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2011年9月11日 (日)

第256回:レコ協・音事協のロビー活動を受け、自民党が作成したダウンロード犯罪化法案

 「P2Pとかその辺のお話@はてな」でも書かれている通り、先月以来、日本レコード協会や日本音楽事業者協会も出席する自民党の部会でダウンロード違法化法案が検討され、その推進が決議されている。その案と思われるものが手に入ったので、ここでこの自民党部会で検討されていた条文案を掲載するとともに、このダウンロード犯罪化問題についてさらに書いて行きたいと思う。(私自身は大体このようなものだろうと想定していたので本物と踏んでいるが、法案の真偽の判断は読者の皆様にお任せする。)

 細かな点が気になるようであれは最後に載せた条文案を見て頂ければと思うが、法案の内容は、要するに、有償で提供されているか又は後に有償で提供されることが明らかな著作物を、事実を知りながらダウンロードすること(自動公衆送信を受信してデジタル方式の録音又は録画を行うこと)に100万円以下の罰金を課せるようにするというものである。

 このような法改正を日本レコード協会などが求めて来ること自体、あれだけの大騒ぎをしたあげくユーザーの意見を完全に踏み躙って強行したダウンロード違法化が有害無益であったことを自白しているに等しく、突っ込むのもバカらしいのだが、ダウンロード違法化を超えて犯罪化を目指すなどふざけるのもいい加減にしろと言いたい。ダウンロード違法化自体間違っていたことが証明されつつある中、その上罰則をつけることにどのような正当性があるのか、このような法改正を求める連中の正気を私は疑う。

 大体彼らが著作権規制の強化の根拠として持ち出すのは自分たちの売り上げが減っているのは莫大な海賊版被害の所為だといういつものお伽話だが、そもそも、レコード業界すなわち音楽業界ではないことにも注意が必要な上、レコード業界が自分たちの売り上げ減を海賊版の所為だけにすること自体間違いであり、海賊版被害に関する限り彼らの話は統計上全くといって良いほど信用できない。(レコード業界のロビイストは、どうやら業界のビジネスモデルの問題を法律の問題に押しつけていたずらに昔日の隆盛の再来を夢見ていたいようだが、ダウンロード違法化で有意な差が見られなかったというなら、例え犯罪化がなされたとしても、彼らの売り上げにプラスの効果が見られることはあり得ないだろう。法改正以前の問題として、著作権ロビイストの主張には常にどうしようもない矛盾を私は感じる。)

 さらに、罰則をつけようにも、ダウンロード違法化の検討の際に指摘された問題(例えば、第126回参照)はいまだにほとんどなにも解決されていない。ユーザーから見て著作物の違法合法の区別がつくのかという問題1つとっても何も解決されていないだろう。レコード協会がしきりと売り込んでいるエルマークがどれほど認知されているか甚だ疑問である上、音楽配信サイトであればエルマークのついていないサイトを全て、動画サイトであれば彼らの認める公式チャンネル以外を全て違法サイト扱いにしてそこからのダウンロードをほぼ犯罪にしようとするなど非道にもほどがある話である。

 外国の状況については前回書いた通り、著作権団体の好きな著作権強権国家の英米独仏などでは、P2P違法ファイル共有ユーザーに対する訴訟が猖獗を極め社会問題化し、ダウンロード合法化の議論すら出てきているというのが現状であり、他国でダウンロード違法化・犯罪化が問題なく運用されているなどという主張はデタラメも良いところである。そして、世界中見渡しても単なるダウンロードを刑事訴追したケースは1件もないことを考えれば、ダウンロードを犯罪化してユーザー一人々々を推定有罪の裁判で追い込みたいなどという主張がいかに気違いじみているか分かるというものだろう。(なお、ついでに書いておくと、アメリカはフェアユースとの関係でダウンロードがどのように取り扱われるかはなお分からず、ストライクポリシー国のフランスをダウンロード犯罪化の文脈で持ち出すのはスジ違いであり、イギリスもストライクポリシーと私的複製の範囲の拡大の間で揺れ、ドイツについては前回書いた通り、デタラメな運用によって反動が出ているくらいである。)

 それまで違法でなかったことを違法にするということも非常に影響は大きいが、それまで犯罪でなかったことを犯罪にするのはさらに影響が大きい。違法にできたから今度は犯罪にしても良いなどというのは非道い問題のすり替えである。何も知らないところに著作権侵害で警告状や民事訴訟の訴状が送られてくるのも大変な話だが、これを超えて突然家庭に警察が踏み込んでくる話と言えばこれがいかに非道い話か分かるだろうか。

 親告罪であるからそこまで大きな問題にならないだろうというのも同じく非道い問題のすり替えである。著作権団体が与えられた力を濫用しないという保証はどこにもないのである。ことインターネットにおいては普通に使っていても完全に著作権侵害をしないということは難しく、ダウンロード犯罪化は、ひいては著作権団体か警察・検察にインターネットを殺す1つのスイッチを渡すことに繋がりかねないだろう。(当然のことながら違法ダウンロードに対する罰則の付加は警察権力の伸長も招くだろうし、ここで、著作権団体が著作権侵害罪の非親告罪化を求めていることも忘れてはならない。)

 どだいダウンロード違法化をして早々の段階で、民事訴訟すら起こさずに、刑事罰の付加を求めること自体おかしいのだが、著作権団体のロビイストが法律を何だと思っているのか実に不可解としか言いようがない。(少し前に、ユーチューブのダウンロード支援サイトが訴えられているが(Internet Watchの記事参照)、これはどちらかと言えば間接侵害の話で、直接的なダウンロードの話ではない。なお、著作権の間接侵害や侵害幇助の問題についても立法的にセーフ-ハーバーが規定されるべきと私は考えているが、このダウンロード犯罪化法案は間接侵害や幇助との関係でも慎重な検討が必要である。)

 繰り返しになるが、一人しか絡まない行為であるダウンロードについて違法性の認識・故意を証明するのは基本的に不可能である。アップロード側や掲示板等に残された記録を手がかりにして良いとは到底思えないが、一大ネット検閲システムを構築した上で、ダウンロード者のIPアドレスを見て適当に悪質そうなものからデタラメに告発して行くといったことを彼らは考えているのだろうか。それで推定有罪の裁判に引き出された日には目も当てられない惨状が現出することだろう。

 また、法案の第3条に、「有償著作物等を公衆に提供し、又は提示する事業者は、音楽等の私的違法ダウンロードを防止するための措置を講ずるよう努めなけれぱならない」という条文が入っているが、この事業者にどこまで含まれるのか曖昧であり、曖昧であることを良いことに、さらにストライクポリシーやブロッキングのような著作権検閲をインターネット関連事業者に求めてくることすら考えられる。

 要するに、レコード協会などの主張に取るべきところは何一つなく、一体どのような理由で彼らがこのような法改正を求めてきているかをよくよく考えると、単に自分たちのビジネスモデルの失敗を法律の所為にしてごまかしているだけと知れる。これでごり押ししようとするレコード業界もレコード業界だが、この程度でごまかされる国会議員も国会議員である。ただし、「P2Pとかその辺のお話@はてな」でも書かれている通り、自民党内でも完全に意見の統一ができている訳ではないようであり、自民党内でも下村博文衆院議員(文部科学部会長)や河村健夫衆院議員(元文部科学大臣)、三原じゅん子参院議員、馳浩衆院議員などは著作権団体よりと見えるが、逆に、山本一太議員や世耕弘成議員、佐藤正久参院議員などが慎重な立場を表明している。昨今の混沌とした政治情勢を見るにつけ、先は読めないが、これらの名前はよく覚えておく必要があるだろう。

 民主党の出方や文化庁の出方を含め、ダウンロード犯罪化に関する議論が今後どうなるのかよく分からないが、全ネットユーザー、全IT業界に関係することとして、憲法、刑法の原則にまで立ち返った議論、より国民的な議論を経て、ダウンロード犯罪化法案のような非道極まる法案が永遠に葬り去られることを私は期待している。

(以下、8月11日の自民党部会で検討された「音楽等の私的違法ダウンロードの防止に関する法律(案)」。なお、過去の悪例として映画盗撮防止法(Wiki)があるが、このように特別法で著作権侵害の罰則を設けること自体、立法技術的にも非常にセンスが悪い。)

(1)理由
 音楽等の私的違法ダウンロードが多数の者によって行われることにより、音楽等に係る産業に多大な損害が発生していることに鑑み、音楽等に係る文化の振興及び産業の健全な発展に寄与するため、音楽等の私的違法ダウンロードを防止するために必要な事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

(2)条文案
(目的)
第一条 この法律は、音楽等の私的違法ダウンロードが多数の者によって行われることにより、音楽等に係る産業に多大な損害が発生していることに鑑み、音楽等の私的違法ダウンロードを防止するために必要な事項を定め、もって音楽等に係る文化の振興及び産業の健全な発展に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律において「著作物」、「著作者」、「実演」、「レコード」、「放送」、「有線放送」、「自動公衆送信」、「録音」、「録画」、「変名」、「著作権」及び「著作隣接権」の意義は、それぞれ著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第二条第一項第一号から第三号まで、第五号、第八号、第九号の二、第九号の四、第十三号及び第十四号、第十四条、第十七条第一項並びに第八十九条第六項に規定する当該用語の意義による。

 この法律において「有償著作物等」とは、録音又は録画をされている著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像(著作権又は著作隣接権の目的となっているものに限る。次項第二号において「著作物等」という。)であって、有償で公衆(特定かつ多数の者を含む。次条において同じ。)に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。

 この法律において「音楽等の私的違法ダウンロード」とは、著作権法第三十条第一項に規定する私的使用の目的をもって、次に掲げるものの著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならぱ著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害する行為をいう。
 有償著作物等
 その録音又は録画の時においてその後有償著作物等とされることが明らかな著作物等

(音楽等の私的違法ダウンロードを防止するための関係事業者の措置)
第三条 有償著作物等を公衆に提供し、又は提示する事業者は、音楽等の私的違法ダウンロードを防止するための措置を講ずるよう努めなけれぱならない。

(罰則)
第四条 音楽等の私的違法ダウンロードを行った者は、百万円以下の罰金に処する。
 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
 無名又は変名の著作物の発行者は、その著作物に係る第一項の罪について告訴をすることができる。ただし、著作権法第百十八条第一項ただし書に規定する場合及び当該告訴が著作者の明示した意思に反する場合は、この限りでない。

(3)附則
(施行期日)
 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第四条の規定は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行する。

(検討)
 この法律の規定については、この法律の施行後一年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

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