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2013年2月18日 (月)

第285回:著作権政策を巡る欧州でのいくつかの動き(イギリスにおける著作権規制の緩和の検討の続き・欧州連合における著作権関係の検討の開始・欧州人権裁判所の著作権判決)

 今日2月18日に文化庁で文化審議会著作権分科会が開催された(茂木和洋氏の実況ツイート参照)。今年度の審議会はやはり各関係者の言いっ放しで終わっており、どうにもなっていないが、文化庁の動きにも引き続き注意して行くに越したことはないだろう。

 また、例年通りならじきに知財本部でパブコメが募集されるのではないかと思っているが、それまで多少時間があると思うので、ここで少し著作権政策を巡る欧州でのいくつかの動きについて紹介しておきたいと思う。(ここで取り上げた動きについてはtwitterでも多少触れている。なお、フランスで3ストライク法の見直しが行われようとしていることやアメリカでも6ストライクの話が出ていることなどもあるが、これらの話については、「P2Pとかその辺のお話」でフランス関連記事6ストライク関連記事などを書かれているので、リンク先をお読み頂ければと思う。)

(1)イギリスにおける著作権規制の緩和の検討の続き
 まず、gurdian.co.ukの記事にもなっている通り、時間がかなりかかっているものの、イギリスでは著作権法の規制緩和の話が地道に進んでいる。(前回の意見募集の内容については、第261回など参照。)イギリスのビジネス・イノベーション・技能省と知的財産庁の去年の2012年12月20日の共同リリースによると、検討の結果、イギリス政府として、以下のような項目を含む著作権法改正を予定しているそうである。

  • Private copying - to permit people to copy digital content they have bought onto any medium or device that they own, but strictly for their own personal use such as transferring their music collection or eBooks to their tablet, phone or to a private cloud;
  • Education - to simplify copyright licensing for the education sector and make it easier for teachers to use copyright materials on interactive whiteboards and similar technology in classrooms and provide access to copyright works over secure networks to support the growing demand for distance learning handouts for students;
  • Quotation and news reporting - to create a more general permission for quotation of copyright works for any purpose, as long as the use of a particular quotation is “fair dealing” and its source is acknowledged;
  • Parody, caricature and pastiche - to allow limited copying on a fair dealing basis which would allow genuine parody, but prohibit copying disguised as parody;
  • Research and private study - to allow sound recordings, films and broadcasts to be copied for non-commercial research and private study purposes without permission from the copyright holder. This includes both user copying and library copying;
  • Data analytics for non-commercial research - to allow non-commercial researchers to use computers to study published research results and other data without copyright law interfering;
  • Access for people with disabilities - to allow people with disabilities the right to obtain copyright works in accessible formats where a suitable one is not already on the market;
  • Archiving and preservation - to allow museums, galleries, libraries and archives to preserve any type of copyright work that is in their permanent collection which cannot readily be replaced; and
  • Public administration - to widen existing exceptions to enable more public bodies to share proactively third party information online, which would reflect the existing position in relation to the use of paper copies.
  • 私的複製−何かしらの所有媒体又は機器向けに買ったデジタルコンテンツを複製することを人々に許すこと、ただし、音楽コレクション又は電子書籍を自らのタブレット、携帯電話又はプライベートクラウドに移すような自身の私的利用目的のみに限る;
  • 教育−教育分野における著作権ライセンスを容易化し、教室でインタラクティブなホワイトボードや類似の技術を用いて著作権素材を教師が使用することを容易にし、生徒のため遠隔教育教材に関する増大する要求に応えるべくセキュアなネットワーク上で著作物へのアクセスを可能とする;
  • 引用及び時事報道−どのような目的であれ、特定の引用が「フェアディーリング」でその引用元が分かる限り、より広く著作物の引用を認めることとする;
  • パロディ、カリカチュア、パスティーシュ−フェアディーリングの考えに基づき限定的複製を認める、これは真性のパロディを認めるがパロディと偽った複製を禁止するものである;
  • 研究と私的学習−非商業的研究及び私的研究目的の録音、映像及び放送の無許諾複製を認める。これは利用者の複製と図書館の複製の両方を含む;
  • 非商業的研究のためのデータ分析−非商業的研究者に著作権法の干渉を受けることなくコンピュータを使って公表された研究結果や他のデータを研究することを認める:
  • 障害者のためのアクセス−障害のある人々に、適した形式のものが既に市場にない場合にアクセス可能な形式での著作物を入手する権利を認める;
  • アーカイブと保存−博物館、美術館、図書館及び文書館にその永久コレクションにあり、簡単に取り替えがきかないあらゆる種類の著作物の保存を認める;そして
  • 公的行政−既存の例外を拡大し、紙の複製の使用に関して、その立場を反映する、第三者の情報を積極的にオンラインで共有することをより多くの公的機関に可能とする。

 内容的には前回の意見募集時のものからそう大きく変化しているということはなく、イギリスはきちんと利用者と権利者の間のバランスを考えて検討を進めていたものと知れる。実際にいつ頃法案が提出されることになるのかまではやはり良く分からず、本当に法改正が通るまで何とも言えないところはあるが、このような著作権規制緩和の動きがイギリスで地道に続いていることは注目に値するだろう。

(2)欧州連合(EU)における著作権関係の検討の開始
 ロイターの記事techcrunch.comの記事になっているが、EUも著作権法に関して既存の法制の見直しを進めようとしている。

 欧州委員会の2012年12月5日のリリースによると、欧州委員会は、以下の2つを行うことについて合意したとある。

1) Immediate issues for action: launch of stakeholder dialogue
A structured stakeholder dialogue will be launched at the start of 2013 to work to address six issues where rapid progress is needed: cross-border portability of content, user-generated content, data- and text-mining, private copy levies, access to audiovisual works and cultural heritage. The discussions will explore the potential and limits of innovative licensing and technological solutions in making EU copyright law and practice fit for the digital age.
This process will be jointly led by Michel Barnier, Neelie Kroes and Androulla Vassiliou. By December 2013 the College will take stock of the outcome of this dialogue which is intended to deliver effective market-led solutions to the issues identified, but does not prejudge the possible need for public policy action, including legislative reform.

2) Medium term issues for decision-making in 2014
This track will include the completion of the relevant market studies, impact assessment and legal drafting work with a view to a decision in 2014 whether to table legislative reform proposals. The following four issues will be addressed together: mitigating the effects of territoriality in the Internal Market; agreeing appropriate levels of harmonisation, limitations and exceptions to copyright in the digital age; how best to reduce the fragmentation of the EU copyright market; and how to improve the legitimacy of enforcement in the context of wider copyright reform. Based on the outcomes of this process the Commission will decide on the next steps necessary to complete its review of the EU copyright framework.

1)即時行動項目:利害関係者の対話の開始
 2013年の初期から計画的な利害関係者の対話を開始し、進展が必要とされている次の6つの項目に対して働きかける:コンテンツの国境を超えたポータビリティ、ユーザー作成コンテンツ、データ・テキストマイニング、私的複製補償金制度、視聴覚作品及び文化的遺産へのアクセス。議論はデジタル時代に適したEU著作権法及び実務を作る上での革新的で技術的な解決策の可能性及び限界を探ることを目的とする。
 このプロセスはミッシェル・バルニエ、ネーリー・クロエス及びアンドルーラ・ヴァッシリューの皆によって進められる。2013年12月までに、委員会はあげられている項目に対する有効な市場主導の解決策をもたらすことを目的とした対話の成果を受け取ることとするが、法改正を含む公的な政策決定の必要性についての予断を与えることはない。

2)2014年における方針決定のための中期項目
 この項目は、法改正の提案をするかどうかという2014年の決定を目的とし、関連市場調査、インパクト評価及び法改正案の作成までを含む。次の4つの項目が一緒に検討される:域内市場における属地主義の影響の調査;デジタル時代における調和、制限及び例外の適切なレベルに関する合意;EU著作権市場の分断をなくして行く最善の方法;より広い著作権改革の流れにおいて正当なエンフォースメントをどのように改善するべきか。このプロセスの成果に基づき、欧州委員会はEUの著作権法制の見直しを達成するのに必要な今後のステップに関する決定を行う。

 これに関連して、欧州委員会の今年2月4日のリリース関連資料)にある通り、新たなライセンスのため利害関係者の対話を行うとする欧州ライセンスイニシアティブも公表された。(zdnet.comの記事ip-watch.orgの記事も参照。)

 2013年末か2014年中くらいを目処にそれなりの結論を出すとしているが、ここで、この検討項目中に著作権規制の保護強化に関する明確な言及はない上、権利制限・例外も含めて制度の調和を検討しようとしている点は欧州においても著作権保護強化一辺倒の流れがそれなりに変わって来ていることを示しているだろう。このような検討項目の立て方を見るにつけ、欧州議会における海賊版対策条約(ACTA)の否決はかなり大きな意味があったものと思う。

 欧州でもなおいろいろと問題はくすぶっており、このような検討も今のところガス抜きの域を出ず、ここから何が出て来るかはまだ分からない。ただ、どのような形になるにせよ、EUが中長期のスパンで特許と合わせて著作権についても域内で統合を進めようとしているのは確かだろう。(なお、そのリリース日経の記事時事通信の記事にもある通り、EUはやはり欧州単一特許導入の方針を去年の12月に決定しているが、まだ実務的な課題は多く、実際の導入がその計画通り進むかどうか良く分からない。)

(3)欧州人権裁判所の著作権判決
 また、欧州人権裁判所がこの1月10日に著作権に関する判決を出している。このアッシュビー・ドナルド他対フランス政府事件判決は、そのリリース(フランス語)(pdf)に書かれている通り、「欧州人権裁に訴えた、アッシュビー・ドナルド、マルチオ・マデイラ・モラエス及びオリヴィエ・クレッスらは、それぞれアメリカ、ブラジル及びフランス出身で、1958年、1952年及び1958年生まれで、ニューヨーク、パリ及びル・ペルー・シュール・マルヌに住んでいる。彼らはモード写真家である。事件は、クレッス氏が2003年のファッションショーで撮影した写真についてフランスのオートクチュール協会の許可なくその写真をドナルド氏とモラエス氏の管理するモード関連インターネットサイトで公開したことに対して彼らが著作権侵害罪に問われたことに関するものである。これらの者は特に欧州人権宣言第10条(表現の自由)によって保護されているその権利が侵害されたと訴えた」ものであり、最終的に第10条違反ではない(著作権侵害罪が成立するとしたフランスの裁判所の判断は妥当)とされたものだが、著作権問題が欧州人権裁判所まで行くほどになっているという点で興味深いものなので、ここで合わせて紹介しておく。(この判決については、dailymail.co.ukの記事faz.netの記事(ドイツ語)などにもなっている。)

 この判決(フランス語)で、欧州人権裁は、フランスの著作権侵害の判断が欧州人権条約第10条の表現の自由に抵触するかどうかを決めるには、その措置が「民主的な社会において必要」なものかどうかを決める必要があると前置きをした上で、以下のような表現の自由の判断原則について述べている。

i.  La liberte d'expression constitue l'un des fondements essentiels d'une societe democratique, l'une des conditions primordiales de son progres et de l'epanouissement de chacun. Sous reserve du paragraphe 2 de l'article 10, elle vaut non seulement pour les « informations » ou « idees » accueillies avec faveur ou considerees comme inoffensives ou indifferentes, mais aussi pour celles qui heurtent, choquent ou inquietent : ainsi le veulent le pluralisme, la tolerance et l'esprit d'ouverture sans lesquels il n'est pas de « societe democratique ». Telle que la consacre l'article 10, elle est assortie d'exceptions qui appellent toutefois une interpretation etroite, et le besoin de la restreindre doit se trouver etabli de maniere convaincante.
ii.  L'adjectif « necessaire », au sens de l'article 10 § 2, implique un « besoin social imperieux ». Les Etats contractants jouissent d'une certaine marge d'appreciation pour juger de l'existence d'un tel besoin, mais elle se double d'un controle europeen portant a la fois sur la loi et sur les decisions qui l'appliquent, meme quand elles emanent d'une juridiction independante. La Cour a donc competence pour statuer en dernier lieu sur le point de savoir si une « restriction » se concilie avec la liberte d'expression que protege l'article 10.
iii. La Cour n'a point pour tâche, lorsqu'elle exerce son controle, de se substituer aux juridictions internes competentes, mais de verifier sous l'angle de l'article 10 les decisions qu'elles ont rendues en vertu de leur pouvoir d'appreciation. Il ne s'ensuit pas qu'elle doive se borner a rechercher si l'Etat defendeur a use de ce pouvoir de bonne foi, avec soin et de façon raisonnable : il lui faut considerer l'ingerence litigieuse a la lumiere de l'ensemble de l'affaire pour determiner si elle etait « proportionnee au but legitime poursuivi » et si les motifs invoques par les autorites nationales pour la justifier apparaissent « pertinents et suffisants ». Ce faisant, la Cour doit se convaincre que les autorites nationales ont applique des regles conformes aux principes consacres a l'article 10 et ce, de surcroit, en se fondant sur une appreciation acceptable des faits pertinents.

.表現の自由は民主的な社会に必須の基礎の一つであり、その進歩と各自の発達の最も重要な前提条件の一つである。欧州人権条約第10条第2項の留保の下、それは無害なあるいは中立的な「情報」あるいは「思想」のためのみにあるのではなく、耳目をそばだたせたり、人のに衝撃を与えたり、動揺させたりするようなもののためにもあるのである。このようなことこそ多様性、寛容及び開かれた精神が求めていることであり、これらなくして「民主的な社会」はない。第10条は表現の自由をこのように確立しており、それに付随する例外は常に厳格に解釈することを求められ、表現の自由を制限するときその必要性ははっきりと納得が行く形で立証されていなければならない。
.第10条第2項の意味において「必要」との形容詞は、「差し迫った社会的要請」を意味する。加盟国にはこのような要請の存在の判断についてある程度の評価の幅が許されているが、この評価は、法及び法適用決定に対する欧州的管理も受ける。独立した司法の判断として出されたものであってもそうである。すなわち、欧州人権裁はこの「制限」が第10条の保護する表現の自由と合致するかを確かめる点で最終的な決定権限を有する。
.その管理権限を行使するにあたり、欧州人権裁は、各国司法機関に取って代わるのではなく、その評価権限の下に、各国司法機関が出した決定を第10条の観点から確かめることを役割とする。だからと言って、原告となる国がその権限を誠実に用いていたかを注意深く合理的なやり方で確かめることだけに欧州人権裁が留まるということはなく、欧州人権裁は、事件全体を見て、訴訟の対象となっている干渉が「追求する合法的な目的に対してバランスが取れた」ものになっているかと、国家機関がそれを正当化するのに持ち出す理由が「適切で十分」なものと思われるかとを決定しなければならない。そうして、欧州人権裁は、国家機関が第10条で確立されている原則に合致して規則を適用していることを、さらに、適切な事実から受け入れられる評価に基づきそうなっていることを確認するのである。

 このような原則を述べた上で、判決は、制限の余地のない政治的な言論などに比べると、欧州人権条約が商業分野において各国に与えている表現の自由の評価の幅は広く、ファッションショーの写真の無断配信「行為は主として商業的なもの」として、フランスが著作権侵害としたことに表現の自由との間で抵触はないとしている。

 確かにこのケースのように行為がほとんど商業的な取引の中で終止する場合において、行為は主として商業的なものとされ、著作権侵害の判断が妥当とされたのは結果としてやむを得なかったのかも知れないとは思うが、このような著作権事件が欧州人権裁まで行き、原則から考えれば当たり前のこととは言え、表現の自由のような人権が著作権を上回り得ると欧州人権裁が明確に述べているのは非常に興味深いことと思う。

 この判決で述べられている通り、著作権もまた表現の自由など他の人権との調整が必要な権利であることは間違いない。今のところ表現の自由と著作権の関係が問題となる事件をそう見かける訳ではないが、今後、表現の自由の観点から著作権の行使がはっきりと制限されて来るようなケースが国内外で出て来ることも十分に考えられるだろう。世界的に見てあまりに便利に使われてしまっている著作権だが、著作権もまた無敵の権利ではあり得ないのである。

(2013年2月19日夜の追記:誤記を訂正し、また、1カ所翻訳が正確でなかったので修正した(「この厳格解釈の必要性は確かな形で確立されていることである」→「表現の自由を制限するときその必要性ははっきりと納得が行く形で立証されていなければならない」)。)

(2013年3月31日の追記:上のBIS省のリリースにはより詳しい資料へのリンクがないので、念のため、イギリス知的財産庁の方のリリース意見募集回答資料(pdf)へのリンクをここに張っておく。)

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