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2008年10月26日 (日)

第123回:フランスのデジタル経済成長計画「デジタルフランス2012」に関する補足

 この「デジタルフランス2012」(政府の公表ページ)で、補償金問題に関して、私的複製によって生じる経済的不利益の補償という補償金の意味を勝手に裏返して、文化的創造に必須のリソースであると書くなど、フランス政府も「複製=対価」の著作権神授説に相当蝕まれていると見える。政府がこのような立場を取っている限り、フランスでも私的複製問題はもめ続けることだろう。本来、この何ら客観的根拠を持たない私的複製補償金がフランスの権利者団体の収入の3分の1を占め、団体が補償金にしがみつかざるを得なくなっている状況の方が異常と思わなくてはならないはずだが。

 さて、今回は前回に続き、この計画中のその他の知財関連事項を少し紹介しておきたいと思う。まず、知財・コンテンツ関連の項目を多く含む、この計画の「2.デジタルのコンテンツの提供と製作を促進する」の項目を以下にざっと訳出する。(前回分もそうだが、翻訳は拙訳。)

2. Developper la production et l'offre de contenus numeriques

2.1 Ameliorer la diffusion des contenus cinematographiques, audiovisuels et musicaux

Action n°31 : Organiser un banc d'essai des technologies de marquage de contenus, en vue d'en faire mieux connaitre les performances aupres de l'ensemble des acteurs et d'en promouvoir ainsi l'usage.

Action n°32 : Creer un observatoire public des technologies de marquage de contenus.

Action n°33 : Constituer un groupe de travail, sous l'egide de l'autorite de regulation des mesures techniques (ARMT), dans le but de proposer un mode operatoire propre a la detection de contenus sous droit sur les sites d'hebergement en vue de leur protection et de leur valorisation.

Action n°34 : Creer un repertoire national des oeuvres protegees, ouvert a toutes les technologies de protection des oeuvres, permettant a tout ayant droit de declarer ses contenus sous droits et a toute plate-forme de connaitre les oeuvres protegees.

Action n°35 : Veiller au raccourcissement des delais de mise a disposition des contenus audiovisuels et generaliser la distribution numerique de musique sans dispositifs de protection bloquants conformement aux accords signes a l'Elysee le 23 novembre 2007.

Action n°36 : Favoriser la redaction et promouvoir une charte d'engagement des acteurs du web 2.0 a respecter le droit d'auteur et a mettre en oeuvre les principes techniques de protection des contenus, dans le prolongement des accords de l'Elysee et en lien avec les travaux du Conseil superieur de la propriete litteraire et artistique (CSPLA).

Action n°37 : Saisir le Conseil de la concurrence en vue de formuler, en s'appuyant sur l'expertise de l'ARCEP et du CSA, un avis sur les relations d'exclusivite entre activites de fournisseurs d'acces au reseau et de distribution de contenus et de services, portant notamment sur l'opportunite d'un cadre juridique specifique. L'ARCEP et le CSA pourront, a cette occasion, mener leurs travaux de facon concertee.

Action n°38 : Contribuer activement a la definition de standards interoperables permettant la protection de contenus audiovisuels et cinematographiques.
...

2.デジタルのコンテンツの提供と製作を促進する

2.1映画、映像、音楽コンテンツの配信を改善する

行動計画第31番:全プレーヤーのパフォーマンスを良く判断し、その使用を促進するため、コンテンツのウォーターマーク技術の試験場を作る。

行動計画第32番:コンテンツのウォーターマーク技術に関する公的なオブザーバー組織を作る。

行動計画第33番:その保護と評価を行い、インターネットにおける権利に基づくコンテンツ検知に適切なやり方を提案する目的で、技術的手段管理機関の下にワーキンググループを設置する。

行動計画第34番:全ての権利者が、その権利の下にあるコンテンツを宣言でき、あらゆるプラットフォームが何が保護される作品であるかを知ることができる、保護を受ける作品リストを国家レベルで作る。

行動計画第35番:2007年11月23日にエリゼ宮でサインされた協定に合致する保護ブロッキング手段を用いることなく、映像コンテンツを入手可能とする遅延期間を短くし、音楽のデジタル配信を普遍化することを目指す。

行動計画第36番:文化芸術財産権高等評議会(CSPLA)と協力し、エリゼ宮協定の延長線上にある、コンテンツ保護の技術的原則を実現し、著作権を尊重する、Web2.0プレーヤーとの契約の作成を促し、その締結を進める。

行動計画第37番:特別な法的枠組みの機会に基づき、ARCEP(電気通信郵便規制機関)とCSA(視聴覚高等評議会)の評価を基に、インターネットサービスプロバイダーの活動と、コンテンツ配信の間の排他的関係に関する意見を競争評議会に求める。その際、ARCEPとCSAは、その作業を協力して行って良い。

行動計画第38番:映像・映画コンテンツの保護を可能とする相互運用可能な標準の定義に積極的に寄与する。

(2.の後略部分の概要:
2.2 過去のパブリックコンテンツを配信する・・・公共データへのアクセスのための単一ポータルサイトを作ること、フランス語圏諸国で協力を進めること、「孤児」と呼ばれる作品の利用に障害を生じさせない方法を研究すること、フランスの文化機関がパブリンクドメインの作品を利用する際の条件を定義することなど(行動計画第39~42番)。

2.3 データに関するネット事業者の責任を明確化する・・・ネットサービス事業者の責任を明確にし、権利者とプラットフォームプレーヤーとの間の協力に枠組みを与えること、スパムやフィッシング対策を進めること、プラットフォームにおけるデータ保護並びに人格毀損や中傷的なビデオの削除に関する勧告を発することなど(行動計画第43~45番)。

2.4私的複製委員会を改革する(前回参照。)

2.5 文章と出版の配信を確かなものとする・・・デジタルコンテンツの相互運用性に関する条件を決定するため、専門的な研究を組織すること、価格の決定に関する共通ルールを提案するために、市場メカニズムに関する調査を推進すること、物理媒体の場合に既に適用されている消費税をデジタルブックにまで拡張することについてヨーロッパレベルで調査を推進すること、図書館におけるデジタル利用の条件を改善することなど(行動計画第53~55番)。

2.6ビデオゲーム分野を開発する・・・ヨーロッパ視聴監督機関に、ビデオゲーム分野を追加することを提案すること、プログラムとの混乱が見られ著作権法上不明確となっている、ビデオゲームの法律的取扱いを明確にすること、フランスの制作会社への就職を促すために学生への情報提供を改善すること、ビデオゲーム補助に特化した地域ファンドの創設を促すことなど(行動計画第56~62番)。

2.7 プログラム分野を開発する・・・プログラムに関する情報網を作ること、プリインストールシステムと、プログラムの価格の分離表示を推進すること、PCと利用プログラムの分離販売を可能とすることなど(行動計画第63~65番)。

2.8 携帯利用の非接触サービスを奨励する・・・2009年に電子マネーサービスなどの携帯非接触サービスを含むセットサービスを開始することなど(行動計画第66~70番)。

2.9 デジタルシミュレーションの開発と利用を加速する・・・行動計画スーパーコンピューターを用いたシミュレーション研究をより推進することなど(行動計画第71~75番)。)

 DRMの技術開発自体は別に悪いことではないが、DRMと規制の絡みは非常にやっかいであり、3ストライク法案のことも考えると、フランスがまた変なDRM規制を言い出して来ないとも限らないことには注意が必要だろう。また、「正規品の豊富な提供こそ、海賊に対する最高の防塞である」のは本当にその通りだと思うが、既存のビジネスモデルにしがみつく権利者側にネット配信までの遅延期間を短縮させることは至難だろうし、コンテンツDBは、日本での検討を考えても、コストの面から頓挫するのではないかと思われる。そして、フランスの計画でチラホラ散見される通信・放送とコンテンツに関する競争政策的な観点は非常に重要なのだが、日本では規制業種と癒着した政官によって、この観点が常にスルーされる傾向があるのは極めて残念なところである。

 また、「3.デジタルサービスと利用を多様化する」という章では、電子ID国民カードの開発などいわゆる政府の電子化に関する取り組みや、学校教育におけるデジタル利用の促進の話などが書かれているのだが、その中の「3.2 個人データの保護を保証する」には、以下のような、個人データ保護に関する項目が並んでいる。

Action n°79 : Inviter le groupe de travail, mis en place dans le cadre du Conseil national de la consommation, en coordination avec la CNIL, sur la protection des donnees personnelles a rendre ses propositions au 1er semestre 2009.

Action n°80 : Inviter la CNIL a mettre en place une campagne de sensibilisation "informatique et libertes".

Action n°81 : Inciter a l'elaboration, sur les plans europeen et international, de recommandations, voire de standards definissant une duree de conservation maximale des donnees personnelles detenues par les moteurs de recherche.

Action n°82 : Promouvoir la protection des donnees personnelles au plan international.

行動計画第79番:個人情報保護に関する作業グループ消費全国評議会の枠組みの中に設置し、CNIL(情報自由全国委員会)と協力して、2009年上半期に個人データ保護に関する提案をさせる。

行動計画第80番:CNILに、「情報と自由」に関する啓蒙キャンペーンを行わせる。

行動計画第81番:ヨーロッパ及び国際的な枠組みにおいて、特に、検索エンジンによって保持される個人情報の最大保持期間を定める基準について検討することを求める。

行動計画第82番:個人情報保護を国際的な枠組みへと進める。

 ネットにおける個人情報保護に関する話も極めて重要なのだが、これもまたバランスの取り方が非常に難しいところである。検索エンジンと個人情報保護・プライバシー保護の関係一つ取っても決して簡単な問題ではない。日本でもグーグルストリートビューの話が大騒ぎになっているが、ネットにおける個人情報保護・プライバシー保護問題も、これから国際的な議論が盛り上がるだろうことを見越して考えの整理を進めておいた方が良いかも知れない。

 また、「3.3 あらゆる形式のサイバー犯罪に対抗する」中には、ネット上で販売される海賊版・模倣品に対する対策を強化することや、警察の情報関連犯罪捜査の中央化を進めること、税関検査官や情報専門捜査官の数を増やすこと、インターネット犯罪に関する教育サイトを開設することといった事項に並んで、

Action n°87 : Introduire a l'occasion de la loi d'orientation et de programmation pour la performance de la securite interieure (LOPPSI).
Un delit d'usurpation d'identite sur les reseaux de communications electroniques.
Une disposition permettant, en accord avec les fournisseurs d'acces Internet, de bloquer sur signalement des sites pedopornographiques.
Des peines alternatives d'interet general pour les hackers condamnes sans intention de malveillance.

行動計画第87番:必要に応じて、国内安全パフォーマンス向上・プログラム法を導入する。
(電気通信網におけるID詐取の犯罪化。インターネットサービスプロバイダーの協力を受け、児童ポルノサイトのブロッキングを可能とする規定の導入。悪意なく処罰されるハッカーに対する公益に基づく量刑変更の可能化。)

という項目があるのだが、これは非常にタチが悪い。これは知財の話ではなく、情報・表現規制の話になってしまうが、フランスにおいても、児童ポルノサイトブロッキングのような、運用に困難を極め、バランスを欠く規定が導入されないことを、私は祈っている。

 全フランス国民に高速ネット網へのアクセスを与えるとしていることは、3ストライク法案と矛盾しているようにも思うのだが、この計画には、海賊版対策の強化についても書かれており、フランスが3ストライク法案をあきらめた様子はない。最近のフランスのPC IMPACTの記事1記事2によっても、フランス上院の文化委員会では、第116回で取り上げたEU議会の決定を受けて、強力なフィルタリングの導入と引き換えにネットへのアクセスを残すような修正案や、そもそもEU法にインターネットアクセス権が基本権として明記されている訳ではないとEU議会修正項目の解釈による無視の可能性について検討しているようである。個人的には、フィルタリング強制の修正案も、EU議会修正項目の解釈による無視も、両方ともテクニカルに苦しい気がするが、フランスはEUの主要国の一つであり、どんな強権を発動してくるとも知れない、引き続きフランスの政策動向は要注目である。

 次回は、選挙までまだ少し余裕がありそうなので、ダウンロード違法化問題に関する追加のエントリを書きたいと思っている。

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