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2009年3月11日 (水)

番外その15:マジコン事件地裁判決

 このブログでは個別の事件に対する注釈はあまり書いていないのだが、非常にややこしいDRM規制の問題に絡む、いわゆるマジコン事件については、誤解を無くすための解説は少しでも多い方が良いと思うので、今回は、番外として、この事件の判決(pdf)のことを取り上げることにする。

 まず、マジコン事件で関係して来るのは、不正競争防止法の以下の条文である。

第2条第7項 この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録のために用いられる機器をいう。以下同じ。)が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
第1項第10号 営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為

第3条第1項 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

第2項 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。

 条文自体の解説は第36回に書いた(法改正の経緯は第45回で、フリーオについては番外その6で書いている)ので、そちらを読んで頂ければと思うが、マジコンの不正競争防止法上の取扱いを考える上でポイントとなるのは、判決文(pdf)の争点の通り、要するに、1.ニンテンドーDSに組み込まれているDRMが不正競争防止法で定義されているところの「技術的制限手段」に該当するか(定義の問題)、2.マジコンが、技術的制限手段の効果を妨げることによりプログラムの実行等を可能とする機能「のみ」を有する装置に該当するか(「のみ」要件の問題)、3.営業上の利益の侵害があるか(差し止めを認めるために必要)という3点である。(なお、やろうと思えば請求できたと思うが、この裁判では、損害賠償は請求されていない。)

 判決を読めば分かると思うが、争点1の定義については、DSのDRMが、DSカードに記録された特定の信号を検知した場合にプログラムの実行を可能とする方式(「検知→可能方式」)であったことから、マジコン業者が、不正競争防止法の「技術的制限手段」は、信号を検知した場合にプログラム等の実行を制限する方式(「検知→制限方式」)のみを差すので、「検知→可能方式」は技術的制限手段に当たらないという主張をしているのだが、これはほとんど「制限」の言葉尻を捕らえた難癖に等しい。条文上も「特定の反応」とあるだけであり、裁判所も、DSと同じ方式のDRMとその回避手段(MODチップ)は立法当時から知られていたものであり、その立法趣旨からもこのようなものを排除していたとは考えられないと、DSのDRMは「技術的制限手段」に該当すると判断しているのである。

 争点2の「のみ」要件について、マジコン業者は、正規のDSカードのバックアップ及び携帯の便宜のための複製並びに自主制作ソフト等の実行のためにも使用されていることにより、マジコンは、技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能「のみ」を有する装置ではないという主張を展開しているが、裁判所は、「不正競争防止法2条1項10号の「のみ」は,必要最小限の規制という観点から,規制の対象となる機器等を,管理技術の無効化を専らその機能とするものとして提供されたものに限定し,別の目的で製造され提供されている装置等が偶然『妨げる機能』を有している場合を除外していると解釈することができ,これを具体的機器等で説明すると,MODチップは『のみ』要件を満たし,パソコンのような汎用機器等及び無反応機器は『のみ』要件を満たさないと解釈することができ」、同様に、マジコンも「のみ」要件を満たすと判断し、このような主張を退けている。マジコンが、DSのDRM回避のための専用装置(あるいは専用装置が組み込まれた機器)であることを考えれば、これも妥当な判断だろう。(なお、裁判所は、インターネット上に極めて多数の吸い出しプログラムがアップロードされていることからも、マジコンの用途を推定しているが、これは言わずもがなだろう。自主プログラムの作成・実行行為やバックアップコピー自体の合法性と、マジコンの販売行為の合法性は別の話である。不正競争防止法の技術的制限手段回避機器の定義に、プログラムの入手元の違法性の要件は含まれていないので、自主制作といった合法なプログラム入手元があることによって、機器が「のみ」要件を満たさなくなるとする主張は、法律的にはおかしいと言わざるを得ない。)

 争点3についても、裁判所は、「数多くのインターネット上のサイトで極めて多数の本件吸い出しプログラムがアップロードされており,だれでも容易にダウンロードすることができ,被告装置の大部分が,そして大部分の場合に,本件吸い出しプログラムを使用するために用いられているものであるから,被告装置により,原告らは,DSカードの製造販売業者として,本来販売できたはずのDSカードが販売できなくなり,現実に営業上の利益を侵害されているものと認められる。原告任天堂は,DS本体の製造販売業者としても,原告仕組みの技術的制限手段が妨げられてその対策を講じることを余儀なくされ,現実に営業上の利益を侵害されている」と、ほとんど自明のこととして、営業利益の侵害があると認めている。

 まだ高裁や最高裁に行く余地は残されているとは言うものの、全ての争点においてマジコン業者の言うことにほとんど理は無く、マジコンの不正競争防止法上の取扱いに関する結論が引っ繰り返る余地はほとんど無いのではないかと私は思う。この判決によって、マジコンの譲渡、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示、輸出入は不正競争防止法上の規制の対象であり、差し止めや損害賠償請求等の対象となり得るということが、ほぼ明白になったのである。プロの業者の方々がこのブログを読んでいるとはあまり思わないが、もし読んでおられるなら、真っ当な業者の方々には、このような機器をもう取り扱わないことをお勧めしておく。(なお、この裁判では不正競争防止法のみで争っているため著作権法は問題とされていないが、プログラム吸い出し機能があるマジコンは、著作権法上の「技術的保護手段」回避機器に該当し得るので、その販売等は著作権法でも訴えられる可能性がある。)

 今のところ、この不正競争防止法のDRM回避機器規制は刑事罰を伴うものではなく、ユーザーの行為自体・私的な領域にまで踏み込むものでもないが、さらなる規制強化を求める権利者団体なりの声がさらに高まることも十分に考えられる。しかし、前回のパブコメでも書いた通り、権利者団体なりが何と言おうと、このような判決が出されたことを考えても、現時点で、DRM回避規制について、現状では不十分とするに足る根拠は全くなく、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない、これ以上の規制強化に私は反対し続けるだろう。

(なお、判決中の各者の主張の中で、マジコン業者側がゲーム市場の閉鎖性と独占性の問題を指摘しているが、本当に市場を歪めるほどの不当な独占利益が存在しているというのなら、独禁法違反としてゲームメーカーを告発すべき話のはずであり、不正競争防止法の話の中で、このような指摘をするのはスジ違いである。全体としてオープン化の流れの中にあり、DRMによる囲い込みと独占の問題は、今後、知財政策上の課題になって行くだろうとも思うが、正当な競争性が保たれている市場における、囲い込みを前提としたビジネスモデルを、現時点で否定し去ることもまた間違っていると私は思っている。)

(2009年10月12日の追記:どうもコメントの書き込みがうまく行かないので、ここに返事を書いておきます。)

(2009年10月13日の追記:追記の返信コメントを削除して、そのまま普通のコメントに直した。)

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コメント

裁判の争点についてよくわかりました。ありがとうございます。

さて気になる記事を見つけました
>ニンテンドーDS「プロテクト外し」横行 ソフト違法コピー調査 産経ニュース
>http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090227/crm0902271332019-n1.htm

最近のDSソフトにはコピー対策としてプロテクトがかかっているようです。
このDSのプロテクトはCCCDやPCソフトのコピーガードのように、アクセスコントロールにも、コピープロテクトにも該当しないものなのでしょうか。

投稿: | 2009年10月11日 (日) 01時05分

コメントありがとうございます。

DSソフトのプロテクトに関する話ですが、これは昔からかかっていたものであり、この判決でも明確に不正競争防止法上の「技術的制限手段」に該当するとされています。(この「技術的制限手段」はアクセスコントロール又はコピーコントロールです。詳しくは第36回
http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/post_e197.html
をご覧下さい。)

「技術的制限手段」に該当しなくなるような方式変更を任天堂がするとは考えられないので、今までも、今後もDSソフトのプロテクトは「技術的制限手段」に該当し、マジコンのような回避機器の販売等は不正競争防止法違法であると考えておくべきかと思います。

(なお、実質的にアクセスもコピーもコントロールできていなかったCCCD
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%ABCD
はともかく、通常のPCソフトのコピーガードは、アクセスコントロールかコピーコントロールに該当するのではないかと思います。)

投稿: 兎園 | 2009年10月13日 (火) 04時44分

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