2012年3月18日 (日)

第266回:写り込みに関する権利制限やDRM回避規制の強化を含む著作権法改正案

 この3月9日に写り込みに関する権利制限やDRM回避規制の強化を含む著作権法改正案が閣議決定を受けて国会に提出された。(衆議院の議案経過ページ、文部科学省のHPinternet watchの記事ITproの記事参照。)

 今までさんざん日本版フェアユースがどうこうと言われて来たが、文化庁の検討を経た結果、実際に提出された著作権法改正案では、権利制限の一般条項(フェアユース)は完全に影も形もなくなり、その関係では、いつも通りいくつか狭い権利制限が作られるだけに終わった。そして、国立国会図書館や国立公文書館における利用に対する権利制限については評価できるものの、何故か前から入れるとしていたリバースエンジニアリングに関する権利制限の導入は今回も見送られ、同時に文化庁としてはどうにも権利制限だけを行うことがしたくないのか、例えばDVDの私的なリッピングを明確に違法とするようなDRM回避規制の強化も入れられている。

 文化庁(文部科学省)の作った概要(pdf)や公開された新旧対照条文(pdf)を見てもらえば良いのだが、ここでも条文の問題点を指摘しておきたいと思う。

(1)写り込み等に関する権利制限
 まず、写り込み等に関する権利制限については、この改正案は以下のような条文を追加するとしている。

(付随対象著作物の利用)
第三十条の二 写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(検討の過程における利用)
第三十条の三 著作権者の許諾を得て、又は第六十七条第一項、第六十八条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定を受けて著作物を利用しようとする者は、これらの利用についての検討の過程(当該許諾を得、又は当該裁定を受ける過程を含む。)における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、当該著作物を利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用)
第三十条の四 公表された著作物は、著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合には、その必要と認められる限度において、利用することができる。

(情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用)
第四十七条の九 著作物は、情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合であつて、当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理を行うときは、その必要と認められる限度において、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)を行うことができる。

 条文上これらの権利制限を上位概念化して一般条項を作り、同じく狭いにしてもその中で類型をあげる形にすればまだ今後の展開も少し違って来たかも知れないが、このようにいつも通り狭い個別条項を作ったのでは、この条文からの検討で権利制限の一般条項へつなぐことは不可能と言って良いだろう。

 知財本部知財計画2008(pdf)で既に包括的な権利制限規定に関する言及があることからも分かる通り、ほとんど足かけ5年以上にわたるフェアユース・権利制限の一般条項の検討を文化庁がこのような形で幕引きにしようとしていること自体私は非常に残念でならず、この体たらくでは、もはやいつのことになるか分からないが、やはり権利制限の一般条項は必要だと今後も言い続けるしかない

 これらの個々の権利制限もないよりはあった方が良いものであるのは確かだが、例えば、第30条の2の写り込みに関する権利制限の対象は写真の撮影、録音又は録画のみに限られるため、写生やスケッチなどは入らず、写り込んでいる著作物の部分が写真等において軽微である必要があり、駄目押しに著作権者の利益を不当に害さないことというスリーステップテストの条件までついているという狭さである。

 また、第30条の3の検討の過程における利用は著作権者の許諾を得ている場合の利用なのでそもそも著作権法上の問題になることが考えづらいケースであるし、第30条の4の技術開発試験のための利用の条文では、単に「著作物の利用に係る技術の開発」ではなく「著作物の『録音、録画その他の利用』に係る技術の開発」とその対象技術を主として録音、録画関係と明示的に絞っているのが非常にイヤらしい。(そのため、リバースエンジニアリングなどはこの権利制限の対象外と考える方が妥当だろう。)

 第47条の9は分かりにくいが、対応する文化審議会著作権分科会の平成23年の報告書(pdf)概要(pdf))で、「ネットワーク上で複製等を不可避的に伴う情報ネットワーク産業のサービス開発・提供行為」と書かれている類型に相当するものだろう。この第47条の9は、多少解釈の余地があるものの、条文上、円滑かつ効率的な情報提供の「準備」のための「電子計算機による情報処理」に必要な限りにおいて「記録又は翻案」が認められるだけなので、実際には、各種情報サービスにおける準備としての技術開発のためや提供データの一時保存・バックアップ・キャッシュのため以上に広がりを持たせることは難しいのではないかと思う。(大体、情報処理関係だけでも、現行法の第47条の5の通信障害防止のための権利制限から、第47条の6の検索エンジンのための権利制限、第47条の7の情報解析のための権利制限、第47条の8の通信・コンピュータにおける一時的複製のための権利制限に加え、さらにこの権利制限までと、どうにも理解に苦しむ細かい権利制限がずらずら並ぶというのは、条文構成としてもどうかと思う点である。)

 これらの権利制限では、平成21年当時の文化審議会報告書から入れるべきとされていたリバースエンジニアリングは無論のこと、今後さらに大きく取り上げられることが予想される、パロディやクラウド型サービスの問題にも対応できないのは明らかである。このように、狭く使いにくい「権利制限の個別規定」が追加されるということが繰り返される限り、私は権利制限の一般条項・フェアユースが必要であると言い続けることだろう。

(2)DRM回避規制の強化
 今回の著作権法改正案で最も微妙な改正点が、DRM回避規制の強化の部分である。この部分の改正条文は、以下のようになっている。(以下、下線部が追加部分。)

(定義)
第二条
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
二十  技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号において「電磁的方法」という。)により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下この号、第三十条第一項第二号及び第百二十条の二第一号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(次号において「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際しこれに、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード又は放送若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、又は送信する方式若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
(略)

(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(略)
 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は第二条第一項第二十号に規定する信号の除去若しくは改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うこと又は同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像の復元(著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
(略)

第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置(当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化した送信可能化する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあつては、著作権等を侵害する行為を技術的保護手段の回避により可能とする用途に供するために行うものに限る。)をした
 業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行つた者
(略)

 DRM回避規制の条文については不正競争防止法も合わせて読まないと何がどう規制されているのか分からないので、非常にややこしいのだが、第240回で引用した表を少し整理してアクセスコントロールとコピーコントロールに関する規制が概略どう変わるのかを示すと、
Drm_table3 となるだろう。(赤字部分がこの著作権法改正案による変更部分である。)

 あらかじめ言っておくが、パブコメなどでは前から書いている通り、私は、このような改正を是とするに足る立法事実は何一つないと考えているし、著作権法でアクセスコントロール回避について規制するべきではない上、そもそも私的領域におけるDRM回避行為に対する規制である第30条第1項第2号自体撤廃するべきだと思っていることに変わりはない。

 その上で、条文上の細かな問題をあげつらうならば、まず、既に刑事罰まで付加してしまった不正競争防止法に加えて、このような著作権法によるDRM回避規制の強化を必要とする理由が全く不明な上、このような改正がなされるとすると、著作権法上の「技術的保護手段」と不正競争防止法上の「技術的制限手段」との区別はほぼなくなり、何故著作権法と不正競争防止法という2つの法律によりDRM回避に関する規制をしなければならないのかという理由が完全に不明になると言わざるを得ない。(無論マニアックな法律屋にとってはなお2つの法律間の規制の区別はあるだろうが、一般ユーザーにとってほとんど理解不能と言って良いレベルである。)

 また、アクセスコントロール方式(著作物等の利用に際し、これに用いられる機器が特定の変換を必要とするよう著作物等に係る音又は影像を変換して記録媒体に記録又は送信する方式)による場合の技術的保護手段が防止又は抑止する行為とは何であるのか、今一度考える必要もあるだろう。ここで、条文上は技術的保護手段は著作権を侵害する行為の防止又は抑止をする手段とされているが、著作権法が規制する行為はあくまで複製行為であって視聴行為ではないということを踏まえて、技術的保護手段とは何で、技術的保護手段の回避とはどのようなことを意味するのかを明確にしておかなければならないのである。(この点を明確にしないと、著作権法があたかもアクセスコントロール一般や視聴まで規制するようなことになりかねず、実質的にあらゆる情報の変換・暗号化及びその復元・復号の合法性・適法性が権利者の意思にかかるといった珍妙な解釈による萎縮が発生しかねない。個人的には合理的な説明は不可能だろうと考えているが、あくまで法律の話なので、あまり良いやり方ではないものの、アクロバティックな解釈による解決もあり得なくはない。)

 そして、刑事罰規定から不正競争防止法にならって「専ら」を取り、「当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあつては、著作権等を侵害する行為を技術的保護手段の回避により可能とする用途に供するために行うものに限る」という括弧書きをつける形に改めているが、正直このような変更も具体的にどのような意味があるのか良く分からない。

 今一度繰り返しておくが、私は改正案のこの部分は完全に棄てるべきと、かえって第30条第1項第2号自体撤廃するべきと思っていることに変わりはない。国会で著作権法のそもそもの立法趣旨や不正競争防止法との関係を含む今までの全ての検討経緯にまで踏み込んだ審議がされることを期待したいが、今の国会の混迷ぶりを見るにつけどうにも期待薄なのが残念でならない。条文上かなり不明な点の残る、技術的保護手段としてのアクセスコントロールとその回避の著作権法上の意味を明確化する審議だけでもしてくれれば良いが、どうなることかかなり不安である。

(3)国会図書館による配信、国立公文書館における利用に関する規定
 国会図書館による配信や国立公文書館における利用のための権利制限に文句を言う人間はさすがに一部の著作権団体を除いてあまりいないのではないかと思う。ここでは全ての条文をあげることはしないが、例えば、第31条第3項として、

(図書館における複製等)
第三十一条
(中略)
 国立国会図書館は、絶版等資料に係る著作物について、図書館等において公衆に提示することを目的とする場合には、前項の規定により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて自動公衆送信を行うことができる。この場合において、当該図書館等においては、その営利を目的としない事業として、当該図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、自動公衆送信される当該著作物の一部分の複製物を作成し、当該複製物を一人につき一部提供することができる。

という規定を、また、第42条の3として、

(公文書管理法等による保存等のための利用)
第四十二条の三 国立公文書館等の長又は地方公文書館等の長は、公文書管理法第十五条第一項の規定又は公文書管理条例の規定(同項の規定に相当する規定に限る。)により歴史公文書等を保存することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、当該歴史公文書等に係る著作物を複製することができる。

 国立公文書館等の長又は地方公文書館等の長は、公文書管理法第十六条第一項の規定又は公文書管理条例の規定(同項の規定に相当する規定に限る。)により著作物を公衆に提供し、又は提示することを目的とする場合には、それぞれ公文書管理法第十九条(同条の規定に基づく政令の規定を含む。以下この項において同じ。)に規定する方法又は公文書管理条例で定める方法(同条に規定する方法以外のものを除く。)により利用をさせるために必要と認められる限度において、当該著作物を利用することができる。

という規定を追加し、この著作権法改正案で、絶版資料の国会図書館から各図書館への配信や、国立公文書間における保存・提示目的での利用などを著作権法上明確に合法化しようとしていることを私は高く評価したい。

 細々と問題点などを書いて来たが、今回の内閣提出の著作権法改正案が今後国会審議にかかるにあたり一番の懸案となりそうなのは、何と言っても自公と一部の権利者団体が狙っているダウンロード犯罪化との関係ではないかと私は考えている。並行してダウンロード犯罪化法案が提出されることになるのかも知れないが、この内閣提出の著作権法改正案の審議の中でも自公の議員がダウンロード犯罪化を求めてロクでもないことを言い出して来るだろうことは目に見えており、混迷する政治情勢の中、何がどうなるのか読めないところもあるが、様子を見て、今後も可能な限り与野党の国会議員に意見を伝えて行かなければならないと私も思っている。

(3月19日の追記:内容は変えていないが、文章に少し手を入れた。)

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2011年1月10日 (月)

第247回:経産省・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会「技術的制限手段に係る不正競争防止法の見直しの方向性について(案)」に対する提出パブコメ

 ややこしいこと極まりないが、第244回で取り上げた経産省の方のDRM回避規制強化に関するパブコメ(1月21日〆切。電子政府の該当ページ参照)も書いて提出したので、念のため、ここに載せておく。

(以下、提出パブコメ)

・該当箇所
(1)「Ⅱ 「のみ要件」の見直しなど技術的制限手段回避装置等の提供行為に係る民事規定の適正化について」(第4~9ページ)について

(2)「Ⅵ 技術的制限手段回避装置等の提供行為に対する刑事罰の導入について」(第17~21ページ)について

(3)「Ⅶ 技術的制限手段回避装置等に対する水際措置の導入について」(第22~23ページ)について

(4)その他報告書案全体について

・意見内容
(1)本項目Ⅱにおいて、不正競争防止法上のDRM回避機器等の規制における「のみ」要件を「専ら」要件へ変更するとしているが、制度導入以来立法事実に変化がないことを考慮し、このような要件の変更についてより慎重な検討を求める。

(2)本項目Ⅵにおいて、技術的制限手段回避装置等の提供行為について刑事罰を導入するとしているが、現行規制における民事救済では不十分とする合理的根拠のない中での、このような刑事罰付加による規制強化に反対する。

(3)本項目Ⅶにおいて、技術的制限手段回避装置等に対する水際措置を導入するとしているが、刑事罰導入の検討との関係を踏まえ、より慎重な検討を求める。

(4)不合理な規制強化の背景と思われる模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の署名・批准に反対する。最終的な報告書のとりまとめにおいては、合理的な根拠のない法改正はしないとするべきである。

・理由
(1)「Ⅱ 「のみ要件」の見直しなど技術的制限手段回避装置等の提供行為に係る民事規定の適正化について」(第4~9ページ)において、「技術的制限手段を回避する機能の他に、追加的に他の機能が付されているために『のみ』要件を欠くと称する装置等が氾濫しており、コンテンツ事業に甚大な被害を与えていると指摘されている」として、そのような機器の例にマジコンや画像安定化機能付きコピーガードキャンセラー等をあげ、現行のDRM回避機器等における「のみ」要件を「専ら」要件にする方向で見直すとしている。

 しかし、例としてあげられているマジコンについては既に2009年2月の東京地裁の判決によって現行規制の対象とする司法判断が示されているのであり(本報告書案の注18の判決である)、これを大した根拠もなく現行規制の対象外とするかの如き整理は行政の報告書の整理として極めて不適切である。今のところ、このような司法判断を立法によりオーバーライドしなければならないとする合理的根拠は何一つない。わざわざ司法判断まで示されている中で法改正を行うことは、かえって規制対象をいたずらに不明確にする恐れが強い。また、画像安定化装置についても制度導入当初から存在していた機器であり、このような機器の存在も法改正の根拠とはならない。

 現行規制の「のみ」要件の見直しについては、制度導入以来立法事実に変化がないことを考慮し、より慎重な検討を求める。この点について、今後の検討において新たな根拠が示されない限り法改正はしないとするべきである。マジコンが問題であるならば、行政として、マジコンが既に現行規制の対象であることを周知する等の地道な施策をまずきちんと行うことで対処するべきである。

 なお、本項目において、「のみ」要件を「専ら」要件へ変更した際の無反応機器の取り扱いについて、「『のみ』要件を見直した場合においても、上述のとおり装置等の利用者の利用実態、販売者の販売態様などの事情を総合的に考慮し、営業上用いられる技術的制限手段の回避を中核的な機能とするものであるか否かで判断されるため、無反応機器について徒らに規律対象になることは想定されない」(第7ページ)としているが、無反応機器を規制対象外とする解釈が担保される明確な根拠はなく、無反応機器との関係でも「専ら」要件への変更は規制対象を不明確にするものと言わざるを得ない。無反応機器との関係でも、要件の変更はより慎重に検討されなくてはならない。

(2)「Ⅵ 技術的制限手段回避装置等の提供行為に対する刑事罰の導入について」(第17~21ページ)において、露店販売とネットショップ等への対応が民事救済だけでは困難ということを理由として、現行の不正競争防止法第1項第10号及び第11号で規定されている技術的制限手段回避装置等の提供行為を一定の要件を付加して刑事罰の対象とする方向で検討するとしている。

 しかし、露店販売やネットショップが本当にどこまで被害をもたらしているのか、ネット販売等についてプロバイダーとの協力体制の構築やプロバイダー責任制限法を用いた対応等も含めて本当に対応が難しいのか、今まで民間事業者がこの権利行使のためにどれほどのコストをかけてきてそれが本当に事業者にとって不当な負担と言えるほどのものになっているのかといった点での検討は極めて不十分である。

 例えば、第17ページで「実際の住所すら存在しないものとして、露天販売の形式を取る業者も出てきている。特に、露天商らは暴力団らと繋がっている可能性が極めて高く、権利者らが露天商らを尾行して追跡することは身体的な危険を伴う」としているが、このような決めつけには何の根拠もない。極めて局地的な販売形態である露店販売によってそこまで大きな被害が発生しているとも思えず、販売形態が露天であるからといって民事救済だけでは対応できないとする法的整理も不可解である。また、露天商がほぼ暴力団と繋がっているとすること自体疑問だが、本当に暴力団と繋がっている違法露天商がいるのであれば、今現在においても、そのような露天商又は暴力団に対して警察等と協力して対処することも不可能ではないだろう。

 第17~18ページでは、ネットショップについて、「ネット販売では特定商取引法上の販売者情報の記載が必要とされているが、店舗情報が全く記載されていない、記載されていても虚偽である、仮名や親族の名前を用いている、住所が途中までしか記載されていないなど様々なケースが存し、権利者が販売者を特定することは極めて困難である。さらに、大半のケースでは商業登記もなされておらず、違反行為者を特定することができないために、警告書(内容証明)の発送すら不可能なケースが多い」としているが、これらは特定商取引法、商業登記法、商法、会社法、プロバイダー責任制限法等の問題であって、不正競争防止法の問題ではない。このように他の法律の問題を不正競争防止法に押しつけるのは不適切である。

 そして、第18ページに、民事的救済の抑止効果に関する問題点として、「判決が当該事件の当事者に対して拘束力が発生するのみで、類似行為を行う者に対しては何らの効力が及ばないため、販売の差止めを命じる判決が出た後も、『訴えられていないから』との理由で、販売を継続するものが後を絶たない。また、短期間に開店と閉店を繰り返し、被告として特定されることを逃れる者なども現れている。ある時点で民事的救済が得られたとしても、その後店舗名や代表者名が変更されると、『行為者が異なる』との反論が可能となり、判決の効力が及ばなくなってしまう」と書いているが、このような判決の効力・拘束力の問題は民事訴訟法一般の問題であって、やはり不正競争防止法の問題とは言い難い。普通の良心的な業者については、現行の規制においてもマジコンは対象であり、その販売は違法であることを周知する等の地道な施策のみを行政においてはまず行うべきであるし、規制逃れのために短期間に開店と閉店を繰り返したり、店舗名や代表者名を頻繁に変更したりするような悪質な業者に対しては、現行の民事訴訟法、民事執行・保全法や民・刑法等も含めて本当に対処できないのかという観点からきちんと議論を行うべきである。

 現行の特定商取引法、商業登記法、商法、会社法、プロバイダー責任制限法、民事訴訟法、民事執行・保全法や民・刑法等によりここであげられているような問題に対応できないとする理由はなく、あるいは、仮にこれらの法令に不備があったとしても、それぞれの法改正によって対応するべき話であって、いずれにせよ、拙速に不正競争防止法の改正を行うべきではない。

 今後の検討においては、このような一方的な決めつけによる法的整理を改め、まず、他の法令も含めて現行規制では対応できない状況・立法事実が本当に新たに生じているのかという観点からきちんと検討を行うとともに、一方当事者のみによるものでない、ある程度客観的な被害の実態調査から行うべきであり、その検討・調査において、立法事実の変化が確かにあり、特に問題とされているのだろうマジコンについて、ゲーム機メーカーの負担する権利行使コストが不当なほどのものになっていることが具体的に示されない限り、このような刑事罰の導入は行わないとするべきである。

 今のところ、現行規制における民事救済では不十分とする合理的根拠はなく、このような刑事罰付加による規制強化に反対する。

(3)「Ⅶ 技術的制限手段回避装置等に対する水際措置の導入について」(第22~23ページ)において、関税法を改正し、技術的制限手段回避装置等に対する水際措置を導入することが有効との整理がなされている。

 この項目中で、水際措置と刑事罰との関係について書かれていないが、経産省自らその財務省への平成23年度関税率・関税制度改正要望事項調査票(http://www.mof.go.jp/jouhou/kanzei/h23kaisei/keisan/h23keisan_10.pdf参照)の中で書いている通り、「ある物品を関税法において輸入禁制品とする場合には、当該物品の所持・提供・輸入行為等について、国内法令において関税法と同程度の刑事罰の対象とすることが求められている」という法的問題について、最終的な報告書では明記するべきである。

 このような問題も踏まえた上で、水際措置の導入についてより慎重に検討し、役所間のものだろう、水際措置と刑事罰の導入をリンクさせるような取り決めに合理的な根拠のないことを認め、刑事罰を導入せずに水際措置を導入できるようであれば行い、そうでなければ現時点では水際措置の導入を見送るとするべきである。

(4)その他報告書案全体について
 今年度に文化庁と経産省でDRM回避規制についてこれほど拙速な法改正の検討が同時に行われる背景には、模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の検討があるものと私には思える。本報告書案では特に言及されていないが、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない規制強化条項を含む条約交渉を、何ら国民的なコンセンサスを得ない中で、一部の者の都合から政府が勝手に行うなどおよそ論外であり、私は一国民として、このACTAの署名・批准に反対する。

 情報に関する国民の基本的権利に関係し、全国民の情報アクセスに影響を与えかねないDRM回避規制に関する法改正については、きちんとした客観的な事実の確認からまず行うべきであり、最終的な報告書のとりまとめにおいては、合理的な根拠のない法改正はしないとするべきである。

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2010年12月25日 (土)

第244回:経産省・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会「技術的制限手段に係る不正競争防止法の見直しの方向性について(案)」に対するパブコメ募集(1月21日〆切)

 DRM回避規制については、著作権法だけではなく常に不正競争防止法についても合わせて見なければならないのがややこしいこと極まりないが、そうは言ってもどうしようもない、前回取り上げた文化庁の方のパブコメに続き、経済産業省の方のDRM回避規制強化検討会である産業構造審議会・知的財産政策部会・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会の報告書案についても、1月21日〆切でパブコメにかかった(電子政府の該当ページ参照)。

 この経産省の方の報告書案「技術的制限手段に係る不正競争防止法の見直しの方向性について(案)(pdf)」は、文化庁のまとめよりは体裁を取り繕っている点でマシとは言えるかも知れないが、やはり規制強化の根拠が薄弱であることに変わりはない。

 細かなことは直接元の報告書案を見てもらいたいと思うが、この報告書案の「Ⅱ 『のみ要件』の見直しなど技術的制限手段回避装置等の提供行為に係る民事規定の適正化について」(第4ページ~)で「『のみ』要件を見直すに当たっては、『専ら』要件の方向で検討を進めることが妥当」とされ、「Ⅲ 技術的制限手段の回避行為に対する規制の在り方について」(第10ページ~)で「個々の技術的制限手段の回避行為そのものを不正競争防止法における規制の対象とするかどうかについては、引き続き消極に解することが適当」とされ、「Ⅳ 技術的制限手段の回避サービスの提供行為に対する規制の在り方について」(第12ページ~)で「技術的制限手段回避サービスの提供行為につき不正競争防止法において独立して規制の対象とするかどうかについては、消極に解することが適当」とされ、「Ⅴ 技術的制限手段回避装置等の製造行為に対する規制の在り方について」(第15ページ~)で「技術的制限手段回避装置等の製造行為については、既存の法令によって一定程度の対応が可能であり、今後とも回避装置等の国内での製造実態とこれに伴う影響等を注視しながら対応を検討することが適当」とされ、「Ⅵ 技術的制限手段回避装置等の提供行為に対する刑事罰の導入について」(第17ページ~)で「一定の悪質な行為に限定して刑事罰の対象とする方向で検討することが適切」とされ、「Ⅶ 技術的制限手段回避装置等に対する水際措置の導入について」(第22ページ~)で「技術的制限手段回避装置等の国境をまたがる流通への対策の実効性を高める観点からは、当該装置等についても水際措置を導入することが極めて有効」とされている通り、この報告書案で考えられているDRM回避機器等に対する規制強化をまとめると以下の3点となるだろう。

  1. 現行のDRM(コピーコントロールとアクセスコントロール)回避機器等の規定における「のみ」要件の「専ら」要件への変更(回避機能「のみ」を有する機器又はプログラムという規定を回避機能を「専ら」有すると変えるイメージだろうか。)
  2. 「不正の利益を得る目的又は技術的制限手段を用いる者に損害を加える目的」という主観的要件を付加して限定し、DRM回避機器・プログラムの提供行為に刑事罰を付加(法人処罰・法人重課あり)
  3. DRM回避機器等を関税法の輸入禁止品に追加し、水際措置を導入

 ここで、1の「のみ」要件の「専ら」要件への変更も、特にピンポイントで問題とされているマジコンのような機器について不競法の規制の対象外とする判決が出されたというのならまだ分からなくもないが、マジコンが規制対象になるという地裁判決が出されている中で、このような規定の変更をする意味は私には良く分からない。このような変更はかえって規制対象を不明確にする恐れもあるだろう。(マジコン地裁判決については、番外その15参照。)

 2の刑事罰付加についても、その理由としてあげられているのは露店販売とネットショップへの対応が民事救済だけでは困難ということだが、露店販売やネットショップが本当にどこまで被害をもたらしているのか、ネット販売についてプロバイダーとの協力体制の構築やプロバイダー責任制限法を用いた対応も含めて本当に対応が難しいのか、今まで民間事業者がこの権利行使のためにどれほどのコストをかけてきてそれが本当に事業者にとって不当な負担と言えるほどのものになっているのかといった点での検討は極めて不十分である。この点も法改正の根拠が本当にあるのかということをよくよく考えるとかなり怪しい。(そもそもソフトメーカーはいざ知らず、ゲーム機のハードメーカーは任天堂、ソニー、マイクロソフトの世界的大企業3社の寡占状況にあるので、そのコスト負担能力を考えると今の規定で対応が困難と言えるほどの状況にあるとはにわかに信じがたい。)

 また、3の水際措置の導入については単独であれば特に反対する理由はないのだが、経産省の財務省への平成23年度関税制度改正要求要望書(pdf)の中で、「ある物品を関税法において輸入禁制品とする場合には、当該物品の所持・提供・輸入行為等について、国内法令において関税法と同程度の刑事罰の対象とすることが求められている」と書かれている通り、今のところ何故か刑事罰の導入が水際措置の導入の前提として考えられているということから、やはり慎重な検討が必要と私は考えている。(法律の間のバランスを考えた役所間の取り決めなのだろうが、水際措置の導入に刑事罰が必要とする合理的理由はないだろう。なお、アクセスコントロール回避機器等への水際措置の導入については、著作権法の改正がされた場合という条件で、文部科学省(文化庁)も同様に要望書(pdf)を財務省に出している。また、関税法の改正については、財務省の関税審議会・企画部会でも同様の検討がされている。)

 これらも、現時点ではほとんど規制強化のためのみの規制強化としか思えず、文化庁と同じく、海賊版対策条約(ACTA)についての意見も含め、私はこちらのパブコメも出すつもりである。

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2010年12月15日 (水)

第243回:文化庁・著作権分科会・法制問題小委員会「技術的保護手段に関する中間まとめ」に対するパブコメ募集(1月7日〆切)

 今日12月15日、東京都議会で、青少年健全育成条例改正案という名の漫画・アニメ弾圧条例が可決された(都議会録画映像参照)。可決案では、「非実在青少年」という言葉こそ消えたものの、漫画・アニメに狙い撃ちにした架空の性犯罪描写規制とされるなど創作物規制についてはかえって規制範囲は広がった。その他細かな点で言い換えがされているが、携帯・ネット規制等についても、前回の案での懸念が払拭されているとは言い難い。漫画・アニメといった特定の表現に対するいわれのない差別条項をその頂点として、今回の条例改正は内容・制定プロセスの全てにおいて何重にも違憲だろう。ただ、この話は既に無名の個人ブログでどうこうというレベルを遙かに超えてしまっており、ここでくどくどと書くことはしないが、このような異常極まりない条例改正の動きについて粘り強く反対して下さった都議の皆様、また理性的に広く反対して下さっている関係者の方々には心からの感謝と敬意を私も表したいと思う。この問題を追っていた一人として今回の可決は非常に残念だが、法律や条令は可決したらそれで終わりというものではない、さらにいろいろな動きや思惑が入り乱れることは間違いなく、これまでのことを忘れてはならないし、今後も決して気は抜けない。

 来年春には統一地方選も控えており、都条例問題からも目は離せないが、知財絡みの話として1月7日〆切で文化庁からDRM回避規制強化に関するパブコメがかかったので、その紹介をしておきたいと思う(文化庁HP電子政府の該当ページ日経パソコンの記事internet watchの記事参照)。

 今回の報告書「技術的保護手段に関する中間まとめ(pdf)」(概要(pdf))はほぼ結論ありきの薄っぺらなものだが、この報告書に書かれている上っ面の理由はどうあれ、文化庁は、日本版(骨抜き)フェアユース導入の動きに対してどうにか規制強化も一緒にしようと、スジが悪いと知りながら他にネタもなくこのDRM回避規制強化の話を引っ張り出して来ざるを得なかったというのが本当の背景ではないかと個人的に踏んでいる。

 規制強化の内容としては、報告書(pdf)の第2章「技術的保護手段の在り方について」のまとめ(第15ページ)で

○以上の評価をもとに、技術的保護手段の対象となる保護技術について総括すると、現行でも技術的保護手段の対象となっているSCMS、CGMS、擬似シンクパルス方式等の「フラグ型」技術等に加え、CSS等の「暗号型」技術についても、保護技術の「技術」の側面のみならず、当該「技術」が、契約の実態等とも相まって、社会的にどのように「機能」しているのかという点も含めて評価することにより、技術的保護手段の対象とすることが適当と考えられる。(ただし、「暗号型」技術については、今後、アクセスコントロール「機能」のみを有するような保護技術が多く用いられるようになることが十分に想定され、そのような保護技術については技術的保護手段の対象外となる。)

○また、ゲーム機・ゲームソフト用の保護技術については、ゲームソフトの媒体によっては、複製そのものの防止は行われていないものの、違法に複製され、さらに違法にアップロード(送信可能化、自動公衆送信)されたゲームソフトを、単にダウンロード(複製)するだけでは、当該複製により作成されたゲームソフトの複製物を使用することができず、また、コンテンツ提供事業者(ゲームソフトメーカー)は、こうした違法に行われている複製や送信可能化、自動公衆送信を抑止する意図をもって当該保護技術を用いていると考えられることから、当該保護技術が社会的にどのように「機能」しているかという観点から着目すれば、複製等の抑止を目的とした保護技術と評価することが可能であ
り、技術的保護手段の対象とすることが適当と考える。
 もっとも、上述のとおり、オンラインゲーム用の保護技術のうち、ゲームソフトの複製やインターネット上での送信の防止・抑止が行われていない、アクセスコントロール「機能」のみを有する保護技術については、技術的保護手段の対象とはならないものと考えられる。

○なお、アクセスコントロール「機能」のみを有すると評価されるオンラインゲーム用の保護技術を除くゲーム機・ゲームソフト用の保護技術のうち、とりわけゲームソフトを暗号化していない場合は、当該保護技術の回避によって支分権の対象となる行為が可能となるわけではなく、当該保護技術を技術的保護手段の対象とすることは、結果として著作権法が特定の者のプラットフォームを保護することにつながることから反対であるとする意見があった。
 この点、上述のとおり、CSS等の「暗号型」技術やゲーム機・ゲームソフト用の保護技術について、著作権者等の権利の実効性の確保という観点から、著作権等侵害行為を防止又は抑止する手段に係るものを規制対象とし、現行著作権法の技術的保護手段の枠内で捉えようとするものであり、特定の者によるプラットフォームの保護を認めるという観点に立つものではないことは言うまでもない。

と書かれ、第3章の「技術的保護手段の定義規定等の見直し」(第16~17ページ)で、

○一方、CSS等の「暗号型」技術やゲーム機・ゲームソフト用の保護技術については、単に暗号化されたコンテンツやゲームソフトを複製しただけでは、当該複製物を使用できない点において複製の抑止と評価できることから、現行の定義規定中の「抑止」との関係について、どのように評価するか検討する必要があり、必要に応じ、規定の見直しを行うべきと考えられる。

○CSS等の「暗号型」技術の場合には、著作物等そのものを暗号化しており、特定の反応をする信号を著作物等とともに記録媒体に記録又は送信する方式ではなく、そうした技術については現行規定では対応できないため、現行の定義規定中の「方式」の見直しが必要であると考えられる。

○技術的保護手段を施す主体については、実態上、現行用いられている保護技術は著作権者等の意思に基づいて施されていることから、引き続き、著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを技術的保護手段の対象から除くことが適当であると考えられる。

等と書かれ、第4章の「技術的保護手段の見直しに伴う回避規制の在り方」で、回避機器規制と回避行為規制の範囲については現行と同等とされている通り、まだ曖昧なところはあるものの、この文化庁報告書の考え方は、およそ、規制される行為自体は大きく変えないものの、規制対象となる技術に、現行のフラグ付加型のコピーコントロール技術だけでなく、コピーコントロール機能を有すると見える暗号型のアクセスコントロール技術も追加して広げるというものと分かる。

 このような規制強化によって具体的に新たにどのような行為類型が著作権法の規制対象となるかというと、主に、

  1. 暗号型のアクセスコントロール技術を解除して私的に複製する行為(ただし、刑事罰はなし。要するに、DVDリッピング・暗号解除をともなうゲームROMの吸い出し等の明確な違法化である。)
  2. アクセスコントロール回避機器又はプログラムの公衆譲渡・貸与目的での製造等(刑事罰あり)

の2つということになるだろう。(権利者団体は常に無茶を言い続けるだろうが、当たり前の話で、報告書にも書かれている通り、マジコンでゲームをプレイすること自体等、著作権法上の複製を行っている訳ではない行為類型は著作権法の規制対象とはなり得ないだろう。なお、ニンテンドーDSで用いられているフラグ付加型の保護技術は現行でも技術的保護手段に該当し、このような技術を回避してROMを吸い出すことの可能なマジコンは現行の著作権法でもその譲渡等が刑事罰の対象となり得るのではないかと私は考えているが、何故かこの報告書では、ほとんど何の検討もなく、これが現行の著作権法上の技術的保護手段に入らないかの如き書きぶりがされている。あまりに曖昧なため、上のような整理と見て私は今回のエントリを書いたが、全体を通して技術の評価が非常に曖昧なこの報告書は本当に始末に困る。)

 しかし、そもそもアクセスコントロール技術については、平成11年のDRM回避規制導入時や平成18年文化審議会報告書の検討時においても、著作権法の規制対象に含めないとされていたものであり、当時と比べて特別な立法事実の変化が生じている訳ではない。例えばマジコン被害について、CESAの「違法複製ゲームソフトの使用実態調査報告書(pdf)」(CESAのリリース)を引用しているが、このような突っ込みどころしかないようなデタラメな実態調査が法改正の前提とされることなどおよそあり得ない話だろう。この点で、アクセスコントロール回避規制を何も考えずに著作権法に入れてしまい混乱しているだけの欧米の法制が参考になるということもない。

 また、ここでは何度も繰り返していることだが、ダウンロード違法化しかり、1のように捕捉不可能な家庭内の私的複製行為を規制しようとする発想自体間違っているし、2のアクセスコントロール回避機器等への規制にしても、既にDVDリッピングソフトもアクセスコントロール回避機器としてのマジコンも不正競争防止法でその譲渡等が規制対象となっているので、著作権法で二重に網をかける意味に甚だ乏しい。(アクセスコントロール回避機器等の条件付きでの製造規制、その譲渡等への罰則付加については議論の余地がなくはないだろうが、不正競争防止法の枠内で議論すれば済む話である。)

 さらに言えば、アクセスコントロール技術をコピーコントロール機能を有するか否かという観点からきちんと評価することが可能かどうかからして怪しい。報告書ではあっさり、オンラインゲームのアクセスコントロールだけを取り上げ、「オンラインゲーム用の保護技術のうち、ゲームソフトの複製やインターネット上での送信の防止・抑止が行われていないものについては、アクセスコントロール『機能』のみを有する保護技術と考えられ、技術的保護手段の対象として位置付けることは適当でないものと考えられる」としているが、オンラインゲームのアクセスコントロールにしても送信データのコピーを抑止していないとできるかどうか疑問であるし、動画配信等も含め、暗号化のみのDRMによりデータを送信する場合にそれがアクセスをコントロールするものであるのか、コピーをコントロールするものであるのかの評価は非常に難しく、実質全ての暗号技術が著作権法上の技術的保護手段に含まれることとなりかねず、将来的に著作権法の本来の法目的に照らして規制すべきでない物や行為にまで規制が及ぶ恐れがあるだろう。(また、単にアクセスコントロールといった時には暗号化だけでなくパスワード等によるコントロールも含まれることになるのであり、今のところ文化庁などはそこまでは全く想定していないようだが、このような点でも不当に規制の範囲が広がることのないよう十分気をつける必要がある。)

 今回の報告書に書かれていることは文化庁にしては比較的おとなしめではあるが、検討メンバーから見ても、技術的なことも含めて本当にきちんとした議論がなされたとは思えず、例によって、ほとんど規制強化の結論ありきで屁理屈をこねているとしか思えない、法改正の前提とするには到底足らないお粗末なものである。

 今週末12月17日の経産省の「技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会」(第3回開催案内)でとりまとめると思われる、不正競争防止法上のDRM回避規制強化も合わせて見ないとならないのが厄介なところだが、海賊版対策条約(ACTA)のことなども含め、不合理な法改正に反対するという内容のパブコメを私は出すつもりである。

 どこかでまた少し内容を紹介したいと思っているが、知財関係では、特許庁から、特許法等の改正に関するパブコメもかかっているので、ここにリンクを張っておく(電子政府の該当ページ1該当ページ2該当ページ3)。

(2010年12月16日夜の追記:フラグ付加型の技術的保護手段を回避してソフトのコピーを可能とするタイプのマジコンは、不正競争防止法の規制対象となっているだけでなく、現行でも著作権法の規制対象となり得ると私は考えているが、この点を踏まえてどう考えられるかということが少し分かりにくかったかと思うので、上の文章に少し手を入れた。)

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2010年10月12日 (火)

第240回:10月2日時点の海賊版対策条約(ACTA)条文案と国内におけるDRM回避規制強化の検討

 翻訳はおろか、今度は概要や報道発表すらついておらず、およそ人をバカにしているとしか思えないが、模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の10月2日時点の条文案(pdf)が、日本政府から正式に公開されたので、今回は、日本との国内法との関係で特に問題となるそのDRM回避規制関連部分について取り上げる。(同じくユーザ・消費者から見て気になる部分として、プライバシー保護、少量品、法定賠償やプロバイダー責任制限関連部分もあるが、これらの部分は8月時点のリーク条文案とほとんど変わりはないので、特に気になるようであれば、前々回のエントリをお読み頂ければと思う。)

 海賊版対策条約(ACTA)でDRM回避規制を規定する第2.18条中の第5項から第8項までは、10月2日時点の条文案では以下のような形になっている。(MIAUの訳を参照した。)

5. Each Party shall provide adequate legal protection and effective legal remedies against the circumvention of effective technological measures that are used by authors, performers or producers of phonograms in connection with the exercise of their rights in, and that restrict acts in respect of, their works, performances, and phonograms, which are not authorized by the authors, the performers or the producers of phonograms concerned or permitted by law.

6. In order to provide such adequate legal protection and effective legal remedies, each Party shall provide protection at least against:
(a) to the extent provided by its law:
(i) the unauthorized circumvention of an effective technological measure carried out knowingly or with reasonable grounds to know; and
(ii) the offering to the public by marketing of a device or product, including computer programs, or a service, as a means of circumventing an effective technological measure; and

(b) the manufacture, importation, or distribution of a device or product, including computer programs, or provision of a service that:
(i) is primarily designed or produced for the purpose of circumventing an effective technological measure; or
(ii) has only a limited commercially significant purpose other than circumventing an effective technological measure.
...

8. In providing adequate legal protection and effective legal remedies pursuant to paragraphs 5 and 7, each Party may adopt or maintain appropriate limitations or exceptions to measures implementing paragraphs 5, 6 and 7. Further, the obligations in paragraphs 5, 6 and 7 are without prejudice to the rights, limitations, exceptions, or defenses to copyright or related rights infringement under a Party's law.

第5項 その権利の行使に関係する形で著作権者、実演家又はレコード製作者によって用いられ、その著作物、実演及び録音に関して、著作権者、実演家又はレコード製作者によって許可されていないか、法律によって認められていない行為を制限する、有効な技術的手段の回避に対して適切な法的保護と有効な法的救済を規定しなければならない。

第6項 そのような適切な法的保護と有効な法的救済を提供するため、各締約国は、少なくとも以下の行為に対する保護を規定しなければならない:
(a)その国内法により規定される限りにおいて:
(ⅰ)故意に又はそうと知る合理的な理由がある場合になされる、有効な技術的手段の不正な回避;そして
(ⅱ)有効な技術的手段を回避する手段としての、コンピュータ・プログラムを含め、機器若しくは製品又はサービスの市場における公衆への提供の申し出;そして

(b)コンピュータ・プログラムを含め、以下の機器又は製品の製造、輸入又は頒布、又は以下のサービスの提供:
(ⅰ)主として有効な技術的手段を回避する目的で設計若しくは製造されているもの;又は
(ⅱ)有効な技術的手段を回避する以外には限定的な商業的目的しか持たないもの。

(中略:第7項は、著作権管理情報に関する規定。)

第8項 第5項及び第7項に書かれている適切な保護及び効果的な法的救済を規定するに際し、各締約国は、第5項、第6項及び第7項に書かれている措置の実施において適切な制限又は例外を採用又は維持できる。さらに、第5項、第6項及び第7項の義務が、締約国の国内法における、権利、制限、例外、又は著作権若しくは著作隣接権侵害に対する抗弁に影響を与えることはない。

 ここで、条文上の記載が単に有効な技術的手段とされて明文のアクセスコントロールへの言及がなくなり、アメリカの初期提案の形のようにアクセスコントロール回避そのものの規制が完全な義務とされなかったことは不幸中の幸いだが、日本政府の勝手なアメリカへの譲歩により、DRM回避装置とプログラムの製造、DRM回避サービスの提供までの規制が必要とされているままなのは非常に痛い。

 文化庁なり経産省なり外務省なりが国民にどこまでこの条約交渉を用いたポリシーロンダリングを隠すつもりか知らないが、今文化庁と経産省で進んでいるDRM回避規制の強化の検討で、ある程度このACTAの条文案に沿った内容の規制強化案が出されて来るのは間違いないだろう。(現行法との比較で考えた時の分析がメチャクチャなのでその点では全くお話にならないが、どこかの官庁の官僚が出所と思われる文化庁のDRM回避規制強化の検討に関する先日の産経の記事で言及されている規制強化の内容が、このACTAの条文案とピタリと符号しているのは決して偶然ではないに違いない。)

 そもそもこのような国益を無視したポリシーロンダリング自体全く気にくわない上、重複検討もいい加減にしてくれと思うが、今までの知財本部の検討や、現行の法規制とACTA条文案の比較を考えると、文化庁や経産省の検討で俎上にあがる論点は大体以下の5点になると予想される。(現行の法規制については、第36回参照。)

  1. アクセスコントロール回避自体を規制するかどうか。
  2. 「のみ」、「専ら」などの現行法の機能の限定を改めるか。
  3. DRM回避装置とプログラムの製造規制をどうするか。
  4. DRM回避サービスの規制をどうするか。
  5. 刑事罰の範囲をどうするか。

 1のアクセスコントロール回避自体の規制まで、この機会に乗じて権利者団体は狙ってくるだろうが、ACTAの現在の条文案においてすらこのような規制を必須とすることは落とされたのであり、さらに、何度も書いている通り、著作権法によるせよ不正競争防止法によるせよ、このようなアクセスコントロール回避自体の規制には、そのそもそもの法目的から来る無理が存在している。過去のDRM回避規制導入の検討経緯については第45回で取り上げているが、個人的なアクセスコントロール回避まで規制することは、不正競争防止法ではその公正な競争の確保・取引秩序の維持という目的をはるかに超える異常規制となるだろうし、著作権法はそもそも情報アクセスそのものを規制するための法律ではないのである。

 2について、現行のDRM回避機能「のみ」を有する機器、DRM回避を「専ら」その機能とする機器といった条文の限定を、ACTA条文案のように改めることも検討されるのではないかと思うが、これも実務的に意味があるかどうか甚だ疑わしい。現行法の規定でも、マジコン等は違法と解釈されているのであり(番外その15参照)、現時点でいたずらに条文を変えることはかえって法的な不安定性を増すだけのことになるのではないかと私は思っている。

 3のDRM回避機器・プログラムの製造規制も、著作権法によるにせよ不正競争防止法によるにせよ、特に企業や大学等における研究・開発との関係で極めて大きな問題を孕む。不正競争防止法の場合、第19条第1項第7号として試験・研究に対する適用除外が定められており、この適用除外を拡大することも考えられるだろうが、著作権法にはそのような例外はなく、例によって文化庁と権利者団体は全力で一般的な例外の導入に抵抗しながらデタラメな規制強化をごり押ししようとすると容易く予想されるので非常に危ない形で検討が進められるだろう。また、当たり前の話だが、試験・研究を例外とすれば多少の問題の緩和になるにしても、それで問題の全てが片付くということはない。そして、ここでも、何故製造行為を規制する必要があるのかということを少し考えてみれば、その立法事実たる根拠はACTAのポリシーロンダリングを除けば極めて薄弱であることに誰でも気づくことだろう。(大体、DRMの開発自体を萎縮させることに対して、権利者団体・ゲーム業界も全く利益は見出せないはずだが、省庁の検討に出て来るような、規制ありきで壊れたレコードのように同じことを繰り返すロビイストにはその程度の見識を求めることすら難しいだろう。情けない話だが。)

 4のDRM回避サービス規制も非常に危うい。どうせ政府や権利者団体は何も考えていないのだろうが、今の著作権法か不正競争防止法の規制に単純にサービスの提供という語を加えて広汎に規制をかけてしまうと、本来正当なものとして認められなければならない情報アクセス・複製を確保するためにすらDRM回避手段を合法的に入手することがほとんど不可能になる可能性が高い。図書館における資料保存や教育と、障害者等のためなど一般的な公益目的でのDRM回避は不可能ではないが、その手段を合法的に入手することができないという状況は誰でもバカバカしさの極みだと思うことだろう。また、サービスの提供という語自体かなり範囲は広く、直接的なサービスの提供だけではなく、間接的なサービスの提供まで含まれるとなるとその範囲が途方もなく広がることになるだろう。(「業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行った者」は刑罰の対象となるとされている現行の著作権法第120条の2第2項でサービスの提供の規制を読み込むことが可能かも知れないが、政府が現時点でどのような案を考えているかはよく分からない。この規定にしても、「業として公衆から」とい う語を「他人から」と変えることが考えられているとしたら、ほぼ同じことである。)

 5の刑事罰の範囲については、ACTAの今の条文案とは全く関係ないが、普段の振る舞いから考えて、この点でも文化庁や経産省、権利者団体は便乗して範囲の拡大を狙って来ることだろう。立法事実や過去の法改正の経緯を完全に無視して、不正競争防止法で刑事罰を導入する話が出て来たり、私的にコピーコントロールを回避して複製する行為の規制(著作権法第30条第1項第2号)に刑事罰を課すべきだといったバカげた話が出て来る恐れもあり、決して油断はできない。

 本当にミニマムでACTAの現在の条文案のDRM回避規制を国内法に導入することを考えると、他の点を全て条約と現行法の条文解釈の問題に落として、一般的な試験研究目的の適用除外も一緒に拡大する形で不正競争防止法にDRM回避機器の製造規制を刑事罰の導入なしで入れるという形になると思うが、そのようなある程度無難なところに今の検討が落ち着くとは考え難い。いつものように権利者団体と官僚たちは、この条約交渉に便乗して、これを最大限に利用して可能な限りの規制強化・既得権益拡大を狙って来るだろうし、縦割りと政治力のせめぎ合いの中、ねじれにねじれることが予想されるこのDRM回避規制の検討がどこにどう落ち着くのかは甚だ読み辛い。この検討はどこをどうやっても斜め上の方向に行き、前回紹介したようなアメリカのDMCAを巡るロクでもない混乱を、全部でないにしても、無理矢理輸入させられることになるのではないかという強い懸念を私は抱いている。

 大体、海賊版条約(ACTA)はその全体を見渡しても日本にとっての批准のメリットが私には全く見えない。ほとんど各国政府の役人のメンツ保持のためにやっつけで作ったとしか見えないメリットのない条約の妥結・署名・批准のための検討など、国民の情報アクセスに対する不当な規制としかなりようのないDRM回避のさらなる規制強化の検討など即刻止めるべきであるとパブコメで私は書くつもりである。

(10月14日の追記:内容は変えていないが、少し文章を整えた。)

(10月14日夜の追記:各者の主張は大体予想通りだが、9月30日に開催された技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会の第1回の配布資料議事要旨)が経産省HPで公開されているので、ここにリンクを追加しておく。その開催案内によるとこの小委員会の次回開催は10月19日の予定である。

 DRM回避規制については、非常にややこしい現行の法規制がどうなっているかということをまず理解してから話をしないと必ず頓珍漢なことになるが、経産省の参考資料の参考資料我が国における「技術的手段」に係る規制の概要(pdf)の下のような表が一目で見ようとするには良いかも知れない。

Drm_table

 いずれにせよ分かりにくいことに違いはないのだが、人によっては文化庁の平成18年の文化審議会・著作権分科会報告書(pdf)の下のような図の方が見やすいと思う方もいるかも知れないので、一緒に引用しておく。

Drm_table2

 普通DRM回避規制と聞いて端的に思い浮かぶのは、いわゆるDVDリッピングとマジコンのことだと思うが、今の法規制でも、主としてアクセスコントロールと考えられる DVDのDRM(CSS)の回避専用プログラム(DeCSSなど)の販売や提供は不正競争防止法で既に違法(ただし刑事罰はなし)とされ、アクセスコントロールと同時にコピーコントロールも行っているゲーム機のDRM回避のためのほぼ専用機器であるマジコンの販売や提供はまず間違いなく著作権法と不正競争法の両方で違法とされ、著作権法では刑事罰の対象ともなり得るだろうという、既に十分以上に規制がかかっている状態にあるということをまず押さえておかないと、この話は大体訳が分からなくなる。(さらに、いろいろと解釈の問題があるので、この問題は本当にややこしい。現行の法規制のさらに細かな点については、第36回などをお読み頂ければと思う。)

また、フランスの3ストライク法の現状について、マイコミジャーナルが非常に良くまとまった記事を書いてくれているので、ここで一緒にリンクを張っておく。)

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2009年3月11日 (水)

番外その15:マジコン事件地裁判決

 このブログでは個別の事件に対する注釈はあまり書いていないのだが、非常にややこしいDRM規制の問題に絡む、いわゆるマジコン事件については、誤解を無くすための解説は少しでも多い方が良いと思うので、今回は、番外として、この事件の判決(pdf)のことを取り上げることにする。

 まず、マジコン事件で関係して来るのは、不正競争防止法の以下の条文である。

第2条第7項 この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録のために用いられる機器をいう。以下同じ。)が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
第1項第10号 営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為

第3条第1項 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

第2項 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。

 条文自体の解説は第36回に書いた(法改正の経緯は第45回で、フリーオについては番外その6で書いている)ので、そちらを読んで頂ければと思うが、マジコンの不正競争防止法上の取扱いを考える上でポイントとなるのは、判決文(pdf)の争点の通り、要するに、1.ニンテンドーDSに組み込まれているDRMが不正競争防止法で定義されているところの「技術的制限手段」に該当するか(定義の問題)、2.マジコンが、技術的制限手段の効果を妨げることによりプログラムの実行等を可能とする機能「のみ」を有する装置に該当するか(「のみ」要件の問題)、3.営業上の利益の侵害があるか(差し止めを認めるために必要)という3点である。(なお、やろうと思えば請求できたと思うが、この裁判では、損害賠償は請求されていない。)

 判決を読めば分かると思うが、争点1の定義については、DSのDRMが、DSカードに記録された特定の信号を検知した場合にプログラムの実行を可能とする方式(「検知→可能方式」)であったことから、マジコン業者が、不正競争防止法の「技術的制限手段」は、信号を検知した場合にプログラム等の実行を制限する方式(「検知→制限方式」)のみを差すので、「検知→可能方式」は技術的制限手段に当たらないという主張をしているのだが、これはほとんど「制限」の言葉尻を捕らえた難癖に等しい。条文上も「特定の反応」とあるだけであり、裁判所も、DSと同じ方式のDRMとその回避手段(MODチップ)は立法当時から知られていたものであり、その立法趣旨からもこのようなものを排除していたとは考えられないと、DSのDRMは「技術的制限手段」に該当すると判断しているのである。

 争点2の「のみ」要件について、マジコン業者は、正規のDSカードのバックアップ及び携帯の便宜のための複製並びに自主制作ソフト等の実行のためにも使用されていることにより、マジコンは、技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能「のみ」を有する装置ではないという主張を展開しているが、裁判所は、「不正競争防止法2条1項10号の「のみ」は,必要最小限の規制という観点から,規制の対象となる機器等を,管理技術の無効化を専らその機能とするものとして提供されたものに限定し,別の目的で製造され提供されている装置等が偶然『妨げる機能』を有している場合を除外していると解釈することができ,これを具体的機器等で説明すると,MODチップは『のみ』要件を満たし,パソコンのような汎用機器等及び無反応機器は『のみ』要件を満たさないと解釈することができ」、同様に、マジコンも「のみ」要件を満たすと判断し、このような主張を退けている。マジコンが、DSのDRM回避のための専用装置(あるいは専用装置が組み込まれた機器)であることを考えれば、これも妥当な判断だろう。(なお、裁判所は、インターネット上に極めて多数の吸い出しプログラムがアップロードされていることからも、マジコンの用途を推定しているが、これは言わずもがなだろう。自主プログラムの作成・実行行為やバックアップコピー自体の合法性と、マジコンの販売行為の合法性は別の話である。不正競争防止法の技術的制限手段回避機器の定義に、プログラムの入手元の違法性の要件は含まれていないので、自主制作といった合法なプログラム入手元があることによって、機器が「のみ」要件を満たさなくなるとする主張は、法律的にはおかしいと言わざるを得ない。)

 争点3についても、裁判所は、「数多くのインターネット上のサイトで極めて多数の本件吸い出しプログラムがアップロードされており,だれでも容易にダウンロードすることができ,被告装置の大部分が,そして大部分の場合に,本件吸い出しプログラムを使用するために用いられているものであるから,被告装置により,原告らは,DSカードの製造販売業者として,本来販売できたはずのDSカードが販売できなくなり,現実に営業上の利益を侵害されているものと認められる。原告任天堂は,DS本体の製造販売業者としても,原告仕組みの技術的制限手段が妨げられてその対策を講じることを余儀なくされ,現実に営業上の利益を侵害されている」と、ほとんど自明のこととして、営業利益の侵害があると認めている。

 まだ高裁や最高裁に行く余地は残されているとは言うものの、全ての争点においてマジコン業者の言うことにほとんど理は無く、マジコンの不正競争防止法上の取扱いに関する結論が引っ繰り返る余地はほとんど無いのではないかと私は思う。この判決によって、マジコンの譲渡、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示、輸出入は不正競争防止法上の規制の対象であり、差し止めや損害賠償請求等の対象となり得るということが、ほぼ明白になったのである。プロの業者の方々がこのブログを読んでいるとはあまり思わないが、もし読んでおられるなら、真っ当な業者の方々には、このような機器をもう取り扱わないことをお勧めしておく。(なお、この裁判では不正競争防止法のみで争っているため著作権法は問題とされていないが、プログラム吸い出し機能があるマジコンは、著作権法上の「技術的保護手段」回避機器に該当し得るので、その販売等は著作権法でも訴えられる可能性がある。)

 今のところ、この不正競争防止法のDRM回避機器規制は刑事罰を伴うものではなく、ユーザーの行為自体・私的な領域にまで踏み込むものでもないが、さらなる規制強化を求める権利者団体なりの声がさらに高まることも十分に考えられる。しかし、前回のパブコメでも書いた通り、権利者団体なりが何と言おうと、このような判決が出されたことを考えても、現時点で、DRM回避規制について、現状では不十分とするに足る根拠は全くなく、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない、これ以上の規制強化に私は反対し続けるだろう。

(なお、判決中の各者の主張の中で、マジコン業者側がゲーム市場の閉鎖性と独占性の問題を指摘しているが、本当に市場を歪めるほどの不当な独占利益が存在しているというのなら、独禁法違反としてゲームメーカーを告発すべき話のはずであり、不正競争防止法の話の中で、このような指摘をするのはスジ違いである。全体としてオープン化の流れの中にあり、DRMによる囲い込みと独占の問題は、今後、知財政策上の課題になって行くだろうとも思うが、正当な競争性が保たれている市場における、囲い込みを前提としたビジネスモデルを、現時点で否定し去ることもまた間違っていると私は思っている。)

(2009年10月12日の追記:どうもコメントの書き込みがうまく行かないので、ここに返事を書いておきます。)

(2009年10月13日の追記:追記の返信コメントを削除して、そのまま普通のコメントに直した。)

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2008年6月26日 (木)

番外その13:欠陥放送規格ダビング10

 ダビング10の開始日時が7月4日の午前4時と確定したというニュースが流れている(AV watchの記事朝日新聞の記事参照)。権利者団体側が、補償金問題を切り離すという条件つきで譲歩したので開始と決まったようである。補償金問題を棚上げにして実施できるようであれば、ダビング10を実施してもらっても構わないのだが、このダビング10については書き足りないところもあるので、この機会に番外としてもう少しだけ書いておきたいと思う。

 第18回にも書いたような、ユーザーから見たときの機器の動作のわかりにくさという点だけではなく、このダビング10規格は、放送規格として非常にトリッキーに作られており、反対側から見てもテクニカルに危ういのではないかと私は危惧している。

 ダビング10の仕組みは、増田和夫氏の記事(日経トレンディの記事1記事2参照)に詳しいが、要するに、今の無料地上放送のコピーワンス信号を全てダビング10信号に読み替え、有料放送に新たにコピーワンスを示す信号を新たに付加するという方式で、放送局とメーカーはダビング10を実現しようとしているのだ。

 恐らく、放送局とメーカーのコスト負担の問題から、このような変則的な信号運用をすることになったのだろうと思うが、この場合、ある時間を境に同じ信号に対して異なる動作を機器にさせないといけないため、ダビング10への動作切り替えタイマーを放送波でセットすることが必須となる。そのためのファームウェアアップデート放送波が送出されている時に、完全に電源コードが抜かれ、録画機が起動不能となっていたりしたら、アップデートはなされないだろうし、メーカー・機種毎に、このアップデート放送波の送出時間が違うことも混乱の種となるだろう切り替えタイマーに機器内の時計を使っている場合、その時計をきちんとセットしていないとやはりまともに動作しないに違いない。メーカーも、ダビング10タイマーを機器に組み込んでいても、コピーワンスへ戻す機能は組み込んでいないだろうから、一旦ダビング10を開始した後に問題が起きて、元のコピーワンスに戻そうとしても、ほぼ不可能である。メーカーに頑張ってもらうしかない話だが、店頭在庫のダビング10セットをどうするかということもあるだろう。

 妥協の産物であり仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、このような規格は技術的にはほぼ欠陥規格と言っても差し支えない。技術と事情に詳しいユーザーは対応もできるし、まだ納得も行くだろうが、本当の一般ユーザーに、ダビング10対応のためにユーザー側でしなければならない作業や、メーカー・機種によっても対応時期が違うといったアンバランスがどこまで理解・納得されるかはなはだ心許ない。このような運用はユーザーフレンドリーとは言い難く、実施時に、かなりの混乱が生じるだろう。

 この6月24日に、権利者団体は、このダビング10譲歩で自分たちこそ消費者重視だと、メーカーを非難する記者会見を開いたようである(AV watchの記事internet watchの記事ITmediaの記事参照)。メーカーもメーカーだが、闇雲に自らの主張を繰り返し、役所を使って圧力をかけてきていたのは権利者団体も全く一緒であり、これはどっちもどっちだろう。大した利便性の向上もなく、社会的にそれほど大きなインパクトがあるとも思えないダビング10の実施を、コストの多くをメーカーと消費者に押しつけた上で認めて大きな譲歩をしたと言われても、消費者としては鼻白む思いがするだけである。

 ただ、ダビング10が本当のゴールでないという点だけは、私も全く同意する。総務省の情報通信審議会のデジタルコンテンツ委員会や、その上の情報政策部会などでも、消費者代表から、B-CASや補償金などに対するそもそもの疑問が提起されており(AV watchの記事ITmediaの記事参照)、地上デジタル放送のDRM・著作権に関する問題は、ダビング10程度の弥縫策でどうにかなる問題ではないことが、どこの場でも明らかになりつつある。

 ダビング10に関しては、実施してみなければ本当にどのような問題が発生するか、消費者・ユーザーが全体としてどう反応するかということは分からないが、補償金問題などを棚上げにして実施できるのであれば、混乱を最小限に抑えるよう、メーカーなどには周知と消費者対応をしっかりやってもらいたいと思う。何にせよ、私的録音録画補償金問題やB-CAS問題などの本当の大問題は全て棚上げ・先送りにされたのだ、先は長い。私は一ブロガーに過ぎないが、この問題については何年かかろうと追いかけつづけるつもりである。

 最後に、世界の著作権関連ニュースの紹介もしておくと、EUの著作権保護期間延長に関する検討も今特に大きく動いている様子はないが、欧州法学界の錚々たるメンバーが延長反対の意見をEUに送ったとのニュース(gulliの記事(ドイツ語))があった。

 また、どこまで真面目に考えているのかは分からないが、インターネットサービスプロバイダーに著作権侵害を監視させる規制をEUが考えているとする記事(techradar)もある。欧州が独仏政府を中心に著作権検閲をやりたがっているのはネットを見ていても伝わってくるのだが、著作権はそこまで強い権利ではないし、あってもならない。随時紹介して行きたいと思っているが、このようなEUの知財保護強化の動きは気をつけておく必要があるだろう。

 次回は、ネットユーザーを公的機関が監視・違法な著作物をやりとりしているユーザーに警告メールを送信・3度の違反でユーザーのネット切断を行うという、いわゆる3ストライクアウト法案が、先週フランスで閣議決定されたというニュースがあった(rue89の記事Le Pointの記事ZDnetの記事参照)ので、この動きについて紹介できればと思っている。

(6月29日の追記:匿名希望N様からのコメントを受け、上の文章に少し手を入れた。)

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2008年1月10日 (木)

第45回:私的複製の権利制限とDRM回避規制の関係

 DRM(Degital Right Management:技術的保護手段あるいは技術的制限手段)回避規制の現状については第36回にも書いたが、今回は特に、DRM規制と私的複製の権利制限との関係について書いておきたい。

 まず、話の前提となる平成11年のDRM回避機器規制の導入経緯から書き始めるが、著作権法にDRM回避規制を導入することを決めたのは、平成10年12月の「著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)報告書」であり、不正競争防止法にDRM回避機器規制を導入することを決めたのは、平成11年2月の「コンテンツ取引の安定化・活性化に向けた取り組みについて-産業構造審議会知的財産政策部会デジタルコンテンツ小委員会及び情報産業部会基本問題小委員会デジタルコンテンツ分科会合同会議報告書-」である。(行政に属する有識者会議の報告を元に法改正がなされるのは常に不可解でならないが、特に後者の探しづらさときたら何かの嫌がらせとしか思えない。)

 まず、文化庁の著作権審議会報告書でやはりポイントとなるのは第2章第5~6節の「規制の対象とすべき行為」と「規制の手段」のところであろう。特に私的複製の権利制限との関係については、第2章第5節4.の「権利制限規定との関係」で、以下のように整理されている。(赤線強調は私がつけたもの)

「(前略)このうち,私的使用のための複製については,次のように考えられ,技術的保護手段の回避を伴ってまで行われる複製についてはこれを適法な複製として認めることは適当ではないと考えられる。
  そもそも私的使用のための複製を認めている趣旨は,上記(a)に該当し,個人や家庭内のような範囲で行われる零細な複製であって,著作権者等の経済的利益を害しないという理由によるものと考えられる。一方,技術的保護手段が施されている著作物等については,その技術的保護手段により制限されている複製が不可能であるという前提で著作権者等が市場に提供しているものであり,技術的保護手段を回避することによりこのような前提が否定され,著作権者等が予期しない複製が自由に,かつ,社会全体として大量に行われることを可能にすることは,著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあると考えられるため,このような,回避を伴うという形態の複製までも,私的使用のための複製として認めることは適当ではないと考えられる。なお,現行著作権法においても,公衆用自動複製機器を用いて行う複製については,社会全体として大量の複製を可能ならしめ,著作権者等の経済的利益を著しく害する形態の複製であるとして,私的使用のための適法な複製から除外されているところである。一方,私的使用のための複製については,幅広い観点から,デジタル化・ネットワーク化の進展とそれに伴う著作物等の利用形態の変化をふまえ,権利者と利用者のバランスを考慮した全体的な見直しが必要であるとの意見,回避を伴う複製を規制することについてのコンセンサスが必ずしも社会一般に形成されているに至っていないとの意見等もあったところである。(後略)」

 さらに、第6節では、私的使用のための適法な複製から除外されている公衆用自動複製機器を用いた複製の場合と同じく、私的使用のための回避を伴う複製については刑事罰の対象としないことが適当としている。

 また、経産省(当時は通産省)の産業構造審議会の報告書では、C.3.の「法制化の具体的内容」で、以下のような整理を行っている。(赤線強調は私がつけたもの。)

「(1) 規制される行為
 
(i) 以下の行為を民事上の差止請求、損害賠償請求等の対象とすることが適当である。なお、刑事罰については、経済活動に対する過渡の萎縮効果を回避するとの観点から今回は導入しないこととし、必要最小限の規制にとどめるべきである。
- 取引の対象となる情報のコピー・アクセスを制限する技術の無効化を専らその機能とする機器及びプログラムを提供する行為(譲渡、展示、輸出入等)
 
(ii) 機器等の提供がそれぞれ多くの無効化行為を呼び起こしコンテンツ提供業者に大きな被害をもたらす蓋然性が高いのに比べ、一件一件の無効化行為自体は、互いに独立に行われ、その被害も限定的である。その一方で、個々の無効化行為を一件ずつ捕捉し、民事訴訟の対象とすることは困難である。このため、コンテンツの取引秩序の維持のための不正競争防止法による規制においては、機器等の提供等を対象とし、無効化行為そのものは対象としないことが適当である。
(無効化行為そのものについては、個々の事例に応じて民法上の違法性が評価されることとなる。)

(iii) なお、管理技術の試験又は研究は、新しい管理技術を用いたコンテンツ提供を促進する役割があることに鑑み、例外として取り扱うことが必要である。

(中略)

(4) 提供が禁止される機器等について

(i) 必要最小限度の規制を導入するという基本原則を踏まえ、規制の対象となる機器又はプログラムは、管理技術の無効化を専らその機能とするものとして提供され、無効化以外には用途が経済的・商業的に見て存在しないものに限定することが適切である。
 
(ii) 汎用の機器又はプログラムについては、規制の対象とすることは適当でないと考えられる。
 
(iii) 無効化以外に用途が存在しない機器及びプログラムを構成部分とする(注3)機器及びプログラムの提供行為については、専用装置の提供行為と同視し、不正競争行為として規制の対象とすべきものと考えられる。
 
(注3)「無効化機器・プログラムを構成部分とする」とは、その無効化機器・プログラムが専ら無効化機能を発揮するよう一体的に組み込まれていることを指す。
 
(iv) コピー管理又はアクセス管理のためにコンテンツに施されている信号を検知しない機器(いわゆる無反応機器)の問題については、「これらの機器(無反応機器)が規制されると、コンテンツ提供業者側が自らの利益確保のための信号を一方的に付することが許されるのに対して、機器の提供者側は、全てのコピー・アクセス機器が信号を検知しこれに従うよう措置するよう法的に強制されることとなり、バランスを欠くのではないか」との指摘があった。すなわち、無反応機器に対する規制をあえて行わず、結果として、例えばコンテンツ自体の暗号化のように、機器に追加的な機能を要求することなくコピー・アクセス管理を実現する管理技術が生き残ることを期待すべきだとする考え方である。これは、「今回の法規制導入に際しては、コンテンツ提供業者の十分な自助努力を前提とした取引の仕組みが醸成される環境作りを目指すべきである」との基本的な整理に立つものである。
 機器提供者側の過大な負担を避けて無反応機器を規制する方法として、法令に基づき管理技術を指定した上でその管理技術への対応を機器メーカーに強制するというやり方があるとの指摘がある。しかし、こうした方法は指定されていない技術の開発自体を事実上停止し、結果として管理技術の進歩を止めてしまう恐れがある
 こうした点を踏まえ、無反応機器に対する規制は行わないことが適当である。」

 この引用部分をちょっと読んだだけでも、役所の報告書が矛盾に満ちており、その矛盾を抱えたまま各省庁で法改正案が作られ、さらにはそれがそのまま国会に持ち込まれてなおまかり通るという日本の恐るべき現状が分かるはずである。

 まず、経産省の報告書では、個々のDRM回避行為自体には大した被害もない上、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難であるため、回避行為そのものは規制の対象としないとしているのにもかかわらず、文化庁の報告書では、DRMを回避して複製を行うことは、著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあると全く異なる判断をして、DRMを回避して行われる複製を私的複製の権利制限から除外しているのである。

 また、経産省の報告書では、管理技術の試験又は研究は、DRM回避規制の例外とするべきとしているが、何故か試験・研究のための権利制限は当時著作権法に入れられず、今なお存在していないので、DRMを回避して行われる著作物の複製は、例え本当に試験・研究目的だったとしても違法ということになってしまう。

 さらに、経産省の報告書では、DRM回避機器の販売等に刑事罰をつけるべきではないとされながら、著作権法ではあっさりと回避機器の販売等に刑事罰をつけてしまっている。

 当時の両省庁が何を考えていたのかは、今となっては良く分からないが、少なくとも、個々の行為による事業者・権利者への経済的不利益が限定的であり、一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難である場合には、民事による規制すらなされるべきではないという至極真っ当な考えは、経産省では通ったが、文化庁の理解するところではなかったことが良く分かる。そして、技術的な試験や研究が、事業者・権利者の利益を害するどころか、技術の発展を通じて社会全体を裨益するものだという考えも、これまた至極真っ当だと思うが、やはり何故か文化庁の理解するところではなかったのだろう。

 研究のために私的領域でDRM回避行為を行うことすら、著作権法では違法となるのであり、合法的に研究を行いたいと考えている真面目なDRM技術研究者たちは困っているだろう。著作権法のために技術の研究が困難になって良い訳がない。
 ある行為を私的複製の権利制限から除外しても、民事救済だけなら社会的に大した問題は発生しないから良いなどというのは嘘っぱちであることを示す明確な実例がここにあるのであって、そのようなおためごかしにだまされてはいけない。そもそも捕捉不可能な行為について民事のみにせよ規制をかけることは、遵法意識の高い善意者を萎縮させ、国民全体のモラルハザードを招くだけであることは、ここにも良く現れていることである。

 日本はフェアユース型ではなく、列挙型の権利制限を行っているにもかかわらず、国内での文化庁と権利者団体との癒着構造のために、時代に即した権利制限規定の導入が常になおざりにされ、私的複製の権利制限の中に全ての矛盾が押し込まれてしまっていることが、確実に今の私的複製の問題をややこしくしている要因の一つである。文化庁や権利者団体が常に持ち出す著作権国家ドイツやフランスですら、絶版著作物の私的複製を認めていたり、研究を例外としていたり、パロディを権利制限として認めていたりするのだが、彼らは決してこれらの点について触れない。こんな姑息かつお粗末なやり方で国民をだまし続けられるなどと考えている時点で、その文化レベルが知れる話であるが、権利制限が文化の発展に寄与することもあることをはっきりと認め、時代に即した権利制限の充実を真剣に考えないようでは、文化後進国と言われても仕方のない話である。(ドイツとフランスの権利制限については、ダウンロード違法化問題や補償金問題と絡む話として第13回第16回でも取り上げた。)

 すなわち、当時DRM回避規制を私的複製の権利制限に優先させるべきではなかったし、今も時代に即した権利制限規定の充実が望み薄である以上、優先させるべきでない状況であることに変わりはない。著作権法第30条第1項第2号は撤廃されるべきであると私は考える。

 今後、著作権法なり、不正競争防止法の規制なりにおいて刑事罰をさらにつけろとバカげた主張をまた著作権業界がしてくることも考えられるが、捕捉不可能な行為について刑事罰をかけることなどそれこそあり得ない話である。どんな薄っぺらな本でも構わないので、法律の基本書の一つも読んでから出直して来てもらいたい。

 さらに、DRM回避行為規制については、一般ユーザーにもDRMがかかっている状態とそうでない状態の区別がつくだけ、まだ多少は行為規範としての性格くらいは持ち得るかも知れないが、違法と合法の区別が最後まで外形的に判別不可能なダウンロード違法化は法制として完全に破綻していると、私は何度でも繰り返し言おう。

 なお、フリーオの登場で総務省で無反応機器の問題が再び取り上げられることだろうが、フリーオ問題については番外その6で書いたようにこれ以上の規制は無意味であり、無反応機器を規制すべきでないとした過去の整理を動かす理由は何一つない。
(経産省の報告書はそれなりに合理的だが、DRMの有効性の要件を規制に加えるべきかどうかという論点(省略部分に書かれている)で、第1に、法律で「管理する」といった場合、当然に「有効に」又は「効果的に」管理することを意味するので不要としながら、第2に、管理技術の日々の進歩によって「有効な」又は「効果的な」とする判断基準がかえって不明確・不安定となり、事業活動に悪影響を及ぼすおそれがあるため、不要としていることはこれだけで論理矛盾を起こしている。「管理する」が当然に「有効に」又は「効果的に」管理することを意味するとしたら、その瞬間、判断基準の曖昧さが出てくるということに何故気づかないのか。どこの省庁のものであれ、役人の書くペーパーは全て眉につばをつけて読むべきである。)

 ついでに、文化庁が教えてくれないだろう国際動向として、イギリスもフォーマットシフトやパロディを権利制限として認める方針であることを紹介するニュース記事(イギリスの記事ドイツの記事)と、フランスでは消費者団体が集まって行政裁判所に私的録音録画補償金に対する訴えを起こしたことを紹介するニュース記事(記事1記事2)とを、ここで紹介しておく。イギリスが権利制限を補償金制度とセットと考えていることはないようであるし、フランスでも補償金制度は消費者から完全に不当なものと見なされているのである。

 さて、政官が相次いで規制強化策を闇雲に打ち出していることに対しては今一度否と言っておかなければならないと思うので、本当に最近の政策動向にはうんざりさせられるが、次回は、規制の一般論について書いてみたいと思っている。

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2007年12月11日 (火)

第36回:著作権法の「技術的保護手段」と、不正競争防止法の「技術的制限手段」の回避規制(DVDやCCCDのリッピングはどう考えられるか)

 総務省のネットコンテンツ規制は、警察庁のインターネット・ホットラインセンターから、主導権を取り返したいという総務省の思惑があるのではないかという話を聞いた。
 私も不勉強で、人に言われるまで、このセンターの存在自体知らなかったが、このように有害無益な半官検閲センター(当然警察庁の天下り先だろう)は即刻潰されてしかるべきである。(単に通報だけなら、警察のメールアドレスでも一つ空けておけば済む話である。)してみると、警察庁と総務省との権限争いの結果、ロクでもない検閲機関が二つできるという最低最悪の可能性すら考えておかないといけない。

 とにかく自らの利権拡張を最優先事項として、国民の生活と安全を踏みにじることなど屁とも思わない官僚達が乗じる隙を与えてはならない。表現の自由、通信の秘密、検閲の禁止等々は、国民の生活と安全を支える最低限のライフラインである。これを逆転して、情報統制しなければ国民の生活と安全は守られないなどという、国民の判断力を見くびる傲慢な役人の論理に対しては、私は一国民として断固否と言う。

 世の中胸くその悪くなる話ばかりだが、今回は日本におけるDRM回避規制の話の続きとして、現行規定のまとめを書いておきたい。

(1)概要
 まず、著作権法では、著作権等を侵害する行為の防止又は抑止をする手段として技術的保護手段が規定されている(第2条第1項第20号)。
 また、私的使用を目的とする複製であっても、技術的保護手段の回避により可能となった複製を行うことは権利制限の例外とされる(第30条第1項第2号)。
 さらに、技術的保護手段の回避のための専用機能を有する装置・プログラムを公衆に譲渡等を行い、又は、公衆の求めに応じて業として技術的保護手段の回避を行った場合には、刑事罰が科せられる(第120条の2)。
 現行著作権法では、前回の定義に従うと、コピーコントロールは技術的保護手段に該当するが、アクセスコントロールは該当しない。

 一方、不正競争防止法では、「営業上用いられている技術的制限手段」の効果を妨げる機能を有する専用装置・プログラムの譲渡等を「不正競争」と規定し(第2条第1項第10号、第11号)、同行為に対する差止請求や損害賠償請求など民事的救済を定めている(第3条、第4条)。
 不正競争防止法では、アクセスコントロール、コピーコントロールのいずれも「技術的制限手段」の対象となる。なお、この「不正競争」については、民事的救済は可能であるが、刑事罰の適用はない。

(2)著作権法の条文
 さらに細かく見ていくと、現行の著作権法における「技術的保護手段」の「回避」に係る規制の範囲については、次の要件により対象が限定されている。
① 「技術的保護手段」の定義(著作権法第2条第1項第20号)
・「電磁的方法」により、
・著作権等を侵害する行為の防止又は抑止をする手段であって、
機器が特定の反応をする信号を、
音若しくは影像とともに、記録媒体に記録し、又は送信する方式
② 私的複製ではなく違法となる複製
(著作権法第30条第1項第2号)
技術的保護手段を回避(信号の除去又は改変)して行う複製
③ 罰則がかかる行為(著作権法第120条の2)
回避を行うことを専らその機能とする
・装置・プログラムの
譲渡、貸与、製造、輸入、所持、公衆への提供、公衆送信、送信可能化

 SCMS、CGMS、マクロビジョン方式といった、「機器が特定の反応をする信号」を付加する方式のコピーコントロールのみが著作権法でいうところの「技術的保護手段」に当たり、CSS、CAS等のアクセスコントロール機能のみの技術については著作権法の埒外であることに注意が必要である。
 
 したがって、著作権法でいうところの技術的保護手段がかかっている訳ではないCCCDのリッピングは違法ではない。また、CCCDのリッピングを可能とするような装置・プログラムの譲渡等についても無論違法ではない。

 しかし、DVDに関しては少し事情が違う。DVDのコピーを主に防いでいるのは、前に書いた通り、アクセスコントロールであるCSSだが、同時にDVDにはCGMSでコピーネバーとする信号も書き込まれている。
 そのため、DVDをPCでリッピングする行為はCGMSの仕組みとファイルアクセスが無関係であるために、技術的にはコピーコントロール信号の除去又は改変には当たらないのだが、本当に訴えられて裁判になった場合には、実質的に信号を除去又は改変しているに等しいといった認定により、違法とされる可能性も否定できない。複製禁止のDVDをCSSを解除してPCでリッピングする行為については、今のところ、著作権法上グレーと言わざるを得ない。ただし、刑罰のかかる話ではないので、単に違法である可能性が多少あるというに過ぎない。

(3)不正競争防止法の条文
 次に、現行の不正競争防止法における「技術的制限手段」の「回避」に係る規制の範囲については、次の要件により対象が限定されている。
① 「技術的制限手段」の定義(不正競争防止法第2条第7項)
・「電磁的方法」により、
・影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、
視聴等機器が特定の反応をする信号影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式
②不正競争(違法)行為1(不正競争防止法第2条第1項第10号、ただし11号該当は除外)
営業上用いられている
・技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置若しくは当該機能のみを有するプログラムを記録した記録媒体若しくは記憶した機器
譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為
③不正競争(違法)行為2(不正競争防止法第2条第1項第11号)
他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないため
・営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置若しくは当該機能のみを有するプログラムを記録した記録媒体若しくは記憶した機器
・当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為

 不正競争防止法の「技術的制限手段」においては、アクセスコントロールを排除していないため、「技術的制限手段」にはほとんど全てのコピーコントロール・アクセスコントロールが当てはまる。不正競争防止法は著作権法ではないため、技術的制限手段により保護されているものが著作物である必要はなく、ユーザーの複製行為そのものも問題にならず、アクセスコントロール・コピーコントロール回避機器・プログラムの譲渡等のみが規制の対象となることに注意が必要である。

 したがって、CCCDやDVDのリッピング行為自体は不正競争防止法で違法とされるものではない。さらに、CCCDにかけられているコピープロテクトは、技術的制限手段にも当たらないので、CCCDのリッピングを可能とするような回避専用機器・プログラムの譲渡等も違法にならない。
 しかし、例えばDVDのリッピングを可能とする機器・ソフトの譲渡、販売、輸入等は、不正競争法上明らかに違法であり、このような行為は、これにより営業上の利益を侵害された者から、損害賠償や差し止めの訴えを受けるリスクがある。ただし、DVDのリッピングソフト(機器)に関しては、ユーザーを直接訴えることが不可能である所為か、DVDのリッピングによる実害を証明できない所為か、販売店などへの警告だけで済んでいる所為かはよく分からないが、裁判になったという話を聞かないが、DVDのリッピングソフト・機器の販売が違法であることには違いないので、この不正競争防止法がDVDコピーをアングラなものとするのに一役買っているというのは正しいだろう。

 結局、上で書いたことをまとめておくと、CCCDのリッピング(コピー)は私的複製である限り何の問題もなく、またCCCDのプロテクトの解除機器・ソフトについても何ら規制がかかっているものではない、DVDのリッピング(コピー)は著作権法で私的複製の例外に該当しない可能性が少しあり、DVDのプロテクトであるCSSの解除機器・ソフトの譲渡や販売などは不正競争防止法で訴えられる可能性があるということである。

 今回は、今後の話をしていく上でどうしても前提となる、実にややこしい現行のDRM規制について自分なりのまとめしておきたかっただけで、特に目新しいことは書いていない。

 次は番外として、B-CASカードを使用したコピーワンス解除機器(friio:フリーオ)は取り締まれるかということを書いた後、途中また別な話を挟むかも知れないが、次々回くらいにユーザーから見てDRM規制はどうあるべきかという話をできればと思っている。

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2007年12月 3日 (月)

第32回:著作権保護技術(DRM:Digital Rights Management技術)の現状

 DRMに関する法規制についての話をする前に、今回はその前提となるDRM技術の現状について調べたことをまとめておきたいと思う。(今回からしばらくの内容については、平成18年1月の著作権文化会報告書や私的録音録画小委員会に提出されたJEITAの資料、HP「コピーガード情報へようこそ:コピーガードって何?」、wikipedia「コピーガード」などを参考にさせてもらった。)

 実際のところ、日本、欧州、アメリカのほとんどの国でDRM回避規制は著作権法(日本の場合は著作権法と不正競争防止法の両方)に入ってしまっているが、DRM技術自体は、法規制とはあまり関係なく、ほぼ、新しい保護技術の開発→クラッカーによる解除技術の開発→解除技術のカジュアル化→新しい保護技術の開発といういたちごっこのみによって動いている。(このことからして、そもそもDRMに関する法的規制の実効性について疑問に思うのだが、その話は次回以降に書くとしよう。)

 まず、DRM技術は大体コピーコントロールとアクセスコントロールに分けられるとされている。(映像を対象とするものと音楽を対象とするものと言った分け方もできるが、法規制の話をするときには、このような分け方にした方が良いので、このように分けておく。)

(1)コピーコントロール
 まずコピーコントロールは、主として、コピーを制御するためのフラグを出力信号に付加し、録音録画機器がこれに対応する動作をすることでコピー制御を行うものである。
 主なものには以下のようなものがある。

・SCMS(Serial Copy Management System):
 音楽CDからMDへのコピーに用いられている、デジタル方式の複製を一世代のみ可能とする技術である。MDにはこのSCMS信号を書き込むところがあるため、音楽CDからコピーされたMDからは、それ以上のコピーができない。
 そして、どうやら、著作権分科会 国際小委員会(第3回)議事録での委員の以下のような発言によると、このSCMSは通産省の行政指導により、まずDATに搭載されることになったものらしい。

「私が1つ記憶しているのは、大分昔になりますけれども、DAT、デジタル・オーディオ・テープレコーダーを売り出すときに、今で言うDRM、コピープロテクションをどうするかが非常に問題になり、権利者と業界でもめ続けて、いつまでたってもDATを売り出すことができないという状況になって非常に困ったことがあります。
 そのときに、多分、見るに見かねてと思うのですが、経済産業省、当時の通産省が中に入り、最後は局長名のお手紙が出ました。日本の主要な家電メーカーに対してです。要するに行政指導です。日本においてオーディオ機器を今後発売するためには、SCMSを搭載することを推奨するという内容のレターが出ました。それを受けたメーカーはSCMSを搭載しない限り、物はつくらない、売らないということになったというのが、私が理解している事実であります。」

 しかし、この発言通りのことがあったとすると、これは実に奇妙な行政指導である。当時、既に他の録音機器もあり、私的複製の権利制限がなかったという訳でもないであろうから、メーカーがDATを販売するのに際して、役所や権利者の許可がないと売れなかったということが私には理解できない。今のインターネットに対する嫌悪感と同じく、デジタル複製に対する権利者の嫌悪感が当時先に立ったのかも知れないが、今から思えばバカバカしい話である。
 以下で述べるアクセスコントロールと組み合わせた技術ではないので、SCMSを破ることは容易だろうが、CDからMP3データへの直接録音が可能となってしまっている現在、MDからの再コピーに需要はなく、わざわざSCMS破りをしている者はほとんどいないのではないかと思われる。(なお、SCMSはデータを受ける側の録音機器のみで対応するため、CDからのMP3データへの直接録音はSCMSを回避していることにはならない。)

・CGMS(Copy Generation Management System):
 DVHSやDVDレコーダーなどに用いられている、出力信号にコピー制御信号を付加することで、デジタル複製を「複製禁止」、「一世代のみ複製可能」、「複製自由」の3通りに抑制する技術である。
 出力がCGMSで複製禁止にされている場合、デジタル機器(DVHSやDVDレコーダなど)で録画しようとしても、自動的に停止するなどして録画できないが、VHSなどのアナログ機器は影響を受けない。(地上デジタル放送でもコピーワンスの維持のためにアナログ出力などにこのCGMSが使われている。)

 このCGMSはそもそも暗号化できないアナログ信号に信号を付加しているだけなので、解除は比較的容易である。(それなりに知識があれば、自分でコピー制御信号を除去する回路などを組めるだろうし、アングラなものとなるが、コピー信号除去機器を比較的容易に手に入れることもできる。)しかし、回避機器がアングラなものとなっていることもあり、比較的技術的なことに詳しいユーザーが手を出しているくらいだろう。

 何にせよ、このように初期の規格でコピー制御信号をこの3種類としてしまったことが後々まで響いていて、結局過去との互換性を問題にする限り、これ以外のコピー制御はやりようがない。そのため、コピーワンスの検討で出てきた「ダビング10」も実にトリッキーな規格となっている。つまり、アナログ出力のデジタルコピーについては「一世代のみ複製可能」とせざるを得ず、オリジナルコピーがHDDにある限り、アナログ出力のデジタルコピーはいくつでもできるようにせざるを得なくなっているのである。

 なお、どうしてCGMSがほぼ全ての録画機器に搭載されているのかの理由はよく分からなかった。行政指導があったという情報も探し出せなかったので、コンテンツ業界とメーカーの間の自主規制なのだろう。

・マクロビジョン:
 マクロビジョンは、映画のビデオテープなどに用いられ、複製をしても鑑賞に堪えられないような乱れた画像とする技術であるが、原理的には録画時の明るさを自動調整する機能を誤動作させる信号を出力信号に付加するものなので、これも信号付加型のコピーコントロールの一種であると考えて良いだろう。(法律との関係は次回に。)
 このマクロビジョンもアナログ信号の話なので、解除は比較的容易であるが、やはり回避機器がアングラなものとなっているので、技術的なことに詳しいユーザーしか手を出していないだろう。

(2)アクセスコントロール(コピーコントロールとの組み合わせも含む)
 アクセスコントロールとは、要するにスクランブルのことで、データの暗号化によって、特定の者・機器以外のアクセスを妨げるものである。

 機器の汎用化が進み、ユーザーが直接コピー制御信号へアクセスしてその書き換えをできるようになった時点でそのコピー制御信号は意味がなくなるので、結局、コピーを制御するためには、暗号化によってデータ(コピー制御信号)そのものへのアクセスをコントロールするしかない。(いたちごっこの話なので、ここでいくらモラルを言っても始まらない。)
 主なものには以下のようなものがある。

・CSS(Content Scramble System):
 DVDに用いられているもので、ファイルデータを暗号化(スクランブル)し、ディスクに付いている暗号鍵を用いてスクランブルを解かない限り、再生できないようにしている技術である。
 DVDのディスクをPCで覗いてみれば、いくつかのファイルがあることが分かると思う。いくらCGMSで複製不可としたところで、ビデオ出力でないファイルアクセスには関係ないので、その信号毎ファイルをコピーされてしまったら意味がない。そのため、DVDのディスクには全て別の暗号鍵がついていて、ファイルはコピーできるが暗号鍵はコピーできないような仕組みになっており、DVDのファイルをそのまま他のDVDに焼いても正しい映像は見られないようになっている。

 しかし、DVDに書き込まれている暗号鍵を使って暗号を解除するソフトが既に開発され出回ってしまっていることも事実であり、CSSはもはや実質的にコピーガードの用をなしていない。それでも、ヘビーユーザーはさておき、映像の繰り返し視聴に対するニーズが低いこと、DVDの大容量性からデュプリケーションのかなりの手間がかかること、DVDの複製に対してそもそも心理的抵抗感があることから、多くの一般ユーザーはわざわざアングラなソフトをダウンロードして複製をしたりするより、DVDをレンタルする方を選んでいるのではないかと思われる。

・B-CAS(BS-Conditional Access System):
 B-CASは、その名にBSを冠していることからも分かるように、そもそもBSの有料放送のために採用されたものであった。
 有料放送では、料金を払った者のみに視聴を許すということをしなければならないため、当然のことながら、カードでユーザーを特定して料金を支払わない者の視聴を止めるということをしなければならない。カードを差せる条件として、機器のDRMの挙動も強制できるが、B-CASの本来の機能から考えると、それはどちらかと言えばついでの機能である。(これが大した検討されずに日本の全テレビに入ることにされてしまったことが今のコピーワンス問題の発端であり原因である。)
 結局、このB-CASシステムによるコピー制御もB-CASカードそのものを用いたコピー制限解除機器(friio:フリーオ)の登場によって破られてしまった。

・CPRM(Content Protection for Recordable Media):
 CSSはディスクの暗号鍵のみを使ってデータを解除していたため、一旦破られると対処のしようがなくなったが、CPRMではさらに複数の鍵を組み合わせ、機器の認証も行うことで、暗号を強固なものとするとともに、破られたときの対処も可能としている。
 B-CASカードで解除されたコンテンツは、このCPRM対応のディスクにのみ書き込み可能とされており、CPRMはコピーワンスの一翼を担っている技術でもある
 既に破られたとの報告もあり、コンテンツ業界とメーカーが対策を講じるのではないかとも思われる。しかし、この対処は暗号解除に使われる不正な機器の暗号鍵を使えなくするというもので、正規の機器から暗号鍵が漏れている場合、その機器でも録画ができなくなってしまう。その対応コストを考えると、この対策自体かなり非現実的なものだろうが、コンテンツ業界とメーカーがどうしてくるかは分からないので注意が必要である。

・AACS(Advanced Access Content System):
 Blu-rayやHD-DVDに採用されている技術で、さらに鍵の数が増え、暗号自体も強固になっている。
 HD-DVDの一部のソフトで解除されたとの報告もあったが、既にその対策も取られており、まだ当分、AACSについてはいたちごっこが続くのではないかと思われる。

 また、iTunesに使用されているFair Playや、Windows Media Player DRMも、アクセスコントロールとコピーコントロールを組み合わせてそれぞれのDRMを実現しているものと思われる。

(4)その他
 CCCDについて文句を書き出せば切りはないが、コピーして行ったときにエラーとなるデータセクタを挿入したりするものなので、上の定義でいうところのコピーコントロールにもアクセスコントロールにも当たらないものと思われる。(PCソフトのROMに使われている技術や、DVD-VideoにCSSに加えてかかっている各種コピーガードも、原理的にはCCCDに近く、コピーコントロールにもアクセスコントロールにも当たらないものが多いと思われる。)

 DRM技術はここにあげただけではないが、書いていくと切りがないので、これくらいにしておく。

 DRMはクラックされる度に騒がれはするが、基本的には新しい技術への書き換えによってクラッカーへの対策はなされるしかなく、結局、一般ユーザーはDRMのクラッキングの騒ぎを横目に見ながら、法規制がどうあれ、自分のモラルで私的複製を行っており、それでほとんど問題は生じていないというのが現状であろう。

 DRMは、常に存在する悪意ユーザーを縛れず、善意の一般ユーザーを縛るのみであるということを忘れてはならない。はっきり言って、いっそのことDRMなんか全て無くして、その開発費で、DRMを無くしたので買って下さいというキャンペーンをした方がよっぽどコンテンツ業界の利益は最大化されるのではないかと私は思っているのだが、まだそこまで状況が煮詰まっている訳でもないので、しばらくはいたちごっこが続くのだろう。

 なお、特に言っておくと、録音機器の登場以降、音楽に関しては、複製を認めないあるいは複製を厳しく制限するフォーマットはほとんど全て成功していない。これはCCCDに欠陥があるとかそういう問題ではなく、単に、新しい録音機器の登場によって、音楽を聞く環境が変わり、レコードやCDなどが、ほとんど複製可能な音源としての意味しか持たなくなったためであると思われる。それに対して、映像のプレースシフト需要は小さかったため、DVDへのCSS採用はそれほど問題にならなかったのだろう。
 要するに、音楽録音の場合はプレースシフト需要が、放送録画の場合はタイムシフト需要が、それぞれの機器と媒体の消費の決定要因となっているに過ぎない。(だからこそ、泥棒理論には気をつけないといけない。)

 しかし、少なくとも、CCCDのように消費者が選択によりノーと言えるものはまだ良いのだが、無料の地上デジタル放送でのコピーワンスのように選択の余地なく押しつけられるものが極めてタチが悪いDRMであることは言うまでもない。(地デジに対する消費者の選択肢は、見るか見ないかしかないので、もう地デジは見ないと考えている層もかなりいるに違いない。)

 さて、このようなことを前提に、次回は、著作権法と不正競争防止法のそれぞれで、DRMに関する規定がどうなっているのかを見て行きたいと思う。

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