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2008年11月12日 (水)

第129回:現行の著作権登録制度の問題点

 最近巷を騒がせている小室事件については、個別の事件としてスルーしようかと思っていたのだが、意外と政策的にもその余波が長く続きそうなので、ここで少し、現行の著作権登録制度の問題点について書いておきたいと思う。

 小室事件の詳細自体は沢山記事になっているのでここでは立ち入らないが、この事件で、

  • 音楽家が著作権を音楽出版社に譲渡し、音楽出版社がその譲渡された著作権をさらに著作権管理団体に預けるのが通常のケースである現行の音楽著作権ビジネスでは、現行の著作権登録制度はほとんど利用されていない。
  • そのため、かえって著作権の多重譲渡詐欺において現行制度が悪用される可能性がある。
  • 専門家のチェックを経ない契約で億単位の金が動いても不思議ではないと思わせるような雰囲気が著作権業界にはある。

ということがクローズアップされていることは大きい。(なお、JASRACへの登録は民々の信託契約に過ぎず、JASRACへの登録と、文化庁への法定著作権登録とは別物である。著作権と、著作権使用料請求権も異なるので、念のため。)

 現行の著作権登録制度については、文化庁のHP(登録原簿そのものが見られる訳ではないが、登録状況検索もある)に載っている、「登録の手引き」(pdf)に詳しいが、要するに、現行制度においては、著作権の多重譲渡の場合、どの著作権譲渡契約が早く締結されたかにかかわらず、文化庁への登録における登録名義人が著作権者として法律上取り扱われることになるのである(法的には「第3者対抗要件」と呼ばれるものである。著作権法第77条参照)。

 逆に言うと、現行の登録制度のメリットは、この第3者対抗要件にしかないのだが、その手続きは、著作権法第78条

(登録手続等)
第七十八条 第七十五条第一項、第七十六条第一項、第七十六条の二第一項又は前条の登録は、文化庁長官が著作権登録原簿に記載して行う。
 文化庁長官は、第七十五条第一項の登録を行なつたときは、その旨を官報で告示する。
 何人も、文化庁長官に対し、著作権登録原簿の謄本若しくは抄本若しくはその附属書類の写しの交付又は著作権登録原簿若しくはその附属書類の閲覧を請求することができる。
 前項の請求をする者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を納付しなければならない。
 前項の規定は、同項の規定により手数料を納付すべき者が国等であるときは、適用しない。
 第一項に規定する登録に関する処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。
 著作権登録原簿及びその附属書類については、行政機関情報公開法の規定は、適用しない。
 著作権登録原簿及びその附属書類に記録されている保有個人情報(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十八号)第二条第三項に規定する保有個人情報をいう。)については、同法第四章の規定は、適用しない。
 この節に規定するもののほか、第一項に規定する登録に関し必要な事項は、政令で定める。

や、著作権法施行令の第20条以下

(申請書)
第二十条 登録の申請をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を文化庁長官に提出しなければならない。
 申請者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあつては代表者の氏名
 代理人により登録を申請するときは、その氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあつては代表者の氏名
 著作物の題号(題号がないとき又は不明であるときは、その旨)又は実演、レコード、放送番組若しくは有線放送番組の名称(名称がないとき又は不明であるときは、その旨)
 登録の目的が著作権、出版権若しくは著作隣接権又はこれらの権利を目的とする質権(以下この章において「著作権等」という。)に関するときは、その権利の表示(これらの権利の一部に関するときは、その部分の表示を含む。)
 登録の原因及びその発生年月日
 登録の目的
 登録の申請に係る著作物、実演、レコード、放送又は有線放送に関する登録がされているときは、その登録の年月日及び登録番号(登録の年月日及び登録番号が不明であるときは、その旨)

(添付資料)
第二十一条 前条の申請書には、次に掲げる資料を添付しなければならない。
 申請者が登録権利者若しくは登録義務者の相続人その他の一般承継人であるとき、又は登録名義人の表示の変更若しくは更正の登録を申請するときは、戸籍の謄本又は抄本、登記事項証明書、住民票の写しその他当該事実を証明することができる書面
 代理人により登録を申請するときは、その権限を証明する書面
 登録の目的に係る著作権等が登録名義人から登録義務者に相続その他の一般承継により移転したものであるときは、戸籍の謄本又は抄本、登記事項証明書その他当該事実を証明することができる書面
 登録の目的が著作権等に関するときは、その登録の原因を証明する書面
 登録の原因について第三者の許可、認可、同意又は承諾を要するときは、これを証明する資料
 登録の変更、更正若しくは抹消又は抹消した登録の回復を申請する場合において、登録上の利害関係を有する第三者があるときは、その者の承諾書又はその者に対抗することができる裁判の謄本若しくは抄本
(以下略)

を読んだけでも分かるように、書類も煩雑(文化庁のHPに様式一式(doc)がアップされているが、この様式を定めているのは施行規則である。)で電子化も不十分なら、国に支払う手続き費用も、登録免許税登録免許税法で定められている。)として、著作権の移転の登録1件につき18000円もかかるという、制度ユーザーにとってすら使う気が起こらないだろうほどのヘビーコスト仕様となっている。(なお、この登録税の額がどういう理屈で決まっているのか良く分からないが、著作隣接権の移転の登録では1件9000円、信託の登録では1件3000円となっている。)

 このような手続きコストを考えると、権利の発生に登録が必須となっている特許の場合と違い、メリットとして第3者対抗しか得られない現行の登録制度は、ビジネス上見合わず、ほとんど利用されていないのも無理はないが、小室氏の関連楽曲の販売が停止されたこと(恐らく背景は、自粛がどうこうという話ではなく、権利関係が確定するまで、ビジネスが出来ないという理由ではないかと思う。)ことからも分かるように、権利関係が確定出来ないと安定してビジネスは出来ないのであり、この事件によって、著作権譲渡をその基本とする著作権ビジネス全体が実は非常に不安定な土台の上に立っているということが露呈してしまったことは、実は大問題である。ビジネスが法的に不安定であることは、ユーザーにとっても決して良いことではないだろう。

 だからと言って、著作権の性質上、権利の発生に登録を必須とすると言った議論や、第56回で書いたように登録制度にさらなるインセンティブを付けるといった議論もナンセンスであり、実際のところ、この著作権譲渡と登録制度の問題は、即効性の解決策がある話ではない。(なお、現行の著作権ビジネスの慣行を考えると、このような第3者対抗のためのみの登録制度は廃止して、全て契約ベースで判断した方がかえってビジネス上は安全性が高まるのではないかと思うが、全体的なバランスを考えると、それもまた難しいのではないかと思う。)

 文部科学大臣は、現行制度には問題がないが周知が不徹底だったと言ったよう(毎日のネット記事日刊スポーツのネット記事参照)だが、即効性の解決策がないのは確かにそうかも知れず、専門家への相談の必要性や現行制度の周知が重要であることもまたその通りだろうが、メリットに比して現行の登録手続きの煩雑さ・料金の高さは目に余るものがあり、制度的対応の検討もまた重要ではないかと私は思う。予算の面から難しいのかも知れないが、登録免許税の減額、登録に必要な項目・書類の削減、登録手続き・登録原簿の電子化や、電子認証・電子(カード)決済の採用による省力化など、やってやれなくはないだろう。ビジネス上も、タイムロスと直接雇用人件費以外のコストは割と簡単に全体のコストに組み入れられるはずである。詐欺自体は無くしようがないにしても、制度及び運用上より詐欺がやりにくくすることは出来るに違いない。

 実のところ、このような登録制度の見直しの検討は、平成17年1月24日の「著作権法に関する今後の検討課題」で、法制問題小委員会・契約・利用ワーキングチームで「今後の登録制度の利用の促進を図る観点から、登録手続の電子化の推進に関して検討する」とされた後、実に3年以上も文化庁がまともに取り上げていないものである。(去年の法制問題小委員会の中間まとめ(pdf)で登録による利用ライセンシーの保護の話が出てきているが、この話は、登録制度の電子化とは直接関係がない。)これもまた、文化庁が如何に恣意的に政策の検討を進めるかの証左の一つだが、ダウンロード違法化のような有害無益な施策ではなく、政府には、このような地道な施策のみを推進してもらいたいと思っているのは私だけではあるまい。著作権登録制度の問題については、あまり一般ユーザーから言い出す話でもなく、即座に解が出てくる話でもないが、今後、その電子化・省力化の検討が進むことを個人的には期待している。

 (恐らくこのブログを読んで下さっている中に億単位の金で著作権ビジネスをやろうとしている方はいないのではないかと思うし、士業規制にも多分に気にくわないところがあるのだが、それでも少額のコストをケチって巨額の詐欺に合うのはバカバカしいので、念のため、もし著作権について何か大きな契約をするということがあるなら、著作権に詳しい弁理士・弁護士・司法/行政書士などの専門家に相談してから事を進めることをお勧めしておく。なお、特許の登録制度にもまだ問題はあるのだが、著作権ほどではないので、また別の機会を見て取り上げたいと思う。)

 最後に、一つだけニュースの紹介もしておくと、レンタルサーバーの管理者が著作権侵害幇助罪に問われ逮捕された(時事通信のネット記事産経のネット記事internet watchの記事JASRACのリリース参照)。起訴されるのかどうかまだ良く分からないが、裁判になったとして、サーバー管理者の責任について刑事上もきちんとセーフハーバーが設けられるようであれば良いが、下手な裁判官や弁護士にぶち当たると、日本のネット事業・利用のリスクをこの上なく高める判決が出されかねない危うさがこの事件にはある。各種サーバー事業に関する危険性だけではなく、そもそもそのような判決自体も出されてはならず、ダウンロード違法化もなされてはならないものと考えるが、仮定の話として、サーバーの管理者が著作権侵害幇助罪に問われ得、サーバーのアクセスログが証拠として一般あるいは権利者団体に開示されて良いというような無茶な判決が出されたとして、さらにダウンロード違法化までされていたとしたら、「情を知って」の要件は証明も反証も不可能であるから、権利者団体により、アクセスログの入手のためのサーバー管理者への刑事訴訟と、プロバイダーへの情報開示請求と、個別のユーザーに対する民事訴訟が濫発され、社会的混乱を無意味に招きかねないいう懸念すら覚えるのである。考えすぎと言われるかも知れないが、この事件の重要性は極めて高い。

(11月13日の追記:Intellectual Property Watchの記事によると、韓国も、フランスの3ストライクアウト式の違法コピー対策を含む著作権法改正案をこの11月に国会審議にかけようとしているらしい。韓国が明確なダウンロード違法化をしたという話も聞かず、翻訳でも違法複製とあるだけなので、これがダウンロードを意味するのか、アップロードを意味するのか良く分からないが、記事中でリンクが張られているIPLEFTの記事で紹介されている部分だけからすると、少なくとも、違法複製を繰り返し行っているユーザーのアカウント停止命令をプロバイダーに出す権限を韓国の文化大臣に与えようとしているようである。さすがの韓国でも、これは国会でもめるのではないかと、本当にこのような法改正がなされたら混乱を来すのではないかと思うが、さらに詳しいことが分かるようであれば、この話も時期を見て紹介したいと思う。)

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