2017年12月29日 (金)

第387回:2017年の終わりに

 既に役所も休みに入り、一通り年内のイベントは終わったと思うので、今年も一年の終わりに今まであまり取り上げる暇がなかった細かな話をまとめて書いておきたいと思う。

 最初に特許庁では、産業構造審議会・知的財産政策部会・特許制度小委員会の報告書案に対する意見募集が1月24日〆切で開始されている。(特許庁のHP1、電子政府のHP1参照。)

 この第四次産業革命等への対応のための知的財産制度の見直しについて(案)(pdf)は、第377回で取り上げた検討会報告書や第378回で取り上げた知財計画2017の後を受けた検討の結果が示されているが、この報告書案によれば、案の定標準必須特許裁定制度の導入は見送られたようであり、後は次のような法改正事項が並んでいる。

  • 証拠収集手続の強化
  • 新規性喪失の例外期間の延長
  • 中小企業の特許料及び手数料の一律半減制度の導入
  • 判定における営業秘密の保護
  • クレジットカードを利用した特許料等及び手数料納付制度の導入

 このうち証拠収集手続の強化は、書類提出命令の必要性判断においてインカメラ手続を導入し、専門委員にインカメラに関与することを可能とするもので、ほぼ知財計画2017などに書かれていた通りのものだが、他の項目はこの報告書案で始めて方向性が明らかにされたものばかりであり、かなり唐突感がある。

 そうは言っても、基本的には全て制度ユーザーの利便性向上のための法改正事項であり、その限りにおいて特に大きな問題はないが、上から2つめの新規性喪失の例外期間の延長について、「このグレース・ピリオドについては、『環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(TPP担保法)』によって、国際調和の観点から、米国と同様の1 年に延長されることとされているが、その施行を待つことなく早急に措置することが適当である」(第10ページ)とあからさまにTPP関連法の前倒しであることを明言している点は注意しておいてもいいだろう。(前回第384回で書いた通り、著作権の保護期間延長問題については直近ではTPPより日欧EPAの方がより致命的な影響を及ぼしそうな情勢であるが。)

 特許庁では、他にも8月には商標制度小委員会も開かれていたが、こちらの報告書がまとめられているということはまだないようである。また、内容の紹介は省略するが、弁理士制度小委員会の報告書案に対する意見募集も1月24日〆切で行われている。(特許庁のHP2、電子政府のHP2参照。)

 大して内容はないが、意匠絡みで、産業競争力とデザインを考える研究会という研究会が開催されており、11月22日には中間とりまとめが出されている。

 次に文化庁では、文化審議会・著作権分科会の下で、いつも通り、法制・基本問題小委員会著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会国際小委員会といった小委員会が開かれており、特に法制・基本問題小委員会でのリーチサイト対策の検討が要注意なのは間違いなく、保護利用小委員会での補償金問題の検討も気になっているが、まだいまいち方向性は見えていない。

 農水省では、日欧EPAの合意に対応し、地理的表示に関して、日EU・EPA(GI分野)の概要(pdf)指定の内容の決定についてを公開している。ただし、農水省の資料としては、知財本部・検・評価企画委員会の12月26日の産業財産権分野会合(第2回)資料(pdf)の方がまとまっていて分かりやすい。

 知財本部では、来年の知財計画に向けた検討が始まっているが、検証・評価・企画委員会に加えて知的財産戦略ビジョンに関する専門調査会が設置されている。この専門調査会は、「2025年~2030年頃を見据え、中長期の社会・経済の変化に対応する今後の知財システムの在り方に関する調査・検討する」ということで、どうやら4年前の知的財産政策ビジョン(pdf)のように意味不明の長期ビジョンをまたぞろ立てるつもりらしい

 今年もおよそロクなことがなかったが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2017年12月10日 (日)

第385回:経産省・不正競争防止小委員会の中間報告案(不競法による限定公開データ保護の導入及びDRM規制強化を含む)に対する意見募集(12月25日〆切)への提出パブコメ

 各省庁で今年度の法改正の検討が進められているが、その中の1つとして経産省の産業構造審議会・知的財産分科会・不正競争防止小委員会の中間報告案(pdf)が12月24日〆切でパブコメにかかっている。(電子政府のHP参照。)

 この小委員会の4月版の中間とりまとめ案については第377回でも取り上げているが、やはり現行法で守られている営業秘密を超えてデータそのものを守ろうとしている点とDRM規制の強化をしようとしている点で極めて大きな問題がある。

 内容はいつにも増してレベルが低く書かれていることは全て法改正のための法改正としか思えないが、この中間報告案に対して私が出したパブコメをここに載せておく。

 なお、私の提出したパブコメでは触れていないが、この中間報告案には、政令改正によって分析方法や評価方法に関する営業秘密も不正競争防止法第5条の2の不正に取得した技術上の営業秘密の使用に関する推定規定の対象とすることや、証拠収集手続について特許法の改正がなされる場合に不正競争防止法においても同様の規定を導入するといったことも書かれている。

(以下、提出パブコメ)

(1)限定公開データの保護のための法改正について
・該当箇所
 第2~12ページ「第一章 データ利活用促進に向けた制度について」

・意見内容
 本中間報告案中の、限定公開データの保護のための不正競争防止法改正に反対する。

・理由
 本中間報告案では、一定の要件を満たすデータを不正競争防止法の保護対象とするとしているが、そもそも、既存の営業秘密の保護を超え、日本が独自に定義する過度に広範なデータを不正競争防止法の保護対象とすることに対する法改正ニーズ及び立法事実はない。

 たとえば、本中間報告案の第2ページに契約に基づく信頼を裏切り不正に使用・提供されるおそれがある云々と記載されているが、このようなケースは既存の法制及び契約による対応で十分である。本当に秘密とするべきデータであれば秘密保持契約を結んで開示するべきであり、さらに悪意のある利用については契約違反である上、一般的な不法行為規制による対応もあり得、技術的な管理を破ることについては不正アクセス禁止法による対応があり、詐欺については詐欺罪による対応があり得るのである。データの内容次第だが、多くの場合で著作権法による対応も考えられるであろう。

 第6ページでは、対価を支払って選択的に提供される分析データや素材データが対象になると書かれているが、これらはあくまで対価の対象として得られる公開データなのであるから、技術及び契約による対応で十分であり、契約によって利用範囲を定め、それを超える利用は損害賠償の対象となるといったことを明確にしておけばよいだけのことである。

 すなわち、本中間報告案に書かれていることは法改正のための法改正でしかなく、本中間報告案に記載されている法改正は一切するべきではない。

 私は以上のとおり本中間報告案に書かれた法改正そのものに反対しているのであって、個別の問題点について修正すれば法改正に関する問題が解消されると言うつもりは一切ないが、さらに個別の問題点について以下に指摘する。

(a)保護対象となるデータの要件について
 本中間報告案では、保護対象となるデータの要件について、技術的管理性、限定的な外部提供性及び有用性が要件となるとしているが、このように営業秘密を超えて単に技術的に管理されていれば保護の対象となるとするような要件には明らかに問題がある。

 このように単に技術的に管理された有用なデータが保護の対象となるとすると、あらゆる限定公開データ、すなわち、ネットにおいて、無料有料にかかわらずあらゆる会員制サイトで提供されるコンテンツ・データ、対価の対象として提供されるあらゆるコンテンツ・データが対象となり得る。また、データ取引は企業間(BtoB)の取引のみならず、企業対一般消費者(BtoC)や一般消費者間(CtoC)もあり得ることが注意されなくてはならない。たとえ一般公開データと同一のデータを保護対象外とし、不正競争行為となる類型に制限を加えたとしても、このようなあらゆる限定公開データを不正競争防止法の保護対象とすることはあまりにも広範であり、かえってデータの利活用を阻害する。

(b)不正競争行為の類型について
 本中間報告案では、保護対象となるデータについて、権限のない者による不正アクセスや詐欺等の管理侵害行為による取得行為等、契約者による不正利益又は図利加害目的での第三者提供行為等、転得者による不正行為に係るデータの悪意での使用行為等を不正競争行為の類型として追加するとしているが、このような行為類型の追加に対する根拠はないに等しい。

 不正アクセスや詐欺等については不正アクセス禁止法や詐欺罪等による対応が可能であり、それ以上の不正競争防止法による対応を必要とする根拠はない。契約者による不正利益又は図利加害目的での第三者提供行為等についても契約があるのであるから、契約による対応で十分であり、それ以上の対応を必要とする根拠はない。転得者による不正行為に係るデータの悪意での使用行為等もこのような類型を対象とするべき根拠となる実例は存在しない。

(2)DRM規制の強化につながる法改正について
・該当箇所
 第13~15ページ「第二章 技術的な制限手段による保護について」

・意見内容
 本中間報告案中の、DRM規制の強化につながる技術的制限手段に関する不正競争防止法改正に反対する。

・理由
 本中間報告案において、DRM規制について、技術的制限手段による保護対象に一般的な電子計算機処理用データを追加し、そのための無効化する装置等の提供行為を不正競争行為とするとともに、技術的制限手段の定義でアクティベーション方式によるものが含まれることを明確化し、無効化装置等の提供と同等とみなされる無効化サービス提供行為、不正な無効化符号提供行為を不正競争行為とするとしているが、同様に、このようなDRM規制強化のための立法事実はない。

 DRM規制については、利用者に与える影響も大きく、平成11年導入時の必要最小限の内容に止めるとの整理を守るべきである。コンテンツ以外のデータについてDRMによる保護をかけていることのみでは法律で保護を与えるべき根拠とはならないこと、DRMの無効化助長行為は無効化装置の提供とは異なり慎重な検討が必要であることなど、このような議論は導入当時と何ら変わるものではない。また、なぜか本中間報告案では著作権法について一切言及がないが、DRM規制については、著作権法による規制も考慮した総合的な検討も必須である。

 DRM規制の対象として追加されるデータの例として機器の制御や不具合の解析などのために用いられるデータやゲームのセーブデータがあげられているが、これらのようなデータを不正競争防止法上のDRM規制の対象とするべき根拠はない。たとえば、機器の制御や不具合解析のためのデータの暗号の解読のための行為がなぜ不正競争とされるべきなのか根拠は一切不明であり、このようなことが規制されると、場合によって必要となる機器の解析やリバースエンジニアリングなどが阻害されることにつながるであろう。セーブデータ改変は既に著作権法違反なのであるから、不正競争防止法による対処は不要である。

 また、アクティベーション方式は既に現行法の対象と考えられており、無効化装置等の提供と同等とみなされる行為についても同等とみなされる場合は現行法で対処可能であり、法改正は不要である。

 このような無意味なDRM規制強化の検討は全て白紙に戻し、今ですら不当に強すぎるDRM規制の緩和のための検討を著作権法と合わせ速やかに開始するべきである。

 繰り返しになるが、本中間報告案に書かれていることは全て法改正のための法改正でしかなく、本中間報告案に記載されている一切の法改正に私は反対する。

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2017年4月21日 (金)

第377回:経産省の2つの知財関係の報告書(ADR制度導入や不競法上のDRM規制強化などを含む)

 幾つかの新聞で報道されている通りなのだが、経産省から2つ知財関係の報告書が公表されているので、ここでも念のため見ておきたいと思う。

(1)第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会報告書
 1つは第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方について(pdf)概要(pdf)参考資料(pdf))(経産省のリリース参照)と称するもので、例によって第四次産業革命という何だか良く分からないキーワードが踊っているだけの空疎極まる内容のものである。

 この報告書は全編ほとんど無意味なことしか書かれていないが、強いて法改正に絡むことが書かれているとすれば、第13ページの、

ビジネス関連発明を含む多様な特許に係る紛争処理システムの機能強化を図るべく、証拠収集手続において、書類提出の必要性を、当事者に書類を一旦提示させることで裁判所がインカメラ手続を通じて判断できるような制度や、中立的な第三者の技術専門家が関与できるような制度の導入に向けた検討を進める。

といった記載や、第16〜17ページの、

 第一に、社会的影響の大きい標準必須特許については、特許権者の権利を不当に害さないことに留意しつつ、特許権者と利用者の間でライセンスに関する協議が整わない場合に、利用者の請求に基づいて、行政が両者の間に入って、適切なライセンス料を決めるADR制度(標準必須特許裁定)の導入を検討する。なお、制度設計に当たっては、特許権行使専業企業への対応の必要性も考慮しつつ、デジュール標準以外の標準やFRAND条件でライセンスすることが宣言された標準必須特許以外の特許をどこまで対象とするか、実施権の設定を行う場合の要件をどのようにするか等についても検討を行う必要がある。
 第二に、多様な特許をめぐる紛争を迅速かつ簡便に解決するため、特許権者と利用者との間でライセンスに関する協議が整わない場合や権利侵害をめぐる紛争が起きた場合等に、当事者である中小企業等を含む多様な企業の請求に基づいて調整を行うADR制度(あっせん)について、既存のADR制度との関係を整理の上、検討する。

といった記載くらいである。前者の紛争処理システムの機能強化の話は前の特許庁の報告書の内容を超える情報は全くなく(第374回参照)、後者の標準裁定などの話についても既存のADR(裁判外紛争解決手続き)の利用もあまり進んでいない中で国が間に入る形の新しい制度を作る意味がさっぱり分からない。

 この報告書は、最後に、「本検討会における検討結果を、『知的財産推進計画2017』及び『日本再興戦略2017』等に反映するとともに、速やかに着手可能な取組については、平成29年度中を目途に結論が得られるよう、特許制度小委員会等で法改正を視野に入れた具体的な検討を進めることが適当である」と書かれている通り、知財計画などに間に合わせるためにありあわせで提言を出しておくというだけのもので、実際の具体的な検討はこれからなのだろうが、上のADRに関する話などどこまで実現性があるか甚だ疑わしい。

(2)営業秘密の保護・活用に関する小委員会中間とりまとめ案
 もう1つは産業構造審議会・知的財産分科会・営業秘密の保護・活用に関する小委員会で取りまとめ中の第四次産業革命を視野に入れた不正競争防止法に関する検討中間とりまとめ概要(案)(pdf)概要(pdf))である。(小委員会の4月20日の配布資料参照。)

 こちらも同じく良く分からないキーワードが踊る報告書案なのだが、この報告書案は特に不正競争防止法の改正を取り扱っているという点で注意を要する。

 まず、報告書案中の第1章の「データの保護制度の在り方について」から法改正に関する方向性の部分だけを抜き出して行くと、以下のようになる。

  • データの不正利用等に関し、新たな不正競争行為として行為規制を設ける方向で検討する。
  • データの保護対象を明確化した上で、保護すべきデータの範囲について検討する。
  • 新たな制度の創設により、データの利活用が進まなくなることがないよう、悪質性の高い取得行為を規制対象とする。今後、どのような行為がこの「悪質性の高い」行為に当たるかについて検討する。
  • 悪質性の高い行為により取得したデータを使用・提供等する行為を規制対象とする。
  • その他、例えば以下に掲げる行為についても規制の可否について検討する。・正当に取得したデータについて、データ提供者の意に反し、不正の利益を得る目的又は保有者に損害を加える目的での使用、提供の行為。・不正にデータを取得した者からデータの提供を受ける二次取得以降の取得についても、事情を知って、若しくは重大な過失により知らないで、当該データを使用、提供等する行為。
  • 保護対象として、データの保有・管理を行う者が当該データに対してのアクセスを認めていない者に対して、アクセスを認めていない者がデータを取得やアクセスすることを防止したいとの、データを保有・管理する者の意思について一定の認識ができる状態となっているデータ等を対象とする。
  • 保護すべきデータの範囲を画するにあたり、一定の「有用性」を有することを要件とする。
  • 保護すべきデータとして、データ自体が単体、集合物であることを問わず、保護対象とする。
  • まずは、電子データを念頭において検討する。
  • その他、保護すべきデータを検討するにあたって、以下の点を考慮することが考えられる。・事業に実際に利用しているデータを保護対象とする。・公知情報を集めたデータであっても収集したことで一定の価値を有するデータは保護対象とする。・営業行為を行わない個人のデータについては保護対象外とする。
  • 不正競争行為に対する救済措置として、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置等の民事措置を設ける。
  • 刑事措置については、今後の状況の変化等を踏まえて慎重に検討する。

 具体的な内容は良く分からないところも多いが、要するに、今までの営業秘密の保護を超えて、一定の有用性・価値を有するデータを不正競争防止法で保護すると言っているのであり、これはかなりの注意を要する。また、データ管理情報について、「著作権の対象とならない情報に付与される管理情報について、ニーズをまずは調査した上で、ニーズがあると認められれば保護する方向で検討する」と言っていることにも注意しておいた方がいいに違いない。

 次に、第2章の「情報の不正利用を防止する技術の保護の在り方について」からやはり法改正の関する方向性の部分だけを抜き出すと、以下のようになる。

  • 「影像」、「音」について、分析等「視聴」以外の利用を制限するために施される技術的な制限手段を保護対象として必要に応じて追加する。
  • 人が視覚・聴覚で感知できないデータの利用を制限する手段の保護に関しては、必要に応じ検討する。
  • 技術的制限手段による保護対象の範囲としてどのようなデータとすべきかについて、技術的制限手段のユーザーに対しニーズ調査を行いつつ検討していく。
  • 技術的制限手段を無効化した上で利用等する行為の規制については、必要に応じ検討する。
  • 不正競争行為に対する救済措置として、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置等の民事措置及び刑事措置を設ける。
  • アクティベーション方式等に係る技術的手段について、技術的制限手段の定義に含まれることを明確化する。
  • 技術的制限手段を無効化するサービスを提供する行為を、必要に応じて不正競争行為とする。
  • 無効化を可能とする情報を単に提供するだけのサービスに関しては、規制についてのニーズの把握に努めつつ、引き続き、慎重に検討する。
  • ただし、悪質な行為を伴う、技術的制限手段を無効化する方法を教えるサービスについては、必要に応じ検討する。
  • 技術的制限手段を無効化した上で利用等する行為の規制については、必要に応じ検討する。
  • 技術的制限手段を無効化するサービスを提供する行為に対する救済措置として、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置等の民事措置及び刑事措置を設ける。

 やはり詳細不明なところが多いが、これは、不正競争防止法によるDRM規制、技術的制限手段に関する規制について大幅な規制強化の検討をすると言っているのであり、非常に要注意である。このような規制強化のニーズがあるとは私には全く思えず、DRM規制については現行法ですら厳し過ぎると私は考えているのである。

 こちらの中間とりまとめ案は今後どうなるのか良く分からないが、パブコメにかけられ次第私は意見を出すつもりでいる。

(5月11日夜の追記:5月9日に経産省から上で取り上げた営業秘密の保護・活用に関する小委員会の中間とりまとめ(案が取れたバージョン)が公開されたが(経産省のHP参照)、パブコメにはかかってない。極めて残念なことだが、どうやらこの報告書の内容について国民から広く意見を聞くつもりは経産省にはないようである。)

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2017年2月27日 (月)

第374回:特許庁の報告書案から予想される今後の特許法改正

 今現在3月17日〆切で特許庁から「我が国の知財紛争処理システムの機能強化に向けて(案)(pdf)」という報告書案がパブコメにかかっている。

 この報告書案は、知財本部の検討の後を受け、産業構造審議会・知的財産分科会・特許制度小委員会で知財訴訟制度に関する検討結果をまとめたものと見て取れる。(知財計画2016中の関連する記載については第363回参照)

 特に大きな問題があるということはないが、今回はこの報告書案から予想される今後の特許法改正の内容をざっとまとめておきたいと思う。

 おおよそどうでもいい部分を飛ばして各検討事項の結論部分だけを抜き出して行くと、まず、「Ⅰ.適切かつ公平な証拠収集手続の実現」の「2.各論」の「(1)訴え提起後の証拠収集手続について」では、

  • ①公正・中立な第三者の技術専門家に秘密保持義務を課した上で、提訴後の証拠収集手続に関与できるようにする制度の導入について:「強制力のある査察制度の導入については引き続き慎重に検討」(第3ページ)、「日本の民事訴訟制度の枠組みに沿った形で公正・中立な第三者の技術専門家が証拠収集手続に関与する制度を導入することで、手続の充実化を図り、その運用を注視することが適切」(同上)、「例えば、秘密保持の義務を課された公正・中立な第三者の技術専門家が、書類提出命令(特許法第105条第1項)及び検証物提示命令(特許法第105条第4項、同条第1項)における書類及び検証物の提出義務の有無を判断するための手続(特許法第105条第2項、第3項。以下「インカメラ手続」という。)において裁判官に技術的なサポートを行うことを可能にすることや、鑑定人に検証の際の鑑定(民事訴訟法第233条)における秘密保持義務を課すことで、同手続を秘密保護に配慮した形で行うことを可能とすることなどが考えられる」(同上)
  • ②書類提出命令・検証物提示命令の要件である書類・検証物の提出の必要性を判断するためにインカメラ手続を利用することができるようにする制度の導入について:「書類提出命令・検証物提示命令の制度に関し、書類・検証物の提出の必要性の有無についての判断のために、裁判所がインカメラ手続により当該書類・検証物を見ることを可能にする制度を導入」(同上)
  • ③具体的態様の明示義務が十分に履行されなかった場合に書類提出命令が発令されやすくする方策について:「本方策については、②の新たな制度では対応が困難な課題が明らかになった場合に検討すべき課題とすることが適当」(第4ページ)
  • ④現行の書類提出命令を発令しやすくするよう、同命令と秘密保持命令を組み合わせて発令できるようにする方策について:「本方策については、②の新たな制度では対応が困難な課題が明らかになった場合に検討すべき課題とすることが適当」(第5ページ)

と書かれ、「(2)訴え提起前の証拠収集手続について」では、

  • 「現行の訴え提起前の証拠収集処分における任意性は維持した上で、訴え提起後の証拠収集手続の改善策と同様に、日本の民事訴訟制度の枠組みに沿った形で公正・中立な第三者の技術専門家が証拠収集手続に関与する制度を導入することで、手続の更なる充実化を図ることが適切」(第5ページ)、「例えば、秘密保持の義務を課された第三者の技術専門家が執行官に同行して技術的なサポートを行う仕組みを導入することが考えられる」(第5〜6ページ)

と書かれている。

 次に、「Ⅱ.ビジネスの実態やニーズを反映した適切な損害賠償額の実現」の「2.各論」の「(1)現行特許法第102条第3項に規定される損害賠償額の算定方法の在り方について」では、

  • 「特許法第102条第3項に規定される損害賠償額の算定方法の在り方については、今後、損害賠償額の認定に関する裁判所の運用や、理論的な検討の動向、国際的な動向を注視しつつ、引き続き慎重に検討」(第8ページ)

と、「(2)通常の実施料のデータベース等の作成について」では、

  • 「通常の実施料のデータベース等の作成が適当であるとは言えない」(第8ページ)

とされている。

 「Ⅲ.権利付与から紛争処理プロセスを通じての権利の安定性の向上」の「2. 各論」の「(1)侵害訴訟における特許庁に対する求意見制度、特許庁における有効性確認手続、侵害訴訟における訂正審判請求等を要件としない訂正の再抗弁について」では、

  • ①侵害訴訟における特許庁に対する求意見制度について:「裁判所調査官制度及び専門委員制度の運用状況やユーザーニーズの状況も注視しつつ、引き続き慎重に検討することが適当」(第9ページ)
  • ②特許庁における有効性確認手続について:「ユーザーニーズの状況を注視しつつ、引き続き慎重に検討することが適当」(第10ページ)
  • ③侵害訴訟における訂正審判請求等を要件としない訂正の再抗弁について:「訂正の再抗弁に関する裁判所の運用やユーザーニーズの状況も注視しつつ、引き続き慎重に検討することが適当」(第11ページ)

とされ、「(2)裁判所における更なる技術的専門性の向上や裁判所と特許庁との連携について」では、

  • 「司法と行政のそれぞれの役割に留意し、裁判所の公平性、中立性を保ちつつ裁判所と特許庁が連携する取組を今後も進めていくことが適当」(同上)

と書かれ、「(3)侵害訴訟等において権利の有効性が推定されることを確認的に規定するための明らか要件の導入の是非及び訂正審判等の要件緩和等の是非等について」では、

  • ①確認的な明らか要件の導入について:「裁判所による特許の有効性に関する判断の動向やユーザーニーズの状況を注視しつつ、引き続き慎重に検討することが適当」(第12ページ)
  • ②訂正審判等の要件緩和等(特許権の拡張・変更)について:「ユーザーニーズの状況も注視しつつ、引き続き慎重に検討を行うことが適当」(第13ページ)
  • ③訂正審判等の要件緩和等(予備的訂正・段階的訂正)について:「ユーザーニーズの状況も注視しつつ、引き続き慎重に検討することが適当」(同上)

と書かれている。

 後は審査の品質に関する取り組みについて書かれている程度なので省略するが、報告書案中の「慎重に検討」とはお役所文学で何のことはない「やらない」という意味なので、上の書きぶりから今現在特許法改正(恐らく他の知財法にも同様に導入されることになるのだろうが)により導入することがほぼ想定されているのは、要するに、

  • 書類・検証物の提出の必要性の有無についての判断のために裁判所がインカメラ手続により当該書類・検証物を見ることを可能にすること

のみなのだろうと知れ、これに加えて可能性が高いこととして想定されているのは、

  • 訴え提起後のインカメラ手続における裁判官や、訴え提起前の証拠収集手続における執行官に対して第三者の技術専門家の技術的なサポートを可能にすること

くらいなのだろうと分かる。

 どちらも実務的にはそれなりに重要とは言え、この報告書案の内容から見る限り次の特許法改正は小幅の改正に留まりそうである。 

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2016年12月28日 (水)

第372回:2016年の終わりに

 トランプ氏のアメリカ大統領選挙当選の結果発効の見込みが全く立っていないことが不幸中の幸いとは言え、日本の国会で極めて問題の多いTPP協定と関連法案が可決されるなど今年もおよそロクでもない年だったが、今日で各省庁も休みに入り、年内のイベントは一通り終わったと思うので、ここで、今まで取り上げる暇があまりなかった細かな話をまとめて書いておきたいと思う。

 まず、知財本部では、10月から検証・評価・企画委員会が開催されており、今のところほぼ今までの取り組みのフォローアップをしているだけで何か新しい方向性が出ているということはないが、産業財産権分野、コンテンツ分野、新たな情報財検討委員会と3つに分かれて検討が進められている。この中では、新たな情報財検討委員会がAI(人工知能)の作成・保護・利活用の在り方を検討しているようだが、例によって具体的に何をどうしたいのかいまいち良く分からない。

 次に文化庁では、例年通り文化審議会著作権分科会の下で、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会法制・基本問題小委員会新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム国際小委員会が開催されている。茂木和洋氏が最近の検討資料を氏のサイトに上げて下さっているが、私的録音録画補償金制度に関しては関係者の意見が対立したままで、一般的な権利制限規定(フェアユース)の導入には否定的と文化庁の検討は相変わらず全く期待できない状況である。さらに、まだかなり整理が必要だろうと思うが、法制・基本問題小委員会でリーチサイト対策についての検討が進められていることも要注意だろう。

 特許庁では、産業構造審議会知的財産分科会の下で、審査基準に関する検討なども行われているが、法制度に絡むものとして特許制度小委員会商標制度小委員会が開催されている。このうち7月に開催されていた商標制度小委員会の方ではすぐに法改正をするような話にはなっていないようだが、特許制度小委員会の方では知財計画2016(第363回参照)を受けて知財紛争処理システムの在り方に関する検討が行われている。

 また、経産省では、営業秘密の保護・活用に関する小委員会も開催されているが、これもまた資料を見ても何をどうしたいのか良く分からない。

 農水省では、種苗分科会が開催されているが、農水省関連としてはそのHPに書かれている通り、TPP関連法として成立した地理的表示保護法の改正法が既に施行されていることに注意が必要だろう。(無論改正法の他の部分はTPP協定の発効と結びついているので施行されていないが。)

 最後に、総務省では、知財とは直接関係がないが、放送を巡る諸課題に関する検討会放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会が開催されており、放送番組のネット同時配信の検討が行われている。

 TPP協定と関連法が国会を通った上、いつも通り各省庁は何のためか良く分からない検討のための検討をこぞって繰り広げており、来年も良い年にはなりそうもないが、だからと言って諦めるつもりもない。政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を。そして、この拙いブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

(2017年1月11日の追記:特許庁のHPに資料が掲載されているが、昨日10日に意匠制度小委員会も開催されていたようである。意匠分野における優先権書類の電子的交換の仕組みの導入などそれなりに実務的に重要な検討もしているようだが、資料を見る限り、意匠法について大きな法改正が今すぐ動きそうな様子ではない。)

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2016年2月28日 (日)

第359回:TPP協定のための特許法と商標法の改正の概要(2月12日の特許庁・産業構造審議会・知的財産分科会の資料)

 著作権法とは違い、そう大きな問題を含んでいる訳ではないのだが、TPP協定批准のためには著作権法だけではなく、特許法や商標法などの他の知的財産法も改正が必要となる。

 その法改正内容の概要については、特許庁で2月12日に開催された産業構造審議会・知的財産分科会で必要となる法改正の概要が示されているので、今まで書いて来たことと多く重なるが、念のため、その内容を見ておきたい。(なお、法運用としては、職務発明ガイドラインの話など他の話も重要でないということはないのだが、ここでは省略する。)

 その概要は、その中の特許庁の資料、TPP協定を担保するための特許法改正について(pdf)の6ページに、

○新規性喪失の例外規定について
・発明の新規性喪失の例外期間(グレースピリオド)について、現行の公表等から6月を12月に延長する。

○期間補償のための特許権の存続期間の延長制度について
・特許権の存続期間について、特許出願の日から5年を経過した日又は出願審査の請求があった日から3年を経過した日のいずれか遅い日(以下「基準日」という。)以後に、特許権の設定の登録があった場合に、出願により延長することを可能とする。
・延長が可能な期間は、基準日から特許権の設定の登録の日までに相当する期間から、特許庁の責めに帰さない理由により経過した期間及び審判・裁判の期間等の特許出願に係る手続や審査に要した期間以外の期間を控除した期間とする。
・存続期間の延長登録に対する無効審判制度その他所要の制度を整備する。

と、同じくTPP協定を担保するための商標法改正について(pdf)の4ページに、

○民法の原則を踏まえ、追加的な損害賠償ではなく、法定の損害賠償に関する規定を整備する。

○具体的には、商標の不正使用による損害の賠償を請求する場合において、当該登録商標の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を損害額として請求できる規定を追加する。

と、それぞれ書かれている。

 これらは、今まで政府のTPP関連政策大綱などで示されていたこととほぼ一緒で、グレースピリオド(特許法において出願より前に公表したとしても例外的に新しい発明であると認められる期間)の変更、不合理な遅延を理由とした特許期間の延長、商標法における法定賠償制度の導入の3つなのだが、見るべきは、この資料で商標法における法定賠償制度の内容について多少詳細が示されたことだろう。前回取り上げた著作権法の場合と同様、商標法においても、民法の原則(填補賠償の考え方)を踏まえ、法定賠償として請求できるのは「登録商標の取得及び維持に通常要する費用に相当する額」を請求可能とすることとしているのである。

 具体的な条文の書き方にもより、「登録商標の取得及び維持に通常要する費用に相当する額」がどの程度の額を意味するか解釈の幅があり得るとも考えられるものの、民法の原則である填補賠償の考え方に従っている限り、これがそう大きな額になるということはなく、商標権の取得・維持のためにかかる出願料と登録料程度を意味すると考えておけば良いのだろう。(そうだとしても濫用の危険については十分注意する必要があるが。)

 そのため、TPP協定に絡む特許法と商標法の改正に関しては著作権法の場合のような問題はそこまでないと思えるが、特許庁がTPPに絡む法改正のような重要な論点を含む検討を一般に分かりにくい形で行っていることはやはり問題だろう。

 また、最後に合わせて先週2月24日の文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会で取りまとめられた報告書の内容も見ておくと(文化庁のHPにはまだ掲載されていないが、MIAUがそのツイートの通り資料をアップロードしてくれている)、前々回取り上げた2月10日時点の資料と比べ多少注釈や関係者の意見が追加されているくらいで大きな方針の変更は全くない。

 ただし、前回取り上げた法定賠償制度に関する部分で、協定との関係について以下のような補足の記載が多少追加されているのは、国会での議論を受けて文化庁内部で検討した結果だろうか。

「権利者を補償するために十分な額に定め,及び将来の侵害を抑止することを目的とする」(TPP協定第18・74条第8項)との関係については,現行規定による所定の損害額の請求が可能であることによりこれらの要件を満たし得るとの意見が示された。特に,「将来の侵害を抑止することを目的とする」との規定との関係については,填補賠償を認める現行制度が侵害を抑止する効果を発生させるものであると評価できること,及びTPP協定は自国の法制等の範囲内で協定上の義務を実施することを許容していることから,現行制度によって協定上の当該義務は満たし得るとの意見があった。(第36ページ)

これに関連して,最高裁は,我が国の損害賠償制度について,「加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではない」とするー方で,「もっとも,加害者に対して損害賠償義務を課すことによって,結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても,それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的,副次的な効果にすぎず,加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである」と判示しており,加害者に損害賠償責任を負わせることにより,同種の侵害が抑止され,一般予防が図られるという副次的効果が生ずることがあることを認めている。(萬世工業事件最高裁判決[最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁])。(同第36ページ注93)

なお,新たに整備すべき制度の対象は著作権等管理事業者により管理されている著作物等に限られることとなる点について,協定上の義務との関係をどのように理解すべきかが問題となりえる。この点,今回の制度改正の趣旨は,前記のとおり, 「法定の損害賠償」との関係では,全ての著作物等に適用される法第114条第3項等の規定が既に整備されているところ,これを前提としつつ,協定の趣旨をより適切に反映する観点から,填補賠償原則の枠内で更なる制度の改善の余地がある部分について制度の整備を行うこととするものである。(第39ページ)

 2月29日に文化庁で著作権分科会が開かれるが、恐らく報告書の内容にさらに変更が加えられることはないだろうし、特許庁でもまた審議会が開かれる様子はないので、報道されているように、政府としてはこれらの資料の内容通りの法改正案を3月8日に閣議決定するつもりなのだろう。

 しかし、アメリカでも大統領選を前にTPP反対論がかなり出て来ている中でどうして日本政府がそこまでTPP関連法案の可決を急ぐのか、その著作権法改正案などの施行がTPP発効に合わされるだろうことを考え合わせても実に不可解と言う他ない。私は無論TPP協定の批准にも、これらの法改正案の内容にも反対だが、たとえTPP協定批准のために関連法改正案を検討するにしても、アメリカを中心として他の国の動向も見ながらもっと慎重に進めるべきだろう。

(2016年2月29日の追記:産業構造審議会・知的財産分科会は開催案内が出されており、非公開というのは私の勘違いだったので、記載を修正した(「一般に非公開の形で」→「一般に分かりにくい形で」)。)

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2015年12月29日 (火)

第355回:2015年の終わりに

 国会は閉会中、役所も正月休みに入り、年内に何か政策的に新しいことが言い出されるということはもうないだろうと思うので、今年も最後にマイナーなことも含め国内の動向についてまとめて書いておきたいと思う。

 まず、知財本部では、知的財産推進計画2016策定に向けた検討が始まっており、検証・評価・企画委員会の下の知財紛争処理システム検討委員会と次世代知財システム検討委員会でそれぞれ知財訴訟制度と自動集積されるデータベースの取り扱いなどに関する検討が進められているが、政策的にはっきりとした方向性はまだ出されていない。第338回で書いた通り、最も気になっているのは、次世代知財システム検討委員会で来年2月に検討される予定の国境を越えるインターネット上の知財侵害への対応についてだが、委員会メンバーはそこまで偏った構成になっておらず、ここでそう変な結論を出して来ることは恐らくないのではないかと踏んでいるがどうだろうか。

 次に、特許庁では、産業構造審議会知的財産分科会の特許制度小委員会や審査基準ワーキンググループ(特許意匠商標)などが開催されており、経産省では、営業秘密の保護・活用に関する小委員会が開催されているが、いずれも地道な法改正のフォローアップや基準の改訂に関する話ばかりで、文化庁と違って、TPPに絡む特許法改正に関する審議会での検討はされていない。(両方ともマニアックなものなので内容の説明は省略するが、それぞれ1月9日と1月19日〆切で、特許庁から、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令案に対する意見募集産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会報告書「画像デザインの保護の在り方について」(案)に対する意見募集の2つのパブコメが出されているので、念のためここでもリンクを張っておく。)

 また、農林水産省は、その初回登録に関するリリースにある通り、地理的表示の登録を開始している。

 そして、文化庁では、分化審議会著作権分科会の下で、TPP対応に関することを検討していた法制・基本問題小委員会の他にも、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームなども開かれているが、例によって利害関係者の間の意見の隔たりは大きく、現時点でどうともなっていない。

 TPPに絡む法改正については、文化庁、知財本部の検討を経て、TPP総合対策本部の11月25日のTPP関連政策大綱(pdf)において、「Ⅱ TPP関連政策の目標/3 分野別施策展開/(3)知的財産」で、

 TPP協定の締結に必要な国内実施のため、国内法との整合性に留意しつつ、必要な措置を講ずる。また、TPPを契機として、輸出促進に向けた地理的表示(GI)等に関する措置を講ずる。

①特許・商標関係
○不合理な遅延に係る特許権期間延長、特許の新規性喪失例外期間の延長、商標不正使用に対する民法の原則を踏まえた法定の損害賠償制度等に関し、所要の措置を講ずる。
〇地域中小企業等の知財戦略の強化や、特許審査体制の整備・強化を図る。
〇TPP協定実施のための制度の整備状況等を踏まえつつ、知財紛争処理システムの一層の機能強化のための総合的な検討を進める。

②著作権関係
○著作物等の保護期間の延長、著作権等侵害罪の一部非親告罪化、著作権等侵害に対する民法の原則を踏まえた法定の損害賠償制度等に関し、所要の措置を講ずる。その際、権利の保護と利用とのバランスに留意し、特に、著作権等侵害罪の一部非親告罪化については、二次創作への委縮効果等を生じないよう、対象範囲を適切に限定する。
○著作物等の利用円滑化のため、権利者不明等の場合の裁定制度の改善を速やかに行うとともに、社会的諸課題への対応、柔軟性の高い権利制限規定、円滑なライセンシング体制の整備等に関する検討を進める。

と、「Ⅳ 政策大綱実現に向けた主要施策/3 分野別施策展開/(3)知的財産」で、

○地理的表示の相互保護制度整備による農林水産物の輸出促進等
(我が国の地理的表示(GI)の海外での保護を通じた農林水産物の輸出促進を図るための諸外国と相互にGIを保護できる制度整備)

①特許・商標関係
○特許・商標関係の制度整備
(不合理な遅延に係る特許権期間延長、特許の新規性喪失例外期間の延長、商標不正使用に対する民法の原則を踏まえた法定の損害賠償等に関する制度整備)

②著作権関係
○著作権関係の制度整備
(著作物等の保護期間の延長、著作権等侵害罪の一部非親告罪化、著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段に関する制度整備、配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与、著作権等侵害に対する民法の原則を踏まえた法定の損害賠償等に関する制度整備)

とまとめられた所で、今後さらに各法改正の詳細が各省庁の審議会と国会で検討されるのではないかと思われる。今年は知財政策についてはTPPに終始したと言っても過言ではない年だったし、来年の通常国会でTPP関連の法改正の審議を行うとの報道もあり、来年もTPP問題が一番の焦点になりそうな様子であるが、そもそも私はTPPに絡む上記の法改正のほぼ全ての点について反対であり、速やかに脱退するべきと思っていることに変わりはなく、TPPについても拙速な検討による法改正がなされないことを、率先して法改正までしたが結局どこの国もついて来なかった海賊版対策条約(ACTA)の二の舞にならないことを強く願っている。

 なお、最後についでに書いておくと、官房長官が図書が有害かどうかで軽減税率の適用・消費税率が変わるような制度を検討すると言い出しているということもあり、どうやら有害図書問題でも来年はきな臭い年になりそうである。

 ここ何年もどうにも良い話がなく、今年も良い年をという気にはならないが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を。そして、この拙いブログを読んでくださっている方々に心からの感謝を。

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2015年3月23日 (月)

第334回:閣議決定された特許法等改正案と不正競争防止法改正案

 この3月13日に特許法等改正案と不正競争防止法改正案が閣議決定され、国会に提出された。ほぼ審議会報告書通りで、以前書いたことと重なるが、念のためその内容を見ておきたい。

(1)特許法等改正案
 経産省のHPで公開された特許法等改正案の概要(参考資料)(pdf)には、法改正案のポイントについて以下のように書かれている。(概要(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照表(pdf)も公開されている。)

  • 職務発明の活性化:職務発明に関する特許を受ける権利を初めから法人帰属とすることを可能とする/発明者に対して現行法と実質的に同等のインセンティブ付与を法定/法人と発明者の間でのインセンティブ決定手続のガイドライン策定を法定化【特許法第35条】
  • 特許料等の改定:特許料を10%程度引き下げ/商標登録料を25%程度、更新登録料を20%程度引き下げ/国際出願の調査手数料等を日本語及び外国語別の料金体系に改正【特許法第107条第1項、商標法第40条第1項、国際出願法第18条第2項等】
  • 特許法条約、シンガポール条約(商標)への加入:外国語出願における翻訳文の提出期間を経過した場合の救済規定等の導入/書類の添付忘れ等瑕疵ある出願について、一定期間内に限り補完を可能とする制度を導入等【特許法第5条、第36条の2、商標法第9条等】

 料金や書類の提出期間経過後の救済規定なども重要には違いないがここではおくとして、今まで発明の自然人帰属の原則から出発して権利承継の形を取っていた職務発明について初めから法人帰属を可能とする、特許法に置ける今までの考え方の大転換の一つとも言っても良いだろう職務発明関連規定の条文案は以下のような形になっている。(下線部が追加部分。)

(職務発明)
第三十五条

(略)
 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめあらかじめ、使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させを取得させ、使用者等に特許権を承継させ、又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。

 従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。

 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払金銭その他の経済上の利益(次項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する。

 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価相当の利益について定める場合には、対価を、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであつてはならない。

 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、前項の規定により考慮すべき状況等に関する事項について指針を定め、これを公表するものとする。

 前項の対価相当の利益についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項相当の利益を与えることが第五項の規定により不合理であると認められる場合には、第三項の対価の額第四項の規定により受けるべき相当の利益の内容は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。

 上の経産省の概要資料では項目名が「職務発明の活性化」になっているが、この法改正で職務発明が活性化されることがないだろうことだけはほぼ断言できるし、実際のところ職務発明について法改正を是とするに足る立法事実の変化が大してなかったにもかかわらず、このような法改正案が出て来たことは私としてはやはり釈然としない。

 ただし、「相当の対価」については「相当の利益」と書き換える形でほぼ従前の規定ぶりを踏襲しており、法改正による金銭的な面での実際の変化はそれほど大きくないようにも見える。しかし、この法改正は従業発明者にしてみれば権利の切り下げであり、また、「対価」という語を「利益」という語にしたことから従業発明者にとって不利な解釈変更が生じないとも限らず、この法改正が成立した場合、第6項の規定から経済産業省(特許庁)が作るに違いない指針と合わせ、その運用は十分に注視して行く必要があるだろう。

 また、上の概要にも特許法条約、シンガポール条約への加入と書かれている通り、それぞれの条約の締結の承認も合わせ国会に提出されており、並行して審議が進められることになるのだろう。(それぞれ経過情報1参照。)

(2)不正競争防止法改正案
 同じく経産省のHPで公開されている不正競争防止法の概要(参考資料)(pdf)から法改正のポイントを抜き出すと以下のようになる。(概要(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照表(pdf)も公開されている。)

  • 法定刑の引上げ等:抑止力向上のため、罰金刑を引き上げる。(現行:個人1千万円以下、法人3億円以下)また、犯罪収益を没収できることとする。【第21条第1項、第3項、第10項】
  • 非親告罪化:営業秘密侵害罪を非親告罪とする(公訴提起にあたって被害者からの告訴が不要となる)。【新第21条第5項】
  • 立証負担の軽減:立証が困難である「加害者(被告)の企業情報の不正使用」について、一定の要件の下、被害者の立証負担を軽減する。(被告が当該情報の不使用を立証)【新第5条の2】
  • 企業情報使用物品の譲渡・輸出入等行為:企業情報を侵害して生産された物品を譲渡・輸出入等する行為を、損害賠償や差止請求の対象とするとともに、刑事罰の対象とする。【民事:新第2条第1項第10号】【刑事:新第21条第1項第9号】
  • 企業情報窃取等の未遂行為:「サイバー攻撃」などによる企業情報窃取や転売等の未遂行為を刑事罰の対象とする。【新第21条第4項】
  • 転々流通した企業情報の転得者:転々流通する企業情報について、不正に取得されたことを知って取得した者による使用、転売等を刑事罰の対象とする。(現行:実行行為者からの直接の取得者のみ)【新第21条第1項第8号】
  • クラウドなど海外保管情報の窃取:日本企業が国内で管理し、海外で保管する情報の「取得・領得」行為も刑事罰の対象とする。(例:海外サーバーからの情報窃取など)【新第21条第6項】

 条文案を引くと長くなるので省くが、前にも書いた通り、この法改正案は、営業秘密関係について現時点で考えられる規制強化をほとんど全て詰め込んだものになっており、やはり非常に企業寄りのものになっている。

 さらに広い意味で情報関係ということでは、刑事訴訟法等の改正案や個人情報保護法の改正案も閣議決定されている。それぞれ知財とは少し離れるので詳細は省くが、刑事訴訟法等の改正案(法務省のHP参照)は取り調べの可視化の範囲をかなり限定しながら、司法取引を導入し、通信傍受の範囲を拡大するなど検察・警察にとって非常に有利な内容になっており、特に、児童ポルノ規制法との関係では、通信傍受法において、傍受対象の共謀犯罪類型を規定する別表第二の第3号として「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第七条第六項(児童ポルノ等の不特定又は多数の者に対する提供等)又は第七項(不特定又は多数の者に対する提供等の目的による児童ポルノの製造等)の罪」という項目が追加されることになりそうである。

 そして、個人情報保護法の改正案(内閣官房のHP参照)では、一番問題視されていた同意なしでの利用目的の変更に関する規定がなくなったので、最も問題となるのは匿名加工情報に関する部分のように思うが、第36条第1項の「個人情報取扱事業者は、匿名加工情報(匿名加工情報データベース等を構成するものに限る。以下同じ。)を作成するときは、特定の個人を識別すること及びその作成に用いる個人情報を復元することができないようにするために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に従い、当該個人情報を加工しなければならない。」に始まり、個人情報保護委員会の規則が非常に重要となる形となっている。そのため、これも現時点では、この規則次第としか言いようがないが、この規則が企業寄りの甘いものとなり、法改正が通った後どこかの時点で匿名加工情報の取り扱いが問題になる可能性もかなりあるだろうと私は見ている。

 今年これから予定される法改正は、利用者、消費者又は従業者側の視点が全くないとまで言うつもりはないし、今の流れから見てやむを得ないだろうとも思うが、どうにも企業寄りで、全体としてあまり期待は持てない。

(2015年3月24日夜の追記:いくつか誤記を直した。)

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2015年1月19日 (月)

第330回:経産省・営業秘密の保護・活用に関する小委員会中間とりまとめ(不正競争防止法改正・営業秘密の保護強化)に対するパブコメ募集(1月30日〆切)

 先週1月16日に1月30日〆切で経産省から産業構造審議会・知的財産分科会・営業秘密の保護・活用に関する小委員会の中間とりまとめに関するパブコメが開始された(電子政府の意見募集ページ参照)。前回書いたことと多く重なるのだが、今年最初の知財法改正パブコメとして重要なものには違いないので、念のため、ここで取り上げておきたいと思う。

 この中間とりまとめ(pdf)は産業構造審議会・知的財産分科会・営業秘密の保護・活用に関する小委員会で去年から検討されていたことをまとめた報告書であり、不正競争防止法で規定されている営業秘密の保護に関して非常に多くの法改正事項を含む内容となっている。

 報告書中の「3.今後の対応」の「(3)制度面での抑止力向上」からそのポイントを抜き出して行くと、まず、刑事規定に関して、

  • 国外処罰:「国外における故意での営業秘密の不正取得・領得を処罰の対象とする。」
  • 未遂処罰:「故意での営業秘密の取得・領得及び使用・開示行為について、その未遂行為も処罰の対象とする。」
  • 転得者処罰:「窃盗行為者本人からの直接の取得に限らず(三次以降の取得者であっても)、不正に取得されたことを知って故意で営業秘密を使用ないし開示する行為を処罰行為とする。」
  • 営業秘密使用物品の譲渡・輸出入等の処罰:「営業秘密使用物品(営業秘密を不正に使用して生産された物品)であることを知って、故意でそれを譲渡・輸出入等する行為を処罰対象とする。」
  • 罰金の引き上げ:「個人及び法人に対する罰金刑を引き上げる。」
  • 非親告罪化:「営業秘密侵害罪を非親告罪とする。」

という方向性が書かれており、さらに、民事規定に関して、

  • 被害企業の立証負担の軽減・立証責任の転換:「営業秘密侵害訴訟における立証責任を公平に配分する観点から、不正若しくは悪意重過失で一定の営業秘密を取得した者には、当該営業秘密を使用する蓋然性・経験則が認められると考えられることから、原告側が被告による不正取得や原告の営業秘密を用いて生産できる物を生産していること等を立証した場合には、被告による営業秘密の使用行為を推定し、不使用の事実の立証責任を被告側に転換する。」、「原告が次の①〜③の全ての事項を立証した場合、被告の物に原告の営業秘密を使用したことを推定し、被告に立証責任を転換する。①被告による②の営業秘密の不正取得(法2条1項4号)又は悪意重過失での取得(同条項5号、8号)があったこと。②物の生産方法の営業秘密であること。(生産方法以外の技術上の営業秘密(物の分析技術など)についても引き続き検討。)③被告がその営業秘密を使用する行為により生じる物の生産等を行ったこと。」
  • 除斥期間の延長:「除斥期間を20年に延長する。」
  • 営業秘密使用物品の譲渡・輸出入等の禁止:「一定の条件(技術上の営業秘密を使用する不正競争行為により生じた物品であることについて、その譲り受け時に悪意・重過失である場合等)下で、営業秘密使用物品について譲渡・輸出入等する行為を、民事措置(差止・損害賠償)の対象とする。」

という方向性が書かれている。

 このように法改正事項がてんこ盛りとなったのは、企業側の要望を受け、現時点で考えられる営業秘密保護強化案をほとんど全て突っ込んだ所為と思われるが、実のところ本当の意味で法改正の根拠となる立法事実の変化はどうかと見て行くとかなり怪しいものが多いのは前回取り上げた特許庁の報告書案の職務発明制度改正案と五十歩百歩と言って良い。

 どこまで裁判で認められるか分からないものの、同じ小委員会で承認された営業秘密の要件の緩和を唱えるガイドラインの改訂(第4回資料中の改訂案(pdf)参照)もあり、法改正後の実運用次第だが、上であげた未遂処罰、非親告罪化、使用物品の譲渡の禁止のような営業秘密の保護強化によってかなりの萎縮が生じる可能性も否定できない。恐らくほぼこのままの内容で不正競争防止法改正案が国会に提出されることになるのだろうが、実際にどのような形の規定とされるのかその条文案にも十分注意する必要があるだろう。

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2014年12月26日 (金)

第329回:2014年の落ち穂拾い

 衆議院選挙が終わり、組閣が行われたが、自民党の議席も、内閣のメンバーもほとんど変わらなかった。そのため、やはり当分厳しい状況が続くだろうことはともかく、今年もなかなか書く暇がなかった話を最後にまとめて書いておきたいと思う。

 まず、特許、商標、意匠関連では、この12月25日に、特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会・特許制度小委員会で、「我が国のイノベーション促進及び国際的な制度調和のための知的財産制度の見直しに向けて」(案)(pdf)がとりまとめられ、1月15日〆切でパブコメにかけられている(特許庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ参照)。

 この特許庁の報告書案中に含まれている事項は、職務発明制度の見直し、特許料金等の改定、特許法条約及び商標法に関するシンガポール条約の加入の3点である。これらの中でも法改正事項としてもっとも注意すべきなのは、職務発明制度の見直しだろうと思うが、そのポイントだけを抜き出すと、

  • 第一に、職務発明に関する特許を受ける権利については、使用者等に対し、契約や勤務規則等の定めに基づき、発明のインセンティブとして、発明成果に対する報いとなる経済上の利益(金銭以外のものを含む)を従業者等に付与する義務を課すことを法定する。
  • 第二に、職務発明に関する「特許を受ける権利」については、現行制度を改め、初めから使用者等に帰属するものとする。
  • 第三に、政府は、インセンティブ施策の策定の際に使用者等に発生するコストや困難を低減し、法的な予見可能性を高めるため、本小委員会等の場において関係者の意見を聴いて、インセンティブ施策についての使用者等と従業者等の調整の手続(従業者等との協議や意見聴取等)に関するガイドラインを策定する。

と、職務発明に関する特許を受ける権利の帰属を基本的に始めから企業にするとしており、今までの特許法の考え方をかなりラディカルに変える結論になっている。職務発明制度について法改正を是とするに足る立法事実の変化が実のところ大してないことは、文章として書かれていることがどうあれこの報告書案の薄さが端的に示しているとは思うが、特許庁としてはこのまま突っ走るのだろう。(条約等に関する話も実務的には非常に重要なのだが、あまりにマニアックな話となるためここでは省略する。また、基準レベルの検討を行っているものとして、今年、他にも特許庁では特許審査基準WG意匠審査基準WG商標審査基準WGなどが動いており、意見募集として、1月16日〆切で特許異議の申立て制度の運用(案)に対する意見募集無効審判における請求人適格に関する運用(案)に対する意見募集も、1月17日〆切で特許法改正政令案に対する意見募集も、1月22日〆切で省令案に対する意見募集も、1月23日〆切で「商標審査基準」改訂案に対する意見募集も行われている。)

 また、経産省の産業構造審議会・知的財産分科会・営業秘密の保護・活用に関する小委員会では、ガイドラインだけでなく、不正競争防止法の見直しも進められており、こちらの報告書案はまだ作られていないようだが、11月27日の第3回の資料中の営業秘密の流出防止のための制度整備について(論点)(pdf)には、

  • 国外における営業秘密の「不正取得・領得」についても国外犯処罰規定の対象としてはどうか。
  • 営業秘密の取得・領得及び使用・開示行為について、その未遂行為も処罰の対象としてはどうか。
  • 窃取行為者本人からの直接の取得に限らず(三次以降の取得者であっても)、不正に取得されたことを知って営業秘密を使用ないし開示する行為を処罰対象としてはどうか。
  • 営業秘密使用物品について譲渡・輸出入等する行為を、刑事措置・民事措置(差止・損害賠償の対象としてはどうか。
  • 法人重課を含め罰金刑の上限を引き上げることとしてはどうか。
  • 営業秘密侵害罪を非親告罪とする。

などと書かれており、これも未遂罪の追加や非親告罪化なども含め、かなりの厳罰化の方向で検討が進められそうな様子である。

 文化庁では、今年も著作権分科会の下で、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会法制・基本問題小委員会国際小委員会の3つの委員会が開かれているが、いつも通り利害関係者がそれぞれ言いたいことを言っているだけで、ほとんどどうにもなっていない。

 また、知財本部では検証・評価・企画委員会が開催されており、クールジャパン会議も地方版が開催されたりしているが、今のところこれと言って大した検討はされていない。

 最後に、知財政策とは離れるが、IT本部でこの12月19日にパーソナルデータに関する検討会の第13回が開かれ、そこで個人情報の保護に関する法律の一部を改正する法律案(仮称)の骨子(案)(pdf)の検討がされている。この骨子案でも個人情報の保護について本当の意味で十分とは言い難いが、前の大綱と比べ(前の大綱については第316回参照)、個人情報の定義の拡充や個人情報データベース提供罪の新設などを言っているだけ、かなりマシになっている。恐らくこの骨子案通りに法改正案が作られ、国会に提出されるのではないかと思うが、情報政策の面で非常に重要な法改正であり、実際にどのような条文が国会に提出されるのかも要注意である。

 これらの動きを見るにつけ、知財政策の面では、やはり来年もTPP交渉が最大のトピックであり、職務発明と営業秘密保護法制に関する法改正がそれに次いで重要なトピックとなりそうである。

 それでは、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このつたないブログを読んでくださっている方に心からの感謝を。

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