カテゴリー「特許・意匠・商標・不正競争防止法」の9件の記事

2009年6月 3日 (水)

第176回:医療関連発明の保護範囲の拡大・特許制度研究会の検討

 著作権に比べ特許制度自体は非常に堅牢で、特許に関する話は大体問題ないところに落ちるようにできているので、いつも後回しになるのだが、特許政策も知財の1つの柱として決しておろそかにして良いものではなく、先週の5月29日に知財本部で第8回の「先端医療特許検討委員会」(議事次第)が開かれ、その報告書案(pdf)も出されているので、ここで特許関係の話をまとめてしておきたいと思う。

(1)医療関連発明の保護範囲の拡大
 去年の今頃はかなり大騒ぎをしていたように思うが(第95回参照)、最終的に出て来た報告書案(pdf)は、かなり落ち着いたものとなっている。概要(pdf)を読んでもらえばすぐに分かると思うが、この報告書では法改正を伴うような抜本的な変更方針は示されておらず、主に、審査基準の改訂により以下の2つのタイプの発明を新たに特許の保護対象として追加するというところに落ちている。

  • 画期的な効果を示す新用法・用量の医薬の発明
  • 最終的な診断を補助するための人体のデータの収集方法に係る発明

 細かな話だが、前者は、従来、薬の対象となる患者群や適用部位が異ならない限り新たな特許保護の対象とならなかった医薬発明について、本当に画期的な効果が得られるようであれば、薬の用量のみを変えたような新発明についても、特許の保護範囲とするということであり、後者は、従来、人体の測定に使われるX線CT装置やMRI装置等の新規の測定方法の発明は、全て診断方法に該当するとされ、特許保護の対象外とされていたものを、人体の一般的な測定方法は診断方法に該当しないとして、特許保護の対象とするということである。

 また、従前から特許保護の対象であったにもかかわらず、そのことが良く知られていなかった、以下の3つのタイプの発明については、そのことを審査基準に明記して周知を図るとしている。

  • 化学物質や細胞と機械・器具を組み合わせたDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)や再生医療に係る発明
  • iPS細胞を様々な細胞に分化誘導する方法等の生体由来材料の体外における処理方法に係る発明
  • 細胞を新たな適用疾患に適用する生体由来材料の用途発明

 命に関わる医療関連発明について闇雲に特許の保護範囲を広げることは、社会全体に致命的な影響を及ぼすので決してやってはならないことだが、上の2点の特許対象の追加のレベルであれば、これは手術、治療、診断等の医療行為そのものに特許権を及ぼすような変更では無く、実務的には多少ややこしい問題が発生し得るかも知れないが、十分合理的なレベルでの特許の保護範囲の拡大に落ち着いていると言えるだろう。

(2)特許制度研究会の検討
 次に特許の話をするのはまた相当時間が空くと思うので、一緒に紹介しておくと、特許庁が、抜本的な法改正をすると称して「特許制度研究会」(配布資料等)を開催している。今現在、開かれているのは第4回までで、最終的に何が出てくるのかはさっぱり分からないが、今までの検討項目として上がっているのは、およそ以下のようなものである。

  • 特許権の効力の見直し(差止請求権に対する制限の導入、強制実施許諾の在り方など)
  • 特許の活用促進(ライセンス・オブ・ライト制度の導入、通常実施権の登録対抗制度の見直し、新たな独占的ライセンスに係る制度の創設、特許を受ける権利の登録・公示制度の創設など)
  • 迅速・効率的な紛争解決(特許無効訴訟と特許侵害訴訟という特許の有効性判断の2つの訴訟ルートの整理)

 また、具体的な内容は分からないが、第1回の研究会資料(pdf)によると、さらに、特許の質の向上、迅速・柔軟な審査制度の構築、 国際的な制度調和の推進の3点についても検討することになっている。

 あまりにマニアックな話になるので、個別の項目についてここでいちいち突っ込むことはしないが、第2回から第4回までにあげられた論点は全て法的整理が非常に厄介なものばかりであり、いくら検討を重ねたところで、すぐに結論が得られるとは到底思えない。そもそも、既にかなり堅牢に構成されている特許法について、抜本的な法改正のニーズが本当にあるのかというところからして疑問である。特許についても、最近の役所のパターンで、地道な取り組みを無視したニーズ不明・意味不明の検討の結果、例によって例の如く法改正のための法改正がされることがないよう個人的には祈っている。

 上の先端医療特許検討委員会の報告書案のとりまとめで、知財本部のイベントは一通り終わったと思うので、近いうちに今年度版の知財計画が出されるだろう。その内容は公表され次第確認したいと思っているところである。

 このブログは一応知財政策と銘打っているので、特許の話を先に書いたのだが、最近、表現・情報規制関係の話がさらに危険な様相を呈して来ている。

 去年の青少年ネット規制法の審議などを考えても、昨日可決された国会の55日間の延長により、各種の危険な規制強化法案について、混乱に乗じた妥協、強行採決の危険性は高まっていると考えておいた方が良いだろう。日本の政党はどこも妥協政党ばかりで本当に度し難いのだが、任期切れまで待ったとしても選挙まで後わずかである、適宜政党や国会議員へ意見を送る等、個人でやれることはやっておきたいと思う。

 やはり昨日、総務省が開催したオンラインでの児童保護をテーマとした国際会議では、規制派・欧米の狂った取り組みや主張が中心的に取り上げられるなど(internet watchの記事参照)、さらに同日、警察庁も児童ポルノ流通防止協議会と称して、メンバーを見ただけで結論ありきだろうと分かるネット検閲協議会を立ち上げるなど(internet watchの記事、インターネット協会のリリース参照)、児童ポルノ規制関連の動きは、相変わらずひどい状態が続いている。

(なお、パブコメ等には書いているが、ここにも書いておくと、ドイツでは以下のような内容の児童ポルノサイトブロッキング法案に反対する国会への電子請願(HP参照)が既に10万筆を超えて集まっており、欧米でも、一方的に規制強化のみが是とされている訳では無い。

「請願:ドイツ連邦議会が、2009年4月22日に閣議決定された通信メディア法改正案を否決することを求める。連邦警察庁がサイトを指定し、プロバイダーにそのブロックを認める、この計画されている措置は、『ブロッキングリスト』が閲覧不可能であり、きちんと決められ得ないものである以上、どのようなクライテリアに基づいてサイトがリストに載せられるのか、全く透明性に欠け、コントロール不能のものであると我々は考える。これは情報の自由に関する基本的な権利を危うくするものである。
理由:特に、子供を守り、児童ポルノの頒布を含め、その虐待を防ぐというその目的には我々は全く異論は無い、逆に、我々の関心があるのはそのことのみである。しかし、計画されている手段が、その目的に対して極めて不適切なものであるということは、沢山の場所で言われており、専門家も実に様々な報告で間々認めている。インターネットサイトのブロッキングが、虐待児童の肉体的精神的保護のためになるということはほとんど全くと言って良いほど無く、その証明もされ得ない。」)

 これに加えて、アダルトゲームの自主規制問題も騒がしくなっている(読売のネット記事参照)。「チラシの裏(3週目)」(関連エントリ1エントリ2)で既に突っ込まれているので、リンク先をご覧頂ければ十分と思うが、頭のおかしい極一部の人間の根拠不明の言い分を一方的に飲んで、ある特定のジャンルの創作物の国内販売を広く規制するなど、狂気の沙汰である。一般流通からほぼ完全に排除されるという効果を有するなら、自主規制であったとしても危険であることに変わりはない。意味不明かつ曖昧な範囲で規制が実施されるとしたら、根拠なく一般流通からある表現が排除できるという前例を作る点で、表現・情報規制問題全体に対しても悪影響を及ぼすことだろう。マイナーな表現の切り捨てにつながり易いという自主規制そのものの問題、アダルトゲーム業界自体の問題も絡んでいるので、非常に厄介なのだが、表現の自由から考えてこのような規制の圧力こそ明らかに不当なものなのだから、流通も製造も含めアダルトゲーム業界全体で一丸となって不当な圧力を跳ね返すということができないものかと思う。

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2009年3月 4日 (水)

第157回:新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書(案)に対する提出パブコメ

 第155回で取り上げた新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書(案)に対して、パブコメを提出したので、ここに載せておく。

 先に最近のニュースも少し紹介しておくと、まず、知財本部から、恒例の知財計画の見直しに関するパブコメの募集がかかった(3月25日〆切。知財本部のリリース個人用提出フォーム法人・団体用)、電子政府の該当ページ意見募集要項(pdf)知財計画2008(pdf))。知財計画2008の内容については既に第103回で書いているので、新たなエントリを立てることはしないが、パブコメは提出次第ここに載せたいと思っている。ダウンロード違法化問題、保護期間延長問題、私的録音録画補償金問題、B-CAS・DRM規制問題、青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法の問題、違法コピー対策・海賊版対策条約の問題、フェアユースの導入、情報・表現規制問題等々、問題は常に山積みである。

 各国の著作権法についても順次紹介したいと思っているところだが、スウェーデンで知財法改正案が国会を通ったとする記事(The Localの記事ecransの記事)もあったので、念のためリンクを張っておく。これらの記事によると、この法改正は、それまで刑事事件でのみ(警察あるいは検察に対してのみ)認められていた、ファイル共有におけるIPアドレスからのユーザー情報の開示について、裁判所の決定とともにインターネットアクセスプロバイダーから権利者へ情報開示をさせるという、民事的な手続きの整備を行うもののようである(法改正案(pdf)(スウェーデン語))。しかし、この法改正については、実質的にプライバシーを侵害する著作権検閲を認めるものであり、著作権団体を警察以上の著作権警察とするものと批判されてもいるようである(反対派のHP(スウェーデン語))。

 また、やはり第155回で取り上げた、不正競争防止法の改正法案が、この2月27日に閣議決定され、国会に提出されている(経産省のリリース概要1(pdf)概要2(pdf)新旧対照条文(pdf))ので、経産省のリリースにリンクを張っておく。残念ながら、経産省も無意味な規制強化に余念が無いと見える。

(3月4日夜の追記:「チラシの裏(3週目)」で既に細かな突っ込みをされているが、児童ポルノ規制法改正に関して、民主党が、2回以上の取得に対して罰則を設ける児童ポルノ2ストライクアウト法案の了承手続きを取った(民主党のリリース)。この案は、去年の5月の時点(第96回参照)とほぼ同じであり、ネットの特性を考えると、このような法改正が危険であることに変わりはない。金の問題もさることながら、政策的な面でも今の民主党は信頼できない。)

(3月5日夜の追記:知財本部の「知的財産による競争力強化専門調査会」で、第3期の基本方針について検討されている。こ基本方針自体に対するパブコメは既に終了しているが、この基本方針の在り方についての案(pdf)3月3日の資料より)の内容は、今後の知財計画に反映されて行くだろうものであり、上記の知財計画パブコメの参考になると思うので、ここにリンクを張っておく。)

(以下、提出パブコメ)

(意見概要)
 不当な利得を得るための登録・権利行使が考えられる、音について、その不登録事由等について十分な検討を経ないまま、新たな保護類型として追加することに反対する。

(意見本文)
 報告書案では、音の商標を新たな保護類型として追加する方針としているが、音の商標は、他の視覚的な商標とは異なる特色を有しているということが考慮されるべきであり、音に、会社名を連呼するような音だけでは無く単なる旋律も含まれ得、音の商標の使用に、単なるBGMとしての使用も含まれ得ることから、音については特に慎重に検討するべきである。

 例えば、パブリックドメインに落ちた著名な旋律が商標登録されてしまうと、その旋律を広告や動画やサイトや店のBGMに商標権者の使用許諾無く使えなくなるということになり得るが、このような商標登録・権利行使は、「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の本来の法目的をないがしろにする、不当な利得を得るための、商標の不当な登録・権利行使であり、決して認められてはならないものである。(商標法第29条の調整規定で著作権と抵触する場合は商標使用ができないとされているが、パブリックドメインに落ちたものには関係ないものと考えられる。)

 新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループの第3回で、座長がこの点について、「パブリックドメインに落ちている音楽の著作物の一部を特定の一事業者が独占するといっても、あくまでも商標としてですね。商標として、今のところでいえば、出所表示的な対応において使用されていると、出所を表示するために、そういう表示として独占するということになるわけです。」と説明しているが、実際には、音の場合に何をもって出所表示的な使用とするのかは非常に曖昧であり、このような説明では、上記のような懸念は全く払拭されない。

 報告書案で公益的な音については登録除外とするとしているが、これだけでは不十分である。余計な混乱を避けるため、音について、少なくとも、他人の著名な旋律・楽曲を登録から除外することを検討するべきであり、上記のような不当な利得を得るための登録が排除されない限り、音については、その保護類型への追加は決してされるべきではない。

 また、他のタイプのものも含め新しいタイプの商標全体について、諸外国の不登録事由・使用における例外・権利制限規定等を精査し、可能な限り取り入れるようにするべきである。

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2009年2月19日 (木)

第155回:技術情報の保護等の在り方に関する小委員会最終報告書の公表と新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書(案)に対するパブコメ募集

 今まで紹介して来た話の続きで、今回は、営業秘密(不正競争防止法)と商標の話を少し書いておきたいと思う。

(1)技術情報の保護等の在り方に関する小委員会最終報告書
 技術情報の保護等の在り方に関する小委員会の最終報告書がこの2月16日に公表された(経産省のリリース報告書本文(pdf))。

 私もパブコメで、このようなそもそもの法目的を超える法改正はおかしく、より一般的な目的での行為は刑法や不正アクセス防止法で対処するべきではないかと指摘したのだが、結局、詐欺等行為又は管理侵害行為による営業秘密の取得罪、管理任務に背く行為による営業秘密の領得罪の目的要件を今までの「不正の競争の目的」からより一般的な「図利加害目的」とするという内容に変更は無かった

 2月6日に開かれた最後の小委員会の資料中のパブコメの結果(pdf)で、この目的要件のすり替えについて、

この点につきましては、仮に競業目的が存在しないとしても、図利加害目的をもつ者によって営業秘密が保有者である事業者の管理の外に出されてしまった場合には、原状回復を図ることは困難であって、その者やその者から開示を受けた者が営業秘密を公知化したり、競業企業に開示したりすることが容易になってしまいます。そして、そのようにして特定又は不特定の競業企業が当該営業秘密を利用可能な状況が生じてしまうと、被害にあった事業者は、競争上の優位性の源泉ないしその基礎を失うことになり、事業活動自体に深刻な影響を及ぼす被害を受けることになりかねません。したがって、図利加害目的をもって保有者である事業者の管理下にある営業秘密を侵害する行為は、まさに不正競争防止法の保護法益たる「公正な競争秩序」を阻害する行為であるということ ができるものと考えられ、現に、現行法の民事規定におきましても、図利加害目的が要件として規定されているところであります(不正競争防止法第2条第1項第7号参照)。

と経産省は書いているが、何故刑法や不正アクセス防止法によって対処できないのかという点についての説明は無い。「公正な競争秩序」は別に不正競争防止法のみによって守られている訳ではなく、不正競争防止法はあくまで、そのために「不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的」としているのである。不正競争防止法の第2条第1項第7号も、営業秘密の使用又は開示にかかる民事罰の要件であって、詐欺、管理侵害、背任による営業秘密の取得の刑事罰の目的要件のすり替えの必要性がそこから導かれる訳ではない。(議事録が公開されていないので何とも言えないが、恐らく口頭でも大した説明は無かったのではないかと思う。)

 意見募集の結果を見ると、より広い目的要件で営業秘密の保護を図った方が良いと思い込んでいる企業から賛成意見が多く出されているように見受けられるが、この手の実質的に無意味な法改正は、余計な混乱を招くだけであり、全体として有害無益なものとしかなりようがないということがなかなか広く理解されないのは残念である。 

 このレベルの法改正だと、いつ改正法案が国会に提出されることになるのかも良く分からないが、このような法改正はされない方が良いと私は今でも思っている。

(2)新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書(案)に対するパブコメ募集
 第140回で少し紹介した、新しいタイプの商標に関する報告書案がパブコメにかかった(3月17日〆切。特許庁のリリース提出フォーム電子政府の該当ページ意見募集要項(pdf)報告書本文(pdf))。

 報告書本文(pdf)の要点は、従来の古典的な商標に、動き、ホログラム、輪郭のない色彩、位置、音の商標を追加するということである。

 この内、視覚的なものである、動き、ホログラム、色彩、位置については、ある程度従来の商標からの類推も効くだろうが、音に関しては特に注意しておかないといけない。会社名を連呼するような音について文句を言う人間は別にいないだろうが、音といった場合、単なる旋律も入るのであり、単なるBGMが問題となり得るのである。登録除外については、

②公益的な音
 緊急用のサイレンや国歌(他国のものを含む。)等の公益的な音の商標 は、一私人に独占を許すことは妥当でないことから、その登録を認めないよう規定を整備することが適切と考えられる。

と第18ページに書かれているが、恐らく例外はこれだけでは十分でない。例えば、パブリックドメインに落ちた過去の著名な旋律・楽曲を商標登録することで不当な利得を得ようとする者などが必ず出てくることだろう。(商標法第29条の調整規定で著作権と抵触する場合は商標使用ができないとされているが、パブリックドメインに落ちたものには関係ない。)

 小委員会の第3回で、座長がこの点について、「パブリックドメインに落ちている音楽の著作物の一部を特定の一事業者が独占するといっても、あくまでも商標としてですね。商標として、今のところでいえば、出所表示的な対応において使用されていると、出所を表示するために、そういう表示として独占するということになるわけです。」と説明しているが、実際には、音の場合に何をもって出所表示的な使用とするのかは非常に曖昧であり、商標の使用には、広告や(インターネット経由での)役務の提供への使用なども含まれているので、この点をおざなりにしたまま進めると非常に厄介な問題を引き起こすことになるだろう。パブリックドメインに落ちた著名な旋律が商標登録されてしまうと、その旋律を広告や動画やサイトや店のBGMに商標権者の許可無く使えなくなるということになりかねないのだが、これは決して正しいことでは無いに違いない。しかも、商標登録は登録料を払い続ける限りいくらでも存続するので、ある意味著作権よりタチが悪い。

 もう少し考えるつもりではいるが、余計な混乱を避けるため、音については特に他人の著名な旋律・楽曲を登録から除外するように、他のタイプのものも含め新しいタイプの商標全体について、諸外国の除外・例外規定を精査し、できる限り取り入れるようにするべきであるという意見を出すつもりでいる。

 最後に、実演家の保護期間延長決議案をEU議会の法務委員会が通したという記事を「P2Pとかその辺の話」で紹介されているので、リンクを張っておく。欧州でも、実演家の保護期間延長問題は、欧米でも、著作権団体、メジャーレーベルを除き、学界、ユーザー・消費者等々ほとんど全ての者から反対されているが、団体・レーベル側の政治力はまだ相当強いと見える。次はEU議会本会議での議決となるが、欧州におけるこの問題の先行きはかなり危うい。

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2009年1月 7日 (水)

第146回:経産省・技術情報の保護等の在り方に関する小委員会「営業秘密に係る刑事的措置の見直しの方向性について(案)」に対する提出パブコメ

 前回の落ち穂拾いで書き漏もらしたが、経産省の産業構造審議会・知的財産政策部会・技術情報の保護等の在り方に関する小委員会の報告書案も1月30日〆切でパブコメ(電子政府の該当ページ意見公募要領(pdf)報告書案本文(pdf)参考資料(pdf))にかかっていた。

 この検討会の方向性については、第107回第140回でも取り上げ、既にパブコメも書いて出しており、さらに細々とした突っ込みをするほどのことはないので、大したものではないが、提出したパブコメだけここに載せておく。

 今年も、児童ポルノ法改正やダウンロード違法化問題などの動きに加え、特許庁が漠然と大幅な法改正の検討を言い出す(日経のネット記事参照)など、知財政策・情報政策にかかる暗雲は残念ながら当分霽れそうにない。次回からも、気になっていることについて書いていくつもりである。

(1月7日夜の追記:先日文化庁で過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会が開かれているが、保護期間延長問題について先送りのまま報告案がとりまとめられたようである(internet watchの記事参照)。)

(以下、提出パブコメ)

氏名:兎園
連絡先:

意見:
・該当箇所
 報告書案「営業秘密に係る刑事的措置の見直しの方向性について(案)」全体

・意見内容
 不正競争防止法における、現行の営業秘密侵害罪における「不正の競争の目的」の一般的な「図利加害目的」への目的要件の差し替え及び営業秘密侵害に関する刑事処罰範囲の拡大に反対する。

・理由
 不正競争防止法の法目的は、その第1条にも書かれているように、あくまで不正の競争の防止にあるのであって、一般的な図利加害行為の防止にあるのではない。営業秘密侵害罪における目的要件を「不正の競争の目的」から一般的な「図利加害目的」へ差し替えるような法改正は、そもそもの法目的・法主旨・保護法益を超えるものとして完全に不適切なものである。

 不正アクセスによって取得した営業秘密をインターネット上で一般公開することによって保有者に損害を与えようとすること等が営業秘密侵害罪の対象外であることなどが問題であるとしているが、このような一般的な不正アクセス行為・図利加害行為はそもそも不正アクセス防止法・刑法の威力業務妨害罪等によって対処されるべき問題であって、不正競争防止法の改正によって対処されるべきものではない。

 営業秘密を管理する任務を負う者が、一般的な図利加害目的で、その管理任務に違背して営業秘密を領得することについても、やはり、契約や刑法の背任罪等によって対処されるべき問題である。

 そもそもの法目的・法主旨・保護法益を超えることにつながる、営業秘密侵害罪の目的要件の差し替え及び刑事処罰範囲の拡大については慎重の上に慎重を期すべきである。

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2008年12月 5日 (金)

第140回:各種知財政策に関する動向(特許の存続期間の例外・審査基準・新しいタイプの商標・営業秘密・医療関係発明・知財本部基本方針パブコメ)

 著作権以外の知的財産権の話はいつも後回しになってしまうが、第53回第95回などに続き、ここで特許などに関する動向の話をまとめて書いておきたいと思う。

 特許庁のHPに載っている特許関連の審議会の構造図で、各検討会の名前と日付を見れば、最近特許等に関して大体どんな検討が動いているか分かるだろう。

 順に取り上げて行きたいと思うが、まず、特許の存続期間の例外の対象範囲の問題について、産業構造審議会・知的財産政策部会・特許制度小委員会・特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループが作られ、この10月30日から検討が始まっている。

 期間延長というと、つい、あの度し難い著作権の保護期間延長問題を思い起こしてしまうが、特許については、特許の保護期間の延長というより、特許の存続期間の例外の対象範囲の問題と言った方が良いものである。要するに、特許法には、医薬や農薬など、認可まで長期間の審査が必要な分野においては、特許期間中であるにもかかわらず、認可を受けるまで実施できず、特許権の恩恵を受けられないということがあるために、特に法律上の認可制のためにやむを得ず特許の実施ができなかった期間分だけ、しかも5年という上限つきで申請による延長を例外的に認める制度があるのだが、この例外的な延長申請制度の対象になるものがさらにあるかどうかということを検討しようとしているのである。カルタヘナ法やDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)の説明はマニアックに過ぎるので省くが、もし興味があれば、10月30日に開催された第1回検討会の資料を読んでみることをお勧めしておく。

 審査基準の話もマニアックかつ制度ユーザーにしか関係ない話なので、ここでその内容についてまで踏み込むことはしないが、特許の審査基準について、特許制度小委員会・審査基準専門委員会での検討がこの11月5日から始まり、意匠の審査基準について、意匠制度小委員会・意匠審査基準ワーキンググループでの検討が行われている。

 商標制度小委員会・新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループでは、輪郭のない色彩、動画、ホログラム、音、位置、香り・におい、触感、味、トレードドレスなどを商標として認めるべきか否かということを検討している。11月28日の第4回検討会の論点整理はいまいち要領を得ないが、香り・におい、触感、味、トレードドレスについては保護対象外として、輪郭のない色彩、動画、ホログラム、音、位置は追加する方向で検討を続けようとしているようである。しかし、権利範囲の特定が困難であり、必ずしも出所表示として需要者に認識されていないのは、色や音などについても同様だろう。商標権は場合によってはかなり凶悪な権利と化すので、この動きは注意しておいた方が良いと私は感じている。

 また、営業秘密の保護強化について、技術情報の保護等の在り方に関する小委員会(第4回(9月12日):議事要旨配付資料、第5回(9月30日):議事要旨配布資料、第6回(10月28日):配付資料)で、引き続き検討が行われている。刑事訴訟手続きにおける営業秘密の保護などは、憲法第37条や第82条に定められている裁判の公開原則に違背しない限りでやれるようならやれば良いと思うが、資料を読む限りでは、相変わらず、一般的な不正目的での営業秘密情報の取得そのものに刑事罰をかけるだとか、バカげたことをまだ経産省は考えているようである。ここでは何度も繰り返していることだが、情報のアクセス・取得等について主観的な目的要件のみで民事・刑事の罰を課すことは、どこをどうやっても恣意的な運用しか招きようがない危険なことなのであり、第107回でも書いたように、そのことは営業秘密であったとしても変わりはない。正当なアクセス権を有しない場合のアクセスや情報の開示等については既に規制の対象となっているので、経産省は規制をさらに広げようとしているのだろうが、このように、恣意的なものとしかなりようのない、曖昧かつ主観的な目的要件で情報の取得に刑事罰を導入することは、かえって企業の正当な営業活動を萎縮させるだけだろう。

 知財本部では、知的財産による競争力強化専門調査会の下に先端医療特許検討委員会という検討会が作られ、医療関係発明の検討がこの11月25日から始まった。同時に、海外では特許対象となるものの、現時点では我が国において特許対象とならない発明であって、今後特許対象とすることを検討すべきと考えられる発明の具体的事例を教えて欲しいというパブコメが12月18日〆切で行われている。(日経BP知財Awarenessの記事も参照。)

 法律的な議論としては興味深い点がいくつかあるが、実務上無意味な法律論を離れて、具体的に保護すべき新たな対象があるかと考えると、11月25日に開催された第1回の資料中の制度の国際比較資料を見ても、日本で新たに保護すべき対象があるとは個人的には思えない。恐らく、特許関連では、この医関係療発明に関する話が今年から来年にかけての最大のトピックになるだろうが、医療やバイオ技術は生命倫理に関する話であり、軽々しく保護範囲を広げてはならないものだろう。(なお、欧州特許庁でも、ついこの11月25日にES細胞に関する特許出願の拒絶が完全に確定している(欧州特許庁のリリースIP NEXTの記事参照)。医療・バイオ関係の発明の議論は、文化によって異なる生命倫理と直結する非常に厄介な問題である。)

 さらに、知財本部からは、知的財産戦略に関する政策レビュー及び第3期基本方針の策定に関する意見募集というパブコメもかかっている。第3期(平成21年度~平成25年度)向け基本方針について、

全体
I 知的財産の創造
II 知的財産の保護
 II-1 知的財産の適切な保護
 II-2 模倣品・海賊版対策の強化(コンテンツを除く)
III 知的財産の活用
 III-1 知的財産の戦略的活用
 III-2 国際標準化活動の強化
 III-3 中小・ベンチャー企業への支援
 III-4 知的財産を活用した地域の振興
IV コンテンツをいかした文化創造国家づくり
 IV-1 コンテンツの創造・流通の促進
 IV-2 コンテンツの海賊版対策
 IV-3 日本ブランド(食・地域・ファッション)の振興
V 知的財産人材の育成と国民意識の向上
その他

という示されている項目に沿い、意見を出せば良いもの(個人用意見提出フォーム団体用)なので、私も出すつもりだが、今後の知財政策について物申したいことがある方は、是非出すことをお勧めしておく。

 最後に少し最近のニュースもしておきたいと思うが、「第(3)世界」事件においてレンタルサーバー管理者は、略式起訴で50万円の罰金を支払うことが命じられ、即日罰金が支払われた(時事通信のネット記事産経のネット記事朝日のネット記事参照)。略式起訴で微妙な額の罰金の支払いに落とし込む検察のやり口は実に姑息としか言いようがない。やはり刑事罰まで含め、サーバー管理者のセーフハーバーはきちんと作られるべきだろう。

 また、フランスの3ストライク法案については、この11月27日に開催されたEU理事会において、フランス政府の多数派工作が功を奏し、残念ながら、通信ディレクティブ案から、フランスの著作権検閲機関型の違法コピー対策を否定する修正条項138が取り除かれた。その結果、来年のこの修正条項のEU議会における再審議の前、年初に、フランス下院(上院は既に通過済)で法案の審議が行われるだろうということで、息の根を止められたかに見えた3ストライク法案はしぶとく息をつなぎ、情勢はかなり微妙なものとなっている。ただし、この修正条項138はEU議会で88%の多数でもって可決されたものであり、EU議会の議員やEU委員会は、フランス政府の姑息な政治戦術に反発を強めており、フランス国内でも、権利者団体と消費者団体が賛成反対でまっぷたつに割れ、それぞれ大キャンペーンを張り、激しくロビー合戦を繰り広げており、賛成派が多少盛り返したとは言え、混沌とした状態の中、法案が可決されるかどうかは全く予断を許さない。この3ストライク法案については、次の山になるだろう、来年初頭のフランス下院での法案審議に要注目である。(generation-nt.comの記事1記事2le Pointのネット記事silicon.frの記事numeramaの記事la Tribuneのネット記事EU議員ギュイ・ボノ氏のブログ記事参照。)

(12月5日夜の追記:憲法第37条(刑事裁判の公開原則を定めている)の条文番号を書き漏らしていたので、追加した。

 また、新たなタイプの商標の保護の検討について読売のネット記事があり、刑事訴訟手続きにおける営業秘密の保護強化について法務省が反対しているとする産経のネット記事があったので、念のためリンクを張っておく。ICTSDの記事によると、WIPOレベルでの著作権の権利制限と例外に関する検討も続いているようである。)

(12月6日の追記:さらにマニアックな話になるが、特許関係では、特許微生物寄託制度に関する検討委員会という名前の検討会も今年動いているので、念のためにリンクを張っておく。)

(12月13日の追記:「P2Pとかその辺の話」でも上で少し触れたフランスの3ストライク法案の動向に関する記事の紹介をされているので、興味のある方はリンク先もご覧頂ければと思う。)

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2008年8月 6日 (水)

第107回:経産省「技術情報等の適正な管理の在り方に関する研究会」報告書

 前回少し記事を紹介した、この7月末に公開された経産省の報告書概要)については、パブコメもなく、半ば秘密のように議論が行われていたことからしてどうかと思うが、それはおいておくとしても、本文と言い、概要と言い、国民を誤魔化すためにそうしているとしか思えない分かりにくさである。

 自分たち公務員への規制強化やガイドラインの当たり障りのない変更などはさておき、知財に関する重要な法改正・政策事項を抜き出してみると以下のようになるだろうか。

・アクセス権を与えられた技術情報等への、不正な目的で行われるアクセス行為の規制:
「企業の従業員等の信頼に基づいて正当に営業秘密として管理された技術情報等へのアクセスを認められた者が、図利加害目的等の不正な目的をもって、複製が禁じられたそれらの複製を行う場合、又は、アクセス権があっても、不正な目的をもって行われる、大量データのダウンロード等の正当な理由のないアクセス行為等については、そのような行為それ自体を刑事罰の対象とすることについて検討すべき」(p.33、なおp.76にも同等の記載がある。)

・外国政府を利する目的で行われる技術情報等への取得行為の規制:
「現行の法体系では、外国政府を利する目的で行われる技術情報等の窃盗・領得・複製の作製等が、必ずしも処罰されないが、これは我が国の産業競争力のみならず、安全保障の観点からも重大な問題を提起することから、こうした行為を規制の対象とするための法的枠組みの創設についても検討すべき」(p.34)

・国費研究成果の国内優先実施規定の導入:
「我が国のバイドール制度においても、国内優先実施を規定すること等により、国費研究成果の海外への流出を防止し、我が国が適切に研究成果を享受できるような方策を検討すべき」(p.46)

・第一国出願制度の導入:
「我が国において、後述する秘密特許制度が導入されることになった場合に、日本国内における企業の研究活動への影響に配慮しつつ、第一国出願制度の導入について検討すべき」(p.47)

・秘密特許制度の導入:
「我が国においても、秘密保護法制の一環として秘密特許制度の導入を検討すべき」(p.63)

 大体「検討すべき」と弱めに書かれているところからして、このまま法改正がなされるとも思えないのだが、知財政策的にはかなり重いことが含まれているので、見過ごす訳にもいかない。

 特に、相当トリッキーな理屈で、正当にアクセス権を有する情報への不正な目的でのアクセスを規制しようとしているようだが、この規制自体おかしいことを経産省はどこまで理解しているのだろうか。上で引用した部分の例だけを取ってみても、複製が禁じられたデータの複製をしたら、その時点で不正アクセス・契約違反・信義則違反であろうし、仕事に必要な以上のデータのダウンロードについてもシステム・契約で出来ないようにしておけば良いだけの話である。

 報告書で、情報の性質についても考察を加えた上で、「ポテンシャルとしての財産性」という不思議な造語をひねり出し、有体物の財産権に寄った形で、情報の取得のみによる法益侵害性を肯定しようとしているが、これもまた役所の身勝手な「まず規制ありき」の理屈だろう。情報は有体物とは違い、自然に占有が発生するものではなく、正当なアクセス権を有している場合に、情報の取得の時点で目的を判断することには無理がある上、その情報は他者へ開示されない限り損害を発生させ得ないのである。

 正当なアクセス権を有しない場合のアクセスや情報の開示等については既に規制の対象となっているので、経産省は規制をさらに広げようとしているのだろうが、このように曖昧な、主観的とならざるを得ない目的要件で刑事罰を導入することは、かえって企業の正当な営業活動を萎縮させるだけだろう。

 秘密特許制度も割とあっさり書かれているが、特許制度上はかなり大きな変更である。他人の技術と権利について公開され皆に知られる形になっていることで特許制度は安定性を保っているので、どのような特許を秘密とするのかの定義次第だとは思うが、誰にも分からない形で保護される特許が有ったら普通の企業は困るだろう。

(なお、外為法についても、「『居住者・非居住者』間の規制では捉えることのできない外国籍居住者による安全保障上の機微技術の国外への持ち出し等についても、新たに『ボーダー規制』として捕捉する手法について検討すべき」、「日本及び世界の安全保障上ゆるがせにできない外為法違反事案が増加していることにかんがみ、貨物・技術双方の罰則強化について検討すべき」と規制強化を唱えていたり、研究者の倫理についても述べていたりと、この報告書は盛り沢山の内容なので、知財関連だけでなく、このようなことに興味を持っている方も、読んでおかれることをお勧めする。)

 特にパブコメにかかっている訳でもないようなので、これ以上言うこともないが、この報告書は、やはり経産省も、「まず規制ありき」で、情報の性質を歪めて理解する利権官庁の一つであることを示している。

 文化庁や総務省と並んで、経産省も、私的複製問題やB-CAS問題の検討を始めるらしいとのITproの記事もあったが、今回の報告書などを読むにつけ、これらの問題についても、経産省にもあまり期待はできないだろうというのが私の正直な予想である。これらの問題については、既に収拾がつかなくなっているが、経産省の参入でさらに混迷を深めることになるのではないだろうか。

 次回は、選挙法とネットの関係の話を書きたいと思っている。

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2008年5月19日 (月)

第95回:特許政策に関する動向あるいはiPS細胞狂想曲

 著作権問題はインターネットの登場によって壮絶な利権闘争のルツボと化したが、特許システム自体はかなり堅牢に出来ており、第56回でも少し書いた通り、特許権が、無体物である情報そのものではなく、基本的に有体物への情報の利用を規制することで知的財産の保護を図っているところにとどまり、特定業界を対象としない業規制法であり(権利が及ぶのは基本的に業としての権利の実施に限られる)、業規制法であることから権利の発生と利用にそれぞれそれなりのコストがかかったとしても、市場の中にコストとしてビルドインすることが可能であるため、インターネットによる影響を著作権のようにモロに受けていない。

 そのため、特許問題はつい後回しにしてしまっているのだが、特許制度は、知財のもう一つの柱であり、決してなおざりにして良いものではない。(特許がいまいち利権にならない所為か、特許庁は、文化庁と比べるとはるかに真面目なので、放っておいてもそれほど問題がないということもあるが。)

(1)特許法改正
 まずは、この4月11日に特許法改正法案が成立しているので、念のため、その紹介からして行く。
 特許庁の概要説明資料特許庁HPより)の通り、主な改正点は以下の5点である。

  • 通常実施権等登録制度の見直し(特許の出願段階におけるライセンスを保護するための登録制度を創設、特許権・実用新案権に係る通常実施権の登録事項のうち、秘匿の要望が強い登録事項の開示を一定の利害関係人に限定)
  • 不服審判請求期間の見直し(拒絶査定不服審判請求期間を30日から3月に拡大)
  • 優先権書類の電子的交換の対象国の拡大
  • 特許・商標関係料金の引き下げ(中小企業等の負担感の強い特許料や商標設定登録料の重点的引き下げ)
  • 料金納付の口座振替制度の導入

 全て制度ユーザーに関する話ばかりで一般ユーザーには関係ないので、これ以上の説明はしないが、制度ユーザーの利便性を考慮した改正ばかりであり、この法改正に損はないだろう。

 この特許法改正はテクニカルな改正であり、もう成立しているものであるが、最近、京大・山中教授の新型万能細胞(iPS細胞)作りで画期的な成功を収めたという報道(読売のネット記事参照)がされてから、技術関連の政策動向もかなり騒がしくなっている。このiPS細胞に関する特許が、京大の山中教授と、独バイエル社の間の先願競争になっている(知財情報局の記事日経のネット記事参照)ことからも分かるように、このiPS細胞に関する話は、特許問題・知財問題としてもクローズアップされており、これと絡む形で、知財本部や特許庁で行われている知財政策・特許政策の検討の紹介をさらにしておきたいと思う。

(知財政策だけではなく、総合科学技術会議と経済財政諮問会議の検討で、科学技術予算に緊急予算をつけたり(日経のネット記事参照)、山中教授の新型万能細胞を民間企業にも研究用に配布したりする方針を決めたり、政府が製薬業界や有識者などと開いた「革新的創薬等のための官民対話」で、先端医療開発特区の創設を決めたり(日経のネット記事参照)、厚生労働省は厚生労働省で、万能細胞の臨床研究に対する指針を作ろうとしていたり(朝日のネット記事参照)と、いつものことながら後出しで騒ぎ過ぎのような気もしなくはないが、画期的な研究に対する地道な支援はこれはこれで重要なことなので、是非、訳の分からない省益に惑わされることなく、政府には地道な支援を行ってもらいたいと思う。)

(2)医療方法に関する特許の問題
 特に、この4月9日の知財本部の有識者会合(議事要旨)で、委員から「iPS細胞を中心とした医療に関する問題についても、我が国の産業の発展の規制になってしまう可能性もあるので、早急に検討すべき」といった発言があり、総合科学技術会議の知的財産戦略専門調査会4月17日の資料「知的財産戦略について(案)」で、「iPS細胞関連技術を含めた先端医療分野における適切な知的財産保護のあり方について、直ちに検討を開始し、早急に結論を得る」(第7ページ)とされていることから見ても、特許の根本的なところに関わる議論として、医療方法に関する特許をどうするかという問題が今年再燃しそうである

 医療方法特許を認めても良いのではないかという議論は常にあるが、医療は産業ではなく、医療方法の特許は、特許法の根本条文の一つである第29条第1項の「産業上利用することができる発明」に当たらないという運用がなされているため、また、人の命に関わる医療に関するだけに、医療方法の特許の問題は非常に厄介である。(なお、いまいち納得感はないが、医薬や医療機器は産業であり、物の発明としては特許可能であるとされている。念のため、このことを解説している審査基準該当章へのリンクを張っておく。)

 この問題に関する過去の検討経緯は、去年10月の「知的財産による競争力強化専門調査会」の「ライフサイエンス分野プロジェクトチーム調査検討報告書」の第15~20ページに丁寧にまとめられているが、2002年から2003年の産業構造審議会・知的財産政策部会・特許制度小委員会医療行為ワーキンググループと、2003年から2004年に知財本部の医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会との検討を受け、最終的には合理的な範囲で特許の対象を広げるところに落ちている。要するに当時は、人間を手術、治療又は診断する方法の発明は特許付与の対象外とする原則を維持しつつ、人間に由来するものを原料又は材料として医薬品又は医療機器(培養皮膚シートや人工骨など)を製造する方法や、医療機器の作動方法、複数の医薬の組合せや投与間隔・投与量等の治療の態様で特定される医薬発明も物の発明として特許可能であるとしたところで終わっているのである。(これらは、既に特許の審査基準の改定で対応されている。)

 最近のお役所の例にもれず、以前拡充した以上に具体的に何が特許の対象として何が必要なのかというところを置き去りに、キーワードに踊らされている時点で不安なのだが、知財本部や特許庁で今後どのような検討をするにせよ、少なくとも医者がその治療方法は権利者の許諾がないと実施できませんと言い、人が死ぬことになるような変な結論を出さないことを私は祈っている。(知財本部や特許庁は文化庁ほどデタラメなまとめをするとは思えないので、大丈夫だと思うが。)

 今の多重検討のオンパレードをまずどうにかして欲しいと思うのだが、さらに、特許政策としては、特許庁がイノベーションと知財政策に関する研究会(6月とりまとめ予定らしい)で検討している各種施策もあるので、恐らく制度ユーザーしか興味は持っていないと思うが、とりまとめの方向(案)という概要資料から、ニュースなどにもなっているものを、ここに少し拾っておこう。

(3)スーパー早期審査
 日経のネット記事にもなっているが、特許庁は、通常の特許審査(2年半くらいで審査)と、早期審査(2~3ヶ月で審査)に加え、さらに2週間~1ヶ月程度で審査をするルートを作るつもりらしい。法改正の話ではなく特許庁の運用の話で、制度ユーザーに選択肢が増えるだけのことなので、大いにやってもらって構わないと思うが、ただ、常に審査が早い方が得かというとそんなこともないということは、制度を使う側としては、知っておいた方が良いかも知れない。

 制度ユーザーなら知っている話なので、蛇足に近いが、通常なら出願書類は、出願されてから1年半程度は非公開とされる(特許法第64条)が、早めに特許になると権利行使が即座に出来るメリットが発生すると同時に、その特許公報によって出願の内容が通常より早く他人に明らかになってしまうというデメリットも発生する。その得失は微妙だが、基本特許だけではなく、非公開期間中に多くの関連出願を出し、関連する特許も含めて沢山特許を押さえておいた方が、権利行使がやりやすいということもあるに違いないので、制度利用時には気をつけておいた方が良いだろう。

 パイオニア発明をするほどの方がこのブログを読んでいるとも思えないが、もし読んでおられたら、単に用意された制度を使うのではなく、特許の早期審査にはこのような得失もあることを考えて、戦略的に制度を利用することを私はお勧めする。(それにしても、特許庁は知財のプロの派遣などもしてくれるらしい(フジサンケイビジネスアイの記事参照)。)

(4)コミュニティ・パテント・レビュー
 これも法改正の話ではないと思うが、特許庁は、企業や大学、研究機関など外部の第三者からの情報提供を求める簡易ウェブサイトを立ち上げたりもするらしい(日刊工業新聞のネット記事参照)。

 試み自体は面白いと思うが、実際、どれくらい効果が上がるかはサイトの設計次第としか言いようがない。企業や大学、研究機関などにアクセスを限ったのでは、本当に自由な情報提供がされるとも思えないので、どうせ作るのであれば、広く一般にも公開し、匿名の掲示板ほどとまでは行かないかも知れないが、通常のSNS程度の簡易な認証で誰でも特許の評価や情報提供ができるようにしてもらいたいものである。

 さて、特許の話はこれくらいにして、最後に、知財政策・情報政策の最近のニュースの紹介もしておこう。

 まず、MIAUでダビング10と私的録音録画補償金に関するアンケートが始まったので、紹介しておく。本当のユーザー指向のアンケートというのはこの分野においてなされていないので、結構面白い結果が出るかも知れない。

 あとから気づいた記事だが、総務省のデジタルコンテンツ委員会で、ダビング10の議論に加えて、B-CASに替わる法的エンフォースメントを権利者が求めたという日経TechOnの記事もあったので、ここにリンクを張っておく。このことについては前々回に書いた通りだが、全国民をユーザーとする無料の地上放送で、技術的なものだろうが、法的なものだろうが、何らかのコピー制御のエンフォースが可能と思っている時点でおかしいということに早く皆気づいた方が良い。

 先週5月17日の文化庁の過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会では、権利者不明の場合の利用円滑化の議論が中心になったようである(ITproの記事参照)。(このことについても書きたいことはあるのだが、それはまた別の機会に。)

 また、規制議論があらゆるところに飛び火するのはどうにかしてもらいたいと思うが、教育再生懇談会という教育問題に関する有識者会議が、また別途「小中学生に携帯電話を持たせるな」という意味不明の提言をまとめようとしている(朝日のネット記事日経のネット記事毎日のネット記事毎日のネット記事2時事通信のネット記事産経のネット記事参照)。規制強化の波の一つとは思うが、記事によると、山谷えり子首相補佐官自ら、記者会見で、この提言について「『携帯を持たせない』といっても強制できるわけではない」と発言するという訳の分からなさである。首相の子どもには携帯を持たせなくて良いのではないかとの発言も、子どもたちのコミュニケーションの現状からかけ離れており、首相がこの程度の認識しか持っていない時点で、携帯電話絡みの規制議論の混乱は今後もますますひどくなることが予想される。

 さらに、児童ポルノ法に関しても相変わらずひどい状態が続いている。その法改正案骨子(47newsの記事1記事2参照)によると、この16日の会合でもやはり大筋に変更はなく、「自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持・保管した者は、1年以下の懲役か100万円以下の罰金に処する」ことに与党チームはこだわっているようである。繰り返しになるが、完全に個人に閉じる情報の所持が「自己の性的好奇心を満たす目的」だったかどうかなど、誰にも反証も証明もできない要件であり、この情報の単純所持規制の問題は決してこのような要件限定の問題ではない。これも息の長い反対運動になるだろう。

 特許に関しては国際動向や個別の論点などさらに詳しく書きたいこともあるのだが、それは別の機会に譲るとして、次回からは、またコンテンツ関連の話を書いて行きたいと思っている。

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2008年2月28日 (木)

第65回:インターネット上での商標権の使用とエルマーク

 先週の19日に、日本レコード協会から、レコード会社が許諾した音楽配信事業者を識別するための「エルマーク」制度の運用を開始したとの発表がなされた(internet watchの記事ITproの記事参照)。

 このことについて何か書こうかとも考えていたのだが、このマークそのものの問題については、既に「半可思惟」で綺麗にまとめられていて、さらにこの内容を受けたものとして、「風のはて」、「日本違法サイト協会ブログ」、「Baldanders.info」等々でも良いまとめが読めるので、これ以上言うこともない。ダウンロード違法化問題との関係について興味がある方は、是非これらのブログをご覧頂ければと思う。

 それで、「半可思惟」の追補でも触れられていることもあり、どうしようかと思ったが、折角の機会なので、私も、インターネット上での商標権の使用に関する話を少しだけ書いておこうかと思う。(inflorescencia様、念のためトラックバックで記事を書かせて頂きますが、補足というより蛇足かも知れませんので、お邪魔でしたら、トラックバックをお切り下さい。)

 まず、商標法では、「商標」とその「使用」については以下のように定義されている。(純粋にインターネット上での商標の使用に特に関係する部分のみの抜粋である。強調は私がつけたもの。)

第二条  この法律で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一  業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二  業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
(中略)
3  この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
(中略)
七  電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八  商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為

 そして、商標では、役務も指定され、商標権はこの指定役務に類似する役務に対する類似商標の使用にまで及ぶ(第37条)。

 例えば、Lマークなら、特許庁の特許電子図書館の商標検索で登録番号5101818号を調べれば、指定役務は、

【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
 第9類 ダウンロード可能な音楽・音声・画像・映像・映画,ダウンロード可能な携帯電話の着信音用の音楽又は音声,ダウンロード可能なゲームプログラム,レコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物,業務用テレビゲーム機,電気通信機械器具,コンピュータプログラム,電子応用機械器具及びその部品,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM
 第35類 広告,トレーディングスタンプの発行,商品の販売に関する情報の提供,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル及び同画像ファイルの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
 第41類 オンラインによる音楽・画像・映像・動画・映画・ゲーム・電子書籍の提供,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,音楽の演奏に関する情報の提供,放送番組の制作,電子出版物の提供,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与
 第45類 著作権又は著作隣接権の管理に関する情報の提供,著作権法等の法律情報の提供

と分かるので、このような指定役務と同一又は類似の役務を業として行っているサイトにエルマークの図形と同一又は類似するマークを付すことが、規制の対象となる。商標権は、登録公示により権利が発生し、例外はあるものの独自創作の抗弁はできない絶対的独占権型の権利であり、その侵害は非親告罪とされている。この例で言えば、要するに、音楽配信業あるいはこれに近い業のサイトが、エルマークの図形と同一又は類似するマークを勝手にサイトに使った場合、それで警察に捕まっても文句は言えないということである。

 ここで、個人のホームページで商標を使用する行為が規制されないのは、基本的に、定義の中に「業として」という業規制が入っているおかげである。しかし、インターネットによる個人と企業のフラット化はこれからも進み、インターネットにおける業と非業の区別はこれからもどんどん曖昧になって行くと考えられるため、ここでもまた余計な規制強化が図られる恐れがないとは言えない。(なお、インターネットは世界共通だが、日本の商標権は日本の国内にしか及ばないという問題もある。特許権や意匠権は、その規制が現実の物品とほぼ対応するものであるため、このような情報化の影響は受けにくい。)

 だが、例えどんなに境界が曖昧となるにせよ、その侵害が非親告罪とされ、さらに登録公示による絶対的独占権型の強い権利による規制を、本当の一般ユーザーまで及ぼすことは、一般ユーザーにとって過度の負担となるものであり、この業規制は絶対なくしてはならないものである。

 実際のところ、商標はあくまで商品なり役務なりの出所を示すものであり、著作権とは違って、各条文にぶら下がる形で民々の利権秩序が構成されていたりする訳ではないので、よほどことがない限り大丈夫だと思うが、役所が何をやってくるかは全く信用できないので油断はしすぎない方が良いだろう。

(平成15年の産業構造審議会・知的財産政策部会・商標制度小委員会の第2回の配布資料「「商標」及び標章の「使用」の定義の在り方について」でも、あっさり「「業として」は、従来「反復継続して」を意味するものとされているが、このような要素を商標の定義に含めている例は他国には韓国商標法の他には見られない。(中略)商標法においても、「反復継続して」使用されることが問題となるのは商標登録出願に対する審査においてどの標章を商標とすべきか判断する時点ではなく、商標権侵害訴訟や不使用取消審判において、商標の「使用」の有無が問題となる場合である。以上を踏まえると、商標の定義に「業として」を含めることは適当ではないのではないか。」と業規制を削るのか、使用の定義に移動するのか良く分からないが、定義をいじりたいような書き方がされている。ただ、このとき以来この定義の話はまともに取り上げられていないので、現時点では、多分私の気の回しすぎだろう。)

 この点については、2001年にWIPO採択された「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」(特許庁のHPの記事参照)に書かれている通り、

  1. インターネット上における標識の使用を使用と認めるかは、「商業的効果」の有無によって判断する。
  2. インターネット上の標識の使用者に、事前に世界的なサーチ義務を負わせることは、当該標識の使用者に過度の負担を課すこととなり不適当であるとの前提のもと、ノーティスアンドテイクダウン手続を規定する。
  3. サイバースクワティングのような悪意による使用の場合を除き国の領域を超える差止命令を禁止する。

といった原則を今後も是非守ってもらいたいものである。

 今のところ、あまり心配しなくて良いのだが、商標法も同じくインターネットによる商標そのものの情報化の問題を抱え、法律上の「商標」と「使用」の定義次第でこれもユーザーにとって相当やっかいな規制になり得るということは知っておいても損はないのではないかと思う。(ドメイン名などは既に相当裁判にももなったが、インターネットにおいて、言葉なり図形なりの新しい使用形態はこれからも様々なものが出てくると思われるので、どこまで商標権でカバーされるのかは考え出すとかなりやっかいである。恐らくこのジャンルでも悩みの種は尽きないだろう。)

 最後に、念のために書いておくと、エルマークはあくまで日本レコード協会所属のレコード会社と、その音楽配信サイトが何らかのライセンスを結んでいることを示すものに過ぎないので、どこまで行っても、エルマークのありなしはそのサイトのコンテンツが著作権法上適法に提供されたものか、違法に提供されたものかを示すクライテリアたり得ない。今のところ、レコード会社の自主的な取り組みに過ぎないので、あまり叩く気もしないのだが、このエルマークを見るにつけ、日本のレコード会社は本当に大丈夫かと心配になってしまう。何と言ってもマークにおける意味の識別性が低いので、一般ユーザーには恐らく一目でその意味が伝わらない。そのため、この商標は本来持つべき顧客誘引力を持ち得ず、正規サイトであれ不正サイトであれ、この商標を使用あるいは冒用するインセンティブは恐らく働かず、マークそのものの意味が急速に見失われていくのではないかと私は思う。結局、日本レコード協会のこの実験によって、ダウンロード違法化への道はますます遠のいたのではないかと私は感じている。

 さて、各省庁での政策検討が本格化するまでには、まだ少し余裕があると思うので、次回からは、また少し外国著作権法紹介のシリーズをやっておこうかと思う。

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2008年1月25日 (金)

第53回:特許法・意匠法・商標法・不正競争防止法等々に関する動き

 著作権法以外の知的財産権法は、制度ユーザーである実務家にとってはそれなりに大きな問題を抱えているのだろうが、一般ユーザーに直接の影響はあまりなく、何と言っても著作権問題があまりに大きいため、取り上げる余裕がさっぱりなかった。しかし、折角、ブログ名に知財政策と掲げているのだから、他の知的財産権法に関する動きも一通り紹介しておきたいと思う。著作権法と同じく、これらの法律でも、法律に対応する専門の役所の審議会があり、やはりそこで何故か法改正が検討されている。

 まず、特許法については、経済産業省の産業構造審議会・知的財産政策部会・特許制度小委員会で検討がされている。HPで見られる最新の回(第24回:平成19年12月19日)の「特許政策を巡る最近の動向について」という資料が最近の動向を見る上で分かりやすいのではないかと思う。特許権は、出願・審査・登録をしない限り権利が発生せず(出願料・審査料・登録料が必要)、基本的に権利の及ぶ範囲も、業として特許を実施する場合に限られるので、著作権と違って、一般ユーザーに直接響く話が検討されるということはほとんどない。しかし、このような登録制度と、登録制度を前提とした強力な過失推定規定の存在のために、制度の違いによる加重コストの発生と、制度による先進国と発展途上国との間の格差の拡大が問題になっていることだけは知っておいても損はないかも知れない。著作権法ほどではないが、これもまた終わりのない大問題である。

 意匠法については、同じく、経産省の産業構造審議会・知的財産政策部会・意匠制度小委員会で検討されている。HPで見られる最新の回(第11回:平成20年1月22日)の資料から、「意匠政策を巡る最近の動向について」にリンクを張っておく。商標法に対応するのは、産業構造審議会・知的財産政策部会・商標制度小委員会で、これも「商標政策を巡る最近の動向について」(第18回:平成19年12月18日の資料)へリンクを張っておく。

 意匠や商標も、登録制度を取っている以上、特許と同じ問題を抱えるはずなのだが、特許ほどの問題になっていないことがこれらの概要資料だけを見ても分かるのではないかと思う。特許の場合だと、医薬特許の問題から影響が生命にまで及ぶが、意匠・商標が保護するのは基本的に有体物の外形・模様(デザイン、トレードマーク)であるため生命にまで及ぶ話ではないこと、外形・模様である以上そのセンスにはどうしても国民性が出てくること、よほどの大企業でない限り世界商標など必要ないことなどから、意匠権や商標権はドメスティックな色彩がかなり強くなっているためだろう。ただし、特許とは違い、意匠・商標は、デザインやマークそのもの情報化により、著作権と似通った問題を抱えて行くことになるだろうとも思われる。

 また、各法の通常実施権登録制度を見直すこともほぼ決まっているようであり、このようなマニアックな話にまで興味があるなら、「「特許権等の活用を促進するための通常実施権等の登録制度の見直しについて」の概要」、「意匠法上の通常実施権等の登録制度の見直しについて(案)」、「商標法上の通常使用権等の登録制度の見直しについて(案)」などを見てみるのも面白いかも知れない。その他料金体系などの見直しなどもされるようであるが、一般ユーザーにはあまり関係ないので、ここではそんな話もあるという紹介だけにしておく。

 また、不正競争防止法に近いところでは、同じく経産省で検討されている技術流出防止問題があり、この前ネット記事(日経ネットの記事読売新聞の記事asahi.comの記事)でも産業スパイ法を新法として作る検討を経産省で始めると報道されていた。新法は「情報の窃盗罪」を規定し、社内のネットワーク内にある秘密情報に権限のない社員が接続し、CD―ROMなどに情報をコピーしたり、電子メールで私用パソコンに送ったりすれば、第三者への情報流出を確認できなくても、それだけで違反行為とみなす方針らしいが、ネットワークに不正にアクセスした場合は今でも不正アクセス防止法(正式名称:不正アクセス行為の禁止等に関する法律)違反で取り締まりが可能であることを、また、不正競争防止法でも、不正の競争の目的で、不正アクセスなどにより営業秘密記録媒体等を取得・複製した者は、それだけで取り締まりが可能となっていることを経産省は理解しているのだろうか。情報漏洩を気にするばかりに、通常の仕事のメールのやりとりまで規制されるような法律にされてもかなわない。

(窃盗罪が通常ではCD-ROMの盤にしかかからないのもそれ自体では当たり前の話である。情報そのものには排他性がないので、情報の価値は常に相対的にしか決まらないということを忘れてはならない。CD-ROMにどんなに秘密情報が書き込まれていようと、それがこの情報を利用可能な競業他社に渡らない限り、どこまで行っても単なるCD-ROMでしかないし、情報漏洩による損害は発生していない。無体物と有体物とのアナロジーは必ず危険な論理飛躍をもたらすので、常に注意が必要である。)

 産業スパイ法もまた、最近の役所にありがちな立法のための立法でないかというのが私の本質的な疑いだが、まだ海のものとも山のものともつかないので、これ以上言っても詮ない話である。(それにしても、この問題を検討していたはずの、産業構造審議会・知的財産政策部会・技術情報の保護等の在り方に関する小委員会(第1回議事要旨第1回資料第2回議事要旨第2回資料第3回議事要旨)を見ても、どこから新法という話が出てきたのかよく分からないのはどうにかならないものか。)
 なお、この問題の中で、秘密特許制度の検討も一緒にされるようなので、特許マニアは要注目である。

 種苗法については、農水省の「植物新品種の保護の強化及び活用の促進に関する検討会」で過去検討されていたようであるが、今は動いていないようである。半導体集積回路法(正式名称:半導体集積回路の回路配置に関する法律)についても特に表立った動きは見られない。

 著作権法と上にあげたもので知財法と呼ばれるものは大体網羅したと思うが、あとは知財政策全体について、無論、知財本部での検討がある。HPからは、今一番の大問題である著作権問題に関するものとして、コンテンツ・日本ブランド専門調査会・コンテンツ企画ワーキンググループの最新の回(第3回:12月4日)の資料から「優れたコンテンツの創造と海外展開について」へリンクを張っておく。今日の日経朝刊にも載っていたが、2月1日に開催されるこの企画ワーキングで「デジタル時代におけるコンテンツ振興のための総合的な方策(案)」なる報告書がとりまとめられるようである。募集がかかり次第知財本部にもパブコメを出したいと思っているが、国民不在のまま著作権法改正を進めようとする文化庁に知財本部がさらに荷担しないことを切に願う。

 さらには、特許庁で、「イノベーションと知財政策に関する研究会」なるものが開催され、その検討課題に対する意見募集がかけられている。これもとりあえず問題となりそうなことが漠然と並べてあるだけで、いまいち何をしたいのだか良く分からないのだが、船頭を増やしてもロクなことはない、特許庁も他省庁と一緒になって山を登ることがないように切に願っている。

 そもそも、知財関係だけで何でこんなに沢山有識者会議を作らなくてはならないのかさっぱり分からないが、文句を書き出すと切りがなくなるので、日本の役所についてはこれくらいにして、他の知財関係のニュースを拾って行く。

 日本一の知財法の権威である、中山信弘先生最終講義の記事がITproに載っているので、念のため、ここにも記事へのリンクを張っておきたいと思う。中山先生が退官されるのは本当に残念でならないが、是非、跡を継ぐであろう法学者の先生方には、この講義にもあるように、体系的な法学研究をしてもらいたいと思う。最近の日本アカデミズムに中山先生ほどの大局観をもった法学者が見つからないことも、今の政策の迷走の一因となっているに違いないのだから。

 また、いくつか著作権に関する国際動向についてのニュースも紹介しておく。まず、フランスでは、携帯電話に対する補償金賦課の検討において、機器メーカー代表へのヒアリングが行われたようである(フランス語のネット記事参照)。しかし、記事によると、当然のことながら、メーカーは、そもそも携帯電話は音楽を聞くために使われるものではなく、携帯電話がどれくらい補償が必要な音楽データの蓄積に使われているのかをまず調査すべきであると課金に反対し、著作権団体は、iPodが課金されているのに、iPhoneが課金されないのはおかしいと問答無用の課金を主張しているようである。日本でもiPodへの課金を認めた途端に、権利者団体が全く同じ主張で携帯電話(日本でも同じくiPhoneが発売された時点で絶対に問題になるだろう)等の汎用機器への対象拡大を求めてくることは目に見えている。混乱に次ぐ混乱をもたらすために法律はあるのではない。フランスの状況は、現時点でiPodへの課金を日本で絶対に認めてはならない理由を明確に示してくれている。

 フランスのネット記事によると、フランスでは、裁判で、IPアドレスからユーザーを特定する情報は個人情報であり、インターネットサービスプロバイダから著作権企業にこの情報を開示をさせるべきではないとする判決が出されたようであり、スイスでは、IPアドレスそのものが個人情報であり、ユーザーが知らない内に一民間企業がこれを集めることからして通信の秘密に反し違法であるため、この収集行為を止めよとの勧告(フランス語)が、政府からメディア企業に出されたようである。(このIPアドレスは個人情報かという話も、個人的に考えをまとめてみたいと思っているところである。)

 「P2Pとかその辺の話」で既に紹介されているが、さらに、EU委員会で、レコードに関する著作権保護期間延長とインターネットサービスプロバイダーへの著作権フィルタリングの強制の提案が否決されたようであること(英語の記事1記事2)を、ここでも念のため紹介しておく。

 文化庁はこのような動きを紹介しないかも知れないが、あまりにもえげつない著作権団体・著作権企業のやり口に対してヨーロッパでも逆風が吹き始めていることは、注目に値する。だが、国際レコード・ビデオ製作者連盟(IFPI)のデジタル音楽レポート2008年(IFPIの記事レポート本体)で、フランスの著作権検閲の取り組み(第29回第30回参照)を評価し、さらにインターネットにおける著作権保護強化を求めていることを見ても、この程度の逆風で著作権業界が保護強化をあきらめる訳がないことは明白である。著作権戦争に終わりはない。

 次回は、著作権問題と文化政策についての個人的な考えをまた書いてみたいと思っている。

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