2016年12月28日 (水)

第372回:2016年の終わりに

 トランプ氏のアメリカ大統領選挙当選の結果発効の見込みが全く立っていないことが不幸中の幸いとは言え、日本の国会で極めて問題の多いTPP協定と関連法案が可決されるなど今年もおよそロクでもない年だったが、今日で各省庁も休みに入り、年内のイベントは一通り終わったと思うので、ここで、今まで取り上げる暇があまりなかった細かな話をまとめて書いておきたいと思う。

 まず、知財本部では、10月から検証・評価・企画委員会が開催されており、今のところほぼ今までの取り組みのフォローアップをしているだけで何か新しい方向性が出ているということはないが、産業財産権分野、コンテンツ分野、新たな情報財検討委員会と3つに分かれて検討が進められている。この中では、新たな情報財検討委員会がAI(人工知能)の作成・保護・利活用の在り方を検討しているようだが、例によって具体的に何をどうしたいのかいまいち良く分からない。

 次に文化庁では、例年通り文化審議会著作権分科会の下で、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会法制・基本問題小委員会新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム国際小委員会が開催されている。茂木和洋氏が最近の検討資料を氏のサイトに上げて下さっているが、私的録音録画補償金制度に関しては関係者の意見が対立したままで、一般的な権利制限規定(フェアユース)の導入には否定的と文化庁の検討は相変わらず全く期待できない状況である。さらに、まだかなり整理が必要だろうと思うが、法制・基本問題小委員会でリーチサイト対策についての検討が進められていることも要注意だろう。

 特許庁では、産業構造審議会知的財産分科会の下で、審査基準に関する検討なども行われているが、法制度に絡むものとして特許制度小委員会商標制度小委員会が開催されている。このうち7月に開催されていた商標制度小委員会の方ではすぐに法改正をするような話にはなっていないようだが、特許制度小委員会の方では知財計画2016(第363回参照)を受けて知財紛争処理システムの在り方に関する検討が行われている。

 また、経産省では、営業秘密の保護・活用に関する小委員会も開催されているが、これもまた資料を見ても何をどうしたいのか良く分からない。

 農水省では、種苗分科会が開催されているが、農水省関連としてはそのHPに書かれている通り、TPP関連法として成立した地理的表示保護法の改正法が既に施行されていることに注意が必要だろう。(無論改正法の他の部分はTPP協定の発効と結びついているので施行されていないが。)

 最後に、総務省では、知財とは直接関係がないが、放送を巡る諸課題に関する検討会放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会が開催されており、放送番組のネット同時配信の検討が行われている。

 TPP協定と関連法が国会を通った上、いつも通り各省庁は何のためか良く分からない検討のための検討をこぞって繰り広げており、来年も良い年にはなりそうもないが、だからと言って諦めるつもりもない。政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を。そして、この拙いブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

(2017年1月11日の追記:特許庁のHPに資料が掲載されているが、昨日10日に意匠制度小委員会も開催されていたようである。意匠分野における優先権書類の電子的交換の仕組みの導入などそれなりに実務的に重要な検討もしているようだが、資料を見る限り、意匠法について大きな法改正が今すぐ動きそうな様子ではない。)

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2016年2月11日 (木)

第357回:文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会の文化庁資料から見るTPP対応著作権法改正案の方向性

 昨日2月10日に文化庁で文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会が開催され、TPP対応のための著作権法改正についての議論が行われた。(NHKの記事、Togetterの審議実況まとめ参照。)

 文化庁のHPにはまだ資料は掲載されていないが、茂木和洋氏がサイトに上げてくれている文化庁資料の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等について(案)(pdf)には、①著作物等の保護期問の延長、②著作権等侵害罪の一部非親告罪化、③著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール)に関する制度整備、④配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与、⑤「法定の損害賠償」又は「追加的損害賠償」に係る制度整備の5つの法改正事項の内容が書かれ、合わせて施行期日についても書かれており、法改正案の条文そのものではないが、これは今までの資料の中では一番詳細なものなので、ここでもその方向性を見ておきたいと思う。

(1)著作権の保護期間延長
 順に見て行くと、まず、第2節の「著作物等の保護期間の延長」では、第8ページに、

 著作物等の保護期間の延長に当たっては、延長の対象となる著作物を著作者の死後50年又は公表後50年の経過以前に著作権登録がされたものに限ることや、これから創作される著作物あるいは現在存命の著作者による著作物に限ること、また、少なくとも大正12年以前の著作物についてはすべてについて、昭和20年以前の著作物については登録の申請がなければ、当該著作物を公有とすることや図書館における著作物利用について保護期間の例外を設けることなど、著作物の保護期間を延長する際の制度設計について、本小委員会における意見聴取の場において関係団体より意見が出された。
 保護期間の延長を行うべき対象として、改正時に著作権が存続するにも関わらずそのうち延長の対象とするものを一定の年以降に創作されたものに限定することや著作者の生死により区別することはTPP協定上許容されないものと考えられる。また、延長の対象を著作権登録がなされている著作物に限定することは、TPP協定や我が国がすでに締結している文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(以下「ベルヌ条約」という。)との関係上困難であると考えられる。また特定の利用目的や利用主体を対象とした著作物等の利用円滑化方策については、保護期間における取扱いではなく、権利制限規定において検討されるべき事項であり、今後の必要に応じて検討を行うことにより対応すべきである。以上のことから、保護期間の延長に当たっては、これらの限定を付すことなく、保護期間内にある著作物について一律にその保護期間を延長することとすることが適当である。

と書かれている通り、特に限定もなく保護期間の70年への延長を是認している。

 ただし、第6〜8ページで、「視聴覚的実演についても音の実演と同様に延長の対象とし、保護期間を実演後70年とすることが適当」、「映画の著作物の保護期間をTPP協定上の義務を超えて延長することの要否及びその在り方については、国際的動向や他の著作物とのバランス、映画の著作物の利用状況等を踏まえて、改めて検討することが適当」、「放送事業者等の権利の保護期間を延長することの要否及びその在り方については、国際的動向や放送の利用状況等を踏まえて、改めて検討することが適当」とされているので、法改正案の方向性としては、ほぼTPP協定の要件通り、実演についても保護期間が延長されるが、映画と放送についてまでは延長されないという整理のようである。

(2)著作権侵害の非親告罪化
 次に、第3節の「著作権等侵害罪の一部非親告罪化」では、「著作権等侵害罪の非親告罪化については、一律に非親告罪化するのではなく、著作権等侵害罪のうちいわゆる海賊行為(著作物等の市場と競合する海賊版による侵害行為)のように、被害法益が大きく、また、著作権者等が提供又は提示する著作物等の市場と競合するため著作権者等の事後追認等により適法化されることが通常想定できない罪質が重い行為態様によるものについて、非親告罪とすることが適当」(第12ページ)とされ、さらに、第13〜14ページで、

 TPP協定においては、非親告罪の対象とすべき範囲が、「故意により商業的規模で行われる」侵害行為に限定されており、また、「商業的規模で行われる」行為には、少なくとも「商業上の利益又は金銭上の利得のために行われる行為」及び「商業上の利益又は金銭上の利得のために行われるものではない重大な行為であって、市場との関連において当該著作権者等の利益に実質的かつ有害な影響を及ぼすもの」が含まれるとされている。非親告罪とすべき範囲は、この趣旨を踏まえ、一定の目的をもって行われた悪質な著作権等侵害行為に限定することが適当である。
 具体的には、侵害者が、侵害行為の対価として利益を受ける目的を有している場合や、著作権者等の利益を害する目的を有している場合であることを要件とすることが考えられる。

 また、TPP協定において、非親告罪とする範囲を、「市場における著作物等の利用のための権利者の能力に影響を与える場合」に限定することができるとされている趣旨を踏まえ、非親告罪の対象とすべき著作権等侵害罪を、著作権者等の著作物等の提供又は提示に係る市場と競合する場合に限定することが適切である。換言すれば、市販されている漫画や小説を基に二次創作作品を作成する等、著作権者等の著作物等の提供又は提示に係る市場と競合しない行為態様については非親告罪の対象外とすることが適切である。
 具体的には、まず、侵害される著作物等は、現に市場において権利者により有償で提供又は提示されている著作物等であることを要件とすることが適当であると考えられる。この点に関しては、関係団体からの意見聴取においても、侵害の対象を既に市販している作品等に限定するべきであるとの意見が示されている。
 また、原作のまま、すなわち著作物等に改変を加えずに著作物等を利用する侵害行為であることを要件とすることが考えられる。加えて、著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合であることを要件とすることが考えられる。なお、権利者の利益が不当に害されることとなるか否かの判断は、著作物等の種類や用途、侵害行為の態様、正規品の提供又は提示の態様など様々な事情を総合的に勘案して、正規品の販売市場との競合性があるか否かによって判断することが適当であると考えられる。この点に関して、関係団体からの意見聴取においても、非親告罪化の対象を海賊行為に限るため「原作のまま」の用語を用いたり、原著作物の市場での収益性に重大な影響がある場合のみに対象を限定したりすべきであるとの意見が示されたところである。
 非親告罪の範囲については、上記の3つの要件を設けることにより、市販されている作品等に対する海賊行為を非親告罪の対象となる一方で、二次創作行為については、原作のまま著作物等を利用する行為に該当せず、また権利者の利益が不当に害されることとなる場合に該当しないため、非親告罪の対象とならないこととなる。

と書かれているので、かなりの限定が加えられそうな様子であるが、対象となる支分権の範囲は複製権侵害だけではなく、「譲渡権侵害や公衆送信権侵害についても非親告罪の対象とすることが適切」(第15ページ)とされ、権利者の範囲についても、「視聴覚的実演に係る実演家の権利、放送事業者及び有線放送事業者の権利を侵害する行為のうち、権利者へ及ぼす被害が大きく、悪質な権利侵害については、他の権利侵害の場合と同様に非親告罪化の対象とすることが適切」(第16ページ)とされている。

(3)アクセスコントロール回避規制
 第4節の「著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール)に関する制度整備」では、「アクセスコントロールにより確保される著作権者等の利益は基本的に著作権法による保護の対象とすべきものと評価し、当該手段の回避行為及び回避機器の流通等に一定の救済を認めることが適切」(第20ページ)とされ、さらに、第21ページで、

 一方、アクセスコントロールを回避する行為については、支分権該当行為ではないものの、多くの場合、回避行為そのものがアクセスコントロールにより著作権者等が確保しようとする対価の回収を困難とする点において著作権者等の保護されるべき経済的利益を直接害する行為であると評価できることに加えて、回避後に行われる視聴行為等は支分権該当行為ではない。このため、権利者の利益を保護するため、回避行為に対して民事上の権利行使が可能となるよう、これを保護の対象とすることが適当である。その方法としては、例えばみなし侵害(第113条)の形で保護することが考えられる。制度設計にあたっては、前述のとおり、国民の情報アクセスや表現の自由との均衡に配慮した制度とすることが適当である。

 次に、技術的保護手段の回避に使用される装置等を流通させる行為や公衆の求めに応じて反復継続してこれを回避する行為については、権利侵害につながる準備的行為として著作権者等の利益を害するものと評価できるため、罰則の対象となっているところである(第120条の2)。アクセスコントロールについても、回避行為を保護の対象とする場合は、同様の趣旨が妥当することとなるため、同様に刑事罰の対象とするのが適切である。

 なお、アクセスコントロールの回避行為に対して刑事罰を科すことについては、回避行為は支分権該当行為ではなく、それと同視できるほどの重大性はないと評価されること、当該回避行為の多くが個人で私的に行われるものであることが想定されるところ国民の情報アクセスや表現の自由との均衡を図る必要があること、及び回避装置の流通行為等を別途刑事罰の対象とすることで著作権者等の利益保護が図られることを踏まえ、慎重であるべきである。

と書かれている通り、著作権法においてアクセスコントロール回避規制を導入するべきとしている。

 ただし、例外について、「権利者に不当な不利益を及ぼさない形で行われる回避行為が広く例外規定の対象となり得るような制度設計とすることが適当」(第22ページ)と書かれ、アクセスコントロール規制に対して広めの例外を設けるべきともされている。

(4)配信音源の二次利用に対する使用料請求権の付与
 これは非常にマニアックな話なので、細かな所までは引かないが、第5節の「配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与」において、「配信音源の二次使用について、商業用レコードの場合(第95条第1項及び第97条第1項)と同様に使用料請求権を付与することが適当」(第25ページ)と書かれている。

(5)法定損害賠償
 第6節の「『法定の損害賠償』又は『追加的損害賠償』」では、「今回の制度整備においては、TPP協定の求める趣旨をより適切に反映する観点から、第114条第3項等の現行規定に加えて、填補賠償原則等の枠内で、実際に生じる損害との関係について合理的に説明が可能な額を法定する規定を別途設けることが適当」(第32ページ)とされ、さらに、第32〜33ページで、

 この点、第114条第3項は、「権利の行使につき受けるべき額に相当する額」(使用料相当額)を権利者が損害額として請求することができるとされている。この使用料相当額の算定方法は基本的には個々の事案に応じて異なり得るものであるが、侵害された権利が著作権等管理事業者によって管理されているものである場合は、当該著作権等管理事業者の定める使用料規程がその算定根拠として広く用いられており、基本的に当該規程により算出した額が同項の使用料相当額として認定されている。このような運用がなされている理由としては、著作権等管理事業者の使用料規程は、著作権等管理事業法に則って定められたものであり、実際に当該事業者に権利が委託されている著作物の利用について許諾する際に受けるべき額を示すものであること、及び使用料規程を定めるに当たっての一定の手続が同法上定められていること等が勘案されているためであると考えられる。
 しかし、その点につき同項においては明文上の定めはなく、使用料規程により算出した額を同項の使用料相当額として請求可能であるのか否かは必ずしも明確ではない。また、使用料規程において適用可能な規定が複数存在する場合、いずれの規定を用いて算出した額を同項の使用料相当額として請求できるのかについても明らかではない。

 このような状況に鑑み、また、使用料規程により算出された額は基本的に「権利の行使につき受けるべき額」に相当するものであること、すなわち、当該額は実際に生じる損害との関係について合理的に説明が可能な額であると評価できることを踏まえ、著作権等管理事業者の管理する権利について同項の規定による請求を行う場合においては、当該著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を同項の使用料相当額として請求することができる旨を法律上明記することが適当である。また、この場合において、使用料規程のうち適用可能な規定が複数存在する場合は、算出された使用料額のうち最大のものを請求することができることとすることが適当である。

と書かれており、アメリカなどがこのような法改正で納得するかは良く分からないものの、法定損害賠償については、実質的に現行の損害額推定規定の範囲内で対処するという方向性になっている。

(6)施行期日
 第7節の「施行期日について」では、「TPP協定の締結に向けた制度整備については、既に検討した国内的な制度整備の必要性に加え、これらの事項が国際的な制度標準となることも考慮すべきであること、また、本小委員会における意見聴取においても、利用者団体より、制度整備がTPP協定の発効に先立ち施行されることに強い懸念が表明されていること等を踏まえれば、これらの事項の制度整備を行う改正法の施行については、TPP協定の発効とあわせて実施することが適切である。」(第35ページ)と、さすがに海賊版対策条約(ACTA)の醜態を踏まえたのか、改正法の施行はTPP協定の発効と合わせることが書かれている。

(7)その他(柔軟性の高い権利制限規定)
 また、同資料の第36ページに、「TPP協定を契機としていわゆる『柔軟性の高い権利制限規定』の導入を求める声が関係団体から複数寄せられたところであるが、これに関連して、新産業創出環境の形成をはじめとするデジタル・ネットワークの発達に対応した権利制限規定の見直しについて、昨年本小委員会に設置した『新たな時代のニーズに対応した制度等の整備に関するワーキングチーム』において検討が進められている。同ワーキングチームにおいては、文化庁の行った著作物等の利用円滑化に関するニーズの募集に寄せられた広範なニーズを基に整理された課題の解決に向けた検討が始められているところであり、引き続き着実に検討を進めることが期待される。」と、柔軟性の高い権利制限規定についての記載もあるが、検討を進めているのが文化庁という時点で正直あまり期待は持てない。

(8)法改正事項の内容のまとめ
 資料に書かれた上の法改正事項の内容をまとめると次のようになるだろう。

保護期間延長
 著作物と実演について保護期間を70年に延長、ただし、映画と放送については延長せず

非親告罪化
 侵害者が、侵害行為の対価として利益を受ける又は著作権者等の利益を害する目的で、現に市場において権利者により有償で提供又は提示されている著作物等を、改変を加えず利用する侵害行為について、かつ、著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合について非親告罪化

アクセスコントロール回避規制
 著作権法第113条のみなし侵害規定の改正によりアクセスコントロール回避行為に対して民事上の権利行使を可能とし、合わせてアクセスコントロール回避に使用される装置等を流通させる行為や公衆の求めに応じて反復継続してこれを回避する行為に刑事罰を付加、ただし、アクセスコントロールの回避行為そのものは刑事罰の対象とせず、権利者に不当な不利益を及ぼさない形で行われる回避行為を例外とする

配信音源の二次利用に対する使用料請求権の付与
 商業用レコードの場合と同様に配信音源の二次使用について使用料請求権を付与

法定損害賠償
 使用料相当額を損害額と推定する著作権法第114条第3項において、著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を使用料相当額として請求できることを明記、また、適用可能な規定が複数存在する場合は算出された使用料額のうち最大のものを請求できることとする

 これらの内、多くの限定が入った非親告罪化と実質的に現行法の枠内で対処することとされている法定賠償については悪影響がかなり低減されると思われ、法改正の施行をTPP発効と合わせるとしたことで国内改正まで行ったにもかかわらずいまだに日本しか批准していないACTAの二の舞は最低限避けられると思われるものの、全ての法改正事項についてACTAの時同様結論ありきで、全てTPP批准のためという以外にほとんど法改正の理由はないと言って良く、このような方向性の法改正案は極めて大きな問題を含むものである。前に書いた通り、恐らくもはや政府に対して意見を提出する機会はなく、次の舞台は国会における審議になるのではないかと思っているが、このような大きな問題を含む著作権法改正案、TPP関連法改正案が国会を通らないことを、TPP協定の批准、発効がなされないことを私は心の底から願っている。

(2016年2月22日夜の追記:文化庁のHPに2月10日の法制・基本問題小委員会の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等について(案)(pdf)が掲載されているので、念のため、ここにリンクを張っておく。)

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2015年12月29日 (火)

第355回:2015年の終わりに

 国会は閉会中、役所も正月休みに入り、年内に何か政策的に新しいことが言い出されるということはもうないだろうと思うので、今年も最後にマイナーなことも含め国内の動向についてまとめて書いておきたいと思う。

 まず、知財本部では、知的財産推進計画2016策定に向けた検討が始まっており、検証・評価・企画委員会の下の知財紛争処理システム検討委員会と次世代知財システム検討委員会でそれぞれ知財訴訟制度と自動集積されるデータベースの取り扱いなどに関する検討が進められているが、政策的にはっきりとした方向性はまだ出されていない。第338回で書いた通り、最も気になっているのは、次世代知財システム検討委員会で来年2月に検討される予定の国境を越えるインターネット上の知財侵害への対応についてだが、委員会メンバーはそこまで偏った構成になっておらず、ここでそう変な結論を出して来ることは恐らくないのではないかと踏んでいるがどうだろうか。

 次に、特許庁では、産業構造審議会知的財産分科会の特許制度小委員会や審査基準ワーキンググループ(特許意匠商標)などが開催されており、経産省では、営業秘密の保護・活用に関する小委員会が開催されているが、いずれも地道な法改正のフォローアップや基準の改訂に関する話ばかりで、文化庁と違って、TPPに絡む特許法改正に関する審議会での検討はされていない。(両方ともマニアックなものなので内容の説明は省略するが、それぞれ1月9日と1月19日〆切で、特許庁から、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令案に対する意見募集産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会報告書「画像デザインの保護の在り方について」(案)に対する意見募集の2つのパブコメが出されているので、念のためここでもリンクを張っておく。)

 また、農林水産省は、その初回登録に関するリリースにある通り、地理的表示の登録を開始している。

 そして、文化庁では、分化審議会著作権分科会の下で、TPP対応に関することを検討していた法制・基本問題小委員会の他にも、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームなども開かれているが、例によって利害関係者の間の意見の隔たりは大きく、現時点でどうともなっていない。

 TPPに絡む法改正については、文化庁、知財本部の検討を経て、TPP総合対策本部の11月25日のTPP関連政策大綱(pdf)において、「Ⅱ TPP関連政策の目標/3 分野別施策展開/(3)知的財産」で、

 TPP協定の締結に必要な国内実施のため、国内法との整合性に留意しつつ、必要な措置を講ずる。また、TPPを契機として、輸出促進に向けた地理的表示(GI)等に関する措置を講ずる。

①特許・商標関係
○不合理な遅延に係る特許権期間延長、特許の新規性喪失例外期間の延長、商標不正使用に対する民法の原則を踏まえた法定の損害賠償制度等に関し、所要の措置を講ずる。
〇地域中小企業等の知財戦略の強化や、特許審査体制の整備・強化を図る。
〇TPP協定実施のための制度の整備状況等を踏まえつつ、知財紛争処理システムの一層の機能強化のための総合的な検討を進める。

②著作権関係
○著作物等の保護期間の延長、著作権等侵害罪の一部非親告罪化、著作権等侵害に対する民法の原則を踏まえた法定の損害賠償制度等に関し、所要の措置を講ずる。その際、権利の保護と利用とのバランスに留意し、特に、著作権等侵害罪の一部非親告罪化については、二次創作への委縮効果等を生じないよう、対象範囲を適切に限定する。
○著作物等の利用円滑化のため、権利者不明等の場合の裁定制度の改善を速やかに行うとともに、社会的諸課題への対応、柔軟性の高い権利制限規定、円滑なライセンシング体制の整備等に関する検討を進める。

と、「Ⅳ 政策大綱実現に向けた主要施策/3 分野別施策展開/(3)知的財産」で、

○地理的表示の相互保護制度整備による農林水産物の輸出促進等
(我が国の地理的表示(GI)の海外での保護を通じた農林水産物の輸出促進を図るための諸外国と相互にGIを保護できる制度整備)

①特許・商標関係
○特許・商標関係の制度整備
(不合理な遅延に係る特許権期間延長、特許の新規性喪失例外期間の延長、商標不正使用に対する民法の原則を踏まえた法定の損害賠償等に関する制度整備)

②著作権関係
○著作権関係の制度整備
(著作物等の保護期間の延長、著作権等侵害罪の一部非親告罪化、著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段に関する制度整備、配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与、著作権等侵害に対する民法の原則を踏まえた法定の損害賠償等に関する制度整備)

とまとめられた所で、今後さらに各法改正の詳細が各省庁の審議会と国会で検討されるのではないかと思われる。今年は知財政策についてはTPPに終始したと言っても過言ではない年だったし、来年の通常国会でTPP関連の法改正の審議を行うとの報道もあり、来年もTPP問題が一番の焦点になりそうな様子であるが、そもそも私はTPPに絡む上記の法改正のほぼ全ての点について反対であり、速やかに脱退するべきと思っていることに変わりはなく、TPPについても拙速な検討による法改正がなされないことを、率先して法改正までしたが結局どこの国もついて来なかった海賊版対策条約(ACTA)の二の舞にならないことを強く願っている。

 なお、最後についでに書いておくと、官房長官が図書が有害かどうかで軽減税率の適用・消費税率が変わるような制度を検討すると言い出しているということもあり、どうやら有害図書問題でも来年はきな臭い年になりそうである。

 ここ何年もどうにも良い話がなく、今年も良い年をという気にはならないが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を。そして、この拙いブログを読んでくださっている方々に心からの感謝を。

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2014年9月 2日 (火)

第319回:二次創作規制の緩和を言うクールジャパン提言

 この8月26日に英語特区を筆頭に極めて頭の悪い政策項目の並ぶクールジャパン提言(pdf)が政府のクールジャパン推進会議でまとめられた。

 この提言は、そのことがなければtwitterでつぶやくだけで放っておこうと思ったくらい本当にどうでもいいことしか書かれていないのだが、1ヶ所だけ特筆に値することが書かれているので、念のためブログでも取り上げておこうと思う。

 その部分は、第13ページの、

3 規制緩和でクリエイティブを応援する

若者のクリエイティビティの発揮を促すために、過剰な規制や無駄な不自由を減らしていく。若者が創造性を自由闊達に発揮し、そのクリエイティビティが他者にも伝播するような環境づくりを行う。

クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。また知財以外にも、空地や空き家利用が困難になっている原因となる建築基準法規制、若い建築家が一級建築士取得の要件を満たしづらい状況になってしまった2006年の建築士法変更についての再検討等、規制緩和でクリエイティブを積極的に推進する。

という部分で、ここで、表現規制としての二次創作規制を見直すとはっきり言っているのである。

 これを過去の知財計画2011の(第252回参照)、

・創作基盤としての二次創作の円滑化
 パロディに関する法的課題を検討するとともに、インターネット上の共同創作や二次創作の権利処理ルールの明確化のための取組を勧める。

というルールの明確化という書き方と比べて見ると、クールジャパン提言は二次創作についてはっきりと規制緩和の方向で見直すと書いており、如何に踏み込んだ記載になっているかが分かるだろう。

 政府レベルの政策会議の提言に二次創作についてこれほど踏み込んだ記載が入ったのは始めてではないかと思うし、この書きぶりを見る限り、二次創作が日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要があるということについてどうやら政府でも一定の認識は持っているのだろう。

 ただ、二次創作規制の緩和とはすなわち著作権規制の緩和であり、一般フェアユース条項の導入とまでは行かなくとも、最低でも二次創作のための権利制限、風刺やパロディ、パスティーシュのための権利制限を明確に著作権法に入れることを意味するのだが、このことを果たしてクールジャパン推進会議のメンバーはどこまで理解しているのだろうか。

 そして、上で引用した知財計画2011の後で、文化庁のパロディワーキングチームで2012年から2013年にかけてパロディの権利制限についての検討が行われたが、その報告書(pdf)に「少なくとも現時点では、立法による課題の解決よりも、既存の権利制限規定の拡張解釈ないし類推適用や、著作権者による明示の許諾がなくても著作物の利用の実態からみて一定の合理的な範囲で黙示の許諾を広く認めるなど、現行著作権法による解釈ないし運用により、より弾力的で柔軟な対応を図る方策を促進することが求められているものと評価することができる」と書かれている通り、結局どうにもならなかったという今までの経緯も果たして分かっているのかどうか。

 会議メンバーの理解はさておき、およそ脳味噌お花畑のしょうもない項目か既存の施策の焼き直しばかりが並ぶ他の部分を見ても、このクールジャパン提言が叩かれるのは当然だと思うし、全体としての実現可能性を私も大いに疑問視しているが、そうは言っても、政府の正式な政策会議で決まったことには違いなく、二次創作規制の緩和が政府レベルで決められたがその後どうなっているのかと繰り返し言い続けても構わないだろうし、私はそうするつもりでいる。

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2014年3月18日 (火)

第309回:閣議決定された知財関連法改正案(著作権法、商標法、意匠法、特許法他)

 先週ほとんど全ての知財関連法の改正案が閣議決定された(文科省の法律案と経産省のリリース参照)。内容はおおよそ予想通りであり、また他でも様々な解説が書かれるのではないかと思うが、今回は全ての知財関連法についてかなりの大改正となっており、ここでも念のため実際の条文案がどうなったかということをざっと見ておきたいと思う。

(1)著作権改正法案(現行出版権の拡大による電子出版のカバー)
 まず、第306回でも書いた通り、一番揉めていた著作権法は、案の定以下のように現行出版権を拡大して電子出版をカバーするのに近い形にされた。(文科省の新旧対照条文案(pdf)概要(pdf)参照。)

(出版権の設定)
第七十九条
 第二十一条又は第二十三条第一項に規定する権利を有する者(以下この章において「複製権等保有者」という。)は、その著作物について、文書若しくは図画として出版すること(電子計算機を用いてその映像面に文書又は図画として表示されるようにする方式により記録媒体に記録し、当該記録媒体に記録された当該著作物の複製物により頒布することを含む。次条第二項及び第八十一条第一号において「出版行為」という。)又は当該方式により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。以下この章において同じ。)を行うこと(次条第二項及び第八十一条第二号において「公衆送信行為」という。)を引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。
(第2項略)

(出版権の内容)
第八十条
 出版権者は、設定行為で定めるところにより、その出版権の目的である著作物について、次に掲げる権利の全部又は一部を専有する。
 頒布の目的をもつて、原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利(原作のまま前条第一項に規定する方式により記録媒体に記録された電磁的記録として複製する権利を含む。)
 原作のまま前条第一項に規定する方式により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて公衆送信を行う権利
(第2項以下略)

 したがって、条文上、出版社の要望通り、出版権の設定登録は紙と電子の一体設定がデフォルトルールに近くなっているように読めるが、義務と消滅請求について、

(出版の義務)
第八十一条
 出版権者は、次の各号に掲げる区分に応じ、その出版権の目的である著作物につき当該各号に定める義務を負う。ただし、設定行為に別段の定めがある場合は、この限りでない。
 前条第一項第一号に掲げる権利に係る出版権者(次条において「第一号出版権者」という。) 次に掲げる義務
イ 複製権等保有者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品若しくはこれに相当する物の引渡し又はその著作物に係る電磁的記録の提供を受けた日から六月以内に当該著作物について出版行為を行う義務
ロ 当該著作物について慣行に従い継続して出版行為を行う義務
 前条第一項第二号に掲げる権利に係る出版権者(次条第一項第二号において「第二号出版権者」という。) 次に掲げる義務
イ 複製権等保有者からその著作物について公衆送信を行うために必要な原稿その他の原品若しくはこれに相当する物の引渡し又はその著作物に係る電磁的記録の提供を受けた日から六月以内に当該著作物について公衆送信行為を行う義務
ロ 当該著作物について慣行に従い継続して公衆送信行為を行う義務

(出版権の消滅の請求)
第八十四条
 出版権者が第八十一条第一号(イに係る部分に限る。)又は第二号(イに係る部分に限る。)の義務に違反したときは、複製権等保有者は、出版権者に通知してそれぞれ第八十条第一項第一号又は第二号に掲げる権利に係る出版権を消滅させることができる。
 出版権者が第八十一条第一号(ロに係る部分に限る。)又は第二号(ロに係る部分に限る。)の義務に違反した場合において、複製権等保有者が三月以上の期間を定めてその履行を催告したにもかかわらず、その期間内にその履行がされないときは、複製権等保有者は、出版権者に通知してそれぞれ第八十条第一項第一号又は第二号に掲げる権利に係る出版権を消滅させることができる。

という形で、出版の義務と消滅請求が紙の出版(複製)と電子出版(公衆送信)で別々にされているので、実際のところ、(既存のものも含め)出版権設定契約において著作者が十分注意して契約内容を確認する必要こそあるだろうが、全体としてそこまで大きな問題がある訳ではなく、かなり無難なところに落ち着いたのではないかと思える。

 ここで、上の法改正案について今まで通り表を作っておくと以下のようになるだろう。(なお、分かりにくくなると思ったので赤字で強調していないが、電子媒体による頒布が紙の出版の方に分類された点も地味ながら法改正点として注意しておいた方が良い点である。また、表でつづめて書いた部分だが、念のため書いておくと、条文上、電子書籍に相当するのは、電子計算機を用いてその映像面に文書又は図画として表示されるようにする方式により記録媒体に記録された著作物の複製物となる。つまり、新出版権の対象となるデータはどんなものでも良い訳ではなく、基本的にディスプレイ上で文章や絵として人が読んだり見たりする形の電子データのみということになるのだろう。)
Epub_rights_4
(2)商標法改正案(音などの新しい商標の保護の導入他)
 著作権法以外の知財法も今回は大改正であり、特に商標法と意匠法の改正はそれぞれ画期的な内容を含んでいる(経産省の新旧対照条文案(pdf)概要(pdf)参照)。まず、商標法では新しい商標の保護が導入されるとのことだったが、法改正案の定義条項は、

(定義等)
第二条
 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。

となっており、確かに音などの商標の保護がうたわれている。政令改正についても今後良く見て行く必要があるだろうが、音の商標の導入に合わせて、

第二条
 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
(略)
 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為

 前項において、商品その他の物に標章を付することには、次の各号に掲げる各標章については、それぞれ当該各号に掲げることが含まれるものとする。
 文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合の標章 商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告を標章の形状とすること。
 音の標章 商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告に記録媒体が取り付けられている場合(商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告自体が記録媒体である場合を含む。)において、当該記録媒体に標章を記録すること。

というように、商品の販売やサービスの提供のために音を使うことや広告のために録音することが商標の使用行為に入って来ることも注意しておくべきだろう。

 詳細は省略するが、概要に書かれている通り、今回の商標法改正案には、商工会、商工会議所及びNPO法人を地域団体商標制度の登録主体に追加することも含まれている。

(3)意匠法改正案(国際意匠出願協定への加盟)
 また、ここでは以下のような関連部分の冒頭の引用だけに留めておくが、意匠法改正案には意匠の国際登録に関するハーグ協定への加盟のための条文が一揃い入っている。制度ユーザーにしか関係なく、意匠制度があまり一般的に馴染みがない所為かあまり騒がれていないようにも思えるが、これは条約加盟にともなう非常に大きな話である。

第六章の二 ジュネーブ改正協定に基づく特例
第一節 国際登録出願
(国際登録出願)
第六十条の三
 日本国民又は日本国内に住所若しくは居所(法人にあつては、営業所)を有する外国人は、特許庁長官に意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定(以下「ジュネーブ改正協定」という。)第一条(vii)に規定する国際出願(以下「国際出願」という。)をすることができる。この場合において、経済産業省令で定める要件に該当するときは、二人以上が共同して国際出願をすることができる。
 前項の規定による国際出願(以下「国際登録出願」という。)をしようとする者は、経済産業省令で定めるところにより外国語で作成した願書及び必要な物件を提出しなければならない。
(以下略)

(4)特許法改正案(異議申立て制度の復活)
 特許法改正案も、以下に同じく冒頭だけ引用しておくが、今の無効審判制度に加えて、異議申立て制度という形で特許権付与後の権利確認プロセスを複線的に入れるという大きな改正を含んでいる。

第五章 特許異議の申立て
(特許異議の申立て)
第百十三条
 何人も、特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り、特許庁長官に、特許が次の各号のいずれかに該当することを理由として特許異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の請求項に係る特許については、請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。
(以下略)

 細かなところまで突っ込む気はさらさらないが、過去の条文と比べてみると、2003年法改正で廃止された過去の異議申立て制度との違いは、テクニカルな点を除き、以前は口頭審理もあり得るとしていたのを今回は書面審査のみとした点くらいであり、今回の法改正案の内容は実質過去の制度の復活と言って良い。この過去の制度との関係で特許庁の整理にはいまいち良く分からないところもあるが、これは制度ユーザにとって選択肢が増える話であり別に悪いことではない。

 また、やはり説明は省略するが、その概要に書かれている通り、今回の特許法等の改正案には手続期間に関する救済措置の拡充や弁理士法の改正なども含まれている。

 これで今年国会で審議されそうな知財関連法はほぼ出そろったのではないかと思っているが、さらに新規立法として地理的表示保護法案も予定されているはずなので、その内容についても公開され次第取り上げたいと思っている。

(2014年3月19日夜の追記:誤記の修正、2003年法改正資料へのリンクの追加と合わせて、(1)の最後の括弧内に電子書籍相当条文に関する説明を追加した。)

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2014年1月19日 (日)

第306回:国内外の動きの補足(現行出版権の対象拡大による電子出版のカバー、ハーグ条約加盟と画像デザインの保護拡充、子供のインターネット利用に関するドイツ最高裁の判決)

 そこまで大きな動きがある訳ではないが、前回かなりあっさり書いてしまったことについて少し補足の説明をしておきたいと思う。

(1)現行出版権の対象拡大による電子出版のカバー(著作権法改正関係)
 1月9日に共同通信がその記事で、現行の出版権の対象を広げて電子書籍を含める方針を文化庁が固めたと報道しており、1月16日には自民党の文部科学部会で文化庁が「電子書籍に対応した出版権の整備について」という項目で説明を行っている(自民党会議情報参照)。実際の法案の条文を見るまでは何とも言えないところもあるが、文化庁が出版業界のロビー活動に負け、紙の出版権と電子出版権の一体的取り扱いを原則とする法改正案を提出しようとしている可能性は高いと見ておくべきなのだろう。

 そこで考えられる法改正案について、第297回と同様に表で示すと以下のようになる。(赤字が考えられる法改正箇所)
Epub_rights_3
 このような出版権の対象拡大について、上でリンクを張った共同通信の記事で、文化庁の判断理由として書かれている、紙か電子書籍のいずれかに限定した契約も可能ということは法律的にはその通りなのだが、それは問題の一面に過ぎない。この点で、12月20日に文化庁の出版関連小委員会で主婦連の河村委員が「紙と電子の一体的設定について、実質的には差異はないとまとめられたが、であるならば、出版社の方々が一体的設定にあれほどこだわった理由が理解できない」(江口秀治氏の実況ツイート参照)と発言しているのは鋭い。

 ここで、紙と電子で別の権利設定かそれとも一体設定かのどちらをデフォルトルールにするかで、出版社に手に入る権利の多寡が大きく変わって来ることが彼らには分かっているので、これだけ躍起になっているのは間違いない。一体設定をデフォルトルールとすることで、出版社は現行の契約慣行を変えることなく電子書籍に関する権利も手に入れることができるのである。(これは法改正にともなう注意義務と契約慣行変更コストを著作者側と出版社側のどちらに課すかという問題であって、一体設定をデフォルトとすることでそれは主として著作者側に課されることとなる。)

 後は具体的な条文・制度設計を見てみないと分からないところだが、紙と電子に関する権利の原則一体化で、以下のような可能性も出て来る。

  • 出版の義務も一体化されることで、電子出版をせずとも義務違反とならない可能性(電子出版抜きで出版社によるインターネットにおける差し止めが可能になる可能性)
  • 過去の出版権設定契約の内容が法改正前後で実質的に変わり、契約に電子書籍に関する権利も含まれると解釈される可能性(法改正条文で調整規定が作られない場合過渡的にかなりややこしいことになるのではないかと思う点である。最終的には裁判所の判断となるが、過去の著作権契約に法改正後の送信可能化権が含まれるとした2007年の「The Boom」事件地裁判決(pdf)を見てもそのような解釈を有効とする判断がされる可能性は否定できない。)

 このようにそれだけで有利不利がかなり変わって来るため出版社が隣接権やみなし侵害規定や特定版面権が無理ならせめて一体設定の原則化だけでもと食い下がるのは分からないではなく、関係者が皆納得しているなら特にとやかく言う話ではないが、その具体的な問題について実務的な面まで含めた十分な検討が文化庁と出版関連小委員会であまりなされなかったように思えるのは残念なところである。

(2)ハーグ条約加盟と画像デザインの保護拡充(意匠法改正関係)
 1月6日の日経の記事で、2015年にも日本政府としてハーグ条約に加盟する予定というものもあった。例によって日経の観測記事の可能性が高いが、思ったより早く意匠に関する法改正案が出される可能性もあるのかも知れない。

 1月25日〆切でパブコメにかけられている特許庁の意匠法に関する報告書案「創造的なデザインの権利保護による我が国企業の国際展開支援について(pdf)」に詳しい説明があるが、意匠の国際出願に関するハーグ条約の概要は、その第2ページの図にある通り、
Haag というように国際出願ルートでの各国への出願を可能にするというもので、制度ユーザーに対する選択肢を増やすこととしてできるならすぐにでも加盟して良いと思うのだが、報告書であげられている検討項目が、形式的な話が多いとは言え、

  • 複数意匠一括出願制度について
  • 公表の延期について
  • 新規性の喪失の例外の適用について
  • 関連意匠について
  • 部分意匠について
  • 図面の提出要件緩和について
  • 組物の意匠について
  • 秘密意匠について
  • 公報の発行及び原簿の管理について
  • 国際出願の手数料納付形式について
  • 国際出願における自己指定の容認について
  • 特許庁を通じた国際出願の受付について
  • 国際意匠分類と日本意匠分類について

と多岐にわたり、結論の部分が「この方向性に沿った形で、ハーグ協定ジュネーブ改正協定への加入を目指した対応を進めることとし、運用等の詳細については、引き続き意匠審査基準ワーキンググループにおいて、検討を行うこととする」と継続検討にされているのを見ても、実際の条約加盟までにさらに相当の時間を要するのではないかと私には思えるがどうだろうか。

 また、意匠法の改正問題ということでは、もう1つ画像デザインの保護拡充に関する話も報告書案に含まれているが、こちらは、「2(3)②制度の国際整合性」(第21~22ページ)で「主要国並みの水準まで画像デザインの保護水準を高めることにより、我が国企業が創作したデザインがグローバルに一律に保護される環境を整備すべき」とされているものの(各国の保護の現状については2013年11月16日の意匠小委員会資料(pdf)が参考になる)、「(2)③クリアランス負担の増大と保護対象の拡充に伴う意匠制度の裾野の広がり」(第20ページ)で他者の意匠権を侵害することがないか否かを事前に調査・クリアランスする負担が大きくなることが、「(2)④クラウドサービス等の事業形態多様化への対応」(第20ページ)で顧客による意匠権侵害が発生した場合にクラウド事業者にまで責任が及ぶといった事象が生じる懸念があることが、「(2)⑤エンドユーザーに対する影響への配慮」(第20~21ページ)で企業において職務としてインターネットで特定のウェブサイトを閲覧していた社員が意匠権の侵害に該当する事態が生じる可能性があることが、「(3)②他の法領域との関係」で、これまでも意匠法の保護対象とはしてこなかった映画、写真、テレビ映像、ゲーム等のコンテンツについては慎重な検討が必要であることが問題点としてあげられており、報告書案としては考えられる問題点も網羅した形となっている。

 画像デザインの保護拡充に関する結論の部分も、

 画像デザインの保護制度の在り方については、法制的な枠組みと意匠制度を支える運用面の取組とによって実現される制度全体を念頭においた上で検討を進めることが必須である。特に、事業者のクリアランス負担の軽減は、制度の在り方を検討する上で非常に重要な事項と考えられるところ、イメージマッチング技術を利用した登録意匠の検索システム等のクリアランスツール実現に向けた検討状況を見ながら、保護の枠組みの在り方について議論を進める。
 よって、我が国企業の事業活動の国際展開に資するべく、創造的なデザインの権利保護を確保するとともに、クリアランス負担をできるだけ軽減するとの観点に立って、イメージマッチング技術を利用した登録意匠の検索システムの準備に直ちに着手し、平成27年度中のサービス導入を目指す。ユーザーからの評価を踏まえ随時改善を図る。
 これを前提としつつ、情報技術の発展等によって、物品の種類(パソコンとスマートフォン等)による保護のバランスを失しかねない状況に至っていることを踏まえ、意匠法第2条第2項の「機能」に係る審査基準を改訂することにより、①物品にあらかじめ記録された画像のみではなく、後から追加される操作画像を保護対象とし、②パソコンの操作画像を保護対象とすることを視野に入れ、画像デザインの登録要件について、関係する産業界からも広く参画を得つつ、意匠審査基準ワーキンググループで具体的検討を行う。
 この検討結果については意匠審査基準ワーキンググループから当小委員会に報告するとともに、当小委員会で制度の在り方について更なる検討を行うこととし、それに合わせ、実施・侵害行為、過失推定等の関連規定の解釈を明確化し、エンドユーザーの行為、プロバイダ等の行為等の取扱いを整理すべく検討を行う。
 そして、以上の対応の状況、ユーザーニーズ及び国際整合性の観点を踏まえつつ、中長期的には、クリアランスツールの精度を高めることを大前提に、前記Ⅱ2(2)で示した課題を中心に、制度の在り方を引き続き当小委員会において検討する。

という継続検討を前提とした書き方となっており、そのため、この報告書案全体を通して見たときの問題点はそこまで大きくないように思うが、意匠について特に関心のある方はこの1月25日〆切のパブコメ(特許庁HPの募集ページ、電子政府HPの募集ページ参照)に意見を出しておくのも一案だろう。

(3)成人した子供のインターネット利用についても親の監視義務はないとするドイツ最高裁の判決
 第296回でインターネット利用に関するドイツのいくつかの判例について書いたが、この1月8日にドイツ最高裁で子供のインターネット利用に関する判決がもう1つ出されたので、これも補足として取り上げておく。

 ドイツ最高裁のHPにはまだ判決全文は上がっていないのだが、そのリリースによると、成人した子供のインターネット利用での著作権侵害における親の責任を認め損害賠償を支払うべきとしていた高裁の判決を最高裁は覆し、

Im Blick auf das besondere Vertrauensverhaltnis zwischen Familienangehorigen und die Eigenverantwortung von Volljahrigen darf der Anschlussinhaber einem volljahrigen Familienangehorigen seinen Internetanschluss uberlassen, ohne diesen belehren oder uberwachen zu mussen; erst wenn der Anschlussinhaber - etwa aufgrund einer Abmahnung - konkreten Anlass fur die Befurchtung hat, dass der volljahrige Familienangehorige den Internetanschluss fur Rechtsverletzungen missbraucht, hat er die zur Verhinderung von Rechtsverletzungen erforderlichen Masnahmen zu ergreifen. Da der Beklagte nach den vom Berufungsgericht getroffenen Feststellungen keine Anhaltspunkte dafur hatte, dass sein volljahriger Stiefsohn den Internetanschluss zur rechtswidrigen Teilnahme an Tauschborsen missbraucht, haftet er auch dann nicht als Storer fur Urheberrechtsverletzungen seines Stiefsohnes auf Unterlassung, wenn er ihn nicht oder nicht hinreichend uber die Rechtswidrigkeit einer Teilnahme an Tauschborsen belehrt haben sollte.

家族と成人した者の自己責任の間の特別な信頼関係を考えると、インターネット契約者は成人した家族に教育や監視することなくそのアクセスを委ねることができる。警告などに基づき−インターネット契約者が、成人した家族がインターネットアクセスを権利侵害に濫用していると思われる具体的な懸念を抱いて始めて、彼は権利侵害を抑止するべく必要な手段を講じるべきである。控訴審の認定によっては、成人した息子がファイル共有への違法な参加によってインターネットアクセスを濫用しているとするに足る根拠が被告にあったとすることはできず、被告がファイル共有参加の違法性について全く又は十分な教育をしていなかったとしても、息子の著作権侵害について不作為に基づく妨害者として責任を負うこともない。

と判断したようである。未成年の子供については既に判例があるので(第296回参照)、この事件では特に成人した子供についてはどうかということが争われたのではないかと思うが、子供が成人したところでインターネット利用の監視義務が親に発生するのも変な話であり、これも順当な判決と言って良いだろう。

 ただし、ごく最近もレッドチューブ事件としてポルノ動画サイトの視聴ユーザに万人単位で著作権侵害警告が送られ、政府が単なるストリーミングの視聴は著作権侵害でないという回答を示すなどかなりの騒ぎが起こっている状況が端的に示しているように(berliner-zeitung.deの記事(ドイツ語)heise.deの記事(ドイツ語)参照)、ドイツでインターネット利用に関してこのようなかなり細かな判例が最高裁レベルで出されている背景には、権利者が法律事務所と組んで大量の著作権侵害警告を出していることがある。幸いなことに今のところ日本での適用例はないが、日本もダウンロード違法化・犯罪化をしてしまっているのであり、著作権団体と警察がその運用を本気でして来る可能性は否定できず、ドイツの状況は決して対岸の火事として見過ごせる性質のものではない。前からずっと書いて来ている通り、前の著作権法改正は全く褒められたものではないと私は常に考えている。

 都知事選の動向なども気にかかるところであり、次回も何かしら国内外の動きについて取り上げるつもりである。

(2014年1月19日夜の追記:上の(1)で書いたことはあくまで可能性の話として読んで頂ければと思うが、twitterで指摘されたところによると、上でリンクを張った共同通信の記事は現時点では誤報のようである。)

(2014年1月20日夜の追記:1カ所誤記を修正した。)

(2014年1月21日夜の追記:今日開催された日本経済再生本部の産業競争力の強化に関する実行計画(案)(pdf)に、知財法関連として、

  • 知的財産戦略・標準化戦略の強化:1回の手続きで複数国への出願を可能とする意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定(仮称)を実施するため、意匠法等関係法改正案を次期通常国会に提出する。(第9ページ)
  • 地域のリソースの 活用・結集・ブランド化:利用価値の高い地域ブランドの保護を可能にするため、地域団体商標の登録主体として商工会、商工会議所、特定非営利法人を追加する商標法改正案を次期通常国会に提出する。(第13ページ)
  • 知的財産の保護の 強化を通じた6次産業化の推進:地域で育まれた伝統と特性を有する農林畜水産物の名称である地理的表示を知的財産として保護するため、「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律案(仮称)」を次期通常国会に提出する。(第18ページ)

という項目が含まれている。これらで法案提出時期が明記されているところを見ると、やはり意匠法含めて早期に法改正案が提出される可能性があると見ておくべきなのだろう。また、地理的表示保護法についてはどうなっているのか良く分からなかったが、どうやら政府として次期通常国会に法案を提出する予定のようである。)

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2013年12月27日 (金)

第305回:2013年の終わりに

 今年も終わりにあたってあまり取り上げて来なかったことを中心に知財政策関係の動きを一通りまとめて書いておきたいと思う。

 まず、特許、商標、意匠関連ということでは、あまり目新しい話は出て来ていないが、この12月16に開かれた特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会で報告書のとりまとめが行われており、1月24日〆切でそのとりまとめ案のパブコメが行われている(特許庁HPの募集ページ1又は電子政府HPの募集ページ1参照)。とりまとめ案(pdf)の内容は、今までの特許庁の方針の追認が多く、ここで細かな内容まで立ち入ることはしないが、法改正関係では、以下のような項目についてかなりはっきりと法改正案を提出すると書かれている。

  • 第三者の知見を活用した品質向上のための特許権の「付与後レビュー制度」の導入
  • 特許権を取得する際の手続に関する救済規定の整備
  • 地域を活性化させるための地域ブランドの担い手拡充
  • 「色」や「音」等の新しいタイプの商標の保護の導入

 そして、

  • 専門家の質を向上させるための弁理士制度の見直し

という項目は今年度中に結論を得て法改正案を提出するとされている。

 これに対して、意匠法関連で、

  • 一度の手続きで複数国での審査が受けられるハーグ協定への加入に向けた取組み

という項目は2014年初旬を目途に報告書をとりまとめて法改正案を提出するとされているものの、

  • 画像デザインの保護拡充に向けた関連法整備

の項目の方では報告書のとりまとめだけが言及されており、2つの意匠法関連項目で書きぶりに多少の濃淡が出ている。

 さらに、議論を進めるとだけ書かれているが、法改正と絡む可能性があり注意が必要な項目としては、

  • 営業秘密の保護強化や相談体制の充実
  • 企業の産業競争力の強化につなげるための職務発明制度の見直し
  • 出願公開のあり方を含めた特許情報を経由した技術流出への対応の検討

があげられるだろうか。

 こうした項目の間の文章の違いから見ても、来年の国会には、まず権利付与後のレビュー制度や新しいタイプの商標保護の導入に関する特許法や商標法の改正案が提出されると見ておくべきなのだろう。

(上のとりまとめ案にも書かれている通り、知的財産政策部会の中の小委員会として、特許制度小委員会商標制度小委員会でそれぞれ検討が行われ、今年9月に「強く安定した権利の早期設定及びユーザーの利便性向上に向けて(pdf)」(特許庁のリリース1)、「新しいタイプの商標の保護等のための商標制度の在り方について(pdf)」(特許庁のリリース2)という2つの報告書がとりまとめられている。)

 そして、上の項目通り、意匠制度小委員会弁理士制度小委員会も開催されており、それぞれ1月25日〆切で報告書案のパブコメが開始されている(特許庁HPの募集ページ2又は電子政府HPの募集ページ2参照)。このうち意匠法に関する報告書案「創造的なデザインの権利保護による我が国企業の国際展開支援について(pdf)」は、おおよそハーグ協定加入や画像デザインの保護拡充について引き続き検討が必要としているものであり、審査基準レベルの運用変更はともかく、すぐに法改正案が出て来そうな様子のものとはなっていない。

 なお、極めて実務的な話だが、特許料の軽減に関わる産業競争力強化法が12月4日に成立しており、その施行令などに関するパブコメが1月11日〆切で行われているということもある(特許庁のリリース3参照、電子政府の募集ページ4参照)。

 また、文化庁では、12月20日の出版関連小委員会で電子出版権導入に関する報告書案がとりまとめられ、親委員会である著作権分科会に報告するとされた(江口秀治氏の実況ツイート1参照)。その報告書案(pdf)第297回で紹介した内容から大筋で変更はないのだが、様々な思惑が交錯したのであろう、電子出版権と紙の出版権を一体的なものとするかどうかの部分の書き方が「紙媒体での出版と電子出版に係る権利が、おのずと同一の出版者に一体的に設定されていくことが想定され(中略)立法化に当たっては、小委員会で示された関係者の意見や出版・電子出版の実態、出版者の役割等を考慮することが必要」と一気に曖昧にされている。(電子政府HPで文化庁パブコメ結果も公開されている。)

 そして、法制・基本問題小委員会の下に著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチームが設置され、12月16日に第1回が開催されている(江口秀治氏の実況ツイート2参照)。このワーキングチームでクラウドと著作権の問題などを検討するようだが、利害関係者だらけのメンバーリスト(pdf)を見ても、過去の私的録音録画小委員会と同じですぐに行き詰まるだろうと思える。文化庁が何を考えているのかは相変わらず良く分からないところが多いが、クラウドと著作権の問題に関して真摯に法的な解決を与えようとする姿勢は残念ながらあまり感じられない。

(また、開催頻度が低く、文化庁らしい内容の偏りがある点に難があるが、国際小委員会の資料も著作権に関する国際動向を知る上では参考になる。)

 農水省では、種苗分科会が種苗法の重要な形質の見直しの検討を地道に行っているが、地理的表示保護制度研究会の方は今年は動いていないようである。

 総務省では、利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会が開催され、今年の9月にはスマートフォン安心安全強化戦略がとりまとめられている(総務省のリリース参照)。

 知財本部では、検証・評価・企画委員会が開かれており、今のところ既存の政策項目の検証を主に行っているようだが、例年通りならば、じきに来年の知財計画に関するパブコメが募集されるのではないだろうか。

 今後の話として最も気になるのはTPP交渉の行方だが、自公政権も政権交代から2年目に入り、いよいよ児童ポルノ規制法の改正案なども国会審議にかかることが予想され、来年も激動の年になるのは間違いない。やはり今年も到底良い年をと言う気にはならないが、政官業に巣くう全ての利権屋と非人道的な規制強化派に悪い年を。そして、このつたないブログを読んで下さっている全ての人に心からの感謝を。

(2014年1月19日の追記:1カ所リンクがずれているのを見つけたので修正した。)

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2013年10月 3日 (木)

第297回:文化庁・著作権分科会・出版関連小委員会中間まとめ(電子出版権創設提言)に対するパブコメ募集(10月27日〆切)

 先週9月27日に文化庁から10月26日〆切で、著作権分科会・出版関連小委員会中間まとめに対するパブコメ募集が始まった(電子政府のHP参照)。あわや新隣接権の創設かと思われた話にしては今の出版権の延長での電子出版権の創設という極めて順当なところに落ち着いており、今の方向性で大きな問題があるということはないが、久しぶりの著作権法改正パブコメであり、ここで経緯も含めてその内容を簡単に紹介しておきたいと思う。

 非常にややこしいのだが、この話について1980年代くらいからこれまでの経緯をざっと書いておくと、

1985年〜1990年 文化庁・著作権審議会第8小委員会(出版者の保護関係)で出版社の権利について検討、その報告書で補償金請求権付与を提言するが、結局法改正に至らず

2003年 知財計画2003で版面権に言及するが、結局まとまらず

2005年 知財計画2005から版面権に関する記載が消える

2010年3月〜6月 文部科学省・総務省・経済産業省3省のデジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会で出版社の権利についても検討

2010年12月〜2011年12月 同3省の電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議で引き続き検討、特に結論出ず

2012年2月 中川正春衆院議員を座長とする印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会で出版社への権利付与について検討開始

2012年2月 弁理士会が知財計画意見(pdf)で電子出版権の創設を提言

2012年5月 知財計画2012(pdf)で出版社への権利付与の検討項目が復活

2012年6月 中川勉強会が中間取りまとめ(pdf)で出版社への隣接権付与を提言

2013年2月 経団連が電子出版権の創設を提言

2013年4月 中山信弘先生らが現行出版権の拡張を提言(pdf)補足説明(pdf) )、中川勉強会も同提言を取り込む(議事録(pdf)参照)

2013年5月〜9月 文化庁・著作権分科会・出版関連小委員会で検討開始、中間取りまとめで電子書籍に対応した出版権の整備を提言

となる。ここ最近では、中川勉強会で隣接権付与が言い出され、すわ議員立法かと思われた時期が一番危なかったが、様々な関係者のロビー活動や中山提言のお陰もあり、最終的に順当なところに落ち着いたのは非常に喜ばしい。

 今回の中間取りまとめ(pdf)の内容は、その概要(pdf)に十分まとまっているとも思うが、念のため、この概要の表を参考にさらに現行の出版権も加えて比較表を作っておくと、

Epub_rights_2

となるだろう。つまり、この提言に沿った法改正がなされても、現行と同様に契約によって出版権あるいは電子出版権を設定するという形になるのであって、元の著作権者の意図にすら反して自動的に出版社に何かしらの隣接権が発生するというようなことはない。(細かなこととしては、電子出版権の基本的な存続期間がどれだけになるのかまだ分からないことや現行の出版権も再許諾が可能になったりとわずかに変わるとされていることに少し注意しておいた方が良いかも知れないが。)

 隣接権創設については、中間取りまとめの第15〜16ページでも、

 その他の関係団体からは、(ⅰ)著作権者の意思に反して権利行使される可能性や権利者数の増加による権利処理コストの増大から、流通阻害効果が予想され、副作用が大きいと考えられること、(ⅱ)印刷会社と出版社の間では、出版物等原版の取扱い等について議論があり、著作隣接権の付与により取扱いや帰属が変わってしまうことが懸念されること、(ⅲ)漫画家が制作する原稿は、本を通じて読者が目にする形そのものであるから、 漫画の原稿の図案にまで出版者に権利を与えることは反対であることなどから、著作隣接権の創設に反対する意見が多く示された。

と書かれており、今後もごく当たり前の話としてこのような否定的な整理を守るべきだろう。

 今回のパブコメは順当な内容のものであり、私もこの方向で進めてもらいたいという意見を書いて送るつもりだが、文化庁が多少なりともまともになったと考えている訳ではカケラもない。権利者と利用者が対立する場合必ず権利者側に立って非道い報告書をまとめる文化庁も、このように著作者と出版社が対立する場合にはそれなりにバランスを取って考えるというだけのことである。TPPとも絡み、日本政府が著作権法改正について今後何を言い出して来るかは本当に要注意である。

 なお、そもそものことを言えば、出版業界で出版権設定契約が必ずしも十分に浸透していないということがあり(この報告書に載っている数字でも73%の出版契約の8割が出版権設定契約とあるので、新刊書籍のうち出版権の設定がされているのは全体の5割程度ということになり、雑誌に至っては事例がないとのことだが、このように十分な契約もできていない状態でとにかく隣接権を寄越せと主張されてもほとんど出版社のわがままとしか思えない)、できればこのような法改正でもう少しきちんとした契約がされるようになればとも思うが、果たしてどうだろうか。

 最後に著作権政策を巡る最近の国内動向も少し紹介しておくと、内閣府の規制改革会議がクラウドと著作権の問題について突っ込んで来ている(毎日新聞の記事、規制改革会議・創業・IT等WGの9月30日資料など参照)。今までのことを考えると規制改革会議にも大きな期待はできないと思うが、例年通り10月31日〆切で意見の集中受付をやっているので、著作権問題について合わせて意見を出しておくのも一案だろう。

 今回のパブコメで提出する意見はここに載せるほどの内容にはならないので、次回は国内外の動向に合わせてまた別の話を書きたいと考えている。

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2012年12月29日 (土)

第284回:2012年の終わりに

 総選挙を経て、この12月26日に第2次安倍内閣が発足した。その閣僚名簿(首相官邸のHP参照)を見るだけで、来年以降どうしようもなく辛い状況が続くのは容易く想像がつくが、今後もやれることをやって行くしかない。

 役所も休みに入り、もうこれで一通り年内のイベントは片づいたと思うので、今年も最後にブログのエントリとして今まであまり取り上げて来られなかった話を中心にまとめておきたいと思う。

 まず、制度ユーザーにしか関係ないのでつい後回しになりがちになっているが、商標法と特許法に関して、特許庁から2つパブコメが募集されている。

 1つ目は2013年1月16日〆切で募集されている、産業構造審議会・知的財産政策部会・商標制度小委員会の報告書「商標制度の在り方について」(案)に対する意見募集(電子政府のHP参照)である。前回の報告書からかなり時間が経っているが、この今回の報告書案(pdf)に書かれていることは、要するに、特許庁が、やはり動き、ホログラム、輪郭のない色彩、位置、音の商標といった非伝統的商標の保護を導入しようとしているということである。どう考えても今後さらに検討すべき実務的な論点は多いが、第8ページで「石焼き芋の売り声や夜鳴きそばのチャルメラの音のように、商品又は役務の取引に際して普通に用いられている音、単音、効果音、自然音等のありふれている音、 又はクラシック音楽や歌謡曲として認識される音からなる『音』の商標については、原則として自他商品役務の識別力を有しないものとする」と書かれている点は重要である。実際の運用次第だが、このように識別性の要件を厳しく取ることができれば音の商標の導入における混乱は多く避けられるだろう。他にもこの報告書案では、地域団体商標の登録主体の範囲を商工会等まで拡大することなども書かれている。

 2つ目は1月18日〆切で募集されている、産業構造審議会・知的財産政策部会・特許制度小委員会の報告書「強く安定した権利の早期設定及びユーザーの利便性向上に向けて」(案)に対する意見募集(電子政府のHP参照)である。こちらもマニアックな話だが、この報告書案(pdf)に書かれていることは、特許庁が、平成15年法改正で無効審判制度に統合され廃止された特許の異議申立制度を多少の手直しを加えて付与後レビュー制度と称して復活させようとしているということである。制度ユーザーとしてはほぼ元々あった選択肢が復活するというだけの話なので別に悪い話でもないが、ただ、新制度も10年間それなりに問題なく運用されていた中で、本当にこのような法律の再改正が必要かと疑問に思うところもある。この報告書案では、特許出願審査請求の手続期間徒過に対する救済の導入や国内外で発生した大規模災害の被災者の救済規定の整備などについても書かれている。

 これらの特許庁報告書案に対応する法改正はいつになるのか不明だが、次の国会には法案が提出されるのだろうか。

 文化庁に目を向けると、予想通りほぼどうにもなっていないが、文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会で引き続き、間接侵害やパロディの問題について検討が行われている。(cnetの記事も参照。議事要旨だけを公開されても何が検討されているのかさっぱり分からないが、パロディに関してはパロディワーキングチームで検討が行われている。)今年度はもうどうにもならないだろうが、来年以降は、TPPや出版社への隣接権付与の問題もあれば、最高裁での私的録画補償金裁判のメーカー側勝訴確定(時事通信の記事参照)を受けて権利者団体側が補償金制度に関する圧力を強めて来ることも予想され、文化庁での検討がまたかなり荒れ出すのではないかと思う。(なお、文化庁の資料であることを常に念頭において読まなければならないが、国際小委員会の資料も国際的な状況の一部を知る上では一読の価値がある。)

 知財本部では、今年度最初の知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会コンテンツ強化専門調査会とがそれぞれ12月21日と25日に始まっている。今のところ何をしようとして来るのかさっぱり分からないが、自公政権下でまたロクでもないことを言い出すかも知れず、今後の知財本部の議論も要注意だろう。

 今年の7月には、総務省の情報通信審議会・デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会が、B−CAS問題についてほぼ様子見を決め込む形でひっそりと幕を閉じている。ただ、B−CASがほぼ完全にクラックされたこともあり、不正ユーザーの逮捕で表向き小康状態が保たれているようにも見えるが、何かでまた騒ぎになるのは火を見るよりも明らかであり、総務省はそのうち何かしらの形でB−CAS問題に関する検討を再開することを余儀なくされるのではないかと私は予想している。また、総務省では、利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会も引き続き開催されている。

 農水省では、地理的表示保護制度研究会が開催されており、8月に「我が国において、特別(sui generis)な地理的表示保護制度を新たに導入し、地理的表示を活用して、多くの経済的・社会的効果が発揮されるよう取り組んでいくべき」とまとめようとする報告書骨子案(pdf)を作っている。地理的表示保護制度が本当に導入されれば知財政策的にかなり大きな話になるが、商標法での地域団体商標制度との関係を含めまだまだ整理すべき課題が多いのはこの報告書骨子案にも書かれている通りだろう。農水省もそう簡単に整理をつけられなかったのか、この研究会の取りまとめが行われたという話は聞かないが、いつか検討を再開するのだろうか。

 警察庁では、総合セキュリティ対策会議で「サイバー犯罪捜査の課題と対策について」という検討テーマを追加して、遠隔操作ウィルスによる冤罪発生事件を受けた検討を11月から開始している。第1回の議事要旨(pdf)を見ると、検討の視点は「民間事業者との連携」、「国際連携の推進」、「広報啓発」の3点ということで、即座にネット規制強化案が出て来るとは見えないのだが、警察庁のことなので、自公政権が成立したのをいいことに、冤罪事件の反省もどこへやら、ロクでもない規制強化に全力で突っ走ることも考えられ、恐らく直近で最も注意すべきは警察庁の検討ではないかと私は考えている。

 今年はダウンロード犯罪化を含む著作権法改正の可決・施行や海賊版対策条約(ACTA)の可決・批准を筆頭に日本の知財政策面では惨憺たる一年だったが、上で書いた通り、今後もちょっと考えるだけで、TPP問題や出版社への隣接権付与の問題、私的録音録画補償金問題など様々な問題で権利者団体の圧力が強まるのは間違いなく、残念ながら来年も極めて辛い年になるだろう。そのため、今年も到底良い年をと言う気にはならないが、政官業に巣くう全ての利権屋と非人道的な規制強化派に悪い年を。そして、このつたないブログを読んで下さっている全ての人に心からの感謝を。

 国内では当分どうしようもない状態が続くだろうが、国外に目を転じれば、欧州議会での海賊版対策条約(ACTA)の否決やオランダ議会でのダウンロード違法化計画再否決(TorrentFreakの記事参照)などに端的に表れているように、世界的に見れば行き過ぎた規制強化によって知財政策が大きな岐路に立たされているのは間違いない。細々とした話はtwitterでも書き留めているが、詳しく書きたい話も多くあり、今後もこのブログは続けて行くつもりである。

(2013年1月3日の追記:上で書き忘れていたが、知財関係としては、他にも特許庁の産業構造審議会・知的財産政策部会・意匠小委員会で、意匠の国際出願に関するハーグ協定ジュネーブアクトへの加盟と画面デザインの保護の拡充についての検討も進められている。この意匠に関する検討についてだが、かなりややこしい論点を含む話なので、どこか切りの良いところでもう少し補足を書きたいと思っている。)

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2012年6月12日 (火)

第273回:「『違法ダウンロードへの罰則導入』に関するQ&A」に関するQ&A

 ダウンロード犯罪化に反対するための資料としては、日弁連の意見会長声明)やMIAUの反対声明が簡にして要を得ており、さらに追加するべきこともないくらいだが、著作権団体のロビー資料のQ&A(MIAUのツイートあるいは津田大介氏のツイート参照)に書かれているような間違った理解が広まったらそれはそれで大問題なので、前々回で取り上げた海外事情に加えて、そのQ&A全体に対する反論をやはりQ&A形式でここに書いておく。(ただし、ダウンロード犯罪化に関する私の意見自体は第256回でも書いており、内容に大差はない。)

(以下、Q&A。Q19までは著作権団体のロビー資料のものと1対1に対応させたものだが、ロビー資料の回答を見て質問を少し作り変えていることにご注意頂きたい。)

Q1:違法ダウンロードを罰則の対象とすることは「知財立国」や「健全なインターネット社会の発展」のためになるか?

⇒ダウンロード犯罪化はまず間違いなく社会のためになりません。政策決定において、「知財立国」や「健全な社会」のような見てくれの良い言葉で思考停止することほど危険なことはありません。どのような規制にもメリットだけではなくデメリット・コストも存在しています。既に著作権保護強化は行き過ぎて文化や経済の発展を阻害しており到底「知財立国」などとは言えない状態ですし、単なるインターネットアクセスで山のように青少年が逮捕されるような社会は到底「健全」とは言えないでしょう。短絡的な思考停止を避け、メリットだけではなくきちんとデメリットも踏まえ、政策決定はされなくてはいけません。

Q2:平成21年の著作権法改正以降立法事実の変化はあるか?

⇒いまだに単なるダウンロードに対する民事訴訟の例はなく、前回のダウンロード違法化の法改正以来何ら立法事実の変化はありません。もしダウンロード違法化に効果がないというのなら、前回の法改正自体、改正の根拠となる立法事実がなかったということでしょう。

Q3:違法アップロード者を取り締まることでは十分に対応できないのか?

⇒インターネットにおける海賊版対策は基本的に違法アップロードの取り締まりで対応することが可能です。アップロードへの対処で不十分だとする理由は説得力を欠きます。海外においても多くの国でアップロードは違法・犯罪とされているのでしょうから、対応が不可能ということはないでしょう。アップロードへの対処に困難性があるのであれば、その困難性を下げることをまず考えるべきであって、そこからダウンロードを違法化する・犯罪化するといったようなさらにエンフォースに困難性がともなうだろうような規制強化に短絡的に飛びつくのは非常に危険なことです。

Q4:Lマークでコンテンツの合法違法を区別がつけられるか?

⇒Lマークはネット全体のなかでごくわずかなサイト・コンテンツにつけられているだけであって、あらゆるサイト・コンテンツの合法違法の区別をできるものでは到底ありません。そもそもLマークのようなごく一部の業界団体が権利を所有しているマークがネットにおけるあらゆるコンテンツの違法合法の区別を示すなどということは不当以外の何物でもないでしょう。さらに言えば、Lマークの存在自体普通の人はほとんど知らないでしょう。

Q5:違法ダウンロード者を取り締まることは可能なのか(罰則をつけても効果がないのではないか)、違法ファイル共有ユーザーに対する量刑が重くなるか?

⇒故意性やコンテンツの違法性の認識の立証、プライバシーなどに関する数々の問題点をまともに考えたらダウンロードに対する取り締まりは実際にはほとんど不可能です。全ての問題点を踏みにじって著作権団体と警察によりエンフォースが行われることも考えられなくはありませんが、その場合は摘発は恣意的なものたらざるを得ず、やはり非常に大きな問題が発生します。いずれにせよ、ダウンロード違法化や犯罪化のようなやり方は、法のさらなる弛緩か、恣意的な執行による正当な利用の萎縮のどちらかに転ぶしかない最低最悪の手段と言えます。また、実際の司法判断を待たなければ何とも言えないところもありますが、アップロードとダウンロードを同時に行う違法ファイル共有における罪数処理は難しく、量刑が重くなるとは一概に言えないでしょう。そもそも違法ファイル共有が問題であるのならば、スジ違いのダウンロードに対する罰則付与ではなく、違法ファイル共有への対策を特に講じるべきでしょう。

Q6:正規サービスの充実こそ最大の違法コピー対策ではないのか?

⇒ここで問題となるのは価格だけではなくDRM・利便性も含めたサービス全体ですが、正規サービスの充実以外の対策はどこをどうやっても付け焼き刃にしかならないでしょう。

Q7:ダウンロードできないように技術的にコントロールできないのか?

⇒DRMによるコピー・アクセスコントロールの問題はユーザーの利便性や情報アクセス権の観点からも含め別途議論されるべき問題で、ダウンロード違法化・犯罪化問題とは直接関係ありません。

Q8:他国の法制はどうか?

⇒世界でもダウンロードを違法化・犯罪化してまともにエンフォースしようとした国はドイツくらいしかありませんが、そのドイツでは法改正の結果生じた刑事訴訟の乱発による混乱の反動がなお続いており、反面教師としてしか参考にならないでしょう。第271回参照。)

Q9:世界で単なるダウンロードに対する刑事訴追事例はどれくらいあるのか?

⇒単なるダウンロードに対する刑事訴追は世界でも1例もありません。第271回参照。)

Q10:国民への周知はどこまで可能か?

⇒ダウンロード違法化と同程度には文化庁・著作権団体が周知しようとするでしょうが、一般国民の常識と乖離した法改正の周知には自ずと限界があります。ダウンロード違法化すら十分に周知されているとは言い難い現状で犯罪化までしたのではさらに混乱に拍車がかかるでしょう。

Q11:罰則の導入によりインターネットの利用は萎縮しないのか?

⇒あらゆるコンテンツについて合法違法の区別が明確につくなどということはありえず、著作権団体と警察による法律の恣意的な運用によりインターネット全体の利用が萎縮する可能性は十分にあるでしょう。ダウンロード犯罪化条項が実質的にエンフォースされないことにより、萎縮が一時的なものにとどまる可能性もありますが、そのような場合も、やはり法改正は有害無益なものであるとしか言いようがありません。

Q12:罰則の導入は、違法ダウンロードを理由とした警察権力の不当介入につながらないのか?

⇒強制捜査に令状が必要なのは当然のことですが、ダウンロードについて令状の必要性を疎明するために警察がどれだけの事実・資料を必要とするのかという点こそが本質的な問題点です。運用次第ですが、ダウンロードに利用されたと思われるIPアドレスと権利者の告発だけで疎明に足るとしたらほとんど何の制約にもなっておらず、濫用される懸念は非常に強いと言わざるを得ません。アニメ画像1枚の利用でウィルス作成者が逮捕された過去の事件のことを考えても、警察は別件逮捕などのためにこのような条項を使いに来ることでしょう。過剰捜査ということとは少しずれますが、ドイツではダウンロード違法化・犯罪化にともなう刑事訴訟の乱発が社会問題化したことがあります。

Q13:ダウンロードで子供・青少年が摘発されるだろうことについてその育成上の問題はないのか?

⇒このような法改正がなされた場合、子供がコンテンツをダウンロードしたというだけで警察が家に踏み込んで来ることになりかねませんが、このようなことで家庭をメチャクチャにすることが正しいこととは到底私には思えません。後に不起訴となったとしても、警察による捜査・逮捕の時点で家庭は崩壊の危機に瀕することでしょう。なお、このような警察権力の家庭への侵入の問題は別に子供・青少年に限った話でもありません。

Q14:ダウンロードに罰則を付けた場合、動画ダウンロード支援サイト「TUBEFIRE」のようなサイトからのダウンロードユーザーに対する適用があり得ることになるのか?

⇒場合によってダウンロード支援サイトのユーザーに対する罰則の適用もあり得るということになるのでしょうが、本当に適用された場合、コンテンツの違法性の認識の立証、故意性の立証の面で非常に大きな問題が生じるでしょう。このようなサイトを利用していたことのみをもってその証拠とするような運用がされたとしたら、リンクを踏むだけでも警察の捜査・逮捕があり得ることになり、インターネットの利用に対して甚大な萎縮が発生することになるでしょう。また、幇助(民事なら間接侵害)の問題もあり、リンクを張ることすら危なくなるでしょう。

Q15:違法ダウンロードに罰則をつければCDの売り上げが増加するか?

⇒ダウンロード犯罪化でCDの売り上げが増加することはないでしょう。世界を見渡しても、著作権の保護強化がCDの売り上げに有意なプラスの影響を与えた例はありません(第271回参照)。世界で一般的に見られる音楽配信の売り上げ増についても、カタログの充実やDRMの廃止などの正規サービスの充実の方が一般国民の常識を離れた著作権法改正よりはるかに効いていると考える方が妥当です。

Q16:「刑法の謙抑性」の原則から、私的領域における行為に対する刑事罰の導入には極めて慎重であるべきではないのか?

⇒情報へのアクセス・単なるダウンロードは本来他人が知るべきでない私的な行為であり、このような行為に対する刑事罰の導入には極めて慎重であるべきなのは無論のことです。知的財産権はあくまで社会的な便宜のために創設された人工的な権利であり、知的財産侵害品の単純購入や単純所持を禁じていることはありません。この点で、有体物の窃盗と、無体物である知的財産権の侵害を混同するのは、常に論理飛躍をもたらす危険なアナロジーです。

Q17:個人のプライバシー権侵害の懸念はないのか?

⇒Q12に対する答えでも書きましたが、運用次第とは言え、令状の必要性を疎明するためにダウンロードに利用されたと思われるIPアドレスと権利者の告発だけで足りるとしたらほとんど何の制約にもなっておらず、警察の濫用による個人のプライバシー権侵害の懸念は非常に大きいものと言わざるを得ません。

Q18:スイスやオランダは市場規模や自国音楽シェアのみからダウンロードを合法のままとしたのか?

⇒スイスやオランダも市場規模や自国市場における自国音楽のシェアのみからダウンロードを合法のままとしたのではありません。両国とも、ダウンロード違法化・犯罪化のようなやり方が自由でオープンなインターネットに反すること、プライバシーや表現の自由の観点から問題があること、告発・訴訟の乱発・濫用の懸念があることなどを正しく認識してダウンロード違法化・犯罪化をしないと決定しています。第271回参照。)

Q19:ダウンロード行為に刑事罰を付することとした場合、権利者によって情報の流通がコントロールされ、国民の情報アクセス権が害されるおそれはないのか?

⇒ダウンロード犯罪化は、運用次第でインターネットの利用に甚大な萎縮が発生し、引いては国民の情報アクセス権を害しかねない危険な規制強化です。対象を有償著作物に限れば良いとするようなことはあくどい問題のすり替えであって、このような対象の限定は問題の本質とは関係ありません。今のところは恣意的な運用の懸念があるというレベルの問題だと思っていますが、これを本当に完全にエンフォースしようとしたら、あらゆる情報アクセスを監視するために一大ネット検閲システムを警察で構築することが必要になって来るでしょう。そこまでの懸念は杞憂であって欲しいと私も思っています。

<おまけのQ&A>
Q20:3行でお願いできますか?

⇒3行でまとめるのは無理ですが、以前Twitterで上で書いたようなことをつづめて「ダウンロード犯罪化の動きの問題点:1.不透明な立法プロセス、2.違法ダウンロードの民事訴訟もなく立法事実に変化なし、3.違法・合法の区別がつかない、4.パロディ・研究等との関係が未整理、5.警察権力の不当な伸長の恐れ、6.ネット検閲につながる恐れ、7.海外でも訴追例・成功例は皆無」と書きました。さらに言えば、前回のダウンロード違法化自体間違った法改正であり、合法化するべきと私は考えています。

Q21:ダウンロード犯罪化の立法プロセスにおける問題はどこにあるのでしょうか?

⇒議員立法あるいは内閣提出法案の修正自体はあり得るプロセスであり、立法プロセスそのものが違法だということはありませんが、このような全国民に大きな影響を与えかねない法改正を不透明な与野党談合で実質審議なしで通そうとしていることが大問題です。立法府の本来の職務を放棄しているに等しい、このような不透明なやり方は大きな禍根を将来に残すことになるでしょう。

Q22:パロディとの関係はどうでしょうか?

⇒今のところパロディに関する明確な規定は著作権法上になく、パロディとの関係でもコンテンツが合法か違法かを見分けるのは難しいというのが現状です。また、ダウンロード犯罪化は、公正な利用と考えられる、一般的な研究などのための情報入手に影響を及ぼす可能性もあるでしょう。ここで、ダウンロード犯罪化の話は、文化庁が今期の文化審議会で検討するとしているパロディ規定の話とは直接関係ないことにも注意が必要です。

Q23:この問題に懸念を持つネットユーザーはどうしたらいいのでしょうか?

⇒一番重要なことは自分で情報を集め自分の頭で考えて自分で行動することです。衆議院文部科学委員会でダウンロード犯罪化がすぐにも採決されるかも知れないという予断を許さない情勢ですが、もし本当に懸念を持っておられ、何かできることはないかとお考えのようでしたら、メールでも電話でも構わないと思いますが是非まず地元の国会議員の方にご自分の懸念を丁寧に自分の言葉でお伝え下さい。

(2012年6月12日夜の追記:Q7の回答に「や情報アクセス権」という言葉を追加するとともに、いくつか誤記を直して文章を整えた。)

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