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2010年4月30日 (金)

第223回:知財本部ワーキンググループの資料と文化庁小委員会の資料(ストライクポリシー・リンクによる間接侵害・法定賠償・フェアユース関連)

 海賊版対策条約(ACTA)の条文案(pdf)がこの4月21日にようやく正式に公表された(経産省のリリース概要(pdf)も参照)。この条文案についてはいろいろと突っ込みたいところがあるのだが、MIAUのACTA翻訳プロジェクトに協力することにしたので、少し後回しにすることにして、先に知財本部と文化庁の話の続きを書いておきたいと思う。

(1)知財本部・コンテンツ強化専門調査会・インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループの資料
 この4月20日に第6回のインターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループが知財本部で開かれている(議事次第・資料参照。himagin_no9氏やkzmogi氏のtwitter実況(実況まとめ)も参照。)

 このワーキングの「その他の課題に関する整理(素案)(pdf)」は、相変わらず要領を得ない資料だが、書かれている項目は、「Ⅰ.インターネット上の反復的な著作権侵害行為への対策について」、「Ⅱ.リーチサイトによる著作権侵害への対策について」、「Ⅲ.損害賠償額の算定を容易にする方策について」の3つ、要するに、ストライクポリシー、リンク規制、著作権侵害の法定賠償の3つである。

 ネット切断型の違法コピー対策であるストライクポリシーについてはこのワーキングで既に何度か議論にのぼっていたと思うが、この資料ではより具体的に導入の可否を検討すると書かれており、この点でやはり日本でも権利者団体が強力にストライクポリシーを押していることが影響していると見える。ただし、ストライクポリシーについては、ストーカー規制法やDV規制法まで持ち出して無理矢理正当化を図ろうとした跡が見られるものの(始めから無理がある論理構成だと思うが)、最終的には、

○特にP2Pによる著作権侵害に係る被害が深刻化している中で常習的な悪質侵害者に対して社会全体として実効的な措置を図っていくことは重要な課題である。
○他方、これまでの整理に鑑みれば、仮にインターネット利用行為を停止する制度を設けたとしても完全にインターネット利用行為を停止することは少なくとも現時点では現実的に困難であることから、悪質侵害者にして他のインターネット利用手段をあらためて探さなければならないコストを強いるに過ぎない可能性もあり、そのこと自体がどこまでの抑制効果を持つのか、法制度を整備して監視する行政機関を設置するに値する実効性を有するのか、警察による取締(現行の刑罰)と比較してどこまで高い実効性があるのかという様々な観点から検討すべき課題は多いと考えられる。
○このため、現時点で導入について結論を出すことは時期尚早であると考えられるが、今後のP2Pに係る著作権侵害状況の深刻度合、現在実施している対策の実効性、フランスや韓国における実施状況とその効果を見極めながら、今後とも引き続き検討していくべきであると考えられる。
○上述した法制度による構築の可能性のほか、本WGにおいて検討し、当面ガイドラインを策定して促進することとした、民間における自主的な取組み(特にP2P対策)としての侵害対策措置の具体的なオプションとして、反復侵害者に対して警告メールの転送を行うとともに、警告メールを無視してもなお反復侵害があった場合、権利者側からの申出によってアカウントを削除するための規約を整備して的確に実施することが考えられるのではないか。(なお、この場合にはあくまでも当事者間での契約関係の問題であり、当該接続プロバイダが利用停止行為を行うにとどまり、他のプロバイダも含めて利用停止行為を行うことは想定していない)。ただし、この場合にも利用の公平性や通信の秘密との関係(不正利用者との照合)で議論があり得るところ、そもそも権利者からの申し立て(IPアドレス情報)とアカウント情報の照合が通信の秘密に該当し得るのか、仮に該当するとしても正当業務行為としてどこまでが許容されるのか、その許容範囲が必ずしも明確になっていない。今後、ガイドラインの策定を促進していく場合には、法律上の許容範囲の明確化や必要となる手続きも含めた検討が必要であると考えられる。

と比較的慎重論も述べた上で、引き続き検討というところに落ち着いている(赤字強調は私が付けたもの。以下同じ)。当日の議論の様子を見てもストライクポリシーの法制化へのハードルは高そうだが、この資料にも表れているように、知財本部が例によって民間ガイドラインにと称してストライクポリシーをインターネット・サービス・プロバイダーに押し付けようとしていることには注意が必要だろう。そして、ここにも書かれている通り、この場合にも、運用の透明性・公平性や通信の秘密との関係が問題となるのは当然のことである。この点は安易に踏み越えられて良いものではない。

 リンク行為についても、確かに問題となるケースがあり得るのはその通りだろうが、やはり安易に著作権侵害とされて良いものではない。当日もやはりいまいち要領を得ないやり取りが行われたようだが、資料の整理としては、

○一定のリンク行為については著作権侵害に大きな役割を果たしていることも少なくなく、直接的にせよ間接的にせよ著作権侵害となるケースもあり得ると考えられるが、その範囲が明確でないことから、その明確化を図っていくことが重要ではないか。
○他方、インターネット利用の際に個人がリンクを貼り付ける行為は一般的に良く行われており、またリンク先が偶々著作権侵害コンテンツとなっている可能性もあることから、こうした一般利用の萎縮を招かないようにする観点からも、著作侵害となる行為を限定・明確化していくことが重要ではないか
○以上を踏まえると、著作権侵害として認められるべき要件のイメージとして、
(i) 当該サイト全体の性格が様々な著作権侵害コンテンツのサイトへの誘導を目的としていることが、サイトの文面や著作権侵害コンテンツへのリンクが多くを占める状態から、客観的に明らかであること、
(ii) 当該サイトの管理者が、それぞれのリンク先が著作権侵害コンテンツのサイト或いはファイルであることを認識していると認められること(各リンクによる侵害の認識)

 これらの場合、リンクによって単にサイトに飛ぶのではなく、サイトにある特定の著作権侵害コンテンツファイル・群に直接的にリンクしている場合や、収入を得る等により業として実施していると認められる場合には、著作権侵害行為が、さらに認められ易くなると考えられる。
上記要件に該当するものについては、著作権法上の著作権侵害に該当し得ることと併せ、プロバイダ責任制限法に基づく運用上の削除対象として組み込んでいくことが必要であると考えられるが、どのような法的構成により位置づけられるか。
 例えば、著作権の間接侵害については、これまでその要件化と差止請求権化について議論されてきたところ、この議論の中での位置づけを整理できないか。また、特に悪質なものに絞り込んだ上で直接的な著作権侵害行為として部分的にみなし規定によって位置づけることも考えられるがどうか。また、プロバイダ責任制限法の運用上のガイドラインにも位置づけて削除等の対策を担保することが考えられないか。

となっている。間接侵害の問題は繰り返し書いてきているので、ここでまた繰り返すことはしないが、文化庁で行われている間接侵害の検討の話、総務省に飛ぶのだろうプロバイダ責任制限法の話は要注意である。安易にリンクが著作権侵害とみなされ、差し止めや削除の対象となるとされると、インターネットの一般利用に甚だしい萎縮を招くことになるのは間違いないのである。

 著作権侵害の法定賠償についても海賊版対策条約(ACTA)が関係しているのは間違いないが(大体、このワーキンググループのアジェンダ設定はほとんど海賊版対策条約のインターネット章をなぞるように行われている。今回公表された条文案でも分かるが、法定賠償とACTAの関係については、第219回参照)、その整理は、

○(1)のとおり、インターネット上のデジタルコンテンツに係る著作権侵害の損害賠償額の算定にあたっては、受信数が不明等、その性格上大きな困難が伴うことが現状であり、インターネット上の被害の特質に鑑み、何らかの方策を検討する必要があるのではないか。(サイトにアクセスカウンターがある場合には算定がし易いが、必ずしもそのようなものがあるとは限らない)
○著作権法第114条の5等から、現行制度上、柔軟に対応することは可能であるとの声もあるが、訴訟提起の実務上、裁判所に「丸投げ」することはできず、その算定根拠を整理することは必要であり、引き続き立証負担の問題は実務上存在している。このことがある程度、訴訟提起の少なからぬハードルとなっていることは事実とも指摘されている。なお、賠償額の決定に至る事例は少なく、著作権侵害の場合には金額が必ずしも大きくないこともあって和解による解決も少なくないために判例上の蓄積が少なく、金額の相場観が確立しているとは言い難い。
○また、効率的な訴訟の観点だけではなく、単に違法となる可能性だけでは抑止効果が低いが(金額の多寡の問題ではなく)具体的な金額があらかじめ明らかになっていることで一定の抑止効果が働きやすくなるとの指摘もある。(例えば、民間の駐車場において無断駐車の場合には、「無断駐車の場合には時間等に関わらず1万円申し受けます」として具体的なイメージを明示することで抑制効果が働くといった指摘もある。)
○以上から、インターネット上のデジタルコンテンツの侵害のケースに限定した上で、原告側が訴訟提起にあたって、定額の賠償を選択することを可能とし、被告側の反証を経た上で裁判所が最終的に裁量により判断できる制度の構築については、なお様々な課題について検討する必要があると考えられるが、一定の合理性は認められ、今後とも引き続き検討すべき課題であるとは言えるのではないか。今後、検討するにあたっては、判例の蓄積を見つつ、一定の損害賠償額(例えば10万円)を定めた場合の根拠や民法の損失補填原則との関係、他の知財法における取り扱いとのバランス等について整理する必要があるのではないか。
○また、制度化に至らない実質的なアプローチについても検討する必要があるのではないか。例えば、業界単位で客観的な調査を行い、インターネット上に流出した場合のコンテンツの拡散状況や販売額への影響度合について平均的な数字を算出し、当該数字を統一的に用いて裁判の判例を通じ、相場観を形成していく取組も重要ではないか。

と、ここでも引き続き検討とされている。今後どうなるのかは良く分からないが、やはり法定賠償についても、特に海賊版対策条約との関係から、日本政府が今後ごり押しの導入を進めようとして来る可能性は高い。これもまたパブコメ等(例えば、第213回参照)で書いている通り、法定賠償は過去の検討で導入されるべきでないとされている上、アメリカで一般ユーザーに法外な損害賠償を発生させ、その国民のネット利用におけるリスクを不当に高め、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにしかつながっていないものであり、日本の法体系を考えると著作権侵害の法定賠償の導入は相当スジの悪い話だが、この点についても危うい状態が続きそうである。

 また、今回の検討では、「各論点に関する補足資料(pdf)」という資料も追加されている。個人的にはストライクポリシーに関する踏み込みの点で全く物足りないが、知財事務局も多少は勉強したと見え、今までの本当に意味不明のプロパガンダ資料よりは相当マシな資料となっている。(この資料では、東京都市大学専任講師の張睿暎氏の論考「諸外国における著作権侵害者に対する三振アウト制導入の動き(pdf)」が参考資料としてあげられている。「P2P とかその辺のお話」のエントリ「ニュージーランド: 帰ってきたスリーストライク法案、全会一致で第一読会を通過」でも書かれているが、この論考は非常に良くできており、3ストライクポリシーに関する日本語資料としては必読資料の1つであると私も思う。特に韓国・台湾の動向については常々私も書きたいと思っているのだが、余裕がなくてフォローし切れていないので非常に助かる。)

 4月23日には、上位検討会のコンテンツ強化専門調査会の第6回も開かれているが(議事次第・資料参照。hideharus氏のtwitter実況まとめも参照)、やはり要領を得ない資料に基づいていまいち何をしたいのだか良く分からないやり取りがなされている。(なお、一般ユーザーとはあまり関係ないのでここで細かな話をすることはしないが、4月26日には、第7回の知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会も開かれている(議事次第、hideharushttp://twitter.com/hideharus氏のtwitter実況まとめも参照)。)

 今後それぞれ、5月14日(5月24日が予備日らしい)にコンテンツ強化専門調査会報告書の取りまとめが、5月18日にはインターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループのその他論点取りまとめが予定されているが、海賊版対策条約(ACTA)についても含め、引き続き検討という形で、相当ロクでもない項目が今年の知財計画に並ぶことは覚悟しておいた方が良いだろう。

(2)文化庁・文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会の資料
 文化庁の方では、フェアユース導入の検討が進められているが、これも4月22日にその第4回の法制問題小委員会で中間まとめがおよそ取りまとめられたようである(議事次第・資料himagine_no9氏のtwitter実況まとめ参照)。

 今後、著作権分科会に報告の後パブコメという予定になるようであり、細かな話はまたパブコメ募集がかかったところでしたいと思うが、その「権利制限の一般規定に関する中間まとめ(案)(pdf)」(知財本部の第6回コンテンツ専門調査会の資料に入っている概要(pdf)検討経緯(pdf)も参照)では、フェアユース導入の方向性は出されているものの、その範囲は、

  • (A)その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの(写り込みなど)
  • (B)適法な著作物の利用を達成しようとする過程において合理的に必要と認められる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの(許諾を得た場合の中間過程での録音や、許諾を得るための企画書等における複製、教科書作成過程での複製など)
  • (C)著作物の種類及び用途並びにその利用の目的及び態様に照らして、当該著作物の表現を知覚することを通じてこれを享受するための利用とは評価されない利用」(映画や音楽に関する技術の開発や検証のために必要な限度での複製など)

非常に狭いままである(この上、さらに狭めることすら検討課題にあがっている)。パロディなどの変形利用やより一般的な研究目的での利用などが入らない時点で、ほとんど骨抜きと言って良い。ここに入らない類型については個別の権利制限として今後導入 を検討するとも書かれているが、文化庁と権利者団体が結託して、個別の権利制限すらなかなか入れようとせず、入れたとしても非常に狭く使えないものとするという現状から生じている問題を緩和するという意味では、ここで(A)(B)(C)としてあげられているような狭い権利制限の類型だけではまだ極めて不十分である。私自身もパブコメを書くつもりだが、やはりこのような権利制限では不十分と思われる方がいるようであれば、是非今後のパブコメに向けて準備を進めておくことをお勧めしたい。

 最後に少し他の話も紹介しておくと、東京都青少年健全育成条例改正問題について、東京都青少年・治安対策本部は、相変わらず全く条文に基づかない恣意的な同じ言い訳をくどくどと述べる質問回答集(pdf)をさらに作るという都民をバカにし切った行動を取った上で、この4月27日にようやく公式版の新旧対照表(pdf)を公表した(今までの資料が並んでいるだけだが、東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案についてというページも作っている)。(嫌がらせか何か知らないが、この新旧対照表は何故か縦書きを横にして出して来ているので、横のものを縦にしただけだが、念のために、直したデータ(pdf)もここに載せておく。)まだ青少年問題協議会答申案パブコメの公開も残っており、この問題はさらに炎上が続くことと思うが、民主党の伊藤まさき都議がそのブログに書かれているように、連休明けの5月6日には総務委員会委員会予定)が開かれ、青少年・治安対策本部からの説明を受ける予定となっているなど、この問題に関する動きも速い。

 個人的にはさらに揉めると思っているニュージーランドのストライクポリシー法案検討の話など著作権国際動向絡みの話や表現の自由に関する話も書きたいと思っているが、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第二次提言(案)に対する意見募集の〆切が5月10日(総務省のリリース参照)、内閣府男女共同参画局の「第3次男女共同参画基本計画策定に向けて(中間整理)」に関する意見募集の〆切が5月12日(内閣府のリリース参照)、ハトミミ.comでの情報公開制度の改正の方向性についての意見募集の〆切が5月14日(ハトミミ.comの募集要項参照)、神奈川県青少年保護育成条例改正骨子案に関する意見募集の〆切が5月20日(神奈川県のリリース参照。internet watchの記事も参照)と、今月は嫌がらせのようにパブコメの〆切が重なっているので、しばらくパブコメエントリを続けることになるのではないかと思っている。(「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」で取り上げられているが、今日4月30日は、民主党マニフェストに対する意見募集の〆切である。もうあまり時間はないが、表現規制問題等で何か民主党に言いたいことがある人は出しておくことをお勧めする。)

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