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2012年4月 9日 (月)

第268回:中国の著作権法改正案と最高人民法院のフェアユースに関する意見

 前回の韓国動向のついでとして、今回は中国の著作権法を巡る話を書いておきたい。

(1)中国の著作権法改正案
 中国で大議論となっている所為か、日本でも多少話題になっているが、この3月31日に、中国の国家版権局が著作権法の改正案について意見募集を開始している。(中国国家版権局の意見募集ページ(中国語)人民網の記事(中国語)など参照。)

 中国らしい改正であり、個人的には驚くべきところはさほどないと思っているが、中国の今回の著作権法改正案はかなりの大改正となっているので、ここでもこの法改正案の概要について触れておきたいと思う。

 中国政府の概要説明(doc)条文案(doc)から、今回の著作権法改正案のおよその内容を書き出してみると、以下のようになるだろうか。(なお、現行法については、中国国家版権局の条文ページ参照。)

  1. 定義の拡充(実用芸術作品を特に明確に著作物の類型として追加するなど)
  2. 財産権と人格権の区別の条文上の明確化
  3. 著作権の帰属規定の拡充(職務著作や共同著作における権利帰属の明確化など)
  4. 保護期間規定の修正(実用芸術作品の保護期間を25年とするなど)
  5. 隣接権規定の整理・拡充(実演家の貸与権、放送におけるレコード使用時の実演家とレコード製作者の報酬請求権の追加など)
  6. 権利制限規定の拡充(プログラムのバックアップのための複製、リバースエンジニアリングや互換性確保のための権利制限の追加など)
  7. 強制許諾制度の追加(教科書、出版、レコード製作、放送のための強制許諾規定の創設)
  8. 契約規定の修正(独占的ライセンスあるいは移転契約の登録制度(効力は第3者対抗)の創設など)
  9. 著作権管理団体規定の著作権法への導入(中国国務院に監督・管理される著作権管理団体に関する規定の導入)
  10. DRMの回避と権利管理情報の除去・改変規制の導入(アクセスコントロール回避を含む。例外あり)
  11. エンフォースメント関連規定の拡充(ネットワークサービスプロバイダーの免責規定の著作権法への導入、故意に2回以上権利侵害をした場合に3倍までの賠償金を課せるとする規定の導入など)

 中国では、著作権法の他にも関連法令や司法解釈が沢山あり(中国国家版権局の法律法規ページ、中国国家知識産権局の法律法規ページなど参照)、また著作権以前の問題として一大ネット検閲が行われているので、著作権法だけ見ていれば良いという訳ではないことに注意が必要だが、この法改正案はかなりの大改正と言って良く、様々な条約上の義務を果たす形にもなっており、本当にこの法改正が通った場合、中国は世界でも著作権についてかなり保護強化に傾いた国になると言って差し支えないだろう。

 特に、この著作権法改正案には、実用芸術作品に25年の保護を与えるとして、著作権法で実質的に意匠・デザインを保護しようとしていることや、プログラムについてリバースエンジニアリングや互換性確保のための権利制限を導入しようとしていることなど、興味深い点がいくつもある。また、実際にこのような法改正が通った場合、中国のことなので、DRM回避規制条項など当局によって濫用される恐れが強いのではないかとも思う。

 また、何故この部分だけクローズアップされているのか正直理解に苦しむが、日本でも何かしら話題になっていると見えるので、レコード製作のための法定許諾に関する第46条及び第48条をここで訳出しておくと、以下にようになる。(以下、例によって翻訳は拙訳。)

第46条 録音は最初の出版の三ヶ月後、本法第48条の条件により、著作権者の許諾を得ることなく、その他のレコード製作者がその音楽作品を製作する録音に使用することができる。

第48条 第44条、第45条、第46条及び第47条の規定に基づき、以下の条件に合致する場合は、著作権者の許諾を得ることなく、その既に公表された作品を使用することができる:
(一)使用前に国務院の著作権行政管理部門に申請書を提出すること;
(二)使用時に著作者の氏名、作品の名称と作品の出所を明示すること;
(三)使用後一ヶ月以内に国務院の著作権行政管理部門が制定した基準に従って著作権管理団体に使用料を支払い、同時に使用作品の作品名称、著作者の氏名と出所等の関連情報を報告すること。
 使用者が法定許諾の申請書を提出した時、国務院の著作権行政管理部門はその官方網に申請書の情報を広告する。
 著作権管理団体は前記の使用料を適時関係する権利者に給付し、作品の使用状況の照会システムを作成し、権利者が無償で作品の使用状況と使用料の給付状況を照会できるようにする。

 この条文をそのまま読むとかなりラディカルな法定許諾が入るようにも読めるが、概要説明によると、今まで勝手に使用していた人間が結構いたので、権利者が報酬を取れるようにするという目的が背景にあるらしく、中国の現状も考えると、このような法定許諾条項の是非も実際には中国当局の運用次第としか言いようがない。

 DRM回避規制を始めとして、中国当局による濫用の懸念が強い条項がかなりあるというのがこの著作権法改正案に対する個人的な感想だが、権利制限に関する部分などでバランスを取ろうとしている形跡も見え、中国の話ながら、この改正案の行方も注意しておいて損はないに違いない。

(2)中国最高人民法院のフェアユースに関する意見
 また、最高人民法院が、去年2011年の12月20日に「知的財産権の裁判の機能的役割を充分に発揮し、社会主義文化の発展・繁栄及び経済の自主・協調的な発展を促進するための若干の問題に関する最高人民法院の意見」という意見を公開しているので(中国最高人民法院のリリース関連写真・文書参照)、ここで合わせて紹介しておきたい。

 ここでは特に、意見本文(doc)の中から、ネットワークと著作権の問題に関する「二、文化に関する知的財産案件の裁判の強化、文化の創造の促進と新しい文化形式の育成、社会主義文化の発展・繁栄の積極的な推進」の6~8を以下に訳出する。

6.ネットワーク環境における著作権保護を強化し、著作権の保護並びにネットワーク産業の発展及び情報通信の保障の関係を適切に処理する。ネットワーク環境における著作権保護に関する法律、行政法規と司法解釈の本質的な考え方を正確に把握し、特に、権利者、ネットワークサービスプロバイダーと公衆の間の利益のバランスを正確に把握し、ネットワーク環境における著作権保護を強化し、また、情報ネットワークの技術革新とビジネスモデルの発展に注意して、公衆の利益を確保する。作品、実演、録音録画の提供行為とネットワークサービスの提供行為の区別を正しく把握し、ネットワークサービスプロバイダーの免責と責任帰属に関して、「通知と削除」の規則と過失責任、ネットワークサービスプロバイダーの権利侵害における過失と一般的な権利侵害過失の区別等の関係について適切な処理を行う。ネットワークサービスプロバイダーが法律上の免責条件に合致する場合、ネットワークサービスプロバイダーが権利侵害の賠償責任を負うことはない。法律上の免責条件に完全に合致しない場合でも、ネットワークサービスプロバイダーに過失がない場合にはやはり賠償責任を負わない。情報ネットワーク環境の利点と実情に基づき、ネットワークサービス提供行為の権利侵害における過失の認定を正確に行い、権利侵害事実における明らかな過失の基準に基づき過失を認定して、ネットワークサービスプロバイダーに一般的な事前の判断義務及び比較的高いレベルの注意義務を負わせることをせず、ネットワークサービスプロバイダーによる主導的な権利侵害防止及び権利者との協調による積極的な権利侵害の防止を適切に促進する。「通知と削除」の基本的な価値を維持し、明らかな権利侵害の事実に基づきネットワークサービスプロバイダーが明らかにそうと知っているか知っていると考えられる状況にあると認められる場合を除いて、ネットワークサービスプロバイダーの権利侵害における賠償責任を追及し、まず、前提として「通知と削除」の規則の適用をまず行い、ネットワークサービスプロバイダーの過失認定の基準が下がって「通知と削除」の原則が有名無実化することを防止する。また、第三者によるそのネットワークサービスを利用した権利侵害について、ネットワークサービスプロバイダーがその懈怠により、「通知と削除」の規則を濫用することを防止する。

7.技術的中立と権利侵害行為の認定の関係を適切に処理し、著作権の有効な保護と技術革新、産業の発展の調和を実現する。技術的手段が有する所の価値中立性と多用途性を正確に把握し、また、技術が反映・体現する所の技術提供者の行為と目的を充分に認識しなければならない。技術からもたらされた所の権利侵害の結果を無条件に技術提供者の責任に帰したのでは、技術の革新と発展を窒息させてしまうのである。ただし、技術的中立も絶対的なものとすることはできず、簡単に技術的に中立とするのも責任免除の防壁を作ってしまうことにつながり不適切である。実質的に非侵害の商業的用途を有する技術については、技術提供者の連帯責任の条件を厳格に把握し、技術提供者が直接侵害行為の存在を知っていたと考えられると推定できない時には、その他幇助あるいは教唆行為を備えているという条件でのみ直接侵害者とともに連帯責任を負う。その主な用途として著作権侵害以外の商業的用途を有さない技術については、技術提供者は具体的な直接侵害行為の存在を知っていたと考えられると推定し、直接侵害者とともに連帯責任を負うべきとする。ネットワーク上の著作権、「三網融合」等の新興産業の著作権に関する案件を審理する時には、特に、技術的中立の考え方を正確に把握し、科学技術の促進と産業の革新を補助しつつ、技術的中立の名の下に権利侵害が行われることを防止する。

8.著作権法の制限及び例外規定を適切に運用し、訴えられた権利侵害行為の合法性を正確に判定し、産業と技術革新を促進し、国民の基本的な文化的権益を充分に保障する。合理使用及び法律で許されている行為を正確に認定し、法により作品の正当な利用と頒布を保護する。技術革新の促進と産業の発展において必要とされる特別な状況において、作品の使用行為の性質と目的、使用される作品の性質、使用される部分の数と量、作品の潜在的な市場あるいは価値に対する使用の影響等の要素を考慮し、作品の通常の利用を妨げず、著作権者の正当な利益を害さない場合には、合理使用と認めることができる。室外の公共の場所に設置あるいは陳列された芸術作品の模写、描画、撮影、録画や、その成果物の合理的なやり方と範囲での再利用などがあげられ、無論この使用行為が商業目的を有している場合といない場合のいずれであっても合理使用と認めることができる。

 実際、上でも書いた通り、中国では著作権以前の問題として一大ネット検閲が行われていることなどに注意が必要なのだが、この部分だけ取り出して見れば、他の通常の民主主義・資本主義国家とほとんど遜色のないことが謳われていると言って良い。

 特に、この意見中で、合理使用の権利制限について、作品の使用行為の性質と目的、使用される作品の性質、使用される部分の数と量、作品の潜在的な市場あるいは価値に対する使用の影響等の要素を考慮すると、ほぼアメリカと同等の要素をあげているのは注目に値するだろう。残念ながら、このような考慮要素に基づく権利制限の一般条項は上で紹介した今回の改正案には入っておらず、今のところこのような一般的な権利制限の考え方に基づく判決が中国で存在しているという話も聞かないが、このような考慮要素に基づく一般的な権利制限の考え方が中国法・中国の司法判断に浸透して行く可能性は大いにあるだろうし、権利制限の一般条項・フェアユースを巡る国際動向については今後中国も含めて注意して行くべきではないかと思う。

 一大ネット検閲国家ではあり、必ずしも参考にならないだろうが、中国法に関する話もまたメリット・デメリットの両面で参考にして良いところもあるだろうと私は考えているのである。

 もしかしたら他の話と前後するかもしれないが、かなり前からフェアユース国となっている台湾の話を次に書きたいと思っている。

(2012年4月10日夜の追記:中国国家版権局の意見募集ページへのリンクが間違っていたので修正した。また、何故か国家版権局より国家知識産権局の法律法規ページの方が関連法規・司法解釈が充実しているので、参考にリンクを追加した。)

(2012年4月11日夜の追記:人民網の記事(中国語)によると、中国でかなり騒ぎになっている所為か、中国国家版権局の副司長がこの著作権法改正案第46条は第48条と合わせて読む必要があり、この改正案は権利者の権利の切り下げを行おうとするものではないと解説したようである。ただし、同じく人民網の別の記事(中国語)によると、様々な意見に対する版権局の正式な回答は4月末になりそうとのことであり、もうしばらく中国ではこの著作権法改正案を巡って喧々諤々の議論が続きそうである。)

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コメント

失礼します
日本共産党の宮本たけし議員の日記からです

無許可ダウンロード罰則化の動き、来週にも文科委で可決か?
http://www.miyamoto-net.net/column2/diary/1334403078.html
来週金曜日にも採決を行う動きが強まりつつあるとのこと

あらゆる過程を省略しようとしているみたいですね

投稿: reon | 2012年4月15日 (日) 01時42分

reon様

どうしようもなく急な動き方をしていますね。
情報ありがとうございます。

投稿: 兎園 | 2012年4月15日 (日) 23時05分

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