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2009年6月 3日 (水)

第176回:医療関連発明の保護範囲の拡大・特許制度研究会の検討

 著作権に比べ特許制度自体は非常に堅牢で、特許に関する話は大体問題ないところに落ちるようにできているので、いつも後回しになるのだが、特許政策も知財の1つの柱として決しておろそかにして良いものではなく、先週の5月29日に知財本部で第8回の「先端医療特許検討委員会」(議事次第)が開かれ、その報告書案(pdf)も出されているので、ここで特許関係の話をまとめてしておきたいと思う。

(1)医療関連発明の保護範囲の拡大
 去年の今頃はかなり大騒ぎをしていたように思うが(第95回参照)、最終的に出て来た報告書案(pdf)は、かなり落ち着いたものとなっている。概要(pdf)を読んでもらえばすぐに分かると思うが、この報告書では法改正を伴うような抜本的な変更方針は示されておらず、主に、審査基準の改訂により以下の2つのタイプの発明を新たに特許の保護対象として追加するというところに落ちている。

  • 画期的な効果を示す新用法・用量の医薬の発明
  • 最終的な診断を補助するための人体のデータの収集方法に係る発明

 細かな話だが、前者は、従来、薬の対象となる患者群や適用部位が異ならない限り新たな特許保護の対象とならなかった医薬発明について、本当に画期的な効果が得られるようであれば、薬の用量のみを変えたような新発明についても、特許の保護範囲とするということであり、後者は、従来、人体の測定に使われるX線CT装置やMRI装置等の新規の測定方法の発明は、全て診断方法に該当するとされ、特許保護の対象外とされていたものを、人体の一般的な測定方法は診断方法に該当しないとして、特許保護の対象とするということである。

 また、従前から特許保護の対象であったにもかかわらず、そのことが良く知られていなかった、以下の3つのタイプの発明については、そのことを審査基準に明記して周知を図るとしている。

  • 化学物質や細胞と機械・器具を組み合わせたDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)や再生医療に係る発明
  • iPS細胞を様々な細胞に分化誘導する方法等の生体由来材料の体外における処理方法に係る発明
  • 細胞を新たな適用疾患に適用する生体由来材料の用途発明

 命に関わる医療関連発明について闇雲に特許の保護範囲を広げることは、社会全体に致命的な影響を及ぼすので決してやってはならないことだが、上の2点の特許対象の追加のレベルであれば、これは手術、治療、診断等の医療行為そのものに特許権を及ぼすような変更では無く、実務的には多少ややこしい問題が発生し得るかも知れないが、十分合理的なレベルでの特許の保護範囲の拡大に落ち着いていると言えるだろう。

(2)特許制度研究会の検討
 次に特許の話をするのはまた相当時間が空くと思うので、一緒に紹介しておくと、特許庁が、抜本的な法改正をすると称して「特許制度研究会」(配布資料等)を開催している。今現在、開かれているのは第4回までで、最終的に何が出てくるのかはさっぱり分からないが、今までの検討項目として上がっているのは、およそ以下のようなものである。

  • 特許権の効力の見直し(差止請求権に対する制限の導入、強制実施許諾の在り方など)
  • 特許の活用促進(ライセンス・オブ・ライト制度の導入、通常実施権の登録対抗制度の見直し、新たな独占的ライセンスに係る制度の創設、特許を受ける権利の登録・公示制度の創設など)
  • 迅速・効率的な紛争解決(特許無効訴訟と特許侵害訴訟という特許の有効性判断の2つの訴訟ルートの整理)

 また、具体的な内容は分からないが、第1回の研究会資料(pdf)によると、さらに、特許の質の向上、迅速・柔軟な審査制度の構築、 国際的な制度調和の推進の3点についても検討することになっている。

 あまりにマニアックな話になるので、個別の項目についてここでいちいち突っ込むことはしないが、第2回から第4回までにあげられた論点は全て法的整理が非常に厄介なものばかりであり、いくら検討を重ねたところで、すぐに結論が得られるとは到底思えない。そもそも、既にかなり堅牢に構成されている特許法について、抜本的な法改正のニーズが本当にあるのかというところからして疑問である。特許についても、最近の役所のパターンで、地道な取り組みを無視したニーズ不明・意味不明の検討の結果、例によって例の如く法改正のための法改正がされることがないよう個人的には祈っている。

 上の先端医療特許検討委員会の報告書案のとりまとめで、知財本部のイベントは一通り終わったと思うので、近いうちに今年度版の知財計画が出されるだろう。その内容は公表され次第確認したいと思っているところである。

 このブログは一応知財政策と銘打っているので、特許の話を先に書いたのだが、最近、表現・情報規制関係の話がさらに危険な様相を呈して来ている。

 去年の青少年ネット規制法の審議などを考えても、昨日可決された国会の55日間の延長により、各種の危険な規制強化法案について、混乱に乗じた妥協、強行採決の危険性は高まっていると考えておいた方が良いだろう。日本の政党はどこも妥協政党ばかりで本当に度し難いのだが、任期切れまで待ったとしても選挙まで後わずかである、適宜政党や国会議員へ意見を送る等、個人でやれることはやっておきたいと思う。

 やはり昨日、総務省が開催したオンラインでの児童保護をテーマとした国際会議では、規制派・欧米の狂った取り組みや主張が中心的に取り上げられるなど(internet watchの記事参照)、さらに同日、警察庁も児童ポルノ流通防止協議会と称して、メンバーを見ただけで結論ありきだろうと分かるネット検閲協議会を立ち上げるなど(internet watchの記事、インターネット協会のリリース参照)、児童ポルノ規制関連の動きは、相変わらずひどい状態が続いている。

(なお、パブコメ等には書いているが、ここにも書いておくと、ドイツでは以下のような内容の児童ポルノサイトブロッキング法案に反対する国会への電子請願(HP参照)が既に10万筆を超えて集まっており、欧米でも、一方的に規制強化のみが是とされている訳では無い。

「請願:ドイツ連邦議会が、2009年4月22日に閣議決定された通信メディア法改正案を否決することを求める。連邦警察庁がサイトを指定し、プロバイダーにそのブロックを認める、この計画されている措置は、『ブロッキングリスト』が閲覧不可能であり、きちんと決められ得ないものである以上、どのようなクライテリアに基づいてサイトがリストに載せられるのか、全く透明性に欠け、コントロール不能のものであると我々は考える。これは情報の自由に関する基本的な権利を危うくするものである。
理由:特に、子供を守り、児童ポルノの頒布を含め、その虐待を防ぐというその目的には我々は全く異論は無い、逆に、我々の関心があるのはそのことのみである。しかし、計画されている手段が、その目的に対して極めて不適切なものであるということは、沢山の場所で言われており、専門家も実に様々な報告で間々認めている。インターネットサイトのブロッキングが、虐待児童の肉体的精神的保護のためになるということはほとんど全くと言って良いほど無く、その証明もされ得ない。」)

 これに加えて、アダルトゲームの自主規制問題も騒がしくなっている(読売のネット記事参照)。「チラシの裏(3週目)」(関連エントリ1エントリ2)で既に突っ込まれているので、リンク先をご覧頂ければ十分と思うが、頭のおかしい極一部の人間の根拠不明の言い分を一方的に飲んで、ある特定のジャンルの創作物の国内販売を広く規制するなど、狂気の沙汰である。一般流通からほぼ完全に排除されるという効果を有するなら、自主規制であったとしても危険であることに変わりはない。意味不明かつ曖昧な範囲で規制が実施されるとしたら、根拠なく一般流通からある表現が排除できるという前例を作る点で、表現・情報規制問題全体に対しても悪影響を及ぼすことだろう。マイナーな表現の切り捨てにつながり易いという自主規制そのものの問題、アダルトゲーム業界自体の問題も絡んでいるので、非常に厄介なのだが、表現の自由から考えてこのような規制の圧力こそ明らかに不当なものなのだから、流通も製造も含めアダルトゲーム業界全体で一丸となって不当な圧力を跳ね返すということができないものかと思う。

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