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2008年10月 4日 (土)

第117回:アメリカにおけるフェアユースの要件

 フェアユースの話はいろいろなところで既に山ほどされているので、あまり書くこともないかと思っているのだが、何かの参考になるかも知れないと思うので、ここでもアメリカにおけるフェアユースの要件の話をしておきたいと思う。

 フェアユースは条文としては、アメリカ著作権法第107条に、以下のように書かれている。(日本語は、著作権情報センターのHPを参考に拙訳。)

§107. Limitations on exclusive rights: Fair use
Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies or phonorecords or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching (including multiple copies for classroom use), scholarship, or research, is not an infringement of copyright. In determining whether the use made of a work in any particular case is a fair use the factors to be considered shall include -

(1) the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purposes;
(2) the nature of the copyrighted work;
(3) the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole; and
(4) the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work.

The fact that a work is unpublished shall not itself bar a finding of fair use if such finding is made upon consideration of all the above factors.

第107条 排他的権利の制限:フェアユース
 第106条および第106A条の規定にかかわらず、批評、注釈、報道、教育(教室利用の複数コピーの作成を含む)、研究または調査のような目的のための、著作物のフェアユース(コピーまたは録音利用その他第106条に規定されている手段による利用を含む)は、著作権侵害とならない。特定のケースで著作物の利用がフェアユースに当たるか否かを決定する場合には、以下の要素を考慮しなくてはならない-

(1)その利用が商業性を有するかまたは非営利教育目的かを含め、利用の目的および性質;
(2)著作物の性質;
(3)著作物全体に対する利用された部分の量と本質性;
(4)著作物の潜在的市場または価値に対する利用の影響。

上記の全ての要素を考慮してフェアユースが認められた場合、著作物が未公表であるという事実自体は、そのような認定を妨げるものではない。

 wikiにも書かれている通り、このフェアユース規定は、150年以上も前から判例法として確立して来たものを1976年に成文化したということであり、条文を読むと何だか分かったような気にもなるが、アメリカが150年以上かけても、フェアユースの要件はここまでしか厳密化できていないということであり、おそらくこれ以上時間をかけても法律レベルでこれ以上明確化することは難しいに違いない。

 利用が非営利に近ければ近いほど、利用著作物が独立の著作物としての性質を有すれば有するほど、利用された部分が少なく本質的でなければないほど、元の著作物の市場に与える影響が少なければ少ないほど、フェアユースが認められやすくなるということで、山のように判例と解釈がついているが、実際のところ、「公正」とは何かということは社会的なバランスによって決まるしかない以上、この手の一般条項の要件はいくら書いたところで定義はそれほど明確になるものではなく、要するに、判例としてフェアユースとされることが定着しているものはOK、それ以外はケースバイケースということである。

 したがって、結局何がフェアユースかとなると結局例示とならざるを得ないのだが、アメリカでおよそフェアユースの中に入れられているものとしては、条文中にも上げられている例も含め、研究、教育、引用、批評、報道、パロディ、裁判所などの手続きにおける利用、タイムシフト視聴(私的録音録画)、リバースエンジニアリング、検索エンジンなどがあげられるだろう。(無論、それぞれ山ほど注釈がついている。アメリカのフェアユース判例に関しては、知財本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」(第6回)に提出された奥邨教授の資料も参考になるだろう。)

 また、ナップスターのように中央サーバーがあるような形態のP2Pはフェアユースと認められなかったが、その後もその他の形態のP2Pユーザーに対して、ダウンロードをどう考えるかということも含め、泥沼の訴訟合戦が繰り広げられており、P2P関係訴訟はその決着を見るまで大分かかりそうな状態である。

 さらに、最近、アメリカでDVDコピーソフトが訴えられた(cnetの記事internet watchの記事ITmediaの記事ITproの記事日経のネット記事参照)ことからも分かるように、フェアユースとDRM回避規制の関係整理もなかなか厄介である。(DVDリッピングがアメリカの著作権法でどう取り使われることになるのか、この裁判の結果も要注目である。)

 他にもアメリカの著作権法には、第108条の図書館の権利制限以下、いくつかの権利制限がある。これらの中にはフェアユースの一般条項に包含されている利用形態も含まれている気がするが、これは1976年の制定当時、特にもめていた利用形態を抜き出した結果であるらしい。これらについては、例えば、図書館の権利制限などは、法改正を求めるレポートが出されている(アメリカ政府の研究グループのHP参照)ことなどを考えても、当時の様々な政治力の綱引きが反映され、逆に細か過ぎる規定ぶりとなった結果、かえって今の時代に合わなくなっているという奇妙な事態になっていると見える。(教育と図書館における複製については、アメリカ著作権局ブックレットにまとめられている各種ガイドラインなどもある。なお、第111条の放送の再送信規定は、法律制定当時、最高裁判決でケーブルテレビによる地上波の再送信はロイヤリティを払わずできるとされてしまっていたため、関係者による激闘の結果、成立した妥協条項であるらしい。)

 日本で今、日本版フェアユースの導入が知財本部で議論されている訳だが、その議論を見る限り、完全にアメリカ型にして他の権利制限規定と引き換えで入れるという話ではなく、第91回で紹介した台湾のように、今までの権利制限の個別規定に追加する形でフェアユース規定を入れるということになるのだと思われる。このような入れ方をする限り、既存の規定との関係整理は厄介だが、利用者から見て導入に損は全くないだろう。(ダウンロード違法化の問題が端的に象徴しているように、必ずしも完全に公正な利用とは言えないが、権利制限の対象としておくべきものもあり、フェアユースが私的複製など他の権利制限規定と引き換えに導入されるとなると話は別である。)

 無論、フェアユースは万能ではないし、個々の司法判断に対する依存度も大きくなるが、特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で大きな意味を持つことになるに違いない。

 internet watchの記事によると、著作権分科会で、権利者団体側の委員は、フェアユース規定の導入によって、今まで利用料を支払っていた人によって、「フェアユースなら使える」と、裁判が起こされて社会が混乱するなどの懸念を表明したらしいが、これは、本来利用料を払う必要のないはずの公正利用についてまで裁判による解決の道すら封じ、今まで通り利用料をふんだくり続けたいと言っていることに他ならないということに彼らは気づかないのだろうか。著作物の公正な利用まで著作権法によって阻害されることは、法律の主旨から考えても、本来あってはならないことのはずであるが。

(今の日本の慣習を考えると、その利用がアメリカでフェアユースとされることが既に定着しているなどのよほどの事情がないと、裁判にまで踏み込まず、今まで通りの話し合いがなされる気がするのだがどうだろうか。確かに個別規定の意味が薄れるという懸念はあるのだが、もともと文化庁と権利者団体がスクラムを組んで個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されていたというのでは、このような一般規定の議論を招いたのはほとんど彼らの自業自得と言って良い。フェアユースの議論に参加させて欲しいと権利者団体側が言っているよう(ITmediaの記事internet watchの記事マイコミジャーナルの記事)だが、やはりロクな意見を言ってこないだろうことは想像に難くない。)

 解散総選挙が近い中で、いろいろなことが流動的になっているが、日本版フェアユースの導入は是非今後も地道に検討を続けてもらいたい課題の一つである。

(なお、一般フェアユース規定の導入はまだ時間がかかるかも知れないが、少なくとも、文化審議会の今の整理でまとめられている(同じinternet watchの記事時事通信のネット記事参照)各種権利制限規定については必ず入れて欲しいものである。)

 さて、最後に少し知財政策関連のニュースの紹介もしておきたい。

 ベルギーでは、インターネットサービスプロバイダー(ISP)が裁判でトラフィックのブロック・フィルタリングを命じられたものの、現実的に不可能と反対するという事態になっているという記事や、アメリカでは、著作権侵害をしていたとみなされたユーザーを一方的にネットから遮断するというかなり問題のある取り組みをしているISPがあるという記事や、ドイツでは、オンラインストレージサービスのRapidshareが裁判所に全ファイルのチェックを命じられたとする記事などが、「P2Pとかその辺の話」で紹介されているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。ネットと著作権の問題にまだまだ解は見えない。

  さらに、ドイツでは、PCは補償金の対象外ということが、ドイツの最高裁で確定したようである(ドイツのWELT ONLINEの記事PC WELTの記事ドイツ最高裁のプレスリリース参照)ので、ここで一緒に紹介しておく。当たり前の話だが、さすがにドイツでも何でもかんでも補償金の世界はおかしいと気づかれて来たようである。

 また、ITmediaの記事などによると、アメリカでは、ネットラジオ局に対する過大な著作権料請求を軽減しようとする法律を通したりもしている。

 次回は、様子を見て選挙向けの話を書こうかと思っているところだが、詳細が分かれば上のドイツ最高裁の判決の話を取り上げるかも知れない。

(10月20日の追記:コメントでいろは様から教えて頂いたドイツのIT企業団体BITKOMの補償金裁判まとめ(pdf)によると、確かに、プリンター補償金裁判においてVG WORT側は憲法裁判所にさらに上告しているようであり、PCでも憲法裁判所へさらに上告される可能性があることを考えると、確定というのは言い過ぎだったかも知れない。ただ、憲法裁判所がこのレベルの問題をわざわざ取り上げてプリンターやPCに補償金を賦課しないのは憲法違反だと判断する可能性は相当低く、ほぼ確定していると言っても良いのではないかとも思うので、一応文章はそのままにしておく。(いろは様コメント・情報ありがとうございました。))

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コメント

「ドイツでは、PCは補償金の対象外ということが、ドイツの最高裁で確定したようである」とありますが、「確定」というのは時期尚早です。
ドイツの情報産業の団体にBITKOMというのがありますが、BITKOMが、ドイツでの補償金関連訴訟の一覧表にまとめて公開しています。
www.bitkom.org/files/documents/Levies_overview_external_2008.pdf
この表の第2頁の一番下の訴訟は、最高裁(GBH)までいって、プリンターは課金対象外との判断が出ましたが、補償金徴収団体VG Wortはこれを不服として憲法裁判所に上告しています。本件も同様に憲法裁判所に挙げられるのでは、と考えられます。
 ドイツは、憲法問題に関しては、四審制にちかいようです。

投稿: いろは | 2008年10月20日 (月) 21時36分

「当たり前の話だが、さすがにドイツでも何でもかんでも補償金の世界はおかしいと気づかれて来たようである。」という点も若干誤解があるかもしれません。ドイツ著作権法は、2008年1月から新法(コピライト | Copyright 47(562) 号に詳細説明されています。)になったのですが、裁判は、旧法で起こされています。VGWortが旧法54条aの規定に基づく「PhotoCopy」の補償金徴収団体であり、一方 ZPUは旧著作権法54条の規定に基づく録音録画補償金の徴収団体になっています。(条文http://www.cric.or.jp/gaikoku/germany/germany_c1.html#1_6)今回のPCの判決は、PCやプリンターの複製機能は「PhotoCopy」に該当しない、というだけの判断です。残念ながら、新法は、記憶では「複製できる機器」というように定義を広くしてます。今回の判決はドイツで「補償金の世界ははおかしい」という議論が起きている結果ではないように思います。

投稿: いろは | 2008年10月29日 (水) 23時33分

いろは様

コメントありがとうございます。

第118回http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-857d.htmlにも追記したように、確かにおっしゃる通り、判決は旧法の適用に関するもので、今後どうなるかは読みづらいのですが、今まさに新法の適用をどうするかということでもめている中、このような判決が出されたことは大きいのではないかと思います。

(ドイツの最近の法改正については、第13回http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_2b08.htmlと第15回http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_eef9.htmlに書いていますので、ご覧頂ければと思います。)

投稿: 兎園 | 2008年10月30日 (木) 08時36分

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