« 第397回:著作権ブロッキングに関する2018年2月1日のミュンヘン地裁判決及び6月14日の高裁判決 | トップページ | 第399回:イギリスにおける著作権ブロッキングを巡る状況 »

2018年9月10日 (月)

第398回:世界のブロッキングを巡る状況の概観

 知財本部でブロッキングに関する検討が異常なほどの急ピッチで継続されており、インターネット上の海賊版対策に関する検討会議は、8月25日に第5回、8月30日に第6回が開かれ、9月13日に第7回が開催される予定となっている(開催案内参照)。

 前回、ドイツの仮処分事件について書いたが、今回はその補足として世界のブロッキングを巡る状況の概観について書いておきたい。ただし、実の所、ブロッキングについては、世界のどの国でも最近それほど大きな動きがあったということはないので、今回の記事は今までの話のまとめに近く新しい情報は含まれていないことをあらかじめお断りしておく。

 ここで、ブロッキングを巡る世界の状況については、上の検討会議の第6回で弁護士の森亮二委員が資料9として提出したブロッキングの法制化に関する疑問(pdf)が、MPAAの話の受け売りで、世界各国でブロッキングが法制化されているかの様な印象操作を含む知財本部の以前の資料について「『世界42カ国』は本当か?」と疑義を呈しているのは正鵠を射ていると言っていい。

 この資料及び知財本部の検討会議で提出されている他の資料なども参照しつつ、以下、世界各国のブロッキングを巡る状況について概観をまとめて行く。

(1)欧州
 ドイツでブロッキングが初めて認容された仮処分事件について前回書いたが、そこでも書いた通り、ブロッキングを巡ってはヨーロッパの状況はなお混沌としていると私は見ている。

 上の森亮二委員の資料で疑義を呈されている知財本部の過去の資料で、欧州でブロッキングを可能とする法制があるとする根拠は、欧州著作権指令(正式名称は「情報社会における著作権及び著作隣接権のある側面の調和に関する2001年5月22日の欧州議会及び理事会の指令第2001/29号」)の第8条第3項だが、これは以下のように書かれているに過ぎない。(以下、翻訳は全て拙訳。)

Article 8 Sanctions and remedies
...
3. Member States shall ensure that rightholders are in a position to apply for an injunction against intermediaries whose services are used by a third party to infringe a copyright or related right.

第8条 罰及び救済
(略)
第3項 加盟国は、著作権又は著作隣接権を侵害するために第三者にそのサービスが使われる仲介者に対する差し止めの申請を権利者に可能とする事を確保しなければならない。

 これは、仲介者への差し止めを可能とすることを規定しているが、これはいわゆる著作権の間接侵害責任のことを言っているだけであり、この部分とブロッキングの可否とは別物と私は理解している。

 大体、解釈は最後欧州司法裁判所で統一されるものの、これはあくまでその具体的な法制化は各国に委ねられる欧州指令である。つまり、欧州各国でこの規定と同程度の間接侵害規定はどこでも法制化されているだろうが、そのこととブロッキングの可否は別の話である。このことは、ドイツの裁判所でブロッキングについて著作権法条の通常の差し止め規定と民法上の一般的な妨害者責任から判断していることからしても分かる事のはずである。

 すなわち、今の所、欧州で著作権侵害を理由としたブロッキングを積極的に可能とするような特別の法制を有している国はなく、他の事情も考慮した上でやむを得ないと司法が判断した場合に間接侵害責任を認めてアクセスプロバイダーにサイトブロッキングを命じている例が幾つかの国であるに過ぎず、それすら成功しているとは言い難いという状況ではないかと私は見ている。(欧州の状況については、オランダのパイレートベイ事件に関する欧州司法裁判所の判決と関連判例を取り上げた第379回も参照。)

 なお、知財本部で今まで取り上げられた欧州の国にはイギリスがある。イギリスの裁判所がブロッキングの根拠としているイギリス著作権法第97A条は、

97A Injunctions against service providers

(1)The High Court (in Scotland, the Court of Session) shall have power to grant an injunction against a service provider, where that service provider has actual knowledge of another person using their service to infringe copyright.

(2)In determining whether a service provider has actual knowledge for the purpose of this section, a court shall take into account all matters which appear to it in the particular circumstances to be relevant and, amongst other things, shall have regard to-
(a)whether a service provider has received a notice through a means of contact made available in accordance with regulation 6(1)(c) of the Electronic Commerce (EC Directive) Regulations 2002 (SI 2002/2013); and

(b)the extent to which any notice includes-
(i)the full name and address of the sender of the notice;
(ii)details of the infringement in question.

(3) In this section "service provider" has the meaning given to it by regulation 2 of the Electronic Commerce (EC Directive) Regulations 2002.

第97A条 サービスプロバイダーに対する差し止め

第1項 高等裁判所(スコットランドにおいては、控訴院)は、サービスプロバイダーが他の者がそのサービスを著作権を侵害する事に使っている事を実際に知った場合、サービスプロバイダーに対する差し止めを認める権限を有する。

第2項 本条の目的のためにサービスプロバイダーが実際に知ったかどうかを決めるにあたり、裁判所は関係する個別の状況においてそこに現れるあらゆる事を考慮に入れなければならず、特に次の事に注意しなければならない-
(a)サービスプロバイダーが、電子商取引(EC指令)規則2002(SI 2002/2013)の規則6(1)(c)に沿って提供する連絡手段を通じて通知を受け取っているかどうか;そして

(b)通知が以下の事をどれだけ含んでいるか-
(ⅰ)通知の送信者の氏名及び住所
(ⅱ)問題となる侵害の詳細

(c)本条において「サービスプロバイダー」は、電子商取引(EC指令)規則2002(SI 2002/2013)の規則2によって与えられる意味である。

というものであるが、読めば分かる通り、これはイギリスで2003年に上の欧州著作権指令に対応する国内法を作ったものであるが、イギリス特有の解釈とはいえ、この規定に基づいてアクセスプロバイダーにブロッキングを命令するのはかなり無理をしていると思わざるを得ない。

 イギリスのことは、上の検討会議の第4回で明治大学の今村准教授が資料1として提出した英国におけるサイトブロッキング法制とその運用状況について(pdf)でも書かれているが、判例法の国であるイギリスの話も非常にややこしく、イギリスのことも含めて欧州の個々の国の著作権事情に関する私の補足はまた別途書きたいと思っている。

(2)アメリカ
 日本政府はどのような政策検討でもいつもアメリカの話を持ち出すが、今回の知財本部の検討会議ではほとんどアメリカの話が出て来ていない。

 森亮二委員がその資料で、今回の知財本部の検討はアメリカで廃案になったSOPAに含まれていた事とほとんど同じではないかと指摘しているのはまさしく慧眼であり、アメリカでは、サイトブロッキング条項を含むオンライン海賊対策法案(SOPA)や知財保護強化法案(PIPA)がIT企業やユーザーから検閲であるとして大反対を受けてその審議が止まり、その後もこの様な法案が復活する気配はないのである。SOPAの話は自分のパブコメでも繰り返し伝えているが、このようにアメリカで著作権サイトブロッキング法案が廃案になったという事実は知財本部での検討にとって都合の悪い事なのだろう。

 2011年から2012年の事でもう皆忘れつつあるのかも知れないが、このブログでの第263回でも当時のホワイトハウスの声明を取り上げるなどしており、当時の騒ぎは相当のものだったと記憶している。(当時の経緯は、SOPAのウィキペディアとPIPAのウィキペディアのそれぞれにもまとめられている。)

(3)その他
 その他の国で何故か知財本部で取り上げられている国はオーストラリアと韓国であるが、知財本部の検討会議の第3回の、慶応大学の奥邨教授提出のオーストラリアにおけるサイトブロッキング制度と我が国著作権法制への示唆(pdf)と、獨協大学の張准教授の韓国における海賊版サイトの接続遮断措置の概要(pdf)に書かれている通り、これらの国でサイトブロッキングのための特別の法制が作られているので、知財本部でわざわざ選んで紹介を各教授に依頼したのではないかという疑念が拭えない。

 確かに、オーストラリアは国外サイト限定の裁判所の判断による司法ブロッキングを法制化しており、韓国は行政命令によるブロッキングを法制化しているが、裏を返せば、オーストラリアと韓国を除けばブロッキングについて特別な法制がある国は他になく、他の国では判例はさらにないと言っていいのだろう。さらに言えば、オーストラリアや韓国でも、本当にブロッキングにより海賊版対策としての効果が上がっているのかは相当疑問である。(繰り返しになるが、ブロッキングにより対象サイトのアクセスが減る事自体は当たり前の事であって、海賊版対策としての効果はそれとは別にきちんと評価されなければならない。)

 知財本部で取り上げられた国を見ると、ブロッキングありきの検討を行うために選んだのではないかという疑念をどうしても抱かざるを得ないが、私の見る限り、ブロッキングを巡っては世界のどの国であれなお混沌とした状況にあり、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難いのである。さらに、ネット規制において悪名高い国として常に名があがるイギリスやオーストリア、韓国などはほとんど反面教師にしかならないだろうとも私は考えている。

 知財本部の第6回の事務局資料のブロッキングに係る法制度整備を行う場合の論点について(案)(pdf)中間まとめ骨子(案)(pdf)からも微妙にきな臭さが漂って来るが、今後の会合でブロッキングありきの恣意的なまとめがなされない事を私は心から願っている。

|

« 第397回:著作権ブロッキングに関する2018年2月1日のミュンヘン地裁判決及び6月14日の高裁判決 | トップページ | 第399回:イギリスにおける著作権ブロッキングを巡る状況 »

知財本部・知財事務局」カテゴリの記事

著作権国際動向(その他いろいろ)」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/429615/74188755

この記事へのトラックバック一覧です: 第398回:世界のブロッキングを巡る状況の概観:

« 第397回:著作権ブロッキングに関する2018年2月1日のミュンヘン地裁判決及び6月14日の高裁判決 | トップページ | 第399回:イギリスにおける著作権ブロッキングを巡る状況 »