第118回:PCを私的複製補償金の対象外とするドイツ最高裁の確定判決・フランスの3ストライクアウト法案の今後
(1)PCを私的複製補償金の対象外とするドイツ最高裁の確定判決
前回、PCは補償金の対象外とする判決が確定したというニュース(ドイツのWELT ONLINEの記事、PC WELTの記事参照)を紹介したが、今回は少しその補足をしておきたいと思う。
ドイツの最高裁のHPには、判決文が載るはずのリンクがあるのだが、なかなか載りそうにないので、今のところは、最高裁のプレスリリースからその概要について紹介しておきたいと思う。(判決文が読めるようになって何かあればさらに補足するつもりである。)
この「コンピューターは補償金の対象外(Keine Geratevergutung fur Computer)」というタイトルのプレスリリースによると、PCに対する補償金の支払いを求めて訴えていたのはVG Wort(ドイツの文芸著作権管理協会)であり、訴えられていたのは富士通ジーメンスであるが、この判決では、1台あたり12ユーロ(元々VG WORTが求めていたのは30ユーロ)の補償金支払いを命じた控訴審の判決を破棄し、上告を却下している。特に、その理由の概要の部分には、以下のように書かれている。(翻訳は拙訳。)
Der BGH hat entschieden, dass fur PCs keine Vergutungspflicht nach § 54a Abs. 1 Satz 1 UrhG a.F. besteht, weil diese Gerate nicht im Sinne dieser Bestimmung zur Vornahme von Vervielfaltigungen durch Ablichtung eines Werkstucks oder in einem Verfahren vergleichbarer Wirkung bestimmt sind. Mit einem PC konnen weder allein noch in Verbindung mit anderen Geraten fotomechanische Vervielfaltigungen wie mit einem herkommlichen Fotokopiergerat hergestellt werden. Soweit mit einem PC Vervielfaltigungen erstellt werden, geschieht dies auch nicht in einem Verfahren vergleichbarer Wirkung. Unter Verfahren vergleichbarer Wirkung im Sinne des § 54a Abs. 1 Satz 1 UrhG a.F. sind - wie der BGH bereits entschieden hat (BGHZ 174, 359 Tz. 16 ff. - Drucker und Plotter) - nur Verfahren zur Vervielfaltigung von Druckwerken zu verstehen. Soweit ein PC im Zusammenspiel mit einem Scanner als Eingabegerate und einem Drucker als Ausgabegerat verwendet wird, ist er zwar geeignet, Druckwerke zu vervielfaltigen. Innerhalb einer solchen, aus Scanner, PC und Drucker gebildeten Funktionseinheit, ist jedoch - wie der BGH gleichfalls bereits entschieden hat (BGHZ 174, 359 Tz. 9 ff. - Drucker und Plotter) - nur der Scanner im Sinne des § 54a Abs. 1 UrhG a.F. zur Vornahme von Vervielfaltigungen bestimmt und damit vergutungspflichtig. Eine entsprechende Anwendung des § 54a Abs. 1 UrhG a.F. auf PCs kommt - so der BGH - gleichfalls nicht in Betracht. Einer entsprechenden Anwendung dieser Regelung steht entgegen, dass der Urheber digitaler Texte oder Bilder anders als der Autor von Druckwerken haufig mit deren Vervielfaltigung zum eigenen Gebrauch einverstanden ist. Insofern besteht keine Veranlassung, dem Urheber einen Vergutungsanspruch zu gewahren, der lediglich einen Ausgleich fur Vervielfaltigungen schaffen soll, die ohne seine Zustimmung erfolgt sind. Es ware auch deshalb nicht gerechtfertigt, den Anwendungsbereich der Regelung uber ihren Wortlaut hinaus auf Drucker auszudehnen, weil ansonsten die Hersteller, Importeure und Handler sowie letztlich die Erwerber die wirtschaftliche Last der urheberrechtlichen Vergutung fur Gerate zu tragen hatten, die im Vergleich zu den von der gesetzlichen Regelung erfassten Geraten nur zu einem wesentlich geringeren Anteil fur urheberrechtsrelevante Vervielfaltigungen eingesetzt werden.
当裁判所は、PCについては、著作権法第54a条第1段落第1項以下に定められている補償金の支払い義務はないものと決定した。なぜなら、これらの機器は、この規定の意味において、ある作品の複写あるいは同じような働きの処理を通じてなされる複製の実行に特に用いられるものではないからである。PCによっては、単体でも、他の機器と合わさっても、通常のコピー機のように光学的な複製を作成することはできない。PCによって、複製が作成される場合、それは、複写と同じような働きの処理において生じたものではない。著作権法第54a条第1段落第1項以下の意味における、複写と同じような働きの処理を行っているとは-当裁判所が既に決定したように(BGHZ 174, 359 Tz. 16 ff.-プリンターとプロッターについての判決参照)-印刷物の複製処理のみを指すものと解される。PCは、入力装置としてのスキャナーと出力装置としてのプリンターと協働して使用されて始めて、それは印刷物を複写するのに適していると言える。スキャナー、PCとプリンターの中では-同様に、当裁判所が既に決定したように(BGHZ 174, 359 Tz. 16 ff.-プリンターとプロッターについての判決参照)-スキャナーのみが、著作権法第54a条第1段落第1項以下の意味における、複製の実行をしていると認められ、これのみが補償金の支払い義務の対象である。PCに関しては、著作権法第54a条第1段落第1項以下のふさわしい適用もまた無視されてはならないと当裁判所は判断する。印刷物の作者以外のデジタルの文章や写真の著作者は、個々の利用においてこのような複製がなされることに良く同意していると考えられることに、この規定をふさわしく適用することはできない。その同意がない限りにおいて、著作者には、その同意が無ければなされ得ない複製に対する補償として与えられる補償金請求権が認められているのである。したがって、そのことからも、法律の文言における規則の適用範囲をプリンターを超えて拡張することは妥当ではない。さもなければ、製造業者、輸入者、販売者はおろか終いには購入者まで、機器に対する著作権補償金の経済的負担をしなければしなければならなくなってしまうであろうからである。法の規定から把握される機器と比較して、その適用範囲は、著作物に関係する複製に対し、より少なく本質的な部分に限られるのである。
プレスリリースの概要であるためか、論理的に少し分かりにくいところもあるが、ドイツも補償金に関するゴタゴタにうんざりしたのか、これだけでも、PCとプリンターとスキャナーの3重課金など、欲の皮の突っ張り過ぎもいい加減にしろという語気が伝わってくるようである。個人的にはスキャナー課金すらいかがなものかと思うが、よほどのことがない限りドイツでも少なくとも単体プリンターとPCは、今後も補償金の対象外とされて行くことだろう。(ドイツのプリンターに関する最高裁判決は、第38回で少し触れた。この判決は旧法の適用に関するものであるが、恐らく新著作権法(第15回参照)における補償金額決定においても尊重されることと思われる。)
(2)フランスの3ストライクアウト法案の今後
第116回で紹介したように、EU議会によって、フランスの3ストライク法案は否定された訳だが、フランスとEUの間で今現在妙な緊張感が高まっているので、その後の話を少し書いておきたいと思う。
第29回や第30回で紹介したように、もともとこの3ストライク法案は大統領レベルで言い出した話なので、そのプライドから引くに引けなかったのか、サルコジ大統領は、先週の金曜日に、この件に関してEU委員会のバローゾ委員長に向けて、3ストライク法案を否定する修正条項の削除に対する助力を求める手紙を送っている。(フランスのecransの記事で手紙の全文が読める。この記事によると、大臣レベルでの交渉もあったらしいが不調に終わったので、このような非常手段に出たものらしい。)
ところが、この手紙に対しては、この修正条項が88%の多数の議員の支持を受けて成立したものであり、委員会としてはこれを尊重するという断りの説明が、その後EU委員会から発表され、今現在サルコジ大統領としては面目丸つぶれの状態になっているのである。しかも、修正条項の文章は、プライバシーや所有権、情報と表現の自由といった様々な基本的権利の間で正しいバランスが取られる余地が各加盟国に残されるよう入念に書かれたものであり、フランスとしても受け入れられるだろうと思うが、どうしてもと言うなら、フランス政府として、EU理事会において他の26の加盟国の閣僚の前で、修正条項についてのその見解を議論にかけてはどうかと考えるとのだめ押しまでついている有様である。(やはりフランスのecransの記事、Le Figaroの記事、Nouvel Obsの記事参照。そもそも、記事中のEU委員会の情報とメディア担当スポークスマンのセルマイヤー氏の説明によると、EU議会の議決後は、EU自体のバランスが危うくなる場合しかEU委員会はディレクティブ等の拒否はできないそうであり、この大統領の手紙は実に奇怪なものと言わざるを得ない。)
Numeramaの記事やGNTの記事などを読むと、この修正条項を主導したEU議員のギュイ・ボノ氏も、このようなフランスの動きに対して、「フランス大統領は、欧州市民全体の共通の利益を代表し、推進するものと考えられるところ」、「その代わりに、魔法の杖の一振りで修正条項138を消し去ることを欧州委員会に求めるなど、サルコジはまたも民主主義の妨げとなった」、「自由を殺す法律を無理矢理押し通すために、ここまで民衆の代表を足蹴にするなど、人権の国の大統領に相応しいとは思えない」、「欧州委員会はサルコジの犬ではない」、「サルコジがフランスにおいて君主として振る舞うことに慣れているにせよ、ヨーロッパは彼の王国ではない。」と反発を強め、例えEU理事会で差し戻されたとしても、議会で同じ修正条項をまた入れるとしており、EUとフランスの間のこの件に関する緊張感は当面続くのではないかと思われる事態になっている。
今後は、11月27日に開かれるEU理事会(各加盟国の閣僚級のメンバーで構成され、各々が拒否権を持っている)で、EU議会へのディレクティブの差し戻しがされるかどうかということが焦点になるが、フランス単独で拒否権を行使するのはかなり難しく、やはり、フランスの3ストライク法案はほぼ完全に葬られたと思って良いのではないかと私は思っている。ただし、EU委員会に直接手紙を書いてしかも拒絶されるというかなりの醜態をさらしたサルコジ大統領が何をやってくるかは想像がつかないところもあり、フランスとEUの動きからは今後も目は離せない。(11月18日にこの3ストライクアウト法案は、フランス上院に回される予定だったそうだが、その予定もどうなるか。そもそも足下の金融危機でEU全体がぐらついている中、マイナーな知財の話で緊張感を高めてどうするのかという気もするが。)
次回こそ選挙向けの話をと思っているが、解散総選挙が延びそうな気もするので、別な話をまた挟むことになるかも知れない。
(10月20日の追記(第117回に書いたものと同じ):コメントでいろは様から教えて頂いたドイツのIT企業団体BITKOMの補償金裁判まとめ(pdf)によると、確かに、プリンター補償金裁判においてVG WORT側は憲法裁判所にさらに上告しているようであり、PCでも憲法裁判所へさらに上告される可能性があることを考えると、確定というのは言い過ぎだったかも知れない。ただ、憲法裁判所がこのレベルの問題をわざわざ取り上げてプリンターやPCに補償金を賦課しないのは憲法違反だと判断する可能性は相当低く、ほぼ確定していると言っても良いのではないかとも思うので、一応文章はそのままにしておく。(いろは様コメント・情報ありがとうございました。))
(10月30日の追記:いろは様から、この判決は旧法に関するものであり、新法には適用されないのではないかとするコメントを頂いたので、念のために、ドイツ最高裁のプレスリリースの最後の部分も以下に訳出しておく。(ドイツの最近の法改正については、第13回と第15回をご覧頂ければと思う。)
Nach der seit dem 1. Januar 2008 geltenden Regelung, die im entschiedenen Fall noch nicht anzuwenden war, besteht ein Vergutungsanspruch hinsichtlich samtlicher Geratetypen, die zur Vornahme von bestimmten Vervielfaltigungen zum eigenen Gebrauch benutzt werden (§ 54 Abs. 1 UrhG). Der Vergutungsanspruch hangt demnach nicht mehr davon ab, dass die Gerate dazu bestimmt sind, ein Werk "durch Ablichtung eines Werkstucks oder in einem Verfahren vergleichbarer Wirkung" zu vervielfaltigen.
本件では適用されないが、2008年1月1日から施行される規定は、特定の用途のために、規定されている複製の実行に使用される、複合タイプの機器に関する補償金請求権を定めている(著作権法第54条第1項)。この補償金請求権はもはやこれに対しては認められない、そこで定められている機器は、「複写あるいは同じような働きの処理を通じて」作品を複製するものなのである。
確かに判決は旧法の適用に関するもので、今後どうなるかは読みづらいところもあるのだが、今まさに新法の適用をどうするかということでもめている中、このような判決が出されたことはやはり大きいのではないかと私は考えている。)
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