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2009年11月20日 (金)

第199回:「新たな人身取引対策行動計画」(案)に対するパブコメ募集

 既に「チラシの裏(3周目)」で取り上げられているので、リンク先をご覧頂くだけでも十分だと思うが、内閣官房が「新たな人身取引対策行動計画」(案)(pdf)に対するパブコメの募集を12月3日〆切で開始した(内閣官房の募集ページ参照)。

 この計画案(pdf)のメインの対象が人身売買にあることには注意する必要があるが、児童ポルノに関しても、第3ページに、

③ 児童の性的搾取に対する厳正な対応
 児童に対する性的搾取について、「ゼロ・トレランス(不寛容)」の観点から対処することとし、児童買春・児童ポルノ事犯に対しては、国外犯規定の適用を含め、児童買春・児童ポルノ禁止法違反等により徹底的に取り締まるとともに、より一層厳正な科刑の実現に努める。また、児童ポルノ等の排除に向けた取組を強化する。

との記載がある。この記載は明確に今現在ざわついている法改正について言及しているものでは無いが、ここで、「ゼロ・トレランス(不寛容)」という語がここに入っていることは、決して看過できない

 「表現の自由で守られる法益と児童ポルノによって失われる人権というものとの比較をすれば、それは表現の自由という部分が大幅に削られて構わない」という鳩山邦夫元総務大臣の違憲発言が飛び出した今年2月18日の衆議院予算委員会(議事録参照)、自公議員による数々の違憲発言が飛び出した今年6月26日の衆議院法務委員会(議事録参照)で、感情論のみで根拠無く単純所持規制と創作物規制を求める公明党の丸谷佳織元議員がこの「ゼロトレランス」という語を連発していることからも分かるように、この「ゼロ・トレランス」という語は、規制派によって、極めて非人道的な単純所持規制・創作物規制を推進するための便利なキーワードとして使われているものである。

 このブログでは何度も繰り返していることだが、例えそれが児童ポルノに関するものであろうと、他のあらゆること以上に、情報そのものに対する「ゼロ・トレランス」はあり得ない。情報そのものに対して「ゼロ・トレランス」があり得るとすることは、新たに思想犯罪を作り、この現代に恐るべき思想警察・異端審問を復活させることを認めるに等しいのである。閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。また、どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されないことである。

(欧米を中心としたキリスト教国の単純所持規制を含む狂った児童ポルノ規制に関しては、つい最近も、ITmediaの記事ABC Newsの記事に書かれている通り、アメリカで、児童ポルノ所持罪で起訴され、有罪とされようとしていた男性が、逮捕・起訴から11ヶ月後にどうにか児童ポルノを勝手に保存するウィルスの存在を証明し、かろうじて人生の完全破壊を免れたという事件が起こっている。この場合はたまたまウィルスの存在が証明できたからまだ良かったようなものの、欧米主要キリスト教国の児童ポルノ裁判は既に推定有罪の魔女裁判と化しているので、一旦有罪とされたらどうしようもない。実際にこの手のウィルスによってなす術も無く有罪とされ、人生を完全に破壊された者も欧米ではかなりいるのではないかと私は思う。)

 以前の「人身取引対策行動計画」を見ると、この語は入っておらず、児童ポルノに関しては「児童買春・児童ポルノ事犯を始めとする少年の福祉を害する犯罪の実態について広報啓発を実施しているが、今後もあらゆる広報媒体を活用して、社会啓発・広報活動を積極的に推進する」、「児童買春・児童ポルノ事犯を始めとする少年の福祉を害する犯罪の被害に遭った児童の保護に関し、被害少年対策の必要性、被害少年に接する際の留意事項、少年の人権及び特性に配慮した活動について教育・訓練を実施する」等と書いてあるだけである。役所内の動きは分からないが、このように児童ポルノ規制に関する記載を変えたのは、まず間違いなく国民の生活と安全をないがしろにしても自己の権限強化のみが図れれば良いとばかりに、児童ポルノ規制の強化を強力に推進している警察庁だろう(警察庁と結びついている規制派の団体あるいは議員の働きかけもあったのではないか)。去年の、内閣官房の犯罪計画案(第133回参照)、あるいは、総務省の違法・有害報告書案(第135回参照)と比べれば、実にあっさりとした記載ではあるが、こうして役所の報告書にわざと分かりにくく規制強化のための文章を紛れ込ませ、短い期間でこっそりとパブコメを取って、それだけで民意を聞いたことにして、規制強化の既成事実化を図って行くのは、日本の役所のいつもの手口である。

 例によってこのパブコメも出す必要があると思っており、提出次第、私の書いたパブコメはここに載せたいとと思っている。

 相変わらず良いニュースは無いが、他の話も紹介しておくと、internet watchの記事時事通信の記事にもなっている、JASRACの創立70周年パーティでの鳩山首相の著作権保護期間の70年への延長に最大限努力するという発言が波紋を広げている。既に、「Copy & Copyright Diary」や「P2Pとかその辺のお話@はてな」などで取り上げられているので、リンク先をご覧頂ければ十分だと思うが、著作権保護期間延長問題に、今の時点で油を注ぐのは愚鈍の極みである。著作財産権の保護期間の延長は、単に国民から権利者団体への財の移動を意味するのであり、著作権の保護期間延長に、文化的にも経済的にも合理性が無いことはほぼ明らかになっているのである。(なお、この問題においては、既に永遠の保護となっている人格権の問題と混同している者、意図的に混同させようとしている者がいることに常に注意する必要がある。)

 また、第188回で紹介したように、ストライクポリシーに傾斜していたイギリス政府が、権利者団体の強力なロビー活動によるものだろう、やはり強硬な態度を崩さず、ネット切断型の違法コピー対策を可能とする法案の議論を開始しようとしているようである(BBCの記事Telegraphの記事Zeropaidの記事EFFの記事TorrentFreakの記事p2pnetの記事参照)。どうなるかは何とも言えないが、今のまま行けば、イギリスもフランス同様まず法案の審議から相当迷走することになるだろう。

 他に香港でも著作権法の改正提案がされているようである(crienglishの記事China Viewの記事7thspaceの記事THRの記事参照)。現時点の提案では、ストライクポリシーやダウンロード違法化は入っていないようであり、香港はイギリス系の私的複製のための権利制限の狭いフェアディーリング国だったと記憶しているが、特に補償金制度を導入すること無く、メディアシフトのために権利制限を広げようとしているらしいことは注目に値する。

 フィリピンで単純所持罪を含む改正児童ポルノ法がじきに発効する見込みとの毎日の記事もあったが、このようなニュースは、フィリピンがキリスト教国であるという背景を抜きにしては理解され得ない。フィリピンも、これで魔女狩り国の一員となり、児童ポルノに関しては欧米同様の混乱を極めると容易く予想される。

 イギリスや香港などの話も随時紹介したいと思っているが、次回は、提出パブコメエントリになるのではないかと思っている。

(2009年11月20日夜の追記:単純所持規制を含む児童ポルノ規制法改正案を自公が今臨時国会に提出した(毎日の記事参照)。保坂展人氏がそのブログ記事で書いているように、この臨時国会で急転直下成立へという可能性はかなり低いと見て良いのではないかとは思うが、「『社民党が表現の自由と立法事実の再確認』などと面倒なことを言わなければ、天ぷらをあげるように衆参両院を数日で弾丸通過したという危険性は相当にあった」とも書いている通り、この問題も引き続き危険な状態が続くことになるのだろう。この問題についてその危険性を党としてきちんと認識して頑張ってくれている社民党は本当に有り難い。

 保護期間延長問題に関しては、時事通信の記事にもあるように、鳩山首相に続き川端文科相も延長に意欲を見せるなど、この問題については閣僚レベルでの無理解が著しい。早速MIAUが反対声明internet watchの記事も参照)を出しているので、そのリンクも張っておく。この反対声明にもある通り、著作権の保護期間延長については、「『メリットは無いのに、デメリットは確実にある』というのが、国内外を問わず多くの専門家の意見が一致するところ」だろう。また、著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(thinkC)も、同じく、反対意見を公表した。

 欧州におけるストライクポリシーとインターネットの自由を巡る動きについて、朝日が記事を載せているので合わせてリンクを張っておく。この記事では、イギリスのストライクポリシーに関しても少し触れられているが、TorrentFreakの記事にもあるように、イギリスでも、その自由民主党が、このストライクポリシーを酷評するなど、早速法案審議の荒れを予想させる展開となっている。)

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コメント

都議会で、不健全図書指定の拡大と、インターネット規制の強化をやるという話がでてきてるそうです。
不健全図書指定されると、流通上で不利になるそうなのでかなり問題かと。

東京都青少年問題協議会に行ってきた
http://www.mangaronsoh.com/archives/1917752.html
>1:単純所持罪を設けるように都から国会への働きかけを要望(条例による禁止は行わない)
>2:不健全図書類に児童が性的対象となっている漫画を含めることを要望。
>同時に、自主規制団体に表示図書とすることを働きかけ(条例による規制を求める文言はナシ。包括指定等の文言もナシ)

関口太一の日記
http://www.taichi-net.jp/diary.html
>ネット問題に関しては、フィルタリングの強化や、親、学校、行政、事業者に求める取り組みなどを確認。

投稿: taffy | 2009年11月25日 (水) 01時36分

taffy様

コメント・情報ありがとうございます。

この東京都青少年問題協議会については、以下のブログでも触れられており、屋上屋を架すことはしていませんが、確かにこの協議会には問題があり、この協議会の動きにも注意して行かなくてはならないと私も思っているところです。

「表現の数だけ人生が在る」
http://mudaken.blog103.fc2.com/blog-entry-317.html
コンテンツ文化研究会が「東京都の青少年・治安対策本部青少年課」に対して、要望書を提出

「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」
http://otakurevolution.blog17.fc2.com/blog-entry-421.html
「東京都青少年問題協議会」での数々の暴言に抗議をお願いします!

投稿: 兎園 | 2009年11月25日 (水) 22時52分

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