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2013年5月19日 (日)

第290回:インターネット・ホットラインセンターの権限強化を図りTorブロッキングを推奨する警察庁・総合セキュリティ対策会議の報告書

 既にガジェット通信の記事で84oca氏(twitter)が書かれているように匿名の検討会で匿名化技術がけしからんと言っている時点で噴飯ものなのだが、警察庁の昨年度の総合セキュリティ対策会議が取りまとめた2つの報告書がこの5月7日にようやく公開された。(internet watchの記事も参照。)

 無論前々回 前回と取り上げた児童ポルノ排除総合対策案の方が大問題だが、この総合セキュリティ対策会議の報告書の方もかなりの問題を含んでいる上にパブコメすら取っていないというあまりにもあまりなものなので、ここで突っ込んでおきたいと思う。(なお、この報告書については公表されたときにtwitterでもコメントを書いた。)

(1)「官民が連携した違法・有害情報対策の更なる推進について」
 1つ目の報告書は、主にインターネット・ホットラインセンターに関する話を扱っている、官民が連携した違法・有害情報対策の更なる推進について(pdf)資料編(pdf))というものである。

 まず、その「第1章 インターネット上の広告業界との連携の在り方及び自主的取組の促進について」では、

1 インターネット・ホットラインセンターからインターネット上の広告業界に対する悪質サイトの情報提供
 インターネット・ホットラインセンターは、警察庁の業務委託のもと、インターネット上における違法・有害情報に関する通報を受理し、警察への通報、サイト管理者等への削除依頼を行っているところ、インターネット上の違法・有害情報対策を更に推進するためには、広告料収入を目的とした悪質サイトの減少を期して、インターネット・ホットラインセンターが、削除依頼に応じず違法・有害情報を放置する悪質サイトの情報をインターネット上の広告業界に対して提供することが望ましい。
 この点に関しては、現在、インターネット・ホットラインセンターにおいては、フィルタリング事業者や児童ポルノブロッキング団体に対しても情報提供を行っているところ、インターネット上の広告業界に対しても、同種の情報提供を行うことが考えられる。

2 インターネット上の広告業界における悪質サイトへの広告配信停止等の措置
 インターネット上の広告業界においては、第2で述べたとおり、広告事業者各社が禁止事項を定めた契約約款や規約等を策定しており、違法・有害情報掲載サイトへの広告掲載を発見した場合には、当該契約約款や規約等に基づき、広告配信の停止、広告料の支払差止め、広告料の没収等の措置が採られている状況にあるところ、同業界はインターネット・ホットラインセンターから上記1 の情報提供を受け、広告事業者各社の契約約款や規約等に基づいて、自主的に悪質サイトへの広告配信停止等の措置を速やかに採ることが望ましい。

3 違法・有害情報に係る官民の情報交換
 インターネット上の広告業界の広告事業者各社においては、それぞれの運営基準等に基づいて、クローリングを用いた自動チェックの実施など、継続的に広告掲載サイトのコンテンツチェックを行っている。しかしながら、こうしたコンテンツチェック活動をすり抜けてしまう新たな用語、隠語等の出現が見られるため、違法・有害情報に係る官民の情報交換を行うことにより、新たな用語、隠語等を使用する悪質サイトの早期排除を促進することが望ましい。

という提言を出し、「第2章 匿名サイトにおける自主的管理強化の促進について」では、

1 電気通信事業関連4団体によるガイドライン及び契約約款モデル条項の普及促進のための啓発活動
 電気通信事業関連4団体においては、電子掲示板の管理者等が自ら違法性を判断して行う送信防止措置等の対応や、警察、インターネット・ホットラインセンター等の第三者機関からの送信防止措置依頼の対応手続等が定められたガイドラインを策定し、また、違法・有害情報に関する禁止事項や、当該情報等の削除等に関する規定、第三者からの連絡受付体制の整備に関する規定等が定められた契約約款モデル条項を策定するなど、インターネット上の違法・有害情報対策に努めているところである。
 しかしながら、前述のとおり、ガイドライン及び契約約款モデル条項のいずれも浸透していない状況がうかがえたことから、電気通信事業関連4団体が、電子掲示板管理者等に対して、ガイドライン及び契約約款モデル条項の普及促進のための啓発活動を強化することが望まれる。

2 ガイドラインの普及促進のための方策
 電気通信事業関連4団体においては、上記1に加え、ガイドラインの普及促進に資するため、必要に応じて契約約款モデル条項の改訂を行うことが望ましい。この場合において、例えば、ガイドラインに留意して対応することに関する規定を契約約款モデル条項に追加することが考えられる。

という提言を出しているが、この提言部分だけを読んでも分かるように、この報告書は、要するに、インターネット・ホットラインセンターの言う通り削除を行わないサイトから広告を締め出すことと、匿名サイト(と警察庁が称するサイト)に対する締めつけを厳しくすることを警察庁が関係業界に求めるというものであり、そのようにしてインターネット・ホットラインセンターの権限強化を図ろうとするものである。

 民間での自主ガイドラインの普及促進や各種の自主的な措置は進めてしかるべきだろうし、そのこと自体をどうこう言うつもりは全くないが、ここで、 いくらインターネット・ホットラインセンターが警察庁の予算で運営されており、実質的に警察の完全な下部機関として機能しているとは言え、民間団体による民間の自主規制として削除要請を行うという形を取っている以上、その削除要請に従わないからと言って必ずしも問題はないということを完全に失念しているのは非常に問題が大きい。この時点で、警察庁によって上のような権限強化のごり押しが行われるとしたら完全にアウトだろう。

 このような権限強化の根拠として平成24年8月6日から9月5日までの1ヶ月間の調査で、インターネット・ホットラインセンターからの削除依頼にサイト管理者が応じない違法・有害情報数が224件、インターネット・ホットラインセンターからこの違法・有害情報を受理後に警察庁において未だ削除されていないことが確認できた違法・有害情報数が95件、うち広告が確認できたものが44件(46.3%)、うち匿名サイトのものが63件(66.3%)があったという件数をあげているのだが、ここでも「違法情報」と「有害情報」をごっちゃにしている時点で論外である。さらに言えば、そもそも民間団体という建てつけのインターネット・ホットラインセンターに情報の違法性を判断する権限はないのであるから、警察庁としては本来ならばインターネット・ホットラインセンターからの要請のうちどれだけが本当に法律で規制されている違法情報に該当するのかといった妥当性の検証から行わなければならないはずであるが、そのような検証を行った気配は全くない。(警察庁が出している平成24年中の「インターネット・ホットラインセンター」の運用状況等について(pdf)でも、このような検証が行われた様子はない。ただし、この運用状況も含めて考えると、インターネット・ホットラインセンターの要請でも削除されない「違法・有害情報」のうち「違法情報」がおよそ6割、「有害情報」がおよそ4割程度ではないかとの推計はできる。)

 その上、この報告書の「匿名サイトとは、匿名で自由に書き込みや画像の投稿を行うことが可能な電子掲示板を運営しているサイトのことであり、国内のインターネット上の電子掲示板のほとんどは、匿名サイトと位置付けられるものである」という匿名サイトの定義もどうかと思うものである。これならほとんどあらゆるサイトが匿名サイトになってしまうに違いない。

 印象操作ということでは、検挙にまで至った最悪のケースである13件だけを取り上げてあたかも多くのサイト管理者が莫大な広告料を受け取っているかのような印象を与えようとしている点も問題だろう。

 さらに、将来的に民間に資金を出させた上で天下り先にでもしようとしているのか、「第3章 インターネット・ホットラインセンターの民間費用負担の在り方について」で、今現在税金で運営されているインターネット・ホットラインセンターへの民間から費用負担を警察庁が求めているのだが、このような明らかな警察業務のアウトソース機関に資金を出すことに対してはさすがに反発が強かったと見え、この点に関しては「インターネット・ホットラインセンターの民間費用負担の在り方については、国民の利便やインターネットの環境浄化の必要性にかんがみ、国民がインターネットを安全に安心して利活用できるよう、そのニーズを模索しつつ、引き続き検討を重ねるべきである」と継続検討ということになっている。

(2)「サイバー犯罪捜査の課題と対策について」
 2つ目の報告書は、サイバー犯罪捜査の課題と対策について(pdf)資料編(pdf))というものである。こちらの報告書は遠隔操作ウィルスによる冤罪事件に対応するものだが、これほど騒ぎになっているにもかかわらずその内容は非常に薄っぺらである。

 まず、Torなどの匿名化技術を扱っている、「第1章 高度匿名化技術の悪用への対策について」であげられている対策は、

(1) 高度匿名化技術に関する調査・研究の推進
 サイバー犯罪捜査においては、被害に係るコンピュータ端末等から得られる通信に係る記録を基に発信先を事後的に追跡することとなるが、高度匿名化技術はこの事後追跡を困難にするという点において極めて大きな障害となっている。Torについては、既に我が国においても犯罪に悪用されており悪用への対策の必要性が認められるものの、Torはあくまでも匿名化技術の一例であり、他にも多く匿名化技術の研究がなされ、また、ツール化されてきている。
 今後も、情報通信技術の発達に伴い、様々な高度匿名化技術が研究・開発され、ツール化されることが予想されることから、警察において、海外も含めて高度匿名化技術がサイバー犯罪に用いられた事例やそれへの対応策について情報収集に努めるとともに、最新の高度匿名化技術に係る研究、開発、実用化等の動向について調査・研究を推進していくことが求められる。

(2) Torからのアクセスを制限することについて
 Torが本事件を始め、国内外において犯罪に悪用されている状況に鑑みると、Torの犯罪への悪用を防ぐという観点からの対策が求められる。
 Torを用いて行われる通信を、例えば、下記の手法により技術的に制限することが可能であることから、Torによる通信により被害を受けるおそれのあるサイト等当該サイトの特性に応じ、サイト管理者等の判断によりTor を用いた通信を遮断することとすれば、犯罪抑止の観点から一定の効果があると考えられる。

というものであり、さすがにTorブロッキングを大々的に強要するのは無理があったと見え、「Torの犯罪への悪用を防ぐという観点からの対策が求められる(中略)サイト管理者等の判断によりTorを用いた通信を遮断することとすれば、犯罪抑止の観点から一定の効果があると考えられる」と思ったよりおとなしめの書き方になっているが、実際のところは、第3回検討会の発言要旨(pdf)で、

「高度匿名化技術の悪用への対策」の1つとして挙げられている「Torからのアクセスを制限することについて」については、民間でできることの1つとして、実現の可能性を探っていきたいと思っています。
 Torはそもそも表現の自由等の保護のために開発されたものだと思いますが、我が国において、Torを積極的に認めなければならない環境にはないのではないかと思っています。悪用のリスクがあるのであれば、サイバー空間の安全を保つためにこの対策が可能であるならやりたいと個人的には思っていますし、報告書に記載できるのであれば、ぜひ記載していただきたいと思っています。

と、誰だか知らないが、日本国民に表現の自由や通信の秘密など要らないと断言しているのが今の警察関係者の嘘偽らざる本心ではないかと私は疑っている。(これも、そこまで状況が悪くなっていることを示しているに過ぎないが、この発言の後で、さすがにまずいと思ったのか、あの前田雅英首都大学東京教授が委員長として「国でTorを禁止することを報告書に記載することはあり得ません。対策として挙げられているの は、サイト管理者の判断で制限をするということの働き掛けです」と押さえているのには少し驚いた。)

 インターネットの自由にとって極めて重大な意味を持つことなので、警察庁が働きかけを行ったところで、おいそれと従うサイト管理者はそうはいないと思うが、匿名化技術Torこそ諸悪の根源とばかりに上のように報告書に書いたのをいいことに警察庁がTorブロッキングの押しつけをして来ないかどうか十分に注意しておく必要があるだろう。

 また、「第2章 コンピュータ・ウイルス対策について」では、「1 民間事業者等の知見の活用」、「2 諸外国の捜査機関等との連携」、「3 最新の情報通信技術に係る調査研究」、「4 相談窓口の充実」、「5 部門間の連携」、「6 サイバー犯罪情勢に応じた捜査の推進」という項目があげられているが、これらはごく当たり前のことを書いているだけで、項目名で十分なほど具体的な中身がない。

 この報告書の「おわりに」で「なお、こうした対策を警察において主体的に講じていくためには人員、資機材及び予算を含めた警察のリソースの充実が不可欠であることを最後に付言する」としたり顔になお書きを書いているのだが、これこそ本来この検討会で検討し、大いに敷衍すべき点であるにもかかわらず、この一文だけで済ませているあたりがこの報告書の性質の全てを物語っている。

 あれだけの冤罪事件を起こしておきながら、自分たちの捜査手法の見直しや人・機材のリソースの拡充に関する具体的な言及がなく、Torのような価値中立的な技術に責任を転嫁するだけで後は調査研究などでその場をごまかそうとする、このような報告書を出して来るようでは、残念ながら、このような体たらくでは、警察の無茶なサイバー犯罪捜査で冤罪事件は起こり続けるだろうし、日本の警察はインターネット利用者に対する最大のセキュリティホールであり続けることだろう。今後も警察庁の動向に気をつけておくに如くはない。

(なお、最近、internet watchの記事にある通り、警察庁警備局が「サイバー攻撃分析センター」を設置するとの報道があった。上の報告書を作った生活安全局よりはあてになりそうな気もするが、ここで警備局が単に「サイバー犯罪」ではなく「サイバー攻撃」に対応するとしているあたりに役所の強い縦割り意識を感じる。通常のサイバー犯罪については今まで通り生活安全局が担当するのだろうし、報告書でいくら連携について書いたところで、どうにも縦割りのまま事が進められるのではないかという疑念は拭えない。)

(2013年5月20日夜の追記:1カ所誤記を直し、文章を少しだけ整えた。)

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