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2009年12月23日 (水)

第207回:著作権の権利制限に関するイギリス政府の意見募集ペーパー

 前回、イギリスのストライク法案のことを取り上げたが、イギリス政府から今現在パブコメにかけられている、著作権の権利制限に関する提案がかなり具体的なものとなっているので、この話も国際動向の1つとして紹介しておきたいと思う。

 3月末までの意見募集にかかっているイギリス知的財産庁の報告書(pdf)イギリス知的財産庁のHP参照)は、「知的財産権に関するガワーズ・レビューの実現に向けた一歩:著作権の権利制限に関する第2意見募集」と題されていることからも分かるように、2006年のガワーズ・レビュー(イギリス知的財産庁のHP参照)の提案を受け、2008年1月に行われた意見募集の結果(結果概要(pdf)前回の意見募集ペーパー(pdf) )を踏まえて、さらに検討して条文案まで含めて案を具体化したという体裁を取っている。

 第17回で少し書いているが(イギリスの現行の権利制限規定についてさらに言いたいこともあるが、現行の条文(英語)についてはとりあえず著作権情報センターHPの訳参照)、イギリスの権利制限は、かなり狭く時代遅れなものとなっており、2006年のガワーズ・レビューはそれなりに先端的な拡充を提案していた。今度の報告書で、ある程度レビューに従って取り入れるとされたものもあるが、入れるべきでないとされたものもある。

 特に、取り入れるとされたものは、教育に関する権利制限の拡充(遠隔教育のため・抜粋の対象著作物の拡大)、図書館・文書館のための権利制限の拡充(保存のため)であり、取り入れないとされたものは、私的フォーマットシフトに関する権利制限、パロディ・カリカチュア・パスティーシュのための権利制限である。

 詳細については直接付録Aに載っている条文案などをご覧頂ければと思うが、取り入れるとされた権利制限について、ここでは、途中の第20ページと第41ページの要約部分に書かれていることを以下に訳出しておく。

We propose to:
・Extend the educational exceptions to permit certain broadcasts and study material (for example handouts of excerpts from copyright works) to be transmitted outside the institutional campus for the purposes of distance learning but only via secure networks.
・Extend the exception relating to small excerpts so that it covers film and sound recordings but this will not cover artistic works.

We also propose to retain existing provisos so that:
・The exception will apply only to the extent that licensing schemes are not in place.
...

We propose:
・to extend the current exception to allow libraries, archives, museums and galleries  to copy for preservation purposes films, sound recordings and certain  artistic works not already provided for, to enable the transfer of works to different formats and to enable more than one preservation copy to be
made;
・to ensure that legal deposit libraries are put in the same position as other libraries when it comes to copying for preservation purposes.

We further propose retaining for the amended exception existing features of the current exception, namely that:
・the exception continues to apply for preservation purposes;
・the scope of the exception retains current limits so it does not extend to e.g. performance or communication to the public;
・copying relates only to items within permanent collections;
・copies should only be made where it is not reasonably practicable to purchase another copy.
...

我々は次のことを提案する:
・遠隔教育の目的で、教材、放送等を、教育機関のキャンパス外に送信することを可能とするよう、教育目的の例外を拡大すること、ただし、セキュアなネットワークを通じた場合に限る。
・短い抜粋に関する例外を、映画や録音もカバーするように拡大すること、ただし、この例外は、芸術作品まではカバーしない。

また、以下の既存の条件も保持することを提案する:
・この例外は、ライセンススキームが無い場合にのみ適用される。

我々は次のことを提案する:
・保存の目的で、図書館、文書館、博物館と美術館に、今現在規定されていない映画、録音等を複製し、著作物を異なる媒体に移し、1つ以上のコピーを作成することを可能とするよう、現行の例外を拡大すること;
・保存の目的でコピーする場合、法定納本図書館も他の図書館と同じ立場でできると保証すること。

また、修正を受ける例外について、現在の例外の特徴を保持することも提案する、特に:
・この例外は、保存目的のみに適用される;
・この例外の範囲について現行の制限は保持される、つまり、それが、上演や公衆送信まで拡張されることは無い;
・コピーは、永久保存される収蔵品についてのみ可能である;
・他のコピーを買うことが合理的な範囲で実行可能でない場合のみ、コピーは作られ得る。

 これら自体が狭く作られていることも問題となり得ると思うが、さらに問題なのは、折角ガワーズ・レビューで取り入れるとされながら、今回の報告書で導入が否定された私的フォーマットシフトとパロディに関する権利制限についてだろう。

 これらの権利制限については、最初の第2ページから第6ページの要旨に、

FORMAT SHIFTING
6. Recognising the divergence between the current law, which does not permit private copying of legitimately owned content such as music, and what happens in practice, the Gowers Review recommended a limited form of private copying (format shifting). The first stage of the consultation followed this with a proposal to allow consumers to make a copy in another format of a work they
legally owned for playback on a device in their lawful possession. It was proposed that the exception would only apply to personal or private use and the owner would not be permitted to sell, loan or give away the copy or share it more widely.

7. Although the overall majority were in favour of the principle of introducing this exception, there was little consensus as to how the proposal could be implemented. The main points of contention surrounded the circumstances under which copies could be made (some suggesting only when there was an absolute technical requirement), the types of content that should be covered (some would
only accept copying of music, others wanted all types of content covered), and whether content holders would suffer significant harm as a result, and therefore require the introduction of a scheme for fair compensation (usually implemented
in other Member States through a system of “levies”).

8. The polarised nature of the responses to this proposal, in particular in relation to the issue of fair compensation, has highlighted the difficulty
of meeting the needs and expectations of both consumers and rights holders in the digital age. The narrow, UK-only format shifting measure considered in the first stage of the consultation does not appear to meet those needs. The recent
BIS/IPO Copyright Strategy concluded that discussions at EU level might be a possible way forward, and should include consideration of a broad exception to copyright for non-commercial use together with any requirement for fair
compensation.
...

PARODY, CARICATURE AND PASTICHE
16. The first stage of the consultation considered whether a new exception for parody, caricature and pastiche should be introduced. A fair dealing style exception was proposed.

17. Most respondents expressed no interest in this exception, and of those who commented opinions were quite polarised. Those in favour cited various reasons including promoting freedom of speech, and protecting the valuable cultural asset that parody represents. A minority incorporated caveats intended to restrict the extent of the exception in recognition of the potential negative
consequences for rights holders.

18. Rights holders were generally against the introduction of an exception.  Their objections included the vibrancy of the current parody scene in the UK, lack of evidence supporting change, and the potential financial and reputational
damage.

19. Overall, we do not believe that there is sufficient justification to introduce a new exception for parody in the UK now.There is scope for further
debate within an EU context about the potential for a non-commercial use exception which if implemented could cover some parody.
...

フォーマットシフト
6.合法に入手した音楽のようなコンテンツの私的複製を認めない現行法と、実際に行われていることの間の離隔を認め、ガワーズ・レビューは、限定された形の私的複製(フォーマットシフト)の導入を提言していた。これに続く、第1の意見募集においても、合法に所有している機器において再生するために、合法に入手した著作物を他のフォーマットに複製することを消費者に認めるとする提言が行われた。この例外は個人的あるいは私的な利用のみに適用され、所有者は、それをそれ以上販売も、貸与も、譲渡も共有もできないと提案されていた。

7.大多数がこの例外の導入に前向きだったにもかかわらず、この提案をどう法制化するかという点についてはほとんどコンセンサスが無かった。主な争点は、コピーが作られ得る状況(完全に技術的な要件が必要と示唆する意見があった)、カバーされるコンテンツのタイプ(音楽のコピーのみ認められるとする意見があり、全てのタイプのコンテンツをカバーすることを求める意見があった)、そして、権利者が結果として相当の損害を被るか否か、そのために公正な補償のための制度を導入する必要があるか否か(他のEU加盟国では、「補償金」制度として制度化されているところが多い)を巡るものだった。

8.特に公正な補償に関して、この提案に対する意見が両極端に分かれていることは、デジタル時代において消費者と権利者の間のニーズと期待を合わせることが困難であることをはっきり示している。第1の意見募集において考えられていた狭い、イギリス独自のフォーマットシフトのための権利制限は、このニーズと合致するものではないと思われる。最近のビジネス・イノベーション省と知的財産庁による報告書「著作権戦略(pdf)」も、この議論はEUレベルで進められるだろうものであり、そこで、非商用利用についてのより広い例外と、公正な補償の必要性についての考慮がなされるべきであると結論している。

パロディ、カリカチュアとパスティーシュ
16.第1の意見募集で、パロディ、カリカチュアとパスティーシュについての新たな例外を導入するべきかと訊ねた。フェアディーリング形式の例外が提案されていた。

17.多くの意見は、この例外について関心を示しておらず、このことについてコメントしているものは全く両極端に分かれていた。表現の自由の促進や、パロディの有する文化的価値の保護などの様々な理由から、これを支持する意見があった。少数だが、権利者に対するあるかも知れない負の影響を考え、例外の範囲を制限すべきという抗議の意見もあった。

18.権利者は概して例外の導入に反対だった。その反対理由は、現在のイギリスにおけるパロディ状況の不安定、改正を支持する理由の欠如、あるかも知れない経済的・人格的被害などである。

19.全体として、現在パロディのための新たな例外を導入するに足る理由があるとは我々は思わない。非商用利用のための例外として、パロディをカバーできるかどうかの可能性については、EUレベルのさらなる議論の範囲に入るものである。

と書かれているが、要するに、フォーマットシフトとのためとパロディのための権利制限という2つの一般ユーザーにとって重要な意味を持つだろう権利制限は、ガワーズ・レビューで導入が明確に謳われていたにもかかわらず、イギリスでも、例によって権利者団体の難癖と政治力で潰されたということである。EUレベルでより広い権利制限の検討をするべきと書いているが、いかなる国際条約にも抵触しないことをまず国内で導入せずしてどうするのか。国民全体を裨益する話だったとしても、自分たちに都合の良いように作った国際動向を理由にして、癒着団体の不利益となる法改正を潰すのは、政府・官僚が良く使うやり口の一つである。

 上で訳した部分だけでも分かると思うが、どこの国でも、権利者団体が言っていること、やっていることに変わりはない。技術の進歩に即して補償金制度抜きで私的なフォーマットシフトを認めて著作権法の法的安定性を高めること、表現の自由を考慮してパロディを明確に認めることなどは極めて妥当なことだと私も思うが、それに対して彼らが持ち出すのは、常に、潜在的な「あるかも知れない」不利益や自分たちに都合よく作った国際動向に過ぎない。現実に国民全体に及ぶだろう利益と、一部の団体の架空の不利益ではそもそも同じ秤にかけることすらできないと私は思うが、世界的に見て権利者団体の政治力がまだ強く、どこの国であれ、残念ながら、今後も、このような主張で国民全体を裨益するだろう法改正が潰されることは十分に考えられる。

 しかし、今現在権利者団体の政治力が強いとしても、実のところ、彼らが皆、一国の経済はおろか文化すらないがしろにしても、自身の既存のビジネスモデル・既得権益のみ守られれば良いと、その非道な主張を政治力の不当な行使によってごり押ししているに過ぎないということは、この情報化時代にあって、既にほとんどの者に見透かされていることである。彼らがインターネットの無かった時代をいくら懐かしんで足掻こうと、時計の針を戻すことはできない。イギリス政府も相当利権に蝕まれていると見えるが、権利者団体があらゆる国で常に言いつのる「複製=対価」の著作権神授説にほとんど合理性は無く、長い目で見れば、不当な既得権益は必ず排除されて行くものと私は考えている。

 前回取り上げたストライク法案と並行する形で、このように権利制限の拡充に関する検討も進められていることは注目されてしかるべきだが、かなり良くできていたガワーズ・レビューから考えると、権利制限について明らかな後退が見られることは非常に残念な話であり、このような政府と癒着団体による卑劣な細工に騙される事なく、イギリス国民が今後も地道に本当に時代にあった法改正を求めて行くことを、また、日本でも権利者団体は各種の権利制限についてほぼ同じ主張をしている訳だが、日本がフェアユースの議論において、イギリスと同じ道を辿らないことを私は願っている。

 また、「P2Pとかその辺の話」でも、前回取り上げたイギリスのストライク法案が取り上げられているので、興味のある肩は是非リンク先をご覧頂ければと思う。このような、現行法でも課され得る巨額の賠償かストライクかどちらかを選べと二者択一を迫るという恫喝は、フランスの3ストライク法の議論でも一部見られたものだが、こうした本来二者択一でないものを二者択一にすることもまた、良くある姑息な議論・問題のすり替え手段の1つである。今現在、問題が発生しているとするなら、まずその莫大な賠償額の方をどうするかということから議論するべきで、そこにストライクポリシーの議論は混ぜるべきではない。

 次回は、年内最後になると思うので、また落ち穂拾いエントリにしたいと思っている。

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