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2011年3月28日 (月)

番外その30:イギリスのコンピュータ犯罪関連法制

 しばらくどうにも手がつかなかったが、今回は、前回のアメリカに続き、イギリスのコンピュータ犯罪関連法制について取り上げる。

 サイバー犯罪条約の批准リスト留保リストによるとイギリスもまだ署名しただけで批准まで行っていないようだが、関連法の整備は進められているようであり、コンピュータ犯罪は、2006年にも改正が行われたコンピュータ濫用対策法にまとめられている(Wiki、イギリス検察庁の解説ページ)。

 このコンピュータ濫用対策法の犯罪類型を規定している冒頭部分を訳出すると、以下のようになる。(いつも通り翻訳は拙訳。)

1 Unauthorised access to computer material.

(1)A person is guilty of an offence if―
(a)he causes a computer to perform any function with intent to secure access to any program or data held in any computer, or to enable any such access to be secured;
(b)the access he intends to secure, or to enable to be secured, is unauthorised; and
(c)he knows at the time when he causes the computer to perform the function that that is the case.

(2)The intent a person has to have to commit an offence under this section need not be directed at―
(a)any particular program or data;
(b)a program or data of any particular kind; or
(c)a program or data held in any particular computer.

(3)A person guilty of an offence under this section shall be liable―
(a)on summary conviction in England and Wales, to imprisonment for a term not exceeding 12 months or to a fine not exceeding the statutory maximum or to both;
(b)on summary conviction in Scotland, to imprisonment for a term not exceeding six months or to a fine not exceeding the statutory maximum or to both;
(c)on conviction on indictment, to imprisonment for a term not exceeding two years or to a fine or to both.

2 Unauthorised access with intent to commit or facilitate commission of further offences.

(1)A person is guilty of an offence under this section if he commits an offence under section 1 above (“the unauthorised access offence”) with intent―
(a)to commit an offence to which this section applies; or
(b)to facilitate the commission of such an offence (whether by himself or by any other person);
and the offence he intends to commit or facilitate is referred to below in this section as the further offence.

(2)This section applies to offences―
(a)for which the sentence is fixed by law; or
(b)for which a person who has attained the age of twenty-one years (eighteen in relation to England and Wales) and has no previous convictions may be sentenced to imprisonment for a term of five years (or, in England and Wales, might be so sentenced but for the restrictions imposed by section 33 of the Magistrates’ Courts Act 1980).

(3)It is immaterial for the purposes of this section whether the further offence is to be committed on the same occasion as the unauthorised access offence or on any future occasion.

(4)A person may be guilty of an offence under this section even though the facts are such that the commission of the further offence is impossible.

(5)A person guilty of an offence under this section shall be liable―
(a)on summary conviction in England and Wales, to imprisonment for a term not exceeding 12 months or to a fine not exceeding the statutory maximum or to both;
(b)on summary conviction in Scotland, to imprisonment for a term not exceeding six months or to a fine not exceeding the statutory maximum or to both;
(c)on conviction on indictment, to imprisonment for a term not exceeding five years or to a fine or to both.

3 Unauthorised acts with intent to impair, or with recklessness as to impairing, operation of computer, etc.

(1)A person is guilty of an offence if―
(a)he does any unauthorised act in relation to a computer;
(b)at the time when he does the act he knows that it is unauthorised; and
(c)either subsection (2) or subsection (3) below applies.

(2)This subsection applies if the person intends by doing the act―
(a)to impair the operation of any computer;
(b)to prevent or hinder access to any program or data held in any computer;
(c)to impair the operation of any such program or the reliability of any such data; or
(d)to enable any of the things mentioned in paragraphs (a) to (c) above to be done.

(3)This subsection applies if the person is reckless as to whether the act will do any of the things mentioned in paragraphs (a) to (d) of subsection (2) above.

(4)The intention referred to in subsection (2) above, or the recklessness referred to in subsection (3) above, need not relate to―
(a)any particular computer;
(b)any particular program or data; or
(c)a program or data of any particular kind.

(5)In this section―
(a)a reference to doing an act includes a reference to causing an act to be done;
(b)“act” includes a series of acts;
(c)a reference to impairing, preventing or hindering something includes a reference to doing so temporarily.

(6)A person guilty of an offence under this section shall be liable―
(a)on summary conviction in England and Wales, to imprisonment for a term not exceeding 12 months or to a fine not exceeding the statutory maximum or to both;
(b)on summary conviction in Scotland, to imprisonment for a term not exceeding six months or to a fine not exceeding the statutory maximum or to both;
(c)on conviction on indictment, to imprisonment for a term not exceeding ten years or to a fine or to both.]

3A Making, supplying or obtaining articles for use in offence under section 1 or 3

(1)A person is guilty of an offence if he makes, adapts, supplies or offers to supply any article intending it to be used to commit, or to assist in the commission of, an offence under section 1 or 3.

(2)A person is guilty of an offence if he supplies or offers to supply any article believing that it is likely to be used to commit, or to assist in the commission of, an offence under section 1 or 3.

(3)A person is guilty of an offence if he obtains any article with a view to its being supplied for use to commit, or to assist in the commission of, an offence under section 1 or 3.

(4)In this section “article” includes any program or data held in electronic form.

(5)A person guilty of an offence under this section shall be liable―
(a)on summary conviction in England and Wales, to imprisonment for a term not exceeding 12 months or to a fine not exceeding the statutory maximum or to both;
(b)on summary conviction in Scotland, to imprisonment for a term not exceeding six months or to a fine not exceeding the statutory maximum or to both;
(c)on conviction on indictment, to imprisonment for a term not exceeding two years or to a fine or to both.

第1条 コンピュータへの不正アクセス

(1)以下の場合、人は有罪とされる-
(a)その者が、コンピュータに蓄積されたプログラム若しくはデータへのアクセスを入手する目的で、又はそのようなアクセスを入手可能とする目的で、コンピュータの機能の実行を引き起こし;
(b)入手しようとした又は入手可能としたアクセスが不正なものであり;かつ
(c)そのコンピュータの問題となる機能の実行を引き起こした時点でそうと知っていた場合。

(2)本条における犯罪者が持つ意図は、
(a)特定のプログラム若しくはデータ;
(b)特定の種類のプログラム若しくはデータ;又は
(c)特定のコンピュータに蓄積されたプログラム若しくはデータ;
に向けられたものである必要はない。

(3)本条において有罪とされる者は、
(a)イギリス及びウェールズにおける非陪審判決により、12月以下の禁固又は法定上限以下の罰金又はその両方を科される;
(b)スコットランドにおける非陪審判決により、6月以下の禁固又は法定上限以下の罰金又はその両方を科される;
(c)陪審判決により、2年以下の禁固又は罰金又はその両方を科される。

第2条 さらなる犯罪の遂行又はその助長を目的とした不正アクセス

(1)以下の場合に、上記の第1条の犯罪(「不正アクセス罪」)をなした者は、本条において有罪とされる。
(a)本条の適用を受ける犯罪を目的として;又は
(b)(本人によるか第三者によるかにかかわらず)そのような犯罪の遂行の助長を目的として;
その遂行又は助長しようとするさらなる犯罪が、本条の以下に記載されているものである場合。

(2)本条は、以下の犯罪に適用される-
(a)刑罰が法律により固定されている犯罪;又は
(b)21歳(イギリスとウェールズに関しては18歳)に達し、前科を持たない者に対し、5年以上の禁固となり得る犯罪(イギリスとウェールズにおいては、1980年の治安判事裁判所法第33条により課される制約も含めそのような刑となり得るだろう場合)。

(3)本条の目的において、不正アクセス罪と同時にさらなる犯罪が遂行されるか、その遂行が未来の時点となるかは関わらない。

(4)さらなる犯罪の遂行が不可能であるような事実がある場合にも、本条において、人は有罪とされ得る。

(5)本条において有罪とされる者は、
(a)イギリス及びウェールズにおける非陪審判決により、12月以下の禁固又は法定上限以下の罰金又はその両方を科される;
(b)スコットランドにおける非陪審判決により、6月以下の禁固又は法定上限以下の罰金又はその両方を科される;
(c)陪審判決により、5年以下の禁固又は罰金又はその両方を科される。

3 コンピュータの動作等の妨害を目的とした又は軽挙によるその妨害に関する不正行為

(1)以下の場合に、人は有罪とされる-
(a)その者がコンピュータに関して不正行為をし;
(b)その行為をした時にそれが不正であると知っており;かつ
(c)下の(2)又は(3)が適用される場合。

(2)本条は、以下の場合に適用される-
(a)コンピュータの動作の妨害のためにか;
(b)コンピュータに蓄積されたプログラム又はデータへのアクセスの抑止又は妨げのためにか;又は
(c)そのようなプログラムの動作又はそのようなデータの信頼性を妨害するために;又は
(d)上の(a)から(c)に書かれたことを可能とするために;
その者がその行為をした場合。

(3)本条は、上の(2)の(a)から(d)に書かれている行為に関し、その者が軽挙からそうした場合にも適用される。

(4)上の(2)に記載されている目的又は上の(3)に記載されている軽挙は以下のものに特に関係している必要はない-
(a)特定のコンピュータ;
(b)特定のプログラム若しくはデータ;又は
(c)特定の種類のプログラム又はデータ。

(5)本条において-
(a)行為をするとは、行為を引き起こすことを含む。
(b)「行為」は一連の行為を含む;
(c)あることの妨害、抑止又は妨げは、一時的なものを含む。

(6)本条において有罪とされる者は、
(a)イギリス及びウェールズにおける非陪審判決により、12月以下の禁固又は法定上限以下の罰金又はその両方を科される;
(b)スコットランドにおける非陪審判決により、6月以下の禁固又は法定上限以下の罰金又はその両方を科される;
(c)陪審判決により、10年以下の禁固又は罰金又はその両方を科される。

第3A条 第1又3条の犯罪に使用される物の製造、提供又は取得

(1)第1又は3条の犯罪の遂行かその遂行の援助に使用されることを目的とする物を、製造するか、変造するか、提供するか又は提供の申し出をした者は、有罪とされる

(2)そうと知りながら、第1又は3条の犯罪の遂行かその遂行の援助に使用されるだろう物を、提供するか又は提供の申し出をした者は、有罪とされる。

(3)そうと企図して、第1条又は3条の犯罪の遂行かその遂行の援助のために使用される物の提供を受けた者は、有罪とされる。

(4)本条における「物」には、電子形式で蓄積されるプログラム又はデータが含まれる。

(6)本条において有罪とされる者は、
(a)イギリス及びウェールズにおける非陪審判決により、12月以下の禁固又は法定上限以下の罰金又はその両方を科される;
(b)スコットランドにおける非陪審判決により、6月以下の禁固又は法定上限以下の罰金又はその両方を科される;
(c)陪審判決により、2年以下の禁固又は罰金又はその両方を科される。

(この不正プログラム製造罪を規定している第3A条は、2006年の警察関連法改正Wiki)で導入されたものである。)

 さらに、通信傍受関係となると、イギリス検察庁の解説ページにも書かれているように、その第125~126条で、不正に電子通信サービスを得た者、不正に電子通信サービスを得るための物を提供目的で所持した者などを有罪とするとしている、2003年の通信法や、その第1条で、通信サービスにおける傍受を行った者などを有罪とするとしている2000年の捜査権限規制法などの法律も絡んで来ることや、イギリスもアメリカと同じく判例法の国であること、やはり一般的な詐欺罪等の規定もあることなどに注意する必要があると思うが、上の条文だけを見ても、イギリスも、利用者の意図を軸として各種の不正プログラム製造罪を1つの条文にまとめるようなバカなことはしていないということは分かるのではないかと思う。(大体、以前の日本の法務省のウィルス作成罪条文案は、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」の「作成」等を犯罪化しようとしているが、ここに、コンピュータプログラムの作成者から見て良く分からない使用者の意図が出て来る点でこの条文案はどうにもおかしいのである。)

 上でも書いたように、イギリスもまだ批准していないようなので、これらの法律とサイバー犯罪条約の関係についてどのような解釈をしているかは不明だが、イギリスの条文は、不正アクセス、コンピュータの動作又はデータの信頼性等の妨害を順に規定して、そのためのプログラムの製造を規制している点でサイバー犯罪条約の条文から見て素直な形になっているとは言えるだろう。

 英米は判例法の国であることに注意が必要であり、これらの国の条文にも問題はあると思うが、それでも批判なども含め全く参考にならないということもないだろうに、今までのところ、ウィルス作成罪の問題で他の国の法制のことが引き合いに出されたということを私は知らない。

 今の状況では、知財や情報関連の緊急性の低い法改正の国会審議はかなり先のことになるのではないかと思うが、各国のコンピュータ犯罪関連法制について調べているので、引き続き独仏の話も書くつもりでいる。

 また、東日本大震災後、国レベルの非常事態が続く中、統一地方選も始まっている。今回の選挙はもっと全国的に延期した方が良いと個人的には思うが、都知事選を始めとして延期しないところが多いからには仕方ない、今回の選挙も重要には違いないので、可能な限り多くの方に投票に行って欲しいと私も思う。

(2011年3月29日の追記:最初gov.ukの条文データを見て未施行かと思ってしまったが、不正プログラム製造罪を規定する上の第3A条は、pirateparty.org.ukの最近のブログ記事にもあるように、既に2008年の政令によって施行されているので、上の文章を少し改めた。)

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