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2010年3月 2日 (火)

第217回:知財本部のDRM回避規制強化・プロバイダーの責任制限(ストライクポリシー)・海賊版対策条約(ACTA)に関する検討資料

 「P2Pとかその辺のお話@はてな」でDRM回避規制強化の検討の話を取り上げているが、今現在、知財本部で「コンテンツ強化専門調査会」と「知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会」という2つの検討会が設けられ、さらにコンテンツ強化専門調査会の下位の検討会として「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ」という名のワーキンググループが設けられ、様々な検討が行われている。今回は、コンテンツ強化専門調査会とインターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループの2つの検討会の資料から、DRM回避規制強化やストライクポリシー、海賊版対策条約(ACTA)などの特に危険な項目に関する今の検討の流れを追って行きたいと思う。

(1)DRM回避規制強化
 DRM回避規制強化については、2月16日の第1回「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ」(議事次第議事録)で大々的に取り上げられているが、その資料アクセスコントロールの回避規制の在り方に関する主な論点(pdf)で主な論点としてあげられていることを抜き出すと以下のようになる。

1.保護目的について
 現在、アクセスコントロールについては、コンテンツ提供事業者間の公正な競争を確保する観点から不正競争防止法において回避機器の頒布等を規制しているが、現在の状況を考えると、新たに著作物を保護する観点からも規制することが必要ではないか。

2.回避機器の規制について
①刑事罰の導入について
 規制対象となっている行為を民事措置では十分に抑止できない中で、回避機器の頒布等に対する刑事罰を導入することが適当か否か。
②水際規制の導入について
 中国等から輸入される回避機器を水際で食い止める観点から、水際規制を導入することが適当か否か。
③規制行為の範囲の拡大について
 規制の実効性を高める観点から、回避機器の「製造」及び「回避サービスの提供」を規制することが適当か否か。
④対象機器の範囲の拡大について
 意図的に他の機能を付した規制対象とならない機器に対応するため、規制対象機器の範囲(不正競争防止法上は「のみ」)を拡大することは適当か否か。
⑤主観的要件による規制について
 実質的に回避することに使えることを名目に、現行の規制対象とならない機器(「のみ」要件を満たさないもの)を販売している行為等を防止する観点から、主観的要件(例えば「回避に用いられることを知りながら」)によって規制範囲を拡大することは適当か否か。
⑥例外規定について
 企業の研究開発行為等を阻害しないようにするための例外規定を整備することは必要か否か。

3.回避行為の規制について
①規制範囲について
 著作物の保護手段としてのアクセスコントロールの重要性の高まりを踏まえ、回避行為そのものを規制することは適切か否か。また、規制する場合は、刑事罰の是非についてどう考えるか。
②例外規定について
 正当な著作物の利用を阻害しないようにするための例外規定を整備することは必要か否か。

 細かなところでは両論併記とされているところもあるが、この項目を見ただけでも、a.著作権法にアクセスコントロール回避規制を導入する、b.アクセスコントロール回避機器の頒布等に対する刑事罰を導入する(現行では不正競争防止法により民事的措置のみ規定されている)、c.DRM回避について機器の製造やサービスの提供まで規制の対象とする、d.DRM回避機能のみを有する機器といった現行法の「のみ」要件を「主として」といったさらに曖昧な要件に改める、e.主観的要件により機器等の対象範囲を曖昧にすることを許し実質的にDRM回避規制について間接侵害を明文化する、f.アクセスコントロール回避行為そのものを規制すると、知財本部もおよそ危険な規制強化のことしか考えていないことがすぐに分かる。

 しかし、著作権法にアクセスコントロール回避(機器)規制を入れることは、著作権法が対象とする複製権を完全に超えて、間違いなく個人の情報アクセスに多大の制約を課すことになるアクセスコントロール回避機器の頒布等に対する刑事罰の導入や、「のみ」要件を「主として」といったさらに曖昧な要件とすることはマジコン訴訟で示された法解釈・現行法制の有効性を無視する危険な規制強化であり、DRM回避規制に関する法的不安定性をさらに増すことにしかならないだろう(マジコン訴訟については番外その15参照)。機器の頒布等を超えて、機器の製造やサービスの提供まで規制することは、メーカーやネットサービス事業者における技術開発に甚大な萎縮効果を発生させることになるだろう。間接侵害の明文規定の危険性については何度も繰り返しているが、DRM回避を対象とする場合でもその危険性は同じことであり、明文の間接侵害規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているのである。個々の行為による被害が不明であり、その捕捉が困難である場合には民事による規制すらなされるべきではないとする当然の原則が忘れられ、個人のアクセスコントロール回避行為そのものの規制という検討項目が政府の公式の検討資料に出て来ること自体異常なことと言わざるを得ない、さらにこのような捕捉不可能な行為について刑事罰をかけることなどそれこそあり得ない話である。(海外でアクセスコントロール規制を著作権法で規定している国が多いのも、単に法制定時にアクセスコントロールとコピーコントロールの区別がそれらの国できちんとついていなかったことを示すに過ぎず、何の参考にもならない。既に問題とされている国もあるが、ほとんどの国で今後行き過ぎたアクセスコントロール回避規制は大きな問題となって行くことだろう。)

 例外さえ設ければ大丈夫といったバカげた考えも見られるが、技術の発展を見越して適切な例外を設けることが不可能であることは、文化庁における権利制限の検討を見ればすぐに分かることである。さらに、今の一般フェアユース条項に関する議論を考えても、一旦規制を強化してしまったら、いかに合理性があろうと、ある程度柔軟な対応を可能とする一般的な例外を設けることすら不可能に近くなるのは目に見えている。

 つい昨日の3月1日の第3回の「コンテンツ強化専門調査会」(議事次第)の資料知的財産財推進計画(仮称)」骨子に盛り込むべき事項(コンテンツ強化関連)(pdf)でも、「アクセスコントロールの回避規制を強化する。(中期)」(第8ページ)、「製品開発や研究開発等の萎縮を招かないよう適切な除外規定を整備しつつ、アクセスコントロールの回避規制の強化を図る。(短期)」(第10ページ)とされており、まだこのような危険な規制強化の検討を続けるつもりと見えるが、現行法の成立経緯と今の運用を完全に無視したこのようなバカげた規制強化の検討に取るべきところは何1つ無い。(なお、現行の規制とその成立経緯については、第36回第45回参照。)

(2)プロバイダーの責任制限(ストライクポリシー)
 2月22日の第2回ワーキンググループ(議事次第議事録)では、プロバイダーの責任制限が取り上げられている。その資料プロバイダの責任の在り方に関する主な論点(pdf)で主な論点としてあげられていることを抜き出すと以下のようになる。

1.プロバイダによる侵害対策措置について
①プロバイダの役割の変化
 プロバイダ責任制限法(2001年)制定時と比較し、ブロードバンド環境の進展によって音楽・動画等の著作権侵害コンテンツが氾濫する等の状況変化の中、プロバイダには、その性格に応じ、要請に応じた削除以上の役割を求めるべきか否か。
②侵害対策措置の範囲
 プロバイダ責任制限法は、対象として接続プロバイダから動画共有サイトから動画共有サイト等を広く含んでいることに加え、個人や事業者の区別をしていないが、プロバイダに求められる侵害対策措置とは、プロバイダ一般なのか、動画共有サイト等の限定されたプロバイダを射程とするものか。
③実効性について
 侵害対策措置を推進するにあたっては、現実的にどのような対象に重点を置くべきなのか。すなわち大手等なのか、「アウトロー」まで及ぼすことに重点を置くのか。
④プロバイダの侵害対策措置の法律的枠組み
 仮にプロバイダに対して一定の侵害対策措置の実施を促すためには、例えば、法律的にはどのような枠組みが考えられるか。

2.迅速な削除について
 プロバイダの管理するサーバーにアップロードされた著作権侵害コンテンツを迅速に削除するためには、どのような仕組みが必要か。
 通知があった際に削除すれば完全に免責とするセーフハーバー条項を設けることについてはどうか。
 また、迅速に削除することを法令上明確にすることについてはどうか。

3.発信者情報の開示について
 権利者による警告、損害賠償請求等の権利執行を迅速に行うため、発信者情報の開示についてどのような仕組みが必要か。

 詳しくは元の資料を見て頂ければと思うが、ここでもおよそ知財本部は、g.法律により、同一人により繰り返し行われる著作権侵害について利用停止等の措置をアクセス・プロバイダー等に強制し、コンテンツの監視とフィルタリングを動画共有サイト等に強制する(法律で直接的にやるか、プロバイダー責任制限法なり間接侵害なりの免責によるかという2つのオプションが提示されているがこれらは結果として同じである)、h.プロバイダーの責任を無意味に増し、法的不安定性を増幅する形でのプロバイダーに対するコンテンツの迅速な削除の義務化(これは日本の現行の法体系を無視して、アメリカ型のノーティス・アンド・テイクダウン制度を極めて不用意な形で導入することに等しい)、i.裁判所の命令によらないメールアドレスなどの個人情報開示(現行のプロバイダー責任制限法でも完全に不可能な訳ではないが、基本的に裁判の命令によっている)と、危険な規制強化のことしか考えていない

 第215回などでも書いた通り、いかなる形を取るにせよ、検閲の禁止に反し、表現の自由などの国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ない、ストライクポリシーや強制フィルタリング、ブロッキング等の新たに登場した類型の検閲は導入されるべきではないものである。アメリカ型のノーティス・アンド・テイクダウン制度を、不用意に今のネット利用における法的不安定性をさらに増幅する形で導入することもあってはならないことである。どのような緩和を考えているのか詳細は不明だが、電子メールなどの重要な個人情報について、権利者団体の一方的な主張に基づいて開示が認められるというのでは、安心してネットを使うことはもはやできなくなるに違いない。いかに自主規制といった言葉で表を取り繕おうと、このような規制強化をした日には、日本は、最悪の検閲国家の1つとして世界的に指弾されることになるだろう。

 同じく昨日のコンテンツ強化専門調査会の資料「知的財産財推進計画(仮称)」骨子に盛り込むべき事項(コンテンツ強化関連)(pdf)でも、「プロバイダに関して侵害対策措置の策定・実施や迅速な削除を促す仕組みを設ける。(短期)」とされており、やはり知財本部はこの危険な規制強化の検討を続けるつもりと知れるが、このような危険極まりない規制強化の検討など即刻停止した方が良いものである。

(3)模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)
 上であげたaからiまでの項目を良く見ると、これが第216回で取り上げた海賊版対策条約(ACTA)のリーク部分に書かれていることと驚くほど一致していることが分かる。DRM回避規制強化については主としてメーカーが大反対をしており、プロバイダーに対するストライクポリシーの強制などは主としてプロバイダーが大反対をしており、資料にそれなりに両論が出て来ていることからも分かるように、国内的にまとまる余地は少ないので、日本政府はここで姑息にポリシーロンダリングを狙って来ているのだろう。

 特に、2月16日の第1回のワーキンググループの参考資料インターネット上の著作権侵害コンテンツをめぐる状況について(pdf)で、2009年11月から議論開始として、

○デジタル環境における執行
(インターネット上の著作権等侵害等、新たな技術が知財執行にもたらす特別な課題を規定)
・プロバイダの法的責任の制限
・技術的制限手段の回避(例外と制限を含む)
・権利管理情報の保護 等

という項目をあげ、さらに留意点として、「ACTAの交渉において提示される規制のレベルによっては国内法の改正の可能性あり」とまで書かれているのは、ポリシーロンダリングをやると政府自ら公言しているに等しいだろう。(この資料で、各国とも揉めている現状を全て無視して、ストライクポリシーを導入している国だけを海外における著作権侵害対策の状況としてあげているところや、オーストラリアの検閲の話まで最近の状況として入れ、「世界において強力な著作権侵害コンテンツ対策を実施する国が増えている」としているのは噴飯ものである。)

 同じく昨日のコンテンツ強化専門調査会の資料「知的財産財推進計画(仮称)」骨子に盛り込むべき事項(コンテンツ強化関連)(pdf)でも、「2010年中にデジタルコンテンツの保護を含めた模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の交渉を妥結するとともに、締結後、中国等を初めとした加盟国を増やし、世界大に保護の輪を広げる。(中期)」とされているが、やはりこのような拙速な検討は極めて危険であり、海賊版対策条約も今の状況で決して妥結されてはならないと私は考えている。

 また明日3月3日には、第3回のインターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループが開催され(開催案内参照)、第2回資料の検討スケジュール(pdf)によると、3月15日には中間とりまとめとあるが、知財本部が非常に危ない形で短絡的に結論を出そうとするのではないかという強い危惧を私は抱いている。この知財本部の検討は本当に要注意である。

(2010年3月2日夜の追記:カナダのオタワ大教授がそのブログ記事で、海賊版対策条約(ACTA)について新たなリークがあったことを取り上げている。このブログ記事中にリンクが張られている欧州理事会の新リーク文書(pdf)には、各国政府のスタンスも書かれており、これは、ACTAの検討状況、日本政府のポリシーロンダリングを知る上で必読の資料である。もう少し時間がかかるかも知れないが、非常に重要な情報が多く含まれているので、次回はこの新リーク文書を取り上げたいと思っている。)

(2010年3月2日夜の再追記:知財本部の第2回ワーキンググループの議事録が公開されたので上にリンクを追加した。)

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