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2014年1月19日 (日)

第306回:国内外の動きの補足(現行出版権の対象拡大による電子出版のカバー、ハーグ条約加盟と画像デザインの保護拡充、子供のインターネット利用に関するドイツ最高裁の判決)

 そこまで大きな動きがある訳ではないが、前回かなりあっさり書いてしまったことについて少し補足の説明をしておきたいと思う。

(1)現行出版権の対象拡大による電子出版のカバー(著作権法改正関係)
 1月9日に共同通信がその記事で、現行の出版権の対象を広げて電子書籍を含める方針を文化庁が固めたと報道しており、1月16日には自民党の文部科学部会で文化庁が「電子書籍に対応した出版権の整備について」という項目で説明を行っている(自民党会議情報参照)。実際の法案の条文を見るまでは何とも言えないところもあるが、文化庁が出版業界のロビー活動に負け、紙の出版権と電子出版権の一体的取り扱いを原則とする法改正案を提出しようとしている可能性は高いと見ておくべきなのだろう。

 そこで考えられる法改正案について、第297回と同様に表で示すと以下のようになる。(赤字が考えられる法改正箇所)
Epub_rights_3
 このような出版権の対象拡大について、上でリンクを張った共同通信の記事で、文化庁の判断理由として書かれている、紙か電子書籍のいずれかに限定した契約も可能ということは法律的にはその通りなのだが、それは問題の一面に過ぎない。この点で、12月20日に文化庁の出版関連小委員会で主婦連の河村委員が「紙と電子の一体的設定について、実質的には差異はないとまとめられたが、であるならば、出版社の方々が一体的設定にあれほどこだわった理由が理解できない」(江口秀治氏の実況ツイート参照)と発言しているのは鋭い。

 ここで、紙と電子で別の権利設定かそれとも一体設定かのどちらをデフォルトルールにするかで、出版社に手に入る権利の多寡が大きく変わって来ることが彼らには分かっているので、これだけ躍起になっているのは間違いない。一体設定をデフォルトルールとすることで、出版社は現行の契約慣行を変えることなく電子書籍に関する権利も手に入れることができるのである。(これは法改正にともなう注意義務と契約慣行変更コストを著作者側と出版社側のどちらに課すかという問題であって、一体設定をデフォルトとすることでそれは主として著作者側に課されることとなる。)

 後は具体的な条文・制度設計を見てみないと分からないところだが、紙と電子に関する権利の原則一体化で、以下のような可能性も出て来る。

  • 出版の義務も一体化されることで、電子出版をせずとも義務違反とならない可能性(電子出版抜きで出版社によるインターネットにおける差し止めが可能になる可能性)
  • 過去の出版権設定契約の内容が法改正前後で実質的に変わり、契約に電子書籍に関する権利も含まれると解釈される可能性(法改正条文で調整規定が作られない場合過渡的にかなりややこしいことになるのではないかと思う点である。最終的には裁判所の判断となるが、過去の著作権契約に法改正後の送信可能化権が含まれるとした2007年の「The Boom」事件地裁判決(pdf)を見てもそのような解釈を有効とする判断がされる可能性は否定できない。)

 このようにそれだけで有利不利がかなり変わって来るため出版社が隣接権やみなし侵害規定や特定版面権が無理ならせめて一体設定の原則化だけでもと食い下がるのは分からないではなく、関係者が皆納得しているなら特にとやかく言う話ではないが、その具体的な問題について実務的な面まで含めた十分な検討が文化庁と出版関連小委員会であまりなされなかったように思えるのは残念なところである。

(2)ハーグ条約加盟と画像デザインの保護拡充(意匠法改正関係)
 1月6日の日経の記事で、2015年にも日本政府としてハーグ条約に加盟する予定というものもあった。例によって日経の観測記事の可能性が高いが、思ったより早く意匠に関する法改正案が出される可能性もあるのかも知れない。

 1月25日〆切でパブコメにかけられている特許庁の意匠法に関する報告書案「創造的なデザインの権利保護による我が国企業の国際展開支援について(pdf)」に詳しい説明があるが、意匠の国際出願に関するハーグ条約の概要は、その第2ページの図にある通り、
Haag というように国際出願ルートでの各国への出願を可能にするというもので、制度ユーザーに対する選択肢を増やすこととしてできるならすぐにでも加盟して良いと思うのだが、報告書であげられている検討項目が、形式的な話が多いとは言え、

  • 複数意匠一括出願制度について
  • 公表の延期について
  • 新規性の喪失の例外の適用について
  • 関連意匠について
  • 部分意匠について
  • 図面の提出要件緩和について
  • 組物の意匠について
  • 秘密意匠について
  • 公報の発行及び原簿の管理について
  • 国際出願の手数料納付形式について
  • 国際出願における自己指定の容認について
  • 特許庁を通じた国際出願の受付について
  • 国際意匠分類と日本意匠分類について

と多岐にわたり、結論の部分が「この方向性に沿った形で、ハーグ協定ジュネーブ改正協定への加入を目指した対応を進めることとし、運用等の詳細については、引き続き意匠審査基準ワーキンググループにおいて、検討を行うこととする」と継続検討にされているのを見ても、実際の条約加盟までにさらに相当の時間を要するのではないかと私には思えるがどうだろうか。

 また、意匠法の改正問題ということでは、もう1つ画像デザインの保護拡充に関する話も報告書案に含まれているが、こちらは、「2(3)②制度の国際整合性」(第21~22ページ)で「主要国並みの水準まで画像デザインの保護水準を高めることにより、我が国企業が創作したデザインがグローバルに一律に保護される環境を整備すべき」とされているものの(各国の保護の現状については2013年11月16日の意匠小委員会資料(pdf)が参考になる)、「(2)③クリアランス負担の増大と保護対象の拡充に伴う意匠制度の裾野の広がり」(第20ページ)で他者の意匠権を侵害することがないか否かを事前に調査・クリアランスする負担が大きくなることが、「(2)④クラウドサービス等の事業形態多様化への対応」(第20ページ)で顧客による意匠権侵害が発生した場合にクラウド事業者にまで責任が及ぶといった事象が生じる懸念があることが、「(2)⑤エンドユーザーに対する影響への配慮」(第20~21ページ)で企業において職務としてインターネットで特定のウェブサイトを閲覧していた社員が意匠権の侵害に該当する事態が生じる可能性があることが、「(3)②他の法領域との関係」で、これまでも意匠法の保護対象とはしてこなかった映画、写真、テレビ映像、ゲーム等のコンテンツについては慎重な検討が必要であることが問題点としてあげられており、報告書案としては考えられる問題点も網羅した形となっている。

 画像デザインの保護拡充に関する結論の部分も、

 画像デザインの保護制度の在り方については、法制的な枠組みと意匠制度を支える運用面の取組とによって実現される制度全体を念頭においた上で検討を進めることが必須である。特に、事業者のクリアランス負担の軽減は、制度の在り方を検討する上で非常に重要な事項と考えられるところ、イメージマッチング技術を利用した登録意匠の検索システム等のクリアランスツール実現に向けた検討状況を見ながら、保護の枠組みの在り方について議論を進める。
 よって、我が国企業の事業活動の国際展開に資するべく、創造的なデザインの権利保護を確保するとともに、クリアランス負担をできるだけ軽減するとの観点に立って、イメージマッチング技術を利用した登録意匠の検索システムの準備に直ちに着手し、平成27年度中のサービス導入を目指す。ユーザーからの評価を踏まえ随時改善を図る。
 これを前提としつつ、情報技術の発展等によって、物品の種類(パソコンとスマートフォン等)による保護のバランスを失しかねない状況に至っていることを踏まえ、意匠法第2条第2項の「機能」に係る審査基準を改訂することにより、①物品にあらかじめ記録された画像のみではなく、後から追加される操作画像を保護対象とし、②パソコンの操作画像を保護対象とすることを視野に入れ、画像デザインの登録要件について、関係する産業界からも広く参画を得つつ、意匠審査基準ワーキンググループで具体的検討を行う。
 この検討結果については意匠審査基準ワーキンググループから当小委員会に報告するとともに、当小委員会で制度の在り方について更なる検討を行うこととし、それに合わせ、実施・侵害行為、過失推定等の関連規定の解釈を明確化し、エンドユーザーの行為、プロバイダ等の行為等の取扱いを整理すべく検討を行う。
 そして、以上の対応の状況、ユーザーニーズ及び国際整合性の観点を踏まえつつ、中長期的には、クリアランスツールの精度を高めることを大前提に、前記Ⅱ2(2)で示した課題を中心に、制度の在り方を引き続き当小委員会において検討する。

という継続検討を前提とした書き方となっており、そのため、この報告書案全体を通して見たときの問題点はそこまで大きくないように思うが、意匠について特に関心のある方はこの1月25日〆切のパブコメ(特許庁HPの募集ページ、電子政府HPの募集ページ参照)に意見を出しておくのも一案だろう。

(3)成人した子供のインターネット利用についても親の監視義務はないとするドイツ最高裁の判決
 第296回でインターネット利用に関するドイツのいくつかの判例について書いたが、この1月8日にドイツ最高裁で子供のインターネット利用に関する判決がもう1つ出されたので、これも補足として取り上げておく。

 ドイツ最高裁のHPにはまだ判決全文は上がっていないのだが、そのリリースによると、成人した子供のインターネット利用での著作権侵害における親の責任を認め損害賠償を支払うべきとしていた高裁の判決を最高裁は覆し、

Im Blick auf das besondere Vertrauensverhaltnis zwischen Familienangehorigen und die Eigenverantwortung von Volljahrigen darf der Anschlussinhaber einem volljahrigen Familienangehorigen seinen Internetanschluss uberlassen, ohne diesen belehren oder uberwachen zu mussen; erst wenn der Anschlussinhaber - etwa aufgrund einer Abmahnung - konkreten Anlass fur die Befurchtung hat, dass der volljahrige Familienangehorige den Internetanschluss fur Rechtsverletzungen missbraucht, hat er die zur Verhinderung von Rechtsverletzungen erforderlichen Masnahmen zu ergreifen. Da der Beklagte nach den vom Berufungsgericht getroffenen Feststellungen keine Anhaltspunkte dafur hatte, dass sein volljahriger Stiefsohn den Internetanschluss zur rechtswidrigen Teilnahme an Tauschborsen missbraucht, haftet er auch dann nicht als Storer fur Urheberrechtsverletzungen seines Stiefsohnes auf Unterlassung, wenn er ihn nicht oder nicht hinreichend uber die Rechtswidrigkeit einer Teilnahme an Tauschborsen belehrt haben sollte.

家族と成人した者の自己責任の間の特別な信頼関係を考えると、インターネット契約者は成人した家族に教育や監視することなくそのアクセスを委ねることができる。警告などに基づき−インターネット契約者が、成人した家族がインターネットアクセスを権利侵害に濫用していると思われる具体的な懸念を抱いて始めて、彼は権利侵害を抑止するべく必要な手段を講じるべきである。控訴審の認定によっては、成人した息子がファイル共有への違法な参加によってインターネットアクセスを濫用しているとするに足る根拠が被告にあったとすることはできず、被告がファイル共有参加の違法性について全く又は十分な教育をしていなかったとしても、息子の著作権侵害について不作為に基づく妨害者として責任を負うこともない。

と判断したようである。未成年の子供については既に判例があるので(第296回参照)、この事件では特に成人した子供についてはどうかということが争われたのではないかと思うが、子供が成人したところでインターネット利用の監視義務が親に発生するのも変な話であり、これも順当な判決と言って良いだろう。

 ただし、ごく最近もレッドチューブ事件としてポルノ動画サイトの視聴ユーザに万人単位で著作権侵害警告が送られ、政府が単なるストリーミングの視聴は著作権侵害でないという回答を示すなどかなりの騒ぎが起こっている状況が端的に示しているように(berliner-zeitung.deの記事(ドイツ語)heise.deの記事(ドイツ語)参照)、ドイツでインターネット利用に関してこのようなかなり細かな判例が最高裁レベルで出されている背景には、権利者が法律事務所と組んで大量の著作権侵害警告を出していることがある。幸いなことに今のところ日本での適用例はないが、日本もダウンロード違法化・犯罪化をしてしまっているのであり、著作権団体と警察がその運用を本気でして来る可能性は否定できず、ドイツの状況は決して対岸の火事として見過ごせる性質のものではない。前からずっと書いて来ている通り、前の著作権法改正は全く褒められたものではないと私は常に考えている。

 都知事選の動向なども気にかかるところであり、次回も何かしら国内外の動きについて取り上げるつもりである。

(2014年1月19日夜の追記:上の(1)で書いたことはあくまで可能性の話として読んで頂ければと思うが、twitterで指摘されたところによると、上でリンクを張った共同通信の記事は現時点では誤報のようである。)

(2014年1月20日夜の追記:1カ所誤記を修正した。)

(2014年1月21日夜の追記:今日開催された日本経済再生本部の産業競争力の強化に関する実行計画(案)(pdf)に、知財法関連として、

  • 知的財産戦略・標準化戦略の強化:1回の手続きで複数国への出願を可能とする意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定(仮称)を実施するため、意匠法等関係法改正案を次期通常国会に提出する。(第9ページ)
  • 地域のリソースの 活用・結集・ブランド化:利用価値の高い地域ブランドの保護を可能にするため、地域団体商標の登録主体として商工会、商工会議所、特定非営利法人を追加する商標法改正案を次期通常国会に提出する。(第13ページ)
  • 知的財産の保護の 強化を通じた6次産業化の推進:地域で育まれた伝統と特性を有する農林畜水産物の名称である地理的表示を知的財産として保護するため、「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律案(仮称)」を次期通常国会に提出する。(第18ページ)

という項目が含まれている。これらで法案提出時期が明記されているところを見ると、やはり意匠法含めて早期に法改正案が提出される可能性があると見ておくべきなのだろう。また、地理的表示保護法についてはどうなっているのか良く分からなかったが、どうやら政府として次期通常国会に法案を提出する予定のようである。)

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