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2008年10月30日 (木)

第124回:知財本部によるフェアユース導入の提言

 昨日(10月29日)、知財本部で第9回の知財規制緩和調査会(正式名称は、「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」)が開催され、日本版フェアユースの導入を含む報告書案がほぼ了承された(47NEWSの記事internet watchの記事日経TechOnの記事日経PC Onlineの記事参照)。

 各種記事によると、これからパブコメにかかるらしいが、既に報告書案(pdf)知財本部のHPで公開されているので、その中で最も大きいフェアユース導入提言部分、「Ⅱ.権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」の「5.検討結果」の内容を以下に引いておきたいと思う。

(1)権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入について
 現行の著作権法は、著作物の公正な利用を図るという観点から、個別具体の事例に沿って権利制限の規定を定めている。しかしながら、近年の技術革新のスピードや変化の速い社会状況を考えれば、個別の限定列挙方式のみでは適切に実態を反映することは難しく、著作権法に定める枠組みが社会の著作物の利用実態やニーズと離れたものとなってしまうという懸念がある。
 例えば、情報通信技術を活用した新しい産業の創出という観点からは、現行の著作権法では個別の制限規定が想定していない新規分野への技術開発や事業活動について萎縮効果を及ぼしているという問題がある。この点については、本専門調査会のヒアリングにおいて、事業者から同旨の意見があったほか、権利制限の一般規定は著作物の利用のルールを事後に決するというものであって、それを導入することにより、創造的な事業への挑戦を促進すべきという意見もあった。
 また、ネット上の写真・動画への写り込みやウェブページ印刷などの行為は、形式的には違法となるが、権利者の利益を実質的に害しているとは考えられず、また、社会通念上も違法とすべきとは考えられない
 一方、本専門調査会のヒアリングでは、権利者からは、一般規定の導入により違法な利用行為が蔓延するのではないか、また、司法の判断によってしか解決できないこととなる結果、権利者に更なる負担を強いることになるのではないかという意見があった。

 以上のことから、個別の限定列挙方式による権利制限規定に加え、権利者の利益を不当に害しないと認められる一定の範囲内で、公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)を導入することが適当である。
 ただし、一般規定の導入に当たっては、
i) 日本人の法意識等に照らしリスクを内包した制度はあまり活用されないのではないか、
ii) 様々な要素により社会全体のシステムが構成されており、経済的効果について過大な期待をかけるべきではないのではないか、
iii) 一般規定の導入により結果として違法行為が増加することが懸念され、訴訟コストの増加も含め権利者の負担が増加するのではないか、
iv) 法体系全体との関係や諸外国の法制との間でバランスを欠くことはないか、
という点を踏まえつつ、実際の規定振りを検討する必要がある。

(2)個別規定と一般規定の関係
 権利制限の一般規定については、どのような場合が権利者の利益を不当に侵害しない公正な利用となるかは紛争当事者の主張・立証による裁判所の審理を通じて明らかになることとなる。
 一方、権利制限の個別規定は、審議会等の場での多数の有識者による審議や国会の手続きを経て確立された著作物の利用のルールであると言える。このため、利用者側の予見可能性や適正・迅速な裁判の確立という観点からすれば、法改正までの時間はかかるものの、個別具体的な規定の方が望ましいと考えられる。
 したがって、権利制限の一般規定が定められた後も、著作権法の体系においては引き続き、必要に応じて権利制限の個別規定を追加していくことが必要である。

(3)一般規定の規定振りについて
 一般規定の実際の規定振りについては、予見可能性を一定程度担保するためにも「公正な利用は許される」のような広範な権利制限を認めるような規定ではなく、「著作物の性質」「利用の目的及び態様」など具体的な考慮要素を掲げるべきである。

 権利者団体からの横槍が入ったものの、無事、日本版フェアユース規定を導入することが適当と、知財本部にしては珍しく踏み込んだ表現で、フェアユース導入が提言された。個別の権利制限を置き換える話ではないことも確認され、今後の検討は実際の規定振りに移ることとされている。これで、日本版フェアユース規定の導入がかなりの現実味を帯びてきた。

 ただ、この知財本部のフェアユース導入の「提言」は、単に行政レベルでの提言に過ぎず、これからどうなるかは全く予断を許さない。報告書案には、ネット事業者の意見と、著作権団体の意見しか書かれておらず、利用者の視点は当たり前のようになく、この報告書案もパブコメにかかったところで、一ユーザーから見た一般フェアユース条項の意味とを示し、導入賛成の意見を出さなくてはならないと私は感じている。一般フェアユース条項の導入で即刻何かが変わるというものでもないが、一般フェアユース条項は、情報化社会では、一般ユーザーも含め次第に大きな影響を及ぼして行くに違いないのだ。また、実際に条文を作る際にはアメリカの規定を大きく参考にすることになるのだろうが、規定振りをどうするかという点も非常に重要な点である。

(なお、最近の文化庁のダウンロード違法化の「決定」も同じく、行政レベルでの方針決定(去年の12月以来文化庁がしぶとく方針を変えていないだけなので、「決定」というより「確認」とでも言うべきところだろうが)に過ぎず、どうなるかはまだ何とも見えない。もう少し小さなレベルの法改正事項なら、全く何の議論にもならず国会でも素通しされる可能性が極めて高いのだが、あれだけの大騒ぎになったことを無視して最後までごり押しするのは、文化庁と権利者団体が全力でつるんでも至難ではないかと私は思っている。ダウンロード違法化や一般フェアユース条項導入のような大問題に関しては常に予断は出来ない。)

 この報告書の他の部分、DRM回避や、プロバイダー責任制限、間接侵害などに関する項目には、かなり危ういことも書かれているので、即刻パブコメにかかるようであれば、次回は、引き続きこの報告書案に関する突っ込みを、そうでなければ、ダウンロード違法化問題に関する補足を書きたいと思っている。

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