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2017年5月17日 (水)

第378回:知財計画2017の文章の確認

 昨日5月16日に知財本部で知財計画2017(pdf)が決定された(知財本部のHP参照)。例年通り、何のためにあるのか良く分からない政策検討項目集に過ぎないが、知財関係の政府内の動きを知るには便利なものなので、今年も特に法改正に絡む部分について見ておきたい。(今知財本部のHPで見られるものは案がついたものだが、そのうち公表されるだろう案の取れた正式版の知財計画も特に内容に変更はないだろう。)

 今年の知財計画の内容としては、まず、第14ページに、

(利活用促進のための制限のある権利に関する検討)
・価値あるデータの収集・蓄積・保管等に関する投資インセンティブを確保しつつ、オープンな利活用を促すため、制限のある権利については、データ利活用ビジネスの動向やデータ取引市場の状況、諸外国の検討状況等を注視しつつ、必要かどうかも含めて引き続き検討する。(短期・中期)(内閣府、関係府省)

と、知的財産権の対象とならないデータそのものの保護について検討するとしている点に注意が必要だろうと私は考えている。(前回取り上げた営業秘密の保護・活用に関する小委員会中間とりまとめも、この項目に対応するものの一つだろう。)

 ただし、第9ページのお題目の部分に、

<価値あるデータの利活用を広く進めることを支援する政策手段>
 価値あるデータの利活用を広く進めるためには、「民間の取組を支援するアプローチ」(契約やセキュリティの強化、流通基盤の構築等)、「行為規制アプローチ」(不正行為規制等)、「何らかの権利を付与するアプローチ」(報酬請求権、物権的権利等)が考えられる。このうち、何らかの権利を付与するアプローチについては、利用を拒否することができる排他的な権利を付与すると利活用を阻害するおそれがあり、また、報酬請求権などの制限ある権利の新設については、投資インセンティブの確保や取引市場の活性化の観点でその導入に積極的な指摘がある一方で、我が国の企業の自前主義を踏まえると利活用が進まなくなるとの指摘もある。
 以上を踏まえ、価値あるデータの収集・蓄積・保管等に関する投資インセンティブを確保しつつ、オープンな利活用を促すための方策として、まずは、契約上の留意点をまとめることやデータ流通基盤の構築などの「民間の取組を支援するアプローチ」を進めるとともに、新たな不正競争行為の追加等の「行為規制アプローチ」の検討を進めることとし、制限のある権利を新設することについては、データ利活用ビジネスの動向やデータ取引市場の状況、欧州など諸外国の検討状況等を注視しつつ、必要かどうかも含めて引き続き検討する必要がある。

と、データ保護のための新たな権利の創設について比較的抑制的なことも書かれているので、危ない方向に進む可能性は多少低いと見ておいても良いかも知れないが、注意しておくに越したことはない。

 次に、同じく第14ページに、

(学習用データの作成の促進に関する環境整備)
・我が国のAIの作成の促進に向け、特定当事者間を超えて学習用データを提供・提示する行為について、新たな時代のニーズに対応した著作権法の権利制限規定に関する制度設計や運用の中で検討を進める。(短期・中期)(文部科学省)
・国及び地方公共団体等が保有するデータのオープンデータ化及びその利活用を推進する。(短期・中期)(内閣官房)

という項目があり、具体的に何をどうするのか知らないが、AI向けの著作権の権利制限も検討されるようである。

 そして、今回の知財計画で私が一番問題だと思っている箇所だが、第14~15ページで、

(イノベーション促進に向けた権利制限規定等の検討)
・著作権法における柔軟性のある権利制限規定について、文化審議会著作権分科会報告書(2017 年4月)を受け、明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の規定の組合せによる「多層的」な対応について、それぞれ適切な柔軟性を確保した規定の整備を行うため、「推進計画2016」を踏まえ、速やかな法案提出に向けて、必要な措置を講ずる。また、ガイドラインの策定、著作権に関する普及・啓発、及びライセンシング環境の整備促進などの必要な措置を講ずる。(短期・中期)(文部科学省)

と、柔軟性のある権利制限規定に関する記載が文化庁の主張がほぼそのまま通った形に書き改められているのは非常に痛い。このように「複数の規定の組合せによる『多層的』な対応」と書かれたのでは一般的かつ包括的な権利制限(アメリカ型のフェアユース)の導入を検討するとは読めない。私としては諦める気は全くないが、どうやら政府全体としても一般フェアユース規定を入れるつもりはなくなっているようであり、また個別の権利制限でお茶を濁して検討を済ませたいのではないかと見える。

 後は、第15~16ページにかけて、

(著作権者不明等の場合の裁定制度の更なる充実)
・権利者不明著作物等の利用を円滑化するため、著作権者不明等の場合の裁定制度における補償金供託について、一定の場合に後払いを可能とすることとし、「推進計画2016」を踏まえ、速やかな法案提出に向けて、必要な措置を講ずる。また、利用者による権利者探索コスト低減のため、民間団体と協力して2016 年10月から行った負担軽減の効果を検証する実証事業の結果を踏まえ、引き続き必要な措置を講ずる。(短期・中期)(文部科学省)

(持続的なコンテンツ再生産につなげるための環境整備)
・クリエイターへ適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、私的録音録画補償金制度の見直しや当該制度に代わる新たな仕組みの導入について、文化審議会において検討を進め、結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期・中期)(文部科学省、経済産業省)

(教育の情報化の推進)
・ICT活用教育における著作物の円滑な利活用に向けて、文化審議会著作権分科会報告書(2017年4月)を受け、授業の過程における著作物等の公衆送信の円滑化について、新たに補償金請求権付の権利制限規定を整備するなど必要な措置を講ずる。教員・教育機関間の教育目的での教材等の共有については、より詳細なニーズを把握した上で、引き続き検討を行う。(短期・中期)(文部科学省)
・教育機関における著作権法に関する研修・普及啓発活動の促進、及びライセンシング環境の整備・充実等に関する課題について検討し、必要な措置を講ずる。(短期・中期)(文部科学省)
・デジタル教科書の有する公共性等を考慮し、その学校教育制度上における位置付けを踏まえ、デジタル教科書についても、公表された著作物の掲載が必要な限度で認められるよう、必要な措置を講ずる。(短期・中期)(文部科学省)

といった項目も並んでいる。これらの項目の中でやはり私的録音録画保証金制度の見直しに関する項目が残っていることも注意しておくべきだとは思うが、知財計画の記載上は特に何かしらの方向性が出ているということはない。

 特許関連では、第19~20ページに、

《知財紛争処理システムの機能強化(証拠収集機能の強化等)》
(適切かつ公平な証拠収集手続の実現)

・書類提出命令・検証物提示命令のインカメラ手続で書類・検証物の提出の必要性を判断できるようにする制度及び中立的な第三者の技術専門家に秘密保持義務を課した上で証拠収集手続に関与できるようにする制度の導入について、次期通常国会への法案提出を視野に、2017 年度中に法制度上の措置に関する具体的な結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期)(経済産業省)

(ビジネスの実態やニーズを反映した適切な損害賠償額・知財価値評価の実現)
・適切な損害賠償額の実現や知財価値の適正な評価に向けて、証拠収集手続の強化を通じてより適正な損害賠償請求が認容されやすい環境を整えるとともに、内外の実態把握を引き続き行い、産業界、法曹界、学界など関係者の多様な意見を踏まえつつ、必要な対応を検討する。(短期・中期)(内閣府、経済産業省、関係府省)

《知財紛争処理システムの利用支援》
(標準必須特許に関するADR 制度の検討)

・IoT が普及する中、社会インフラとなるような規格の円滑な利用を進めるため、社会的影響の大きい標準必須特許の適切なライセンス料を決めるADR 制度(標準必須特許裁定)について、特許権者の権利を不当に害さないことに留意しつつ、次期通常国会への法案提出を視野に検討を進め、2017 年度中に法制度上の措置に関する具体的な結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期)(経済産業省)

(裁判外紛争解決手続(ADR)の拡充・活性化)
・知財紛争を含む紛争の当事者が適切な紛争解決手続を容易に選択できるよう、知財紛争の「裁判外の紛争解決手続(ADR)」を取り扱う者からの認証ADR(愛称:かいけつサポート)に関する相談を通じて認証申請を促すことにより、ADR の拡充及び活性化を図る。また、適正な審査による認証を行うことや認証ADR 実施者に関する情報をより広く周知することにより、「認証ADR」の実施者の拡充とその利用の活性化を図る。(短期・中期)(法務省)
・IoT が普及する中、ライセンス交渉や紛争処理に要するコストが大きくなっていることを踏まえ、多様な特許を巡る紛争を迅速かつ簡便に解決するため、中小企業やベンチャーを含む多様な企業の請求に基づいて調整を行うADR 制度(あっせん)について、産業構造審議会知的財産分科会において検討を進め、既存のADR 制度との関係を整理しつつ、2017 年度中に具体的な結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期)(経済産業省)

といった項目が並んでいるが、ここらの記載も前回取り上げた特許庁の報告書通りで大して新しい話は含まれていない。

 さらに、意匠、商標関連として、第23ページに、

(意匠制度・運用の見直しの検討)
・我が国企業がデザインを生かしたブランディングに関する適切な知見等を身につけ、企業のブランド価値を意匠などの知的財産によって適切に保護することを通じて、国際的な競争優位性を形成することができるよう、我が国企業の産業競争力強化に不可欠となる企業のブランディングに資するデザイン振興のあり方と制度整備について検討を進める。(短期・中期)(経済産業省)

(商標制度・運用の普及及び検討)
・社会情勢などの変化に対応し、商標審査の予見可能性を向上させるとともに、ユーザーにとって明確かつ分かりやすい内容とする目的で改訂された商標審査基準を英訳し、特許庁のウェブサイトを通じて海外ユーザーへの周知を図る。また、国別の受入研修や意見交換などの機会を通じて我が国における商標審査基準の普及と浸透を図る。(短期・中期)(経済産業省)
・一部の者から、手続上の瑕疵のある商標登録出願が大量に行われ、後願者が商標登録出願を断念するなどの混乱が一部生じており、その対応を検討する。(短期・中期)(経済産業省)

といった項目もある。意匠については何を検討するのかさっぱり分からないが、商標については少なくとも一時話題になった大量の商標出願への対応を検討するようである。

 TPPなどの国際協定については、第24ページに、

(通商関連協定等を活用した知財保護と執行強化)
・今後の自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)などの二国間・多国間協定交渉において、知的財産の保護強化、模倣品・海賊版対策を積極的に取り上げ、ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)やTPP 協定などの高いレベルの国際協定の規定を規律強化の基礎として有効に活用しつつ、国際的に調和した知財制度の整備と実効的な法執行の確保に努める。(短期・中期)(外務省、財務省、経済産業省、文部科学省、農林水産省、総務省、法務省)

と書かれ、政府としてまだTPPやACTAを諦めていないと知れる。(特に、TPPはアメリカ抜きでの発効を模索する動きもあり、引き続き要注意だろう。)

 また、理由は良く分からないが、今回種苗法関連の記載がかなり充実している。特に法改正に絡みそうなものだけピックアップしておくと、第34~35ページの、

(育成者権の権利範囲の判断基準の明確化等)
・種苗法における育成者権者の独占権の範囲を画する判断基準について、侵害の立証の適正化も含めて検討するほか、品種登録情報へのアクセスの在り方など、育成者権者に使いやすい制度になるよう検討を行う。(短期・中期)(農林水産省)

(種苗法と商標法の関係整理)
・種苗法に基づき品種登録出願された品種の名称が、その後に出願及び登録された商標との兼ね合いで、登録前に変更を余儀なくされる問題について対応策を検討する。(短期)(農林水産省、経済産業省)

(育成者権の効力拡大)
・育成者権者の正当な利益を確保することで、新品種開発を促進するため、種苗法において原則として育成者権の効力が及ばない農業者の自家増殖について、農業生産現場への影響に配慮しつつ、育成者権の効力が及ぶ植物範囲の拡大を図る。(短期・中期)(農林水産省)

といった項目があげられるだろう。

 最後に、特に内容に大きな変更は加えられてないが、インターネット上の海賊版対策として、第70ページに以下のような記載がある。

(インターネット上で流通する模倣品・海賊版対策)
・インターネット上の海賊版対策については、オンライン広告対策の民間における検討体制の運用について支援するとともに、リーチサイト対策、サイトブロッキングに係る課題の検討など、全体的な取組について関係府省が連携しつつ、引き続き検討を行う。(短期・中期)(内閣府、関係府省)
・リーチサイトを通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応に関して、権利保護と表現の自由のバランスに留意しつつ、関係者の意見を十分に踏まえ、法制面での対応を含め、具体的な課題の検討を加速化させる。(短期・中期)(文部科学省)
・オンライン広告対策については、民間の検討体制の運用に対する支援など、具体的な対応を進める。(短期・中期)(経済産業省)
・フリマアプリなどのプラットフォーマー、インターネットサービスプロバイダ(ISP)や各権利者等との連携を深めるとともに、民間の取組を支援することにより、インターネット上で流通する模倣品・海賊版対策の実効性を高める。
(短期・中期)(経済産業省、総務省)

 権利保護と表現の自由のバランスに留意するという記載が残されているのが、多少の気休めになるかも知れないが、ここで書かれているリーチサイト対策とサイトブロッキングに関する検討は引き続き注視して行く必要があるだろう。

 繰り返しになるが、今回の知財計画2017の記載から分かることとして、政府内で一般フェアユース条項の導入に向けた動きが弱まっているようであることは非常に痛い。しかし、何事についても波の高低はあるものであり、私としては日本でも一般フェアユース条項の導入が必要であるという確信はいささかも揺るいでいないし、ここで諦めるつもりも全くない。

(2017年5月19日の追記:幾つか誤記を直した。)

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