損害との関係について合理的に説明が可能な額を法定する規定を別途設けることが適当」(第32ページ)とされ、さらに、第32〜33ページで、

 この点、第114条第3項は、「権利の行使につき受けるべき額に相当する額」(使用料相当額)を権利者が損害額として請求することができるとされている。この使用料相当額の算定方法は基本的には個々の事案に応じて異なり得るものであるが、侵害された権利が著作権等管理事業者によって管理されているものである場合は、当該著作権等管理事業者の定める使用料規程がその算定根拠として広く用いられており、基本的に当該規程により算出した額が同項の使用料相当額として認定されている。このような運用がなされている理由としては、著作権等管理事業者の使用料規程は、著作権等管理事業法に則って定められたものであり、実際に当該事業者に権利が委託されている著作物の利用について許諾する際に受けるべき額を示すものであること、及び使用料規程を定めるに当たっての一定の手続が同法上定められていること等が勘案されているためであると考えられる。
 しかし、その点につき同項においては明文上の定めはなく、使用料規程により算出した額を同項の使用料相当額として請求可能であるのか否かは必ずしも明確ではない。また、使用料規程において適用可能な規定が複数存在する場合、いずれの規定を用いて算出した額を同項の使用料相当額として請求できるのかについても明らかではない。

 このような状況に鑑み、また、使用料規程により算出された額は基本的に「権利の行使につき受けるべき額」に相当するものであること、すなわち、当該額は実際に生じる損害との関係について合理的に説明が可能な額であると評価できることを踏まえ、著作権等管理事業者の管理する権利について同項の規定による請求を行う場合においては、当該著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を同項の使用料相当額として請求することができる旨を法律上明記することが適当である。また、この場合において、使用料規程のうち適用可能な規定が複数存在する場合は、算出された使用料額のうち最大のものを請求することができることとすることが適当である。

と書かれており、アメリカなどがこのような法改正で納得するかは良く分からないものの、法定損害賠償については、実質的に現行の損害額推定規定の範囲内で対処するという方向性になっている。

(6)施行期日
 第7節の「施行期日について」では、「TPP協定の締結に向けた制度整備については、既に検討した国内的な制度整備の必要性に加え、これらの事項が国際的な制度標準となることも考慮すべきであること、また、本小委員会における意見聴取においても、利用者団体より、制度整備がTPP協定の発効に先立ち施行されることに強い懸念が表明されていること等を踏まえれば、これらの事項の制度整備を行う改正法の施行については、TPP協定の発効とあわせて実施することが適切である。」(第35ページ)と、さすがに海賊版対策条約(ACTA)の醜態を踏まえたのか、改正法の施行はTPP協定の発効と合わせることが書かれている。

(7)その他(柔軟性の高い権利制限規定)
 また、同資料の第36ページに、「TPP協定を契機としていわゆる『柔軟性の高い権利制限規定』の導入を求める声が関係団体から複数寄せられたところであるが、これに関連して、新産業創出環境の形成をはじめとするデジタル・ネットワークの発達に対応した権利制限規定の見直しについて、昨年本小委員会に設置した『新たな時代のニーズに対応した制度等の整備に関するワーキングチーム』において検討が進められている。同ワーキングチームにおいては、文化庁の行った著作物等の利用円滑化に関するニーズの募集に寄せられた広範なニーズを基に整理された課題の解決に向けた検討が始められているところであり、引き続き着実に検討を進めることが期待される。」と、柔軟性の高い権利制限規定についての記載もあるが、検討を進めているのが文化庁という時点で正直あまり期待は持てない。

(8)法改正事項の内容のまとめ
 資料に書かれた上の法改正事項の内容をまとめると次のようになるだろう。

保護期間延長
 著作物と実演について保護期間を70年に延長、ただし、映画と放送については延長せず

非親告罪化
 侵害者が、侵害行為の対価として利益を受ける又は著作権者等の利益を害する目的で、現に市場において権利者により有償で提供又は提示されている著作物等を、改変を加えず利用する侵害行為について、かつ、著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合について非親告罪化

アクセスコントロール回避規制
 著作権法第113条のみなし侵害規定の改正によりアクセスコントロール回避行為に対して民事上の権利行使を可能とし、合わせてアクセスコントロール回避に使用される装置等を流通させる行為や公衆の求めに応じて反復継続してこれを回避する行為に刑事罰を付加、ただし、アクセスコントロールの回避行為そのものは刑事罰の対象とせず、権利者に不当な不利益を及ぼさない形で行われる回避行為を例外とする

配信音源の二次利用に対する使用料請求権の付与
 商業用レコードの場合と同様に配信音源の二次使用について使用料請求権を付与

法定損害賠償
 使用料相当額を損害額と推定する著作権法第114条第3項において、著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を使用料相当額として請求できることを明記、また、適用可能な規定が複数存在する場合は算出された使用料額のうち最大のものを請求できることとする

 これらの内、多くの限定が入った非親告罪化と実質的に現行法の枠内で対処することとされている法定賠償については悪影響がかなり低減されると思われ、法改正の施行をTPP発効と合わせるとしたことで国内改正まで行ったにもかかわらずいまだに日本しか批准していないACTAの二の舞は最低限避けられると思われるものの、全ての法改正事項についてACTAの時同様結論ありきで、全てTPP批准のためという以外にほとんど法改正の理由はないと言って良く、このような方向性の法改正案は極めて大きな問題を含むものである。前に書いた通り、恐らくもはや政府に対して意見を提出する機会はなく、次の舞台は国会における審議になるのではないかと思っているが、このような大きな問題を含む著作権法改正案、TPP関連法改正案が国会を通らないことを、TPP協定の批准、発効がなされないことを私は心の底から願っている。

(2016年2月22日夜の追記:文化庁のHPに2月10日の法制・基本問題小委員会の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等について(案)(pdf)が掲載されているので、念のため、ここにリンクを張っておく。)

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