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2011年12月25日 (日)

第261回:イギリスにおける権利制限関係の著作権法改正議論の進展

 この12月22日に日本の私的録音録画補償金裁判でメーカー側実質全面勝訴の高裁判決が出されたり(ITproの記事日経パソコンの記事参照)、アメリカではオンライン海賊対策法案の審議が続いていたりと(「P2Pとかその辺のお話」のブログ記事参照)、最近も話題に事欠かないが、これらの話はひとまず他にまかせ、ここでは、少しずつではあるが進展を見せているイギリスの権利制限関係の著作権法改正議論のことを取り上げる。

 この12月14日にイギリス知的財産庁が開始した著作権法改正に関する意見募集のリリースには、以下のように書かれている。

Government plans to improve UK's copyright laws

Proposals to modernise the copyright system and remove unnecessary barriers to growth were unveiled by the Government today.

The consultation, which follows up the recommendations in the Hargreaves Review of Intellectual Property and Growth, is part of a wider programme of work from government that includes action to tackle online infringement of copyright and to make sure the copyright system best encourages the creation and use of music, books, video and other copyright material.

The proposals include:

Creating an exception to allow limited acts of private copying - for example making it legal to copy a CD to an MP3 player. This move will bring copyright law into line with modern technology and the reasonable expectations of consumers.

Widening the exception for non-commercial research to allow data mining, enabling researchers to achieve new medical and scientific advances from existing research. Currently researchers cannot use some new computer techniques to read data from journal articles which they have already paid to access without specific permission from the copyright owners of each article.

Introducing an exception for parody and pastiche, to give comedians and other people the creative freedom to parody someone else's work without seeking permission from the copyright holder.

Establishing licensing and clearance procedures for `orphan works' (material with unknown copyright owners). This would open up a range of works that are currently locked away in libraries and museums and unavailable for consumer or research purposes.

Introducing provision for voluntary extended collective licensing schemes, which would make it simpler to get permission to use copyrighted works and help ensure rights owners are paid. These schemes would allow authorised collecting societies to license on behalf of all rights holders in a sector (except for those who choose to opt out).

Modernising other exceptions to copyright including those for education, quotation, and people with disabilities.

Minister for Intellectual Property Baroness Wilcox said:

"The Government is focused on boosting growth and some freeing up of existing copyright legislation can deliver real value to the UK economy without risking our excellent creative industries. We are encouraging businesses to come forward with thoughts and evidence on our proposals to help us achieve this.

"It's an exciting time for the development of intellectual property in the UK. We have already appointed Richard Hooper to run a feasibility study into a Digital Copyright Exchange and this consultation is the next step to ensure copyright legislation in the UK keeps up to date with emerging technologies and consumer demand."

The Government is encouraging responses to the consultation which will close on 21 March.

イギリス政府、著作権法の合理化計画を公表

著作権法制を合理化し、成長に対する不必要な障害を取り除くための提案が、今日政府から公表された。

本意見募集は、ハーグリーヴス報告書の提言を受けたものであり、オンラインにおける著作権侵害に対抗し、著作権法制が、音楽、本、動画等の著作物の創造と利用を最も良く促進することを確かなものとするための行動を含む、政府の広い作業計画の一部をなすものである。

この提案は、以下のことを含む:

私的複製の限定的行為を許容する例外の創設-例えば、CDからMP3プレーヤーへのコピーを合法化することなど。このことにより、著作権法は現代の技術と消費者の合理的期待とより合致したものとなる。

既存の研究から新たな医学的、科学的進展を作り出すことを研究者に可能とする、データマイニングを許容するための非商業的研究のための例外の拡充。現行法の下では、それぞれの記事の著作権者からの特別な許諾なしに、既にアクセスのために支払いをしている刊行物の記事からデータを新しいコンピュータ技術を用いて研究者が読み取ることはできない。

著作権者の許諾を求めることなく他人の作品をパロディ化する創造的自由を、喜劇作家他の人々に与えるための、パロディとパスティーシュのための例外の導入。

「孤児作品」(著作権者不明の著作物)のためのライセンス及びクリアランス手続きの確立。このことにより、現行法の下では、図書館及び博物館で秘蔵され、消費者あるいは研究者に入手不能となっている作品のある程度を開くことができる

著作物の利用許諾を得ることを容易とし、権利者への支払いを確かなものとする助けとなるであろう、自主的な集合ライセンスの仕組みの拡充のための規定の導入。この仕組みは、認可を受けた著作権管理団体に(オプト・アウトを選んだ者を除き)あるジャンルの全権利者の代表としてライセンスを行うことを許すものである。

教育、引用及び障害者のための例外等、他の著作権法上の例外の合理化。

バロネス・ウィルコックス知的財産担当大臣は、以下のように述べている:

「イギリス政府は成長の促進に注力しており、現行の著作権法からの解放は、私たちの素晴らしい創造的産業を危険に晒すことなく、イギリスの経済に真の価値をもたらすであろう。このことの達成に力を貸し、見解と証拠をもってこの提案に前向きに取り組んでくれるよう、私たちは産業界に促している。

今は、イギリスにおける知的財産の発展にとって刺激的な時である。私たちは、デジタル著作権取引所について具体的な検討の実行のためにリチャード・フーパーを指名しており、この意見募集は、イギリスにおける著作権法を最新の技術及び消費者の要求と合わせ続けるための次のステップである。」

イギリス政府は、3月21日を〆切とするこの意見募集に対して積極的な意見提出を求めている。

 このリリースだけでも大体のことは分かると思うが、同時に公表された意見募集用資料(pdf)の内容から、イギリス政府が考えている著作権法改正の主なポイントをあげると以下のようになる。

  • 十分な調査をした後、権利者団体あるいは著作権裁判所などの公的機関の許可により、孤児作品を使えるようにすること。
  • 特定の条件を満たす時、著作権団体が、オプトアウト方式で、その所属メンバーだけでなく、あるジャンル全体の代表としてライセンスを与えられるとすること。
  • 著作権団体の規約の最低基準を設定し、遵守しなかった場合に罰を科せるようにすること。
  • 個人利用のための私的複製の例外の導入。
  • 映像や音楽作品も含め複数の保存用コピーが作れるようにし、図書館だけでなく博物館などでも保存用のコピーを作れるようにする、図書館などのための例外の拡充。
  • 全てのメディアをカバーするよう、研究及び私的勉強のための例外の拡充。また、同施設内での研究及び私的勉強のための著作物の電気通信のための例外の導入。
  • 非商業的な研究のためのデータマイニングを目的とした、著作物全体の複製の可能化。
  • パロディ、カリカチュア及びパスティーシュのための例外の導入。
  • 映像や音楽作品も含め、より広い技術で複製が作れるようにし、複製可能な部分の割合を増やし、遠隔教育もカバーできるようにし、教育機関の定義も広げる、教育のための例外の拡充。
  • 障害者の定義を広げ、映像なども含めるようにする、障害者のための例外の拡充。
  • EU指令に合わせる形で、批評以外の目的での引用もカバーできるようにする、批評のための例外の拡充。
  • 関係資料をオンラインで公開できるようにする、行政のための例外の拡充。

 この新たな意見募集は今年5月のハーグリーヴス報告書の提言を受けたもので(イギリス知的財産庁のHP参照)、多くの重要な論点を含んでおり、意見募集用資料で、より一般的な形でのフェアディーリング規定の導入も検討の選択肢として書かれていることも注目に値するが、私が中でも特に注目しているのは、私的複製の権利制限とパロディの権利制限の導入の提案である。

 まず、私的複製の権利制限については、資料の第61ページから書かれているが、特に、第65ページで、以下のように、その多くの問題点を正しく指摘し、私的録音録画補償金を導入しないという方針が明確にされているのは高く評価するに値する。

Private copying levies

EU law permits exceptions for private copying, but requires that if such an exception causes economic harm to copyright owners, then compensation should be provided to them. With this in mind, many EU countries that have wide private copying exceptions have introduced levy systems - charges on certain digital media and devices that enable copying, such as blank DVDs, scanners and computers.

Levies vary considerably between EU states. They are applied to different media and devices at different rates, and appear to bear little relation to the actual harm caused by private copying. In Sweden, a 64GB iPod attracts a 19 euro levy compared with a 1.42 levy in Latvia. There is also inconsistency in the application of levies to different copying devices. For example, only four EU states extend a levy to personal computers and twelve states extend a levy to printers, whereas most apply levies to blank CDs. Most of the cost of levies is borne by consumers through higher prices.

There is evidence that levies are inefficient and inexact methods of compensating copyright owners, and that they distort markets. They also mean that consumers can end up having to pay twice for the right to copy content - once through the price of content when they buy it, and again via a levy when they buy a copying device. Consumers also have to pay levies if they intend to only store content they have generated themselves - for example copying home videos to blank DVDs.
In view of these problems, the Government does not intend to in troduce a private copying levy. To avoid having to implement a system of compensation, we will therefore need to ensure that any harm caused to copyright owners as a result of a private copying exception is kept to a bare minimum .

私的複製補償金

EU法は私的複製のための例外を認めているが、例外が著作権者に経済的害をもたらすようであれば、権利者に補償がなされることを求めている。このことに留意して、私的複製のための広い例外を設けているEU各国の多くは、補償金制度を導入し-空DVDやスキャナー、コンピュータといった、いくつかのデジタル媒体や機器に課金している。

補償金制度はEU各国で大幅に違う。補償金は、異なる媒体と機器に異なる料率で課され、私的複製によってもたらされる現実の害とほとんど関係がないように見える。スウェーデンで、64GBのiPODは19ユーロの補償金を課されるが、これに対し、ラトビアでは1.42ユーロである。様々な複製機器に対する補償金の賦課も一貫性に欠ける。例えば、EU加盟国の内、ほとんどが空CDに補償金を課しているものの、4カ国だけが補償金をPCにも課し、12カ国が補償金をプリンターにも拡大しているという状態である。値段の上昇によって、補償金のコストのほとんどは消費者により負担されている。

補償金が非効率で不正確な権利者への補償の方法であることは明らかである。このことについて、-一度はコンテンツを購入した時の支払いにより、二度目に複製機器を買う時に補償金を通じて-コンテンツを複製する権利に対する消費者の二重払いになり得るということも言われている。自ら作成したコンテンツの保存-例えば、ホームビデオを空DVDに複製するといったような-のみを目的としていたとしても、消費者は補償金を支払うことになる。このような問題に照らし、イギリス政府は、私的複製補償金制度を導入しようとは思わない。したがって、補償制度の導入を避けるべく、私たちは、私的複製の例外によって著作権者にもたらされる害が最小限に留められるようにしなければならないであろう。

 私的複製の権利制限すなわち補償金ではあり得ないのはこのブログではさんざん繰り返して来たことなので、ここでさらにくどくどと言葉を重ねることはしないが、補償金を巡って欧州大陸で繰り広げられている不毛な争いを見てうんざりしているのか、イギリスが私的複製の権利制限を導入しようとしながら欧州各国の二の轍を踏まないように補償金制度の導入を回避しようとしていることは、補償金を巡る世界動向の中で大いに注目すべき1つの動きに違いない。

 そして、技術的保護手段と私的複製の関係を記載している第69ページの以下の部分も興味深い。

Technological protection measures

7.53 As noted above, the Government is able to intervene in cases where an individual cannot use an existing exception due to Digital Rights Management (DRM) or other technological protection measures, to ensure that they are able to exercise the exception. These powers could be extended to apply to the private copying exception.

7.54 The EU Copyright Directive permits us to extend these provisions to allow the Government to intervene when an individual is unable to copy a work for private use, but only in certain circumstances. Such provisions cannot apply to ondemand services, and cannot prevent copyright owners restricting the number of copies that can be made by users of a private copying exception.

7.55 Extending these powers to cover a private copying exception is likely to deliver greater benefits to consumers. Reasonable technological measures that allow consumers to access services at a time and place chosen by them will be unaffected, but individuals will be able to challenge measures that are unduly restrictive and prevent them realising the full benefits of a private copying exception. In view of these potential benefits, we propose to extend these provisions to cover a private copying exception when it is introduced.

技術的保護手段

7.53 上記のように、著作権保護技術(DRM)あるいは他の技術的保護手段のお陰で個人が存在している例外を利用することができない場合に、例外を行使することができるようにするため、政府が介入することはあって良い。この権限は、私的複製にも適用され得るものである。

7.54 個人が著作物を私的利用のためにコピーできない場合に政府が介入することが許されるよう、このような定めを押し進めることは、EU著作権指令上も許されているが、条件もある。これらのような規定は、オンデマンドサービスには提起用され得ず、利用者が私的複製の例外から作ることができるコピーの数を著作権者が制限することを排除することもできない。

7.55 このような権限を私的複製の例外までカバーするように押し進めることは、より大きな利便性を消費者に与えるように思われる。消費者が自ら選んだ時と場所においてサービスにアクセスできるようにする合理的な技術的手段に影響を与えることはなく、私的複製の例外から全ての利便性を引きだそうとすることを阻害する、不当に制限的な手段に対抗することを個人に可能とすることであろう。このような潜在的な利便性の向上のために、私たちはこのような定めを、それが導入された場合に私的複製の例外まで及ぼすことを提案する。

 技術的保護手段によって私的複製の権利制限が逆に制限され得るという問題は、今後、さらに大きなものとして認識が深められて行くことと思うが、ここで、消費者の利便性と権利者の保護のバランスの問題点を正しく認識し、著作権保護技術(DRM)に対して私的複製が優越し得ることを提案しているのは非常に興味深いことである。

 さらに、この資料では、DRMとの関係だけではなく、契約と権利制限の関係についても、第119ページに以下のように書かれている。

7.248 Consistent with its commitment to better regulation, the Government is exploring whether a non-regulatory approach could deliver its policy objectives in this area. However, given the wide range of users and owners of copyright works affected by contracts, it appears unlikely at present that cross-sectoral agreement to preserve the full operation of copyright exceptions will be either achievable or sufficient.

7.249 The Government is, therefore, proposing to introduce a clause, applying to every exception provided by the Copyright Act, which would make clear that any contract term purporting to prohibit or restrict the use of an exception is unenforceable.

7.250 Some exceptions, including those for education and disabled people, explicitly permit licensing of the acts covered by them. The Government will separately consider the merits of these licensed exceptions. To the extent that they are preserved, any licensing scheme explicitly authorised by an exception will not be affected by the contract override clause.

7.248 規制をより良いものとするという責務に従い、政府は、この分野において非規制アプローチでその政策目的が達成されるかどうかについて検討している。しかしながら、契約によって広い範囲の利用者と著作物の権利者が影響を受けており、今のところ、著作権法上の例外を完全に実施可能なものとして維持する部門間の合意が、達成可能かあるいは十分であるようには見えない。

7.249 したがって、政府は、例外の利用を禁止又は制限することを目的とする契約条項が法的強制力を有さないことを明確にする条項を、著作権法によって規定される全ての例外に適用される条項として、導入することを提案する。

7.250 教育や障害者のためのものも含め、いくつかの例外は明示的にそれによってカバーされる行為のライセンスとなっている。政府は、これらのライセンス例外の利点について別々に検討する予定である。それらが維持される限りにおいて、例外によって認められる全てのライセンススキームは、契約によるオーバーライド条項によって影響を受けるべきではない。

 著作権法上の権利制限がDRMだけではなく契約によっても逆にオーバーライドされてしまうことがあり得るのは世の東西を問わず変わらないが、権利制限が設けられていることの趣旨に照らして考えれば、契約による権利制限のオーバーライドは適切でないことも多いだろう。権利制限の全てを強行規定とするべきかと言われれば必ずしもそうではないだろうが、この権利制限と契約の関係も今後さらに整理して行かなければならないものである。

  また、この資料は、それが表現の自由に関わる問題であることを正しく認識し、パロディの権利制限の導入を提言している点も非常にポイントが高い。

 イギリスのことは既に何度かこのブログでも取り上げており、さらに前の話をすれば、2006年にガワーズ報告書の公表、2008年にそれを受けた第1回の意見募集、2009年に第2回の意見募集(第207回参照)と、かなり前からイギリスは同じような検討をずっと続けており、今後どのタイミングで法案が提出されるのかも良く分からないが、今の方針のままきちんと法制化がなされれば、イギリスの著作権法はかなりマシになるだろう。

 ことある度にダウンロード違法化やストライクポリシーなどの抑圧的手段に関する動向ばかり大きく取り上げられるが、このような権利制限に関する動向も決して見過ごされてはならないものである。どこの国でも抑圧的手段の導入が利権団体の政治的圧力によって先にごり押しで通される中、権利制限に関するまともな議論がなかなか進まないのは残念でならないが、そもそもどのような形の法規制が本当に全国民を裨益するのかというところからきちんとした議論がなされることを私は常に願っている。

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コメント

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

投稿: 株主の権利 | 2012年1月19日 (木) 15時21分

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