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2009年9月 7日 (月)

第188回:ネット切断型のストライクポリシーを採用しようとあがくイギリス政府

 第179回で紹介した「デジタル・ブリテン」最終報告書でもストライクポリシーをにおわせていたイギリス政府が、その採用を急ごうと悪あがきを続けているので、今回は、その話を紹介しておきたいと思う。

 報道など(ITmediaの記事Morningstarの記事Telegraphの記事Timesの記事BBCの記事TorrentFreakのブログ記事P2P Blogのブログ記事参照)でも取り上げられているので、リンク先をご覧頂くだけでも十分だと思うが、要するに、イギリス政府も、著作権団体のロビー圧力に負け、「デジタル・ブリテン」最終報告書に書いていた提案に、ネット切断型の対策を追加する羽目になったということである。

 この追加については、イギリスのビジネス・イノベーション&スキル省から、リリースと、違法なP2Pファイル共有対策に関する意見募集(提案の追加に合わせて9月29日まで〆切が伸ばされた)に対する追加の提案書(pdf)が公表されており、ここでは、この提案書から、ネット切断に関する部分を以下に訳出する。

In the consultation we set out proposed legislation that would introduce two obligations to be imposed on ISPs by Ofcom – to send notifications to subscribers alleged by rights holders to be infringing copyright, and to monitor the number of notifications each subscriber is associated with; the ISP would then make this data available to rights holders on receipt of a court order. We also proposed a mechanism whereby Ofcom would be granted reserve powers to oblige ISPs to utilise specified technical measures against repeat infringers should these two obligations prove to be deficient in reducing infringement. It is the mechanism around this introduction of potential further technical measures where our thinking has evolved. In addition we are considering the case for adding into the list of technical measures the power, as a last resort, to suspend a subscriber’s account. Finally, we feel it would be better if we were able to be more specific in the legislation about the way costs are shared by industry parties.
...

Suspension of accounts
The original proposal lists six technical measures that Ofcom might require ISPs to impose on repeat infringers. Since the issue of the consultation some stakeholders have argued strongly that none of those technical measures is powerful enough to have a significant deterrent effect on infringing behaviour. Also we cannot know how P2P technology might develop in the short to medium term, and we want to ensure that Ofcom has a full tool-kit from which to select the most appropriate measure should technical measures be deemed necessary. Taking those points into account, although we continue to regard the uptake and use of Internet services as essential to a digital Britain, we are considering the case for adding suspension of accounts into the list of measures that could be imposed. This does not necessarily mean that suspension would be used - this step would obviously be a very serious sanction as it would affect all members of a household equally, and might disrupt access to other communications, so it should be regarded as very much a last resort. Accordingly a thorough examination of the proportionality and effectiveness of the measure (as with any of the other measures) would have to be undertaken before ISPs would be required to implement it, even if the decision to move to technical measures is taken. As ever we would need to ensure any such measure fully complied with both UK and EU legislation

意見募集において、情報通信庁によってインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)に課される2つの義務−権利者から著作権侵害の容疑を受けた契約者に通知を送ることと、それぞれの契約者に送られた通知の数を監視すること−を導入する法制を我々は提案している。そして、ISPは、裁判所の命令を受けて、このデータを権利者に入手可能とする。この2つの義務では著作権侵害を減らすことに不十分であると示されたときのため、我々は、さらに、侵害を繰り返す者に対し特別な技術的手段を使用することをISPに義務づける予備的権限を情報通信庁に与える機構を提案する。これは、我々が考えを発展させているところの、このさらなる潜在的な技術的手段の導入のための機構である。加えて、現状から、最後の手段として、契約者のアカウントを停止する権限を技術的手段のリストに加えるべきだと我々は考えている。また、我々は、コストの各業界の間の配分について、この法律中でより具体的にできると良いと我々は思っている。
(中略)

アカウントの停止
最初の提案は、情報通信庁により侵害を繰り返す者に対してISPが課すことを求められる技術的手段として、6つをリストに上げている。意見募集を開始したときから、これらの技術的手段のどれも侵害行為を大きく抑止する十分な力を持っていないと、一部の利害関係者が強く主張していた。また、短中期的にどのようにP2P技術が発展するか我々には分からず、技術的手段が必要とみなされるならば、最も適切な手段を選択できるよう、情報通信庁がツールの完全な一式を持つことを確保したいと思っている。英国のデジタル化にとって必要なものとして、インターネットの評価と利用を我々は尊重し続けるが、これらの点を考慮に入れ、現状から、課され得る手段のリストにアカウントの停止も加えるべきだと我々は考えている。このことは、必然的に、アカウント停止が用いられるだろうということを意味するものではない−この段階は、家庭の全ての者に影響を与え、他の通信へのアクセスも遮断するもので、明らかに非常に重大な罰であり、したがって、正に最後の手段として考えられるべきものである。したがって、技術的手段が取られるべきとの決定が取られたとしても、ISPがそれを導入することを求められる前に、(他の手段と同様に)手段の有効性とバランスに関する完全な調査がなされなければならない。さらに、我々には、このような手段がイギリスとEUの法制との完全な合致を確保する必要もある。

 著作権団体の圧力に負けてこのような追加提案をしたと、文書中でも露骨に触れられているが、これもまた提案に過ぎない。上でリンクを張った記事にも書かれているように、このような唐突なネット切断の提案に関しては、ISPやユーザー団体が反発を強めているのは勿論、いくつかの音楽家団体も反対を表明しており、この提案が簡単にイギリスで通るとは思えない。この有様では、かえって各関係者の反発を煽るだけに終わり、今までの比較的穏当な提案の導入すら覚束なくなるだろう。EU議会が、この種のネット切断型の違法コピー対策を否定する決定を繰り返し行っていることも忘れてはならない。

 ストライクポリシーに関しては、今月、フランスで3ストライク法案の第2案(第181回参照)の審議が再開される予定だが、これも、フランス与党のごり押しで国会を通ったとしても、前のものと同じく憲法裁判によって断罪されることになるだろう。

 韓国も、その変形ストライク法から、ウェブストレージやP2Pサービスのアクセス遮断を行うことを考えているようだが(中央日報の記事参照)、韓国が本当に実行に移そうとすれば、その混乱はまた日本にまで伝わって来ることだろう。(この韓国の法制も紹介したいと思っているところだが、アクセス遮断が本当に実行できるかかなり怪しいと私は踏んでいる。)

 日本でも、権利者団体とISP団体で作った「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会(CCIF)」が、日本版変形ストライクポリシーの第一歩として、ファイル共有ユーザーに対する注意喚起メールの送信を実施しようとしている(internet watchの記事も参照)。このレベルでも、規模次第で相当混乱することになるだろう。ここでもまたダウンロード違法化が響いている。(なお、間違ったことは書いていないと言えば書いていないが、この協議会のQ&Aは、ファイル共有とアップロードとダウンロードに関する法律と技術の現状についての十分な説明に全くなっておらず、ミスリードを誘うものとなっている。)

 また、違法コピー対策ということでは、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」で検討されていた、日本レコード協会が中心となって提案している携帯電話における著作権検閲(総務省提出パブコメ参照)のため、日本レコード協会と電気通信事業者協会中心で、また別の「違法音楽配信対策協議会(仮称)」を無意味に立ち上げるようである(読売のネット記事参照)。中国のグリーン・ダムの例を引き合いに出すまでも無く、このような技術的な著作権検閲は、法律やコストの面での問題があまりにも大きく、確実にどこかで頓挫するだろう。

 残念ながら、現状では世界的に見て著作権団体の方がまだ政治力が強く、どこの国も政策的におよそロクなことを言い出さない状況が当分は続くのではないかと思うが、情報と技術の性質に対する完全な無理解を示し、国民の情報に関する最重要の基本権を侵害するものとしかなりようのない、ネット切断型のストライクポリシーや技術的な著作権検閲のような違法コピー対策は、失敗が約束されているものと私は考えている。

 最後にもう少し、他のニュースも紹介しておくと、第185回第186回に載せた規制緩和パブコメの結果がIT本部の「デジタル利活用のための重点点検専門調査会」の資料(pdf)概要(pdf))として公表されているので、リンクを張っておく(ITproの記事も参照)。IT本部も役所の1つとしてあまり信用はできないが、この調査会の動きも注目しておいた方が良いだろう。突っ込んだ話は全て一朝一夕でどうにかなる問題ではない、パブコメ出しは今後も地道に続けて行くつもりである。

 文化庁の文化審議会・著作権分科会の法制問題小委員会で、一般フェアユース条項に関する検討が続けられているが(cnetの記事1ITproの記事cnetの記事2参照)、主として権利者団体側が強く反対し、主として利用者側が強く賛成しているという中で、権利者団体と癒着している文化庁がどのようにまとめようとして来るかは火を見るより明らかであり、一般フェアユース条項の導入に関しても全く油断はできない。

 「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」で触れられているが、番外その18で取り上げたアダルトゲーム自主規制問題について、残念ながらソフトウェア倫理機構の8月末の総会で規制強化案が通ったようである。一つの業界に閉じる話であればともかく、一番の問題は、このような一業界の選択の影響が、今後、今の日本の表現に絡むあらゆる業界に波及して行くに違いないことである。(「『反ヲタク国会議員リスト』メモ」で取り上げられているが、国家公安委員会も6月にアダルトゲーム規制について触れていたらしい。いまさら今の日本のどこでマッチポンプが行われても驚かないが、「国家公安委員会は、...個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持することを任務とする」と警察法の第5条に明記され、警察の暴走を止める重責を負っているはずの国家公安委員会ですら、個人の権利と自由の保護のことなど全く考えていないというのが今の日本の惨状である。)  

 また、「チラシの裏(3周目)」、「『反ヲタク国会議員リスト』メモ」、「創作表現は理論で性暴力は実践か?」、「北へ。の国から」、「Suzacu Late Show」、「Запретная Зона」等々で既に突っ込まれているので、リンク先をご覧頂ければ十分と思うが、表現規制問題に関しては、規制派団体のマッチポンプにより、国連の女子差別撤廃委員会が、「性暴力」という規制派団体の曖昧な用語をそのまま使って根拠無くゲーム・漫画・アニメの規制を日本に求めるロクでもないコメントを出している。法的拘束力こそ無いものの、これもまた、自らのマッチポンプでありながら、何かにつけダシにして規制派団体が騒ぐ可能性が高く、残念ながら、表現規制問題に終わりは見えない。

 次回は、各国著作権法紹介の続きをしようかと思っているが、表現の自由一般の話を書くことにするかも知れない。

(9月8日の追記:「P2Pとかその辺の話」で、上でリンクを張ったこのイギリスの動きに関するTorrentFreakのブログ記事の翻訳をされているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。)

(9月11日の追記:やはり「P2Pとかその辺の話」で、イギリスの動きに関するもう1つのTorrentFreakのブログ記事の紹介として「英国ミュージシャン各団体、英国版スリーストライク提案を批判」というエントリを書かれているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。)

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コメント

この種の規制を積極的に進めてきた自民党政権が倒れたことで、なにかいい方向に変わってくれればいいのですが…。

投稿: taffy | 2009年9月 8日 (火) 21時34分

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