カテゴリー「著作権国際動向(アメリカ)」の4件の記事

2008年10月18日 (土)

第120回:アメリカで成立した知財改正法(PRO-IP法)

 前回の追記で少し書いたが、残念ながら、アメリカで知財法の改正が大統領の署名を得て成立してしまったので、今回は、このアメリカの法改正について突っ込みを入れておきたいと思う。(前回、WIREDの記事PC MAGAZINEの記事へリンクを張ったが、さらに日本語の参考記事として、CNETの記事AFPの記事IP NEXTの記事に、英語の参考記事として、ホワイトハウスのプレスリリースへのリンクを張っておく。)

 一番のトンデモ改正事項であった司法省(国家)に民事訴訟提起権を与えるという事項こそ削除されたものの、この改正法で創設される知財エンフォースメントコーディネーターが何をしてくるか得体の知れないところがあるのも確かに事実である。

 このPRO-IP法(正式名称は、"Prioritizing Resources and Organization for Intellectual Property Act"、直訳すれば、「知財のためのリソース・組織強化法」になるが、単なる語呂合わせで決めた名前だろう。原文はアメリカ著作権局のpdfファイルアメリカ議会図書館の改正法案ページなど参照。現行のアメリカ著作権法の条文も著作権局のHPで見られる。)の章立ては以下の通りである。

第1章 民事知財法の強化
第2章 刑事知財法の強化
第3章 知財侵害に対する連邦の取り組みの調整と戦略的プランニング
第4章 司法省強化プログラム
第5章 その他

 第1章では、民事事件において、著作権侵害品だけではなく、製造販売の記録なども押収できるとすること(改正法の第102条:著作権法の第503(a)条の改正)や、商標法の法定賠償額を倍額に引き上げること(第104条:商標法の第53(c)の改正。なお、去年最もトンデモ視されていた、著作権法における法定賠償額の計算方法の変更は入っていない。)、著作権侵害品の輸入だけではなく輸出も侵害とすること(第105条:著作権法第6章の改正)などが書かれている。

 また、第2章では、刑事事件における没収などについて、知財(商標・著作権)侵害品と侵害品を製造するための道具・デバイス・装置について可能と今まで割と限定的な書き方がされていたものを、侵害品と侵害品の製造・取引に使われるあらゆる物品などと漠然とした書き方に変え、侵害によって故意に人の死を引き起こした場合は終身刑まで可能とする(第202~206条:刑法における財産権侵害規定の改正)などの改正を加えている。知財侵害で故意に人の死を引き起こすなどという現実的にあり得るとも思えないケースを想定して最高刑を終身刑とすることもどうかと思うが、特に改正法の第206条の、以下のような、没収物件の規定の曖昧さは、刑事事件や行政事件において、ユーザーやネット事業者にとって相当致命的な運用を招く恐れがあるように私は思う。(アメリカのことなので、最終的には裁判で何らかのセーフハーバーが作られることと思うが、それまでかなりの運用の混乱が生じるのではないだろうか。)

(1) PROPERTY SUBJECT TO FORFEITURE.-The following property is subject to forfeiture to the United States Government:
(A) Any article, the making or trafficking of which is, prohibited under section 506 of title 17, or section 2318, 2319, 2319A, 2319B, or 2320, or chapter 90, of this title.
(B) Any property used, or intended to be used, in any manner or part to commit or facilitate the commission of an offense referred to in subparagraph (A).
(C) Any property constituting or derived from any proceeds obtained directly or indirectly as a result of the commission of an offense referred to in subparagraph (A).

(1)没収対象財産-次の財産は合衆国政府の没収の対象となる:
(A)この章(訳注:刑法)の第2318条、2319条、2319A条、2320条あるいは第90章、又は、第17章(訳注:著作権法)の第506条で禁止されている、あらゆる物品、及び、その製造あるいは取引をするあらゆる物品。
(B)どんな形あるいは部分であれ、、小段落(A)に記載されている犯罪行為をなすか、これを容易とすることに、使用されたか、使用されることを目的としたあらゆる財産。
(C)小段落(A)に記載されている犯罪行為の結果として、直接的であれ間接的であれ得られた利益を構成するか、そこから派生した財産。

 第3章には、知財エンフォースメントコーディネーターなどについて規定されているのだが、その第301条の規定に、

SEC. 301. INTELLECTUAL PROPERTY ENFORCEMENT COORDINATOR.
(a) INTELLECTUAL PROPERTY ENFORCEMENT COORDINATOR.-
The President shall appoint, by and with the advice and consent of the Senate, an Intellectual Property Enforcement Coordinator (in this title referred to as the "IPEC") to serve within the Executive Office of the President. As an exercise of the rulemaking power of the Senate, any nomination of the IPEC submitted to the Senate for confirmation, and referred to a committee, shall be referred to the Committee on the Judiciary.

(b) DUTIES OF IPEC.-
(1) IN GENERAL.-The IPEC shall-
(A) chair the interagency intellectual property enforcement advisory committee established under subsection (b)(3)(A);
(B) coordinate the development of the Joint Strategic Plan against counterfeiting and infringement by the advisory committee under section 303;
(C) assist, at the request of the departments and agencies listed in subsection (b)(3)(A), in the implementation of the Joint Strategic Plan;
(D) facilitate the issuance of policy guidance to departments and agencies on basic issues of policy and interpretation, to the extent necessary to assure the coordination of intellectual property enforcement policy and consistency with other law;
(E) report to the President and report to Congress, to the extent consistent with law, regarding domestic and international intellectual property enforcement programs;
(F) report to Congress, as provided in section 304, on the implementation of the Joint Strategic Plan, and make recommendations, if any and as appropriate, to Congress for improvements in Federal intellectual property laws and enforcement efforts; and
(G) carry out such other functions as the President may direct.

第301条 知財エンフォースメントコーディネーター
(a)知財エンフォースメントコーディネーター
 大統領は、上院の助言と可決を受け、知財エンフォースメントコーディネーター(以下、「IPEC」と略す)を大統領府に任命する。上院の規則制定権に従い、IPECの指名は全て、可決のために上院に送られ、委員会に付託されるが、付託先は司法委員会である。

(b)IPECの責務-
(1)一般的に、IPECは、
(A)段落(b)(3)(A)に規定される省庁横断知財エンフォースメント諮問委員会の委員長を務め;
(B)第303条の規定の下で諮問委員会によって作成される侵害対策戦略総合計画の作成を調整し;
(C)段落(b)(3)(A)で列挙されている省庁の求めに応じて、戦略総合計画の実施を支援し;
(D)知財エンフォースメント政策を調整し、他の法律と一致させるために必要な限度で、省庁の基本的な政策・解釈事項に対する政策的ガイダンスの発行に助言をし;
(E)法律に規定された範囲で、国内外の知財エンフォースメントプログラムに関する報告を、大統領と議会に対して行い;
(F)第304条に規定されているように、総合戦略計画の実施について、議会へ報告し、適切なときに、合衆国における財法とエンフォースメント努力に関する改善について提案を行う。

とあるように、権利の直接エンフォースこそ含まれていないものの、その権限はかなり漠とした形で書かれており、選ばれた人間の政治力次第ではかなりのことが出来ると思われる。特に、議会に直接報告・提言をできる権限は大きいだろう。(なお、この第301条の第(2)段落では、IPECは権利の直接エンフォースをしないことが、第(3)段落では、諮問委員会は知財関連の各省庁から代表が選ばれて構成されることが書かれている。)

 第303条で規定されている総合戦略計画の内容も、知財のエンフォースにおける構造的欠陥を指摘することなど、知財の保護強化のことしか頭になく、このようなコーディネーターや計画の創設は、アメリカを知財のさらなる保護強化へと闇雲に邁進させることにしか、今のアメリカにおける著作権戦争の混乱をなおさら助長することにしかつながらないのではないかというのが私の予想である。(日本の知財本部も保護強化を図ることしかほぼ考えて来なかったことを考え合わせて見ると良い。公正利用の権利制限などの知財規制の緩和が、日本政府内でそれなりの具体性とともに検討され出したのはごく最近になってからのことである。)

 どんな盾にも両面はあるので、知財の行き過ぎた保護強化に伴い生じている問題があるということもまた忘れてはいけない重要な点なのだが、アメリカでも、この認識は政治レベルにまでなかなか浸透しないと見えるのは非常に残念である。

 アメリカ国内だけでやっててくれる分だけなら好きにやっててもらっても良いのだが、国際的な知財エンフォースメントも含めて計画を作り、報告をするとされている点は特に気味が良くない。人によっては日本に対する知財保護強化の圧力が強まることも十分以上に考えられる。きちんとした合理的な判断が出来る人物がこのポストに選ばれることを私は祈っているが、アメリカの政策動向は引き続き要注意である。

(なお、第4章では、知財エンフォースのために各州へ助成金が出されることや、FBIの人員が増強されることなどが規定されている。)

 さて、去年から今年の夏にかけて大騒ぎとなった青少年ネット規制法の政省令案がパブコメ(総務省のプレスリリース電子政府の該当ページinternet watchの記事参照)にかかっているので、次回はこの話を。

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2008年10月 4日 (土)

第117回:アメリカにおけるフェアユースの要件

 フェアユースの話はいろいろなところで既に山ほどされているので、あまり書くこともないかと思っているのだが、何かの参考になるかも知れないと思うので、ここでもアメリカにおけるフェアユースの要件の話をしておきたいと思う。

 フェアユースは条文としては、アメリカ著作権法第107条に、以下のように書かれている。(日本語は、著作権情報センターのHPを参考に拙訳。)

§107. Limitations on exclusive rights: Fair use
Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies or phonorecords or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching (including multiple copies for classroom use), scholarship, or research, is not an infringement of copyright. In determining whether the use made of a work in any particular case is a fair use the factors to be considered shall include -

(1) the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purposes;
(2) the nature of the copyrighted work;
(3) the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole; and
(4) the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work.

The fact that a work is unpublished shall not itself bar a finding of fair use if such finding is made upon consideration of all the above factors.

第107条 排他的権利の制限:フェアユース
 第106条および第106A条の規定にかかわらず、批評、注釈、報道、教育(教室利用の複数コピーの作成を含む)、研究または調査のような目的のための、著作物のフェアユース(コピーまたは録音利用その他第106条に規定されている手段による利用を含む)は、著作権侵害とならない。特定のケースで著作物の利用がフェアユースに当たるか否かを決定する場合には、以下の要素を考慮しなくてはならない-

(1)その利用が商業性を有するかまたは非営利教育目的かを含め、利用の目的および性質;
(2)著作物の性質;
(3)著作物全体に対する利用された部分の量と本質性;
(4)著作物の潜在的市場または価値に対する利用の影響。

上記の全ての要素を考慮してフェアユースが認められた場合、著作物が未公表であるという事実自体は、そのような認定を妨げるものではない。

 wikiにも書かれている通り、このフェアユース規定は、150年以上も前から判例法として確立して来たものを1976年に成文化したということであり、条文を読むと何だか分かったような気にもなるが、アメリカが150年以上かけても、フェアユースの要件はここまでしか厳密化できていないということであり、おそらくこれ以上時間をかけても法律レベルでこれ以上明確化することは難しいに違いない。

 利用が非営利に近ければ近いほど、利用著作物が独立の著作物としての性質を有すれば有するほど、利用された部分が少なく本質的でなければないほど、元の著作物の市場に与える影響が少なければ少ないほど、フェアユースが認められやすくなるということで、山のように判例と解釈がついているが、実際のところ、「公正」とは何かということは社会的なバランスによって決まるしかない以上、この手の一般条項の要件はいくら書いたところで定義はそれほど明確になるものではなく、要するに、判例としてフェアユースとされることが定着しているものはOK、それ以外はケースバイケースということである。

 したがって、結局何がフェアユースかとなると結局例示とならざるを得ないのだが、アメリカでおよそフェアユースの中に入れられているものとしては、条文中にも上げられている例も含め、研究、教育、引用、批評、報道、パロディ、裁判所などの手続きにおける利用、タイムシフト視聴(私的録音録画)、リバースエンジニアリング、検索エンジンなどがあげられるだろう。(無論、それぞれ山ほど注釈がついている。アメリカのフェアユース判例に関しては、知財本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」(第6回)に提出された奥邨教授の資料も参考になるだろう。)

 また、ナップスターのように中央サーバーがあるような形態のP2Pはフェアユースと認められなかったが、その後もその他の形態のP2Pユーザーに対して、ダウンロードをどう考えるかということも含め、泥沼の訴訟合戦が繰り広げられており、P2P関係訴訟はその決着を見るまで大分かかりそうな状態である。

 さらに、最近、アメリカでDVDコピーソフトが訴えられた(cnetの記事internet watchの記事ITmediaの記事ITproの記事日経のネット記事参照)ことからも分かるように、フェアユースとDRM回避規制の関係整理もなかなか厄介である。(DVDリッピングがアメリカの著作権法でどう取り使われることになるのか、この裁判の結果も要注目である。)

 他にもアメリカの著作権法には、第108条の図書館の権利制限以下、いくつかの権利制限がある。これらの中にはフェアユースの一般条項に包含されている利用形態も含まれている気がするが、これは1976年の制定当時、特にもめていた利用形態を抜き出した結果であるらしい。これらについては、例えば、図書館の権利制限などは、法改正を求めるレポートが出されている(アメリカ政府の研究グループのHP参照)ことなどを考えても、当時の様々な政治力の綱引きが反映され、逆に細か過ぎる規定ぶりとなった結果、かえって今の時代に合わなくなっているという奇妙な事態になっていると見える。(教育と図書館における複製については、アメリカ著作権局ブックレットにまとめられている各種ガイドラインなどもある。なお、第111条の放送の再送信規定は、法律制定当時、最高裁判決でケーブルテレビによる地上波の再送信はロイヤリティを払わずできるとされてしまっていたため、関係者による激闘の結果、成立した妥協条項であるらしい。)

 日本で今、日本版フェアユースの導入が知財本部で議論されている訳だが、その議論を見る限り、完全にアメリカ型にして他の権利制限規定と引き換えで入れるという話ではなく、第91回で紹介した台湾のように、今までの権利制限の個別規定に追加する形でフェアユース規定を入れるということになるのだと思われる。このような入れ方をする限り、既存の規定との関係整理は厄介だが、利用者から見て導入に損は全くないだろう。(ダウンロード違法化の問題が端的に象徴しているように、必ずしも完全に公正な利用とは言えないが、権利制限の対象としておくべきものもあり、フェアユースが私的複製など他の権利制限規定と引き換えに導入されるとなると話は別である。)

 無論、フェアユースは万能ではないし、個々の司法判断に対する依存度も大きくなるが、特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で大きな意味を持つことになるに違いない。

 internet watchの記事によると、著作権分科会で、権利者団体側の委員は、フェアユース規定の導入によって、今まで利用料を支払っていた人によって、「フェアユースなら使える」と、裁判が起こされて社会が混乱するなどの懸念を表明したらしいが、これは、本来利用料を払う必要のないはずの公正利用についてまで裁判による解決の道すら封じ、今まで通り利用料をふんだくり続けたいと言っていることに他ならないということに彼らは気づかないのだろうか。著作物の公正な利用まで著作権法によって阻害されることは、法律の主旨から考えても、本来あってはならないことのはずであるが。

(今の日本の慣習を考えると、その利用がアメリカでフェアユースとされることが既に定着しているなどのよほどの事情がないと、裁判にまで踏み込まず、今まで通りの話し合いがなされる気がするのだがどうだろうか。確かに個別規定の意味が薄れるという懸念はあるのだが、もともと文化庁と権利者団体がスクラムを組んで個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されていたというのでは、このような一般規定の議論を招いたのはほとんど彼らの自業自得と言って良い。フェアユースの議論に参加させて欲しいと権利者団体側が言っているよう(ITmediaの記事internet watchの記事マイコミジャーナルの記事)だが、やはりロクな意見を言ってこないだろうことは想像に難くない。)

 解散総選挙が近い中で、いろいろなことが流動的になっているが、日本版フェアユースの導入は是非今後も地道に検討を続けてもらいたい課題の一つである。

(なお、一般フェアユース規定の導入はまだ時間がかかるかも知れないが、少なくとも、文化審議会の今の整理でまとめられている(同じinternet watchの記事時事通信のネット記事参照)各種権利制限規定については必ず入れて欲しいものである。)

 さて、最後に少し知財政策関連のニュースの紹介もしておきたい。

 ベルギーでは、インターネットサービスプロバイダー(ISP)が裁判でトラフィックのブロック・フィルタリングを命じられたものの、現実的に不可能と反対するという事態になっているという記事や、アメリカでは、著作権侵害をしていたとみなされたユーザーを一方的にネットから遮断するというかなり問題のある取り組みをしているISPがあるという記事や、ドイツでは、オンラインストレージサービスのRapidshareが裁判所に全ファイルのチェックを命じられたとする記事などが、「P2Pとかその辺の話」で紹介されているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。ネットと著作権の問題にまだまだ解は見えない。

  さらに、ドイツでは、PCは補償金の対象外ということが、ドイツの最高裁で確定したようである(ドイツのWELT ONLINEの記事PC WELTの記事ドイツ最高裁のプレスリリース参照)ので、ここで一緒に紹介しておく。当たり前の話だが、さすがにドイツでも何でもかんでも補償金の世界はおかしいと気づかれて来たようである。

 また、ITmediaの記事などによると、アメリカでは、ネットラジオ局に対する過大な著作権料請求を軽減しようとする法律を通したりもしている。

 次回は、様子を見て選挙向けの話を書こうかと思っているところだが、詳細が分かれば上のドイツ最高裁の判決の話を取り上げるかも知れない。

(10月20日の追記:コメントでいろは様から教えて頂いたドイツのIT企業団体BITKOMの補償金裁判まとめ(pdf)によると、確かに、プリンター補償金裁判においてVG WORT側は憲法裁判所にさらに上告しているようであり、PCでも憲法裁判所へさらに上告される可能性があることを考えると、確定というのは言い過ぎだったかも知れない。ただ、憲法裁判所がこのレベルの問題をわざわざ取り上げてプリンターやPCに補償金を賦課しないのは憲法違反だと判断する可能性は相当低く、ほぼ確定していると言っても良いのではないかとも思うので、一応文章はそのままにしておく。(いろは様コメント・情報ありがとうございました。))

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2008年8月26日 (火)

第111回:アメリカの3つの重要裁判(私的複製の範囲の広がり・オープンソースライセンスの有効性・フェアユースの重要性)

 大体は日本語の記事にもなっているのでご存じの方も多いと思うが、いくつかアメリカの裁判所でいくつか重要な判断が最近相次いで示されているので、個人的なコメントと一緒にアメリカの裁判の話をここで少しまとめて書いておきたい。

(アメリカの判例自体は、当然アメリカ国内でしか効力を持たないが、日本でも法学者や裁判官はアメリカの判例を良く研究しており、日本の判例や立法にもそれなりに影響してくるので、知っておくに越したことはないだろう。)

(1)私的複製の範囲の広がりとネットワーク録画機の合法性
 アメリカの連邦巡回控訴裁判所が、この8月4日に、リモートサーバーへデータを蓄積する、いわゆるネットワーク録画機の利用を合法とする判決を出している(日経TechOnの記事ITmediaの記事ITproの記事EFFの記事EFFの記事内の判決文へのリンク参照)。

 2006年にケーブルビジョン社が、通常のケーブルTVサービスと一緒に、個々の視聴者の求めに応じて、リモートサーバーへ録画した番組の再生を行うサービスを提供したところ、案の定映画会社等に訴えられたという事件である。判決文はかなり長いのだが、要するに、ケーブルビジョン社が録画・再生に対するコントロールをしておらず、録画・再生が完全に個々の視聴者・STB毎になされることを理由に、サーバーへの複製行為は視聴者がしたものとして、ケーブルビジョン社の著作権侵害を否定しているのである。(このケースでは、ケーブルビジョン社がサーバーへ最初の放送と同時に番組の複製を作っており、視聴者の録画操作毎に番組データを一つ一つ蓄積している訳ではないだけに少しやっかいなのだが、それでも通常のビデオへの録画と実質的に大きな違いはないとしている。)

 この問題は、公正利用がどうこうというより、リモートサーバーへの複製行為を行っているのは誰か、私的複製の範囲をどう考えるかという問題である。最高裁へ上告されているのかどうかは分からないが、アメリカでこのように、その機械的動作ではなく、利用者から見た実質的な動作から、リモートサーバーまで私的複製の範囲が及ぶとする判決が出ていることは極めて興味深い。類似の事件は、日本では、完全に録画機の置き場所貸しに徹したまねきTV事件(internet watchの記事参照)を除いて、ことごとくネットワーク録画機は違法とされているのだが、日本でも、もう少し私的複製の範囲について柔軟な判断がなされても良いのではないかと私は思う。利用者から見た実質的な動作はほとんど違わないにも関わらず、完全に家庭内で録画機を使う場合と、リモートサーバーを使う場合で、判断が違うというのは大きな違和感を感じるのだ。(無論、ここに大きな法律上の議論があることは知っているので、この手のネットワーク録画機に関する各種事件のまとめも書きたいと思っているところである。)

(2)オープンソースライセンスの有効性と著作権法によるエンフォース
 やはり連邦巡回控訴裁判所が、8月13日には、オープンソースライセンスに違反しソフトを改変して頒布する者を著作権侵害に問えるとする判決を出している(ITmediaの記事知財情報局の記事マイコミジャーナルの記事参照)。

 一見何でもないことに見える気もするが、アメリカの経済的重要性も考えると、CNETのブログで、レッシグ教授が判決文へのリンクを張りつつ述べているように、この判決は非常に重要である。

 リンク先の記事にも書かれているように、アメリカの著作権法には法定損害賠償があり、契約法の下で訴訟を起こしたときよりも著作権法で訴訟を起こした方が簡単に差し止めができるという特殊事情もあり、オープンソースライセンスのように非常に広い非排他的ライセンスの場合に、ライセンス違反について、ライセンスが広すぎるために著作権法上の責任を問えず契約違反にしかならないのか、それとも、著作権違反を問えるのかがエンフォースにおいて非常に大きな差となって効いてくることになる。

 もし、地裁判決のように前者の考え方が維持されたとすると、非常に広い非排他的ライセンスであるが故にその損害額も不明として、差し止め等に困難を生じ、アメリカにおけるオープンソースライセンスのエンフォースが実質的に不可能となる可能性もあった訳であり、オープンソースの潜在的利益・下流ユーザーのコントロールの必要性を認め、著作権侵害の可能性を認めたこの判決の意味は確かに大きいだろう。(著作権法の法定損害賠償などのアメリカの制度はどうかと思うところもあり、当然日本では事情は違ってくるだろうが。)

(3)フェアユースの重要性と動画投稿サイトにおける著作物の利用
 以前少しだけ紹介したことがあったかと思うが、赤ん坊が踊る30秒足らずのYoutube投稿動画のBGMが著作権侵害であるとして、削除された問題で、投稿者である母親がノーティスアンドテイクダウン手続きの濫用であるとして訴えていた裁判においても、この8月20日に、連邦地裁が著作権者は著作権法に基づく手続きを進める場合には、訴えの対象がフェアユースに該当するかどうかを考慮すべきであるとの判断を示している(CNETの記事ITmediaの記事EFFの記事EFFのまとめ記事内の命令文へのリンク)。

 この判断もまた非常に重要であることは論を俟たない。一般フェアユース規定は、決して万能ではないが、ネットのように、誰もが表現者たり得、様々な利用が考えられる場において、ケースバイケースで、個人ユーザーと企業・団体間のバランスを取る役割も果たし得るのではないかと思われる。ただ、この判断は、Universal側の反対理由を退けている中間命令に過ぎないので、お互いにかなりエキセントリックな主張をしているこの裁判の勝敗の帰趨は良く分からない。

 これらの裁判は全て最高裁まで行った訳でもなく、まだ判例として本当に定着しているとは言えないかも知れないが、保護と利用のバランスを考慮した判例がアメリカにおいても蓄積されることを個人的には期待したい。

 次回は、この命令などでも書かれているアメリカのフェアユースの要件の紹介と合わせて、日本におけるフェアユース導入の議論をしようかと思っていたのだが、警察庁が、出会い系サイト規制法のガイドラインと施行規則の改正案をパブコメにかけている(ガイドラインパブコメ(9月5日〆切)、施行規則パブコメ(9月22日〆切)、internet watchの記事参照)ので、次回はこれらの話を書くことになると思う。

 なお、少し古い記事だが、イギリス政府が、違法ファイル共有対策案についてパブコメを募集しているというニュース(Zeropaidの記事イギリス政府のHP対策案レポート)も一緒に念のため紹介しておく。最も好ましいオプションは基本的に今の対策の延長線上にあるのだが、オプションの中には、著作権検閲などのかなりきついオプションも含まれており、イギリス政府が今後どのような対策を取って行くのかは要注目である。(きついオプションはそれだけ、実現は難しいと思うが。)

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2007年11月 5日 (月)

第17回:著作権国際動向その5:イギリスとアメリカ(フェアディーリングとフェアユース)

 今回は、イギリスとアメリカについて簡単に調べたことをまとめておきたい。

(1)イギリス
 イギリスにおける私的複製の規定は、文化庁の中間整理にもある通り、研究・学習あるいはタイムシフト目的のみと極めて狭いが、このような狭い規定では、既に時代遅れであり、私的複製の権利をもっと認めるべきという研究(記事IPPRのHP概要本文)も出されている。

 また、イギリスでは、このようにタイムシフトを目的とした私的複製の権利制限を認めながら、補償金制度はない。
 そのために国際的に非難されている訳でもないことを考えれば、私的複製の権利制限、すなわち補償金ではないこと、特にタイムシフトについては国際的に見ても補償を必要とする複製ではないことが認められていると言っても差し支えないだろう。

(2)アメリカ
 アメリカのフェアユース規定そのものについては様々な人が書いているので譲るとして、ベータマックス訴訟の判決文は少し探すのが面倒かも知れないのでここにリンクを張っておこう。この判決文には、ビデオ録画機を間接侵害で違法というなら、権利者側が実害を示すべきであるが、実害は示されなかったという至極まっとうなことが書いてある。そして、このような判決があるため、アメリカでは今も録画補償金はレコーダーにかけられていない。また、プレースシフトのように、自分で聞くためという限りにおいて、CDからiPodに音楽を複製することも、アメリカではフェアユースと判断される可能性が高いためであろうか、あるいは、アップルが既にビジネス的に音楽業界と手を結んで成功しているためであろうか、iPodに補償金をかけようとする動きはアメリカには無い。実際、アメリカでこれをかけて欲しいと権利者団体が言い出しても、消費者の反発と裁判合戦で滅茶苦茶になったあげく、結局補償金をかけられないという結果になると思われる。
 なお、文化庁の中間整理の参考資料ではわざわざタイムシフトはフェアユースに当たらないとする少数意見を特に引用しているが、これまた恣意的な引用である。

 また、最近、アメリカで話題になっている著作権がらみの二つの裁判を紹介しておきたい。
 一つは、P2Pでファイル交換を行ったとしてユーザーが訴えられ、22万ドルの損害賠償が認められた事件である(cnet japanの参考記事1記事2記事3)。
 賠償金額の大きさもさることながら、記事に書かれているように、法廷が「これはあなたのアカウントなので、あなたに責任がある」と判示したとしたら、これも大問題であろう。アカウントを不正に乗っ取られた可能性もあるし、技術的なことに詳しくないためにPCを踏み台にされた可能性もあり、アカウントの責任をその所有者に持たせるのがあまりにも酷であることは技術に詳しい者ならすぐに分かるだろう。

 上の参考記事にも書いてあるが、全米レコード協会(RIAA)は実に2万6000人ものユーザーを訴えているらしい。アメリカでは、RIAAが自らP2Pでファイル交換を行う者をおとりとしてユーザーのあぶり出しを行っているという話(japan.internet.comの記事参照)もあることを考えると、アメリカでも、このような訴訟は増え続けることだろうが、これだけのユーザーを犯罪者として訴えて、なおかつP2Pユーザーが減っているとも思われないのだ(internet watchの記事参照)。
 実際、権利者団体もP2P技術そのものが悪い訳ではないことをもっと知ってしかるべきだろう。インターネット上のホームページやメールと、P2Pの間にそれほど大きな技術的隔たりがある訳ではない。
 インターネットによって情報の流通コストが劇的に下がり、ユーザーと事業者が情報流通という点でほとんど同じ所に立つ中、既存の流通チャネルの独占によって利益を得て来た事業者と、ユーザーとがどう折り合いを付けるのかということがそもそも今問われているのだが、この問題が知財の問題にすり替わってしまっているために、ややこしいことになっているのだ。今のところは世界的に見ても、知財(著作権)の保護強化を行うことで、これを解決しようとしているようだが、ユーザー間の情報のやりとりを制限することは最後は不可能であり、著作権法がユーザーにとって守れないくらいに強化されてしまったら、モラルハザードによって著作権法は存在しないのと同じことになってしまうだろう
 
 ダウンロードを明確に違法化したら、日本でも権利者団体が同じようなことをやってくるだろうことは想像に難くない。民事であれ、あたかもファイル交換そのものが悪であるかのような印象操作を行った上で、ユーザーを訴えるのはユーザーにとって極めて酷だろう。

 ユーザーにとって本当に必要なのは、このような権利者団体による訴訟に対して、その勝敗にかかわらず、被告が負うのは損害賠償のみで、訴訟費用は全て権利者団体が出すといったような何らかのセーフハーバーだろう。アメリカでは、そのような判決もわずかながらあるようだ(cnetの記事)が、まだ、世界的に見てもこのようなユーザー保護策が十分に検討されているとは言い難い。

 さて、もう一つ注目すべき訴訟は、テレビから流れる楽曲に乗って踊る子供の映像をユーチューブから削除したのは権利者によるノーティスアンドテイクダウンの乱用だといって、その母親が訴えたものである。(英語の参考記事1記事2
 論理的には著作権者が複製権を持っているために削除出来ることは妥当といえば妥当なのだが、この訴訟もまた、多くの示唆に富んでいる。何ら著作権を侵害する意図なく投稿された、赤ん坊が踊っているだけの動画を、その本質的でない部分であるBGMの著作権に基づいて削除するのは、実際、誰が見てもどうかと思うだろう。フェアユースの良いところは、裁判になりはするが、権利の乱用に対する抗弁が容易になるところである。アメリカでは、ビデオのリミックスに関するフェアユースガイドラインの提案もされており、このようなことはフェアユースがなければ出てこないだろう。

 これらの裁判は、その判例によりアメリカの著作権法がまた書き変えられることになるかも知れないので、著作権法の国際動向という点では、アメリカからも目は離せない。

(3)その他
 WIPOのHPには、著作権法に関する簡単なテキストが載っている。
 このテキスト自体は読めば分かるものだが、第53ページに、「Making a copy of your classmate’s CD for your MP3 player: クラスメートのCDからあなたのMP3プレーヤーにコピーすることは:」という質問があって、回答を見ると、「illegal 違法」となっている。
 日本では、一応友人から借りたCDからのコピーは合法ということになっているので、これを見ても、著作権が完全にモラルの世界に足を踏み入れていることが分かるだろう。CDの貸し借りの違法化も所詮モラルの問題であるため私は賛成しないが、まだ外形的に区別が付くだけましで、ダウンロード違法化はこれよりさらに問題が大きいように思えてしかたがない。

 また、カナダではネット配信への課金を検討しているという記事もあったので、これもリンクを張っておく。ここまで来ると訳が分からないが、残念なことに、とにかく金さえ取れれば何でも良い権利者団体がこのような主張を日本でもして来ることは容易く想像できてしまうので、何でも用心しておくに越したことはない。

 次もまた、インターネットと著作権の問題について、私なりに調べたり、考えたりしたことを書いてみたいと思っている。

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