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2012年6月12日 (火)

第273回:「『違法ダウンロードへの罰則導入』に関するQ&A」に関するQ&A

 ダウンロード犯罪化に反対するための資料としては、日弁連の意見会長声明)やMIAUの反対声明が簡にして要を得ており、さらに追加するべきこともないくらいだが、著作権団体のロビー資料のQ&A(MIAUのツイートあるいは津田大介氏のツイート参照)に書かれているような間違った理解が広まったらそれはそれで大問題なので、前々回で取り上げた海外事情に加えて、そのQ&A全体に対する反論をやはりQ&A形式でここに書いておく。(ただし、ダウンロード犯罪化に関する私の意見自体は第256回でも書いており、内容に大差はない。)

(以下、Q&A。Q19までは著作権団体のロビー資料のものと1対1に対応させたものだが、ロビー資料の回答を見て質問を少し作り変えていることにご注意頂きたい。)

Q1:違法ダウンロードを罰則の対象とすることは「知財立国」や「健全なインターネット社会の発展」のためになるか?

⇒ダウンロード犯罪化はまず間違いなく社会のためになりません。政策決定において、「知財立国」や「健全な社会」のような見てくれの良い言葉で思考停止することほど危険なことはありません。どのような規制にもメリットだけではなくデメリット・コストも存在しています。既に著作権保護強化は行き過ぎて文化や経済の発展を阻害しており到底「知財立国」などとは言えない状態ですし、単なるインターネットアクセスで山のように青少年が逮捕されるような社会は到底「健全」とは言えないでしょう。短絡的な思考停止を避け、メリットだけではなくきちんとデメリットも踏まえ、政策決定はされなくてはいけません。

Q2:平成21年の著作権法改正以降立法事実の変化はあるか?

⇒いまだに単なるダウンロードに対する民事訴訟の例はなく、前回のダウンロード違法化の法改正以来何ら立法事実の変化はありません。もしダウンロード違法化に効果がないというのなら、前回の法改正自体、改正の根拠となる立法事実がなかったということでしょう。

Q3:違法アップロード者を取り締まることでは十分に対応できないのか?

⇒インターネットにおける海賊版対策は基本的に違法アップロードの取り締まりで対応することが可能です。アップロードへの対処で不十分だとする理由は説得力を欠きます。海外においても多くの国でアップロードは違法・犯罪とされているのでしょうから、対応が不可能ということはないでしょう。アップロードへの対処に困難性があるのであれば、その困難性を下げることをまず考えるべきであって、そこからダウンロードを違法化する・犯罪化するといったようなさらにエンフォースに困難性がともなうだろうような規制強化に短絡的に飛びつくのは非常に危険なことです。

Q4:Lマークでコンテンツの合法違法を区別がつけられるか?

⇒Lマークはネット全体のなかでごくわずかなサイト・コンテンツにつけられているだけであって、あらゆるサイト・コンテンツの合法違法の区別をできるものでは到底ありません。そもそもLマークのようなごく一部の業界団体が権利を所有しているマークがネットにおけるあらゆるコンテンツの違法合法の区別を示すなどということは不当以外の何物でもないでしょう。さらに言えば、Lマークの存在自体普通の人はほとんど知らないでしょう。

Q5:違法ダウンロード者を取り締まることは可能なのか(罰則をつけても効果がないのではないか)、違法ファイル共有ユーザーに対する量刑が重くなるか?

⇒故意性やコンテンツの違法性の認識の立証、プライバシーなどに関する数々の問題点をまともに考えたらダウンロードに対する取り締まりは実際にはほとんど不可能です。全ての問題点を踏みにじって著作権団体と警察によりエンフォースが行われることも考えられなくはありませんが、その場合は摘発は恣意的なものたらざるを得ず、やはり非常に大きな問題が発生します。いずれにせよ、ダウンロード違法化や犯罪化のようなやり方は、法のさらなる弛緩か、恣意的な執行による正当な利用の萎縮のどちらかに転ぶしかない最低最悪の手段と言えます。また、実際の司法判断を待たなければ何とも言えないところもありますが、アップロードとダウンロードを同時に行う違法ファイル共有における罪数処理は難しく、量刑が重くなるとは一概に言えないでしょう。そもそも違法ファイル共有が問題であるのならば、スジ違いのダウンロードに対する罰則付与ではなく、違法ファイル共有への対策を特に講じるべきでしょう。

Q6:正規サービスの充実こそ最大の違法コピー対策ではないのか?

⇒ここで問題となるのは価格だけではなくDRM・利便性も含めたサービス全体ですが、正規サービスの充実以外の対策はどこをどうやっても付け焼き刃にしかならないでしょう。

Q7:ダウンロードできないように技術的にコントロールできないのか?

⇒DRMによるコピー・アクセスコントロールの問題はユーザーの利便性や情報アクセス権の観点からも含め別途議論されるべき問題で、ダウンロード違法化・犯罪化問題とは直接関係ありません。

Q8:他国の法制はどうか?

⇒世界でもダウンロードを違法化・犯罪化してまともにエンフォースしようとした国はドイツくらいしかありませんが、そのドイツでは法改正の結果生じた刑事訴訟の乱発による混乱の反動がなお続いており、反面教師としてしか参考にならないでしょう。第271回参照。)

Q9:世界で単なるダウンロードに対する刑事訴追事例はどれくらいあるのか?

⇒単なるダウンロードに対する刑事訴追は世界でも1例もありません。第271回参照。)

Q10:国民への周知はどこまで可能か?

⇒ダウンロード違法化と同程度には文化庁・著作権団体が周知しようとするでしょうが、一般国民の常識と乖離した法改正の周知には自ずと限界があります。ダウンロード違法化すら十分に周知されているとは言い難い現状で犯罪化までしたのではさらに混乱に拍車がかかるでしょう。

Q11:罰則の導入によりインターネットの利用は萎縮しないのか?

⇒あらゆるコンテンツについて合法違法の区別が明確につくなどということはありえず、著作権団体と警察による法律の恣意的な運用によりインターネット全体の利用が萎縮する可能性は十分にあるでしょう。ダウンロード犯罪化条項が実質的にエンフォースされないことにより、萎縮が一時的なものにとどまる可能性もありますが、そのような場合も、やはり法改正は有害無益なものであるとしか言いようがありません。

Q12:罰則の導入は、違法ダウンロードを理由とした警察権力の不当介入につながらないのか?

⇒強制捜査に令状が必要なのは当然のことですが、ダウンロードについて令状の必要性を疎明するために警察がどれだけの事実・資料を必要とするのかという点こそが本質的な問題点です。運用次第ですが、ダウンロードに利用されたと思われるIPアドレスと権利者の告発だけで疎明に足るとしたらほとんど何の制約にもなっておらず、濫用される懸念は非常に強いと言わざるを得ません。アニメ画像1枚の利用でウィルス作成者が逮捕された過去の事件のことを考えても、警察は別件逮捕などのためにこのような条項を使いに来ることでしょう。過剰捜査ということとは少しずれますが、ドイツではダウンロード違法化・犯罪化にともなう刑事訴訟の乱発が社会問題化したことがあります。

Q13:ダウンロードで子供・青少年が摘発されるだろうことについてその育成上の問題はないのか?

⇒このような法改正がなされた場合、子供がコンテンツをダウンロードしたというだけで警察が家に踏み込んで来ることになりかねませんが、このようなことで家庭をメチャクチャにすることが正しいこととは到底私には思えません。後に不起訴となったとしても、警察による捜査・逮捕の時点で家庭は崩壊の危機に瀕することでしょう。なお、このような警察権力の家庭への侵入の問題は別に子供・青少年に限った話でもありません。

Q14:ダウンロードに罰則を付けた場合、動画ダウンロード支援サイト「TUBEFIRE」のようなサイトからのダウンロードユーザーに対する適用があり得ることになるのか?

⇒場合によってダウンロード支援サイトのユーザーに対する罰則の適用もあり得るということになるのでしょうが、本当に適用された場合、コンテンツの違法性の認識の立証、故意性の立証の面で非常に大きな問題が生じるでしょう。このようなサイトを利用していたことのみをもってその証拠とするような運用がされたとしたら、リンクを踏むだけでも警察の捜査・逮捕があり得ることになり、インターネットの利用に対して甚大な萎縮が発生することになるでしょう。また、幇助(民事なら間接侵害)の問題もあり、リンクを張ることすら危なくなるでしょう。

Q15:違法ダウンロードに罰則をつければCDの売り上げが増加するか?

⇒ダウンロード犯罪化でCDの売り上げが増加することはないでしょう。世界を見渡しても、著作権の保護強化がCDの売り上げに有意なプラスの影響を与えた例はありません(第271回参照)。世界で一般的に見られる音楽配信の売り上げ増についても、カタログの充実やDRMの廃止などの正規サービスの充実の方が一般国民の常識を離れた著作権法改正よりはるかに効いていると考える方が妥当です。

Q16:「刑法の謙抑性」の原則から、私的領域における行為に対する刑事罰の導入には極めて慎重であるべきではないのか?

⇒情報へのアクセス・単なるダウンロードは本来他人が知るべきでない私的な行為であり、このような行為に対する刑事罰の導入には極めて慎重であるべきなのは無論のことです。知的財産権はあくまで社会的な便宜のために創設された人工的な権利であり、知的財産侵害品の単純購入や単純所持を禁じていることはありません。この点で、有体物の窃盗と、無体物である知的財産権の侵害を混同するのは、常に論理飛躍をもたらす危険なアナロジーです。

Q17:個人のプライバシー権侵害の懸念はないのか?

⇒Q12に対する答えでも書きましたが、運用次第とは言え、令状の必要性を疎明するためにダウンロードに利用されたと思われるIPアドレスと権利者の告発だけで足りるとしたらほとんど何の制約にもなっておらず、警察の濫用による個人のプライバシー権侵害の懸念は非常に大きいものと言わざるを得ません。

Q18:スイスやオランダは市場規模や自国音楽シェアのみからダウンロードを合法のままとしたのか?

⇒スイスやオランダも市場規模や自国市場における自国音楽のシェアのみからダウンロードを合法のままとしたのではありません。両国とも、ダウンロード違法化・犯罪化のようなやり方が自由でオープンなインターネットに反すること、プライバシーや表現の自由の観点から問題があること、告発・訴訟の乱発・濫用の懸念があることなどを正しく認識してダウンロード違法化・犯罪化をしないと決定しています。第271回参照。)

Q19:ダウンロード行為に刑事罰を付することとした場合、権利者によって情報の流通がコントロールされ、国民の情報アクセス権が害されるおそれはないのか?

⇒ダウンロード犯罪化は、運用次第でインターネットの利用に甚大な萎縮が発生し、引いては国民の情報アクセス権を害しかねない危険な規制強化です。対象を有償著作物に限れば良いとするようなことはあくどい問題のすり替えであって、このような対象の限定は問題の本質とは関係ありません。今のところは恣意的な運用の懸念があるというレベルの問題だと思っていますが、これを本当に完全にエンフォースしようとしたら、あらゆる情報アクセスを監視するために一大ネット検閲システムを警察で構築することが必要になって来るでしょう。そこまでの懸念は杞憂であって欲しいと私も思っています。

<おまけのQ&A>
Q20:3行でお願いできますか?

⇒3行でまとめるのは無理ですが、以前Twitterで上で書いたようなことをつづめて「ダウンロード犯罪化の動きの問題点:1.不透明な立法プロセス、2.違法ダウンロードの民事訴訟もなく立法事実に変化なし、3.違法・合法の区別がつかない、4.パロディ・研究等との関係が未整理、5.警察権力の不当な伸長の恐れ、6.ネット検閲につながる恐れ、7.海外でも訴追例・成功例は皆無」と書きました。さらに言えば、前回のダウンロード違法化自体間違った法改正であり、合法化するべきと私は考えています。

Q21:ダウンロード犯罪化の立法プロセスにおける問題はどこにあるのでしょうか?

⇒議員立法あるいは内閣提出法案の修正自体はあり得るプロセスであり、立法プロセスそのものが違法だということはありませんが、このような全国民に大きな影響を与えかねない法改正を不透明な与野党談合で実質審議なしで通そうとしていることが大問題です。立法府の本来の職務を放棄しているに等しい、このような不透明なやり方は大きな禍根を将来に残すことになるでしょう。

Q22:パロディとの関係はどうでしょうか?

⇒今のところパロディに関する明確な規定は著作権法上になく、パロディとの関係でもコンテンツが合法か違法かを見分けるのは難しいというのが現状です。また、ダウンロード犯罪化は、公正な利用と考えられる、一般的な研究などのための情報入手に影響を及ぼす可能性もあるでしょう。ここで、ダウンロード犯罪化の話は、文化庁が今期の文化審議会で検討するとしているパロディ規定の話とは直接関係ないことにも注意が必要です。

Q23:この問題に懸念を持つネットユーザーはどうしたらいいのでしょうか?

⇒一番重要なことは自分で情報を集め自分の頭で考えて自分で行動することです。衆議院文部科学委員会でダウンロード犯罪化がすぐにも採決されるかも知れないという予断を許さない情勢ですが、もし本当に懸念を持っておられ、何かできることはないかとお考えのようでしたら、メールでも電話でも構わないと思いますが是非まず地元の国会議員の方にご自分の懸念を丁寧に自分の言葉でお伝え下さい。

(2012年6月12日夜の追記:Q7の回答に「や情報アクセス権」という言葉を追加するとともに、いくつか誤記を直して文章を整えた。)

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